説明

神経再生及び機能回復のためのシグマリガンド

神経変性疾患における神経再生及び機能回復を容易にするために有用な方法及び組成物を開示する。該方法及び組成物はシグマ受容体リガンドを利用し、該リガンドは好ましくはAGY−94806又はその塩若しくは溶媒和物である。これらの分子は虚血性脳卒中、糖尿病性末梢神経障害、がん治療によって誘発される神経障害、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、外傷性脳損傷、ハンチントン病又はパーキンソン病によって起こるような神経変性疾患を治療又は予防する薬剤とともに又は単独で投与することができる。他の方法において、シグマ受容体リガンドは機能回復を容易にするために脳卒中後に投与される。シグマ受容体リガンドの投与はより早期の機能回復をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2004年6月14日出願の米国出願番号10/868,423の一部継続出願でありその出願に基づく優先権を主張し、該出願は、2003年6月12日出願の米国仮特許出願番号60/478,735、2003年6月12日出願の60/478,329、2003年8月26日出願の60/498,132、及び2004年3月12日出願の60/552,613の利益を主張し、並びに、2004年6月14日出願の国際出願番号PCT/US2004/01939、公開番号WO2004/110387A2の継続出願であり、それら全てを引用によりそれらの全体を本明細書の一部とする。
【0002】
発明の分野
本発明は、神経変性疾患を有する被験者において神経再生を達成するための治療方法に関するものである。特に、本発明は、神経変性疾患後の被験者において神経再生及び機能回復を容易にするためのシグマ受容体リガンドの使用に関するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
シグマ受容体の存在は、ベンゾモルファンの精神異常作用を説明するために、Martinら(1976)J.Pharmacol.Exp.Ther.197:517−532によって提唱された。当初、シグマ受容体は新規オピオイド受容体であると考えられていた。しかしながら、ベンゾモルファンのシグマ受容体への結合は、古典的オピオイド受容体アンタゴニストであるナロキソンによって拮抗されない。更に、ベンゾモルファンは、N−メチル−D−アスパルテート(NMDA)受容体複合体上のフェンシクリジン受容体とは異なる部位に結合する。従って、シグマ受容体は独特の受容体として確立されている。
【0004】
シグマ受容体は、シグマ−1及びシグマ−2という名の二つのサブタイプからなる。Hellewell及びBowen(1990)Brain Res.、527:224−253は、二つの推定シグマ受容体サブタイプの特徴を初めて定義した。これら二つの部位間の主な薬理学的相違点は、結合部位に対するベンゾモルファン麻酔薬の(+)異性体の親和性にある。(+)SKF10,047(NANM)及び(+)ペンタゾシンなどのこれら化合物は、シグマ−1部位に対してシグマ−2部位に対してよりもほぼ2桁高い親和性を示す。ベンゾモルファンの(−)異性体は、これら二つの部位間でほとんど選択性を示さない。二つの部位間で注目される他の相違点は、NCB−20、PC12及びNG108−15のような細胞株におけるシグマ−2部位の優勢である(Hellewell及びBowen;Quirionら(1992)Trends in Pharmacological Sciences、13:85−86)。シグマ−1受容体は同定され、クローン化されているが、シグマ−2受容体は未だにそうではない(Langaら、(2003)European Journal of Neuroscience、18:2188−2196)。シグマ受容体の内在リガンドは知られていない。
【0005】
脳におけるシグマ−1受容体のサブセルラー分布には、海馬、皮質層及び嗅球が含まれる。シグマ−1は26kDaタンパク質であり、受容体をコードする遺伝子はクローン化されている。疎水性プロット分析は、シグマ−1受容体が二つの膜貫通セグメントを有することを示唆している。更に、シグマ−1受容体は他の公知の哺乳動物タンパク質と相同性がない。
【0006】
両方のタイプのシグマ受容体は、末梢組織のみならず中枢神経系でも発現する。従って、受容体に対するリガンドは神経変性疾患の治療及び予防に用いることができるであろう。そのため、脳シグマ受容体は活発な研究の対象となっている(Sondersら(1988)Trends Neurosci.、:37−40)。一般に、シグマ受容体は、精神病薬、抗うつ薬及び神経ステロイドのような幅広いリガンドに対して無差別に結合する。これらはうつ病の行動モデルのみならず健忘症の動物モデルにおいても学習及び記憶に重要な役割を果たすことが示されている。非常に多くの研究は、脳虚血の動物モデルにおいてシグマ受容体リガンドの強い神経保護特性を示している。これらシグマリガンドのうちのいくつかの神経保護メカニズムは、シグマ受容体もNMDA受容体チャネル複合体のフェンシクリジン(PCP)結合部位もこうした作用に貢献することが報告されているため、論争になっている。
【0007】
神経変性疾患は神経細胞の機能障害及び細胞死を特徴とし、脳、脊髄及び末梢神経系によって媒介される機能の喪失をもたらす。こうした障害は社会に大きな影響をもつ。例えば、およそ4〜5百万人のアメリカ人がアルツハイマー病として知られる慢性神経変性疾患に悩まされている。慢性神経変性疾患の他の例には、糖尿病性末梢神経障害、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、外傷性脳損傷、脊髄損傷、ハンチントン病及びパーキンソン病が含まれる。正常な脳の加齢も正常な神経機能の喪失に関連しており、ある種のニューロンの減少を必然的に伴い得る。
【0008】
脳卒中は米国における死亡原因の第3位であり、神経科の入院患者の半数を占める。損傷を受けた脳の領域によって、脳卒中は昏睡、麻痺、言語問題及び痴呆を引き起こし得る。脳梗塞の主な原因は、血管内血栓、脳塞栓、低血圧、高血圧性出血、及び無酸素症/低酸素症である。しかしながら、成人の脳は、可塑性及び機能再構築のための能力を生涯にわたって、たとえ脳卒中又は脳虚血の後であっても、保持している。ニューロン結合は継続的に改築される。脳の障害部分を代償する脳の潜在的能力は、脳卒中のリハビリテーションのための適切さを有する。脳卒中患者の神経画像診断はある程度の機能再構築を示唆している。このように、脳可塑性の1つの側面は、脳卒中患者において、感覚入力、体験及び学習によってニューロン結合を修飾することができること、そして脳は、機能的及び構造的再構築、ある事象に対する神経反応の上方制御又は下方制御、側枝発芽及び代償性シナプス形成並びに神経発生による新規な機能的及び構造的結合の確立によって、対応できることである。
【0009】
しかしながら、脳の可塑性に対する環境因子の効果に加えて、薬物や薬物と環境因子との相互作用は考慮すべき他の側面である。したがって、神経再生及び機能回復を補助するために脳可塑性を利用する中枢神経系疾患及び他の病態を治療するための新規薬物、そして、新規方法に対する必要性が存在し続けている。本発明は、これら及び他の必要性を満たすものである。
【0010】
いくつかのシグマ受容体リガンドは、薬物の神経保護活性に関する試験における予測モデルにおいて神経保護性である(即ち、神経細胞死及びその結果として起こる機能喪失から保護する)ことがわかっている。例えば、シグマ受容体リガンド オピプラモールは、アレチネズミにおいて虚血から保護することがわかっており、NMDA型グルタメート受容体を調節することがわかっている。更に、BMY−14802、カラミフェン及びハロペリドールを含めた他のシグマリガンドは、NMDAによって誘発される毒性及び発作に対して保護効果を提供できることと一致した特性をin vivoモデルにおいて発揮し(M.Pontecorvoら(1991)Brain Res.Bull.,26:461−465)、いくつかのシグマリガンドは、虚血によって誘導される海馬スライス標本からのグルタメート放出をin vitroで阻害することがわかった(D.Lobnerら(1990)Neuroscience Lett.,117:169−174)。
【0011】
米国特許第5,736,546号は、シグマ受容体のリガンドのある種の1,4−(ジフェニルアルキル)ピペラジン誘導体について開示する。その中の化合物のうちの1つ、1−(3,4−ジメトキシフェネチル)−4−(3−フェニルプロピル)ピペラジンは、現在SA4503又はAGY−94806としても知られている。Nakazawaら、(1998)Neurochem.Int.32:337−343は、AGY−94806が選択的シグマ−1アゴニストであり、ラットの初代神経細胞カルチャーにおいて低酸素症/低血糖症で誘発される神経毒性を有意に抑制したことを報告している。この神経保護作用は、シグマ−1受容体は神経変性の治療に有用であり得るとの示唆を著者らにもたらした(342頁参照)。Sendaら、(1998)European Journal of Pharmacology、342:105−111は、AGY−94806が培養ラット網膜神経細胞においてグルタメートの神経毒性に対して活性があることを発見したと更に報告している。著者らは、シグマ−1受容体アゴニストは、中心及び分岐網膜動脈閉塞、真性糖尿病、加齢に関連した黄斑変性、異常ヘモグロビン症並びにさまざまなタイプの緑内障などの虚血による神経細胞死を伴う網膜疾患に対して有用であり得ることを示唆している。現在AGY−94806はうつ病治療用に臨床開発されており、痴呆症及び薬物依存症の治療に潜在的用途があると注目されてもいる。
【0012】
米国特許第5,665,725号は、シグマ受容体のリガンドのある種のピペリジン誘導体を開示する。これらの化合物は、不安、精神病、てんかん、けいれん、movement disorder、motor disturbance、健忘症、脳血管疾患、アルツハイマー型老年性痴呆症及びパーキンソン病の治療に有用であるといわれている。これらの化合物のうちの1つ、1’−[4−[1−(4−フルオロフェニル)−1H−インドール−3−イル]−1−ブチル]スピロ[イソベンゾフラン−1(3H),4’−ピペリジン]は、Lu28−179又はシラメシンとしても知られている。これは選択的シグマ−2アゴニストであり、シグマ−1受容体に対する活性も示す(Perregaard J.ら、(1995)J.Med.Chem.、38:1998−2008)。国際特許出願、公開番号WO99/24436号は、前記化合物のハロゲン化水素塩、特に塩酸塩は、良好なバイオアベイラビリティを有することを更に開示する。
【特許文献1】米国特許第5,665,725号
【特許文献2】米国特許第5,736,546号
【特許文献3】公開番号WO99/24436号
【非特許文献1】Martinら、J.Pharmacol.Exp.Ther.197:517−532(1976)
【非特許文献2】Hellewell及びBowen、Brain Res.、527:224−253(1990)
【非特許文献3】Hellewell及びBowen;Quirionら、Trends in Pharmacological Sciences、13:85−86(1992)
【非特許文献4】Langaら、European Journal of Neuroscience、18:2188−2196(2003)
【非特許文献5】Sondersら、Trends Neurosci.、1:37−40(1988)
【非特許文献6】M.Pontecorvoら、Brain Res.Bull.,26:461−465(1991)
【非特許文献7】D.Lobnerら、Neuroscience Lett.,117:169−174(1990)
【非特許文献8】Nakazawaら、Neurochem.Int.32:337−343(1998)
【非特許文献9】Sendaら、European Journal of Pharmacology、342:105−111(1998)
【非特許文献10】Perregaard J.ら、J.Med.Chem.、38:1998−2008(1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、先行技術は、シグマリガンドが神経変性疾患を有する被験者の治療において神経保護剤として有用であり得ることを示唆している。
【0014】
