説明

石炭灰の評価方法、およびセメント又はコンクリートの製造方法

【課題】迅速に、かつ正確な方法で使用する石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を評価することのできる方法、およびそれを用いたセメントおよびコンクリートの製造方法を提供する。
【解決手段】電子顕微鏡を用いた粒子解析により、使用する石炭灰中に含まれる特定の種類の粒子の比表面積を算出し、予め収集した産地の異なる石炭灰を混合したモルタルによるアルカリシリカ反応性試験の膨張率のデータとを比較し、使用する石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を評価する。さらに、使用する石炭灰中に含まれる特定の種類の粒子の比表面積と石炭灰のセメント置換率を乗じた積の値をアルカリシリカ反応抑制の指標として用い、使用する石炭灰のセメントおよびコンクリートへの必要な配合量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
セメント、モルタル、コンクリート用の混和材として用いられる石炭灰の品質評価方法、およびそれを利用したセメントやコンクリートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所の微粉炭燃焼ボイラからの副産物として大量に産出される石炭灰は、セメント、モルタル、コンクリート(以下、総称して「コンクリート」という場合がある)用の混和材として一部有効利用されている。石炭灰のうち、コンクリート用混和材として用いられるものはJIS A 6201でコンクリート用フライアッシュと規定され、その粒子が平滑かつ球状であるためにコンクリートのワーカビリティーを向上させ、コンクリート組織を緻密化させ、コンクリートの長期強度を増大させるとともに、化学薬品に対する抵抗性等を向上させ、その混入によりセメントの水和発熱が緩和されるために自己発熱による温度ひび割れが問題となるマスコンクリート構造物に適しており、ひび割れによる膨張破壊を生じるアルカリシリカ反応に対する優れた抑制効果(非特許文献1)も有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】川端雄一郎,松下博通,「細骨材代替として混和したフライアッシュのアルカリシリカ反応抑制効果に関する実験的検討」,コンクリート工学論文集E,2007年,Vol.18,No.1,p.67−76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、JIS A 5308付属書Bにはアルカリシリカ反応抑制のためにフライアッシュセメントB種のフライアッシュの分量は15%以上と定められ、石炭灰をこのように多量にコンクリートに混合すると、強度の低下、凝結の遅延、低温環境下における強度発現の遅れ、耐中性化抵抗性の低下などが生じる。
【0005】
また、石炭灰の使用を妨げる原因の一つとして、火力発電所で使用される石炭が多種に及び、しかもその燃焼条件が同一でないために、得られる石炭灰の性状が大きく変わってしまい、その結果、石炭灰を使用したコンクリートの強度発現性やアルカリシリカ反応抵抗性などの耐久性が異なってしまうことが挙げられる。
【0006】
石炭灰のアルカリシリカ反応に対する抑制効果の指標として、アルカリシリカ反応に対する骨材の有害性を判定するASTM C 1260やJIS A 1146(モルタルバー法)に規定されるモルタル供試体による方法が利用できる。しかしながら、これらの方法は、モルタル供試体を作成し、所定の期間養生を実施するために、判定結果を得るまでに少なくとも2週間以上の長い期間を要する。
【0007】
そこで、迅速に評価可能な石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果の指標として、ブレーン比表面積、塩基度などの化学組成、非晶質相(ガラス)に関連した指標が提案されている。
ブレーン比表面積はJIS R 5201に規定され、空気透過装置に所定の量の粉体を充填し、それを通過する空気の速さを測定し、かかる流速の比に基づいて石炭灰の粉末度を算出する方法である。
塩基度は、蛍光X粉末装置などの分析により石炭灰の化学組成を求め、CaO /SiOの比から石炭灰の反応性を算出する方法である。
