説明

真空吸着パッド及びその製造法

【課題】ワークとの接触面における非粘着性に優れた真空吸着パッドを提供すること。
【解決手段】ワークを吸着保持するゴム製の真空吸着パッドであって、少なくともワークと接触する表面が、式(1):Si(OR1 4 で示されるテトラアルコキシシランと、式(2):Ti(OR2 4 で示されるテトラアルコキシチタンと、式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 で示されるシランカップリング剤と、これらを溶解する溶剤とを含有する表面処理剤により処理されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空吸着パッドおよびその製造方法に関し、さらに詳しくは、ワークを吸着保持した後、ワークを確実に脱着することができる真空吸着パッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空吸着パッドは、真空圧による吸着力によってワークを保持し、必要に応じて所定の位置まで搬送した後、真空圧を解除してワークを脱着するものである。
【0003】
真空吸着パッドは、通常、天然ゴムや合成ゴムの成形体からなり、ゴム配合剤のブルーミングによるワークの汚染(吸着跡)を防止する観点から、ゴム配合剤の検討(特許文献1参照)、パッドの表面処理の検討(特許文献2参照)などが行われている。
【0004】
然るに、比較的小さな吸着力(例えば100gf以下)でワークを保持する真空吸着パッドにおいて、真空吸着パッドの表面(ワークとの接触面)の有する粘着性のために、吸着力を解除してもワークが脱着されないことがあり、これにより、例えば、ワークの搬送装置を含む全体のラインが停止するという問題がある。また、真空吸着パッドの表面が粘着性を有する場合には、当該表面に異物が付着し、これがワークに転移してしまうという問題もある。このため、非粘着性に優れた表面を有する真空吸着パッドの提供が望まれていた。
【0005】
従来、ゴム製品の表面に非粘着性などの特性を付与するための方法として、シリコーン組成物などからなる処理剤を塗布して表面処理層を形成する方法(例えば、特許文献3〜4参照)などが行われている。
【0006】
しかし、このような方法により付与される(表面処理層により発現される)非粘着性は未だ不十分であり、また、ゴムの種類によっては、形成された表面処理層がゴム基材から脱離することもある。
【特許文献1】特開平5−70630号公報
【特許文献2】特開平5−69368号公報
【特許文献3】特開平7−133464号公報
【特許文献4】特開平11−199691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものである。本発明の目的は、ワークとの接触面における非粘着性に優れ、比較的小さな吸着力でワークを保持した後であっても、ワークを確実に脱着することができる真空吸着パッドを提供することにある。
本発明の他の目的は、ワークとの接触面における非粘着性に優れた真空吸着パッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の真空吸着パッドは、ワークを吸着保持するゴム製の真空吸着パッドであって、少なくともワークと接触する表面が、式(1):Si(OR1 4 (式中、R1 は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシシランと、式(2):Ti(OR2 4 (式中、R2 は、炭素数2〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシチタンと、式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 (式中、R3 はアルキル基またはアルコキシアルキル基を表し、R4 はアルキル基を表し、mは1〜3の整数であり、nは0〜5の整数である。また、R5 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を表す。)で示されるシランカップリング剤と、これらを溶解する溶剤とを含有する表面処理剤(以下、「特定の表面処理剤」ともいう。);により処理されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の真空吸着パッドにおいては、下記の形態が好ましい。
(1)前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシラン(TMOS)またはテトラエトキシシラン(TEOS)であり、前記テトラアルコキシチタンが、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンおよびテトラブトキシチタンから選ばれた少なくとも1種、特にテトラエトキシチタンであること。
(2)特定の表面処理剤が酸を含有すること。