今回、予想外にも、ある種のシグマリガンドは神経変性疾患を患う被験者において機能回復を容易にすることがわかった。したがって、シグマリガンドは、神経障害後の神経変性疾患の治療において神経再生剤として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、神経変性疾患を治療するための方法及び組成物を提供する。本発明のシグマ受容体リガンドは機能回復及び神経再生を促進する。これらの分子は単独で又は追加の薬剤と組み合わせて送達することができ、虚血性脳卒中又は神経を傷つける他の傷害原因によるような神経変性疾患を治療するための神経再生剤として用いられる。
【0016】
したがって、1つの側面では、本発明は、それを必要とする被験者の神経変性疾患を治療又は予防するための方法に関する。この方法は、医薬的に有効量のシグマ受容体のリガンドを被験者に投与することを含む。
【0017】
したがって、本発明は、それを必要とする哺乳動物被験者の神経変性疾患を、神経再生を容易にして神経変性疾患後の機能回復をもたらすように治療するための方法を提供し、この方法は医薬的に有効量のシグマ受容体リガンドを被験者に投与することを含む。
【0018】
他の側面では、本発明は、哺乳動物被験者において神経再生を容易にして神経変性疾患後の機能回復をもたらすための医薬の製造におけるシグマリガンドの使用を提供する。
【0019】
更に他の側面では、本発明は、神経再生を容易にして神経変性疾患後の機能回復をもたらすように哺乳動物被験者を治療するためのシグマリガンドを含む医薬組成物を提供する。
【0020】
神経変性疾患は、虚血性脳卒中、アルツハイマー病、糖尿病性末梢神経障害、がん治療によって誘発される神経障害、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、外傷性脳損傷、脊髄損傷、ハンチントン病又はパーキンソン病であり得るが、好ましくは虚血性脳卒中、外傷性脳損傷、又は脊髄損傷である。更に、本発明は、追加の活性物質の投与方法を提供する。本発明のリガンドは、医薬的に許容可能な賦形剤を含有する医薬組成物で投与することができる。賦形剤は、経口投与に好適であり得る。したがって、組成物は錠剤、カプセル、又は軟ゲルカプセルの形態であり得る。
【0021】
あるいは、賦形剤は、静脈内投与、筋肉内投与、又は皮下投与に好適な液体であり得る。あるいは、賦形剤は経皮投与、又は口腔内投与に好適であり得る。シグマ受容体リガンドは、1−(3,4−ジメトキシフェネチル)−4−(3−フェニルプロピル)ピペラジン(AGY−94806)又はその医薬的に許容可能な塩若しくは溶媒和物であることが好ましい。
【0022】
本発明は、脳卒中、脊髄虚血、脊髄損傷及び外傷性脳損傷のような中枢神経系障害患者のリハビリテーションのための方法及び組成物を提供する。本発明は、シグマ受容体リガンド、好ましくはAGY−94806を脳卒中後約48時間以内に、1〜3カ月間、好ましくは最長1年、より好ましくは継続的に患者に投与した場合、患者の機能障害状態を回復させるという発見に基づいている。リガンドは単独で又は追加の薬剤と組み合わせて送達することができる。AGY−94806は、例えば治療期間中毎日投与することができる。
【0023】
したがって、1つの側面では、本発明は、医薬的に有効量のシグマ受容体リガンドを脳卒中症状の発現直後1〜3カ月間被験者に投与することを含む、被験者の脳卒中を治療する方法に関する。シグマ受容体リガンドは、1−(3,4−ジメトキシフェネチル)−4−(3−フェニルプロピル)ピペラジン(AGY−94806)又はその医薬的に許容可能な塩若しくは溶媒和物、例えばAGY−94806のHCl塩又は二塩酸塩、であることが好ましい。
【0024】
本発明の他の側面では、被験者へのシグマリガンドの投与は、神経変性疾患後、特に虚血性脳卒中、外傷性脳損傷又は脊髄損傷の後、少なくとも24時間、例えば少なくとも48時間、1週間、1カ月又は3カ月に開始する。シグマリガンドは、治療開始から反復して、例えば毎日、例えば1週間、2週間、1カ月、3カ月、1年又はそれより長期間、投与することができる。例えば、治療は、虚血性脳卒中、外傷性脳損傷又は脊髄損傷の後、少なくとも24時間、又は少なくとも48時間、少なくとも1週間に開始し、1カ月、3カ月、6カ月又は1年間継続することができる。
【0025】
被験者の治療は医師の指示の下で実施することができる。治療期間中、医師は、被験者の神経再生の徴候を評価することができる。この徴候は、脳若しくは脊髄の機能回復又は構造変化の徴候であり得る。したがって、例えば、医師は、被験者の1つ以上の機能反応を治療の直前又は開始時、及び治療後再び測定することができる。したがって、治療は神経再生(又は機能回復)の徴候が得られるまで継続することができる。
【0026】
以下により詳細に記載するように、機能回復の徴候は、例えば運動技量、認知技量、言語又は感覚による認識力及び機能の回復であり得る。運動技量の回復及び認知技量の回復について特に言及することができる。神経再生の徴候は、脳又は脊髄における構造変化の徴候でもあり得る。
【0027】
本発明の他の側面では、患者の神経変性疾患の治療に用いて神経再生(又は機能回復)を容易にする包装キットが提供される。キットには、AGY−94806又はその塩若しくは溶媒和物の医薬製剤、保存中及び投与前に医薬製剤を収容する容器、並びに神経再生(又は機能回復)を容易にするための神経変性疾患の治療に有効な方法で薬物投与を実施するための使用説明書、例えば包装挿入物又はラベル上の取扱説明書が含まれる。医薬製剤は本明細書に記載の如何なる製剤、例えば単位用量のシグマ受容体リガンドを含有する経口剤形であり得、単位用量は疾患の治療に治療上有効な用量である。
【0028】
本発明のこれら及び他の側面は、以下の詳細な説明を参照することによって明らかになるであろう。更に、ある種の手順又は組成物についてより詳細に記載したさまざまな参考文献が本明細書中に記載されており、したがってその全体が引用により組み込まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
詳細な説明
I.定義
特に明記しない限り、明細書及び特許請求の範囲を含めた本願で使用する以下の用語は下記の定義を有する。明細書及び添付の特許請求の範囲で使用するように、単数形“a”、“an”及び“the”は、文脈がその他を明示していない限りは複数の指示対象も含むことに注意しなければならない。標準的化学用語の定義は、Carey及びSundberg(1992)『応用有機化学 第3版』Vol.A及びB、Plenum出版、ニューヨーク、を含めた参考資料に見出すことができる。本発明の実践には、特に他であることを明記しない限り、質量スペクトル法、タンパク質化学、生化学、組換えDNA技術及び薬理学の慣用の方法を当該分野の技術の範囲内で採用するであろう。
【0030】
「アゴニスト」という用語は、他の分子の活性又はシグマ受容体部位の活性を高める化合物、薬物、酵素アクチベーター又はホルモンのような分子を意味する。
【0031】
「アンタゴニスト」という用語は、他の分子の作用又はシグマ受容体部位の活性を減少させるか又は妨げる化合物、薬物、酵素インヒビター、又はホルモンのような分子を意味する。
【0032】
「脳卒中」という用語は、原因にかかわらず、広く、脳への血流低下に関連した神経脱落の発症を意味する。潜在的原因には、限定されるものではないが、血栓症、出血及び塞栓形成が挙げられる。血栓、塞栓、及び全身性低血圧は、脳虚血エピソードの最も一般的な原因である。他の障害は、高血圧、高血圧性脳血管疾患、動脈瘤破裂、血管腫、血液疾患、心不全、心停止、心臓ショック、敗血症性ショック、頭部外傷、脊髄外傷、発作、腫瘍に由来する出血、又は他の失血によって引き起こされ得る。
【0033】
「虚血エピソード」とは、組織への血液供給不足をもたらす如何なる状況をも意味する。虚血が脳卒中を伴う場合、それは以下に定義するように全脳虚血又は局所脳虚血であり得る。「虚血性脳卒中」という用語は、より詳細には、限定的なもので、血流閉塞によって起こるある種の脳卒中を意味する。「虚血性脳卒中」という用語には、外科手術によって生ずるもの含めた心停止、脳卒中、及び多発梗塞性痴呆症の後の脳虚血が含まれる。脳虚血エピソードは脳への血液供給不足によって生ずる。やはり中枢神経系の一部である脊髄は、同様に、血流減少によって生ずる虚血による影響を受けやすい。
【0034】
「局所脳虚血」とは、中枢神経系に関して本明細書で用いるように、脳又は脊髄に血液を供給する1つの動脈の閉塞によって生ずる状態であって、その動脈によって供給される領域の細胞に障害をもたらすところの状態を意味する。
【0035】
「全脳虚血」とは、中枢神経系に関して本明細書で用いるように、脳全体、前脳、又は脊髄への全般的な血流減少によって生ずる状態を意味し、これらの組織全体で選択的に損傷を受けやすい領域に神経細胞死を引き起こす。これらの症例のそれぞれにおいて病状は、臨床的相関現象がそうであるように、全く異なっている。局所脳虚血モデルは局所脳梗塞患者にあてはまり、一方、全脳虚血モデルは心停止、及び全身性低血圧の他の原因に類似している。
【0036】
「神経保護剤」とは、本明細書において初期の障害部位からの神経障害の広がりを阻害する能力を含めた、神経細胞死を軽減させるのに有効な化合物を意味する。
【0037】
「マイクロアレイ」という用語は、紙、ナイロン又は他のタイプの膜、フィルター、チップ、スライドグラス、ビーズのような基板上に、あるいは他の好適な固体支持体に、所望の密度で、合成又は付着又は沈着させた個別のポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドのアレイを意味する。
【0038】
「有効量」又は「医薬的に有効量」という用語は、所望の生物学的結果を提供する、毒性はないが十分な量の薬剤を意味する。その結果は、徴候、症状、若しくは疾患の原因の軽減及び/又は緩和、あるいは生体系の他の所望の変化であり得る。例えば、治療用途の「有効量」とは、虚血性脳卒中によって生ずるもののような神経変性疾患において臨床的に有意な減少を提供するのに必要とされる本明細書に開示したシグマ受容体リガンドを含む組成物の量である。個々の症例において適切な「有効」量は通常の実験を用いて当業者が決定することができる。
【0039】
本明細書において「治療する」又は「治療」という用語は互換的に用いられ、神経変性疾患の進展の遅延、及び/又は進展する若しくは進展すると予想されるそのような症状の重篤度の低下を示すことを意味する。この用語には、存在する神経変性症状を改善すること、更なる症状を予防すること、及び症状の基礎となる代謝原因を改善又は予防することが更に含まれる。
【0040】
「医薬的に許容可能な」又は「薬理学的に許容可能な」とは、生物学的その他の理由で有害ではない材料を意味する。即ち、望ましくない生体作用を引き起こさず、組成物に含有される成分と有害な方法で相互作用することなく、その材料を個人に投与することができる。
【0041】
「生理学的pH」又は「生理学的に許容範囲のpH」とは、およそ7.2以上8.0以下の範囲、より典型的にはおよそ7.2以上7.6以下の範囲のpHを意味する。
【0042】
本明細書において「被験者」という用語は、哺乳動物及び非哺乳動物を包含する。哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、哺乳動物クラスのあらゆるメンバーが挙げられる:ヒト、チンパンジー並びに他の類人猿及びサル種のようなヒト以外の霊長類;ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、豚のような家畜;ウサギ、イヌ、及びネコのような家畜;ラット、マウス及びモルモットなどのような齧歯動物を含めた実験動物。非哺乳動物の例としては、限定されるものではないが、トリ、サカナなどが挙げられる。この用語は特定の年齢又は性別を意味するものではない。
【0043】
化合物の「医薬的に許容可能な塩」という用語は、医薬的に許容可能であり、親化合物の所望の薬理活性を有する塩を意味する。そのような塩には、例えば以下が含まれる:
(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸で形成される酸付加塩;又は酢酸、プロピオン酸、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−メチルビシクロ−[2.2.2]オクト−2−エン−1−カルボン酸、グルコヘプト酸、4,4’−メチレンビス−(3−ヒドロキシ−2−エン−1−カルボン酸)、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、3級ブチル酢酸、ラウリル硫酸、グルコン酸、グルタミン酸、ヒドロキシナフトエ酸、サリチル酸、ステアリン酸、ムコン酸などの有機酸で形成される酸付加塩;