また、非晶質相(ガラス)に関連した指標として、非晶質相に含まれるSiO量と石炭灰全体の粒度分布から求めた比表面積、およびモルタル中の石炭灰の容積を元にアルカリシリカ反応の抑制効果を算出する方法がある。石炭灰の非晶質相のSiO量は、蛍光X線分析で求めた石炭灰の全化学組成から、粉末X線回折/リートベルト法により得られた鉱物構成よりその成分を差し引くことで算出する。比表面積は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定結果から算出する。さらに、モルタルに混合する石炭灰の容積を求め、これらの数値全てを乗じた積をアルカリシリカ反応の抑制効果の指標として用いている(非特許文献1)。
【0008】
しかしながら、上記のいずれの方法も、高い精度でアルカリシリカ反応の抑制効果やコンクリートにおける膨張率を予測できるものでなく、アルカリシリカ反応の防止に適した石炭灰のセメントに対する置換率やコンクリートへの添加量を求められるものではない。
【0009】
このような課題に鑑みて、本発明は、より迅速、かつ正確に石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を評価することのできる方法を提供することを目的とする。また、本発明は、JIS A 1145に規定される「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法」により「無害でない」と判定される骨材を使用してもアルカリシリカ反応が抑制される、セメントやコンクリートへの石炭灰の添加量を決定できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は石炭灰に含まれる特定の種類の粒子相の特性値を指標とすればアルカリシリカ反応の抑制効果の高い石炭灰を選定することができること、そして、当該石炭灰の最低限の石炭灰添加量を算出することにより、アルカリシリカ反応が防止できるうえ、強度低下と品質変動が少ないセメントやコンクリートを製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
したがって、本発明(請求項1)によれば、石炭灰を電子顕微鏡により粒子解析することにより、円形度、アスペクト比、反射電子量、化学組成などにより個々の特徴を有した粒子に分類でき、その粒子ごとにアルカリシリカ反応の抑制効果が異なり、該粒子の特性値とコンクリートの膨張率との関係を比較することで、アルカリシリカ反応によるコンクリートの膨張率を予測することができるため、迅速、かつ正確に石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を評価することができる。
【0012】
上記発明(請求項1)の粒子解析に基づき、本発明(請求項2)においては、特にムライトを含有する非晶質相がアルカリシリカ反応と関連が高く、該ムライトを含有する非晶質相の粒子解析に得られた体積率および粒度分布に基づき、粒子の形状が球であるものと仮定して算出した比表面積を用いてアルカリシリカ反応の抑制効果を評価することができる。
【0013】
また、本発明においては、一定の石炭灰のセメント置換率の場合にはムライトを含有する非晶質相の比表面積の値、あるいは一定の石炭灰のセメント置換率でない場合においては(ムライトを含有する非晶質相の比表面積)×(石炭灰のセメント置換率)の値が、アルカリシリカ反応の抑制効果と高い相関を有することを利用して、セメントやコンクリート用混和材として使用し得る石炭灰の添加率を、迅速に決定することができる。さらには、いかなる骨材においてもアルカリシリカ反応が生じない石炭灰の添加量を決定することができる(請求項3,4,5,6)。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、より迅速に、かつ正確な方法で石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を評価することができるため、より抑制効果の高い石炭灰を選定することができ、さらにはアルカリシリカ反応抵抗性備えるための最低限の石炭灰添加量を算出できる。したがって、石炭灰を多量に混合したことで生じる強度低下や品質変動が小さく、かつアルカリシリカ反応抵抗性を備えたセメントおよびコンクリートを提供することができ、さらなる石炭灰の有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】石炭灰中のムライトと非晶質が混在した粒子を示すものである。
【図2】ムライトと非晶質が混在した粒子の粒度分布を示すものである。