(3)特定の表面処理剤が、テトラエトキシシランと、テトラエトキシチタンと、シランカップリング剤と、酸と、有機溶剤とを含有すること。
(4)特定の表面処理剤が、テトラエトキシシランの含有量に対して1〜10質量%のテトラエトキシチタンを含有すること。
(5)特定の表面処理剤が、テトラエトキシシランの含有量に対して3〜10質量%のテトラエトキシチタンを含有すること。
(6)特定の表面処理剤が、テトラエトキシシランの含有量に対して6〜10質量%のテトラエトキシチタンを含有すること。
(7)特定の表面処理剤が、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンとの合計の含有量に対して0.1〜100質量%のシランカップリング剤を含有すること。
(8)100gf以下の吸着力でワークを保持するものであること。
【0010】
本発明の製造方法は、ゴムからなる真空吸着パッド基材を成形加工する工程と、得られた真空吸着パッド基材の少なくともワークと接触する表面に特定の表面処理剤を塗布する工程と、この表面処理剤による塗膜を加熱する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
特定の表面処理剤を構成するテトラアルコキシシランは、分子中に4個のアルコキシ基(−OR1 )を有し、また、テトラアルコキシチタンも、分子中に4個のアルコキシ基(−OR2 )を有し、さらに、シランカップリング剤は、加水分解性基(−OR3 )および反応性の有機官能基(−R5 )を分子中に有する。
【0012】
真空吸着パッド基材(ゴムからなる成形品)の表面において、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤とが反応(加水分解・縮合反応)することにより、Si−O結合およびTi−O結合による架橋構造を有する表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)が形成され、これにより、真空吸着パッドの表面には優れた非粘着性が付与される。ここに、SiO2 −TiO2 系の架橋構造を有する表面処理層は、SiO2 系の架橋構造を有する表面処理層と比較して、非粘着性の付与効果(粘着力の低減効果)が格段に優れたものとなる。
【0013】
表面処理層を構成するSiO2 −TiO2 系の被膜(またはその形成過程における構造)中には、シランカップリング剤に由来する反応性の有機官能基(−R5 )が導入され、この有機官能基は、真空吸着パッド基材の表面におけるゴムのポリマー主鎖と反応する。これにより、当該表面処理層は、シランカップリング剤を介して、真空吸着パッド基材の表面におけるゴムのポリマー主鎖と化学的に結合する。
【0014】
このように、真空吸着パッド基材の表面におけるゴムのポリマー主鎖と、SiO2 −TiO2 系の被膜からなる表面処理層との間には、シランカップリング剤を介して、化学的な結合が形成されるため、当該表面処理層は、真空吸着パッド基材に対して強固に密着することになる。従って、真空吸着パッドの表面に付与された非粘着性は、長期にわたって安定的に発現される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の真空吸着パッドは、ワークとの接触面における非粘着性に優れ、比較的小さな吸着力でワークを保持した後であっても、ワークを確実に脱着することができる。
本発明の製造方法によれば、ワークとの接触面における非粘着性に優れた真空吸着パッドを確実に製造することができる。
本発明に係る真空吸着パッドの非粘着性は、長期にわたり安定的に発現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1は、本発明の真空吸着パッドの一例を示す部分破断説明図であり、このような形状のものは薄物のワークを吸着保持するのに好適である。図1に示す真空吸着パッド1は、真空発生源に連結されたチューブに接続するためのスリーブ状の基部2と、これと一体的に形成されたスカート部3とを備えてなる。このスカート部3の内側表面3Aをワークと接触させるとともに、スカート部3とワークとで区画される空間内の空気を吸引することによりワークが吸着保持され、吸引(吸着力)を解除することによりワークが確実に脱着される。
【0017】
図1に示す真空吸着パッド1において、パッドの外径dは、通常2〜100mmとされ、また、パッドの高さhは、通常4〜50mmとされる。また、スカート部3の肉厚は、例えば0.05〜1.5mmとされる。なお、本発明の真空吸着パッドは、図1に示すような形状に限定されるものではない。
【0018】
本発明の真空吸着パッドを構成するゴム(原料ゴム)としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPM,EPDM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、エピクロロヒドリンゴム(CO,ECO)、シリコーンゴム(VMQ,FVMQ)、ウレタンゴム(AU,EU)、フッ素ゴム(FKM,FEPM)などを例示することができ、これらのうち、ニトリルゴムに対して、特に優れた処理効果を付与することができる。