(2)親化合物中に存在する酸性プロトンを金属イオン、例えばアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアルミニウムイオンで置換するか;又は有機塩基を配位させて形成する塩。許容可能な有機塩基には、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルタミンなどが含まれる。許容可能な無機塩基には、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどが含まれる。医薬的に許容可能な塩への言及には、その溶媒添加型又は結晶型、特に溶媒和物又は多形体が含まれることを理解すべきである。溶媒和物は、化学量論的な又は非化学量論的な量の溶媒を含有し、結晶化の過程で形成されることが多い。水和物は溶媒が水の場合に形成され、アルコラートは溶媒がアルコールの場合に形成される。多形体には、ある化合物と同一元素組成の異なる結晶パッキング配置が含まれる。多形体は、通常、異なるX線回折パターン、赤外線スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形状、光学特性及び電気特性、安定性、及び溶解度を有する。再結晶溶媒、結晶化速度、及び保存温度のようなさまざまな因子により、唯一の結晶形を優位にすることができる。
【0044】
「任意の」又は「場合により」という用語は、その後に記載された事象又は状況が起こっても起こらなくてもよいことを意味し、その記載には事象又は状況が起こる場合と起こらない場合を含む。例えば、「場合により追加の薬物」という用語は、患者にシグマ受容体リガンド以外の薬物を投与してもしなくてもよいことを意味する。本明細書において「追加の薬物」とは、哺乳動物、好ましくはヒトへの投与に好適な、所望の局所又は全身作用を誘導する化学材料又は化合物を意味する。一般に、これには以下が含まれる:食欲抑制剤;多くのペニシリン類及びセファロスポリン類を含めた抗生物質及び抗ウイルス薬のような抗感染症薬;鎮痛薬及び鎮痛薬の組み合わせ;抗不整脈薬;抗関節炎薬;抗喘息薬;抗コリン作動薬;抗けいれん薬;抗糖尿病薬;止瀉薬;抗蠕虫薬;抗ヒスタミン剤;抗炎症剤;抗偏頭痛薬;制嘔吐剤;抗新生物薬;パーキンソン病治療薬;鎮痒薬;抗精神病薬;解熱剤;アンチセンス薬;鎮痙薬;カルシウムチャネルブロッカー及びピンドロールを含めたβ−ブロッカーのような心血管薬;抗高血圧剤;中枢神経系刺激薬;うっ血除去薬を含めた感冒薬;利尿薬;H2−受容体アンタゴニストを含めた胃腸薬;交感神経様作用薬;コルチコステロイドを含めたエストラジオール及び他のステロイドのようなホルモン;睡眠薬;免疫抑制剤;筋弛緩剤;副交感神経遮断薬;精神刺激薬;鎮静剤;精神安定剤;血栓溶解薬;神経保護薬;ラジカルスカベンジャ及び血管拡張薬。
【0045】
本明細書において「機能的リハビリテーション」という用語は、理学療法、作業療法などを意味する。リハビリテーションの開始の前に、同時に又は後に薬物治療を開始することが期待される。
【0046】
II.シグマ受容体
エンリッチ環境(enriched environment)実験のマイクロアレイ解析からシグマ受容体を同定した。更に、本発明は、神経変性疾患を有する被験者において、中枢神経系疾患を治療するため並びに神経細胞の生存及び再生を刺激するためにシグマ受容体の発現を調節する化合物の同定方法を提供する。マイクロアレイ解析により、皮質虚血後及び虚血後環境エンリッチ化脳組織に、正常な又は非エンリッチ環境の発現と比較して、示差的に発現をする遺伝子を同定し説明する。
【0047】
更に、本発明は、上記遺伝子発現に変化を示す被験者の治療方法を提供する。その際、治療的介入は細胞生成及び脳のその後の機能回復促進をもたらす。発明者らは、標準条件では中大脳動脈閉塞(MCAO)後に損傷を受けやすい領域でシグマ受容体の発現が低下し、被験者をエンリッチ環境条件に曝すとMCAO後に増加することを見出した。脳の耐性領域においてもMCAO後に増加が検出されている。したがって、局所脳虚血又は全脳虚血を患う被験者に対して、障害後、シグマ受容体リガンドを機能回復を容易にするのに十分な期間投与する。医薬的介入は、より早い機能回復をもたらす。
【0048】
1つの側面では、アレイ又はマイクロアレイを用いて目的の遺伝子発現を得ることができる。典型的には、オリゴヌクレオチドプローブを固体支持体上に固定し、次に標識標的オリゴヌクレオチドを含有するサンプルとハイブリダイゼーション条件下で接触させ、ハイブリダイゼーションパターンを生じさせる。ハイブリダイゼーション後、in situハイブリダイゼーションに利用する蛍光又は33Pのような放射能の測定値を解析し、標的とプローブとのハイブリダイゼーションレベルを決定する。情報は、遺伝子機能、遺伝子スプライシングの決定、疾患の遺伝的根拠の理解、疾患の診断、治療剤の活性の発現及びモニタリング、多型の有無の検出などに有用である(Heller,R.ら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.94:2150−55)。プローブ及び標的オリゴヌクレオチドは生体サンプルのRNA又はDNAから得ることができる。一般に、オリゴヌクレオチドは、通常天然供給源に由来するRNAから逆転写されたDNAであり、RNAは全RNA、ポリA+mRNA、増幅RNAなどであり得る。開始mRNAサンプルは、酵母のような単細胞生物を含めた生理学的供給源、真核生物供給源、又は植物及び動物、特に哺乳動物を含めた多細胞生物並びに哺乳動物由来の臓器、組織及び細胞、例えば体液(血液、尿、唾液、粘液、胃液など)、培養細胞、生検材料、又は他の組織標本由来であり得る。細胞、組織、臓器又は生物全体からRNAを単離する方法は当業者に公知であり、Sambrook,Fritsch&Maniatis(1989)分子クローニング:実験室マニュアル(コールドスプリングハーバー出版)に記載されている。特に、被験者の内側、吻側、前頭側、海馬及び線条体領域由来のような脳由来のRNAは、マイクロアレイ実験に使用するために精製し、クローニングする。
【0049】
アレイと接触させてハイブリダイゼーションパターンを生じたサンプル中の核酸の遺伝的プロファイルに関する定量情報を決定するために、そして標識サンプル核酸が由来する生理学的供給源について決定するために、ハイブリダイゼーションパターンを用いることができる。データは、サンプル核酸が由来する生理学的供給源に関する情報、例えば生理学的供給源である組織又は細胞で発現した遺伝子の種類、及び特に量的な各遺伝子の発現レベルを提供する。
【0050】
MCAOを受けた後、エンリッチ環境に曝されたラットは線条体及び前頭葉において1型シグマ受容体mRNAの上方制御を示し、内側皮質において受容体の下方制御を示すことが発見された。前頭葉は、感覚運動機能の制御に関与している。したがって、虚血後リハビリテーション段階における薬理学的介入の役割がある。このように、シグマ受容体アゴニストのようなシグマ受容体リガンドの投与は、脳卒中後の被験者の機能回復を向上させることができる。更に、薬物とエンリッチ環境のような環境因子との相互作用を用いて機能回復を向上させることができる。
【0051】
理論に拘束されるものではないが、シグマリガンドは、強化又は刺激的環境の効果を模倣することによって神経再生及び機能回復を容易にすると考えられる。
【0052】
III.シグマ受容体リガンド
シグマ受容体リガンドは、神経変性疾患を治療するため、及び神経変性疾患からの機能回復を向上させるための、方法及び組成物に用いることができる。
【0053】
対象とする方法に用途を見出すことができるシグマ受容体のリガンドがいくつか知られている。例えば、Manallack,D.T.ら、(1987)Eur.J.Pharmacol.、144:231−235は、シグマ結合部位に対する親和性を有するフェンシクリジン化合物について開示しており、大きなN−アルキル置換基、例えばベンジル又はフェニルエチルによってシグマ部位親和性が向上することを示した。Largent,B.L.ら、(1987)Mol.Pharmacol.、32:772−784は、いくつかのピペリジン誘導体及びピペラジン誘導体がシグマ受容体活性を有することを教示し、より親油性の置換基を含有する化合物はシグマ受容体結合部位に対してより大きな親和性を提供することを示唆している。コカイン関連化合物はシグマ受容体結合活性を有することがSharkey,J.ら、(1988)Eur.J.Pharmacol.、149:171−174によって示されている。欧州特許出願第362,001号は、シグマ受容体に対して特異的親和性を有するα,α−ジ置換N−シクロアルキルアルキルアミンについて記載しており、欧州特許出願第445,013号は、シグマ受容体に対して特異的親和性を有するN−シクロアルキルアルキルアミンについて記載している。これらの欧州特許出願に記載されたシグマ受容体リガンドは、精神病及び胃腸の不快感の治療に有用である。PCT公報WO91/03243号には、シグマ受容体に対して特異的アンタゴニスト活性を有する1−シクロアルキルピペリジンに関する記載が含まれており、これは精神病及びジスキネジアの治療に有用である。PCT公報WO93/09094号には、抗精神病薬であるアルキルピペリジン又はピロリジンに由来するエーテルに関する記載が含まれている。シグマ受容体リガンドである、更なる置換ピペリジン及び置換ピペラジンが、PCT公報WO94/24116号に開示されている。1,4−(ジフェニルアルキル)ピペラジン誘導体のシグマ受容体親和性、並びに痴呆症、うつ病及び精神分裂病のような脳機能障害に対するそれらの使用について米国特許第5,736,546号に記載されている。米国特許第6,087,346号は、ある種のフェニルアルキル−アミン、アミノテトラリン、ピペラジン、ピペリジン、及び関連化合物がシグマ受容体に結合し、中枢神経系疾患、神経障害、胃腸障害、薬物乱用、アンギナ、偏頭痛、高血圧及びうつ病の治療に使用できることを開示する。他のシグマ受容体リガンドには、BMY−14802、カラミフェン及びハロペリドールが含まれ、これらはNMDAによって誘発される毒性及び発作に対してin vivo保護効果を有することがわかっている(M.Pontecorvoら、(1991)Brain Res.Bull.、26:461−465)。更なるシグマ受容体リガンドには、例えば、3PP−HCl、ハロペリドール、アリル−ノルメタゾシン(SKF10047ともいう)、ノルメタゾシン、U−50488酒石酸塩、カルベタペンタン、シクラゾシン、イフェンプロジル、DTG(1,3−ジ−2トリルグアニジン)、L693、409、PTPP、4PPBP(4−フェニル−1−(4−フェニルブチル)ピペリジンマレイン酸塩)、BD1063、IPABヨードベンザミド、SM−21、BD1008が含まれる。
【0054】
IV.シグマ受容体リガンドの同定方法
シグマ受容体リガンドである化合物の同定方法は当該技術分野に公知である。シグマ受容体リガンドである化合物を同定するために用いられる1つの方法は、細胞、組織又は好ましくは細胞抽出物又はシグマ受容体を含有する他の調製物を、受容体活性に適合する緩衝液中でいくつかの既知濃度の試験化合物と接触させておくこと、そしてリガンド結合及び/又は受容体活性についてアッセイすることを含む。この方法は、順次又は多重形式で実施することができる。Langa F.(2003)Eur.J.Neuroscience、18:2188−2196に記載されているように、公知の特異的リガンドを用いたin vitro結合アッセイの使用により、シグマ−1受容体又はシグマ−2受容体に対するリガンド親和性を決定することができる。本明細書の開示に基づいて当業者に明らかとなるように、シグマ受容体のリガンドである化合物を決定するための他の方法を採用することができる。
【0055】
シグマリガンドは、AGY−94806(以下の化合物IV)又はその塩若しくは溶媒和物であることが好ましい。しかしながら、以下の化合物は全てシグマ受容体リガンドである:
【0056】
【化1】

【0057】
【化1】

【0058】
【化1】

【0059】
