説明

真空装置への試料搬送導入装置

【課題】各種の試料ホルダーを取り扱うことができ、製作や改良及び修理も容易であって、作業性に優れ、製作及び維持コストを低減することができる真空装置への試料搬送導入装置を提供すること。
【解決手段】可動パイプ15が直進運動により前進及び後退する直線導入機10と、試料を設置する試料ホルダー90を格納する試料ホルダー格納部30と、試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とはめ合うことで試料ホルダー90を収容する真空槽53を形成する真空容器50とを備えた真空装置への試料搬送導入装置において、試料ホルダー格納部30を直線導入機10の可動パイプ15の先端部分に着脱可能に取り付け、かつ真空容器50を直線導入機10の本体11の先端部分に着脱可能に取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空を用いた装置へ試料を搬送し導入する試料搬送導入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、真空分析装置として、光電子分光、オージェ電子分光や軟X線吸収分光装置が広く利用されている。通常、分析する試料は大気中で試料ホルダーに取り付け、その後、真空分析装置にセットする。しかしながら、触媒や電極など表面が活性な材料は、試料を大気にさらすと表面が酸化や汚染されてしまう。そこで、従来から、試料を大気にさらすことなく真空装置へ搬送し導入することができるようにするための試料搬送導入装置が種々提案されている(例えば特許文献1、2)。
【0003】
図5は、かかる従来の試料搬送導入装置の典型的な構成を示す概略平面図である。この試料搬送導入装置は、直線導入機101と、試料ホルダー格納部102と、真空容器103とを一体構造として備える。試料を設置する際には、直線導入機101を操作して図5に示すように試料ホルダー格納部102を前進させた状態とし、例えばグローブボックス内で、試料を取り付けた試料ホルダー105を試料ホルダー格納部102にセットする。その後、直線導入機101を操作して試料ホルダー格納部102を後退させる。そうすると、真空容器103の周壁103aの先端が試料ホルダー格納部102の試料ホルダー受け板102aとはめ合うことで、試料ホルダー105を収容する真空槽が形成される。真空槽内部を真空にする際は、真空ポート106に真空排気手段を接続し、前記真空槽を真空とする。この状態で、試料搬送導入装置を真空装置まで搬送し、専用フランジ104を介して真空装置に装着する。装着後、直線導入機101を操作して試料ホルダー格納部102を前進させ、試料ホルダー105を真空装置へ導入する。このようにして、試料を大気にさらすことなく真空装置へ搬送し導入する。
【0004】
しかし、図5に示す従来の試料搬送導入装置は、上述のとおり各部品が一体化された一体構造であるため、その試料ホルダー格納部102に適応する特定の試料ホルダーしか取り扱うことができず、他の試料ホルダーを取り扱うためには、別途、試料搬送導入装置を製作して準備する必要があった。また、一体構造であることから、その改良や修理も困難である。例えばある部品が損傷すると、試料搬送導入装置全体を修理あるいは交換する必要があった。また、改良や修理の際は、試料搬送導入装置全体を取り扱う必要があるので、その作業性に問題があった。
【0005】
加えて、専用フランジ104が特殊なため、真空装置側に専用のポートが必要であった。また、上述のとおり、特定の試料ホルダーしか取り扱うことができないので、その汎用性に問題があった。
【0006】
以上のように、従来の試料搬送導入装置には、その製作及び維持コストが高くなり、作業性及び汎用性にも劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−33357号公報
【特許文献2】特公平7−81937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、各種の試料ホルダーを取り扱うことができ、製作や改良及び修理も容易であって、作業性に優れ、製作及び維持コストを低減することができる真空装置への試料搬送導入装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る試料搬送導入装置は、真空装置へ試料を搬送し導入する試料搬送導入装置であって、可動パイプが直進運動により前進及び後退する直線導入機と、試料を設置する試料ホルダーを格納する試料ホルダー格納部と、試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板とのはめ合いで試料ホルダーを収容する真空槽を形成する真空容器とを備え、試料ホルダー格納部が直線導入機の可動パイプの先端部分に着脱可能に取り付けられ、かつ真空容器が直線導入機の本体の先端部分に着脱可能に取り付けられたことを特徴とするものである。
【0010】
