説明

磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法

【課題】小型化及び低消費電力化を図ることができる磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法を提供する。
【解決手段】磁気同調デバイス駆動回路10は、固定電圧を出力する電源に接続され、印加された出力電圧制御信号に応じた電圧を出力するスイッチング電源回路11と、スイッチング電源回路11の出力電圧を所望の同調周波数に応じた電流に変換して同調コイル51に供給する定電流回路12と、同調コイル51の電圧の絶対値を所定値だけ大きくするシフト電圧を供給するシフト電圧供給部13と、電流が供給された同調コイル51の電圧とシフト電圧とを加算し、加算後の電圧を出力電圧制御信号としてスイッチング電源回路11に出力する加算回路14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴素子を用いた磁気同調デバイスを駆動する磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の磁気同調デバイスとしてYIGを用いたYTO(YIG Tuned Oscillator)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
YIGは、イットリウム、鉄、ガーネットの化合物であり、印加される磁界の強さに応じて原子スピン周波数が直線的に変化する特性を有する磁気共鳴素子である。YTOは、このYIGを共振素子とする発振回路やYIGに磁界を印加する同調コイル等が磁気シールド用のケース内に収められてユニット化されたものである。そして、YTOは、外部から同調コイルに電流を供給することで、その供給電流に比例した周波数の信号を所定周波数範囲内で発振出力することができ、広帯域なスペクトラムアナライザの掃引発振回路や信号発生器等に用いられている。
【0004】
また、YIGは、極めて狭帯域な素子であり、この狭い帯域特性と周波数可変性を用いて信号のフィルタリングを行うYTF(YIG Tuned Filter)と呼ばれる磁気同調デバイスにも応用されている。
【0005】
磁気同調デバイスを駆動する従来の磁気同調デバイス駆動回路は、図7に示すような構成を有する。図7に示した従来の磁気同調デバイス駆動回路1は、電源から印加された固定電圧を所望の同調周波数に応じた電流に変換してYTF3の同調コイル4にする供給する定電流回路2を備える。この構成により、従来の磁気同調デバイス駆動回路1は、所望の周波数でYTF3にフィルタリングを行わせることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−252780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の磁気同調デバイス駆動回路では、以下に示すように、小型化及び低消費電力化を図ることができないという課題があった。
【0008】
(1)従来の磁気同調デバイス駆動回路において、定電流回路は、印加された一定の電源電圧(例えば12V)から駆動トランジスタで電圧を降下させてYTFに供給する電流を生成していた。そのため、従来の磁気同調デバイス駆動回路では、図8に示す斜線範囲の電圧が不要な電圧となって熱に変換されるので、比較的大きい放熱機構が必要となり、小型化及び低消費電力化が図れないという課題があった。
【0009】
(2)従来の磁気同調デバイス駆動回路を、例えばスペクトラムアナライザに適用した場合、周波数の掃引速度の高速化を図ろうとすると、図9に示すように、同調コイルのインダクタンス成分によって発生する逆起電圧V1を同調コイル印加電圧に上乗せしなければならない。この場合、従来の磁気同調デバイス駆動回路では、最大掃引速度に合わせて電源電圧をV2だけ高くする必要が生じる。その結果、従来の磁気同調デバイス駆動回路では、周波数の掃引速度を考慮した、さらに大きい放熱機構が必要となり、小型化及び低消費電力化が図れないという課題があった。