他の方法において、上で同定したシグマ受容体リガンド及び公知リガンド又はアナログの分子形状の構造研究に基づいた理論的ドラッグデザインを用いて、3次元構造がシグマ受容体の活性部位と相補的な化合物を同定することができる。これらの化合物は、分子力学計算、分子動力学計算、条件がNMR分光法によって決定される条件付き分子動力学計算、距離行列がNMR分光法によって部分的に決定される距離幾何学法、X線回折、又は中性子回折技術を含めたさまざまな技術によって決定することができる。これら全ての技術において、シグマ受容体と相互作用することが知られているリガンドの存在下又は非存在下において構造を決定することができる。
【0060】
このようにして同定され、又は設計されたシグマ受容体リガンドは、次に神経変性疾患を治療及び/又は予防する能力について試験することができる。1つの方法では、例えば、シグマ−1(受託番号NM_005866、NM_147157、NM_147158、NM_147159、及びNM_147160)、シグマ−2、又は組換えシグマ受容体などのシグマ受容体を調節する能力について化合物を試験する。これらのスクリーニングで同定されたリード化合物は、より活性なアナログを合成するための基礎として役立つことができる。リード化合物及び/又はそれらから作製された活性アナログは、脳卒中、てんかん及び神経変性疾患のような神経障害の治療に有効な医薬組成物中に製剤化することができる。
【0061】
V.シグマ受容体リガンドの合成
いくつかのシグマ受容体リガンドが市販されている。例えばフルボキサミン(米国特許第4,085,225号)、4−IBD(Johnら(1999)Nuclear Medicine&Biology 26:377−382)、Pre−084(米国特許第5,223,530号)、AGY−94806(米国特許第5,736,546号)、シラメシン(米国特許第5,665,725号)、OPC−14523(米国特許第5,556,857号)、BD−737(米国特許第5,130,330号及び米国特許第5,739,158号)、イグメシン(米国特許第5,034,419号)など、多くの調製法が特許及び化学文献に記載されている。
【0062】
VI.神経再生及び機能回復
本発明の1つの態様では、シグマ受容体リガンドI〜IX、又はその塩若しくは溶媒和物を、脳卒中後、治療に要する十分な期間、例えば約1週間〜約1カ月又は約12カ月投与するか、あるいは所望の治療効果が観察されるまで継続的に投与する、被験者の治療方法が提供される。シグマ受容体リガンドはAGY−94806、又はその塩若しくは溶媒和物であることが好ましい。本発明の他の側面では、シグマ受容体リガンドAGY−94806、又はその塩若しくは溶媒和物を、脳卒中後、治療に要する十分な期間、例えば約1週間〜約1カ月又は約12カ月投与するか、あるいは所望の治療効果が観察されるまで継続的に投与し、そして、中枢神経系障害の不都合な結果からの患者の機能回復が向上するように更に被験者をエンリッチ環境のような恵まれた刺激環境、及び機能的リハビリテーションに曝す、被験者の治療方法が提供される。
【0063】
神経組織の障害領域の機能が、正常ではこれまでその特定の役割を果たさなかった他の領域に取って代わられ、神経機能における変化が行動又は行動能力に変化をもたらすことになったときに、機能回復は起こる。機能回復は神経可塑性としても言及される。したがって、脳の機能回復は、機能的及び構造的再構築、ある事象に対する神経反応の上方制御又は下方制御、並びに、側枝発芽及び代償性シナプス形成並びに神経発生による、新規な機能的及び構造的結合の確立を意味する。
【0064】
患者の機能回復の向上は、例えば、姿勢、バランス、把握、又は歩行のような患者の運動技量の感覚運動及び反射機能、認知技量、言語、及び/又は知覚、並びに視覚能、味覚、嗅覚、及び自己刺激感応を含めた機能、が本発明にしたがいシグマ受容体リガンドを投与した結果として向上することを評価するための機能/行動試験を用いることによって評価することができる。他の側面では、患者の機能回復は、軸策束の長さ、障害部位における神経再生の増加を測定すること、樹状突起の形態及びスパイン数などを評価することを含めた組織学的解析によって決定することができる。更に他の側面では、患者の機能回復向上は、神経機能に変化をもたらす脳の構造変化を測定する非侵襲性技術を用いることによって決定することができる。したがって、電気生理学的測定(脳波計(EEG)又は誘発電位(ERP))、筋電図測定(EMG)、神経化学測定(CSF代謝産物)、末梢測定(循環ベータエンドルフィンレベル)、放射線測定(CTスキャン、MRI)及び臨床的測定(瞳孔光反射、姿勢、味覚)を用いて患者の機能回復を測定することができる。更に、上記技術を用いて、本発明の治療にうまく応答すると思われる患者を選択することができる。
【0065】
エンリッチ又は刺激環境の効果を模倣するためにシグマ受容体リガンドAGY−94806を投与する。虚血後、エンリッチ又は刺激環境に収容すると、ラットにおいて脳虚血後の機能的結果を向上できることが知られている。実験的脳梗塞後、さまざまな活動の機会及び他のラットとの相互作用を有するエンリッチ環境に収容したラットは、標準実験室環境に収容したラットよりも良好であった。社会的相互作用とともに自由な身体活動が許されるエンリッチ環境は、梗塞体積が変化することなく、最良のパフォーマンスをもたらした。エンリッチ環境は、局所脳虚血後の脳の可塑性を促進するメカニズムを刺激することができる。刺激環境に収容したラットは、無傷の及び障害された脳の表面皮質層のスパイン密度を有意に増加させることが示されている。
【0066】
本発明の1つの側面では、刺激環境は、社会的相互作用、運動活動、脳の電気刺激、住居の変化などを含む。例えば、被験者は、感覚運動機能を向上させるために障害肢を使用するように働きかけられることができ、ウォーキング、ストレッチング、ウェイトリフティングなどの毎日の身体的な日課に供されることができ、あるいは野球、ホッケー、サッカー、又はボードケームのようなゲームをするように働きかけられることができる。更に、被験者の住居は、脳の活性を刺激するために、例えば部屋の色を変えること、織物材料を提供すること、木やスチールなどの異なる材料から製造された品目を提供することによって変化させることができる。ある特定の患者に対して刺激環境をカスタマイズするための知識は、理学療法や作業療法の分野の当業者に公知である。
【0067】
他の側面では、刺激環境は、脳又は脳の1領域への直接刺激を含む。米国特許第6,339,725号及び第5,611,350号に記載のように、並びに当該技術分野に公知の他の方法のように、例えば電気刺激を脳に適用することができる。あるいは、アセチルコリン、神経成長因子、神経刺激薬、神経細胞成長因子又はグリア成長因子、及び他の神経修飾剤のような薬物の局所投与によって、脳又は脳の1領域を刺激することができる。
【0068】
当業者が認識するように、シグマリガンドを含有する用量を投与するタイミングは変化させることができる。本発明の1つの側面では、シグマ受容体リガンドは脳卒中後に投与される。リガンドの投与は、症状発症の最初の週以内、好ましくは症状発症の少なくとも24時間、又は少なくとも48時間に開始することができる。本発明の他の側面では、刺激環境への曝露と同時にシグマ受容体リガンドを患者に投与する。好ましくは、脳卒中後、患者が刺激環境に供された時点でシグマ受容体リガンドを投与し、リガンドを約1カ月〜約3カ月間投与して機能回復を容易にする。好ましくは、リガンド、及びリガンドを含む組成物を最長約12カ月又はそれ以上投与し、より好ましくは継続的に投与する。
【0069】
VII.医薬製剤及び投与様式
本明細書に記載の方法は、上記分子を含む医薬組成物を使用する。上記分子はAGY−94806であることが好ましく、1種以上の医薬的に許容可能な賦形剤又はビヒクル、及び、場合により他の治療用及び/又は予防用成分と組み合わせる。そのような賦形剤には、水、生理食塩水、グリセロール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、エタノールなどの液体が含まれる。非液体製剤に好適な賦形剤も当業者に公知である。医薬的に許容可能な塩を本発明の組成物に用いることができ、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などの無機酸塩;及び酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などの有機酸の塩が含まれる。レミントンの『薬学』、第18版(イーストン、ペンシルバニア:Mack出版社、1990)中の医薬的に許容可能な賦形剤及び塩に関する徹底的な議論が利用可能である。
【0070】
更に、湿潤剤又は乳化剤、生理的緩衝物質、界面活性剤などの補助物質がそのようなビヒクル中に存在してもよい。生理的緩衝液は、事実上、薬理学的に許容可能で、製剤に所望のpH、即ち、生理学的許容範囲にあるpHを提供するあらゆる溶液であり得る。緩衝液の例としては、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水、ハンクス緩衝化生理食塩水などが挙げられる。
【0071】
意図する投与様式によって、医薬組成物は、例えば錠剤、坐剤、丸剤、カプセル、粉末剤、液剤、懸濁剤、クリーム、軟膏、ローションなどの固体、半固体又は液体剤形であり得、正確な用量の単回投与に好適な単位剤形であることが好ましい。組成物は、有効量の選択した薬物を、医薬的に許容可能な担体と組み合わせて含み、加えて、他の医薬物質、添加物、希釈剤、緩衝剤などを含むことができる。
【0072】
本発明には、異性体、異性体のラセミ混合物若しくは非ラセミ混合物、又はそれらの医薬的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含めた本発明の化合物を、1種以上の医薬的に許容可能な担体、及び、場合により他の治療用及び/又は予防用成分とともに含む、医薬組成物が含まれる。
【0073】
一般に、本発明の化合物は、許容される投与様式によって治療上有効量で投与されるであろう。好適な用量範囲は、治療すべき疾患の重篤度、被験者の年齢及び相対的な健康、使用化合物の有効性、投与経路及び形態、投与に対する指示、並びに関与する医師の好み及び体験などの非常に多くの因子に依存する。そのような疾患を治療する当業者は、過度の実験を行うことなく、個人的知識及び本願の開示に依存して、所定の疾患に対する本発明の化合物の治療上有効量を確定することができるであろう。
【0074】
一般に、本発明の化合物は、経口投与(口腔内及び舌下を含む)、直腸内投与、鼻腔内投与、局所投与、肺投与、膣投与又は非経口投与(筋肉内、動脈内、クモ膜下、皮下及び静脈内を含む)に好適なものを含めた医薬製剤として、又は吸入若しくは吹入による投与に好適な形態で投与されるであろう。好ましい投与様式は、苦痛の程度によって調製できる好都合の日用量を用いた静脈内又は経口投与である。
【0075】
固体組成物に関し、慣用の非毒性固体担体には、例えば、医薬品等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、ショ糖、炭酸マグネシウムなどが含まれる。医薬的に投与可能な液体組成物は、例えば、本明細書に記載のような活性化合物、及び任意の医薬添加物を賦形剤、例えば水、生理食塩水、水性デキストロース、グリセロール、エタノールなどに、溶解又は分散させることなどによって調製することができ、溶液又は懸濁液を形成する。所望により、投与される医薬組成物は、微量の湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤などの非毒性補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミン酢酸ナトリウム、トリエタノールアミンオレエートなどを含有することもできる。そのような剤形の実際の調製方法は、当業者に公知であるか明らかであろう;例えば上で引用したレミントンの『薬学』を参照されたい。
【0076】
