説明

硫化水素除去性複合体および該複合体を含有する成形体

【課題】従来から硫黄系ガスを除去するために様々な形態、種類の素材が開発されているが、飽和除去量の点においては必ずしも満足いくものではなかった。本発明の目的は、硫化水素の除去量が飛躍的に大きい材料および、該材料を含有する成形体を提供することにある。
【解決手段】カルボキシル基を有する担体に、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与して得られる硫化水素除去性複合体および該硫化水素除去性複合体を含有している成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は除去量の大きい硫化水素除去性複合体および該複合体を含有する成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
生活排水や各種工業排水から発生する硫黄系ガスは悪臭を放つだけでなく、金属を腐食させる等の問題を引き起こしている。これら問題となっている硫黄系ガスを除去するために様々な形態、種類の素材が開発されている。例えば、特定の金属イオンを含有する4価金属リン酸塩を用いる方法(特許文献1)、ランタノイド元素の水酸化物等を用いる方法(特許文献2)、特定の微粒子酸化亜鉛を用いる方法(特許文献3)、4級アンモニウム化合物と金属酸化物および/または金属炭酸塩を用いる方法(特許文献4)、マンガン化合物を用いる方法(特許文献5)等が知られているが、飽和除去量の点から必ずしも満足いくものではなかった。
【特許文献1】特開平10−155883号公報
【特許文献2】特開平1−223968号公報
【特許文献3】特開2003−52800号公報
【特許文献4】特開2002−291857号公報
【特許文献5】特開平3−23863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述した現状に鑑みて創案されたものであり、その目的は硫黄系ガス、具体的には硫化水素の除去量が飛躍的に大きい材料および該材料を含有する成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、カルボキシル基を有する担体に、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与することで、硫化水素に対してきわめて優れた飽和除去量を発現できることを見出し、本発明に到達した。
【0005】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)カルボキシル基を有する担体に、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与して得られる硫化水素除去性複合体。
(2)カルボキシル基を有する担体が有機重合体であることを特徴とする(1)に記載の硫化水素除去性複合体。
(3)有機重合体が架橋構造を有することを特徴とする(2)に記載の硫化水素除去性複合体。
(4)有機重合体がビニル系重合体であることを特徴とする(2)または(3)に記載の硫化水素除去性複合体。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の硫化水素除去性複合体を含有している成形体。
【発明の効果】
【0006】
本発明の硫化水素除去性複合体は、生活排水や各種工業排水等から発生する硫化水素を極めて多く除去することができる。また該複合体は繊維状、粒子状等さまざまな形態がとれ、さまざまな用途、分野の製品に容易に適用でき、硫化水素除去機能を付与することができる。さらに、本発明の複合体は褐色を呈するが、硫化水素を除去していくにつれて肌色に変色することから、複合体を含有する成形体の取り替え時期を判定できるインジケーター機能も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の複合体はカルボキシル基を有する担体に、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与して得られるものである。
【0008】
本発明に採用するカルボキシル基を有する担体の形状に関して制限はないが、例えば粒子状、繊維等が挙げられる。
【0009】
また、本発明に採用する担体はカルボキシル基を有していれば制限はなく、無機化合物、有機化合物どちらでも用いることができる。
【0010】
本発明に採用するカルボキシル基を有する無機化合物担体としては、例えば、賦活処理や酸処理などにより表面にカルボキシル基を生成させた活性炭などが利用できる。
【0011】
本発明に採用するカルボキシル基を有する有機化合物の担体としては、例えば、羊毛や絹などの動物性繊維、カルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド、ビニル系重合体などの有機重合体が挙げられる。中でもビニル系重合体は、カルボキシル基を導入しやすいので好ましい。カルボキシル基を有するビニル系重合体を得る方法としては、単量体を単独重合又は共重合可能な他の単量体と共重合する方法、化学変性によりカルボキシル基を導入する方法、あるいはグラフト重合によりカルボキシル基を導入する方法等が挙げられる。
【0012】
カルボキシル基を有する単量体を重合してカルボキシル基を導入する方法としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ビニルプロピオン酸等のカルボキシル基を含有するビニル系単量体の単独重合、あるいは2種以上の該単量体からなる共重合、あるいは、これらの単量体と共重合可能な他の単量体との共重合により、共重合体を得る方法が挙げられる。