【0010】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、小型化及び低消費電力化を図ることができる磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る磁気同調デバイス駆動回路は、磁気同調デバイス(50)の同調コイル(51)に電流を供給して駆動する磁気同調デバイス駆動回路(10)において、予め定められた固定電圧を出力する電源に接続され、印加された出力電圧制御信号に応じた電圧を出力する電圧出力部(11)と、前記電圧出力部の出力電圧を所望の同調周波数に応じた電流に変換して前記同調コイルに供給する電流供給部(12)と、前記電流が供給された同調コイルの電圧の絶対値を所定分だけ大きくし、この大きくした電圧を前記出力電圧制御信号として前記電圧出力部に出力する電圧シフト部(15)と、を備えた構成を有している。
【0012】
この構成により、本発明の請求項1に係る磁気同調デバイス駆動回路は、電圧出力部が、同調コイルの電圧にシフト電圧を加えた電圧を電流供給部に印加すればよく、電圧出力部及び電流供給部の消費電力を低減することができるので、従来よりも小型の放熱機構を備えればよいこととなる。その結果、本発明の磁気同調デバイス駆動回路は、小型化及び低消費電力化を図ることができる。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る磁気同調デバイス駆動回路は、前記電圧シフト部が、前記電流が供給された同調コイルの電圧の絶対値を所定値だけ大きくするシフト電圧を供給するシフト電圧供給部(13)と、前記同調コイルの電圧と前記シフト電圧とを加算し、加算後の電圧を前記出力電圧制御信号として前記電圧出力部に出力する加算回路(14)とを有するものでもよい。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る磁気同調デバイス駆動回路は、前記電圧出力部と前記電流供給部との間に設けられ、前記電圧出力部の出力電圧に含まれるノイズ成分を除去するノイズフィルタ(22)をさらに備えた構成を有している。
【0015】
この構成により、本発明の請求項3に係る磁気同調デバイス駆動回路は、電圧出力部がノイズ成分を含む電圧を出力する場合でも、ノイズフィルタによりノイズ成分を除去することができる。
【0016】
また、本発明の請求項4に係る磁気同調デバイス駆動回路は、前記電圧シフト部を第1電圧シフト部(28)として備え、前記第1電圧シフト部が出力する出力電圧の絶対値を、前記同調コイルの電圧の絶対値よりも大きい範囲内で、所定分だけ小さくして前記ノイズフィルタの出力電圧をシフトさせる第2電圧シフト部(29)をさらに備えたものでもよい。
【0017】
また、本発明の請求項5に係る磁気同調デバイス駆動回路は、前記第2電圧シフト部が、前記第1電圧シフト部が出力する出力電圧の絶対値を、前記同調コイルの電圧の絶対値よりも大きい範囲内で、所定値だけ小さくするシフト電圧を供給するシフト電圧供給部(26)と、このシフト電圧供給部が出力するシフト電圧と前記第1電圧シフト部が出力する出力電圧とを加算し、加算後の電圧を前記ノイズフィルタの出力電圧をシフトさせる電圧として前記ノイズフィルタに出力する加算回路(27)と、を有するものでもよい。
【0018】
本発明の請求項6に係る測定装置は、請求項1乃至請求項5に記載の磁気同調デバイス駆動回路と、前記磁気同調デバイスと、前記所望の同調周波数を示す情報を前記電流供給部に出力する同調周波数情報出力部(60)と、を備えた構成を有している。
【0019】
この構成により、本発明の請求項6に係る測定装置は、小型化及び低消費電力化を図ることができる。
【0020】
本発明の請求項7に係る磁気同調デバイス駆動方法は、請求項1に記載の磁気同調デバイス駆動回路により前記磁気同調デバイスを駆動する磁気同調デバイス駆動方法であって、予め定められた固定電圧を入力し、印加された出力電圧制御信号に応じた電圧を前記電圧出力部から出力する電圧出力ステップと、前記電圧出力部の出力電圧を所望の同調周波数に応じた電流に変換して前記同調コイルに供給する電流供給ステップと、前記電流が供給された同調コイルの電圧の絶対値を所定分だけ大きくし、この大きくした電圧を前記出力電圧制御信号として前記電圧出力部に出力する電圧シフトステップと、を含む構成を有している。
【0021】
