説明

磁気シールド用鋼板

【課題】低調圧率においても磁気シールド性が優れ、しかも安価な磁気シールド用鋼板を提供すること。
【解決手段】重量%で、Si:0.05〜0.30%、Al:0.004%以下(0%を含む)、C:0.005%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)、Mn:0.05〜0.5%、P:0.005〜0.2%、N:0.005%以下(0%を含む)、O:0.0080〜0.0200%を含み、残部実質的にFeからなる磁気シールド用鋼板。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は電子機器等から漏洩する磁気をシールドするための磁気シールド用鋼板に関する。
【0002】
【従来技術】近年、電子機器の普及に伴い、電子機器からの漏洩磁束が人体に与える影響や、他の電子機器に与える影響が問題となっており、このため磁気シールドの必要性が高まっている。
【0003】磁気シールド用材料の代表的なものとしてパーマロイが挙げられるが、高価であること、また、低磁場のシールドには非常に効果的であるものの飽和磁束密度が低いことから高磁場のシールドに対しては効果的なシールドができないことが問題となっている。
【0004】これに対し、純鉄系のシールド材料はパーマロイに比べると低磁場のシールド性能は劣るものの、安価であり、飽和磁束密度が高いことから高磁場シールドも可能であるというメリットがある。
【0005】これまで純鉄系の材料においては、優れた磁気シールド性を得るため、鋼板の結晶粒径を粗大にすること、および鋼板中の介在物を極力低減することが試みられている。結晶粒径を粗大化させるためには、調圧を施した後に焼鈍することが有効であり、また、介在物を低減するためにはAlで十分に脱酸し、介在物を浮上分離することが有効である。
【0006】例えば、特開平5−247604号公報には、Si:0.05%以下、Al:0.05%以下とし、5〜30%の調圧後に焼鈍することによりフェライト粒径を結晶粒度番号で2以下、7以上とする軟磁性鉄板が開示されている。また、特開平1−139739号公報には、Alで十分脱酸することにより、JIS−G0555に規定されている非金属介在物の面積率が(dA+dB+dC)≦0.1%とする純鉄が開示されている。
【0007】しかし、磁気シールド性の指標となる最大透磁率は、前者では19000程度、後者で16000程度であり、未だ満足することができる特性とはいえない。ところで、磁気シールド材は一般的にシールド構体に加工されて使用されるため、加工性の良好なことも要求される。このことから、結晶粒径粗大化の目的のために鋼板に施される調圧は可能な限り低いことが望まれる。しかしながら、Al脱酸鋼は粒成長が不安定であり、安定した粒成長を図るためには5%程度の調圧は避けられない。特開平3−274229号公報には、Siを0.005〜0.20%添加してSi脱酸により粒成長性を安定化させる技術が開示されているが、この技術においても2〜8%の調圧を施すことが必須である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、低調圧率においても磁気シールド性が優れ、しかも安価な磁気シールド用鋼板を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、粒成長性が比較的安定なSi脱酸鋼において、低調圧率においても粒成長性が安定して向上する手段について鋭意検討した結果、従来介在物を生成するため極力低減されていた鋼中酸素の量を従来の磁気シールド用鋼板よりも多めに制御することにより粒成長性が安定して良好になることを見出した。
【0010】本発明は、このような知見に基づいて完成されたものであり、重量%で、Si:0.05〜0.30%、Al:0.004%以下(0%を含む)、C:0.005%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)、Mn:0.05〜0.5%、P:0.005〜0.2%、N:0.005%以下(0%を含む)、O:0.0080〜0.0200%を含み、残部実質的にFeからなることを特徴とする磁気シールド用鋼板を提供するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】以下、本発明について実験結果に基づいて具体的に説明する。一般的に磁気シールド材は、調圧後シールド構体に加工され、その後に磁性焼鈍が施され使用に供される。このため、磁気シールド性能が優れていることはもちろん、加工性に優れていることも要求される。
