説明

真空装置、荷電粒子ビーム装置、真空装置におけるコンタミネーション除去方法、荷電粒子ビーム装置におけるコンタミネーション除去方法

【課題】炭化水素系ガスと確実に化学反応を起こし、除去効率が高く、不揮発性潤滑材が真空装置の内部に残存していた場合にも、活性酸素ガス等に比べて、効率よく除去することができるとともに真空装置内部にある部材に対するダメージが比較的少ないガスを用いることでコンタネーションを除去する。
【解決手段】荷電粒子ビーム装置が、試料室(真空装置)と、真空ポンプ(TMP)と、フッ素化合物系ガスであるXeFを導入するガス導入装置と、切替バルブと、大気開放用バルブと、流量調整部と、真空ゲージを有し、試料室内の残留した炭化水素系ガス等によるコンタネーションを除去するため、切替バルブを操作して、不活性ガスと一緒に、フッ素化合物系ガス(XeF)を試料室内に導入する。流量調整部でフッ素化合物系ガス(XeF)の流量を調整し、略一定の大気圧状態に維持する。真空度の測定値に応じて流量調整部を調整して、略一定の真空度に保つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型又は透過型電子顕微鏡、半導体検査装置、電子ビーム描画装置、半導体製造装置等の荷電粒子ビーム装置、それらの試料室として用いられる真空装置などにおいて電子線等の荷電粒子ビーム照射により発生するコンタネーションを除去する方法、その方法を用いた真空装置、荷電粒子ビーム装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走査型又は透過型電子顕微鏡、半導体検査装置、電子ビーム描画装置、半導体製造装置等の荷電粒子ビーム装置において、真空装置である試料室(真空チャンバー)内部の炭化水素系の物質が電子ビームによって分解され、試料上に堆積する現象が知られている。これは、一般にコンタミネーションと呼ばれている。
【0003】
荷電粒子ビームを用いた荷電粒子ビーム装置において、電子線等の荷電粒子ビーム照射による試料上のコンタミネーションが課題になっている。例えば、半導体マスクもしくはウェハの線幅測定(CD−SEM)において、荷電粒子ビーム照射によって、経時的に線幅が太くなってしまい、再現性のある正確な線幅測定ができないといった問題があった。
【0004】
そのため、従来からコンタミネーション除去技術として、原因となる炭化水素系の物質を真空装置の試料室から除去することが有効である。
【0005】
例えば、特許文献1においては、大気中の酸素を、プラズマにより活性酸素にして試料室に導入し、試料室の内壁や、ステージ部材、試料表面自体に付着している炭化水素系と化学作用を起こさせ、CO、CO、H0を生成させ、真空排気することによって、コンタミネーションを除去している。
【0006】
また、例えば特許文献2に示すように、大気雰囲気と接続・隔離が選択できる試料交換室と、試料交換室と接続・隔離が選択でき、試料の測長、加工、分析、観察等を行うための試料室とも接続・隔離が選択できる試料交換室を備え、それぞれの試料交換室の内部の真空引きを行える手段を備えた電子顕微鏡などが公知である。試料交換室内にガス導入手段によりガスを導入し、特許文献2の段落0079に示すように、ガスの具体例として、コンタミネーションの原因となるハイドロカーボンを含み、比較的質量の大きいガス(特許文献2の段落0076を参照)がCの場合は、コンタミネーション低減のためのガスはCよりも質量の小さいH、He、B等があり、ガスがCmHn(m、nは自然数)の場合は、ガスはさらに多くの種類のガスが考えられる。例えば、H、B、C、N、O、F等がある。このガスは、理想的には、他の物質と反応しにくい不活性ガス(He、Ne、Ar、Kr、Xe、Rn)が望ましい旨記載されている。
【0007】
また、特許文献3の段落0018の後段や、特許文献4の段落0010に示すように、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを用いてコンタミネーションを低減させる技術も知られている。
【0008】
さらに、例えば特許文献5の段落0008、0019に示すように、半導体製造装置において、反応室の大気開放時における汚染防止を図るために、反応室に処理残留物を稀釈するための例えば窒素ガスを室内に供給する技術が公知である。
【特許文献1】特開平1−105451号公報
【特許文献2】特開平9−63527号公報
【特許文献3】特許3723846号公報
【特許文献4】特開平8−335449号公報
