説明

砂ろ過装置とそれに用いるろ過砂の製造方法

【課題】特別な設備を必要とすることなく、安価にかつ効果的にろ過によるCOD除去処理を行う。
【解決手段】移床式上向流砂ろ過装置2において、金属類を担持させたろ過砂を用いる。原水は原水分散装置9から上向きに流れ、ろ過層6を通過するうちにろ過され、処理水となり、ろ過砂はろ過層6を徐々に上から下に流れる。ろ過砂が原水分離装置9よりも下に存在する間に、ろ過砂に吸着されたCOD成分が、速度は遅いながらも生物分解を受け、かつ逆洗排水を混入することによって難分解性のCODを分解可能な微生物群が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水等の被処理水中のCODを低減させることのできる砂ろ過装置とそれに用いるろ過砂の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の整備にしたがって、公共用水域の水質汚濁は改善されてきている。しかし、閉鎖性水域(東京湾や伊勢湾、瀬戸内海、あるいは琵琶湖などの湖沼)でのCOD濃度は一向に低下していない。これは、窒素、リンなどの栄養塩類の除去が必要なこともあるが、処理水中に通常の水処理では分解できないCODが残留することも大きな一因である。なお、COD(化学的酸素要求量)という用語は水質汚濁の指標であるが、以下の説明において、処理水中に含まれる有機物などの物質の意味で用いることもある。
【0003】
従来、CODを除去する技術としては、凝集沈殿による方法、オゾン処理による方法、生物活性炭による方法などが知られている。また、ろ過を行う担体に生物膜を付着させてCODなどの除去を行う生物膜ろ過の技術もある(特許文献1,2)。更に、オゾン処理と生物膜ろ過とを組み合わせた技術も提案されている(特許文献3,非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−237219号公報
【特許文献2】特開平11−128968号公報
【特許文献3】特開平9−29285号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】曽根啓一ほか、「オゾンと分離膜を組み合わせた下水再生水製造システム」、衛生工学シンポジウム論文集、2001年11月1日、P.220−224
【0006】
しかしながら、凝集沈殿による方法では、薬剤費が高価であり、また、オゾン処理、生物活性炭による方法では、設備費及びランニングコストが高価であり、これが導入する際のネックになっている。また、生物膜ろ過による方法では、生物膜の蓄積による性能低下の防止に留意する必要があるなど、維持管理が複雑であり、またその効果が低いという問題点がある。
このようなことから安価でCOD除去が行えるシステムの構築が望まれているところである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、特別な設備を必要とすることなく、安価にかつ効果的にろ過によるCOD除去処理を実現することのできる砂ろ過装置を提供し、併せてその砂ろ過装置に用いるろ過砂の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、第1発明による砂ろ過装置は、
ろ過槽内に充填したろ過砂に原水を通過させてろ過処理を行う砂ろ過装置において、
前記ろ過砂として、金属類を担持させたろ過砂を用いることにより、溶解性CODを除去するようにしたことを特徴とするものである。
【0009】
ここで、前記砂ろ過装置は、ろ過槽の下部から供給された原水が上向流となってろ過砂を通過して処理水となる移床式上向流砂ろ過装置であるのが好ましい(第2発明)。
【0010】
第2発明において、前記砂ろ過装置から排出される逆洗排水が原水に混入されるのが好ましい(第3発明)。
【0011】
また、第4発明によるろ過砂の製造方法は、
前記第1発明〜第3発明のいずれかの砂ろ過装置に用いるろ過砂の製造方法であって、
金属硝酸塩を硝酸溶液に溶解させ、pHを調整する工程と、溶液中に未処理のろ過砂を投入した後、NaOHを添加してpHを再調整する工程と、溶液を撹拌し、その後に遠心分離する工程と、遠心分離により得られた固体分を純水で洗浄し、その後に乾燥させる工程を経ることにより、金属類を担持させたろ過砂を得ることを特徴とするものである。
【0012】
前記第4発明において、前記純水による洗浄は、上澄み液の電気伝導度が1000μS/cm以下になるまで行われるのが好ましい(第5発明)。
【0013】
ここで、前記金属硝酸塩は、硝酸鉄又は硝酸アルミニウムであるのが良い(第6発明)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ろ過砂が金属類を担持しているので、ろ過砂の表面を正電荷に帯電させることができる。一方、水中に溶存している有機物のうち、特に下水処理水に含有されるフミン質などの有機物は負電荷に帯電していることが多いため、正電荷に帯電されたろ過砂のCOD吸着能力が飛躍的に大きくなり、CODの吸着除去効果が維持できるようになる。したがって、これまで不可能であった溶解性のCOD除去をろ過と同時に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るろ過砂の製造方法を示すフロー図
