説明

研削チップ体の製造方法及び塗膜剥離具用回転砥石

【課題】 切れ味のよいダイヤモンド焼結チップを回転砥石の研削刃として使用するものでありながら、回転砥石の金属製ホイールに対して高い結合力で接合することのできる研削チップ体、並びに該研削チップを効率的に製造することが可能な製造方法を提供する
【解決手段】 焼結用金型1の所定位置に予め製作したダイヤモンド焼結チップ2を配置した状態で、メタルボンドとダイヤモンド砥粒を混合したメタルボンドダイヤモンド砥石材料3’を金型内に充填し、ダイヤモンド安定領域の高温、高圧下で焼結処理することにより、メタルボンドダイヤモンド砥石3の表面にダイヤモンド焼結チップ2の刃先部分が突き出た状態でダイヤモンド焼結チップ2とメタルボンドダイヤモンド砥3とを一体焼結することにより研削チップ体を製造するようにした構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床や壁の表面に付着した塗料や接着剤等による旧塗膜を削り取るための塗膜剥離具に装着される回転砥石、並びに、この回転砥石に取り付けられる研削チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の改修工事等において、床面や壁面に付着している旧塗膜を除去するための塗膜剥離具として、例えば特許文献1や特許文献2に示すように、焼結ダイヤモンドチップを研削刃とした回転砥石を取り付けたものが知られている。
【0003】
これら特許文献に示された回転砥石では、金属製ホイールの下面に、複数のダイヤモンド焼結チップが円軌跡上に一定の間隔をあけて配置され、多くの場合ロウ付けにより結合されている。
【特許文献1】特開2003−025133号公報
【特許文献2】特開平07−185923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイヤモンド焼結チップ(以下「PCDチップ」という。)を研削刃とする回転砥石では、チップ自体の切れ味には優れたものがあるが、PCDチップのダイヤモンドと、取付基板となる金属製ホイールとが異種材料であるため、ロウ付け時の相性がわるくて両者の強固な結合力が得られない、といった問題点がある。このため、PCDチップを研削刃とする従来の回転砥石では、塗膜研削中にコンクリートの表層部に接触したりすると、その衝撃によってPCDチップがホイールから剥離して短時間で研削できなくなる等の弊害があった。また、ダイヤモンドと金属製ホイールの材料である鉄とは原子間の結合が異種であるため、PCDチップとホイールとを溶接により接合することは不可能であった。
【0005】
また、回転砥石の研削刃として、PCDチップに替えて、ダイヤモンド砥粒を金属粉末等のボンド材と混合して焼結したメタルボンドダイヤモンド砥石を用いたものがある。この砥石の場合は、ボンド材として銅やニッケル、コバルト等の金属粉末を多く混合したものであるから、これら金属材と鉄製のホイールとがロウ付け時の相性がよく、両者を強固に結合することができ、そのためコンクリートとの接触等による衝撃によって砥石が容易に剥離することをおさえることができる、といった利点があるが、その反面、研削時に弾性塗膜や接着剤が砥石表面に付着して焼き付き、ダイヤモンド砥粒が覆われて切れ味が持続しない、といった欠点がある。
【0006】
そこで本発明の主たる目的は、切れ味のよいPCDチップを回転砥石の研削刃として使用するものでありながら、回転砥石の金属製ホイールに対して高い結合力で接合することのできる研削チップ体を効率的に製造することが可能な製造方法を提供することにある。
【0007】
更に加えて本発明の次なる目的は、上記研削チップを取り付けて塗膜を切れ味よく且つ効果的に削り取ることのできる塗膜剥離具用回転砥石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する為に本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明に係る研削チップ体の製造方法にあっては、焼結用金型の所定位置に予め製作したダイヤモンド焼結チップ(PCDチップ)を配置した状態で、メタルボンドとダイヤモンド砥粒を混合したメタルボンドダイヤモンド砥石材料を金型内に充填し、メタルボンドダイヤモンド砥石の表面にダイヤモンド焼結チップの刃先部分が突き出た状態でダイヤモンド焼結チップとメタルボンドダイヤモンド砥石とを所定の高温、高圧下で焼結処理することにより研削チップ体を製造するようにした。なお、焼結用金型としては、カーボン型を使用するのが好ましい。