【特許文献5】特開平9−330859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、活性酸素を導入する場合、高温、もしくは、多量の酸素を導入しなければならず、試料室内部に配置された部材へのダメージが生じる。
【0010】
また、特許文献2に示されているようなH、He、B、C、N、O、F、その他の不活性ガス(Ne、Ar、Kr、Xe、Rn)を使用する場合、炭化水素系との化学反応の効率が低く、炭化水素系の除去効率が低い。
【0011】
また、不揮発性潤滑材が、試料室等の真空装置の内部に残存していた場合にも、活性酸素では効率よく除去できない。さらに、活性酸素では、真空装置の内部にある部材に対するダメージが大きい。
【0012】
そこで、本発明は、炭化水素系ガスと確実に化学反応を起こし、かつ炭化水素系ガスの除去効率が高く、不揮発性潤滑材が内部に残存していた場合にも、活性酸素ガス等に比べて、効率よく除去することができるとともに、活性酸素ガス等に比べ、内部にある部材に対するダメージが比較的少ないフッ素化合物系ガスを用い真空装置(試料室)、その真空装置(試料室)を備えた荷電粒子ビーム装置と、真空装置または荷電粒子ビーム装置においてコンタネーションを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、特許請求の範囲に記載する事項を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
一般にフッ素化合物系ガスでの反応はゆるやかであり、しかも、生成したフッ素たはフッ素ラジカル(F)(遊離基)は確実に反応するため、炭化水素系の除去の効率が高い。
【0015】
また、不揮発性潤滑材が、真空装置の内部に残存していた場合にも、活性酸素に比べて、効率の良い除去が可能である。
【0016】
また、活性酸素に比べ、真空装置内部にある部材に対する、ダメージが比較的少ない。さらに、非常に希薄なフッ素化合物系ガスによる複数回パージを行うことから、複雑に入り組んだ細かな構造体においても効率良くまたダメージ無く除去することができる。
【0017】
よって、装置内部へのダメージも少なく、従来の炭化水素系ガスよりも、効率よくコンタミネーションを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る真空装置を備えた荷電粒子ビーム装置の実施の形態について説明する。
【0019】
図1は第1の実施の形態に係る真空装置を備えた荷電粒子ビーム装置の構造を示す断面図、図2は図1に示した荷電粒子ビーム装置の真空装置を示す横断面図である。
【0020】
図に示した実施例では、荷電粒子ビーム装置として、荷電粒子光学系を鏡筒10内に配置した走査電子顕微鏡を例として説明する。
【0021】
この走査電子顕微鏡において、鏡筒10の上部には電子線源11が配置され、この電子線源11から発生した電子ビーム41は、アライメントコイル12(第1偏向手段)、スティグコイル13(第2偏向手段)で偏向され、対物レンズ14(倍率調整手段)で倍率調整され、試料21上を走査する。そして、真空装置である試料室20内に載置された試料21から発生する2次電子、反射電子などの荷電粒子42は検出器30で検出され、図示しないモニター等の画像表示手段で試料像が表示される。
【0022】
図2において、図1に示した荷電粒子ビーム装置の試料室20が真空装置として構成されている。真空ポンプ22が試料室20に接続されている。さらに、たとえばフッ素化合物系ガスの最適例であるXeFを導入するガス導入装置23が、流量調整部24、切替バルブ25、大気開放用バルブ26を経由して接続されている。試料室20の内部の真空度を測定する真空ゲージ27も、その試料室20に接続されている。また、不活性ガス貯蔵タンク28が試料室20に切替バルブ25と大気開放用バルブ26を経由して接続されている。
【0023】
ガス導入装置23、切替バルブ25、大気開放用バルブ26、流量調整部24、真空ゲージ27、図示しない排気用バルブなどは、図示しない演算処理部に接続されており、真空ゲージ27で測定された真空度などのデータから自動的に試料室20の駆動・開閉が制御される。
【0024】
通常、例えばウェハ等の試料の入れ替え等を行うとき、試料室20は、バルブ26を開にして大気開放される。そのような大気開放の際に、不活性ガス貯蔵タンク28からN、Ar、F等の不活性ガスが真空装置の試料室20内に切替バルブ25および大気開放用バルブ26を通って導入される。このとき、試料室20内に残留した炭化水素系ガス等によるコンタネーションを除去するため、切替バルブ25を操作して、不活性ガスと一緒に、ガス導入装置23からフッ素化合物系ガスのXeFを試料室20内に導入する。流量調整部24でフッ素化合物系ガス例えばXeFガスの流量を調整し、試料室20内を略一定の大気圧状態に維持することが好ましい。
