説明

神経細胞保護剤

本発明は、塩酸ドネペジルに代表される化合物を含有する、中枢神経の神経細胞保護剤、並びに中枢神経系の神経細胞障害の予防剤及び/又は治療剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、塩酸ドネペジルを含有する神経細胞保護剤に関する。
【背景技術】
塩酸ドネペジルは、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼを可逆的に阻害することにより脳内のアセチルコリンの量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活する物質である。この物質は、アルツハイマー型老年性痴呆、アルツハイマー病の治療薬として広く用いられており(特許第2578475号公報)、塩酸ドネペジルに関して様々な研究機関で研究されている。Jin Zhouらは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がラットPC12細胞(腫瘍細胞)の虚血様細胞傷害に対して保護的な効果があるという旨の論文を発表しており、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤の一例として塩酸ドネペジルを用いている(Zhou,J,.Fu,Y.,Tang,X.C.,2001.Huperzine A and donepezil protect rat pheochromocytoma cells against oxygen−glucose deprivation.Neurosci.Lett.306,53−56))。
しかしながら、塩酸ドネペジルの神経細胞傷害に対する保護効果の詳細は明らかではない。
前記文献で用いられているPC12細胞とは、褐色細胞腫であり、好クロム性細胞腫ともいい、副腎髄質あるいは交感神経節細胞などクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍である。そのため、PC12細胞は脳神経細胞ではなく、細胞間にシナプスを形成しておらず、また興奮性物質に反応する機能も有していないことが知られている(Sucher,N.J,1993.Expression of Endogenous NMDAR1 Transcripts without Receptor Protein Suggests Post−transcriptional Control in PC12 Cells.The journal of Biological Chemistry.Vol.268,No.30,22299−22304.)。つまり、前記文献では、癌化した細胞についての検討がなされているのみであり、新たに脳神経細胞より調製された初代培養神経細胞を用いた検討は一切なされていない。従って、塩酸ドネペジルが、実際の神経細胞における虚血様傷害に対する保護効果を証明するデータは未だに知られていなかった。
【発明の開示】
本発明は、神経細胞(中でも中枢神経系の神経細胞)を保護する薬剤を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、意外にも塩酸ドネペジルが神経細胞(中でも中枢神経系の神経細胞)を保護する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
(1)以下の(i)〜(vii)で表されるいずれかの化合物を含有する、中枢神経系の神経細胞保護剤(特開平1−79151号公報に記載の化合物を包含する)。これらの化合物の塩は、塩酸塩であることが好ましい。
(i)下記化学式で表される1−ベンジル−4−〔(5,6−ジメトキシ−1−インダノン)−2−イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩。

(特許2578475号請求項(以下、「cl.」とする。)1)
(ii)次の一般式(I)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、Jは下記式


(式中、Sは炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、ハロゲン原子又は水酸基を意味する。tは0又は1〜4の整数を意味する。更に(S)は結合しているフェニル環の隣りあう炭素間でメチレンジオキシ基又はエチレンジオキシ基を形成していてもよい。式(l)におけるYは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味し、式(k)におけるVは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、式(n)におけるW及びWは互いに独立し、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、Wは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味する。式(a)〜(e),(g),(j),(l)及び(q)におけるフェニル環Aは炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基によって置換されていてもよい。)で表される基から選択された一価又は二価の基を意味する。Bは式−(CHR−(式中、nは0又は1〜10の整数、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を意味する)で示される基、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基、又は式=(CH−CH)=(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基を意味する。Kは置換基として、ハロゲン化されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、ベンジルオキシ基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素数1〜6のモノアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基、水酸基、ホルミル基又はアルコキシ(炭素数1〜6)アルキル(炭素数1〜6)基を有していてもよいフェニルアルキル基を意味する。

(iii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(特許2733203号cl.7)
(iv)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(特許2733203号cl.8)
(v)次の一般式(I−1)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−1は炭素数1〜6の低級アルキル基(以下単に低級アルキル基という);シクロヘキシル基;置換基として低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基(以下単に低級アルコキシ基という)、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニル基、ピリジル基あるいはピラジル基;式

で示される基;キノリル基;キノキサリル基;フリル基又は式R−CH=CH−(式中、Rは水素原子又は低級アルコキシカルボニル基を意味する)で示される基を意味する。Bは式−(CH−で示される基、式−NR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、フェニル基又は低級アルキルスルホニル基を意味する)で示される基、式−CONR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン又は水酸基を有してもよいフェニル基、ベンジル基又はピリジル基を意味する)で示される基、式−NH−CO−(CH−で示される基、式−CH−CO−NH−(CH−で示される基、式−CO−CH−CH(OH)−CH−で示される基、式−CO−(CH−で示される基、式−C(OH)−(CH−で示される基又は式−CO−CH=CH−CH−で示される基(以上の式中、nは0又は1〜10の整数を意味する)を意味する。Tは炭素原子を意味する。Kはフェニル基が置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニルアルキル(アルキルの炭素数1〜2)基;シンナミル基;低級アルキル基;ピリジルメチル基;シクロアルキル(シクロアルキルの炭素数3〜6)アルキル基;アダマンタンメチル基;フルフリル基;炭素数3〜6のシクロアルキル基又はアシル基を意味する。qは1又は2を意味する。(特許3078244号cl.1)
(vi)次の一般式(I−2)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−2は置換基として炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基を有してもよいインダノニル基を意味する。Tは窒素原子を意味する。B,K及びqは前記の意味を有する。〕(特許3078244号cl.2)
(vii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。


(特許3078244号cl.4)
(2)以下の(i)〜(vii)で表されるいずれかの化合物を含有する、中枢神経系の神経細胞障害の予防剤及び/又は治療剤。
(i)下記化学式で表される1−ベンジル−4−〔(5,6−ジメトキシ−1−インダノン)−2−イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩。塩は、塩酸塩であることが好ましい。

(特許2578475号cl.1)
(ii)次の一般式(I)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、Jは下記式


(式中、Sは炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、ハロゲン原子又は水酸基を意味する。tは0又は1〜4の整数を意味する。更に(S)は結合しているフェニル環の隣りあう炭素間でメチレンジオキシ基又はエチレンジオキシ基を形成していてもよい。式(l)におけるYは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味し、式(k)におけるVは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、式(n)におけるW及びWは互いに独立し、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、Wは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味する。式(a)〜(e),(g),(j),(l)及び(q)におけるフェニル環Aは炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基によって置換されていてもよい。)で表される基から選択された一価又は二価の基を意味する。Bは式−(CHR−(式中、nは0又は1〜10の整数、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を意味する)で示される基、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基、又は式=(CH−CH)=(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基を意味する。Kは置換基として、ハロゲン化されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、ベンジルオキシ基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素数1〜6のモノアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基、水酸基、ホルミル基又はアルコキシ(炭素数1〜6)アルキル(炭素数1〜6)基を有していてもよいフェニルアルキル基を意味する。
は単結合もしくは二重結合を意味する。(特許2733203号cl.1)
(iii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(特許2733203号cl.7)
(iv)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(特許2733203号cl.8)
(v)次の一般式(I−1)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−1は炭素数1〜6の低級アルキル基(以下単に低級アルキル基という);シクロヘキシル基;置換基として低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基(以下単に低級アルコキシ基という)、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニル基、ピリジル基あるいはピラジル基;式

で示される基;キノリル基;キノキサリル基;フリル基又は式R−CH=CH−(式中、Rは水素原子又は低級アルコキシカルボニル基を意味する)で示される基を意味する。Bは式−(CH−で示される基、式−NR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、フェニル基又は低級アルキルスルホニル基を意味する)で示される基、式−CONR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン又は水酸基を有してもよいフェニル基、ベンジル基又はピリジル基を意味する)で示される基、式−NH−CO−(CH−で示される基、式−CH−CO−NH−(CH−で示される基、式−CO−CH−CH(OH)−CH−で示される基、式−CO−(CH−で示される基、式−C(OH)−(CH−で示される基又は式−CO−CH=CH−CH−で示される基(以上の式中、nは0又は1〜10の整数を意味する)を意味する。Tは炭素原子を意味する。Kはフェニル基が置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニルアルキル(アルキルの炭素数1〜2)基;シンナミル基;低級アルキル基;ピリジルメチル基;シクロアルキル(シクロアルキルの炭素数3〜6)アルキル基;アダマンタンメチル基;フルフリル基;炭素数3〜6のシクロアルキル基又はアシル基を意味する。qは1又は2を意味する。(特許3078244号cl.1)
(vi)次の一般式(I−2)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−2は置換基として炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基を有してもよいインダノニル基を意味する。Tは窒素原子を意味する。B,K及びqは前記の意味を有する。〕(特許3078244号cl.2)
(vii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。