経口投与に関し、組成物は一般に錠剤、カプセル、軟ゲルカプセルの形態をとるか、又は水溶液又は非水溶液、懸濁液又はシロップであり得る。錠剤及びカプセルが好ましい経口投与形態である。経口用錠剤及びカプセルは、一般に、1種以上の乳糖及びコーンスターチのような通常用いられる担体を含むであろう。ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤も典型的には加えられる。典型的には、本発明の化合物は、経口用の、毒性のない医薬的に許容可能な、乳糖、デンプン、ショ糖、グルコース、メチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトールなどの不活性担体と組み合わせることができる。更に、所望により、又は必要に応じて、好適な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、及び着色剤を混合物に導入することもできる。好適な結合剤には、デンプン、ゼラチン、グルコース又はβ−乳糖のような天然糖、コーンシロップ、アカシア、トラガカントのような天然ゴム及び合成ゴム、又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが含まれる。これらの剤形に用いられる潤滑剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが含まれる。崩壊剤には、限定されるものではないが、デンプン、メチルセルロース、アガー、ベントナイト、キサンタンガムなどが含まれる。
【0077】
したがって、例えば、カプセルを、用量単位が100mgの本発明の化合物、100mgのセルロース及び10mgのステアリン酸マグネシウムとなるように、慣用の手順によって調製することができる。非常に多くの単位カプセルを、標準のツーピース硬ゼラチンカプセルそれぞれに、100mgの粉末活性成分、150mgの乳糖、50mgのセルロース、及び10mgのステアリン酸マグネシウムを充填することによって、調製することもできる。又は、錠剤を、用量単位が100mgの本発明の化合物、150mgの乳糖、50mgのセルロース及び10mgのステアリン酸マグネシウムとなるように、慣用の手順で調製することができる。非常に多くの錠剤を、用量単位が100mgの本発明の化合物であり、他の成分は0.2mgのコロイド状二酸化ケイ素、5mgのステアリン酸マグネシウム、250mgの微晶性セルロース、10mgのデンプン及び100mgの乳糖であり得るように、慣用の手順で調製することもできる。適切なコーティングを、嗜好性を増加させるため又は吸収を遅延させるために施してもよい。
【0078】
懸濁液を用いる場合、活性物質を、エタノール、グリセロール、水などのような経口用の毒性のない医薬的に許容可能な不活性担体、並びに乳化剤及び懸濁剤と組み合わせることができる。所望により、着香剤、着色剤及び/又は甘味剤を同様に添加してもよい。本明細書において経口製剤に導入する他の任意成分には、限定されるものではないが、保存剤、懸濁剤、増粘剤などが含まれる。
【0079】
非経口製剤は、溶液若しくは懸濁液、注射前に液体に可溶化若しくは懸濁化するのに好適な固体形態、又はエマルジョンとして、慣用の形態に調製することができる。滅菌注射用懸濁液は、好適な担体、分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて、当該技術分野に公知の技術にしたがって製剤化されることが好ましい。滅菌注射用製剤は、毒性のない非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中の滅菌注射液又は懸濁液でもよい。使用され得る許容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンゲル液及び等張食塩水である。更に、溶媒又は懸濁媒体として、滅菌された固定油、脂肪酸エステル又はポリオールを慣用的に用いる。更に、非経口投与には、一定レベルの用量が維持される徐放性システム又は持続放出性システムの使用も含まれ得る。
【0080】
非経口投与には、関節内、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、及び皮下経路が含まれ、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び意図するレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質を含有する水性及び非水性の等張滅菌注射液、並びに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定剤、及び保存剤を含むとができる水性及び非水性の滅菌懸濁液が含まれる。特定の非経口経路を介した投与には、滅菌シリンジ又は持続注入システムのような他の機械装置によって推進される針又はカテーテルを通して本発明の製剤を患者の体内へ導入することを含めることができる。本発明によって提供される製剤は、シリンジ、注入器、ポンプ、又は非経口投与に関して当該技術分野で認識される他の装置を用いて投与することができる。
【0081】
好ましくは、当該技術分野に公知の技術にしたがって、好適な担体、分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて滅菌注射用懸濁液を製剤化する。滅菌注射製剤は、毒性のない非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中の滅菌注射液又は懸濁液であることもできる。使用され得る許容可能なビヒクル及び溶媒は、水、リンゲル液及び等張食塩水である。更に、滅菌された固定油、脂肪酸エステル又はポリオールが、溶媒又は懸濁媒体として慣用的に用いられる。更に、非経口投与には、一定レベルの用量が維持される徐放性システム又は持続放出性システムの使用を含めることができる。
【0082】
非経口投与用の本発明の製剤としては、滅菌した水性又は非水性溶液、懸濁液、又はエマルジョンが挙げられる。非水性溶媒又はビヒクルの例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油及びコーン油などの植物油、ゼラチン、並びにオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。そのような剤形は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、及び分散剤などの添加物を含有することもできる。それらは、例えば、細菌保持フィルターを通したろ過によって、滅菌剤を組成物に導入することによって、組成物に照射することによって、又は組成物を加熱することによって滅菌することができる。それらは、滅菌水、又は他の滅菌注射用媒体を使用直前に用いて製造することもできる。
【0083】
製剤は場合により等張性剤を含有することができる。製剤は等張性剤を含有することが好ましく、グリセリンが最も好ましい等張性剤である。グリセリンを使用する場合、その濃度は当該技術分野に公知の範囲内、例えば約1mg/mL〜約20mg/mLなどである。
【0084】
非経口製剤のpHは、リン酸、酢酸、TRIS又はL−アルギニンなどの緩衝剤によって制御することができる。緩衝剤の濃度は、保存のあいだpHを標的pH±0.2pH単位に維持するのに適しているpH緩衝作用を提供することが好ましい。好ましいpHは、室温で測定したとき約7〜約8である。
【0085】
他の添加物、例えば、Tween20(登録商標)(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、Tween40(登録商標)(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート)、Tween80(登録商標)(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート)、プルロニックF68(登録商標)(ポリオキシエチレン ポリオキシプロピレン ブロックコポリマー)、及びPEG(ポリエチレングリコール)のような医薬的に許容可能な可溶化剤などを、場合により製剤に添加することができ、製剤がプラスチック材料に接触する場合に有用であり得る。更に、非経口製剤は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどのさまざまな抗菌剤及び抗真菌剤含有することができる。
【0086】
滅菌注射液は、1以上の本発明の化合物を必要量、上に列挙した他のさまざまな成分とともに適切な溶媒中に導入し、必要に応じてろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散剤は、さまざまな滅菌活性成分を、基本分散媒体及び上に列挙したものの中で必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に導入することによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末剤の場合、好ましい調製方法は、先にろ過滅菌した溶液から、活性成分と更なる所望の成分との粉末を生ずる真空乾燥及び凍結乾燥技術である。したがって、例えば、注射による投与に好適な非経口組成物は、1.5重量%の活性成分を10容量%のポリエチレングリコール及び水の中で撹拌することによって調製される。溶液は塩化ナトリウムで等張にし、滅菌する。
【0087】
あるいは、本発明の医薬組成物は、直腸内投与のための坐剤の形態で投与することができる。これらは、薬剤を、室温で固体だが直腸内温度では液体の、したがって直腸で溶解して薬物を放出するであろう好適な非刺激性賦形剤と混合することによって調製することができ。そのような材料には、ココアバター、蜜蝋及びポリエチレングリコールが含まれる。
【0088】
本発明の医薬組成物は、鼻腔内エアロゾル又は吸入によって投与することもできる。そのような組成物は医薬製剤の分野で周知の技術にしたがって調製され、ベンジルアルコール又は他の好適な保存剤、バイオアベイラビリティを高めるための吸収促進剤、フルオロカーボン又は窒素のような推進剤、及び/又は他の慣用の可溶化剤若しくは分散剤を用いて生理食塩水溶液として調製することができる。
【0089】
局所薬物送達に好ましい製剤は軟膏及びクリームである。軟膏は、典型的にはワセリン又は他の石油誘導体を基にした半固体製剤である。選択した活性物質を含有するクリームは、当該技術分野に知られるように、水中油又は油中水の粘稠液又は半固体エマルジョンである。クリーム基剤は水洗性であり、油相、乳化剤及び水相を含有する。油相は、ときに「内部」相とも呼ばれるが、通常、ワセリン、及びセチルアルコール又はステアリルアルコールのような脂肪族アルコールで構成される;水相は、必ずしもそうではないが、油相よりも量が過剰であり、一般に保水剤を含有する。クリーム製剤中の乳化剤は、通常、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性又は両性界面活性剤である。使用される特定の軟膏又はクリームの基剤は、当業者に認識されるであろうように、最適な薬物送達を提供するものである。他の担体又はビヒクルのように、軟膏基剤は、不活性で、安定な、刺激性のない、非感作性のものである必要がある。
【0090】
口腔内投与用製剤には、錠剤、トローチ剤、ゲルなどが含まれる。あるいは、当業者に公知の経粘膜送達システムを用いて口腔内投与を行うことができる。本発明の化合物を、慣用の経皮薬物送達システム、即ち「経皮パッチ」、つまり、薬剤が、典型的には、体表面に貼付される薬物送達装置として働く積層構造内に含有されるものを用いて、皮膚又は粘膜組織を通して送達することもできる。そのような構造では、薬物組成物は典型的には、上部裏打ち層の下にある1つの層又は「貯蔵器」内に含有される。積層装置は、唯一の貯蔵器を含有することも複数の貯蔵器を含有することもできる。1つの態様では、貯蔵器は、薬物送達のあいだ皮膚にシステムを貼付するのに役立つ医薬的に許容可能な接触接着剤のポリマーマトリックスを含む。好適な皮膚接触接着剤の例としては、限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリシロキサン、ポリイソブチレン、ポリアクリレート、ポリウレタンなどが挙げられる。あるいは、薬物含有貯蔵器と皮膚接触接着剤は分離した異なる層に存在し、接着剤は貯蔵器の下にあり、貯蔵器は上記のようなポリマーマトリックスであるか、又は液体若しくはゲルの貯蔵器であるか、又は他の形態をとり得る。装置の上部表面として働くこの積層の裏打ち層は、積層構造の主な構造要素として機能し、装置にその柔軟性の大部分を提供する。裏打ち層に選択される材料は、活性物質及び存在する他の材料に対して実質的に不透過性である必要がある。
【0091】