【0025】
真空度は真空ゲージ27により測定する。真空ゲージ27からの測定値に応じて流量調整部24を調整して、試料室20内を略一定の真空度に保つ。
【0026】
また、2〜3分程度、多くて10分程度で、置換するようにすると、確実にコンタミネーション除去することができる。
【0027】
前述の実施例では、フッ素化合物系ガスの最適の例としてXeFを用いたが、本発明は、これに限定されず、HF、ClF、NF、SiF、WF、F等のフッ素化合物系ガスであってもよい。
【0028】
また、フッ素化合物系ガスを導入する際に、複数回パージする。例えば、2〜3回フッ素化合物系ガスパージを行う。
【0029】
これは、試料上にコンタミネーションがわずかに発生した場合、非常に希薄なフッ素化合物系ガスによるコンタミネーション除去を複数回繰り返すことにより、過剰なパージガスを装置へ導入することが無いため、装置へのダメージを極力無くすと共に、より効果的にコンタミネーションを軽減することができる。
【0030】
なお、それぞれのフッ素化合物系ガスの分子量、沸点、融点、その他特性に応じて取り扱い等を留意することが望ましい。
【0031】
また、前述の実施例では、荷電粒子ビーム装置として電子顕微鏡を用いたが、本発明は、これに限定されず、半導体検査装置、電子ビーム描画装置、半導体製造装置等の荷電粒子ビーム装置であってもよい。また、荷電粒子ビームとして電子線以外にもX線、中性子線、α線、β線、γ線等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る荷電粒子ビーム装置の構造を示す説明図である。
【図2】図1に示した荷電粒子ビーム装置において真空装置として構成された試料室と、その関連構成を示す説明図。
【符号の説明】
【0033】
10 鏡筒
11 電子線源
12 アライメントコイル
13 スティグコイル
14 対物レンズ
20 試料室
21 試料
22 真空ポンプ
23 ガス導入装置
24 流量調整部
25 切替バルブ
26 大気開放用バルブ
27 真空ゲージ
28 不活性ガス貯蔵タンク
30 検出器
41 電子ビーム
42 荷電粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部をフッ素化合物系のガスで置換してコンタミネーションを除去することを特徴とするコンタミネーション除去方法。
【請求項2】
内部をフッ素化合物系のガスで複数回パージしてコンタミネーションを除去することを特徴とするコンタミネーション除去方法。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項のコンタミネーション除去方法において、
フッ素化合物系のガスは、HF、ClF、NF、SiF、WF、又はXeFであることを特徴とするコンタミネーション除去方法。
【請求項4】
荷電粒子ビーム装置に真空装置として構成された試料室の内部をフッ素化合物系のガスで置換してコンタミネーションを除去することを特徴とするコンタミネーション除去方法。
【請求項5】
荷電粒子ビーム装置に真空装置として構成された試料室の内部をフッ素化合物系のガスで複数回パージしてコンタミネーションを除去することを特徴とするコンタミネーション除去方法。
【請求項6】
試料室の内部に不活性ガスと一緒にフッ素化合物系のガスを導入し、その状態を維持し、かつ、試料室の内部の真空度を略一定に保つことを特徴とする請求項1に記載のコンタミネーション除去方法。
【請求項7】
請求項4〜6に記載のコンタミネーション除去方法において、
フッ素化合物系のガスは、HF、ClF、NF、SiF、WF、又はXeFであることを特徴とするコンタミネーション除去方法。
【請求項8】
内部に試料を配置するための真空装置において、
フッ素化合物系のガスを導入するガス導入装置を有し、内部をフッ素化合物系のガスで置換することを特徴とする真空装置。
【請求項9】
内部に試料を配置するための真空装置において、
フッ素化合物系のガスを導入するガス導入装置を有し、内部をフッ素化合物系のガスで複数回パージすることを特徴とする真空装置。
【請求項10】
請求項8又は9のいずれか1項の真空装置において、
フッ素化合物系のガスは、HF、ClF、NF、SiF、WF、又はXeFであることを特徴とする真空装置。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項の真空装置において、