(特許3078244号cl.4)
上記(1)及び(2)において、化合物の塩は、塩酸塩であることが好ましく、特に、下記式に示す塩酸ドネペジルであることが好ましい。

また、上記(2)において、神経細胞障害としては、脳虚血、興奮性毒性またはAβ毒性によって誘発されるものが挙げられ、前記脳虚血及び興奮性毒性は、脳卒中、脳梗塞または脳塞栓のいずれかに伴うものが挙げられる。また、前記Aβ毒性は、アルツハイマー病又はダウン症に伴うものであってもよい。
上記(1)又は(2)において、細胞は、脳由来の成熟した神経細胞であり、特に、大脳皮質、中隔野及び海馬からなる群から選択されるいずれかに由来するものが挙げられる。また、当該神経細胞は、初代培養細胞であってもよい。
(3)上記(1)記載の保護剤、あるいは(2)記載の予防剤及び/又は治療剤を含有する、脳卒中、脳梗塞又は脳塞栓のいずれかの疾病の予後改善剤。
(4)上記(1)記載の保護剤の有効量を患者に投与することを特徴とする、中枢神経系の神経細胞保護方法。
(5)上記(2)記載の予防剤及び/又は治療剤の有効量を患者に投与することを特徴とする、中枢神経系の神経細胞障害の予防方法及び/又は治療方法。
上記(5)において、神経細胞障害としては、脳虚血、興奮性毒性またはAβ毒性によって誘発されるものが挙げられ、前記脳虚血及び興奮性毒性は、脳卒中、脳梗塞または脳塞栓のいずれかに伴うものが挙げられる。また、興奮性毒性としては、たとえばNMDA又はカイニン酸によるものが挙げられる。さらに、前記Aβ毒性は、アルツハイマー病又はダウン症に伴うものであってもよい。
(6)上記(3)記載の予後改善剤の有効量を患者に投与することを特徴とする、脳卒中、脳梗塞または脳塞栓のいずれかの疾病の予後改善方法。
(7)上記(1)記載の保護剤、(2)記載の予防剤及び/又は治療剤、並びに(3)記載の予後改善剤からなる群から選択されるいずれかの薬剤を製造するための、(1)に示す化合物の使用。
(8)中枢神経系のコリン作動性神経細胞に、Aβ存在下で候補化合物を作用させ、Aβ凝集量を検出または測定することを特徴とする、Aβ凝集抑制作用を有する化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニング方法。
本発明のスクリーニング方法は、上記Aβ凝集量の検出または測定した結果を用い、上記候補化合物がAβ凝集抑制作用を有するか否かを、上記候補化合物の非存在下におけるAβ凝集量と比較することで、目的とする化合物であるか否かを判定することができる。
(9)上記(8)記載の方法に使用するための、Aβ凝集抑制作用を有する化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニングキット。
(10)中枢神経系のコリン作動性神経細胞に、Aβ存在下で候補化合物を作用させ、細胞傷害又は細胞死を検出することを特徴とする、Aβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニング方法。
本発明の方法においては、上記細胞傷害又は細胞死を検出した結果を用いて、上記候補化合物がAβ毒性に対する細胞保護作用を有するか否かを、上記候補化合物の非存在下における細胞傷害又は細胞死の程度と比較することで、目的とする化合物であるか否かを判定することができる。
上記の細胞傷害又は細胞死は、乳酸脱水素酵素(LDH)の濃度測定又はMTTアッセイにより検出できる。
(11)上記(10)記載の方法に使用するための、Aβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニングキット。
【図面の簡単な説明】
図1は、酸素グルコース除去(OGD)処理の12時間前、1時間前及びOGD処理の1時間後にドネペジルを細胞に添加した場合におけるラット初代培養細胞のLDHの放出を表わすグラフである。OGD(−)はOGD処理なし、OGD(+)はOGD処理したものを表す。Cont及びVehiは薬剤無投与群である。データはDunnett’s testで解析した。図1の「***」はP<0.005であることを示す(「vehicle group」を対照とする)。
図2は、OGD処理の有無におけるラット初代培養細胞の形態学的観察を示したものであり、それぞれAはコントロール、BはOGD処理を施したもの、Cはドネペジルを12時間前から添加した後にOGD処理を行なったものの状態を表わす顕微鏡写真である。スケールバーは0.1mmを示す。
図3は、OGD処理12時間前から種々のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を添加した場合とドネペジルとを添加した場合におけるラット初代培養細胞のLDHの放出を表わすグラフである。OGD(−)はOGD処理なし、OGD(+)はOGD処理したものを表す。Cont及びVehiは薬剤無投与群である。データはDunnett’s testで解析した。図3の「*」はP<0.05,「**」はP<0.01,「***」はP<0.005であることを示す(「vehicle group」を対照とする)。
図4は、OGD処理12時間前からドネペジルとともにスコポラミン(Sco)又はメカミラミン(Mec)を添加した場合におけるラット初代培養細胞のLDHの放出を表わすグラフである。OGD(−)はOGD処理なし、OGD(+)はOGD処理したものを表す。Cont及びVehiは薬剤無投与群である。データはANOVAとWelch’s t−testで解析した。図4の「*」はP<0.05,「**」はP<0.01,「***」はP<0.005であることを示す(「vehicle group」を対照とする)。
図5は、NMDA処理によるラット初代培養神経細胞のLDHの放出に対するドネペジルの効果を表わすグラフである。ドネペジルは12時間前から加えた。Cont及びVehiは薬剤無投与群である。データはDunnett’s testで解析した。図5の「***」はP<0.005であることを示す(「vehicle kroup」を対照とする)。
図6は、カイニン酸処理によるラット初代培養神経細胞のLDHの放出に対するドネペジルの効果を表わすグラフである。ドネペジルは24時間前から加えた。Cont及びVehiは薬剤無投与群である。データはDunnett’s testで解析した。図6の「***」はP<0.005であることを示す(「vehicle group」を対照とする)。
図7は、培養ラット中隔野神経細胞を抗コリンアセチルトランスフェラーゼ抗体で免疫染色した図を示す。
図8は、Aβ(1−40)毒性に対するドネペジルの保護効果を、LDHを指標に用いて評価した結果を示す図である。
図9は、培養ラット中隔野神経細胞を抗MAP2抗体で免疫染色した図を示す。
図10は、Aβの凝集をCDの変化を指標に用いて測定した結果を示す図である。
図11は、細胞内アセチルコリン活性に対するsiRNAの効果を示す図である。
図12は、Aβ(1−40)毒性に対するsiRNAの保護効果を示す図である。
図13は、Aβの凝集に対するsiRNAの凝集抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
1.概要
本発明は、以下に表されるいずれかの化合物(以下、「化合物Q」とする)を含有する、中枢神経系の神経細胞の保護剤、当該神経細胞障害の予防剤及び/又は治療剤である。また、本発明により、予防剤及び/又は治療剤を適用量投与することを特徴とする、中枢神経系の神経細胞の保護方法及び/又は当該神経細胞障害の予防方法及び/若しくは治療方法が提供される。以下、本発明の保護剤、予防剤、治療剤、予後改善剤に使用される化合物Qを以下に示す。
2.化合物Q
次の一般式(I)で表される環状アミン誘導体及びその薬理学的に許容できる塩(特開平1−79151号公報、特開平07−252216号公報、特開平10−067739号公報を参照)。

〔式中、
Jは(a)置換若しくは無置換の次に示す基;▲1▼フェニル基、▲2▼ピリジル基、▲3▼ピラジル基、▲4▼キノリル基、▲5▼シクロヘキシル基、▲6▼キノキサリル基又は▲7▼フリル基、
(b)フェニル基が置換されていてもよい次の群から選択された一価又は二価の基;▲1▼インダニル、▲2▼インダノニル、▲3▼インデニル、▲4▼インデノニル、▲5▼インダンジオニル、▲6▼テトラロニル、▲7▼ベンズスベロニル、▲8▼インダノリル、▲9▼式

(c)環状アミド化合物から誘導される一価の基、
(d)低級アルキル基、又は
(e)式R−CH=CH−(式中、Rは水素原子又は低級アルコキシカルボニル基を意味する)
で示される基を意味する。

(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、アシル基、低級アルキルスルホニル基、置換されてもよいフェニル基又はベンジル基を意味する)で示される基、

で示されるアルキレン基が置換基を持たないか、又は1つ又は1つ以上のメチル基を有しているような形で水素原子又はメチル基を意味する。)、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基、式=(CH−CH)
(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基、

で示される基、式−NH−で示される基、式−O−で示される基、式−S−で示される基、ジアルキルアミノアルキルカルボニル基又は低級アルコキシカルボニル基を意味する。
Tは窒素原子又は炭素原子を意味する。

Kは水素原子、置換若しくは無置換のフェニル基、フェニル基が置換されてもよいアリールアルキル基、フェニル基が置換されてもよいシンナミル基、低級アルキル基、ピリジルメチル基、シクロアルキルアルキル基、アダマンタンメチル基、フリルメチル基、シクロアルキル基、低級アルコキシカルボニル基又はアシル基を意味する。
qは1〜3の整数を意味する。

化合物(I)における上記の定義において、J,K,R,Rにみられる低級アルキル基とは、炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝状のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基:sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基(アミル基)、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基などを意味する。これらのうち好ましい基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などを挙げることができ、最も好ましいものはメチル基である。
Jにおける「置換もしくは無置換の次に示す基;▲1▼フェニル基、▲2▼ピリジル基、▲3▼ピラジル基、▲4▼キノリル基、▲5▼シクロヘキシル基、▲6▼キノキサリル基又は▲7▼フリル基」という定義において、置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1〜6の低級アルキル基;メトキシ基、エトキシ基など上記の低級アルキル基に対応する低級アルコキシ基;ニトロ基;塩素、臭素、フッ素などのハロゲン;カルボキシル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、n−ブチロキシカルボニル基など、上記の低級アルコキシ基に対応する低級アルコキシカルボニル基;アミノ基;モノ低級アルキルアミノ基;ジ低級アルキルアミノ基;カルバモイル基;アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、バレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基など、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基;シクロヘキシルオキシカルボニル基などのシクロアルキルオキシカルボニル基;メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基などの低級アルキルアミノカルボニル基;メチルカルボニルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、n−プロピルカルボニルオキシ基など前記に定義した低級アルキル基に対応する低級アルキルカルボニルオキシ基;トリフルオロメチル基などに代表されるハロゲン化低級アルキル基;水酸基;ホルミル基;エトキシメチル基、メトキシメチル基、メトキシエチル基などの低級アルコキシ低級アルキル基などを挙げることができる。上記の置換基の説明において、「低級アルキル基」、「低級アルコキシ基」とは、前記の定義から派生する基をすべて含むものとする。置換基は同一又は異なる1〜3個で置換されていてもよい。
更にフェニル基の場合は、次の如き場合も置換されたフェニル基に含まれるものとする。即ち、

Eは炭素原子又は窒素原子を意味する。
これらのうち、フェニル基に好ましい置換基としては、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン化低級アルキル基、低級アルコキシカルボニル基、ホルミル基、水酸基、低級アルコキシ低級アルキル基、ハロゲン、ベンゾイル基、ベンジルスルホニル基などを挙げることができ、置換基は同一又は相異なって2つ以上でもよい。
ピリジル基に好ましい基としては、低級アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子などを挙げることができる。
ピラジル基に好ましい基としては、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、アシルアミノ基、カルバモイル基、シクロアルキルオキシカルボニル基などを挙げることができる。
また、Jとしてのピリジル基は、2−ピリジル基、3−ピリジル基又は4−ピリジル基が望ましく、ピラジル基は2−ピラジル基が望ましく、キノリル基は2−キノリル基又は3−キノリル基が望ましく、キノキサリル基は2−キノキサリル基又は3−キノキサリル基が望ましく、フリル基は2−フリル基が望ましい。
Jの定義において、(b)グループに記載されている▲1▼〜▲9▼について、その代表例を示せば以下のとおりである。