【0019】
本発明の真空吸着パッドは、100gf以下の吸着力でワークを保持するものであることが好ましい。このような小さい吸着力により保持されるワークは、真空吸着パッドの表面における粘着性の影響を特に受けやすく(吸着力の解除後に脱着されにくく)、そのようなワークに対して、本発明の効果(パッド表面の非粘着性)は特に有効である。ここで、真空吸着パッドの「吸着力」は、真空発生源による吸引圧力に、有効パッド面積(πd2 /4:但し、dはパッドの外径である)を乗じた値として求めることができる。
【0020】
本発明の真空吸着パッドにより搬送されるワークの具体例としては、板状部品・製品、球状部品・製品、箱状部品・製品、円筒状部品・製品などを挙げることができる。なお、複数個の真空吸着パッドを使用することにより、1個の真空吸着パッドでは保持できない質量のワークを保持できることは勿論である。
【0021】
本発明の真空吸着パッドは、少なくともワークと接触する表面が、特定の表面処理剤により処理されている点に特徴を有する。この表面処理剤は、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤と、溶剤とを含有してなる。
【0022】
特定の表面処理剤を構成するテトラアルコキシシランは、式(1):Si(OR1 4 で示される4官能性のアルコキシシランである。
テトラアルコキシシランを示す上記式(1)において、R1 は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基を表す。ここに、テトラアルコキシシランの好適な具体例としては、テトラメトキシシラン(TMOS)およびテトラエトキシシラン(TEOS)を挙げることができ、TEOSが特に好ましい。
【0023】
特定の表面処理剤を構成するテトラアルコキシチタンは、式(2):Si(OR2 4 で示される4官能性のアルコキシチタンである。
テトラアルコキシチタンを示す上記式(2)において、R2 は、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などの炭素数2〜4のアルキル基を表す。ここに、テトラアルコキシシランの好適な具体例としては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンおよびテトラブトキシチタンを挙げることができ、テトラエトキシチタンが特に好ましい。
【0024】
特定の表面処理剤を構成するシランカップリング剤は、式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 で示される。
シランカップリング剤を示す上記式(3)において、R3 はアルキル基またはアルコキシアルキル基を表し、R4 はアルキル基を表し、mは1〜3の整数、好ましくは3であり、nは0〜5の整数、好ましくは0〜3の整数である。また、R5 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を表す。
【0025】
上記式(3)において、Si(OR3 m 4 3-m −で表される基は、少なくとも1個、好ましくは3個の加水分解性基(−OR3 )を有する。これにより、上記式(3)で示されるシランカップリング剤は、4個のアルコキシ基(−OR1 )を有するテトラアルコキシシラン、および4個のアルコキシ基(−OR2 )を有するテトラアルコキシチタンの何れとも反応することができる。
【0026】
ここに、Si(OR3 m 4 3-m −で表される基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基などのトリアルコキシシリル基であることが好ましい。
【0027】
また、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基(−R5 )としては、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、エポキシ基、ウレイド基などを挙げることができる。これらのうち、不飽和結合を有するゴムのポリマー主鎖に対して反応性を有するメルカプト基、不飽和結合を有しないゴムのポリマー主鎖に対して反応性を有するビニル基を好適なものとして挙げることができる。
【0028】
真空吸着パッド基材(ゴムからなる成形品)の表面において、テトラアルコキシシラン(−OR1 )と、テトラアルコキシチタン(−OR2 )と、シランカップリング剤(−OR3 )とが反応(加水分解・縮合反応)することにより、Si−O結合およびTi−O結合による架橋構造を有する表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)が形成され、これにより、真空吸着パッドの表面には優れた非粘着性が付与される。特に、Ti−O結合が導入されていることにより、シロキサン架橋構造を有する表面処理層(SiO2 系の被膜)と比較して、非粘着性の付与効果(粘着力の低減効果)が格段に優れたものとなる。