医薬的に又は治療上有効量の組成物が被験者に送達されるであろう。正確な有効量は被験者間で変化し、種、年齢、被験者の大きさ及び健康、治療される状態の性質及び程度、治療を行う医師の提言、並びに投与するために選択した治療薬又はその組み合わせに依存するであろう。したがって、所定の状態に対する有効量は慣例的な実験で決定することができる。本発明の目的に関し、一般に、治療量は、少なくとも1つの用量で、約0.01mg/kg〜約40mg/kg体重、より好ましくは約0.1mg/kg〜約10mg/kgの範囲であろう。より大きな哺乳動物では、表示される日用量は、約1mg〜300mgで1日1回以上、より好ましくは約10mg〜200mgの範囲であり得る。被験者に、問題となる障害の徴候、症状、あるいは原因を軽減及び/又は緩和するのに要する用量で、又は生体系の他の所望の変化を引き起こすのに要する用量で、投与することができる。
【0092】
本発明の化合物は、特に気管及び鼻腔内投与へのエアロゾル投与用に製剤化することができる。化合物は通常粒子サイズが小さく、例えば5μ以下のオーダーであろう。そのような粒子サイズは、当該技術分野に公知の手段、例えば微粉末化によって得ることができる。活性成分は、クロロフルオロカーボン(CFC)、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、又はジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の好適なガスのような好適な推進剤を有する加圧パックで提供される。エアロゾルは、レシチンのような界面活性剤を慣用的に含有することもできる。薬物の用量は、定量バルブによって制御することができる。あるいは、活性成分を、乾燥粉末の形態で、例えば、乳糖、デンプン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースのようなデンプン誘導体及びポリビニルピロリジン(PVP)などの好適な粉末基剤中の化合物の粉末混合物の形態で提供することができる。粉末担体は鼻腔においてゲルを形成するであろう。粉末組成物は、例えばゼラチン等のカプセル又はカートリッジ又はブリスターパックの中の単位剤形で提供することができ、そこから粉末は吸入器によって投与され得る。
【0093】
所望により、製剤は、活性成分の徐放性投与又は放出制御投与に適した腸溶コーティングして調製することができる。
【0094】
医薬製剤は単位剤形であることが好ましい。そのような形態では、製剤は、適量の活性成分を含有する単位用量に更に分けられる。単位剤形は包装製剤であり得、包装は包装錠剤、カプセル、及びバイアル若しくはアンプル中の粉末剤のように別個量の製剤を含有する。また、単位剤形は、カプセル、錠剤、カシェ剤、又はトローチ剤自体であり得、あるいは適当数のこれらのものが包装された形態であり得る。
【0095】
VIII.キット
他の側面では、本発明は、キットの形態の医薬組成物に関する。キットは、組成物を含有するためのボトル、ホイル包み、又は他のタイプの容器のような容器手段を含む。典型的には、キットは、組成物投与のための指示書を更に含む。
【0096】
他の側面では、包装キットは、投与すべき医薬製剤、即ち神経変性疾患を治療して神経再生又は機能回復を容易にするためのシグマ受容体リガンドを含有する医薬製剤、保存中及び使用前に製剤を収容するための、好ましくは密封されている、容器、並びに疾患を治療するのに有効な様式で薬物投与を行うための使用説明書を含有する。使用説明書は、典型的には、添付文書及び/又はラベル上の取扱説明書であろう。製剤は、本明細書に記載したような好適な製剤であり得る。例えば、製剤は、シグマ受容体リガンドの単位用量を含有する経口剤形であり得る。キットは、異なる用量の同一物質からなる複数の製剤を含有することができる。キットは、異なる活性物質からなる複数の製剤を含有することもできる。
【0097】
例えば、非経口投与用キットは、a)上記AGY−94806及び医薬的に許容可能な担体、ビヒクル又は希釈剤を含む医薬組成物;及び、場合により、b)疾患を治療又は予防するための医薬組成物の使用方法について記載する使用説明書、を含むことができる。キットは、製剤を投与するための装置(例えばシリンジ、カテーテルなど)を更に含むことができる。経口投与用キットは、例えば個々の用量を有する紙又は段ボール箱、ガラス若しくはプラスチックのビン又はジャー、再密封可能なバッグ、あるいはブリスターパックのような容器に含有される用量製剤を含むことができる。ブリスターパックは、通常、好ましくは透明なプラスチック材料の、ホイルで覆われた比較的堅い材料のシートから成る。包装工程のあいだ、錠剤又はカプセルの大きさ及び形状の凹所がプラスチックホイル内で形成される。次に、錠剤又はカプセルはその凹所内におかれ、比較的堅い材料のシートが、凹所が形成された方向とは逆のホイルの面に対してプラスチックホイルでシールされる。その結果、錠剤又はカプセルは個々に密封される。シートの強度は、手で凹所に圧力を加え、凹所の場所でシートに開口が形成され、錠剤又はカプセルがブリスターパックから取り出せるようなものであることが好ましい。そして、錠剤又はカプセルは開口部から取り出すことができる。
【0098】
キットに、記憶補助を提供することが望ましいかもしれない。例えば、錠剤又はカプセルの隣に数の形で、その数は、そのように特定された剤形を投与すべき処方計画の日にちに対応する。そのような記憶補助の他の例は、例えば「第1週、月曜、火曜…など…第2週、月曜、火曜…など」のようにカードに印刷されたカレンダーなどである。記憶補助の他の変形物は、例えば、ディスペンスされた日用量数を示す機械的計数機、液晶読み取り装置のついたマイクロチップ記憶装置、あるいは、可聴注意シグナル、例えば日用量を最後に摂取した日にちを音読し、及び/又は次に摂取すべき日にちを思い出させる可聴注意シグナルなど、容易に明らかであろう。
【0099】
実施例
以下は、本発明を実施するための特定態様の例である。実施例は説明目的のためにのみ提供したものであり、如何なる場合も本発明の範囲を限定することを意図するものではない。用いた数値(例えば量、温度など)に関して精度を確保するために努力したが、いくらかの実験誤差及びずれは当然許容されるはずである。
【0100】
共焦点イメージは488及び543レーザーを使用したZeissLSM510Meta又はPascal5システムのマルチトラッキングモードにてチャンネルあたり4回平均で生成された。Z−stackは対物63xにて生成させ、オプティカルスライスはステップサイズ0.5ミクロンで0.8ミクロンに設定した。
【0101】
実施例1
神経再生(機能回復)の動物モデル
月齢3カ月の雄性SHR(高血圧自然発症)ラットを、MCA閉塞による脳卒中の誘導に用いる。大部分の脳卒中患者は高血圧であるため、これは好ましい系統である。動物をメトヘキシタールで麻酔し、頬骨弓上で小さな頭蓋骨切除術を行なって中大脳動脈を露出させ、これを、線条体分岐のもとに対して末端で、10−0モノフィラメントナイロン糸を用いて閉塞させる。ラットは挿管せず、カテーテルは導入しない。MCA閉塞後、大きな再現性のある梗塞を得、強い感覚運動欠損をもたらす。動物を6時間明所/18時間暗所のサイクルに維持し、食餌及び水は自由摂取とする。MCAO後2日に、ラットに化合物I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、又はIX(0.03〜10mg/kg)を皮下又は経口投与し、対照群には生理食塩水を2〜8週間投与する。2、4、6及び8週間目に動物を回転棒試験又は円筒試験で試験する。
【0102】
回転棒試験:この試験は、先に記載されたように、回転棒を横断するラットの能力によって運動動作の協調及び統合に関して迅速な評価を可能にする(Johansson及びOhlsson、(1995)Stroke26:644−649。棒の長さは1500mmであり、床から750mm上に持ち上げ、右又は左に10rpmでそれぞれ回転させる。
各方向に6〜0のスコアをつける:
6、動物は肢を滑らさずに棒を横断する;
5、動物は2、3歩、肢を滑らせて棒を横断する;
4、動物は歩みの50%を、肢を滑らせて棒を横断する;
3、動物は50%より多く、肢を滑らせて棒を横断する;
2、動物は少し歩いてから棒の周囲を回転する;
1、動物は横断せずに棒の周囲を回転する;
0、動物は棒から落ちる。
【0103】
自発的に後ろ立ちする際の前肢の左右不同性の使用に関する円筒試験
円筒試験(Schallert及びTillersonの方法(CNS疾患の画期的モデル:分子から治療まで。Clifton,NJ、Humana、1999))を改変して用いて、円筒壁のところで後ろ立ちするための前肢の使用を定量化する。ラットは幅20cmの透明なガラス円筒内を自由に動くさまを、モニターする。後肢で立ちながら、それぞれの前肢によってなされる円筒壁への接触を、ブラインドの観察者によって記録する。各動物について合計20回の接触を記録し、左肢に障害がある、両肢に障害がある、及び障害のない、前肢接触数を、合計接触に対する割合として計算する。ラットのベースラインは、MCAO前にそれぞれの前肢によってなされる接触を測定することによって達成される。
【0104】
回転棒試験又は円筒試験を行うと、化合物I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、又はIXを投与した動物群は、第1群の対照動物よりも良好に遂行する。このように、中枢神経系障害のある動物にシグマ受容体リガンドを投与すると、機能回復が高められる。
【0105】
実施例2
AGY−94806は機能回復を高める
AGY−948068(SA4503とも表示される)、1−(3,4−ジメトキシフェネチル)−4−(3−フェニルプロピル)−ピペラジンジヒドロクロライド、は水溶性の、効率的な脳取込みを示す選択的シグマ−1受容体アゴニストである。運動機能の回復に対するこの化合物の効果が実験的脳卒中の二つのモデルにおいて調べられた。第一のモデルにおいて、高血圧自然発症ラットは大きな皮質梗塞と重度の運動障害をもたらすpMCAOを処置された(図1A)。
【0106】
AGY−94806で処置したラットにおける神経再生の徴候
35匹の高血圧自然発症ラットに永久中大脳動脈閉塞(MCAO)を施し、3つの処置群に分けた。AGY−94806を0.3mg/kg(12匹のラット)又は1.0mg/kg(12匹のラット)の用量で、閉塞後2日に開始し、閉塞後28日まで毎日継続して皮下投与した。対照群には(11匹のラット)ビヒクルのみを投与した。処置開始時、及び試験中のいくつかの時点で、回転棒モデルにおけるラットのパフォーマンスを評価した。このモデルは実施例1に記載されている。これは、水平につるされた長さ1mの回転棒を横断することをラットに要求する。この課題は動物の感覚運動のパフォーマンスを測定する。動物の行動をビデオカメラで記録し、後に訓練技術者によって解析され、スコアを記録した。スコア範囲は0〜6であり、0は非常にパフォーマンスが悪く、6は健常動物(MCAOなし)のパフォーマンスを示す。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
0.3mg/kgのAGY−94806で処置した群は、第30日の合計平均スコアが5.2を示し、これは健常動物で予想される値に近い。
【0109】
したがって、この試験は、シグマ−1の選択的アゴニスト、AGY−94806を、虚血性脳卒中モデルのラットに脳卒中後2日から脳卒中後28日までの28日間、毎日投与する場合、機能回復、特に運動技量の回復を容易にすることを示している。梗塞サイズは影響を受けず、ビヒクル、0.3及び1.0mg/kgのAGY−94806で処置した群は、それぞれ、無傷の同側性大脳半球の24、23及び25.5%の測定値であった(図1A)。
【0110】
再かん流傷害を模倣する他の実験的脳卒中モデルにおいて、tMCAOを90分適用し、ラットはtMCAO後2日〜28日の間foot−faultテストを用いて運動機能を試験された(図1B、1C)。動物はtMCAO後2日にAGY−94806で処置された。擬手術を受けた動物は試験の間少数の間違いをし、グリッドを素早く、2〜3秒以内に、横切った。tMCAO後、foot fault数とグリッドを横切るに要する時間は増加し、重度の運動障害を示した。foot fault数はAGY−94806(1mg/kg)で処置された動物では検討された全ての回復時間において、ビヒクルで処置されたラットに比べて有意に少なかった、(p<0.01;2ウエイANOVA後にボンフェローニテスト)(図1D)。同様に、AGY−94806(1mg/kg)で処置された動物は検討された全ての時間ポイントにおいて、ビヒクルで処置されたラットに比べてグリッドを約2倍早く横切った(図1C)。横切るに要する時間はビヒクルで処置された動物では20±4でありAGY−94806で処置されたラットは10±3(p<0.05;2ウエイANOVA後にボンフェローニテスト)であった。