【0013】
化学変性によりカルボキシル基を導入する方法としては、例えば加水分解処理をすればカルボキシル基を得られる官能基を有する単量体よりなる重合体を得た後に、加水分解によって該官能基をカルボキシル基にする方法が挙げられる。このような方法をとることのできる単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノ基を有する単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ノルマルプロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸ノルマルオクチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート等のエステル結合を有する単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、モノエチル(メタ)アクリルアミド、t-ブチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有する単量体等が例示できる。
【0014】
化学変性によりカルボキシル基を導入する他の方法としては、二重結合、ハロゲン基、水酸基、アルデヒド基等の酸化可能な極性基を有する重合体に酸化反応によりカルボキシル基を導入する方法も用いることができる。この酸化反応については、通常用いられる酸化反応を用いることができる。
【0015】
上記の単量体と共重合する場合に用いられる他の単量体としては特に限定はなく、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のビニリデン系単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メチルイソブテニルケトン、メチルイソプロペニルケトン等の不飽和ケトン類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、ジクロロ酢酸ビニル、トリクロロ酢酸ビニル、モノフルオロ酢酸ビニル、ジフルオロ酢酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、ビニルステアリン酸、ビニルスルフィン酸等のビニル基含有酸化合物またはその塩、その無水物、その誘導体等;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレンおよびそのアルキルまたはハロゲン置換体;アリルアルコールおよびそのエステルまたはエーテル類;N-ビニルフタルイミド、N-ビニルサクシノイミド等のビニルイミド類;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ジメチルアミノエチルメタクリレート、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカルバゾール、ビニルピリジン類等の塩基性ビニル化合物;アクロレイン、メタクリロレイン等の不飽和アルデヒド類等のビニル化合物を挙げることができる。
【0016】
上述の有機重合体は、カルボンキシル基を有することで親水性が高くなり耐水性が低下するが、その構造中に架橋構造を付与することで、耐水性を向上させることができる。この架橋構造は特に限定はなく、共有結合による架橋、イオン架橋、ポリマー分子間相互作用または結晶構造による架橋等いずれの構造のものでもよい。また、架橋構造を導入する方法においても、特に限定はなく、重合段階での架橋性単量体による架橋導入、重合体を得た後での反応性化合物による架橋導入(以降後架橋という)、物理的なエネルギーによる架橋導入など一般に用いられる方法によることができる。
【0017】
中でも、有機重合体の重合段階で架橋性単量体を用いる方法、あるいは後架橋による方法では、共有結合による強固な架橋を導入することが可能である。
【0018】
例えば、架橋性単量体を用いる方法では、架橋性ビニル化合物をカルボキシル基を有する単量体、あるいはカルボキシル基に変性できる官能基を有する単量体と共重合することにより共有結合に基づく架橋構造を有する有機重合体を得ることができる。
【0019】
この様な方法により導入される架橋構造としては、グリシジルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等の架橋性ビニル化合物により誘導されたものを挙げることができ、なかでもトリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミドによる架橋構造は、カルボキシル基を導入するための加水分解等の際にも化学的に安定であるので望ましい。
【0020】
また、後架橋による方法としても特に限定はなく、例えば、ニトリル基を有するビニル系単量体の含有量が40重量%以上よりなるニトリル系重合体の含有するニトリル基と、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物またはホルムアルデヒドを反応させる後架橋法を挙げることができる。
【0021】
ここでいうニトリル基を有するビニル系単量体としては、ニトリル基を有する限りにおいては特に限定はなく、具体的には、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、α−フルオロアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、コスト的に有利であり、また、単位重量あたりのニトリル基量が多いアクリロニトリルが最も好ましい。
