説明

移動体通信装置試験システムおよび試験方法

【課題】試験対象に対してシーケンス測定を実行する際に、取得データ量の面で、誤った測定の無駄な測定をしないで済むようにする。
【解決手段】シーケンス測定制御手段35が実行指定された測定シーケンスにしたがう制御を開始する前に、実行指定された測定シーケンスで送受信部21が解析対象として取得する予定のデータ量の合計値を算出するデータ量算出手段40と、算出したデータ量の合計値が受信データメモリ23の所定容量に応じて予め設定した許容値を超えるか否かを判定するデータ量判定手段41とを備え、シーケンス測定制御手段35は、データ量判定手段41により算出したデータ量の合計値が許容値を超えると判定されたとき、その判定結果を表示部61に表示して、ユーザーに通知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話等の移動体端末や基地局を含む移動体通信装置、あるいはそれらに用いる通信回路部品(集積回路やそれを含む回路基板等)に対する試験を、予め作成された測定シーケンスにしたがって効率的に行うシーケンス測定機能を有する試験システムにおいて、任意に作成される一連のシーケンスが実行可能かを予め調べて、実行不可能な測定を規制できるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される移動体端末やそれに用いる通信回路部品の試験は、従来、その移動体通信網の基地局装置と等価な動作をする擬似基地局装置を用い、試験対象との間で無線による呼接続を確立させて各種の試験を行うようにしていたが、呼接続を確立するまで時間や制御に必要な時間がかなり長く、試験効率が低いという問題があった(例えば、特許文献1)。
【0003】
この問題を解決するために、試験対象に対してケーブルを直接接続して試験対象を試験用モードに設定し、試験に必要なコマンドを与え、そのコマンドに対して試験対象から出力される信号に対する測定を行う有線接続制御方式と、試験対象に対して実行しようとする複数の測定項目がリスト化された情報(測定シーケンス)にしたがって、試験対象に対する送受信試験を連続的に行い、各測定項目に対応する送受信試験で得られたデータをメモリに記憶し、複数の測定項目によるデータ取得が終了した段階で、取得したデータをメモリから読み出して、項目毎の解析等を行うシーケンス測定機能を併用した試験システムが考案されている。
【0004】
このような試験システムでは、予めユーザーが作成した一連の測定シーケンスにしたがって試験対象に対する直接的な制御と、解析に必要なデータの取得とを自動的に行うことができ、従来の無線による呼接続の確立および端末制御を行う方式に比べて格段に効率的に試験が行える。なお、移動体端末やそれに用いる回路部品(通信用回路)は、前記した有線接続制御方式による試験に対応した試験用モード(テストモード)を予め有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3708458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
移動体端末等に対して、製造ライン等で行う出荷検査で必要とされる測定項目は多数ある。例えば、3GPP規格に準拠する通信規格W−CDMAの端末に対する基本的な送信測定項目としては、端末の送信電力、周波数誤差、占有周波数帯幅、スペクトラム放射マスク、隣接チャネル漏洩電力、変調解析等が含まれ、これらの測定項目については端末が送信する無線信号を受信して、各項目の解析に必要なデータを求め、そのデータを読み出して各項目についての解析を行うことになる。
【0007】
また、受信測定項目としては、例えば受信感度試験のためのビット誤り測定があるが、その測定は、端末を3GPP規格のループバックテストモードに設定して試験システム側から既知データで変調した無線周波数の信号を端末に送信し、これを受信復調した端末から折り返し送信される信号を試験システム側で受信、復調し、既知データと比較する方式がある。
【0008】
また、世界的に普及されている通信規格GSM/GPRSの端末に対する基本的な送信測定項目としては、送信電力、送信周波数、位相誤差、電力対時間(テンプレート・マスク判定)、出力スペクトラム等が含まれ、これらの測定項目についても、端末が無線周波数で送信する信号を受信して、各項目の解析に必要なデータを求めて、そのデータを読み出して項目毎の解析を行うことになる。受信測定に関しても前記したループバックモードで折り返された復調データに対する誤り測定が主となる。
【0009】
移動体端末には上記以外にも、cdma2000 1x、cdma2000 1xEVDO、LTE等の通信規格があり、それぞれについての測定項目が決められている。
【0010】
このような端末についての多くの測定項目をシーケンス測定機能を用いて行う場合、試験システムは、予め作成された測定シーケンスにしたがって端末との間の送受信処理を一気に行い、解析に必要なデータをメモリに記憶して解析処理を行う。そしてそのシーケンス測定で取得されるデータ量は、端末の送信信号の周波数帯域幅(通信規格で決まる)、平均化処理回数等によってほぼ決まるが、これらは一般的にユーザーが任意に指定できるパラメータである。
【0011】
また、前記したように、端末には異なる通信規格(W−CDMA、GSM/GPRS、CDMA2000等)があり、近年では複数の異なる通信規格に対応したマルチモード型の端末が実現されているので、そのような端末に対しては通信規格毎に固有の測定を行う必要がある。したがって、マルチモード型の端末に対する試験をシーケンス測定で一括に行おうとする場合、取得するデータの量も必然的に多くなる。
【0012】
また、シーケンス測定に使用するリストは、同様の機能を有する試験システムに流用できる場合が多く、他の試験システムで使用していたリストをユーザーが任意に編集して使う汎用性を有している。
【0013】
これに対し、試験システムが有するデータ記憶用のメモリの容量には上限があるため、ユーザーが多くの測定項目を設定したり、測定時間が長くなるようなパラメータ設定を行った場合、測定シーケンスにしたがって一連の送受信処理を行っている最中に、取得されるデータの総量が、データ記憶用のメモリの容量を超過してしまい、正しく取得されなかったデータに対する誤った測定や無駄な測定を行うことになってしまう。
【0014】