【図3】ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積(cm/cm)と14日膨張率(%)の関係(実施例1)を示すものである。
【図4】Caを含まない非晶質相の比表面積(cm/cm)と14日膨張率(%)の関係(比較例1)を示すものである。
【図5】石炭灰全体の化学組成として塩基度と14日膨張率(%)の関係(比較例2)を示すものである。
【図6】石炭灰全体のブレーン比表面積(cm/g)と14日膨張率(%)の関係(比較例3)を示すものである。
【図7】非晶質相全体の非晶質相に含まれるSiO量(質量%)と石炭灰全体の粒度分布から求めた比表面積(cm/cm)との積と、14日膨張率(%)の関係(比較例5)を示すものである。
【図8】石炭灰の活性度指数と14日膨張率(%)の関係(比較例6)を示すものである。
【図9】ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積(cm/cm)と石炭灰のセメント置換率との積と、14日膨張率(%)の関係を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の石炭灰の評価方法および石炭灰の配合設計方法を具体的に説明する。
〔使用する石炭灰〕
本明細書中、「石炭灰」とは、セメントと混合してセメント組成物を構成するための材料である。本発明で用いる石炭灰としては、特に限定されず、例えば、石炭火力発電所、石油精製工場、その他の化学工場等において微粉炭を燃焼させたときに発生する燃焼ガスから、集塵器によって捕集された微粉末が挙げられる。
石炭灰の化学成分は、SiO,Al,Feが主成分である、石炭灰中の鉱物は、非晶質相(ガラス)、石英、ムライト、酸化鉄などが含まれる。また、粒子径はJIS A 6201に適合するフライアッシュでは、100μm以下がほとんどを占めている。
これまでは、石炭灰全体の特性解析により各種性能評価が実施されてきたが、本発明では個々の粒子を幾何学的計量値、化学組成、および鉱物種類等により分類し、電子顕微鏡を用いた粒子解析により分類された石炭灰粒子の種類ごとの特性値を求めることで、石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を正確に評価できることに基づくものである。
【0017】
本発明で用いる石炭灰のブレーン比表面積は、特に限定されないが、例えば、2,500〜6,000 cm2/gである。
また、本発明においては、例えば、使用する石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果が小さいと判定された場合、あるいはブレーン比表面積等の特性からアルカリシリカ反応の抑制効果が小さいと予想される場合は、粉砕及び/又は分級した石炭灰を用いてもよく、該石炭灰のブレーン比表面積は、例えば、3,000〜12,000 cm2/gである。
粉砕は、ボールミル、竪型ミル等、最終的に平均粒径で20μm以下に粉砕できるものであれば、粉砕機を選ばない。分級は、サイクロン等の気流分級機、遠心力式分級機や慣性力式分級機等の慣用の分級機を使用することができ、湿式、乾式の別を問わない。
【0018】
〔試料の調製〕
石炭灰と所定の樹脂を混合し、硬化した試験片を作成する。石炭灰を樹脂に分散させることにより、石炭灰粒子が重なり合うことはなく、後述する粒子解析処理時に、粒子一つ一つを的確に抽出し、特性値を計測することができるようになる。
石炭灰と混合する樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、メタクリル系樹脂等が挙げられ、当該樹脂が硬化する際の伸縮性が低収縮であり、ひび割れの生じないものが好ましい。樹脂の混合割合は、石炭灰に対して体積比で0.8〜4とするのが好ましい。この範囲であれば、複数の粒子が接触することなく分散し、かつ後述する研磨実施後に多くの粒子の切断面を取得することができる。
【0019】
次いで、硬化した試験片の撮像面を研磨する。像面に凹凸ができたり、粒子の切断面が十分に現れていないと粒子の粒径、形状等の測定が正確にできず、後述する粒子解析の精度が低下してしまう。