【0022】
また、1分子中の窒素数が2以上である窒素含有化合物としては、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、臭化水素酸ヒドラジン等のヒドラジン系化合物やエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、ラウリルイミノビスプロピルアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−ブチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジン等のアミノ基を複数有する化合物等が例示される。
【0023】
本発明に採用するカルボキシル基を有する担体はカルボキシル基を有していれば制限はないが、カルボキシル基量が多い方が、後述する過マンガン酸化合物をより多く担持することができる。しかし、多すぎると担体の強度、または耐水性が下がる等の弊害が生じるため、カルボキシル基量としては好ましくは1〜12mmol/g、より好ましくは3〜12mmol/gである。また、該カルボキシル基はLi、Na、K等のアルカリ金属やMg、Ca、Ba等のアルカリ土類金属等の金属のイオンを対イオンとする塩型カルボキシル基である方が、過マンガン酸化合物が単体に担持されやすく望ましい。また酸型カルボキシル基と塩型カルボキシル基が混在しているものも利用できる。
【0024】
以下にカルボキシル基を有する担体を製造する方法について、アクリル繊維とヒドラジン系化合物を用いた場合について説明する。採用するアクリル繊維はアクリロニトリルを40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するアクリロニトリル系重合体により形成された繊維である。かかるアクリル繊維の製造手段に限定はなく、適宜公知の手段が用いられる。また、アクリル繊維の形態については、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでも良く、製造工程中途品、廃繊維などでも構わない。
【0025】
ヒドラジン系化合物による架橋処理の条件としては、窒素含有量の増加を0.1〜10重量%に調整しうる条件である限り採用できるが、ヒドラジン系化合物濃度5〜80重量%の水溶液中、温度50〜120℃で1〜5時間処理する手段が工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とはヒドラジン系化合物による架橋処理前のアクリル繊維の窒素含有量と該処理後のアクリル繊維の窒素含有量との差をいう。なお、窒素含有量の増加が下限に満たない場合には、最終的に実用上満足し得る物性の繊維が得られないことがあり、上限を超える場合には、十分な硫化水素除去性能が得られないことがある。
【0026】
かかる架橋処理を施された繊維は、該処理で残留した薬剤を十分に除去した後、酸処理を施しても良い。ここに使用する酸としては、硝酸、硫酸、塩酸等の鉱酸や、有機酸等が挙げられるが特に限定されない。該酸処理の条件としては、特に限定されないが、大概酸濃度3〜20重量%、好ましくは7〜15重量%の水溶液に、温度50〜120℃で0.5〜10時間繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0027】
上述のようにして架橋処理を施された繊維、あるいは、さらに酸処理を施された繊維は、次に加水分解処理を施される。該処理により、架橋処理時に未反応のまま残存しているニトリル基などが加水分解され、カルボキシル基が生成される。かかる加水分解処理の手段としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アンモニア等の塩基性水溶液、あるいは、硝酸、硫酸、塩酸等の水溶液中に架橋処理を施された繊維を浸漬した状態で加熱処理する手段が挙げられる。
【0028】
具体的な処理条件としては、目的とするカルボキシル基の量などを勘案し、処理薬剤の濃度、反応温度、反応時間等の諸条件を適宜設定すればよいが、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%の処理薬剤水溶液中、温度50〜120℃で1〜10時間処理する手段が工業的、繊維物性的にも好ましい。なお、上述した架橋処理と同時に加水分解処理を行うことも出来る。また、必要に応じて硝酸、硫酸などの酸性溶液や金属塩水溶液などで処理するなどしてカルボキシル基の塩型の種類や量を調節してもよい。
【0029】
以上のようにして得られるカルボキシル基を有する繊維は、本発明に採用するカルボキシル基を有する担体として好適に使用することができるものである。
【0030】
本発明において利用できる過マンガン酸化合物は、特に限定されず、例えば過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸銀が挙げられる。過マンガン酸化合物を付与する量としては、硫化水素除去性複合体に対するマンガン担持量が、好ましくは0.1重量%〜10重量%、より好ましくは0.5重量%〜10重量%となるようにする。本発明においては、過マンガン酸化合物を付与する量が多いほど硫化水素飽和除去量は向上するが、10重量%を超える場合には担体の強度が下がる等の弊害が生じる場合があり、一方、0.1重量%に満たない場合に十分な硫化水素除去性能が発現しない場合がある。
【0031】