上記一連の式において、tは0又は1〜4の整数を意味し、Sは同一又は相異なる前記したJ(a)の定義における置換基のうち1つ又は水素原子を意味するが、好ましくは水素原子(無置換)、低級アルキル基又は低級アルコキシ基をあげることができる。更に、フェニル環の隣りあう炭素間でメチレンジオキシ基、エチレンジオキシ基などのアルキレンジオキシ基で置換されていてもよい。
これらのうち最も好ましい場合は、無置換若しくはメトキシ基が1〜3個置換されている場合である。
なお、上記のインダノリデニルはJ(b)の定義におけるフェニル基が置換されていてもよい二価の基の例である。すなわちJ(b)の▲2▼のインダノニルから誘導される代表的な二価の基である。
Jの定義において、環状アミド化合物から誘導される一価の基とは、例えばキナゾロン、テトラハイドロイソキノリン−オン、テトラハイドロベンゾジアゼピン−オン、ヘキサハイドロベンツアゾシン−オンなどを挙げることができるが、構造式中に環状アミドが存在すればよく、これらのみに限定されない。
単環もしくは縮合ヘテロ環から誘導される環状アミドがありうるが、縮合ヘテロ環としては、フェニル環との縮合ヘテロ環が好ましい。この場合、フェニル環は炭素数1〜6の低級アルキル基、好ましくはメチル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、好ましくはメトキシ基あるいはハロゲン原子によって置換されていてもよい。
好ましい例を挙げれば次の通りである。

上記の式中で、式(i),(l)におけるYは水素原子又は低級アルキル基を意味し、式(k)におけるVは水素原子又は低級アルコキシ基、式(m),(n)におけるW,Wは水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、Wは水素原子又は低級アルキル基を意味する。
なお、式(j),(l)において、右側の環は7員環であり、式(k)において右側の環は8員環である。
Jの上記の定義のうち最も好ましいものは、フェニル環が置換されてもよいインダノンから誘導される一価の基、環状アミド化合物から誘導される一価の基である。

が水素原子である場合は式−(CH−で表され、更にアルキレン鎖のいずれかの炭素原子に1つ又はそれ以上のメチル基が結合していてもよいことを意味する。この場合、好ましくはnは1〜3である。
また、Bの一連の基において、基内にアミド基を有する場合も好ましい基の一つである。
更に好ましい基としては、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基、式=(CH−CH)=(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基、式−NH−で示される基、式−O−で示される基又は式−S−で示される基をあげることができる。

Kの定義における「置換又は無置換のフェニル基」、「置換もしくは無置換のアリールアルキル基」において、置換基は前記のJの定義において(a)の▲1▼〜▲7▼において定義されたものと同一のものである。
アリールアルキル基とは、フェニル環が上記の置換基で置換されるか、無置換のベンジル基、フェネチル基などを意味する。
ピリジルメチル基とは具体的には、2−ピリジルメチル基、3−ピリジルメチル基、4−ピリジルメチル基などを挙げることができる。
Kについては、フェニル基が置換されてもよいアリールアルキル基、置換若しくは無置換のフェニル基、フェニル基が置換されてもよいシンナミル基が最も好ましい。
好ましいアリールアルキル基は、具体的には例えばベンジル基、フェネチル基などをいい、これらはフェニル基が炭素数1〜6の低級アルコキシ基、炭素数1〜6の低級アルキル基、水酸基などで置換されていてもよい。

二重結合である場合の例をあげれば、上記で述べたフェニル環が置換されてもよいインダノンから誘導される二価の基の場合、すなわちインダノリデニル基である場合をあげることができる。
本発明において、薬理学的に許容できる塩とは、例えば塩酸塩、硫酸塩、臭化水素酸塩、燐酸塩などの無機酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。
また置換基の選択によっては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩などの有機アミン塩、アンモニウム塩などを形成する場合もある。
なお、本発明において上記化合物は、置換基の種類によっては不斉炭素を有し、光学異性体が存在しうるが、これらは本発明の範囲に属することはいうまでもない。
具体的な例を一つ述べれば、Jがインダノン骨格を有する場合、不斉炭素を有するので幾何異性体、光学異性体、ジアステレオマーなどが存在しうるが、何れも本発明の範囲に含まれる。
これらの定義を総合して特に好ましい化合物群をあげれば次のとおりである。

〔式中、Jはフェニル基が置換されていてもよい次の群から選択された一価又は二価の基;▲1▼インダニル、▲2▼インダノニル、▲3▼インデニル、▲4▼インデノニル、▲5▼インダンジオニル、▲6▼テトラロニル、▲7▼ベンズスベロニル、▲8▼インダノリル、

B,T,Q,q,Kは前記と同様の意味を有する。〕
で表される環状アミン又は薬理学的に許容できる塩。
上記のJの定義中、最も好ましい基としては、フェニル基が置換されていてもよいインダノニル基、インダンジオニル基、インダノリデニル基をあげることができる。また、この場合、フェニル基は置換されていないか、同一又は相異なる水酸基、ハロゲン、低級アルコキシ基で置換されている場合が最も好ましい。低級アルコキシ基とは、炭素数1〜6の例えばメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基などをいい、1〜4置換をとりうるが、2置換の場合が好ましい。最も好ましい場合はメトキシ基が2置換となっている場合である。
(A)式に含まれる化合物の中で更に好ましい化合物群としては、次の一般式で表される化合物(B)をあげることができる。

〔式中、Jはフェニル基が置換されていてもよい次の群から選択された一価又は二価の基;▲1▼インダニル、▲2▼インダノニル、▲3▼インデニル、▲4▼インデノニル、▲5▼インダンジオニル、▲6▼テトラロニル、▲7▼ベンズスベロニル、▲8▼インダノリル、

で示されるアルキレン基が置換基を持たないか、又は1つ又は1つ以上のメチル基を有しているような形で水素原子又はメチル基を意味する。)で示される基、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基又は式=(CH−CH)=(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基を意味する。
T,Q,q,Kは前記と同様の意味を有する。〕
(B)式に含まれる化合物の中で更に好ましい化合物群としては、次の一般式で表される化合物(C)をあげることができる。

(式中、J,B,Kは前記と同様の意味を有する。)