試験片の撮像面の研磨方法は、特に限定されるものではなく、通常用いられる研磨装置を用いて行えばよい。また、研磨工程において使用し得る研磨材としては、シリコンカーバイト研磨材、ボロンカーバイト研磨材、ダイヤモンドペースト、アルミナ粉末等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに研磨材として粒径0.3〜3μmのアルミナ粉末等を用いたバフ研磨加工を施すのが好ましく、さらにアルゴンイオンビームを用いたクロスセクションポリッシャ−による研磨を施すのが像面に凹凸が少なく好ましい。
【0020】
最後に、撮像面を研磨した試験片の表面に蒸着膜を形成し、試験片に導電性を付与する。後述する粒子解析においては、試験片に電子線を照射することになるが、石炭灰と樹脂は導電性を有しないため、試験片に蒸着膜を形成せずに反射電子像を取得しようとすると試験片の表面が帯電し、正確な反射電子像を取得できない。そこで、試験片の表面に導電性を有する蒸着膜を形成することで、正確な反射電子像を取得することが可能となる。
上記蒸着膜としては、試験片の表面に導電性を付与できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、炭素、白金パラジウム、金等が挙げられる。また、蒸着膜を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法により行うことができる。
【0021】
〔石炭灰の粒子解析〕
本実施形態において粒子解析を行うには、まず、上述の試料調製工程により調製された試験片を、電子顕微鏡を用いて反射電子像(BSE)、化学組成を取得する。電子顕微鏡は、反射電子像、微小領域の化学組成を測定できればよく、走査型電子顕微鏡(SEM)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)等を用いることができる。反射電子像は、その領域を構成する元素の平均原子番号が大きいほど明るく表示されるものである。化学組成の取得方法は問わないが、波長分散型分散型X線分光器(WDS)よりエネルギー分散型X線分光器(EDS)が短時間で結果を取得できるので好ましい。
【0022】
反射電子像を解析する際には、加速電圧を10〜15keV程度に、照射電流を200〜500pA程度、観察倍率を500〜2000倍に設定するのが好ましい。この範囲であれば、解像度の高い反射電子像を取得することができる。
【0023】
石炭灰の粒子解析を行うにあたり、該石炭灰の試験片について反射電子像を得て、石炭灰と樹脂の反射電子像の目視による輝度の比較や輝度のヒストグラムを参考として、石炭灰と樹脂を分離することができる輝度のしきい値を決定する。そして、該しきい値を用いて、2値化処理し、石炭灰粒子を抽出する。
【0024】
前記にて抽出された石炭灰粒子に対しては、粒子ごとの幾何学的計量値の測定を実施する。幾何学的計量値は、円形度係数や、円相当径(その粒子の面積と等しい円としたときの径)、アスペクト比、などが挙げられる。
【0025】
さらに石炭灰粒子に対して、化学組成を把握するため化学分析が行われる。EDSによって化学組成を取得する条件は、加速電圧を10〜15keV程度に、照射電流を200〜500pA程度、分析時間を1分析点につき5〜10秒に設定するのが好ましい。この範囲であれば、高い精度で迅速に化学組成を取得することができる。分析領域径は、個々の粒子の全体とすることが好ましい。
【0026】
石炭灰中の粒子は、例えば、JIS A 6201フライアッシュ種に適合する石炭灰の場合、A:酸化鉄と非晶質が混在した粒子、B:ムライトと非晶質が混在した粒子、C:石英粒子、D:Caを含まない非晶質粒子、E:Caを含む非晶質粒子、の5種類に分類できる。
これらの粒子への分類分けは、表1に示す化学組成のしきい値を用いて行うことができる。
【0027】
【表1】

【0028】
上記、化学分析と幾何学的計量値の測定の順序は問わない。化学分析と幾何学的計量値の測定の観測粒子数は、解析誤差を軽減するために1000以上に設定するが好ましい。
【0029】
上記、石炭灰粒子の抽出、化学測定分析、幾何学的計量値の測定は、電子顕微鏡に付属する粒子解析ソフトを用いれば、自動的に実施され、簡便である。
【0030】
次いで、粒子解析により判明した、個々の粒子の分類と幾何学的計量値から、粒子種類ごとの粒度分布や石炭灰全体に占める比表面積を求める。粒度分布や平均粒子径は、円相当径をもとに補正して求めることが好ましい。粒子解析より得られる計量値は、必ずしも個々の粒子の中心断面を測定しているとは限らないので、粒度分布は、例えばShwaltz−Saltykov法、Saltykov−Johnson法、Saltykov法もしくは25F法を使用して求めることができる。