【0111】
皮質及び皮質下の組織損傷と運動機能障害をもたらすfluid percussionにより誘導された実験的外傷性脳損傷(TBI)におけるAGY−94806の使用が試験された。TBIに処せられたWistarラット衝撃後2日において1mg/kgのAGY−94806を皮下投与し、その後3週間にわたって毎日処置し、14日目と21日目に感覚運動機能を試験した。AGY−94806で処置した動物は平均機能スコアが4.5であり、正常範囲内であり、一方ビヒクルで処置された群は有意に低いスコアで、回復14日目及び21日目でそれぞれ3及び2であった(p<0.05、Mann−Whitney)、(図1D)。コンポジットスコアもビヒクル処置動物での平均18から最高スコア24の平均21.5に有意に改善された(図1E)。
【0112】
これらを併せると、これらのデータはシグマ−1受容体リガンドAGY−94806での処置は、処置が損傷の2日後に始まり2乃至4週間続けるときに、実験的脳損傷の3つの異なるモデルにおいて感覚運動機能を有意に改善することを示す。
【0113】
実施例3
AGY−94806で処置したラットにおける神経再生のさらなる徴候
円筒試験
【0114】
43匹の高血圧自然発症ラットに永久中大脳動脈閉塞(MCAO)を施し、3つの処置群に分けた。AGY−94806を0.1mg/kg(14匹のラット)又は0.3mg/kg(14匹のラット)の用量で、閉塞後2日に開始し、14日間毎日継続して経口投与した。対照群には(15匹のラット)ビヒクルのみを投与した。処置開始時及び試験中のいくつかの時点に、円筒試験におけるラットのパフォーマンスを評価した。この試験は実施例1に記載されている。動物の感覚運動パフォーマンスを測定する。試験中のラットのパフォーマンスを、永久MCAO前1日、そして永久MCAO後14日、28日及び59日に評価した。ラットが幅20cmの透明なガラス円筒内を自由に動くさまを、モニターした。後肢で立ちながら、それぞれの前肢によってなされる円筒壁への接触を、ブラインドの観察者が記録した。各動物について合計20回の接触を記録し、左肢に障害がある、両肢に障害がある、及び障害のない前肢接触数を、合計接触に対する割合として計算した。結果を表2に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
前肢の使用の左右不同性(左/右の%差)は永久MCAOの結果である。MCAO前の動物は、左右不同性の行動を示さなかった。ビヒクルで処置した動物は、観察期間中左右不同のままであった。0.3mg/kgのAGY−94806で処置した動物は、前肢の使用の左右不同性が、測定した全ての時点でMCAO前レベルまで減少した。
【0117】
したがって、この試験は、シグマ−1の選択的アゴニスト、AGY−94806を、虚血性脳卒中モデルのラットに脳卒中後2日から毎日、14日間投与すると、機能回復、特に運動技量の回復を容易にすることを示している。
【0118】
実施例4
シグマ−1受容体活性化は神経突起生長を高めスパイン形態を変化させる
脳卒中後の感覚運動機能の改善は生き残っている組織の可塑性を高めることに依存する。皮質ニューロン及び海馬ニューロンにおけるそれぞれインビトロでのAGY−94806による処置における神経突起生長及び樹状形態が決定された。
【0119】
神経突起生長。初代ニューロンカルチャーを調製し、0.8×10細胞/ウエルの密度で96孔プレートのB27含有神経細胞培養用基礎培地Neruobasal medium中で培養し、3時間にわたって37℃で5%CO中で付着させた。神経突起生長は、所望のインキュベーション時間、異なるAGY−94806濃度でニューロンをインキュベートして、誘導した。実験の終了時にニューロンカルチャーを固定し染色し、神経突起形成を光学画像システム(ArrayScan HCS System)を用いて定量した。集団中の全ての細胞はHoechst33342を用いて同定し、ニューロンはチュービリンの神経形に対する一次抗体及び、緑色蛍光を発する細胞体及び神経突起をもたらすフルオロフォアAlexa fluor588を結合した二次抗体を用いた間接免疫蛍光法で標識する。神経突起生長はつぎに画像解析アルゴリズム(Neurite Outgrowth BioApplication;ArrayScan HCS System)を用いて定量した。
【0120】
初代海馬カルチャー調製。海馬初代カルチャーを調製し、20細胞/mmでポリリジンコートカバーグラス上にプレートし、Neurobasal A(B27、0.5mM Lグルタミン及び100Uペニシリン/ストレプトアビジン/ml、20mmol/L HEPES及び10ng/mlFGF2及び5μMシトシンアラビノシド添加、Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)中で生長させた。カルチャーは実験前にインビトロで7〜10日間生長させた。Warner Instrument Corp(Hamden、CT、USA)IVIの温度制御かん流システムに載置し、初代細胞カルチャーにおいてGisselssonら、2005に基づいて実施した。生長メディウムをかん流ポンプMS−Reglo(Ismatec SA、Glattbrugg、スイス)を用いて260μl/分のかん流速度により無酸素iCSFかん流メディウムに変更した。クラーク電極(Consort z921、Tumhout、ベルギー)を用いてかん流メディウムの酸素含量をモニターした。細胞死の評価はpropidium iodide(PI)(10μg/ml)で判定した。
【0121】
コマ取り顕微鏡検査法及びスパイン分類。樹状突起の形態変化はコマ取り画像法で検査した。取得及び分析はOlympus IX−81蛍光顕微鏡にマウントした冷却デジタルカメラ(F−view)を制御するソフトウエアSoft Imaging System SIS(AnalySIS Olympus corp、ドイツ)を用いて実施した。専用GFPフィルター及び自然濃度フィルター(Chroma Technology Corp. Rockingham、USA)を用いて光毒性及びブリーチングを最小化した。
【0122】
シグマ−1受容体発現はsiRNAオリゴヌクレオチドを初代皮質ニューロンにエレクトロポレーション(Nucleofector technology、Amaxa)により導入してノックダウンした。新鮮な分離された初代皮質ニューロン(4.8×10ウエル)をnucleofectionバッファーに再懸濁した。シグマ−1受容体特異的(GGCUUGAGCUCACCACCUA)又はスクランブル化(UAGCGACUAAACACUCAAUU)siRNAオリゴヌクレオチドを添加し、再懸濁ニューロンをNucleofactor program G−13を用いてエレクトロポレートした。シグマ−1受容体ノックダウン下におけるAGY−94806誘導神経突起生長を測定するために、化合物を最終濃度3μMとなるように添加し、細胞を3日間、化合物存在下にインキュベートした。受容体ノックダウンの程度を評価するために、細胞を100μlリシスバッファー中で超音波処理で破砕し、4−20%トリスグリシンゲルに流した。シグマ−1受容体タンパクレベルはラットのシグマ−1受容体配列中のアミノ酸144−162に該当するヘプチド「EVYYPGETVVHGPGEATDV」を認識する選択的ポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロットで検出した。
【0123】
3μMAGY−94806は有意に平均神経突起長さ(図2A)を、3μMAGY−94806による皮質ニューロン処置後2日及び3日において、2倍以上に増加させた(p<0.01;Tukey test)(図2B)。カルチャー中において海馬ニューロンの神経突起の生長及び分岐もまた1μMAGY−94806により高められた(データを示さない)。シグマ−1受容体(si(Sig1R))処置は有意にシグマ−1受容体タンパクレベルを、スクランブルsi−RNA配列(si(scr))に比べて減少させた、(図2C、挿入)。si(Sig1R)による初代皮質ニューロンにおけるシグマ−1受容体mRNAのノックダウンは有意に神経突起生長を、si(scr)に比べて、ビヒクル処置カルチャー及びAGY−94806(3μM)処置カルチャーの両方において、インビトロ2日後において、減少させた(図2C)。さらに、si(Sig1R)は神経突起生長に対するAGY−94806の刺激効果を完全に破壊した(図2D)。
【0124】
従って、AGY−94806は、シグマ−1受容体の刺激を通して、神経突起生長及び分岐を高め、カルチャー中において皮質及び海馬ニューロンのスパイン形態における可塑性を誘発する。
【0125】
実施例5
遺伝子発現研究
ルンド大学の動物実験に関する倫理委員会は実験プロトコールを承認した。Mollegard Breeding Center、Ejby、デンマークから入手した月齢6カ月の雄性SHR(高血圧自然発症ラット)を、2カ月前及び術前に標準ケージ(550×350×200mm、各ケージにラット3〜4匹)に収容し、メトヘキシタール ナトリウム(Brietal、37℃)50mg/kgで腹腔内麻酔した。小さな開頭術によって右MCAにアクセスし、線条体動脈末端で動脈を連結し、新皮質梗塞を引き起こした。平均手術時間は約20分であり、体温は37℃付近に維持された。術後に、ラットを個々のケージに24時間維持した。MCA閉塞(MCAO)を受けたラットは、標準環境(SE)に戻すか、又は水平及び垂直のボード、鎖、ブランコ、木製ブロック、並びに大きさ及び材質の異なる物体を備えた大きな縦型エンリッチ環境(EE)ケージ(815×610×1,280mm)においた。ボードと可動性物体とのあいだの距離を1週間に2回変化させた。擬似群には、MCAOを起こさずに擬似手術を施し、標準環境においた。全ての実験群において、遺伝子発現の終点解析として回復の12日及び60日目を選択した。研究は6つの実験群を用いて行われ、各群は6〜8匹の動物で構成された。
【0126】
12日及び60日後に各実験群の動物を屠殺し、RNA精製及び標的調製のために、脳の内側、吻側及び前頭葉、並びに海馬及び線条体領域の組織を単離した。ラット皮質cDNAライブラリー由来の50,000クローンから成るcDNAアレイを、対象動物、標準MCAO動物及びエンリッチ環境動物から得た標識標的核酸とハイブリダイズさせた。得られた遺伝子発見アレイデータのバイオインフォマティクス解析後、上方制御された約3400遺伝子を選択した。各それぞれのアレイフィルターに関する平均空ウェル値によって生クローンデータを正規化した。次にこれらの値を近似の正規性まで変換した(log2+1)。その後の統計解析のために全ての複製をプールした。各脳領域(前頭、内側、吻側、海馬及び線条体)に関し、3つの実験条件(エンリッチ環境、脳卒中及び対照)の時点を主成分分析(PCA)で解析した。範囲外のデータポイントをデータセットから取り除いた。次に、所定の脳領域及び時点内の実験条件間のクローンの挙動に関してANOVAを実施した。ANOVAの結果は、p値<0.05のクローンに関してフィルターをかけた。次に、このフィルターをかけたANOVAリストをTukey HSD試験で解析し、クローンの発現パターンを決定した。
【0127】
1.8倍以上に上方制御された発現、及び変動係数(cv)>0.2に基づいて選択した。選択したクローンをとり、PCRで増幅し、プロファイリングアレイのためにナイロンメンブレン上に再びプリントした。プロファイリングアレイは、回復期間が12日及び60日のさまざまな皮質及び皮質下領域由来のプローブで調査した。更なる解析のため、上方制御されたクローンを選択した。
【0128】
発見及びプロファイリングアレイからのデータの解析により、虚血性脳卒中の病態生理学における潜在的メカニズム経路、及びエンリッチ環境後の機能回復の細胞内メカニズムの同定が可能になった。この解析には、調節されたクローンの主成分分析、及び同様の発現プロファイルを有する調節された遺伝子のクラスター化が含まれた。主成分分析は、遺伝子クラスターのセット間で因果関係をもらたす。中枢神経系(CNS)疾患に対する潜在的介入標的としての調節された遺伝子の選択には、限定されるものではないが、配列アノテーション、発現プロファイル、CNS疾患の病理における生物学的関連性のメカニズム経路内への遺伝子の配置、特定遺伝子の調節を対象とする薬物を開発するための技術的実行可能性(即ち薬物化能力)、CNS又は他の臓器の病理における遺伝子の公知の生物学的役割を含めた一連の基準が含まれた。
【0129】