(C)式に含まれる化合物の中で更に好ましい化合物群としては、次の一般式で表される化合物(D)をあげることができる。

(式中、Jはフェニル基が置換されてもよいインダノニル、インダンジオニル、インダノリデニル基から選択された基を意味する。
は置換若しくは無置換のフェニル基、置換されてもよいアリールアルキル基、置換されてもよいシンナミル基を意味する。
は前記と同様の意味を有する。)
3.神経細胞保護
本発明において、中枢神経系の神経細胞とは、脳由来の成熟した神経細胞(好ましくは、神経回成に取り込まれ機能的に成熟したヒト又はヒト以外の哺乳動物由来の中枢神経系の神経細胞)を意味し、大脳皮質、中隔野及び海馬からなる群から選択されるいずれかに由来する細胞である。
本発明において、中枢神経系の神経細胞保護とは、中枢神経系の神経細胞に対する脳虚血等の虚血様作用によるもの、NMDA(N−methyl−D−aspartate)、カイニン酸など興奮性物質による興奮性毒性によるもの、ペプチド又はタンパク質の凝集体毒性(Aβ毒性、プリオン毒性を含む)によるもの、NO(nitric oxide)や活性酸素種によるものの他、様々の負荷に対する保護作用をいう。また、脳虚血により誘発される神経細胞傷害には、例えば脳卒中、脳梗塞、脳塞栓(最近ではアルツハイマーの原因とも言われている)などの、脳神経の変性疾患等の傷害を含む。当該ペプチド又はタンパク質の凝集体毒性、特にAβ毒性は、アルツハイマー病又はダウン症に伴って誘発されるものも含まれる。
当該神経細胞保護は、例えば、中枢神経系の神経細胞に対する負荷(例えば、ストレス、栄養障害、病気、外傷、手術などによる体力低下、衰弱、老化など、恒常性維持に好ましくない物理的または化学的な障害もしくは細胞毒性作用)による神経細胞死を実際に防止する作用のほか、神経細胞の機能低下を防止する作用を含む広い意味に用いる。
神経細胞が保護されたか否かを調べるためには、神経細胞を調製する必要がある。この場合、細胞は特に限定されるものではなく、生体試料から調製した初代培養細胞であってもよい。生体試料からの初代培養細胞の調製方法は、例えば、大脳皮質由来の初代培養神経細胞は大脳皮質より得ることができ、中隔野細胞由来の初代培養神経細胞は、中隔部位、つまり中隔野及び前脳基底核を含む部位から得ることができる。
細胞の採取源となる動物種は、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等のいずれでもよく、特に限定されるものではない。細胞は、胎仔から成体までのいずれの成長過程からも採取することもできるが、胎仔(例えば胎生18日齢)から調製することが好ましい。採取した組織を、トリプシン処理又はコラゲナーゼ等で処理することにより、神経細胞を得ることができる。
細胞培養は、通常の動物細胞の培養方法で行うことができ、当業者であれば、適当な培養条件を設定することができる。
4.神経細胞保護剤、保護方法
前述の化合物Qは、神経細胞(中でも中枢神経系の神経細胞)の障害に対して保護作用を有する。また、アセチルコリンエステラーゼ遺伝子(AChE遺伝子)のsiRNAは、AChE遺伝子の発現を抑制してAChEの機能を阻害し、Aβの産生を抑制する。したがって、本発明において化合物Q又は後述のAChE遺伝子のsiRNAは、上記脳卒中、脳梗塞、脳塞栓などの脳神経の変性疾患中枢神経保護剤、神経細胞障害の予防剤、治療剤及び/又は予後改善剤(以下、「本発明の保護剤等」ともいう)の有効成分として有用であり、アルツハイマー病及びダウン症等の治療剤、治療方法、予後改善剤及び予後改善方法が提供される。
本発明の保護剤等の有効成分(例えば、塩酸ドネペジル)は、無水物であってもよく、水和物を形成していてもよい。また、例えば、上記ドネペジルには結晶多型が存在することもあるがこれに限定されず、いずれかの結晶形が単一であってもよいし、結晶形混合物であってもよい。
本発明において用いる化合物Q(例えば塩酸ドネペジル)は、公知の方法で製造することができる。代表的な例として、特開平1−79151号公報、特許2578475号公報、特許2733203号公報、あるいは特許3078244号公報に開示されている方法により容易に製造することができる。また、塩酸ドネペジルは、細粒剤等の製剤としても入手できる。
本発明において用いるsiRNAは、後述の方法に従って設計し、当業者であれば核酸合成装置等を用いた公知の方法で製造することができる。
本発明の保護剤等には、化合物QまたはAChE遺伝子のsiRNAをそのまま用いることも、公知の薬学的に許容できる担体等を配合して製剤化することも可能である。このような薬学的に許容できる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤等を挙げることができる。製剤化の剤形としては、経口的投与形態に用いられる錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤等が、また非経口的投与形態に用いられる坐剤、注射剤、軟膏剤、バップ剤等が挙げられる。
また、本発明の保護剤等の投与形態は特に限定されず、経口又は非経口的に投与することができる。例えば、経口投与形態として、塩酸ドネペジルの細粒剤は商品名アリセプト細粒(エーザイ株式会社)、錠剤は商品名アリセプト錠(エーザイ株式会社)として入手することができる。あるいは、非経口投与の形態として、経皮吸収、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射又は腹腔内注射などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類など)、懸濁剤又は乳濁剤として調製することが可能である。注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合等により行えばよい。また、注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。貼布剤として経皮吸収により投与する場合には、塩を形成しない、いわゆるフリー体を選択することが好ましい。
経口投与における化合物Qの投与量は、塩酸ドネペジルを例にあげると、好ましくは、0.1〜100mg/日であり、さらに好ましくは1.0〜50mg/日であり、また、AChE遺伝子のsiRNAの好ましい投与量としては、0.01〜100mg/日であり、さらに好ましくは0.1〜50mg/日である。
非経口投与において、貼布剤の場合、好ましい投与量としては、5〜50mg/日であり、さらに好ましくは10〜20mg/日である。また、注射剤の場合には、生理食塩水又は市販の注射用蒸留水等の薬学的に許容される担体中に0.1μg/ml担体〜10mg/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤の投与量は、処置を必要とする患者に対し、0.01〜5.0mg/日であり、さらに好ましくは0.1〜1.0mg/日であり、一日あたり1〜3回に分けて投与することができる。
5.機能評価方法
本発明の神経細胞保護剤が、虚血性の傷害から神経細胞を保護する効果については、OGD(Oxygen Glucose Deprivation:酸素グルコース除去)試験によって評価することが可能である。また、本発明の神経細胞保護剤が、興奮性毒性から神経細胞を保護する効果については、NMDAまたはカイニン酸刺激試験によって評価することが可能である。さらに、本発明の神経細胞保護剤が、Aβ毒性から神経細胞を保護する効果については、Aβ毒性試験またはAβ凝集試験によって評価することが可能である。以下、それぞれの試験方法について説明する。
(1)OGD試験
OGD試験では、ラット初代培養大脳皮質神経細胞に対して酸素・グルコース除去による負荷を与えることによって虚血様細胞傷害を誘発するというモデルを用いる。そして、当該モデルにおいて、塩酸ドネペジルが前記虚血様傷害に対して神経細胞保護作用を有するかどうかの検討を行う。
本実施例においては、初代培養神経細胞はラット胎仔(胎生17−19日齢)の大脳皮質より得ることができる。細胞は通常の動物細胞の培養環境下、例えば、37℃、5%CO環境下で、7日以上培養したものを用いることができる。OGD処理は、培養したラット初代培養大脳皮質神経細胞をグルコースの入っていない緩衝液中に置き、続いて密閉されたチャンバーに移し、窒素置換を行い低酸素環境にすることによって行う。OGD処理後の細胞は、グルコースの入っていない緩衝液から細胞培養用溶液に置換し、37℃、5%CO環境下で一晩培養する。
(A)化合物Q、例えばドネペジルにより虚血性の傷害から神経細胞を保護の効果が認められるか否かを明らかにするには、まず、OGD処理の前後で当該化合物を添加した条件で本実施例を行えばよい。例えば、OGD処理の12時間前からドネペジルを添加したPre−12h、OGD処理の1時間前からドネペジルを添加したPre−1h及びOGD処理の1時間後からドネペジルを添加したPost−1hと、OGD処理をしなかったCont及びOGD処理前後にドネペジルを加えなかったVehicleとの神経細胞保護作用を比較する。神経保護作用の指標としては、LDHの放出の抑制率を用いることができる。LDH(lactate dehydrogenase)は細胞質に存在する酸化還元酵素であり、ピルビン酸を乳酸へと変換し、それに伴って細胞内のNADH(nicotinamide adenine dinucleotide)量を減少させる。したがって、細胞がOGDにより傷害を受けるとLDHが細胞内から細胞外の溶液中に流出し、その溶液には細胞の傷害度(細胞死)に応じてLDHが存在することになる。また、溶液中に存在するLDHの量はその溶液にピルビン酸、および、NADHを加え、NADHの減少率を吸光度計により測定することによって分かる。本試験例により、OGD処理の12時間前からドネペジルを添加した場合(Pre−12h)に、もっとも神経保護効果を奏することが示される。
(B)また、前述のようにOGD処理したラット初代培養神経細胞を顕微鏡により形態を観察することにより、細胞の受けた傷害の程度、または化合物による神経細胞の保護の程度を観察することもできる。Vehicle処置細胞は、コントロール細胞と比較して、正常な形態をとらない。一方、OGD処理前にドネペジルを処置した場合には、Vehicle処置細胞ほどの細胞の傷害はみられず、OGD処理前の神経細胞に近い形態を示す。従って、細胞形態の側面からも、OGD処理前にドネペジルを添加することにより、神経細胞が保護されているということが示される。
(C)さらに、前述の試験と同様の操作により、ラット初代培養神経細胞をOGD処理し、その際に各種アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ガランタミン、タクリン、リバスチグミン)及びドネペジルを用いてそれぞれの濃度を変えて細胞に添加した際のLDH放出に及ぼす影響について試験を行うこともできる。この試験において、ドネペジルのアセチルコリンエステラーゼ50%阻害濃度はリバスチグミンとほぼ同等であるが、リバスチグミンや他のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は神経細胞保護作用を示さなかった。従って、ドネペジルによるOGD処置神経に対する神経保護作用がアセチルコリンエステラーゼ阻害作用とは異なる作用機序に基づくものであることを示唆している。
(D)次に、前述のドネペジルの神経細胞保護作用が、アセチルコリン受容体を介するものであるのかを調べるために、アセチルコリン受容体アンタゴニストであるスコポラミン(ムスカリン受容体アンタゴニスト)及びメカミラミン(ニコチン受容体アンタゴニスト)を細胞に添加した際にドネペジルによる保護作用がどのように影響を受けるのかを調べる。本試験により、ドネペジルの神経細胞保護作用は、スコポラミン及びメカミラミンの添加により影響は受けず、従って、ドネペジルの神経細胞保護作用は、アセチルコリン受容体を介するものではないことを示している。
(2)興奮性毒性試験
(A)NMDA毒性
興奮性毒性試験では、初代培養神経細胞におけるNMDA(N−methyl−D−aspartate)毒性に対する化合物(例えばドネペジル)の細胞保護作用を検討する。ラット初代培養大脳皮質神経細胞に対してNMDA刺激を与えることによって細胞傷害を誘発するモデルを用いる。方法は、前述のようにして得られたラット初代培養神経細胞に対して、NMDAを添加(例えば100μMを9時間添加)し、その後、培養液中に存在するLDHの量を測定すればよい。ドネペジルはNMDA刺激を加える前、例えば12時間前から細胞に添加しする。そして、NMDA添加後、例えば9時間後に培養液中に存在するLDHの量を測定し、神経保護作用の指標とすることができる。
本試験によりドネペジルはNMDA興奮性毒性に対して濃度依存的に神経細胞保護効果を示すことが明らかである。
(B)カイニン酸毒性
カイニン酸は、アルツハイマー病の原因因子の一つとされているβ−アミロイドが誘発する神経細胞死を増強するといわれている。本試験では、ラット初代培養大脳皮質神経細胞において、カイニン酸により誘発される細胞傷害に対して、化合物(例えば、ドネペジル)による細胞保護作用を検討する。
カイニン酸処置は、例えば、7日以上培養した細胞の培地にカイニン酸を加え、37℃、5%CO環境下で一晩培養すればよい。化合物Q(例えばドネペジル)は、カイニン酸刺激を加える前、例えば24時間前から細胞に添加する。そしてカイニン酸添加後、例えば24時間後に培養液中に存在するLDHの量を測定し、神経保護作用の指標することができる。本試験において、ドネペジルは、用量依存的に神経細胞のLHD放出を抑制することから、ドネペジルはカイニン酸興奮性毒性に対して濃度依存的に保護効果を示すことが明らかである。
(3)Aβ毒性試験またはAβ凝集試験
(A)培養中隔野神経細胞
Aβはアルツハイマー病の原因と考えられており、また、アルツハイマー病では、記憶や学習に関与する中枢のコリン作動性神経が脱落する。そして、コリン作動性神経は、中隔野から海馬などのアルツハイマー病で障害を受けやすい領域に投射されている。以上の知見と、塩酸ドネペジルの投与によってアルツハイマー病による海馬の体積減少が抑制されることを考慮すると、コリン作動性神経において、化合物(例えば、ドネペジル)のAβ毒性に対する保護効果及びAβ凝集抑制効果を解析することが好ましい。
中隔野神経細胞の多くは、アセチルコリン合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を有するために、コリン作動性神経であると考えられる。本発明では、コリン作動性神経である前記中隔野神経細胞において、ドネペジルによるAβ凝集抑制作用によるコリン作動性神経細胞の毒性に対する細胞保護効果を初めて示したものである。
中隔野神経細胞は、生体から採取し、培養することで得ることができ、その由来はマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等のいずれでもよく、種に限定されない。細胞は、胎仔から成体までのいずれの成長過程からも採取することもできるが、胎仔(例えば胎生18日齢)から調製することが好ましい。脳の中隔部位、つまり、中隔野及び前脳基底核を含む部位を切り出し、トリプシン処理を行うことで細胞を得ることができる。
中隔野神経細胞は、前記のように得られた細胞を、培養プレートに適当な濃度で播種しての培養することができる。培養プレートは、ポリD−リジンでコートしたプレートであることが好ましく、濃度は、例えば96ウェルポリD−リジンコートプレートにウェルあたり1.2×10細胞で播種することが好ましい。培地は、5%fetal calf serumを含むDMEMを用いることができ、DMEMは、5μg/ml insulin、30nmol/L sodium selenite、100μmol/L putrecine、20nmol/L progesterone、15nmol/L biotin、100units/ml penicillin、100μg/ml streptomycin、1mmol/L sodium pyruvate等を含むことがより好ましい。
培養中隔野神経細胞がコリン作動性神経であることの確認は、上記のようにChATの発現を指標に用いて行うことができる。ChATの発現の有無は、培養中隔野神経細胞を抗ChAT抗体で免疫染色して確認することができる。
(B)Aβ凝集の検出
本発明において、Aβの凝集はAβのβ−シート構造形成に起因する215〜260nmにおけるCD(circular dichroism)スペクトルの変化を指標に用いて検討することができる。215〜260nmにおけるCD(circular dichroism)スペクトルは、Aβがα−ヘリックス構造又はβ−シート構造を形成すると減少する。特に、β−シート構造の形成は、215nm周辺のCDスペクトルを減少させることが知られている。
また別の態様として、培養液中でのAβの凝集を簡便に検討するためThioflavin Tを用いてAβの蛍光を測定することができる。細胞にAβ(1−42)を添加48時間後、培地を採って10μmol/LのThioflavin−Tを添加し、直後にexcitation波長450nm,emission波長490nmで蛍光測定する(Wall J.,Schell M.,Murphy C.,Hrncic R.,Stevens F.J.,Solomon A.(1999)Thermodynamic instability of human lambda 6 light chains:correlation with fibrillogenicity.Biochemistry.38(42),14101−14108.)。
(C)Aβ毒性の検出
Aβはβ−シート構造をとるとAβ繊維の固まりを形成しやすくなり、毒性を示すことが知られている。本発明においてAβ毒性の検出は、中隔野神経細胞にAβを添加した後に、細胞障害を測定する公知の方法を用いて行なうことができ、次に好適な代表例を記載するがこれに限定されない。例えば、上記(1)と同様に培地中のLDH量を指標に用いて検討する。あるいは、本発明において、Aβ毒性は、中隔野神経細胞にAβを添加した後に、MTT(dimethylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazoliumbromide)アッセイによって検討する。MTTアッセイの方法は、例えば、MTT(シグマ社製)を培地中に終濃度が1mg/mlになるように加え、37℃で1時間インキュベーション後、培地を取り除き、細胞をDMSOで可溶化し、その吸光度(550nm)を測定すればよい。あるいは、alamar blueによる細胞障害測定方法によって検討する。alamar blueによる該方法は、培地の10分の1量のalamar blue(和光純薬社製)を加え、5%CO環境下で反応させる。4時間後、励起波長530nm,蛍光波長590nm,gain 35で測定する。培地のみを0%,コントロールを100%として換算する。
細胞に添加するAβは、全長のAβを用いてもよいし、N末端から40残基のみのAβ(1−40)を用いてもよいし、βシート構造をとる配列である限り、いずれの長さのAβを用いてもよい。
また、Aβ毒性による細胞死の程度は抗MAP2抗体による免疫染色によっても検討することができる。前記のMAP2は神経細胞のマーカーであるため、MAP2を発現する細胞の量から、Aβ毒性による神経細胞の脱落の程度を確認することができる。あるいは、トリパンブルーによる細胞障害測定方法によって検討する。トリパンブルー(和光純薬社製)を加え、濃青で染色されない細胞を生細胞として数を数える。
(D)中隔野神経細胞のAβ毒性に対する神経保護剤及びAβ凝集抑制剤
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)遺伝子のsiRNAを、中隔野神経細胞に添加すると、細胞内のAChE活性が低下する。siRNAの処置によりAβ毒性に対する中隔野神経細胞の障害が緩和されることが、上記(C)のLDHを測定することにより示される。
また、当該siRNAを添加した中隔野神経細胞において、siRNAの処置によりAβ凝集作用が抑制されることが、上記(B)のCDスペクトルを測定することにより示される。
以上のことから、中隔野神経細胞のAβ毒性及びAβ凝集には、AChEが関与していることを明らかである。従って、アセチルコリンエステラーゼの機能阻害作用を有する化合物であって、実質的にアセチルコリンエステラーゼとAβとの相互作用を抑制する作用を併せ持つ化合物を含有するAβ凝集抑制剤は、本発明に含まれる。
「相互作用」とは、アセチルコリンエステラーゼとAβが結合することを意味する。「実質的にアセチルコリンエステラーゼとAβとの相互作用を抑制する」とは、アセチルコリンエステラーゼ存在下にAβの凝集が促進されることを抑制することであることを意味する。そして、Aβ毒性が阻害される限り、「実質的」に相互作用が抑制されるといえる。
アセチルコリンの機能低下作用は、アセチルコリンエステラーゼの活性阻害によるものであっても、アセチルコリンエステラーゼ遺伝子の発現阻害によるものであってもよい。
AChEの活性阻害は、アセチルコリンとAβとの相互作用を抑制する限り、AChEの酵素活性を阻害するものであれば、いずれの化合物であってもよく(例えば下記式の塩酸ドネペジル)、また、抗AChE抗体であってもよい。