【0009】
上記メタルボンドダイヤモンド砥石材料におけるメタルボンドは、コバルト、銅、ニッケル、錫の混合材料で構成するのがよい。また、ダイヤモンド砥粒の集中度は20〜25、即ち、0.88ct/cm3〜1.1ct/cm3とするのが好ましい。この集中度は、砥粒率が容積%で25%(4.4ct/cm3)を集中度100と定義された指標であり、ダイヤモンド砥石の業界で広く用いられているものである。また、金型での焼結温度は800〜1000℃、より好ましくは850〜900℃とするのが良い。また、焼結圧力は、8.0×106〜10.0×107Paとするのが好ましく、より好ましくは5.0×107Pa以下とするのがよい。
【0010】
また、本発明は、メタルボンドとダイヤモンド砥粒を混合したメタルボンドダイヤモンド砥石に、ダイヤモンド焼結チップがその刃先部分を砥石上面から突出させた状態で焼結手段により一体的に埋め込まれて形成されている回転砥石用研削チップ体として実現できる。
【0011】
上記研削チップ体において、ダイヤモンド焼結チップは巾3〜5mm、長さ5〜10mm、厚み約1.5mmの直方体のものであって、メタルボンドダイヤモンド砥石の上面から約10〜12度の仰角で露出し、その先端刃先の突出量Hが約1mmとなるように形成するのが好ましい。また母体となるメタルボンドダイヤモンド砥石のサイズは、回転砥石の大きさによって異なるが、例えば巾5〜8mm、長さ8〜15mm、厚み3〜5mmの直方体の形態が好ましい。
【0012】
更に本発明は、上記本発明の製造方法によって製造された研削チップ体が研削面に取付けられていることを特徴とする塗膜剥離用回転砥石を提供する。また、本発明は、上記本発明の製造方法によって製造された複数の第1の研削チップ体と、塗膜剥離具の回転軸への取付部を中心に備えた円盤状の金属製ホイールとを備え、該金属製ホイールの下面に、前記複数の研削チップ体が取付部を中心とする同心円上で所定の間隔をあけて配設され、且つ、各研削チップ体は、ダイヤモンド焼結チップの刃先をホイール回転方向に向けた状態で金属製ホイールに固着されている塗膜剥離具用回転砥石を提供する。この場合、大小二重の同心円上で研削チップ体を二重配列で取り付けるようにしてもよい。
【0013】
また、上記本発明の研削チップ体は、上記本発明の製造方法によって製造された複数の第2の研削チップ体をさらに備え、該複数の第2の研削チップ体が、金属製ホイールの外周面に所定の間隔をあけて配設され、且つ、各第2の研削チップ体が、ダイヤモンド焼結チップの刃先をホイール回転方向に向けた状態で金属製ホイールに固着されているものとすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、焼結用金型内に別個に製作したPCDチップを配置した状態でメタルボンドダイヤモンド砥石材料を金型内に充填して、メタルボンドダイヤモンド砥石材料を焼結することにより研削チップ体を製造するものであるから、PCDチップを母体となるメタルダイヤモンド砥石に埋め込んで両者を不可分的に一体化した研削チップ体を簡単な手段で製作することができる。特に、焼結処理によってPCDチップとメタルダイヤモンド砥石との間に非常に強い結合が形成されることが期待でき、これによりPCDチップが剥離することが大きく低減される。
【0015】
また、上記手段によって製作された研削チップ体は、母体となるメタルボンドダイヤモンド砥石に多くの金属粉末が混合されているので、この研削チップ体を回転砥石の金属製ホイールにロウ付けする場合、メタルボンドダイヤモンド砥石の大部分を構成する金属粉末と、取付基板となる金属製ホイールとが共に金属材料であるために相性がよくて高い結合力でロウ付けすることができ、これにより研削時の衝撃によって研削チップ体がホイールから容易に剥離することはない。また金属製ホイールに対して研削チップ体を溶接により接合ことも可能となる。
【0016】