【図2】本発明の他の実施形態に係るろ過砂の製造方法を示すフロー図
【図3】実施例1及び比較例1の吸着テストを行った系の模式図
【図4】実施例1及び比較例1の吸着テスト結果を示すグラフ
【図5】実施例2及び比較例2の移床式上向流砂ろ過装置の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明による砂ろ過装置とそれに用いるろ過砂の製造方法の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
本発明は、ろ過砂の表面に金属を担持させてその表面を正電荷に帯電させることにより、負電荷に帯電したCODを吸着する能力が飛躍的に向上するという知見に基づくものである。なお、ろ過砂によるCODの吸着は、処理を継続するうちに破過に至るが、吸着固定されている間に徐々に生物分解を受け、継続的な除去が可能である。
【0018】
ろ過砂に担持させる金属としては、陽イオンとなるものであれば特に限定されないが、アルカリ土類金属をはじめとする典型金属や、遷移金属が好ましい。中でも、鉄やマンガン、アルミニウムが好ましい。
【0019】
図1、図2には、金属担持砂(ろ過砂)の製造方法を表すフロー図が例示されている。図1は、鉄を担持させる場合、図2は、アルミニウムを担持させる場合の例である。
【0020】
<ろ過砂の表面に鉄を担持させる方法について(図1)>
S1:硝酸鉄の水和物(Fe(NO・9HO)25.25gを秤量する。
S2:秤量した上記硝酸鉄の水和物を0.1規定(N)の硝酸(HNO)に溶解し、MQ水(超純水)で10Lにメスアップする。なお、この溶液は、無色でpH=1.0である。
S3:溶液中に市販のろ過砂を投入する。
S4:1規定(N)の硝酸(HNO)でpH=2.5に再調整し、1時間放置した砂の入った液に5規定(N)の水酸化ナトリウム(NaOH)をpH=3.0になるまで添加する。なお、この溶液は、色がイエローブラウンに変化する。
S5:溶液を撹拌しながら、1規定(N)の水酸化ナトリウム(NaOH)でpH=8.0になるまで滴下する。
S6:3時間撹拌を続け、1規定(N)の水酸化ナトリウム(NaOH)でpH=8.0に再調整する。このとき、溶液の色はブラウンになる。
S7:24時間暗所で撹拌し、7000gで15分遠心分離する。
S8〜S9:遠心分離により得られた固体分をMQ水で洗浄する。この洗浄を、溶液の上澄み液の電気伝導度が1000μS/cm(マイクロジーメンス)以下になるまで行う。
S10:上澄み液が所定の電気伝導度になると、乾燥させ、暗所で保存する。
【0021】
<ろ過砂の表面にアルミニウムを担持させる方法について(図2)>
T1:硝酸アルミニウムの水和物(Al(NO・9HO)7.50gを秤量する。
T2:秤量した上記硝酸アルミニウムの水和物を0.1規定(N)の硝酸(HNO)に溶解し、MQ水(超純水)で10Lにメスアップする。
T3:溶液中に、ケイ酸ナトリウム(NaSiO・9HO)5.684gを添加する。なお、この溶液はpH=3.0である。
T4:溶液中に市販のろ過砂を投入する。
T5:1規定(N)の硝酸(HNO)でpH=2.5に再調整し、1時間放置した砂の入った液に1規定(N)の水酸化ナトリウム(NaOH)をpH=7.0になるまで滴下する。なお、この溶液は、pH=4.5で濁度が初めて確認され、pH=7.0で相当白濁する。
T6:24時間撹拌を続けると、pH=6.5に落ち着くので、1規定(N)の水酸化ナトリウム(NaOH)でpH=7.0に再調整する。
T7:1ヶ月撹拌(10分/24時間)を続け、7000gで15分遠心分離する。
T8〜T9:遠心分離により得られた固体分をMQ水で洗浄する。この洗浄を、溶液の上澄み液の電気伝導度が1000μS/cm(マイクロジーメンス)以下になるまで行う。
T10:上澄み液が所定の電気伝導度になると、乾燥させ、暗所で保存する。
【0022】
なお、上述のステップS10,T10において、乾燥、暗所保存するのは、保管中の変質を防止することを目的としたものである。乾燥方法としては、熱風による乾燥は調質した砂が変質するため不適であり、凍結乾燥や室温での通気乾燥が好ましい。また、長期保管する場合は、乾燥状態を保持(例えば少量であればデシケータ内で、大量であれば乾燥室内で保管)することが好ましい。
【0023】
<実施例1、比較例1>
次に、図1に示されるようにして鉄を担持させたろ過砂の効果を確認するために、市販のフミン酸ナトリウムを溶解させた水を原水とし、図3に示されるようにカラム1にろ過砂を充填した状態で原水に接触させることによる吸着テストを実施した。このとき用いた砂は、有効径1.0mm、均等係数1.4以下のろ過砂である。実施例1としては、上記ろ過砂に鉄を担持させたものを使用し、比較例1としては、市販のろ過砂をそのまま使用した。そして、原水を連続的にカラム1に流入させ、原水及び処理水のCOD濃度を測定することにより評価を行った。なお、ろ層の逆洗浄は実施しなかった。
【0024】