AChE遺伝子の発現阻害は、アセチルコリンとAβとの相互作用を抑制し、かつ、AChE遺伝子の発現を阻害するものであれば、RNAiを生ずるいずれの核酸(siRNAやshRNA)であってもよい。RNAiによりAChE遺伝子の発現を抑制するには、例えばAChE遺伝子に対するsiRNA(small interfering RNA)または、shRNA(short hairpin RNA)を設計及び合成し、これを作用させてRNAiを起こさせればよい。siRNAは、細胞内でDicerによってプロセッシングを受けて産生される短鎖RNAである。一方、shRNAはヘアピン構造に折り畳まれた小さなRNA分子であり、センス鎖とアンチセンス鎖をループでつないだステムループ構造を持つ。
siRNAの設計基準は以下の通りである。
(a)AChEをコードする遺伝子の開始コドンの下流の領域を選択する。開始コドンより下流の配列であれば特に限定されるものではなく、任意の領域を全て候補にすることが可能である。
(b)選択した領域から、aaで始まる連続する11〜30塩基、好ましくは21〜25の配列を選択する。
具体的には、以下の塩基配列を標的配列とし、この標的配列を含み、かつ、30塩基以下、例えば11〜30塩基の長さ(好ましくは21〜25塩基の長さ)の配列をsiRNAとして使用することができる((i−1)と(i−2)、及び(ii−1)と(ii−2))。

本発明においてAChE遺伝子のsiRNAは、(i−1)と(i−2)との組み合わせ、及び(ii−1)と(ii−2)との組み合わせで形成する二本鎖RNAの形で用いることが好ましい。
また、shRNAの設計基準は以下の通りである。
(a)RNAiに使用するAChEに対するshRNA配列は、遺伝子に特異的な5’末端領域から300塩基までの間で設計する(Elbashir,S.M.et.al.Genes Dev.15,188−200(2001))。
(b)それぞれの遺伝子転写産物の5’末端に近い領域から、aa又はaから始まるmRNA配列を標的配列として選択及び設計する。標的領域の長さは特に限定されるものではなく、好ましくは30bp以下、より好ましくは21〜25bp程度である。
siRNA及びshRNAを培養中隔野神経細胞に導入するには、in vitroで合成したsiRNA及びshRNAをプラスミドDNAに連結してこれを細胞に導入する方法、2本のRNAをアニールする方法などを採用することができる。
また、Aβ凝集抑制効果を示すsiRNA又はshRNAの構造解析から予想される化合物であって、Aβ凝集抑制効果を有するものも本発明に含まれる。
(E)コリンエステラーゼ阻害剤又はコリンエステラーゼ遺伝子のsiRNAによるAβ凝集抑制作用及びAβ毒性に対する保護作用の検出
本発明は、Aβ凝集抑制作用を有する化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニング方法を提供する。つまり、中枢神経系の神経細胞に、Aβの存在下に被検化合物(候補化合物)を添加したときの215〜260nm、特に215nmにおけるCDスペクトルの減少を測定することで、Aβの凝集を抑制する化合物のスクリーニングを行うことができる。被検化合物がAβ凝集抑制作用を有するかの判断は、被検化合物によるAβ凝集量を、候補化合物の非存在下におけるAβ凝集量と比較することで行うことができる。本発明は、上記方法に使用するためのAβ凝集抑制作用を有する化合物又はその薬学的に許容される塩のスクリーニングキットも提供する。
本発明のキットには、Aβ凝集抑制を上記(B)のCDスペクトル法で測定するために必要なものが含まれる。Aβ凝集に必要なAβ、CDスペクトル測定時に使用される試薬類は、下記の実施例6及び7において使用したものが好適に用いられる。
また、本発明は、Aβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニング方法を提供する。つまり、被検化合物及びAβを培養中隔野神経細胞に添加したときの細胞傷害又は細胞死を検出することによって、Aβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物のスクリーニングを行うことができる。上記の細胞障害又は細胞死は、上記(C)に記載のLDH量を測定することによって、あるいはMTTアッセイ等によって検出することができる。本発明は、上記方法に使用するためのAβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物又はその薬学的に許容される塩のスクリーニングキットも提供する。
また、本発明のキットには、Aβ毒性による神経細胞障害を上記(C)の細胞外LDH量を指標に測定するために必要なもの、あるいは、MTTアッセイ等を実施するために必要なものが含まれる。Aβ毒性による細胞障害の程度をLDHで測定するために必要な試薬類は、下記の実施例1,2,3,5及び7において使用したものが好適に用いられるが、例えば、NADH、ピルビン酸が挙げられる。また、Aβ毒性による細胞障害の程度をMTTで測定するために必要な試薬類は、例えばMTTが挙げられる。
これらのキットを構成する各成分は、別個に用意してもよく、あるいは、支障がない限り共存させていてもよい。キットは溶液を含んでもよく、あるいはそのような溶液を配合するための成分が濃縮形態であってもよい。
さらに必要に応じて、本キットは補助剤、専用容器、その他の必要なアクセサリー、説明書などを含んでもよい。
本発明において、ドネペジルのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はアセチルコリンエステラーゼ遺伝子のsiRNAによるAβ凝集抑制作用は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤を、Aβの添加前(例えば24時間)に添加し、Aβの添加後(例えば48時間後)に、前述のCDスペクトルを測定することによって確認することができる。
また、同様に処置した細胞において、培地中のLDH量を測定することで、ドネペジルのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はアセチルコリンエステラーゼ遺伝子のsiRNAによるAβ毒性に対する保護作用を確認することができる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本実施例により本発明は限定されるものではない。
実施例1:OGD試験
本実施例では、ラット初代培養大脳皮質神経細胞に対して酸素・グルコース除去による負荷を与えることによって虚血様細胞傷害を誘発するモデルを用いた。塩酸ドネペジルが前記虚血様傷害に対して神経細胞保護作用を有するかどうかの検討を行った。
本実施例においては、初代培養神経細胞はラット胎仔(胎生17−19日齢)の大脳皮質より得た。培養液はDMEM(Gibco BRL)に10%fetal calf serum(Gibco BRL),10%horse serum(Gibco BRL),5?g/ml insulin(Sigma),30nM sodium selenite(Sigma),100?M putrecine(Sigma),20nM progesterone(Sigma),15nM biotin(Sigma),100units/ml penicillin(Gibco BRL),100?g/ml streptomycin(Gibco BRL),8mM glucose and 1mM pyruvic acid(Sigma)を用い(参照文献Scholtz et al.,1988)、細胞は37℃、5%CO環境下で培養した。7日以上培養した後、OGD処理を施こした。OGD処理は、ラット初代培養大脳皮質神経細胞をグルコースの入っていない緩衝液:Krebs−Ringer bicarbonate buffer(5.36mM KCl,1.26mM CaCl,0.44mM KHPO,0.49mM MgCl,0.41mM MgSO,137mM NaCl,4.17mM NaHCO,0.34mM NaHPO,10mM HEPES(pH7.4))中に置き、それから密閉されたチャンバーに移し、窒素置換し、低酸素環境にすることによって行った。OGD処理後の細胞は、グルコースの入っていない緩衝液から細胞培養用溶液に置換し、37℃、5%CO環境下で一晩培養した。まず、OGD処理の前後でドネペジルを添加することによって神経細胞保護の効果が認められるのか、また、変化するのかを検討した。OGD処理の12時間前からドネペジルを添加したPre−12h、OGD処理の1時間前からドネペジルを添加したPre−1h及びOGD処理の1時間後からドネペジルを添加したPost−1hと、OGD処理をしなかったCont及びOGD処理前後にドネペジルを加えなかったVehicleとの神経細胞保護作用を比較した。神経保護作用の指標としては、LDHの放出の抑制率を用いた。LDH(lactate dehydrogenase)は細胞質に存在する酸化還元酵素であり、ピルビン酸を乳酸へと変換し、それに伴って存在しているNADH(nicotinamide adenine dinucleotide)量を減少させる。したがって、細胞がOGDにより傷害を受けるとLDHが細胞内から細胞外の溶液中に流出し、その溶液には細胞の傷害度(細胞死)に応じてLDHが存在することになる。また、溶液中に存在するLDHの量はその溶液にピルビン酸、および、NADHを加え、NADHの減少率を吸光度計により測定することによって分る。結果を図1に示す。図1から明らかなようにPre−12hが最も大きなLDH放出抑制作用を示し、以下Pre−1h、Post−1hと続いた。この結果により、OGD処理の12時間前からドネペジルを添加した場合に、神経細胞を効果的に保護するということが分かる。これ以降のOGD試験におけるドネペジルの添加時間はいずれもPre−12hに固定した。
次に、先ほどの試験と同様の操作によりラット初代培養細胞をOGD処理した際の神経細胞を、顕微鏡で観察した。結果を図2に示す。図2から明らかなように、Vehicle(B)ではコントロール(A)と比較して細胞が正常な状態をとどめておらず、OGDによってダメージを受けていることが顕著である。一方、OGD処理の前にドネペジルを添加した場合には、(B)に見られるような神経細胞のダメージは見られず、OGD処理前の神経細胞の状態に近い状態であることが明らかである(C)。よって、OGD処理前にドネペジルを添加することにより、神経細胞が保護されているということが示された。
次に、前述の試験と同様の操作により、ラット初代培養神経細胞をOGD処理し、その際に各種アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(ガランタミン、タクリン、リバスチグミン)及びドネペジルを用いてそれぞれの濃度を変えて細胞に添加した際のLDH放出に及ぼす影響について試験を行った。添加した濃度は、ドネペジル、タクリン及びリバスチグミンは0.1,1.0,10μM、ガランタミンは1.0,10,100μMとした。結果を図3に示す。図3Aより明らかなように、ドネペジルのみが用量依存的に神経細胞のLHD放出を統計上有意に抑制していることが分かる。ここで、それぞれのラット脳破砕懸濁液におけるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の50%阻害濃度(IC50)を表1に示す。