内部にフッ素化合物系のガスを導入した状態で、内部の真空度を略一定に保つことを特徴とする真空装置。
【請求項12】
請求項8〜10のいずれか1項の真空装置において、
切替バルブの操作によって、不活性ガスと一緒に、内部にフッ素化合物系のガスを導入することを特徴とする真空装置。
【請求項13】
請求項8〜10のいずれか1項の真空装置において、
切替バルブとガス導入装置との間に流量調整部を設けて、フッ素化合物系のガスの流量を調整して、試料室内をほぼ一定の大気圧状態に保つことを特徴とする真空装置。
【請求項14】
真空装置として構成された試料室の内部に配置した試料に荷電粒子ビームを照射して試料の検査を行うための荷電粒子ビーム装置において、
フッ素化合物系のガスを導入するガス導入装置を有し、試料室内にフッ素化合物系のガスをガス導入装置から導入して、試料室内をフッ素化合物系のガスで置換することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
真空装置として構成された試料室の内部に配置した試料に荷電粒子ビームを照射して試料の検査を行うための荷電粒子ビーム装置において、
フッ素化合物系のガスを導入するガス導入装置を有し、試料室内にフッ素化合物系のガスをガス導入装置から導入して、試料室内をフッ素化合物系のガスで置換して、
その状態を維持することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項16】
真空装置として構成された試料室の内部に配置した試料に荷電粒子ビームを照射して試料の検査を行うための荷電粒子ビーム装置において、
試料室の内部を大気開放するための大気開放用バルブと、フッ素化合物系のガスを導入するガス導入装置とを有し、大気開放用バルブによって試料室の内部を大気開放するときに、試料室内にフッ素化合物系のガスをガス導入装置から導入して、試料室内をフッ素化合物系のガスで置換することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項17】
真空装置として構成された試料室の内部に配置した試料に荷電粒子ビームを照射して試料の検査を行うための荷電粒子ビーム装置において、
試料室の内部を大気開放するための大気開放用バルブと、フッ素化合物系のガスを導入するガス導入装置とを有し、大気開放用バルブによって試料室の内部を大気開放するときに、試料室内にフッ素化合物系のガスをガス導入装置から導入して、試料室内をフッ素化合物系のガスで置換して、その状態を維持することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれか1項の荷電粒子ビーム装置において、
フッ素化合物系のガスは、HF、ClF、NF、SiF、WF、又はXeFであることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれか1項の荷電粒子ビーム装置において、
フッ素化合物系のガスで複数回パージすることを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項20】
請求項14〜18のいずれか1項の荷電粒子ビーム装置において、
試料室の内部にフッ素化合物系のガスを導入した状態で、試料室の内部の真空度を略一定に保つことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項21】
請求項14〜18のいずれか1項の荷電粒子ビーム装置において、
切替バルブの操作によって、不活性ガスと一緒に、試料室の内部にフッ素化合物系のガスを導入することを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項22】
請求項14〜18のいずれか1項の荷電粒子ビーム装置において、
切替バルブとガス導入装置との間に流量調整部を設けて、フッ素化合物系のガスの流量を調整して、試料室内をほぼ一定の大気圧状態に保つことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−91202(P2008−91202A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270597(P2006−270597)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)
【出願人】(301014904)株式会社ナノジオメトリ研究所 (15)
【出願人】(505354383)株式会社ジャパン・アドバンスト・ケミカルズ (2)
【Fターム(参考)】