この構成により、本発明の請求項7に係る磁気同調デバイス駆動方法は、小型化及び低消費電力化を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、小型化及び低消費電力化を図ることができるという効果を有する磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態における磁気同調デバイス駆動回路のブロック構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態における磁気同調デバイス駆動回路のスイッチング電源回路の出力電圧と同調コイルの印加電圧との関係を示す図である。
【図3】本発明の第1実施形態における磁気同調デバイス駆動回路の消費電力と従来の消費電力とを比較した結果を示す図である。
【図4】本発明の第2実施形態における磁気同調デバイス駆動回路のブロック構成図である。
【図5】本発明の第2実施形態における磁気同調デバイス駆動回路のスイッチング電源回路の出力電圧と、ノイズフィルタの出力電圧と、同調コイルの印加電圧との関係を示す図である。
【図6】本発明の第3実施形態におけるスペクトラムアナライザのブロック構成図である。
【図7】従来の磁気同調デバイス駆動回路のブロック構成図である。
【図8】従来の磁気同調デバイス駆動回路の電源電圧と同調コイルの印加電圧との関係を示す図である。
【図9】従来の磁気同調デバイス駆動回路において、周波数の掃引速度の高速化を図る場合の、電源電圧と同調コイルの印加電圧との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明に係る磁気同調デバイス駆動回路がYTFを駆動するものとして説明する。
【0025】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る磁気同調デバイス駆動回路の第1実施形態における構成について説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施形態における磁気同調デバイス駆動回路10は、YTF50を駆動するものである。YTF50は、磁気コア(図示省略)に巻かれた同調コイル51を有し、同調コイル51に供給される電流に応じた周波数(同調周波数)で所定信号のフィルタリングを行うものである。同調コイル51の一方端は後述する定電流回路12に接続され、他方端はグランドに接続されている。なお、YTF50は、本発明に係る磁気同調デバイスを構成する。
【0027】
磁気同調デバイス駆動回路10は、スイッチング電源回路11、定電流回路12、電圧シフト部15を備えている。
【0028】
スイッチング電源回路11は、図示しない電源に接続されており、例えば+12Vの電源電圧が印加されるようになっている。また、スイッチング電源回路11は、加算回路14から出力電圧制御信号が印加され、出力電圧が出力電圧制御信号の電圧と等しくなるよう動作し、電源電圧よりも高い電圧又は低い電圧を生成して定電流回路12に出力するようになっている。例えば、スイッチング電源回路11は、+12V固定の電源電圧が印加される場合に、出力電圧制御信号に応じて、+1Vから+30Vまでの電圧を出力するものである。なお、スイッチング電源回路11は、本発明に係る電圧出力部を構成する。
【0029】
定電流回路12は、スイッチング電源回路11の出力電圧を入力するとともに、電流値設定情報を入力するようになっている。この電流値設定情報は、例えば電圧であり、YTF50が所望の同調周波数で所定信号のフィルタリングを行うよう同調コイル51に流す電流を定めるためのものである。また、定電流回路12は、スイッチング電源回路11の出力電圧を電流値設定情報に対応する電流にして同調コイル51に供給するようになっている。なお、定電流回路12は、本発明に係る電流供給部を構成する。
【0030】
電圧シフト部15は、シフト電圧供給部13と、加算回路14とを有している。
【0031】
シフト電圧供給部13は、予め定められた正のシフト電圧(例えば+1V)を加算回路14に出力するようになっている。このシフト電圧の電圧値は、YTF50の特性に応じて決めるのが好ましい。
【0032】
加算回路14は、同調コイル51に供給された電流により発生する同調コイル51の電圧(正)と、シフト電圧供給部13が出力するシフト電圧とを加算するようになっている。また、加算回路14は、加算後の電圧をスイッチング電源回路11に出力電圧制御信号として出力するようになっている。