本発明において利用できるポリオキシアルキレン構造を有する重合体はその分子量、末端の官能基等特に制限はなく、例えばポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンプロピルアミン、ポリオキシエチレンジノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンひまし油、ポリオキシエチレンドコシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルアミンエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノイソステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンテトラオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンステアリルアミンエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリプロピレンオキシド、ポリテトラメチレンオキシドが挙げられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、またはポリエステルのポリオキシアルキレン構造体グラフト化物の様な部分的にポリオキシアルキレン構造を含む化合物及び、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体の様な複数のポリオキシアルキレン構造を有する重合体も本発明において利用することができる。
【0032】
なかでも、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体が「−CHCHO−」というオキシエチレン構造をより多く有する方が硫化水素除去性能を向上させる傾向がある。
【0033】
本発明において担体に担持させるポリオキシアルキレン構造を有する重合体の担持量としては、好ましくは硫化水素除去性複合体に対して0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上である。ポリオキシアルキレン構造を有する重合体の担持量は多いほど硫化水素除去性能は向上する傾向があり、上限については特に制限はないが、あまりに担持量が多くなると複合体同士がくっついてしまう等取り扱いに支障をきたす場合があるので、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下にとどめるのが望ましい。一方、担持量が0.1重量%より少ないと十分な硫化水素除去性能が発現しない場合がある。
【0034】
本発明において、カルボキシル基を有する担体に過マンガン酸化合物とポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与する方法としては、たとえばカルボキシル基を有する担体に過マンガン酸化合物を付与した後にポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与する方法、カルボキシル基を有する担体にポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与した後に過マンガン酸化合物を付与する方法、カルボキシル基を有する担体にポリオキシアルキレン構造を有する重合体と過マンガン酸化合物を同時に付与する方法などが利用できる。また、カルボキシル基を有する担体を含有する成形体に、過マンガン酸化合物とポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与してもよい。
【0035】
付与における具体的方法としては、過マンガン酸化合物あるいはポリオキシアルキレン構造を有する重合体を、カルボキシル基を有する担体に付与できる方法であれば制限はなく、例えば、過マンガン酸化合物あるいはポリオキシアルキレン構造を有する重合体の水溶液を作成し、該水溶液にカルボキシル基を有する担体を浸漬させる方法や該水溶液をカルボキシル基を有する担体に噴霧や塗布する方法などを挙げることができる。
【0036】
また、本発明の硫化水素除去性複合体は各種成形体に含有させることにより、該成形体に硫化水素除去性能を付与することができる。例えば、本発明の硫化水素除去性複合体が繊維状の場合には、該複合体単独で、もしくは、他の繊維と混用することで、硫化水素除去性能を有する紙、不織布、織物あるいは編物などを得ることができる。また、本発明の硫化水素除去性複合体が粒子状の場合には、塗料や成形前の樹脂に混合することで、硫化水素除去性能を有する塗膜やフィルムなどの樹脂成形体などを得ることができる。
【0037】
さらに、塗料や成形前の樹脂などについては、本発明の硫化水素除去性複合体そのものではなく、該複合体を形成しうる、カルボキシル基を有する担体、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体の各成分を混合し、塗料や成形前の樹脂中で複合体を形成させたり、塗膜あるいは樹脂成形体を形成させる際に複合体を形成させたりすることにより、硫化水素除去性能を有する塗膜や樹脂成形体などを得ることも可能である。
【0038】
本発明において、カルボキシル基を有する担体、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体の3要素があることで、除去量が飛躍的に大きい硫化水素除去性複合体が得られる。硫化水素除去量が飛躍的に向上する理由は明らかでないが、カルボキシル基を有する担体、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造が特異な錯体構造を形成することで硫化水素除去性能が飛躍的に向上していることが考えられる。
【0039】