【0029】
しかして、表面処理層を構成するSiO2 −TiO2 系の被膜、または、その形成過程(加水分解・縮合反応過程)における構造中には、シランカップリング剤に由来する反応性の有機官能基(−R5 )が導入され、この有機官能基(−R5 )は、真空吸着パッド基材の表面におけるゴムのポリマー主鎖と反応する。これにより、最終的に形成される表面処理層は、シランカップリング剤を介して、真空吸着パッド基材の表面におけるゴムのポリマー主鎖と化学的に結合することになる。
【0030】
このように、真空吸着パッド基材の表面におけるゴムのポリマー主鎖と、SiO2 −TiO2 系の被膜からなる表面処理層との間には、シランカップリング剤を介して、化学的な結合が形成されるため、当該表面処理層は、ゴムからなる真空吸着パッド基材に対しても強固に密着することになる。従って、当該表面処理層が脱離するようなことはなく、真空吸着パッドの表面に付与された非粘着性は安定的に発現される。
【0031】
特定の表面処理剤を構成する溶剤としては、テトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタンおよびシランカップリング剤の何れも溶解することができるものの中から選択することができ、これらの種類によっても異なるが、ヘキサン、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、ベンゼン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、トルエン、アセトンなどの有機溶剤を例示することができ、これらのうち、ヘキサン、メタノール、エタノール、ジクロロメタンおよびアセトンが好ましい。
【0032】
特定の表面処理剤には、その効果が損なわれない限度において、上記の必須成分以外に各種の任意成分が含有されていてもよい。
【0033】
テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤との反応(加水分解・縮合反応)を効率的に行わせて、ハイブリッド化合物における架橋構造の形成を促進させる観点から、特定の表面処理剤は、酸性(pHが6以下、特に2〜5)であることが好ましい。
【0034】
特定の表面処理剤を酸性とするために含有される酸としては、無機酸であっても有機酸であってもよい。ここに、無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などを挙げることができ、塩酸が好ましい。また、有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸などを挙げることができ、酢酸が好ましい。
【0035】
特定の表面処理剤の必須成分であるテトラアルコキシシランの含有割合としては、処理剤全体の0.5〜20質量%であることが好ましく、更に好ましくは2〜10質量%とされる。テトラアルコキシシランの含有割合は、主に溶剤の使用量を調整することによって、適宜の割合に調整することができる。
【0036】
特定の表面処理剤の必須成分であるテトラアルコキシチタンは、テトラエトキシシランの含有量に対して1〜10質量%の割合で含有されていることが好ましく、更に好ましくは3〜10質量%、特に好ましくは6〜10質量%とされる。
【0037】
テトラアルコキシチタンの含有割合(テトラアルコキシシランに対する相対的な割合)が過小である場合には、真空吸着パッドの表面に十分な処理効果(非粘着性)を付与することが困難となる。一方、テトラアルコキシチタンの含有割合(テトラアルコキシシランに対する相対的な割合)が過大である場合には、得られる表面処理剤が短時間で硬化してしまい、塗布性などの作業性が低下する。
【0038】
特定の表面処理剤の必須成分であるシランカップリング剤は、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンとの合計の含有量に対して0.1〜100質量%の割合で含有されていることが好ましく、更に好ましくは0.5〜20質量%、特に好ましくは1〜10質量%とされる。
【0039】
シランカップリング剤の含有割合(テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンの合計に対する相対的な割合)が過小である場合には、得られる表面処理剤によって形成される表面処理層が真空吸着パッド基材に対して十分な密着性を有するものとならない。 一方、シランカップリング剤の含有割合(テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンの合計に対する相対的な割合)が過大である場合には、得られる表面処理剤による架橋構造の形成が不十分となり、真空吸着パッド基材の表面を完全に覆うこと(表面処理層の形成)が困難となる。
【0040】