【0033】
なお、電圧シフト部15は、上述の構成の他に、乗算器を用いて、同調コイル51の電圧に所定の定数(1より大)を乗じたり、予め記憶したテーブルや行列を用いたり、特定の関数で演算することにより、同調コイル51の電圧を所定分だけ大きくして出力電圧制御信号として出力する構成であってもよい。
【0034】
前述の構成により、磁気同調デバイス駆動回路10において、スイッチング電源回路11と同調コイル51の印加電圧との関係は図2に示すようになる。すなわち、スイッチング電源回路11は、同調コイル51の印加電圧に例えば+1Vのシフト電圧を加えた電圧を常に出力することとなる。したがって、磁気同調デバイス駆動回路10は、図8に示した不要な電圧の領域を大幅に狭めることができる。つまり、磁気同調デバイス駆動回路10は、従来のものよりも大幅に消費電力を低減することができる。以下、図3を用いて具体的に説明する。
【0035】
図3は、駆動回路が消費する消費電力に関し、本発明に係る磁気同調デバイス駆動回路10と従来のものとを比較したものである。消費電力を算出した周波数は、5GHzから40GHzまでとした。
【0036】
ここで、周波数10GHzにおける消費電力の算出値を例に挙げて具体的に説明する。算出条件として、スイッチング電源回路11が入力する電源電圧を+12V(固定)、スイッチング電源回路11の効率を85%(一定値)、同調コイル51の感度を25MHz/mA、同調コイル51の抵抗を5Ω、シフト電圧供給部13が加算回路14に出力するシフト電圧を+1Vとする。
【0037】
まず、定電流回路12の消費電力aについて説明する。同調コイル51を10GHzに同調させるには、400mA(=10GHz/25MHz/mA)の電流が必要である。定電流回路12が400mAの電流を同調コイル51に流すには、2V(=5Ω×400mA)の電圧を同調コイル51に印加する必要がある。同調コイル51の印加電圧に対し、加算回路14は+1Vのシフト電圧を加算してスイッチング電源回路11に出力するので、スイッチング電源回路11は同調コイル51の印加電圧に対し+1Vの電位差を取るよう動作する。すなわち、スイッチング電源回路11が定電流回路12に出力する出力電圧は3V(=2V+1V)である。その結果、定電流回路12の消費電力aは、0.4W(=(3V−2V)×400mA)となる。
【0038】
次に、スイッチング電源回路11が定電流回路12に供給する電力bについて説明する。前述のように、スイッチング電源回路11が定電流回路12に出力する出力電圧は3V、定電流回路12が同調コイル51に供給する電流は400mAであるので、スイッチング電源回路11が定電流回路12に供給する電力bは1.2W(=3V×400mA)となる。
【0039】
次に、スイッチング電源回路11の入力電力cについて説明する。スイッチング電源回路11の効率を85%としているので、スイッチング電源回路11の入力電力cは1.41W(=1.2W/0.85)となる。
【0040】
以上より、周波数10GHzにおける磁気同調デバイス駆動回路10の全体の消費電力(a+(c−b))は、0.61W(=0.4W+(1.41W−1.2W))となる。
【0041】
次に、図7に示した構成において10GHzでの従来の磁気同調デバイス駆動回路1の消費電力について説明する。従来の磁気同調デバイス駆動回路1における消費電力の算出条件は前述の条件と同一とすると、前述のように、同調コイル4を10GHzに同調させる電流は400mA、定電流回路2が400mAの電流を同調コイル4に流すには2Vの電圧を同調コイル4に印加する必要がある。定電流回路2が入力する電源電圧は12V(固定)であるので、定電流回路12において10V(=12V−2V)の電圧降下を要する。したがって、従来の磁気同調デバイス駆動回路1の消費電力は、4.0W(=10V×400mA)となる。
【0042】
ここで、従来の磁気同調デバイス駆動回路1の消費電力=1として規格化すると、磁気同調デバイス駆動回路10の全体の消費電力は0.15となる。したがって、磁気同調デバイス駆動回路10は、10GHzにおける消費電力を従来のものより85%も改善することができることが分かる。図3に示した周波数では、5GHzでの88%の改善から40GHzでの35%の改善までの効果が得られている。
【0043】