また、この研削チップ体を円盤状の金属ホイールの下面に接合した塗膜剥離用回転砥石では、刃先部のみ突出したPCDチップによる優れた切れ味と、メタルダイヤモンド砥石による研削作用とが複合的に働いて、塗膜を効率よく研削することができ、研削中に弾性塗膜や接着剤が研削チップ体表面に付着して焼き付くようなことを未然に防止することができる、といった効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明にかかる製造方法によって得られた研削チップ体の斜視図であり、図2は本発明の製造方法を工程順に示した断面図である。
【0018】
本発明に係る研削チップ体を製造するにあたって、図2の(イ)並びに(ロ)に示すように、カーボン型1のキャビティ1a内の底面に形成された傾斜した窪み1bに、別途製作したダイヤモンド焼結チップ2を配置する。このダイヤモンド焼結チップ2はダイヤモンド粉末をコバルトなどのバインダーを用いて超高圧高温下(約5万気圧、千数百度)で焼き固められたものであって、従来公知のものである。
【0019】
次いで、図2の(ハ)に示すように、メタルボンドとダイヤモンド砥粒を混合したメタルボンドダイヤモンド砥石材料3’を金型キャビティ内に充填する。このメタルボンドダイヤモンド砥石材料におけるメタルボンドは、コバルト約40%、銅約20%、ニッケル約30%、錫約10%の重量比で構成されており、ダイヤモンド砥粒の配合比率が集中度で20〜25である。
【0020】
メタルダイヤモンド砥石材料をカーボン型キャビティに充填した後、図2の(ニ)に示すように、プレス型4をキャビティ内に押し込んだ状態で、ダイヤモンド安定領域下の高温、高圧下で焼結処理する。この焼結条件は、例えば、焼結温度870℃、焼結圧力約1.0×107〜5.0×107Paとすることができる。これにより図1に示すように、メタルボンドダイヤモンド砥石3の表面にPCDチップ2の刃先部分が突き出た状態でPCDチップ2とメタルボンドダイヤモンド砥石3とが一体焼結された研削チップ体Aを得ることができる。
【0021】
本実施例において前記研削チップ体AにおけるPCDチップ2は、巾3〜5mm、長さ5〜10mm、厚み約1.5mmの直方体のものが使用され、図1のように、メタルボンドダイヤモンド砥石3に殆どの部分が埋め込まれてその一部がメタルダイヤモンド砥石3の上面から約10〜12度の仰角で露出し、その先端刃先の突出量Hが約1mmとなるように形成されている。また、メタルボンドダイヤモンド砥石のサイズは、巾5〜8mm、長さ8〜15mm、厚み3〜5mmの直方体の形態とした。
【0022】
図3並びに図4は上記研削チップ体A(第1の研削チップ体)を取り付けた塗膜剥離具用回転砥石であって、この回転砥石Bは塗膜剥離具の回転軸へ取り付けるための取付部5を中心に備えた円盤状の鉄材からなる金属製ホイール6を含む。研削チップ体Aは金属製ホイール6の下面に、取付部5を中心とする同心円上で一定の間隔をあけて、且つ、PCDチップ2の刃先をホイール回転方向に向けた状態で、ロウ付け手段により複数個、例えば6個固着されている。本実施例では、金属ホイール6の下面にリング状の凸部7が設けられ、この凸部7に設けた溝8に研削チップ体Aが嵌め込まれており、これにより研削チップ体Aの金属ホイール6に対する結合をより強固にしている。しかしながらこのリング状の凸部7や溝8を設けずに、研削チップ体Aを金属ホイール6の平らな下面に直接ロウ付けすることも可能である。
【0023】
更に図3並びに図4で示した実施例では、金属製ホイール6の外周面にも一定の間隔をあけて且つPCDチップ2の刃先をホイール回転方向に向けた状態で3個の研削チップ体A(第2の研削チップ体)がロウ付け手段に固着されている。この場合も、ホイール6の外周面に設けた溝9に研削チップ体Aが嵌め込まれるようにして固着されており、これにより研削チップ体Aの金属ホイール6に対する結合をより強固なものにしている。
【0024】