表1から明らかなように、ドネペジルのアセチルコリンエステラーゼ50%阻害濃度はリバスチグミンとほぼ同等であることが分かる。しかしながら、リバスチグミンや他のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は神経細胞保護作用を示さなかった。この結果は、神経保護作用がアセチルコリンエステラーゼ阻害作用とは異なる作用機序に基づくものであることを示唆している。
次に、ドネペジルの神経細胞保護作用が、アセチルコリン受容体アンタゴニストであるスコポラミン(ムスカリン受容体アンタゴニスト)及びメカミラミン(ニコチン受容体アンタゴニスト)を細胞に添加した際にどのように影響を受けるのかを、以下の実験により調べた。
前述の試験と同様に、OGD処理の12時間前からドネペジル、スコポラミン、メカミラミン、ドネペジルとスコポラミン、もしくは、ドネペジルとメカミラミンを神経細胞培養液中に添加し、OGD処理によるLDH放出に及ぼす影響について試験を行った。添加した濃度は、ドネペジル、スコポラミン、メカミラミンのいずれも10μMとした。
結果を図4に示す。図4より明らかなように、ドネペジルの神経細胞保護作用は、Cont(OGD処理なし)、Vehi(ドネペジル添加なし)及びドネペジル添加のいずれのサンプルにおいてもアセチルコリン受容体アンタゴニストであるスコポラミン(図4A)又はメカミラミン(図4B)の添加の有無によっては影響を受けていないということが分かる。これは、ドネペジルがアセチルコリン受容体の阻害の有無に関係なく神経細胞を保護しているということを示す。よって、本実験によりドネペジルはアセチルコリンエステラーゼ阻害作用以外の作用機序によって神経細胞保護的に作用していると考えられる。
実施例2:興奮性毒性試験
本実施例では、NMDA毒性に対するドネペジルの細胞保護作用を検討した。ラット初代培養大脳皮質神経細胞に対してNMDA刺激を与えることによって細胞傷害を誘発するというモデルを用いた。実施例1のようにして得られたラット初代培養神経細胞に対してNMDA 100μMを添加し、9時間後に培養液中に存在するLDHの量を測定した。
本実施例においては、初代培養神経細胞はラット胎仔(胎生17−19日齢)の大脳皮質より得た。培養液は、MEM(invitrogen社製)にブドウ糖(1g/L)、penici./strept.(100unit/mL)、10%FCSを添加したものを用いた。培地交換は2,3日毎に行う。KA毒性を見るときは、培地をNeurobasal Medium(invitrogen社製)にB−27とグルタミン0.25mMを加えたものを用いた。細胞は37℃、5%CO環境下で培養した。7日以上培養した後、培地にNMDA 100μMを加え、37℃、5%CO環境下で一晩培養した。ドネペジルはNMDA刺激を加える12時間前から細胞に添加した。そして、NMDA添加9時間後に培養液中に存在するLDHの量を測定し神経保護作用の指標とした。
本実施例の結果を図5に示す。図5より、ドネペジルが0.1μMから10μMの範囲で用量依存的に神経細胞のLDH放出を抑制していることが分かる。本実験により、ドネペジルはNMDA興奮性毒性に対して濃度依存的に神経細胞保護効果を示すことが明らかとなった。
実施例3:興奮性毒性試験
カイニン酸は、アルツハイマー病の原因因子の一つとされているβ−アミロイド(Aβ)が誘発する神経細胞死を増強するといわれている。本実施例では、カイニン酸をラット初代培養大脳皮質神経細胞に対して与えることによって細胞傷害を誘発するというモデルを用いた。
本実施例においては、初代培養神経細胞はラット胎仔(胎生17−19日齢)の大脳皮質より得た。細胞は37℃、5%CO環境下で培養した。7日以上培養した後、培地にNMDAまたはカイニン酸を加え、37℃、5%CO環境下で一晩培養した。ドネペジルは、カイニン酸刺激を加える24時間前から細胞に添加した。そしてカイニン酸添加24時間後に培養液中に存在するLDHの量を測定し神経保護作用の指標とした。
本実施例の結果を図6に示す。図6より、ドネペジルが0.1μMから1μMの範囲で用量依存的に神経細胞のLDH放出を抑制していることが分かる。本実験によりドネペジルはカイニン酸興奮性毒性に対して濃度依存的に保護効果を示すことが明らかとなった。
以下の実施例4〜7において使用した試薬及び統計解析法は以下の通りである。
Aβ(Human,1−40)はペプチド研(Osaka,Japan)から購入した。Trypsin solution,penicillin,streptomycin,Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM),HEPESはLife Technologies Inc.(Grand Island,NY)から購入した。Insulin,sodium selenite,putrescine,DNase I,mecamylamine,scopolamineはSigma Chemical Co.(St.Louis,MO)から購入した。Fetal calf serumとheat−inactivated horse serumはNichirei Co.(Tokyo,Japan)から購入した。ChAT,microtubule associated protein−2(MAP2)はChemicon International Inc.(Temecula,CA)から購入した。Alexa Fluor 546はMolecular Probes(Eugene,OR)から購入した。Vecstain Elite ABC kit,diaminobenzidine(DAB)kitはVector Laboratories,Inc.(Burlingame,CA)から購入した。Lipofectamine 2000はInvitrogen Co.(Carlsbad,CA)から購入した。siRNAは日本バイオサービス(Saitama,Japan)に合成を依頼した。
統計解析のデータは平均値±標準誤差で表示した。比較検定はWelch’s t−testを用いた。p<0.05を有意差ありとした。統計解析ソフトはSAS8.1(SAS Institute Japan Ltd.,Tokyo,Japan)を用いた。
実施例4:中隔野神経細胞の培養及びコリン作動性神経であることの確認
中隔野神経細胞はウィスターラット(日本チャールズリバー)の胎仔(胎生18日齢)から調製した。胎仔脳から中隔部位(中隔野および前脳基底核を含む)を切り出し、0.25%トリプシンと0.2mg/ml DNase Iを含むCa2+/Mg2+−free Hanks’balanced salt solution中で、37℃で15分間インキュベーションした。得られた細胞に、10%fetal calf serum,10%horse serumを加えたDMEM(5μg/ml insulin,30nmol/L sodium selenite,100μmol/L putrecine,20nmol/L progesterone,15nmol/L biotin,100units/ml penicillin,100μg/ml streptomycin,1mmol/L sodium pyruvateを含む)を加えてトリプシンを失活させ、細胞を2回洗浄した。96−wellのpoly−D−lysine−coated culture platesに、1.2×10cells/wellの濃度で細胞を蒔いた。播種した細胞をCOインキュベーター(5%CO、37℃)で培養した。1日後、5%fetal calf serumを含む上記DMEMで培地の3分の2を交換した。3日後に、再び5%fetal calf serumを含む上記DMEMで培地の3分の2を交換した。6日後に、血清を含まない上記DMEM(但し、Glnは含まない)で培地を全量交換した。
以上の方法で培養した中隔野神経細胞を、抗コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)抗体で免疫染色した。まず、培養した中隔野神経細胞を中性ホルマリン溶液で60分間固定した。5%ヤギ血清で30分間インキュベーションした後、1%ヤギ血清存在下で500倍希釈のChAT抗体で1日間インキュベーションした。続いて、細胞を500倍希釈のgoat anti−rabbit IgG及びHRP labeled avidin−biotin complexで1時間インキュベーションした後、Peroxidaseの基質としてDABを用いて細胞を染色した。
培養ラット中隔野神経細胞を抗ChAT抗体で免疫染色した結果を図7に示す。図7のスケールバーは0.1mmを示す。免疫染色により、培養ラット中隔野神経細胞の多くはアセチルコリン合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)を有することが示された。このことは、培養ラット中隔野神経細胞がコリン作動性神経であることを意味している。つまり、当該細胞がコリン作動性神経であることが確認できた。
これまでに、アルツハイマー患者脳におけるコリンアセチルトランスフェラーゼの減少は、認知障害の重さと相関があることが報告されている(Perry E.K.,Tomlinson B.E.,Blessed G.,Bergman K.,Gibson P.H.and Perry R.H.(1978)Correlation of cholinergic abnormalities with senile senile plaques and mental test scores in senile dementia.Br.Med.J.2,1457−1459.)。従って、中隔野神経細胞傷害の抑制の程度はアルツハイマー病患者での認知機能低下抑制につながるといえる。
実施例5:Aβ(1−40)毒性に対するドネペジルの保護効果及び細胞死実験
細胞障害の指標として、LDH(lactate dehydrogenase)を測定した。細胞には、実施例4の培養方法に従って7日間培養した中隔野神経細胞を用いた。中隔野神経細胞の培養培地に15μmol/LのAβ(1−40)を添加し、COインキュベーター(5%CO、37℃)で培養した。ドネペジル(0.01,0.1,1,10μmol/L)、メカミラミン(10μmol/L)、スコポラミン(10μmol/L)はAβ(1−40)添加の24時間前に加えた。Aβ(1−40)の添加48時間後に、培地中のlactate dehydrogenase(LDH)活性を測定した。同時に、細胞を0.5%Triton X−100を含むphosphate buffer(pH7.4)で可溶化し、細胞中のLDHも測定した。全体のLDH(細胞内及び培地中)の内、培地中に漏出したLDHの量を計算し、%で表した(Koh J.Y.and Choi D.W.(1987)Quantitative determination of glutamate mediated cortical neuronal injury in cell culture by lactate dehydrogenase efflux assay.J.Neurosci.Meth.20,83−90.)。データはANOVA及びWelch’s t−testの解析手法で解析した。
結果を図8に示す。図8中、白カラムはAβを加えない細胞を示し、灰色カラムはAβを加えた細胞を示す。それぞれの値を平均値±S.E.M.(n=23−25)で求めてグラフ化した。図8の「*」はP<0.05、「**」はP<0.01、及び「***」はP<0.001であることを示す(「control cells」を対照とする)。
培養した中隔野神経細胞はAβ(1−40)で障害を受けやすかった(図8「control cells」)。Aβ(1−40)を48時間加えたときの毒性に対して、ドネペジルは0.1μmol/Lから有意に保護効果を示した(図8)。ドネペジルによるAβ(1−40)毒性の抑制効果は、アセチルコリン受容体拮抗剤であるメカミラミン及びスコポラミンで阻害されなかった(図8)。
次に、上記のようにAβ(1−40)で処置した培養マウス中隔野神経細胞を、抗MAP2抗体で免疫染色した。MAP2は神経細胞のマーカーとして用いられている(Herzog W.and Weber K.(1978)Fractionation of brain microtubule−associated proteins.Isolation of two different proteins which stimulate tubulin polymerization in vitro.Eur J Biochem.92(1),1−8)。MAP2染色は、上記実施例4の免疫染色の方法に準じて行い、中隔野神経細胞に15μmol/LのAβ(1−40)を48時間添加後、細胞を固定して免疫染色した。ドネペジルはAβ(1−40)添加の24時間前から加えた。細胞を固定した後、300倍に希釈した抗MAP2抗体で一日間インキュベーションし、Alexa Fluor546を蛍光基質として用いて検出した。
結果を図9に示す。スケールバーは0.1mmを示す。AはAβ(1−40)を加えないコントロールの細胞を示す。BはAβ(1−40)を加えた細胞を示す。C,D,EはそれぞれAβ(1−40)とドネペジル(0.1,1,10μmol/L)とを加えた細胞を示す。左側の写真はHoffman modulationによる明視野の写真である。右側の写真は蛍光の写真である。Aβ(1−40)を48時間加えると、MAP2に染色される神経細胞が減少した(図9B)。ドネペジルは、Aβ(1−40)によるMAP2染色細胞の障害を抑制することが認められた(図9)。
実施例6:Aβ(1−40)の凝集に対するドネペジルの効果
培養液中でのAβ(1−40)の構造状態を検討するためにCDスペクトルを測定した。Aβはβ−シート構造をとるとAβ繊維の固まりを形成しやすくなり、毒性を示すことが知られている(Howlett D.R.,Jennings K.H.,Lee D.C.,Clark M.S.,Brown F.,Wetzel R.,Wood S.J.,Camilleri P.and Roberts G.W.(1995)Aggregation state and neurotoxic properties of Alzheimer beta−amyloid peptide.Neurodegeneration.4,23−32.)。また、Aβ(1−40)がα−ヘリックス構造またはβ−シート構造をとると、205nmから225nmにおけるCD(circular dichroism)スペクトルが減少することが知られている(Sreerama N.,Venyaminov S.Y.and Woody R.W.(2000)Estimation of peptide secondary structure from circular dichroism spectra:inclusion of denatured peptides with native peptides in the analysis.Anal.Biochem.287,243−251、Bokvist M.,Lindstrom F.,Watts A.and Grobner G.(2004)Two types of Alzheimer’s beta−amyloid(1−40)peptide membrane interactions:aggregation preventing transmembrane anchoring versus accelerated surface fibril formation.J.Mol.Biol.335,1039−49.)。特に、β−シート構造の形成は215nm周辺のCDスペクトルを減少させることが知られている。そこで、Aβの凝集の指標として、CDを測定した。
培養した中隔野神経細胞に15μmol/LのAβ(1−40)を加え、添加48時間後に培地を採取し、215nm〜260nmのCDスペクトルを測定した。CDスペクトル測定にはJASCO(日本分光、J−720WI)を使用した。
結果を図10に示す。Aはdonepezilを加えない細胞を示す。Bはdonepezil(10μM)を加えた細胞を示す。実線はAβを加えない細胞、破線はAβを加えた細胞を示す。また、A2及びB2は、それぞれA及びBグラフの破線の値から実線の値を引いたものを示した。10μmol/Lのドネペジル添加により、215nmから225nmにおいてCDスペクトルの減少が抑制された。従って、本実施例により、Aβがα−ヘリックス構造又はβ−シート構造を形成するのを、ドネペジルが抑制することが示された。
実施例7:siRNAの細胞内アセチルコリン活性に対する効果及びAβ(1−40)毒性に対する保護効果
(1)siRNA処理
アセチルコリンエステラーゼの二本鎖siRNAとして下記の2組のオリゴヌクレオチド((i)及び(ii))を用いた。