このように、本発明では試料ホルダー格納部を着脱可能としたことで、試料ホルダーの種類に応じた各種の試料ホルダー格納部を準備しておけば、これらを適宜選択することで、1台の試料搬送導入装置で各種の試料ホルダーを取り扱うことができる。また、複数の試料ホルダーを格納できる試料ホルダー格納部を準備しておけば、複数の試料ホルダーを同時に搬送して真空装置へ導入できる。
【0011】
また、試料搬送導入装置の主要部品である直線導入機と、試料ホルダー格納部と、真空容器とを相互に着脱可能としていることから、これらの部品を個別に製作、改良及び修理して組み立てることができので、その作業性が向上し、またそれに係るコストも低減できる。
【0012】
本発明の試料搬送導入装置は、真空装置に装着するためのフランジとして、規格化されたコンフラットフランジを備えたものとすることが好ましい。これによって、真空装置側に専用のポートを設ける必要がなくなるので、試料搬送導入装置としての汎用性及び利便性が向上する。
【0013】
また、本発明において試料ホルダー格納部は、ワンタッチ機構により直線導入機の可動パイプの先端部分に着脱可能とすることが好ましい。これによって試料ホルダー格納部の着脱の作業性が向上する。
【0014】
さらに、本発明の試料搬送導入装置は、試料ホルダー格納部を加熱する加熱手段を備えたものとすることができる。加熱手段を備えていれば、試料を加熱することで脱ガスを行うことができるし、加熱状態での分析等を行うことができる。
【0015】
また、試料ホルダー格納部に冷却手段を備え、液体窒素等の冷却用の冷媒を導入することが可能とすることもできる。これによって、試料を冷却することができ、冷却状態での分析等を行うことができる。
【0016】
本発明においては試料をさらに高い真空で搬送し導入する必要がある場合、真空容器の周壁を二重とし、この二重の周壁の先端部分が当接する試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板にシール手段(例えばOリング)を二重に配置し、この二重のシール手段を介して真空容器が試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板とのはめ合いで真空槽を形成するようにすることができる。このように2重シール構造とし、真空容器の二重の周壁間の第二真空槽を真空排気する真空排気手段を設けることで、真空容器内の到達真空度を高くすることができ、高度の保温あるいは保冷も可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の試料搬送導入装置によれば、各種の試料ホルダーを取り扱うことができ、製作や改良及び修理も容易であって、作業性に優れ、製作及び維持コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る試料搬送導入装置を示す構造図である。
【図2】図1の試料搬送導入装置の各部品を分離した状態を示す構造図である。
【図3】本発明に係る試料搬送導入装置において真空容器を二重構造とした場合の構造図である。
【図4】本発明に係る試料搬送導入装置において試料ホルダー格納部に2個の試料ホルダーを格納できるようにした場合の構造図である。
【図5】従来の試料搬送導入装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に示す実施例に基づき本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明に係る試料搬送導入装置を示す構造図、図2は、図1の試料搬送導入装置の各部品を分離した状態を示す構造図である。
【0021】
図1及び図2に示す試料搬送導入装置は、同軸型の直線導入機10と、試料ホルダー格納部30と、真空容器50と、コンフラットフランジ80の4個の部品からなる。
【0022】
直線導入機10は、その本体11にネジ部12を介してノブ13が装着された構成である。本体11にはその軸中心に沿って軸受け14が形成されており、この軸受け14に沿ってスライド可能に管状の可動パイプ15が装着されている。可動パイプ15の基端はコンフラットフランジ16に繋がっており、コンフラットフランジ16に真空排気手段を接続することで、可動パイプ15を介して後述する真空容器50を真空引きできる。また、真空ベローズ17を配置している。これによって、可動パイプ15がシールされつつ直進運動して前進及び後退可能となっている。すなわち、図2(a)の状態から本体11の先端部分を固定してノブ13を時計回りに回転させると、図2(b)に示すように可動パイプ15が前進し、この状態からノブ13を反時計回りに回転させると、図2(a)に示すように可動パイプ15が後退する。
【0023】
試料ホルダー格納部30は、試料ホルダー90を設置するための凹状の試料ホルダー設置部32を試料ホルダー受け板31上に有する。また、試料ホルダー受け板31には試料ホルダー90の一部を囲むように側板33が設けられている。この側板33を設け、かつ試料ホルダー設置部32を凹状に形成することにより、試料ホルダー90がスムーズに設置でき、転倒を確実に防止できる。