この消費電力は熱に変換されるので、磁気同調デバイス駆動回路10は、従来のものよりも小型の放熱機構を備えることができ、装置の小型化及び低消費電力化を図ることができる。また、それにより、磁気同調デバイス駆動回路10は、低コスト化を図ることができる。
【0044】
以上のように、本実施形態における磁気同調デバイス駆動回路10によれば、スイッチング電源回路11が、同調コイル51の電圧にシフト電圧を加えた電圧を定電流回路12に印加すればよく、スイッチング電源回路11及び定電流回路12の消費電力を低減することができるので、従来よりも小型の放熱機構を備えればよいこととなる。その結果、本発明の磁気同調デバイス駆動回路10は、小型化及び低消費電力化を図ることができる。また、それにより、磁気同調デバイス駆動回路10は、低コスト化を図ることができる。
【0045】
なお、前述の実施形態において、同調コイル51の印加電圧が正の場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されず、同調コイル51に負の電圧を印加する構成の場合でも同様の効果が得られる。この場合、シフト電圧供給部13が加算回路14に出力するシフト電圧は負の電圧となる。
【0046】
また、前述の実施形態では、磁気同調デバイス駆動回路10がYTF50を駆動する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、YTO等の磁気同調デバイスを駆動するものであってもよい。
【0047】
(第2実施形態)
前述の第1実施形態における構成では、スイッチング電源回路11(図1参照)の動作により発生するノイズが無視できない場合がある。そこで、このノイズを低減するノイズフィルタを設けた実施形態を説明する。
【0048】
図4に示すように、本実施形態における磁気同調デバイス駆動回路20は、第1実施形態の磁気同調デバイス駆動回路10(図1参照)の構成を一部変更したものである。図示のように、磁気同調デバイス駆動回路20は、スイッチング電源回路21、トランジスタ22、定電流回路23、第1電圧シフト部28、第2電圧シフト部29を備えている。ここで、トランジスタ22は、本発明に係るノイズフィルタを構成する。
【0049】
なお、スイッチング電源回路21及び定電流回路23は、それぞれ、第1実施形態におけるスイッチング電源回路11及び定電流回路12に対応する構成を有するので、第1実施形態の説明と重複する説明は省略する。
【0050】
スイッチング電源回路21は、出力電圧(正)をトランジスタ22のコレクタ電極に出力するようになっている。トランジスタ22のエミッタ電極は、定電流回路23の入力側に接続されている。
【0051】
第1電圧シフト部28は、第1シフト電圧供給部24と、第1加算回路25とを有している。
【0052】
第1シフト電圧供給部24は、予め定められた正の第1シフト電圧(例えば+1V)を第1加算回路25に出力するようになっている。なお、第1シフト電圧供給部24は、本発明に係るシフト電圧供給部を構成する。
【0053】
第1加算回路25は、同調コイル51に供給された電流により発生する同調コイル51の電圧(正)と、第1シフト電圧供給部24が出力する第1シフト電圧(正)とを加算するようになっている。また、第1加算回路25は、加算後の電圧をスイッチング電源回路21に出力電圧制御信号として出力するようになっている。なお、第1加算回路25は、本発明に係る加算回路を構成する。
【0054】
なお、第1電圧シフト部28は、上述の構成の他に、乗算器を用いて、同調コイル51の電圧に所定の定数(1より大)を乗じたり、予め記憶したテーブルや行列を用いたり、特定の関数で演算することにより、同調コイル51の電圧を所定分だけ大きくして出力電圧制御信号として出力する構成であってもよい。
【0055】
第2電圧シフト部29は、第2シフト電圧供給部26と、第2加算回路27とを有している。
【0056】
第2シフト電圧供給部26は、予め定められた負の第2シフト電圧(例えば−0.5V)を第2加算回路27に出力するようになっている。ここで、第2シフト電圧の絶対値は、第1シフト電圧の絶対値より小さい。
【0057】
第2加算回路27は、第1加算回路25の出力電圧(正)と、第2シフト電圧供給部26が出力する第2シフト電圧(負)とを加算するようになっている。また、第2加算回路27は、加算後の電圧をトランジスタ22のベース電極に出力するようになっている。