EEアレイデータの解析は、動物をエンリッチ環境においた場合、標準環境と比較して、線条体及び前頭葉では1型シグマ受容体mRNAは上方制御されるが、内側皮質では1型シグマ受容体mRNAは下方制御されることを示している。したがって、エンリッチ環境を適用して脳を刺激すると、感覚運動機能の制御に重要な脳領域において1型シグマ受容体の発現を誘導する。
【0130】
実施例6
シグマ−1受容体はニューロンにおいてJNK及びp32シグナル伝達を活性化する
初代神経細胞カルチャーを密度が0.8×10細胞において96孔ウエルプレートのNeurobasal medium中で培養した。細胞は10μMの選択的キナーゼ阻害剤(JNK用にSP600125、p38用にSB203580、ERK用にU0126及びPI3キナーゼ用にLY294002、すべてTocrisから)で1時間、プレインキュベートした後、3μMAGY−94806又はビヒクル(0.03%DMSO)を添加した。カルチャー中で2日後神経突起生長を、記載のとおりに決定した。c−junリン酸化研究のために、初代皮質ニューロンをプレートし、3μMAGY−94806で3時間後にカルチャー中で処置した。c−junリン酸化に対する効果はAGY−94806投与の5、15及び30分後に測定された。細胞を集め、氷上で破砕し、10mMトリス、pH7.4、100mMNaCl、1mMEDTA、1mMEGTA、1mMNaF、20mmNa、2mMNaVO、1%トリトンX−100、10%グリセロール、0.1%SDS、0.5%デオキシコレート、1mMPMSF、及び1:200プロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma#P2714)からなるホモジェナイズバッファー中で4℃にてスピンダウンした。c−jun及びリン酸化c−junの両方を条件あたり20μgの全タンパクを含有する試料中で、抗c−jun抗体(Cell Signaling#9162)又は抗リン酸化c−jun抗体(Cell Signaling#9261)を、それぞれ製造者の推奨に従って1:1000に希釈して用いて、検出した。細胞破砕物はつぎにホースラディッシュペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体を1:2000に希釈したものとインキュベートした。免疫反応性をECL Detection Kit(Amersham Pharmacia #RPN2132)を用いた強化化学ルミネッセンスにより視覚化した。
【0131】
対照カルチャー中で、3μMAGY−94806は無処置カルチャーと比べて2倍以上(p<0.01;ボンフェローニ/ダンテスト)神経突起長を増加させた(図3A)。JNK阻害剤SP600125(10μM)及びp38阻害剤SB203580(10μM)は、それぞれ神経突起長を62±1μm及び63±9μmに、AGY−94806処置対照群と比べて約80%、減少させた。これら2群における神経突起生長の程度は対応する対照群から統計的に異ならなかった。ERK阻害剤U0126(10μM)及びPI3キナーゼ阻害剤LY294002(10μM)は効果がなかった。さらに、AGY−94806は初代皮質ニューロン中におけるc−junリン酸化レベルを約2倍(P<0.05;unpaired t−test;図3B)増加させた。従って、AGY−94806媒介神経突起生長におけるシグマ−1受容体活性化はJNK/p38活性化の上流である。
【0132】
実施例7
錠剤の調製
式IVの化合物(10.0g)を乳糖(85.5g)、ヒドロキシプロピルセルロースHPC−SL(2.0g)、ヒドロキシプロピルセルロースL−HPC、LH−22(2.0g)及び純水(9.0g)と混合し、得られる混合物を顆粒化、乾燥及びグレーディングに供し、得られる顆粒をステアリン酸マグネシウム(0.5g)と混合して錠剤製造に供し、錠剤あたり10mgの式IVの化合物を含有する錠剤を得る。
【0133】
実施例8
被験者への投与
実施例7で調製した錠剤を時間0に被験者に与える。24時間ごとに錠剤1錠を1週間与える。3錠目を投与した後、被験者を神経変性イベントに曝す。処置被験者は、未処置被験者に比べて重篤でない神経障害の症状を示す。
【0134】
本願において参照した全ての公開特許及び出版物は本明細書中にその全体が援用される。
【0135】
本発明の好ましい態様について説明し、記載したが、本発明の精神及び範囲を逸脱することなくさまざまな改変をすることが可能であることは認識されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0136】
図面の簡単な説明
【図1】図1はAGY−94806が永久及び一時的MCA閉塞及び脳外傷による脳障害後の機能回復を高めることを説明する。永久に閉塞されたMCAを有するSHRラットは毎日生理食塩水(Vh)(n=7)、0.3(n=9)又は1mg/kg皮下投与(n=10)で28日間、閉塞から2日後に開始して、処置された。(図1A):皮質部位に位置する梗塞(左パネル、星)は、群において有意に異ならなかった(右パネル)。(図1B及び1C):foot fault testにより評価した90分間のMCAの一時的閉塞後の回復。パフォーマンスはなされたfoot faultの数で表示され(図1B)及び水平に吊り下げた梯子を横切るに要する時間で表示される(図1C)。生理食塩水(n=13)、0.3(n=15)又は1mg/kg(n=11)AGY94806皮下投与による処置がMCAO後の回復の2日後から開始され毎日28日間継続された。数値は平均±SEMである。統計的差(**及び*はp<0.01及びp<0.05、2要因分散分析(2−way ANOVA)及びその後のボンフェローニテスト)。AGY94806(1.0mg/kg)による処置はこの試験における測定された全てのタイムポイントでパフォーマンスを改善した。(図1D及びE):AGY94806はそれぞれ、機能回復(回転棒rotating pole)及び外傷による脳損傷後のコンポジットニューロスコアを高める。動物は、それぞれ、1mg/kg経皮投与のAGY94806(n=10)又は生理食塩水(n=9)で処置された。メジアンは(ドット)で、第25及び第75パーセンタイルは(ボックス)で、最高値及び最低値は(バー)で示す。(p<0.05、マン・ホイットニー)。
【0137】
【図2】図2はAGY−94806が神経突起生長及び分岐、並びにスパインヘッドモーフィングを高めることを説明する。分離された皮質ニューロンをプレーティング時にAGY94806の存在している(AGY94806)又は存在していない(コントロール)媒質で処置した。(図2A):3μM AGY94806を含まない及び含む媒質で処置した抗神経チューブリン抗体で染色された皮質細胞の顕微鏡写真。(図2B):3μM AGY94806は、コントロールカルチャーと比較した場合、カルチャー中において処置後2日及び3日後神経突起生長を有意に高める。データは異なる日に実施された4−8ウエルを含む3つの別々の実験からの平均±SDである。(**はp<0.001、Tukey post test)。(図2C):初代皮質ニューロンにおいてsiRNAでSig1Rタンパクをノックダウンすると2日目に神経突起生長が、スクランブルシークエンス(scr)で処置した場合と比べて、コントロールカルチャーと3μM AGY94806で処置したカルチャーの両方において、減少する。データは平均±SD(***はp<0.001、スチューデント、t−検定)。AGY94806はスパインヘッド形態を変える。挿入写真:Sig1Rのノックダウンはウエスタンブロット上の受容体タンパクレベルを減少する(3つのうちの1ブロットを示した)。(図2D):初代皮質ニューロンにおいてsiRNAでSig1Rタンパクをノックダウンすると2日目に神経突起生長が、スクランブルシークエンス(scr)での処置に比べて、コントロールカルチャーと3μM AGY94806で処置したカルチャーの両方において、減少する。データは平均±SD(***はp<0.001、スチューデント、t−検定)。
【0138】
【図3A】図3は異なるプロテインキナーゼ阻害剤の神経突起生長及びcJunリン酸化に対する効果を説明する。(A):皮質ニューロンカルチャーを3μM AGY94806に対して10μMのJunキナーゼ(JNK)阻害剤SP600125、10μMのp38阻害剤SB203580、10μMのERK阻害剤U0128及び10μMのPI−3キナーゼ阻害剤LY294002の添加並びに無添加で、プレーティング時に処置した。神経突起長さを処置後2日で評価した。データは4−8ウエルの3−6の独立実験からの平均±SDである。NSは非有意を示し**はAGY94806処置対照群からの有意差(p<0.01、1要因分散分析及びその後のボンフェローニ/ダン検定)を示す。
【図3B】(B):皮質ニューロンカルチャーを15分間3μM AGY−94806並びにcJun及びリン酸化c−Jun(p−cJun)に対する抗体でプローブされた細胞溶解物で処置した。典型的ウエスタンブロットを示した。AGY−94806は初代皮質ニューロンにおいてc−junリン酸化レベルを約2倍増加させた(p<0.05;unpaired t−test)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AGY−94806をJNK/p38経路が活性化される細胞に接触させることを含む、JNK/p38経路の活性化方法。
【請求項2】
AGY−94806が、約0.01μMから約100μMの濃度である請求項1記載の方法。
【請求項3】
AGY−94806が、約0.1μMから約10μMの濃度である請求項2記載の方法。
【請求項4】
活性化が神経突起の生長を高める請求項1記載の方法。
【請求項5】
神経変性疾患発症後の神経発生を容易にするための哺乳動物被験者の治療方法であって、医薬的有効量のAGY−94806又はその塩若しくは溶媒和物を被験者に投与することを含む、前記方法。
【請求項6】
神経再生の徴候について被験者を評価することを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
神経再生の徴候が被験者の機能回復である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
機能回復が運動技量、認知技量、言語、知覚又は感覚機能の回復である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
機能回復が運動技量の回復である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
機能回復が認知技量の回復である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
神経再生の徴候が被験者の脳又は脊髄における構造変化である、請求項6記載の方法。
【請求項12】
神経再生の徴候が見られるまでAGY−94806を被験者に反復投与する、請求項6記載の方法。
【請求項13】
AGY−94806を毎日投与する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
神経変性疾患が虚血性脳卒中、外傷性脳損傷及び脊髄損傷から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項15】
虚血性脳卒中、外傷性脳損傷及び脊髄損傷後少なくとも24時間に治療が開始される、請求項14記載の方法。
【請求項16】
虚血性脳卒中、外傷性脳損傷及び脊髄損傷後少なくとも48時間に治療が開始される、請求項14記載の方法。
【請求項17】
被験者を刺激環境に曝すことを更に含む、請求項5記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物被験者がヒトである、請求項5記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2009−516650(P2009−516650A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538959(P2008−538959)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/042379
【国際公開番号】WO2007/053580
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(301004743)株式会社エムズサイエンス (8)
【Fターム(参考)】