説明

研磨用組成物

【課題】III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物の保存安定性を向上させる。
【解決手段】本発明の研磨用組成物は、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどの酸化剤と、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物に関する。本発明はまた、その研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
III−V族化合物半導体基板を研磨する用途で従来使用されている例えば特許文献1又は特許文献2に記載のような研磨用組成物には一般に、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムなどの酸化剤が含まれている。この酸化剤は研磨用組成物中で容易に分解しやすく、酸化剤の分解は研磨用組成物の変色を伴う。酸化剤の分解に従って研磨用組成物によるIII−V族化合物半導体基板の研磨速度に低下が生じるため、これらの研磨用組成物は保存安定性に難があった。
【0003】
また、III−V族化合物材料を含有する部分とIII−V族化合物以外の材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨する際には、そのIII−V族化合物以外の材料を含有する部分よりもIII−V族化合物材料を含有する部分を高選択的に研磨することが必要とされることがある。それは酸化シリコン等のオキサイドロスを少なくすることで、配線層間の耐電圧を確保し、さらにその後のフォトリソグラフィ工程を行う際に、露光焦点合わせを容易にするためである。この点、特許文献1又は特許文献2に記載の研磨用組成物は、III−V族化合物材料を含有する部分とIII−V族化合物以外の材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で使用したときにIII−V族化合物材料を含有する部分に対する十分に高い研磨選択性を発揮しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−150155号公報
【特許文献2】特開2004−327614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の目的は、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物の保存安定性を向上させることにある。また、本発明の別の目的は、III−V族化合物材料を含有する部分とIII−V族化合物以外の材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で使用したときにIII−V族化合物材料を含有する部分に対する高い研磨選択性を発揮することができる研磨用組成物を提供すること、またその研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様では、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、酸化剤と、非プロトン性極性溶媒とを含有する研磨用組成物を提供する。
【0007】
研磨用組成物中の非プロトン性極性溶媒の含有量は10質量%以上であることが好ましい。
本発明の第2の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する方法を提供する。
【0008】
本発明の第3の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する部分(以下、III−V族化合物材料部分ともいう)とケイ素材料を含有する部分(以下、ケイ素材料部分ともいう)とを有する研磨対象物を研磨する方法を提供する。
【0009】
本発明の第4の態様では、上記第1の態様の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料部分とケイ素材料部分とを有する研磨対象物を研磨することにより、基板を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物の保存安定性を向上させることができる。また、III−V族化合物材料部分とIII−V族化合物以外の材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で使用したときにIII−V族化合物材料部分に対する高い研磨選択性を発揮することができる研磨用組成物と、その研磨用組成物を用いた研磨方法及び基板の製造方法とが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、酸化剤を非プロトン性極性溶媒に混合して調製される。従って、研磨用組成物は、酸化剤及び非プロトン性極性溶媒を含有する。
【0012】
この研磨用組成物は、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される。あるいは、III−V族化合物材料部分とケイ素材料部分とを有する研磨対象物を研磨する用途、さらに言えばその研磨対象物を研磨して基板を製造する用途においてIII−V族化合物材料部分を選択的に研磨する目的で使用される。III−V族化合物材料の例としては、リン化ガリウム(GaP)、リン化インジウム(InP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、ヒ化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等が挙げられる。また、ケイ素材料の例としては、ポリシリコン、酸化シリコン、窒化シリコン等が挙げられる。
【0013】
(酸化剤)
研磨用組成物中に含まれる酸化剤の種類は特に限定されないが、0.3V以上の標準電極電位を有していることが好ましい。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合には、0.3V未満の標準電極電位を有する酸化剤を使用した場合に比べて、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分の研磨速度が向上するという有利がある。0.3V以上の標準電極電位を有する酸化剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、有機酸化剤、オゾン水、銀( I I ) 塩、鉄( I I I ) 塩、並びに過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、硫酸、過硫酸、クエン酸、ジクロロイソシアヌル酸及びそれらの塩等が挙げられる。これらの中でも、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分の研磨速度が大きく向上することから、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、及びジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましい。