また研削チップ体Aは、図5に示すように取付部5を中心とする大小二重の同心円上で上記実施例と同様な手段により研削チップ体Aを金属製ホイール6の下面に取り付けるようにしてもよい。なお、金属ホイール6の下面(研削面)の外周縁近傍に取付けた研削チップAは、図5に示すように、そのメタルボンドダイヤモンド砥石の研削回転方向先端側の径方向外端が、ホイール6の外周縁よりも若干径方向外方に突出するように取付けられているとともに、PCDチップ2はホイール6の外周縁よりも径方向内方に位置するように取付けられている。かかる構成により、メタルボンドダイヤモンド砥石がホイール側面部における研削作用を生じさせ、ホイール自体の外周部の摩耗を大幅に低減できるという利点がある。かかる構成は、本発明のすべての実施例において採用し得る。
【0025】
以上本発明の代表的と思われる実施例について説明したが、本発明は必ずしもこれらの実施例構造のみに限定されるものではない。例えば、研削チップ体Aのサイズや回転砥石Bに固着される研削チップ体Aの数は、回転砥石Bのサイズによって変更されるものであって実施例で示した数値に特定されない。その他本発明ではその構成要件を備え、かつ本発明の目的を達成し、本発明の効果を奏する範囲内において適宜改変して実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の製造方法によって得られた研削チップ体の斜視図。
【図2】本発明の製造方法を工程順に示す断面図。
【図3】本発明に係る塗膜剥離具用回転砥石の裏面側からみた斜視図。
【図4】上記塗膜剥離具用回転砥石の斜視図。
【図5】本発明に係る塗膜剥離用回転砥石の別の実施例を示す裏面図。
【符号の説明】
【0027】
1 焼結用金型
2 ダイヤモンド焼結チップ
3 メタルダイヤモンド砥石
5 取付部
6 金属製ホイール
A 研削チップ体
B 回転砥石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結用金型の所定位置に予め製作したダイヤモンド焼結チップを配置した状態で、メタルボンドとダイヤモンド砥粒を混合したメタルボンドダイヤモンド砥石材料を金型内に充填し、メタルボンドダイヤモンド砥石の表面にダイヤモンド焼結チップの刃先部分が突き出た状態でダイヤモンド焼結チップとメタルボンドダイヤモンド砥石とを所定の高温、高圧下で焼結処理することを特徴とする研削チップ体の製造方法。
【請求項2】
前記メタルボンドダイヤモンド砥石材料におけるメタルボンドが、コバルト、銅、ニッケル、錫の混合材料で構成されており、ダイヤモンド砥粒の集中度が20〜25であり、金型での焼結温度が800〜1000℃であり、焼結圧力が8.0×106〜10.0×107Paである請求項1に記載の研削チップ体の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法によって製造された研削チップ体が研削面に取付けられていることを特徴とする塗膜剥離用回転砥石。
【請求項4】
請求項1又は2記載の製造方法によって製造された複数の第1の研削チップ体と、
塗膜剥離具の回転軸への取付部を中心に備えた円盤状の金属製ホイールとを備え、
該金属製ホイールの下面に、前記複数の研削チップ体が取付部を中心とする同心円上で所定の間隔をあけて配設され、且つ、各研削チップ体は、ダイヤモンド焼結チップの刃先をホイール回転方向に向けた状態で金属製ホイールに固着されている塗膜剥離具用回転砥石。
【請求項5】
前記研削チップ体が、取付部を中心とする大小二重の同心円上に配設されている請求項4に記載の塗膜剥離用回転砥石。
【請求項6】
請求項1又は2記載の製造方法によって製造された複数の第2の研削チップ体をさらに備え、該複数の第2の研削チップ体が、金属製ホイールの外周面に所定の間隔をあけて配設され、且つ、各第2の研削チップ体が、ダイヤモンド焼結チップの刃先をホイール回転方向に向けた状態で金属製ホイールに固着されている請求項4又は請求項5に記載の塗膜剥離具用回転砥石。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−321006(P2006−321006A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146341(P2005−146341)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000110620)ナニワ研磨工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】