【0058】
なお、第2電圧シフト部29は、上述の構成の他に、乗算器を用いて、第1電圧シフト部28の出力電圧に所定の定数(1より小)を乗じたり、予め記憶したテーブルや行列を用いたり、特定の関数で演算することにより、第1電圧シフト部28の出力電圧を所定分だけ小さく(ただし、同調コイル51の電圧より大きく)してトランジスタ22に出力する構成であってもよい。
【0059】
また、第2電圧シフト部29は、同調コイル51の電圧(正)と、第2シフト電圧供給部26が出力する第2シフト電圧(ここでは正、例えば+0.5V)とを加算したり、上述のように、乗算、テーブル、行列、関数等を用いて、同調コイル51の電圧を所定分だけ大きく(ただし、第1電圧シフト部28の所定分より小さく)してトランジスタ22に出力する構成であってもよい。
【0060】
前述の構成により、磁気同調デバイス駆動回路20において、スイッチング電源回路21と同調コイル51の印加電圧との関係は図5に示すようになる。すなわち、スイッチング電源回路21の出力電圧は、同調コイル51の印加電圧に例えば+1Vの第1シフト電圧を加えた電圧となり、図示のようにノイズ成分を含むが、第2シフト電圧供給部26が例えば−0.5Vの第2シフト電圧を出力する構成により、ノイズフィルタ(トランジスタ22)からはノイズ成分が除去され、同調コイル51の印加電圧よりも常に+0.5V高い電圧が出力されることとなる。
【0061】
以上のように、磁気同調デバイス駆動回路20は、従来のものよりも大幅に消費電力を低減することに加えて、トランジスタ22によるノイズフィルタを備えることにより、スイッチング電源回路21の出力電圧に含まれるノイズ成分を低減することができる。すなわち、磁気同調デバイス駆動回路20は、従来のものよりも小型の放熱機構を備えることができ、装置の小型化及び低消費電力化を図るとともに、スイッチング電源回路21の出力電圧に含まれるノイズ成分を低減することができる。
【0062】
(第3実施形態)
本実施形態では、第2実施形態における磁気同調デバイス駆動回路20(図4参照)をスペクトラムアナライザに適用した例を挙げる。
【0063】
図6に示すように、本実施形態におけるスペクトラムアナライザ100は、磁気同調デバイス駆動回路30、ソフトウェア処理部40、YTF50、掃引制御部60を備えている。ここで、YTF50は、バンドパスフィルタとして動作するものである。また、掃引制御部60は、本発明に係る同調周波数情報出力部を構成する。また、スペクトラムアナライザ100は、本発明に係る測定装置を構成する。
【0064】
スペクトラムアナライザ100は、図示を省略したが信号合成器及び局部発振器を備えており、被測定信号と、局部発振器からの周波数信号とが信号合成器に入力されるようになっている。この局部発振器における周波数信号の周波数は掃引制御部60によって設定された測定周波数範囲に対応する周波数範囲内で掃引される。信号合成器は、被測定信号の周波数を局部発振器からの周波数信号を用いて中間周波数に変換する。中間周波数に変換された被測定信号はYTF50で不要周波数成分が除去されて中間周波数信号として出力される。そのため、掃引制御部60は、YTF50が所望の同調周波数で被測定信号のフィルタリングを行うよう同調コイル51に流す電流を定めた電流値設定情報を磁気同調デバイス駆動回路30の定電流回路33に出力するようになっている。
【0065】
磁気同調デバイス駆動回路30は、電流検知抵抗34と、DA変換部35とを備えている。
【0066】
電流検知抵抗34は、一端が定電流回路33及び同調コイル51に接続され、他端がグランドに接続されている。
【0067】
DA変換部35は、後述するIF(インターフェース)部47の出力電圧をデジタル値からアナログ値に変換し、トランジスタ32のベース電極に出力するようになっている。
【0068】
定電流回路33は、電流検知抵抗34の電圧が、電流値設定情報として定められた電圧と等しくなるよう同調コイル51に電流を供給するようになっている。
【0069】
ソフトウェア処理部40は、CPU、ROM、RAM等(図示省略)のハードウェアと、ROMに格納されたソフトウェアとの協働によって実現されるものである。このソフトウェア処理部40は、AD変換部41及び42、第1電圧シフト部71、第2電圧シフト部72、IF部47を備えている。