特定の表面処理剤において、溶剤の含有割合としては、テトラアルコキシシランとテトラアルコキシチタンとシランカップリング剤との合計の含有量(質量)の3〜50倍であることが好ましく、更に好ましくは10〜30倍とされる。
【0041】
溶剤の含有割合が過小である場合には、得られる表面処理剤により形成される表面処理層が真空吸着パッド基材に対して十分な密着性を示さないことがある。一方、この割合が過大である場合には、得られる表面処理剤に占めるテトラアルコキシシラン、テトラアルコキシチタンおよびシランカップリング剤の割合が過小となり塗布効率の低下を招く。
【0042】
特定の表面処理剤は、テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤と、任意成分とを溶剤に溶解させることにより容易に製造することができる。
【0043】
なお、得られた表面処理剤を室温下に長時間静置すると、構成成分(特に、テトラアルコキシシランおよびテトラアルコキシチタン)の縮合物が形成されて沈澱物を生じるおそれがある。このため、特定の表面処理剤は、製造後24時間以内に使用することが好ましく、また、使用前に十分に(例えば1〜6時間)攪拌して表面処理剤の均質化を図ることが肝要である。また、必要に応じて、60〜70℃に加温してもよい。
【0044】
本発明の真空吸着パッドは、真空吸着パッド基材を成形加工する工程(以下「成形工程」という。)と、得られた真空吸着パッド基材の少なくともワークと接触する表面に特定の表面処理剤を塗布する工程(以下「塗布工程」という。)と、この表面処理剤による塗膜を加熱する工程(以下「加熱工程」という。)とを含む製造方法により得られる。
【0045】
成形工程における成形加工方法としては特に限定されるものでなく、加硫ゴムからなる成形品を得るための従来公知の方法(例えばプレス成形法)を採用することができる。
【0046】
塗布工程において、真空吸着パッド基材表面への特定の表面処理剤の塗布方法としては、当該表面処理剤に真空吸着パッド基材を浸漬する浸漬法、刷毛やローラなどの塗布手段を使用する方法など特に制限されるものではない。
なお、この塗布工程の終了後、真空吸着パッド基材の表面に形成された塗膜から溶剤を除去するために乾燥処理を行うことが好ましい。乾燥条件としては、表面処理剤に含有される溶剤の種類および含有割合などによっても異なるが、例えば室温で1分間〜24時間とされ、好ましくは3分間〜1時間とされる。
【0047】
加熱工程において、塗膜の加熱方法としては、オーブンによる加熱、熱プレスによる加熱など、特に制限されるものではない。加熱条件としては、例えば50〜150℃で5分間〜24時間とされ、好ましくは80〜100℃で10〜120分間とされる。
【0048】
真空吸着パッド基材の表面に形成された特定の表面処理剤による塗膜を加熱することにより、(i)テトラアルコキシシランと、テトラアルコキシチタンと、シランカップリング剤との反応(加水分解・縮合による架橋構造の形成反応)が進行するとともに、(ii)シランカップリング剤の有する反応性有機官能基と、真空吸着パッド基材を構成するゴムのポリマー主鎖との反応が進行する。
【0049】
これにより、(i)架橋構造(表面処理層を構成するSiO2 −TiO2 系の被膜)とシランカップリング剤との間、および、(ii)シランカップリング剤とゴムのポリマー主鎖との間に化学的な結合が形成され、この結果、真空吸着パッド基材に対する密着性(被膜としての耐久性・強靱性)に優れた表面処理層(被覆層/改質層)が形成される。
【0050】
そして、この表面処理層を構成する架橋構造により、真空吸着パッドの表面には優れた非粘着性が付与される。特に、テトラアルコキシチタンに由来するTi−O結合を含む架橋構造(SiO2 −TiO2 系の架橋構造)を有する表面処理層は、SiO2 系の架橋構造を有する表面処理層と比較して、非粘着性の付与効果(粘着力の低減効果)が格段に優れたものとなる。また、当該表面処理層は、真空吸着パッド基材を構成するゴムに対して強固に密着しているので、当該表面処理層が脱離するようなことはなく、真空吸着パッドの表面に付与された非粘着性は安定的に発現される。
【0051】
また、シランカップリング剤を介してゴムのポリマー主鎖に結合された表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜)は、熱安定性および化学安定性にも優れ、有機溶剤に対して不溶性または難溶性となる。従って、本発明に係る真空吸着パッドは耐溶剤性に優れ、有機溶剤を使用して洗浄しても、優れた非粘着性が実質的に損なわれることはない。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0053】
〔作製例A(成形工程)〕