また、本発明の複合体は褐色を呈するが、硫化水素を除去するにつれて肌色に変色する。この変色を硫化水素除去性能の飽和時期判定のインジケーターとして利用することができる。この複合体の変色のメカニズムは明らかではないが、過マンガン酸化合物が硫化マンガンに変化していることによるものと考えられる。
【実施例】
【0040】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。
【0041】
<カルボキシル基量>
十分乾燥した試料約1gを精秤し(W1[g])、これに200mlの1mol/l塩酸水溶液を加え30分間放置したのちガラスフィルターで濾過し水を加えて水洗する。この処理を3回繰り返したのち、濾液のpHが5以上になるまで十分に水洗する。次にこの試料を200mlの水に入れ1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にした後、0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V1[ml])を求め、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g] =0.1×V1/W1
【0042】
<マンガン担持量>
十分乾燥した試料を用いて、フレーム原子吸光分析装置によりマンガン担持量を測定し、試料重量に対する割合を算出する。
【0043】
<ポリオキシアルキレン構造を有する重合体の担持量>
十分乾燥した試料約5gを精秤し(W2[g])、10mlのエタノールを用いてソックスレー抽出機で約2時間ポリオキシアルキレン構造を有する重合体を抽出する。その後、抽出液中のエタノールを蒸発させた後の残渣の重量(W3[g])を測定し、次式によってポリオキシアルキレン構造を有する重合体の担持量を算出する。
ポリオキシアルキレン構造を有する重合体の担持量[%] =(W3/W2)×100
【0044】
<硫化水素除去性能評価試験>
3Lテドラー(登録商標)バッグに評価サンプル10mgを加えてヒートシールを行った後、空気1.5Lを入れ、続いて400ppmとなるように硫化水素ガスを加え、24時間経過した後のテドラー(登録商標)バック内の硫化水素ガス濃度を検知管((株)ガステック製)で測定した。
【0045】
<実施例1>
アクリロニトリル90%及びアクリル酸メチル10%からなるアクリロニトリル系重合体10部を48%ロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸、乾燥してアクリル繊維を得た。該アクリル繊維に、15%水加ヒドラジン水溶液中で110℃×3時間架橋導入処理を行い水洗した。続いて5%水酸化ナトリウム水溶液中で、90℃×2時間加水分解処理を行い水洗し、担体繊維aを得た。その後、0.3%の過マンガン酸カリウム水溶液中で常温×3時間処理を行い水洗し、105℃の乾燥機で5時間乾燥させて過マンガン酸化合物担持繊維Aを得た。その後1%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液に常温×0.5時間処理を行い、遠心脱水機で900rpm、5分脱水を行い、105℃の乾燥機で5時間乾燥させて得られた繊維について、評価結果を表1に示す。
【0046】
<実施例2>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリオキシエチレン(20)セチルエーテルを用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0047】
<実施例3>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリエチレングリコール(平均分子量400、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0048】
<実施例4>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリエチレングリコール(平均分子量1000、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0049】
<実施例5>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリエチレングリコール(平均分子量3000、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0050】
<実施例6>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリエチレングリコール(平均分子量20000、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0051】
<実施例7>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリエチレングリコール(平均分子量70000、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0052】
<実施例8>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールコポリマー(平均分子量14600、Aldrich社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0053】
<実施例9>
実施例1においてポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリプロピレングリコール(平均分子量1000、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0054】