【0014】
なお、標準電極電位とは、酸化反応に関与するすべての化学種が標準状態にあるときに次式で表される。
E0=−△G0/nF=(RT/nF)lnK
ここで、E0は標準電極電位、△G0は酸化反応の標準ギブスエネルギー変化、Kはその平行定数、Fはファラデー定数、Tは絶対温度、nは酸化反応に関与する電子数である。従って、標準電極電位は温度により変動するので、本明細書中においては25℃における標準電極電位を採用している。なお、水溶液系の標準電極電位は、例えば改訂4版化学便覧(基礎編)II、pp464−468(日本化学会編)等に記載されている。
【0015】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量は0.01mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.1mol/L以上である。酸化剤の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物によるIII−V族化合物材料部分の研磨速度が向上する。
【0016】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量はまた、100mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは50mol/L以下である。酸化剤の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。
【0017】
(非プロトン性極性溶媒)
研磨用組成物中に含まれる非プロトン性極性溶媒の具体例としては、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0018】
本実施形態によれば以下の作用効果が得られる。
・ 本実施形態の研磨用組成物では、研磨用組成物中の酸化剤の分解を防いで研磨用組成物の保存安定性を向上させるために非プロトン性極性溶媒が使用されている。そのため、この研磨用組成物は、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で好適に用いられる。
【0019】
・ III−V族化合物材料部分とケイ素材料部分とを有する研磨対象物を研磨する用途で本実施形態の研磨用組成物を使用した場合には、研磨用組成物中の非プロトン性極性溶媒がケイ素材料部分の加水分解を抑制する働きをするために、III−V族化合物材料部分に対する研磨用組成物の研磨選択性が向上するという有利がある。
【0020】
前記実施形態は次のように変更されてもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、二種類以上の酸化剤を含有してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、二種類以上の非プロトン性極性溶媒を含有してもよい。
【0021】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、水などのプロトン性極性溶媒をさらに含有してもよい。この場合、研磨用組成物中の非プロトン性極性溶媒の含有量は10質量%以上であることが好ましい。
【0022】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は砥粒をさらに含有してもよい。砥粒は、無機粒子及び有機粒子のいずれであってもよい。無機粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、セリア、チタニアなどの金属酸化物からなる粒子が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル粒子が挙げられる。
【0023】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、防腐剤のような公知の添加剤を必要に応じてさらに含有してもよい。
・ 前記実施形態の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
【0024】
・ 前記実施形態の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水で希釈することにより調製されてもよい。
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。
【0025】
酸化剤を非プロトン性極性溶媒と混合することにより、実施例1〜7の研磨用組成物を調製した。また、酸化剤をプロトン性極性溶媒と混合することにより、比較例1,2の研磨用組成物を調製した。各研磨用組成物中の成分の詳細を表1に示す。なお、表1中、“APS”は過硫酸アンモニウムを表し、“H”は過酸化水素を表す。
【0026】
表1の“保存安定性”欄には、実施例1〜7及び比較例1,2の研磨用組成物の保存安定性を評価した結果を示す。具体的には、各研磨用組成物を常温で7日間保存したときに研磨用組成物に変色が認められた場合には×、変色が認められなかった場合には○と評価した。
【0027】
【表1】

表1に示すように、非プロトン性極性溶媒を含有している実施例1〜7の研磨用組成物の場合には、非プロトン性極性溶媒を含有していない比較例1,2の研磨用組成物の場合と比較して、保存安定性が良好であった。この結果から、研磨用組成物中の酸化剤の分解を抑えるのに非プロトン性極性溶媒が有効であることが示唆される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物であって、酸化剤と、非プロトン性極性溶媒とを含有することを特徴とする研磨用組成物。
【請求項2】
研磨用組成物中の前記非プロトン性極性溶媒の含有量が10質量%以上である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する研磨対象物を研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する部分とケイ素材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨することを特徴とする研磨方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の研磨用組成物を用いて、III−V族化合物材料を含有する部分とケイ素材料を含有する部分とを有する研磨対象物を研磨することにより、基板を製造することを特徴とする基板の製造方法。