【0024】
側板33の一端には上板34が設けられており、この上板34に、可動パイプ15の先端部分に変換アダプタ15bを介して取り付けた位置決めジョイント用ピン15aとワンタッチで着脱可能なL字状のピン差込用溝35が形成されている。これによって、試料ホルダー格納部30は可動パイプ15の先端部分にワンタッチで着脱可能となっている。なお、変換アダプタ15bは、ネジ15cを締めたり緩めたりすることによって可動パイプ15の先端部分に着脱可能になっている。ここで、試料ホルダー格納部30を可動パイプ15の先端部分にワンタッチで着脱可能とするワンタッチ機構としては、この実施例に限られず、従来から周知の各種のワンタッチ機構を採用することができる。
【0025】
試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31には、後述する真空容器50の周壁52の先端部分に対応する位置にシール手段としてOリング36が配置されている。
【0026】
真空容器50は、そのシールフランジ51を介して直線導入機10の本体11のコンフラットフランジ18に着脱可能に取り付けられる。また、シールフランジ51には円筒状の周壁52が固定されており、この周壁52が試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とOリング36を介してはめ合うことで、試料ホルダー90を収容する真空槽53が形成される。
【0027】
コンフラットフランジ80は、真空容器50のシールフランジ51にOリング81を介して着脱可能に装着される。コンフラットフランジ80は規格化されているので、真空装置側に専用のポートを設けることなく真空装置に装着可能である。
【0028】
以上の構成において、試料を設置した試料ホルダー90を真空装置へ搬入し導入する際には、直線導入機10のノブ13を時計回りに回転させることで、図2(b)に示すように、可動パイプ15を前進させ試料ホルダー格納部30を前進させた状態とし、例えばグローブボックス内で、試料を設置した試料ホルダー90を試料ホルダー格納部30の試料ホルダー設置部32にセットする。その後、直線導入機10のノブ13を反時計回りに回転させて、図2(a)に示すように可動パイプ15を後退させ試料ホルダー格納部30を後退させる。そうすると、真空容器50の周壁52の先端がOリング36を介して試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とはめ合いとなり、試料ホルダー90を収容する真空槽53が形成される。真空引きする場合は、コンフラットフランジ16に真空排気手段を接続し、可動パイプ15を介して真空排気することで真空槽53を真空とする。具体的にはコンフラットフランジ16に装着されているブランクフランジ19を図2に示すような真空引き用フランジ20に交換する。真空引き用フランジ20にはバルブ21を介して引口22が設けられており、引口22に真空排気手段を接続して真空引きする。
【0029】
真空引き後、試料搬送導入装置を真空装置まで搬送し、コンフラットフランジ80を介して真空装置に装着する。装着後、直線導入機10のノブ13を時計回りに回転させて、可能シャフト15を前進させ試料ホルダー格納部30を前進させることで、試料ホルダー90を真空装置へ導入する。このようにして、試料を大気にさらすことなく真空装置へ搬送し導入する。
【0030】
ここで、試料ホルダー90を加熱したい場合には、加熱手段として例えば電極をコンフラットフランジ16から入れ、可動パイプ15内を通して試料ホルダー格納部30に装着させたヒータ線に接続し、加熱する。また、試料ホルダー90を冷却したい場合には、例えば液体窒素等の冷媒をコンフラットフランジ16から入れ、可動パイプ15内を通して試料ホルダー格納部30に装着させた冷却タンクに導入する。このように試料ホルダー90を加熱又は冷却する場合には、その加熱又は冷却効率を上げるために、試料ホルダー格納部30は無酸素銅等で形成することが好ましい。
【0031】
一方、試料搬送導入装置を軽量化したい場合には、試料ホルダー格納部30及び真空容器50をチタンやアルミニウムで形成する。また、腐食性の試料を取り扱う場合には、試料ホルダー格納部30及び真空容器50を耐食性の材料で形成する。材料がチタンの場合、軽量化と高耐腐食性のみならず、材料からのガス放出量を低減させることができるため、真空容器50の到達真空度を低くすることができる。
【0032】
図3は、真空容器50を二重構造とした場合の構造図である。図3では、二重の周壁52の先端部分が当接する試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31にOリング36を二重に配置し、この二重のOリング36を介して真空容器50が試料ホルダー格納部30の試料ホルダー受け板31とのはめ合いで真空槽53を形成するようにしている。真空容器50の二重の周壁間の第二真空槽52aに連通する引口54をバルブ55を介して設け、引口54に真空排気手段を接続することで、第二真空槽52aを真空排気可能としている。このように2重シール構造とすることで、真空容器50内の到達真空度をさらに低くすることができ、保温あるいは保冷も可能となる。