Shwaltz−Saltykov
法に基づく場合、例えば、下記式(1)〜(5)により粒度分布を算出することができる。
【0031】
画像上に切断された粒子の直径Diは、Diよりも大きい直径Djの球状粒子が切断されたものが含まれる。そこで、画像上に直径Diの円を生じさせる確率Pijは下記式(1)となる。
【0032】
【数1】

【0033】
画像上の直系Diの円の単位面積あたりの個数Nは、最大粒径がDmaxの球状粉体の粒径範囲0〜Dmaxをk個に等分割すると、単位体積あたりの直径Djの球状粒子の個数Nと下記式(2)との関係にある。
【0034】
【数2】

【0035】
なお、上記式(2)をマトリックス表記すると、下記式(3)となる。
【0036】
【数3】

【0037】
画像上の直系Diの円の単位面積あたりの個数Nは既知量であり、上記式(3)の連立方程式を解くことで、単位体積あたりの直径Djの球状粒子の個数Nを求めることができる。また、上記式(3)の係数マトリックスが上三角行列であることから、Nは後退代入法によって下記式(4)で求めることもできる。したがって、各粒径における粒子の頻度分布を求めれば、粒度分布が得られる。

【0038】
比表面積は、粒度分布より例えば、下記式(5)及び式(6)により算出することができる。
【0039】
【数5】

【0040】
【数6】

【0041】
上記式(5)及び式(6)中、AFAiは「m番目の粒径Lmとm+1番目の粒径Lm+1との間の体積基準比表面積(cm/cm)」を表し、AFAは「石炭灰中の特定の種類の粒子の比表面積(cm/cm)」を表し、xmは「粒径Lmと粒径Lm+1との間の百分率(%)」を表し、aiは「粒径Lmと粒径Lm+1との間の算術平均による粒径(cm)=(Lm+Lm+1)/2」を表す。
【0042】
このように、上記粒子解析方法によれば、従来の方法では推定することのできなかった石炭灰粒子の特徴を粒子の種類ごとに精度よく解析することができる。
【0043】
〔石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果の予測、および石炭灰の置換率の決定〕
特定の骨材や石炭灰などの材料を使用した際の、アルカリシリカ反応による膨張率と安全性の評価は、前述のASTM C 1260やJIS A 1146(モルタルバー法)に規定された方法で評価可能であり、アルカリシリカ反応に対して無害とされる目安は、ASTM C 1260における材令14日の膨張率で0.1%未満とされる。予め、数種の石炭灰を用いて、セメントに対する置換率を変えて使用する骨材ごとに該評価方法で膨張率を測定しておき、置換率ごとに粒子解析により得られた各粒子種類の特性と膨張率の関係を求め、とくに相関が高い種類の粒子特性を参考に評価する。ここで、ASTM C 1260における14日膨張率0.1%未満となる該粒子の特性値を見出し、新規に用いる石炭灰の必要とする置換率を決定することができる。
【0044】
評価に用いる項目は石炭灰中の特定の種類の粒子の比表面積が好ましい。たとえば、JIS A 6201フライアッシュ種の石炭灰においては、ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積を指標として用いることが好ましい。また、特定の種類の粒子の比表面積のみで、アルカリシリカ反応による膨張率との関係が明確でない場合は、2以上の種類の粒子特性値、あるいは1種の粒子の2以上の特性値を用いて重回帰計算によりコンクリートの膨張率との関係を見出してもよい。
【0045】
前記の判定は、いかなるセメント、あるいは骨材を使用した場合においても適用できるが、JISに規定されるセメント種類、あるいは骨材銘柄が異なる場合は、別途相関が高い種類の粒子特性値と膨張率の関係を求めておくことが好ましい。もしくは、安全サイドとしてとくにアルカリシリカ反応性の高いセメント、あるいは骨材を用いて上記関係を求めておけば、JIS A 1145に規定される「骨材のアルカリシリカ反応性試験方法」により「無害でない」と判定されるいかなる骨材を使用してもアルカリシリカ反応が抑制できるセメントに対する置換率が決定できる。
【0046】
上記置換率の決定において、置換率が比較的多く判定されたため強度の低下などの虞があり、置換率を少なくしたい際などには、必要に応じて求める粒子種類の特性値になるよう石炭灰を粉砕及び/又は分級を行ってもよい。
【0047】