【0070】
AD変換部41は、スイッチング電源回路31の出力電圧(正)をアナログ値からデジタル値に変換し、変換後の電圧をスイッチング電源回路31の現在の出力電圧(以下「現在電圧」という。)としてスイッチング電源制御部48に出力するようになっている。
【0071】
AD変換部42は、同調コイル51の印加電圧(正)をアナログ値からデジタル値に変換し、第1加算回路44及び第2加算回路46に出力するようになっている。
【0072】
第1電圧シフト部71は、第1シフト電圧供給部43と、第1加算回路44とを有している。なお、第1電圧シフト部71は、前述の第2実施形態における第1電圧シフト部28と同様に、様々な構成であってもよい。
【0073】
第1シフト電圧供給部43は、予め定められた正の第1シフト電圧(例えば+1V)に相当するデジタル値を第1加算回路44に出力するようになっている。
【0074】
第1加算回路44は、AD変換部42の出力値(正)と第1シフト電圧供給部43の出力値(正)とを加算し、加算後の値をスイッチング電源回路31の目標の出力電圧(以下「目標電圧」という。)としてスイッチング電源制御部48に出力するようになっている。
【0075】
第2電圧シフト部72は、第2シフト電圧供給部45と、第2加算回路46とを有している。なお、第2電圧シフト部72は、前述の第2実施形態における第2電圧シフト部29と同様に、様々な構成であってもよい。
【0076】
第2シフト電圧供給部45は、予め定められた負の第2シフト電圧(例えば−0.5V)に相当するデジタル値を第2加算回路46に出力するようになっている。
【0077】
第2加算回路46は、第1加算回路44の出力値(正)と第2シフト電圧供給部45の出力値(負)とを加算し、加算後の値をIF部47に出力するようになっている。
【0078】
IF部47は、第2加算回路46の出力電圧(正)のデジタルデータをDA変換部35に順次出力するようになっている。
【0079】
スイッチング電源制御部48は、AD変換部41が出力する現在電圧と第1加算回路44が出力する目標電圧とが一致するようスイッチング電源回路31に出力電圧制御信号を出力するようになっている。
【0080】
磁気同調デバイス駆動回路30及びソフトウェア処理部40は、前述のように構成されているので、例えば、第1シフト電圧が+1V、第2シフト電圧が−0.5Vとすると、第2実施形態で説明したように(図5参照)、ノイズフィルタであるトランジスタ32からはノイズ成分が除去され、同調コイル51の印加電圧よりも常に+0.5V高い電圧が出力されることとなる。
【0081】
したがって、スペクトラムアナライザ100は、従来のものよりも大幅に消費電力を低減することに加えて、トランジスタ32によるノイズフィルタを備えることにより、スイッチング電源回路31の出力電圧に含まれるノイズ成分を低減することができる。その結果、スペクトラムアナライザ100は、従来のものよりも小型で低コストの放熱機構を備えることができ、装置の小型化及び低消費電力化を図るとともに、スイッチング電源回路31の出力電圧に含まれるノイズ成分を低減することができる。
【0082】
なお、前述の実施形態では、YTFを備えたスペクトラムアナライザを例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、YTFやYTO等の磁気同調デバイスを備えた測定装置、例えば信号発生器等に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上のように、本発明に係る磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法は、小型化及び低消費電力化を図ることができるという効果を有し、磁気共鳴素子を用いた磁気同調デバイスを駆動する磁気同調デバイス駆動回路及びそれを備えた測定装置並びに磁気同調デバイス駆動方法として有用である。
【符号の説明】
【0084】
10、20、30 磁気同調デバイス駆動回路
11、21、31 スイッチング電源回路(電圧出力部)
12、23、33 定電流回路(電流供給部)
13 シフト電圧供給部
14 加算回路
15 電圧シフト部
22、32 トランジスタ
24、43 第1シフト電圧供給部(シフト電圧供給部)
25、44 第1加算回路(加算回路)