【0033】
図4は、試料ホルダー格納部30に2個の試料ホルダーを格納できるようにした場合の構造図である。図4では、試料ホルダー受け板31と上板34の間に中間板37を設け、この中間板37にも試料ホルダー設置部32を設けることで、2個の試料ホルダーを格納可能としている。中間板37を複数設ければ、3個以上の試料ホルダーを格納することも可能である。
【0034】
本発明に係る試料搬送導入装置では上述のとおり、試料ホルダー格納部30及び真空容器50が個別に着脱可能であるので、図1及び2に示した試料ホルダー格納部30及び真空容器50のほかに、図3や図4に示したような別タイプの試料ホルダー格納部30及び真空容器50を適宜使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、真空分析装置への試料搬送導入装置として好適に利用できるほか、各種の真空装置への試料搬送導入装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 直線導入機
11 本体
12 ネジ部
13 ノブ
14 軸受け
15 可動パイプ
15a 位置決めジョイント用ピン
15b 変換アダプタ
15c ネジ
16 コンフラットフランジ
17 真空ベローズ
18 コンフラットフランジ
19 ブランクフランジ
20 真空引き用フランジ
21 バルブ
22 引口
30 試料ホルダー格納部
31 試料ホルダー受け板
32 試料ホルダー設置部
33 側板
34 上板
35 ピン差込用溝
36 Oリング
37 中間板
50 真空容器
51 シールフランジ
52 周壁
52a 第二真空槽
53 真空槽
54 引口
55 バルブ
80 コンフラットフランジ
81 Oリング
90 試料ホルダー
101 直線導入機
102 試料ホルダー格納部
102a 試料ホルダー受け板
103 真空容器
103a 周壁
104 専用フランジ
104a Oリング
105 試料ホルダー
106 真空ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置へ試料を搬送し導入する試料搬送導入装置であって、
可動パイプが直進運動により前進及び後退する直線導入機と、
試料を設置する試料ホルダーを格納する試料ホルダー格納部と、
試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板とのはめ合いで試料ホルダーを収容する真空槽を形成する真空容器とを備え、
試料ホルダー格納部が直線導入機の可動パイプの先端部分に着脱可能に取り付けられ、かつ真空容器が直線導入機の本体の先端部分に着脱可能に取り付けられた、真空装置への試料搬送導入装置。
【請求項2】
真空装置に装着するための規格化されたコンフラットフランジを備えた請求項1に記載の真空装置への試料搬送導入装置。
【請求項3】
試料ホルダー格納部が、ワンタッチ機構により直線導入機の可動パイプの先端部分に着脱可能である請求項1又は2に記載の真空装置への試料搬送導入装置。
【請求項4】
試料ホルダー格納部を加熱する加熱手段を備えた請求項1〜3のいずれかに記載の真空装置への試料搬送導入装置。
【請求項5】
試料ホルダー格納部を冷却する冷媒を導入可能とした請求項1〜3のいずれかに記載の真空装置への試料搬送導入装置。
【請求項6】
真空容器の周壁が二重であり、この二重の周壁の先端部分が当接する試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板にシール手段を二重に配置し、この二重のシール手段を介して真空容器が試料ホルダー格納部の試料ホルダー受け板とのはめ合いで真空槽を形成し、真空容器の二重の周壁間の第二真空槽を真空排気する真空排気手段を備えた請求項1〜5のいずれかに記載の真空装置への試料搬送導入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−276369(P2010−276369A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126654(P2009−126654)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年11月29日 長崎大学大学院生産科学研究科 電気情報工学専攻電気電子工学系 応用物理学会九州支部事務局発行の「2008年(平成20年度) 応用物理学会九州支部学術講演会 講演予稿集 Vol.34」に発表
【出願人】(300032123)財団法人佐賀県地域産業支援センター (11)
【出願人】(597120204)真空光学株式会社 (2)
【Fターム(参考)】