セメント組成物のアルカリシリカ反応の抑制に関係のある種類の粒子は、その比表面積が高いほどアルカリシリカ反応が抑制される。また、石炭灰のセメント置換率を高くするほど、セメント組成物中のアルカリシリカ反応の抑制に関係のある種類の粒子が増加することになり、アルカリシリカ反応が抑制される。したがって、アルカリシリカ反応による膨張率との相関が高い種類の粒子特性値と石炭灰のセメント置換率の積の値を元に、石炭灰の置換率を決定することができる。予め、ASTM C 1260における14日膨張率0.1%未満となる該積のしきい値を求めておけば、新規の石炭灰のアルカリシリカ反応による膨張率との相関が高い種類の粒子特性値を求めることで、必要なセメントに対する置換率を決定することができる。
【0048】
このように、上記に記載の石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果の予測、および石炭灰の添加量の決定方法によれば、従来の方法より精度が高く迅速に抑制効果の高い石炭灰を選定することができ、さらにはアルカリシリカ反応抵抗性備えるための最低限のセメント置換率、およびコンクリートへの添加量を算出できる。
【実施例】
【0049】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明は、これら実施例により限定されるものではない。
日本国内の発生源が異なる5銘柄の石炭灰(JIS A 6201フライアッシュ種,試料a〜e)を使用した。これらの石炭灰についてJIS R 5202に準じて測定した密度、ブレーン比表面積、JIS R 6201に準じて測定した活性度指数を、粉末X線回折/リードベルト法により測定した非晶質相の量を、表2に示す。
粉末X線回折用の試料は、石炭灰に内部標準としてα−Alを10質量%混合したものを用いた。測定は、BlukerAXS製D8を用いた。測定条件は、ターゲット:CuKα管、電圧:50kV、管電流:350mA、走査範囲:5〜65°(2θ)、ステップ幅:0.0234°、スキャンスピード:0.13秒/ステップとした。解析ソフトウェアは、TOPAS(BrukerAXS社)を使用し、対象鉱物をα型石英(α−quartz)、ムライト(mullite)、赤鉄鉱(hematite )、磁鉄鉱(magnetite)、生石灰(lime)、石膏(gypsum)およびα−Al(内部標準)として定量した。ガラス量は内部標準であるα−Alの定量値から以下の式(7)を用いて算出した。
【0050】
【数7】

【0051】
上記式(7)中、Gは「ガラス量(質量%)」を表し、Rは「Al混合率(質量%)」を表し、Cは「Al定量値(質量%)」を表す。
【0052】
【表2】

【0053】
表3には、蛍光X線分析(検量線法)により求めた石炭灰の化学分析の結果を示す。表4には、蛍光X線分析で求めた石炭灰の全化学組成から、粉末X線回折/リートベルト法により得られた構成から、その結晶質の鉱物に含まれる化学成分を差し引くことで算出した非晶質相の化学組成を示す。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
SEM測定用の試験片は、石炭灰と低粘性エポキシ樹脂を体積比で1:1の割合で練り混ぜ、1インチの円筒形リングに注ぎ入れ、成型した。樹脂の硬化後、5×5×2mm程度に試料をカットし、クロスセクションポリッシャー(日本電子製SM−09020)を用い、加速電圧6KeVにて10時間、研磨を実施した。その後、試験片に導通を付与するためカーボンを5nm程度の厚さで蒸着した。
【0057】
得られた試験片を用いて、粒子の分類を行った。いずれも、BSE検出器、EBSD検出器、EDSが付属したSEM(FE−SEM:日本電子製JSM−7001F,BSE:日本電子製SM−54060RBEI,EBSD:OXFORD Instruments HKL Channel 5,EDS:Oxford instruments、INCA energy)を用いた。石炭灰粒子のBSE像観察およびEBSDによる結晶相の同定を実施し、結晶相と非晶質相の判別を試みた。SEMの使用加速電圧はBSE観察時が15KeV、EBSD観察時は3KeVとし、観察倍率は石炭灰粒子のサイズに応じて適宜調整した。加えて、化学組成を把握するためEDSにより石炭灰粒子の化学分析を実施した。測定条件は、加速電圧を15KeV、照射電流を300pA、ワーキングディスタンスを10mm、分析時間を1分析点につき100秒とした。
【0058】