<実施例10>
実施例1において0.3%の過マンガン酸カリウム水溶液の代わりに2.0%の過マンガン酸カリウム水溶液を用い、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの代わりにポリプロピレングリコール(平均分子量1000、和光純薬社製)を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0055】
<実施例11>
実施例1において1%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液の代わりに4%ポリプロピレングリコール(平均分子量1000、和光純薬社製)水溶液を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0056】
<実施例12>
実施例1において過マンガン酸カリウムの代わりに過マンガン酸ナトリウムを用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0057】
<実施例13>
実施例1の担体繊維aの作成において水酸化ナトリウムの代わりに水酸化カリウムを用いて得た担体繊維を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表1に示す。
【0058】
<実施例14>
アクリロニトリル65%、ジビニルベンゼン35%からなる単量体混合物30部を、モノマー比で0.42%の過硫酸アンモニウムを含む水溶液70部に溶解し、攪拌機つきの重合槽に仕込んだ後に65℃、120分間重合した。得られた重合体スラリーを水洗、脱水した後に重合体を得た。得られた重合体を純水に再分散させたスラリー(重合体重量比18%)90部に40%水酸化ナトリウム水溶液10部を加え95℃、1時間加水分解をした。得られた重合体スラリーを水洗、脱水して担体粒子を得た。その後、0.3%の過マンガン酸カリウム水溶液中で常温×3時間酸処理を行い水洗し、105℃の乾燥機で5時間乾燥させて過マンガン酸化合物担持粒子を得た。その後1%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液に常温×0.5時間処理を行い、遠心脱水機で900rpm、5分脱水を行い、105℃の乾燥機で5時間乾燥して得られた粒子について、評価結果を表1に示す。
【0059】
<比較例1>
実施例1で得た担体繊維aを1%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液に常温×0.5時間処理を行い、遠心脱水機で900rpm、5分脱水を行い、105℃の乾燥機で5時間乾燥させた繊維について評価結果を表2に示す。
【0060】
<比較例2>
実施例1で得た過マンガン酸化合物担持繊維Aの評価結果を表2に示す。
【0061】
<比較例3>
実施例1において0.3%の過マンガン酸カリウム水溶液の代わりに5%の硫酸マンガン水溶液を用いること以外は同様にして得られた繊維の評価結果を表2に示す。
【0062】
<比較例4>
スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂デュオライトC20LF(住友化学社製)を、0.3%の過マンガン酸カリウム水溶液中で常温×3時間処理を行い水洗した後、1%ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート水溶液に常温×0.5時間処理を行い、遠心脱水機で900rpm、5分脱水を行い、105℃の乾燥機で5時間乾燥して得られた樹脂について、硫化水素除去性能結果を表2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表1に示すように、本発明の硫化水素除去性複合体である実施例1〜14はいずれも優れた硫化水素除去性能を有している。一方、表2に示すように、過マンガン酸化合物を付与していない比較例1および3、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与していない比較例2、カルボキシル基を有していない担体を用いた比較例4はいずれも硫化水素除去性能が低いものであった。これらから、カルボキシル基を有する担体、過マンガン酸化合物、ポリオキシアルキレン構造を有する重合体の3要素があることで、優れた硫化水素除去性が発現されることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する担体に、過マンガン酸化合物、およびポリオキシアルキレン構造を有する重合体を付与して得られる硫化水素除去性複合体。
【請求項2】
カルボキシル基を有する担体が有機重合体であることを特徴とする請求項1に記載の硫化水素除去性複合体。
【請求項3】
有機重合体が架橋構造を有することを特徴とする請求項2に記載の硫化水素除去性複合体。
【請求項4】
有機重合体がビニル系重合体であることを特徴とする請求項2または3に記載の硫化水素除去性複合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硫化水素除去性複合体を含有している成形体。


【公開番号】特開2010−131470(P2010−131470A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−306924(P2008−306924)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】