ニトリルゴム「JSR N240S」(ジェイエスアール(株)製)100質量部と、老化防止剤「ノクラックCD」1.5質量部と、ステアリン酸「アデカ脂肪酸SA−300」1.5質量部と、酸化亜鉛5質量部と、カーボンブラック「サーマックスMT」70質量部と、炭酸カルシウム「白艶華CC」(白石工業(株)製)10質量部と、フタル酸ジオクチル(DOP)30質量部と、硫黄0.3質量部と、加硫促進剤「ノクセラーTT」(大内新興化学(株)製)1.5質量部と、加硫促進剤「ノクセラーCZ−G」(大内新興化学(株)製)1.5質量部とを8インチロールによって混練してゴム組成物を調製した。次いで、このゴム組成物を熱プレスを用いて加熱処理(150℃×20分間)することにより、図1に示すような形状(d=8mm,h=8mm)を有する真空吸着パッド基材(ニトリルゴム成形品)を作製した。
【0054】
<実施例1>
(1)特定の表面処理剤の調製:
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシシラン(TEOS)0.40gと、テトラエトキシチタン〔Ti(OEt)4 〕0.004gと、式:Si(OCH3 3 −(CH2 3 −SHで示されるシランカップリング剤「A−189」〔日本ユニカー(株)製〕0.01gと、塩酸(0.1N)0.05gとを、アセトン7.91gに添加し、この系を室温下に1時間攪拌することにより、特定の表面処理剤(TEOS濃度=約4.8質量%,テトラエトキシチタン濃度=約0.05質量%,シランカップリング剤濃度=約0.12質量%)を調製した。
【0055】
(2)真空吸着パッド基材の表面処理(塗布工程および加熱工程):
上記(1)により得られた特定の表面処理剤(1時間の攪拌操作の終了直後の処理剤)中に、作製例Aで得られた真空吸着パッド基材を、室温下に3分間浸漬することにより、真空吸着パッド基材の全表面に表面処理剤を塗布した。次いで、真空吸着パッド基材を室温下に10分間放置して塗膜を乾燥させた後、100℃のオーブン内で60分間加熱処理することにより、特定の表面処理剤による表面処理層(SiO2 −TiO2 系の被膜からなる表面処理層)が形成された真空吸着パッドを製造した。
【0056】
<実施例2>
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシチタンの使用量を0.012gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の表面処理剤(テトラエトキシチタン濃度=約0.14質量%)を調製し、この表面処理剤を使用したこと以外は実施例1(2)と同様にして、特定の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを製造した。
【0057】
<実施例3>
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシチタンの使用量を0.024gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の表面処理剤(テトラエトキシチタン濃度=約0.29質量%)を調製し、この表面処理剤を使用したこと以外は実施例1(2)と同様にして、特定の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを製造した。
【0058】
<実施例4>
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシチタンの使用量を0.032gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の表面処理剤(テトラエトキシチタン濃度=約0.38質量%)を調製し、この表面処理剤を使用したこと以外は実施例1(2)と同様にして、特定の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを製造した。
【0059】
<実施例5>
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシチタンの使用量を0.040gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の表面処理剤(テトラエトキシチタン濃度=約0.48質量%)を調製し、この表面処理剤を使用したこと以外は実施例1(2)と同様にして、特定の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを製造した。
【0060】
<実施例6>
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシチタンの使用量を0.024gに変更し、シランカップリング剤の使用量を0.02gに変更したこと以外は実施例1(1)と同様にして特定の表面処理剤(TEOS濃度=約4.8質量%,テトラエトキシチタン濃度=約0.29質量%,シランカップリング剤濃度=約0.24質量%)を調製し、この表面処理剤を使用したこと以外は実施例1(2)と同様にして、特定の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを製造した。