5銘柄すべての石炭灰について、BSE像上で粒子として認識できるものを、EBSDおよびEDXにより粒子の鉱物を観察した結果、石炭灰中の粒子は、A:酸化鉄と非晶質が混在した粒子、B:ムライトと非晶質が混在した粒子(図1)、C:石英粒子、D:Caを含まない非晶質粒子、E:Caを含む非晶質粒子、の5種類に分類できた。A:酸化鉄と非晶質が混在した粒子は、EBSDパターンからそれぞれ、赤鉄鉱もしくは磁鉄鉱が非晶質相に点在するものであることが確認できた。B:ムライトと非晶質が混在した粒子は、ムライトの針状結晶が非晶質相に点在するものであることが確認できた。C:石英粒子は、角張っており、全体がα型石英であることが確認できた。D:Caを含まない非晶質粒子、およびE:Caを含む非晶質粒子は、全体でEBSDパターンは得られず、非晶質であるが、BSE像上で輝度が異なっており、EDS分析によりCa濃度の大きな相違が確認された。
【0059】
上記の観察結果をもとに、表1に示す新規の石炭灰粒子分類のために化学組成のしきい値を設定した。
【0060】
次いで、BSE像の輝度のヒストグラムを参照して、樹脂と石炭灰が分離することができるしきい値を決定した。このしきい値を用いて、粒子解析ソフト(Oxford instruments,INCA energy)による、各銘柄の石炭灰粒子の2値化処理による1000粒子の抽出と分類分けを自動的に実施し、表5に示す粒子種類ごとの存在比を得た。なお、BSE、およびEDXの測定条件は、EDXの分析時間を1分析点につき10秒としたことを除き、前述の石炭灰粒子の分類を実施したときと同じである。
【0061】
【表5】

【0062】
さらに粒子解析ソフトにより個々の粒子の種類ごとに自動的に幾何学的計量値が収集され、各銘柄における粒子種類ごとの円相当径(μm)が得られた。円相当径を元に、前述の式(1)〜(5)により粒度分布、および平均粒径(μm)を求めた。この際、最大粒径は60μm、粒径範囲は20分割とし、粒子数が負の値となった場合は個数0とみなした。
上記により得られた粒度分布の一例として、B:ムライトと非晶質が混在した粒子の粒度分布を図2に示す。
【0063】
石炭灰中の特定の種類の粒子の比表面積(cm/cm)は、得られた粒度分布から式(6)及び式(7)によりを算出した。この際、最大粒径は60μm、粒径範囲は20分割とした。
上記により得られた、解析に有意な量の粒子が存在する各銘柄、各粒子種類ごとの特性を表6に示す。
【0064】
【表6】

【0065】
アルカリシリカ反応による膨張率は、普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)に対して各銘柄の石炭灰を5、10、および20質量%置換し、ASTM C 1260に規定された方法で測定した。細骨材は、アルカリシリカ反応性が高い北海道産両輝石安山岩の砕石(反応性物質:火山ガラス,クリストバライト,トリディマイト、JIS A 5308化学法結果:Sc=532>Rc=115,無害でない、JIS A 1146モルタルバー法結果:3ヶ月で0.5%,無害でない)を用いた。打ち込み後24時間まで封緘養生し、脱型、その後、24時間まで80℃水中養生をし、養生後の長さを基長とした。その後、1mol/l
NaOH溶液(80℃)に14日間、浸漬したときの供試体の膨張率を測定し、表7に示す14日膨張率(%)を得た。
【0066】
【表7】

【0067】
得られた各銘柄の石炭灰の特性、および各銘柄の粒子種類ごとの特性と得られた14日膨張率を比較した。ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積と14日膨張率の比較を図3に示す(実施例1)。
石炭灰の置換率が5質量%、および10質量%のいずれにおいても高い相関を有し、置換率10%ではムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積が、570000(cm/cm)をしきい値として安全性の目安となる14日膨張率0.1%を下回ることがわかる。したがって、新規に使用する石炭灰のムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積が570000(cm/cm)以上であれば、セメントに対する置換率が10%でアルカリシリカ反応が抑制できると判断でできる。このような石炭灰を選択、あるいは該比表面積になるように粉砕して使用すれば、JIS A 5308付属書Bに定められたアルカリシリカ反応抑制のための分量15%よりも低い分量に設定でき、セメント組成物の強度の低下と品質変動が小さくなる。