中隔野神経細胞の培養6日目と7日目に、1μmol/Lの上記(i)及び(ii)のsiRNAとlipofectamine2000(0.4μL/mL)とを培地中に加えた。培養9日目に、細胞を可溶化し、細胞内のアセチルコリンエステラーゼ活性(AChE活性)を測定した。
(2)アセチルコリンエステラーゼ活性の測定
アセチルコリンエステラーゼ活性の測定は、Ellmanらの方法に従って行った(Ellman G.L.,Courtney K.D.,Anders V.J.,Feather−Stone R.M.(1961)A new and rapid colorimetric determination of acetylcholinesterase activity.Biochem.Pharmacol.7,88−95)。細胞を0.5%Triton X−100を含むリン酸緩衝液(pH8.0)で可溶化した。得られた細胞可溶化溶液を遠心分離し、上澄みをリン酸緩衝液(pH8.0)で3倍希釈した。希釈した上清に、5,5’−dithiobis(2−nitrobenzoic acid)(0.33mmol/L)とacetylthiocholine iodide(AthCh)(0.5mmol/L)とを添加し、攪拌した後、412nmでの吸光度の増加を測定した(Molecular Devices,SpectraMax 190EXT)。データはANOVAとWelch’s t−testで解析した。
結果を図11に示す。それぞれの値を平均値±S.E.M.(n=11)の形式でグラフ化した(n=11)。図11中、siRNA無添加細胞に対して、「**」はP<0.01を、「***」はP<0.001であることを示す。
2種類のsiRNA、(i)及び(ii)を検討した結果、ともにAChE活性の抑制効果が認められた(図11)。
(3)Aβ(1−40)毒性に対するsiRNAの保護効果
細胞障害の指標としてLDH(lactate dehydrogenase)を測定した。中隔野神経細胞に15μmol/LのAβ(1−40)を培養7日目に添加し、48時間インキュベートした。1μmol/LのsiRNAはAβ(1−40)添加の24時間前と直前に加えた。白カラムはAβ(1−40)を加えない細胞を示す。灰色カラムはAβ(1−40)を加えた細胞を示す。データはANOVAとWelch’s t−testで解析した。
結果を図12に示す。それぞれの値を平均値±S.E.M.の形式でグラフ化した(n=7)。図12中、siRNA無添加細胞に対して、「***」はP<0.001であることを示す。
上記の2種類のsiRNA((i)及び(ii))の効果を検討した結果、ともにAβ毒性を抑制した(図12)。
LDHの測定と並行して、Aβの凝集を215nm〜260nmにおけるCDスペクトルの変化で解析した。
結果を図13に示す。AはRNAiを加えた細胞を示す。実線はAβを加えない細胞、破線はAβを加えた細胞を示す。Bは、Aの破線の値から実線の値を引いた値を示す。siRNAの添加によりCDスペクトルの215nmから225nmの減少が抑制された(図13)。
産業上の利用の可能性
本願発明に係る神経細胞保護剤は、虚血様細胞傷害および興奮性毒性による傷害に対して神経細胞保護的に働く。よって、本願発明に係る神経細胞保護剤によって脳梗塞や脳血栓等により誘発される虚血性神経細胞死および興奮性毒性により誘発される神経細胞死を防止、抑制することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1:siRNA
配列番号2:siRNA
配列番号3:siRNA
配列番号4:siRNA
【配列表】


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)〜(vii)で表されるいずれかの化合物を含有する、中枢神経系の神経細胞保護剤。
(i)下記化学式で表される1−ベンジル−4−〔(5,6−ジメトキシ−1−インダノン)−2−イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩。