【0012】加工性を評価するパラメータは種々存在するが、本発明者らは引張試験により得られる全伸びにより評価した。図1は、Al脱酸を行ったC:0.0030%、Si:0.06%、Mn:0.31%、P:0.100%、S:0.002%、Al:0.10%、N:0.0020%、O:0.0035%の組成を有する鋼と、Si脱酸を行ったC:0.0031%、Si:0.10%、Mn:0.30%、P:0.100%、S:0.002%、Al:tr.、N:0.0020%、O:0.0070%の組成を有する鋼に熱間圧延を施した後、板厚1.0mmまで冷間圧延を行い、750℃×2分間の仕上焼鈍を施した後に種々の調圧率で調圧を施した鋼板について、調圧率と伸びとの関係を示したものである。ここで引張試験はJIS5号試験片を用いて評価した。
【0013】図1から、調圧率が高くなるほど伸びが低下することがわかる。このことから調圧率はできる限り低くする必要があることが理解される。特に、調圧率が2%以上になると全伸びは40%以下となるため加工性の低下が著しい。
【0014】このため、加工性の良好な調圧率2%以下において十分な磁気特性を得るべく検討を行った。図2は、Al脱酸を行ったC:0.0030%、Si:0.06%、Mn:0.31%、P:0.100%、S:0.002%、Al:0.10%、N:0.0020%の組成で板厚1.0mmの冷延鋼板に、725℃×2分間の仕上焼鈍後、1.5%の調圧を加え、さらに750℃×2時間の磁性焼鈍を施すことにより磁気シールド材としたサンプルの鋼中酸素量と最大透磁率(μmax )との関係を示すグラフである。ここで、鋼中酸素量は、溶鋼中へ吹き込む酸素量により調整した。また、直流磁気特性は調圧後の鋼板を外径45mm、内径33mmのリングサンプルに加工した後、750℃×2時間の磁性焼鈍を施し、JIS C2550に準拠して測定した。
【0015】図2より、Al脱酸を行った鋼板においては、鋼中酸素量が少ないほど透磁率は高くなっていることがわかる。図2の鋼板の組織を光学顕微鏡にて観察したところ、酸素量によらず混粒組織を呈しているが、酸素量が多くなるほど混粒組織に占める細粒の割合が多くなることが判明した。
【0016】この原因を調査するため、粒成長性に及ぼす介在物の観察を行った。ここで鋼中介在物の測定はSEMを用い、鋼板断面を直接観察した。介在物の粒子径としては、SEM像から得られた介在物の円相当直径を用いた。
【0017】その結果、図2の鋼板においては、1μm以下のAl23 が多数認められ、鋼中酸素量が増加してもその大きさはほとんど変化せず、個数のみが増加した。このため、Al脱酸鋼においては従来通り鋼中酸素量を低減させる必要があることがわかる。しかし、Al脱酸鋼においては、鋼中酸素量を低減したとしても、粒成長が不安定であるため、満足できる高い透磁率を得ることができなかった。
【0018】そこで、次にSi脱酸鋼について検討を行った。図3は、Si脱酸を行ったC:0.0021%、Si:0.11%、Mn:0.30%、P:0.100%、S:0.003%、Al:tr.、N:0.0021%の組成で板厚1.0mmの冷延鋼板に、725℃×2分間の仕上焼鈍後、1.0%および1.5%の調圧を加え、さらに750℃×2時間の磁性焼鈍を施すことにより磁気シールド材としたサンプルの鋼中酸素量と最大透磁率(μmax)との関係を示すグラフである。
【0019】図3より、鋼中酸素量が80〜200ppmの場合に最大透磁率が高くなり、その中でも鋼中酸素量100〜180ppmにおいて特に高い透磁率が得られることがわかる。これらサンプルの組織を光学顕微鏡にて観察したところ、酸素量が80ppm未満において結晶粒が混粒となっており、一方200ppmを越えると結晶粒が細粒となっていた。これに対し、酸素量が80〜200ppmにおいては均一な粗大粒となっていた。このことから、酸素量を制御することにより低調圧率においても安定した粒成長性が得られることが判明した。
【0020】この原因を調査するため、粒成長性に及ぼす介在物の影響を観察した。その結果、鋼中酸素量80ppm未満のサンプルにおいては、1μm以下の酸化物が認められた。これに対し、80〜200ppmにおいては5μm以上の酸化物が多数認められた。このことから、80〜200ppmにおいて均一粗大粒が得られた原因は、鋼中酸素量の増大に伴い、一次脱酸生成物が増大し、それに伴って鋼が凝固する時に微細に晶出する二次脱酸生成物が低減したためと考えられる。
【0021】鋼中酸素量200ppm超えにおいては、酸化物は粗大となっているものの、その個数が非常に多くなっており、この粗大酸化物自体が粒成長性を阻害し、細粒が生じたものと考えられる。
【0022】以上の実験結果により、本発明者らは、Si脱酸を行うとともに、鋼中酸素量を80〜200ppm、より好ましくは100〜180ppmとすることにより、低調圧率においても安定して均一粗大粒を得ることが可能となり、Al脱酸鋼よりも高い透磁率が得られることを知見した。