【0061】
<比較例1>
作製例Aで得られた真空吸着パッド基材をを100℃のオーブン内で60分間加熱処理することにより、表面処理層が形成されていない真空吸着パッドを得た。
【0062】
<比較例2>
下記表1に示す処方に従って、テトラエトキシチタンを使用しなかったこと以外は実施例1(1)と同様にして比較用の表面処理剤を調製し、この表面処理剤を用いたこと以外は実施例1(2)と同様にして、比較用の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを得た。
【0063】
<比較例3>
下記表1に示す処方に従って、シランカップリング剤を使用しなかったこと以外は実施例1(1)と同様にして比較用の表面処理剤を調製し、この表面処理剤を用いたこと以外は実施例1(2)と同様にして、比較用の表面処理剤による表面処理層が形成された真空吸着パッドを得た。
【0064】
<真空吸着パッドの評価実験>
実施例1〜6および比較例1〜3で得られた真空吸着パッドを、各々4個ずつ用意して以下のような実験を行った。
すなわち、4個の真空吸着パッドを、ワークの搬送装置を構成するアームの先端に直列配置し(配置間隔=50mm)、この搬送装置により、シリコーンゴム製のクリーニングブレード(300mm×20mm×0.1mm)を搬送する操作を1000回にわたり連続的に行い、脱着不良が発生した時点で操作を中止して、その時の搬送回数を測定した。ここに、吸引圧力を200gf/cm2 とし、有効パッド面積(πd2 /4)が0.50cm2 であるので、吸着力(1個の真空吸着パッド)は100gfとなる。この実験(脱着不良発生時の搬送回数の測定)は3回(RUN1〜3)実施した。結果を併せて表1に示す。
【0065】

【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る真空吸着パッドは、例えば、印刷機への用紙の搬送装置、半導体部品の搬送装置(チップマウンタ)、ロボットアームなどの構成部品として使用することができ、特に、軽量のワークを吸着保持する用途に好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の真空吸着パッドの一例を示す部分破断説明図である。
【符号の説明】
【0068】
1 真空吸着パッド
2 基部
3 スカート部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを吸着保持するゴム製の真空吸着パッドであって、
少なくともワークと接触する表面が、
式(1):Si(OR1 4 (式中、R1 は、炭素数1〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシシランと、
式(2):Ti(OR2 4 (式中、R2 は、炭素数2〜4のアルキル基を表す。)で示されるテトラアルコキシチタンと、
式(3):Si(OR3 m 4 3-m −(CH2 n −R5 (式中、R3 はアルキル基またはアルコキシアルキル基を表し、R4 はアルキル基を表し、mは1〜3の整数であり、nは0〜5の整数である。また、R5 は、ゴムのポリマー主鎖との反応性を有する有機官能基を表す。)で示されるシランカップリング剤と、
これらを溶解する溶剤とを含有する表面処理剤;
により処理されている真空吸着パッド。
【請求項2】
前記テトラアルコキシシランが、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランであり、前記テトラアルコキシチタンが、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタンおよびテトラブトキシチタンから選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載の真空吸着パッド。
【請求項3】
前記表面処理剤が酸を含有する請求項1または請求項2に記載の真空吸着パッド。
【請求項4】
前記表面処理剤が、テトラエトキシシランと、テトラエトキシチタンと、シランカップリング剤と、酸と、有機溶剤とを含有する請求項1乃至請求項3の何れかに記載の真空吸着パッド。
【請求項5】
100gf以下の吸着力でワークを保持する請求項1乃至請求項4の何れかに記載の真空吸着パッド。
【請求項6】
ゴムからなる真空吸着パッド基材を成形加工する工程と、
当該真空吸着パッド基材の少なくともワークと接触する表面に請求項1に記載の表面処理剤を塗布する工程と、
当該表面処理剤による塗膜を加熱する工程とを含む真空吸着パッドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−270013(P2007−270013A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98732(P2006−98732)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】