26、45 第2シフト電圧供給部
27、46 第2加算回路
28、71 第1電圧シフト部
29、72 第2電圧シフト部
34 電流検知抵抗
35 DA変換部
40 ソフトウェア処理部
41、42 AD変換部
47 IF部
48 スイッチング電源制御部
50 YTF(磁気同調デバイス)
51 同調コイル
60 掃引制御部(同調周波数情報出力部)
100 スペクトラムアナライザ(測定装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気同調デバイス(50)の同調コイル(51)に電流を供給して駆動する磁気同調デバイス駆動回路(10)において、
予め定められた固定電圧を出力する電源に接続され、印加された出力電圧制御信号に応じた電圧を出力する電圧出力部(11)と、前記電圧出力部の出力電圧を所望の同調周波数に応じた電流に変換して前記同調コイルに供給する電流供給部(12)と、前記電流が供給された同調コイルの電圧の絶対値を所定分だけ大きくし、この大きくした電圧を前記出力電圧制御信号として前記電圧出力部に出力する電圧シフト部(15)と、を備えたことを特徴とする磁気同調デバイス駆動回路。
【請求項2】
前記電圧シフト部は、前記電流が供給された同調コイルの電圧の絶対値を所定値だけ大きくするシフト電圧を供給するシフト電圧供給部(13)と、前記同調コイルの電圧と前記シフト電圧とを加算し、加算後の電圧を前記出力電圧制御信号として前記電圧出力部に出力する加算回路(14)と、を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気同調デバイス駆動回路。
【請求項3】
前記電圧出力部と前記電流供給部との間に設けられ、前記電圧出力部の出力電圧に含まれるノイズ成分を除去するノイズフィルタ(22)をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の磁気同調デバイス駆動回路。
【請求項4】
前記電圧シフト部を第1電圧シフト部(28)として備え、
前記第1電圧シフト部が出力する出力電圧の絶対値を、前記同調コイルの電圧の絶対値よりも大きい範囲内で、所定分だけ小さくして前記ノイズフィルタの出力電圧をシフトさせる第2電圧シフト部(29)をさらに備えたことを特徴とする請求項3に記載の磁気同調デバイス駆動回路。
【請求項5】
前記第2電圧シフト部は、前記第1電圧シフト部が出力する出力電圧の絶対値を、前記同調コイルの電圧の絶対値よりも大きい範囲内で、所定値だけ小さくするシフト電圧を供給するシフト電圧供給部(26)と、このシフト電圧供給部が出力するシフト電圧と前記第1電圧シフト部が出力する出力電圧とを加算し、加算後の電圧を前記ノイズフィルタの出力電圧をシフトさせる電圧として前記ノイズフィルタに出力する加算回路(27)と、を有することを特徴とする請求項4に記載の磁気同調デバイス駆動回路。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5に記載の磁気同調デバイス駆動回路と、前記磁気同調デバイスと、前記所望の同調周波数を示す情報を前記電流供給部に出力する同調周波数情報出力部(60)と、を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の磁気同調デバイス駆動回路により前記磁気同調デバイスを駆動する磁気同調デバイス駆動方法であって、
予め定められた固定電圧を入力し、印加された出力電圧制御信号に応じた電圧を前記電圧出力部から出力する電圧出力ステップと、前記電圧出力部の出力電圧を所望の同調周波数に応じた電流に変換して前記同調コイルに供給する電流供給ステップと、前記電流が供給された同調コイルの電圧の絶対値を所定分だけ大きくし、この大きくした電圧を前記出力電圧制御信号として前記電圧出力部に出力する電圧シフトステップと、を含むことを特徴とする磁気同調デバイス駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−156864(P2012−156864A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15360(P2011−15360)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】