(ii)次の一般式(I)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、Jは下記式


(式中、Sは炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、ハロゲン原子又は水酸基を意味する。tは0又は1〜4の整数を意味する。更に(S)は結合しているフェニル環の隣りあう炭素間でメチレンジオキシ基又はエチレンジオキシ基を形成していてもよい。式(l)におけるYは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味し、式(k)におけるVは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、式(n)におけるW及びWは、互いに独立し、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、Wは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味する。式(a)〜(e),(g),(j),(l)及び(q)におけるフェニル環Aは炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基によって置換されていてもよい。)で表される基から選択された一価又は二価の基を意味する。Bは式−(CHR−(式中、nは0又は1〜10の整数、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を意味する)で示される基、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基、又は式=(CH−CH)=(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基を意味する。Kは置換基として、ハロゲン化されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、ベンジルオキシ基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素数1〜6のモノアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基、水酸基、ホルミル基又はアルコキシ(炭素数1〜6)アルキル(炭素数1〜6)基を有していてもよいフェニルアルキル基を意味する。

(iii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(iv)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(v)次の一般式(I−1)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−1は炭素数1〜6の低級アルキル基(以下単に低級アルキル基という);シクロヘキシル基;置換基として低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基(以下単に低級アルコキシ基という)、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニル基、ピリジル基あるいはピラジル基;式

で示される基;キノリル基;キノキサリル基;フリル基又は式R−CH=CH−(式中、Rは水素原子又は低級アルコキシカルボニル基を意味する)で示される基を意味する。Bは式−(CH−で示される基、式−NR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、フェニル基又は低級アルキルスルホニル基を意味する)で示される基、式−CONR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン又は水酸基を有してもよいフェニル基、ベンジル基又はピリジル基を意味する)で示される基、式−NH−CO−(CH−で示される基、式−CH−CO−NH−(CH−で示される基、式−CO−CH−CH(OH)−CH−で示される基、式−CO−(CH−で示される基、式−C(OH)−(CH−で示される基又は式−CO−CH=CH−CH−で示される基(以上の式中、nは0又は1〜10の整数を意味する)を意味する。Tは炭素原子を意味する。Kはフェニル基が置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニルアルキル(アルキルの炭素数1〜2)基;シンナミル基;低級アルキル基;ピリジルメチル基;シクロアルキル(シクロアルキルの炭素数3〜6)アルキル基;アダマンタンメチル基;フルフリル基;炭素数3〜6のシクロアルキル基又はアシル基を意味する。qは1又は2を意味する。
(vi)次の一般式(I−2)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−2は置換基として炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基を有してもよいインダノニル基を意味する。Tは窒素原子を意味する。B,K及びqは前記の意味を有する。〕
(vii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。


【請求項2】
塩が塩酸塩である請求項1記載の保護剤。
【請求項3】
以下の(i)〜(vii)で表されるいずれかの化合物を含有する、中枢神経系の神経細胞障害の予防剤及び/又は治療剤。
(i)下記化学式で表される1−ベンジル−4−〔(5,6−ジメトキシ−1−インダノン)−2−イル〕メチルピペリジン又はその薬理学的に許容できる塩。

(ii)次の一般式(I)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、Jは下記式


(式中、Sは炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基、ハロゲン原子又は水酸基を意味する。tは0又は1〜4の整数を意味する。更に(S)は結合しているフェニル環の隣りあう炭素間でメチレンジオキシ基又はエチレンジオキシ基を形成していてもよい。式(l)におけるYは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味し、式(k)におけるVは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、式(n)におけるW及びWは、互いに独立し、同一又は異なって、水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基、Wは水素原子又は炭素数1〜6の低級アルキル基を意味する。式(a)〜(e),(g),(j),(l)及び(q)におけるフェニル環Aは炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数1〜6のアルコキシ基によって置換されていてもよい。)で表される基から選択された一価又は二価の基を意味する。Bは式−(CHR−(式中、nは0又は1〜10の整数、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を意味する)で示される基、式=(CH−CH=CH)−(式中、bは1〜3の整数を意味する)で示される基、式=CH−(CH−(式中、cは0又は1〜9の整数を意味する)で示される基、又は式=(CH−CH)=(式中、dは0又は1〜5の整数を意味する)で示される基を意味する。Kは置換基として、ハロゲン化されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、カルボキシル基、ベンジルオキシ基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、アミノ基、炭素数1〜6のモノアルキルアミノ基、炭素数1〜6のジアルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6のアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルアミノカルボニル基、炭素数1〜6のアルキルカルボニルオキシ基、水酸基、ホルミル基又はアルコキシ(炭素数1〜6)アルキル(炭素数1〜6)基を有していてもよいフェニルアルキル基を意味する。

(iii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(iv)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

(v)次の一般式(I−1)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−1は炭素数1〜6の低級アルキル基(以下単に低級アルキル基という);シクロヘキシル基;置換基として低級アルキル基、炭素数1〜6の低級アルコキシ基(以下単に低級アルコキシ基という)、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニル基、ピリジル基あるいはピラジル基;式

で示される基;キノリル基;キノキサリル基;フリル基又は式R−CH=CH−(式中、Rは水素原子又は低級アルコキシカルボニル基を意味する)で示される基を意味する。Bは式−(CH−で示される基、式−NR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、フェニル基又は低級アルキルスルホニル基を意味する)で示される基、式−CONR−(CH−(式中、Rは水素原子、低級アルキル基、置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ハロゲン又は水酸基を有してもよいフェニル基、ベンジル基又はピリジル基を意味する)で示される基、式−NH−CO−(CH−で示される基、式−CH−CO−NH−(CH−で示される基、式−CO−CH−CH(OH)−CH−で示される基、式−CO−(CH−で示される基、式−C(OH)−(CH−で示される基又は式−CO−CH=CH−CH−で示される基(以上の式中、nは0又は1〜10の整数を意味する)を意味する。Tは炭素原子を意味する。Kはフェニル基が置換基として低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基、アミノ基、モノ低級アルキルアミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、カルバモイル基、炭素数1〜6の脂肪族飽和モノカルボン酸から誘導されるアシルアミノ基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、低級アルキルカルボニルオキシ基、ハロゲン化低級アルキル基、水酸基、ホルミル基又は低級アルコキシ低級アルキル基を有していてもよいフェニルアルキル(アルキルの炭素数1〜2)基;シンナミル基;低級アルキル基;ピリジルメチル基;シクロアルキル(シクロアルキルの炭素数3〜6)アルキル基;アダマンタンメチル基;フルフリル基;炭素数3〜6のシクロアルキル基又はアシル基を意味する。qは1又は2を意味する。
(vi)次の一般式(I−2)で表される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。

〔式中、J1−2は置換基として炭素数1〜6の低級アルキル基又は炭素数1〜6の低級アルコキシ基を有してもよいインダノニル基を意味する。Tは窒素原子を意味する。B,K及びqは前記の意味を有する。〕
(vii)下記式で表される化合物群から選択される環状アミン誘導体又はその薬理学的に許容できる塩。


【請求項4】
塩が塩酸塩である請求項3記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項5】
神経細胞障害が、脳虚血、興奮性毒性またはAβ毒性によって誘発されるものである請求項3又は4記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項6】
神経細胞障害が、脳卒中、脳梗塞または脳塞栓のいずれかに伴う脳虚血、興奮性毒性によって誘発されるものである請求項3又は4記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項7】
興奮性毒性がNMDA又はカイニン酸によるものである請求項6記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項8】
神経細胞障害が、アルツハイマー病又はダウン症に伴うAβ毒性によって誘発されるものである請求項3又は4記載の予防剤及び/又は治療剤。
【請求項9】
細胞が脳由来の成熟した神経細胞である、請求項1〜8のいずれか1項記載の剤。
【請求項10】
神経細胞が、大脳皮質、中隔野及び海馬からなる群から選択されるいずれかに由来するものである、請求項9記載の剤。
【請求項11】
神経細胞が、初代培養細胞である請求項9又は10記載の剤。
【請求項12】
請求項1若しくは2記載の保護剤又は請求項3若しくは4記載の予防剤及び/若しくは治療剤を含有する、脳卒中、脳梗塞又は脳塞栓のいずれかの疾病の予後改善剤。
【請求項13】
請求項1又は2記載の保護剤の有効量を患者に投与することを特徴とする、中枢神経系の神経細胞保護方法。
【請求項14】
請求項3又は4記載の予防剤及び/又は治療剤の有効量を患者に投与することを特徴とする、中枢神経系の神経細胞障害の予防方法及び/又は治療方法。
【請求項15】
神経細胞障害が、脳虚血、興奮性毒性又はAβ毒性によって誘発されるものである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
興奮性毒性がNMDA又はカイニン酸によるものである請求項15記載の方法。
【請求項17】
神経細胞障害が、脳卒中、脳梗塞または脳塞栓のいずれかに伴う脳虚血または興奮性毒性によって誘発されるものである、請求項14記載の方法。
【請求項18】
神経細胞障害が、アルツハイマー病又はダウン症に伴うAβ毒性によって誘発されるものである、請求項14記載の方法。
【請求項19】
請求項12記載の予後改善剤の有効量を患者に投与することを特徴とする、脳卒中、脳梗塞または脳塞栓のいずれかの疾病の予後改善方法。
【請求項20】
請求項1又は2記載の保護剤、請求項3〜8のいずれか1項に記載の予防剤及び/又は治療剤、並びに請求項12記載の予後改善剤からなる群から選択されるいずれかの剤を製造するための、請求項1又は2に示す化合物の使用。
【請求項21】
中枢神経系のコリン作動性神経細胞に、Aβ存在下で候補化合物を作用させ、Aβ凝集量を検出または測定することを特徴とする、Aβ凝集抑制作用を有する化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニング方法。
【請求項22】
Aβ凝集量の検出または測定結果を用いて、候補化合物がAβ凝集抑制作用を有するか否かを、候補化合物の非存在下におけるAβ凝集量と比較することで判定することを特徴とする、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項21または22記載の方法に使用するための、Aβ凝集抑制作用を有する化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニングキット。
【請求項24】
中枢神経系のコリン作動性神経細胞に、Aβ存在下で候補化合物を作用させ、細胞傷害又は細胞死を検出することを特徴とする、Aβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニング方法。
【請求項25】
細胞傷害又は細胞死の検出結果を用いて、候補化合物がAβ毒性に対する細胞保護作用を有するか否かを、候補化合物の非存在下における細胞傷害又は細胞死の程度と比較することで判定することを特徴する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
細胞傷害又は細胞死の検出が、乳酸脱水素酵素の濃度測定によるもの又はMTTアッセイによるものである請求項24または25記載の方法。
【請求項27】
請求項24又は25記載の方法に使用するための、Aβ毒性によって誘発される中枢神経系の神経細胞障害の予防及び/又は治療に有効な化合物またはその薬理学的に許容される塩のスクリーニングキット。

【国際公開番号】WO2004/110444
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507014(P2005−507014)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008669
【国際出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】