【0068】
次に、Caを含まない非晶質相の比表面積(比較例1)、石炭灰全体の化学組成として塩基度(比較例2)、石炭灰全体のブレーン比表面積(比較例3)、非晶質相に含まれるSiO量と石炭灰全体の粒度分布から求めた比表面積の積(比較例4)、石炭灰の活性度指数(比較例5)、と14日膨張率の関係を図4〜8に示す。なお、非晶質相に含まれるSiO量は、粉末X線回折/リートベルト法により得られた鉱物構成よりその成分を差し引くことで算出した。石炭灰全体の粒度分布から求めた比表面積は、レーザー回折・散乱法(日機装製 HRA 9320−X100)による粒度分布から式(5)及び式(6)により算出した。この際、最大粒径は60μm、粒径範囲は20分割とした。
これらは、石炭灰の置換率が5%、および10%のいずれにおいても、ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積に比べて14日膨張率との相関が低く、アルカリシリカ反応の抑制効果の判定に用いる方法としては精度が低いことがわかる。
【0069】
次にアルカリシリカ反応の抑制効果について、精度よく判定ができるムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積を用いて、新規の石炭灰のアルカリシリカ反応を抑制するための必要な置換率を求めた。ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積と石炭灰のセメント置換率の積と、14日膨張率の関係を図9に示す。石炭灰の置換率に関わらず高い相関を有し、積の値が57000(cm/cm)をしきい値として安全性の目安となる14日膨張率0.1%を下回っていることがわかる。したがって、セメントに対する置換率を5質量%としたい場合は、逆算してムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積が(57000/0.05=)1140000(cm/cm)以上の石炭灰を選定する、あるいはその比表面積になるよう粉砕及び/又は分級して石炭灰を使用することでアルカリシリカ反応が抑制できる。また、ムライトと非晶質が混在した粒子の比表面積が400000(cm/cm)の石炭灰を新規に使用したい場合には、逆算してセメントに対する置換率を(57000/400000≒)14.3質量%とすればアルカリシリカ反応が抑制できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭灰を電子顕微鏡により粒子解析することを特徴とする石炭灰の評価方法。
【請求項2】
上記粒子解析が、ムライトを含有する非晶質相粒子の比表面積を算出することを特徴とする請求項1に記載の石炭灰の評価方法。
【請求項3】
石炭灰を含有するセメント組成物の製造において、請求項1又は2に記載の石炭灰の評価方法によって、石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測結果に基づき石炭灰のセメント置換率を決めることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
石炭灰を含有するセメント組成物の製造において、請求項2に記載のムライトを含有する非晶質相粒子の比表面積と、石炭灰のセメント置換率を乗じた積から石炭灰のセメント置換率を算出することを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
石炭灰を含有するコンクリートの製造において、請求項1又は2に記載の石炭灰の評価方法によって、石炭灰のアルカリシリカ反応の抑制効果を予測し、その予測結果に基づき石炭灰の添加量を決めることを特徴とするコンクリートの製造方法。
【請求項6】
石炭灰を含有するコンクリートの製造において、請求項2に記載のムライトを含有する非晶質相粒子の比表面積と、石炭灰のセメント置換率を乗じた積から石炭灰の添加量を算出することを特徴とするコンクリートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−242171(P2012−242171A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110556(P2011−110556)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】