【0023】次に、発明の成分について具体的に説明する。本発明では、重量%で、Si:0.05〜0.30%、Al:0.004%以下(0%を含む)、C:0.005%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)、Mn:0.05〜0.5%、P:0.005〜0.2%、N:0.005%以下(0%を含む)、O:0.0080〜0.0200%とする。
【0024】Siは脱酸のため0.05%以上添加するが、より安定した粗大酸化物を形成させるためには0.1%以上の添加が好ましい。また0.30%を超えると高磁場の磁束密度が低下するため、上限を0.30%とする。
【0025】Alは脱酸材として添加すると微細なAl23 を生成し、粒成長性を不安定にする。このためAlは少ないほど好ましく、0.004%以下とし、0%も含むものとする。
【0026】Cは磁気時効の問題があるため少ないほうが好ましく、0.005%以下とし、0%も含むものとする。Mnは熱間圧延時の赤熱脆性を防止するために0.05%以上必要であるが、0.5%を超えると磁束密度が低下するため0.05〜0.5%とする。
【0027】Sは磁気特性を劣化させるMnSを生成するため少ないほうが好ましく、0.02%以下とし、より好ましくは0.001%以下とし、0%も含むものとする。
【0028】Pは鋼板の打ち抜き性を改善するために必要な元素であるため0.005%以上添加する。しかし、0.2%を超えて添加すると鋼板が脆化するため上限を0.2%とする。
【0029】Nは0.005%を超えると磁気特性を劣化させるため、0.005%以下とし、0%も含むものとする。Oは、上述したように、粗大酸化物を形成させる観点から80〜200ppm(0.0080〜0.0200%)とし、より好ましくは100〜180ppmとする。
【0030】次に、本発明の磁気シールド用鋼板の製造方法の一例について説明する。本発明においては、Si脱酸を行った鋼の酸素量を所定の範囲とすることが重要である。その一手法として転炉で吹錬した溶鋼をSi脱酸し脱ガス処理する際に酸素を吹き込み、鋼中酸素量を所定の範囲内にした後、一次脱酸生成物が浮上しないうちに鋳造を行う。
【0031】続いて熱間圧延および熱間圧延後の熱延板焼鈍を行うが、その条件は特に制限する必要はない。次いで一回の冷間圧延、もしくは中間焼鈍を挟んだ2回以上の冷間圧延により所定の板厚とした後に、仕上焼鈍を行い、引き続き0.5〜2%程度の調圧を加える。この調圧率は、加工性の観点から2%以下であることが好ましいが、加工性がそれほど要求されない場合には2%超であってもかまわない。
【0032】調圧後、シールド構体に加工され、750〜850℃で2時間程度の磁性焼鈍を施す。これら一連の処理により、本発明の鋼板が得られる。
【0033】
【実施例】以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)表1に示す組成の鋼となるように、表2中に示す酸素吹き込み条件で酸素量の調整を行った後に、板厚2.0mmまで熱間圧延を行い、酸洗後、板厚1.0mmまで冷間圧延を行った。その後、表2に示す焼鈍温度で仕上焼鈍を行い、さらに表1に示す調圧率で調圧後、750℃×2時間の磁性焼鈍を施した。磁気特性は、外径45mm、内径33mmのリング試験片を用いて行った。各鋼板の磁気特性を表2に合わせて示す。
【0034】
【表1】


【0035】
【表2】


【0036】表1に示すように、本発明の組成を有する鋼板は、2%以下の低調圧率においても磁気シールド性に優れた鋼板が得られることが確認された。一方、Al脱酸鋼においては酸素量を増加した場合には最大透磁率が低下すること、また、酸素量を低下させたとしてもSi脱酸鋼のような透磁率は得られないことが確認された。
【0037】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば、低調圧率においても磁気シールド性が優れ、しかも純鉄系であるから安価である磁気シールド用鋼板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】調圧率と全伸びとの関係を示す図。
【図2】Al脱酸鋼における鋼中酸素量と最大透磁率との関係を示す図。
【図3】Si脱酸鋼における鋼中酸素量と最大透磁率との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重量%で、Si:0.05〜0.30%、Al:0.004%以下(0%を含む)、C:0.005%以下(0%を含む)、S:0.02%以下(0%を含む)、Mn:0.05〜0.5%、P:0.005〜0.2%、N:0.005%以下(0%を含む)、O:0.0080〜0.0200%を含み、残部実質的にFeからなることを特徴とする磁気シールド用鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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