上記吸着テストの結果が図4に示されている。図4から明らかなように、比較例1では、原水濃度と処理水濃度との比率がほぼ1であり、COD濃度に変化が見られないのに対し、実施例1ではCOD吸着能力が格段に改善されていることがわかる。この結果、ろ過砂に鉄などの金属類を担持させることによって、ろ過砂のCOD吸着能力を大幅に高めることができることが明らかとなった。したがって、このようなろ過砂を用いた砂ろ過装置は、ろ過層によるろ過と併せて、溶解性のCOD成分の除去が可能になることが明らかである。
【0025】
<実施例2、比較例2>
実施例2として、図5に示されるような移床式上向流砂ろ過装置2のろ過層6に上述の鉄を担持させたろ過砂を充填し、下水二次処理水を対象として連続運転を実施した。その際、砂ろ過装置2の逆洗排水を原水の10%混入させて原水流入管7から供給した。この結果、溶解性COD除去率は約40%であることが確認された。一方、比較例2としては、上記移床式上向流砂ろ過装置2に市販のろ過砂を充填し、下水二次処理水を対象として連続運転を実施した。この結果、溶解性CODは除去できなかった。
【0026】
ここで、この移床式上向流砂ろ過装置2は、筒状部3の下部が逆コーン状の底部4とされた容器5内にろ過砂が充填されてろ過層(砂層)6が形成されるよう構成されている。原水は原水流入管7からガイドパイプ8および原水分散装置9を介してろ過層6の下部に供給される。原水分散装置9は、複数本(4〜8本)の下面が開放されたパイプである。こうして、原水は原水分散装置9の下部より流出し、ろ過層6を上部へと流れる間にろ過層6によりろ過され、ろ過後の処理水は上部からオーバーフローされて集水トラフ10に流れ、次のプロセスへと送られる。一方、容器5下部にはエアリフト管11が挿入されており、このエアリフト管11に空気を吹き込むことにより、内部の空気+砂+原水の比重と、周囲の砂+水の比重差による循環力の発生により、汚れた砂と原水がエアリフト管11内部を上昇する。この上昇中に、砂は空気と水とにより撹拌洗浄される。上昇した空気と砂と水は分離器12で分離され、砂はサンドウォッシャー13でろ過水と対向流で洗浄され、再びろ過層6へ戻される。水は、洗浄排水となりオリフィスプレート(孔のあいた板)14の孔を通り洗浄排水管15に流れる。
【0027】
この移床式上向流砂ろ過装置2において、原水は原水分散装置9から上向きに流れ、ろ過層6を通過するうちにろ過され、処理水となる。一方、ろ過砂はろ過層6を徐々に上から下に流れ、原水分離装置9より下方部分はろ過に寄与していない時間となる。実施例2で、実施例1よりもCOD除去効果が大きく向上したのは、ろ過砂が原水分離装置9よりも下に存在する間に、ろ過砂に吸着されたCOD成分が、速度は遅いながらも生物分解を受け、かつ逆洗排水を混入することによって難分解性のCODを分解可能な微生物群が形成されたためと考えられる。したがって、移床式上向流砂ろ過装置は、CODを除去するろ過に適した装置であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明では、安価にかつ効果的に溶解性のCOD除去をろ過と同時に行うことができるため、産業上の利用効果が大である。
【符号の説明】
【0029】
1 カラム
2 移床式上向流砂ろ過装置
6 ろ過層(砂層)
7 原水流入管
9 原水分散装置
10 集水トラフ
11 エアリフト管
12 分離器
13 サンドウォッシャー
15 洗浄排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過槽内に充填したろ過砂に原水を通過させてろ過処理を行う砂ろ過装置において、
前記ろ過砂として、金属類を担持させたろ過砂を用いることにより、溶解性CODを除去するようにしたことを特徴とする砂ろ過装置。
【請求項2】
前記砂ろ過装置は、ろ過槽の下部から供給された原水が上向流となってろ過砂を通過して処理水となる移床式上向流砂ろ過装置である請求項1に記載の砂ろ過装置。
【請求項3】
前記砂ろ過装置から排出される逆洗排水が原水に混入される請求項2に記載の砂ろ過装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の砂ろ過装置に用いるろ過砂の製造方法であって、
金属硝酸塩を硝酸溶液に溶解させ、pHを調整する工程と、溶液中に未処理のろ過砂を投入した後、NaOHを添加してpHを再調整する工程と、溶液を撹拌し、その後に遠心分離する工程と、遠心分離により得られた固体分を純水で洗浄し、その後に乾燥させる工程を経ることにより、金属類を担持させたろ過砂を得ることを特徴とするろ過砂の製造方法。
【請求項5】
前記純水による洗浄は、上澄み液の電気伝導度が1000μS/cm以下になるまで行われる請求項4に記載のろ過砂の製造方法。
【請求項6】
前記金属硝酸塩は、硝酸鉄又は硝酸アルミニウムである請求項4又は5に記載のろ過砂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−27821(P2013−27821A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165446(P2011−165446)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】