特に、パーソナルコンピュータによって測定シーケンスを作成してこれをリモート制御によって本体のシーケンスメモリに登録して実行させるハードウエア構成のシステムでは、上記原因による誤った測定、無駄な測定を行う可能性が高い。
【0015】
本発明は、この問題を解決して、移動体端末や基地局を含む移動体通信装置、あるいはそれらに用いる通信回路部品に対して実行しようとするシーケンス測定が、その取得データの量に関して実行可能か否かを判定し、その判定結果をユーザーに知らせて、誤測定や無駄な測定をしないで済む移動体通信装置試験システムおよび試験方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1の移動体通信装置試験システムは、
移動体端末または基地局、あるいはそれらに用いる通信回路部品を試験対象とし、該試験対象との間で信号の授受を行うための送受信部(21)と、
前記試験対象の送信信号を前記送受信部で受信して得られた解析対象のデータを記憶するための所定容量の受信データメモリ(23)と、
指定されたパラメータにしたがって前記送受信部および前記受信データメモリに対する送受信制御を行う送受信制御部(25)と、
前記受信データメモリに記憶されたデータを読み出して指定された解析処理を行う解析手段(26)と、
試験対象に対して一括実行しようとする複数の測定とその実行順とを含む情報を、測定シーケンスとして記憶するシーケンスリスト記憶手段(30)と、
前記シーケンスリスト記憶手段に記憶された測定シーケンスに対してユーザーが実行したいシーケンスを指定させるための実行シーケンス指定手段(32)と、
前記実行シーケンス指定手段によって実行指定された測定シーケンスにしたがって試験対象および前記送受信制御部へのパラメータ設定・変更処理を順次行い、測定シーケンスの開始から終了までに前記送受信部で得られたデータを前記受信データメモリに記憶させるシーケンス測定制御手段(35)と、
表示部(61)とを有する移動体通信装置試験システムであって、
前記シーケンス測定制御手段が前記実行指定された測定シーケンスにしたがう制御を開始する前に、前記実行指定された測定シーケンスで前記送受信部が解析対象として取得する予定のデータ量の合計値を算出するデータ量算出手段(40)と、
前記算出したデータ量の合計値が前記受信データメモリの前記所定容量に応じて予め設定した許容値を超えるか否かを判定するデータ量判定手段(41)とを備え、
前記シーケンス測定制御手段は、前記データ量判定手段により前記算出したデータ量の合計値が前記許容値を超えると判定されたとき、その判定結果を前記表示部に表示することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項2の移動体通信装置試験システムは、請求項1記載の移動体通信装置試験システムにおいて、
前記データ量判定手段は、前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスのうち、スタートからのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な範囲を調べて前記シーケンス測定制御手段に通知し、
前記シーケンス測定制御手段は、前記実行可能な範囲を判定結果に含めて前記表示部に表示することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の請求項3の移動体通信装置試験システムは、請求項1記載の移動体通信装置試験システムにおいて、
前記データ量判定手段は、前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスを、それぞれのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な複数のブロックに分け、該ブロックの範囲を特定する情報を前記シーケンス測定制御手段に通知し、
前記シーケンス測定制御手段は、前記実行可能な複数のブロックの範囲を特定する情報を判定結果に含めて前記表示部に表示することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項4の移動体通信装置試験方法は、
移動体端末または基地局、あるいはそれらに用いる通信回路部品を試験対象とし、該試験対象に対して一括実行しようとする複数の測定とその実行順とを含む情報を、測定シーケンスとして記憶する段階と、
前記記憶された測定シーケンスに対してユーザーが実行したいシーケンスを指定させる段階と、
前記実行指定された測定シーケンスにしたがって試験対象との間の信号送受信に必要なパラメータ設定・変更処理を順次行い、測定シーケンスの開始から終了までに受信された解析対象のデータを所定容量の受信データメモリに記憶させる段階と、
前記受信データメモリに記憶されたデータを読み出して指定された解析処理を行う段階とを含む移動体通信装置試験方法であって、
前記実行指定された測定シーケンスを実行する前に、該実行指定された測定シーケンスで解析対象データとして取得する予定のデータ量の合計値を算出する段階と、
該算出したデータ量の合計値が前記受信データメモリの前記所定容量に応じて予め設定した許容値を超えるか否かを判定する段階と、
該判定結果を表示する段階とが含まれていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の請求項5の移動体通信装置試験方法は、請求項4記載の移動体通信装置試験方法において、
前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスのうち、スタートからのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な範囲を調べる段階と、
前記実行可能な範囲を判定結果に含めて表示する段階とを含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の請求項6の移動体通信装置試験方法は、請求項4記載の移動体通信装置試験方法において、
前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスを、それぞれのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な複数のブロックに分ける段階と、
前記実行可能な複数のブロックの範囲を特定する情報を判定結果に含めて表示する段階とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
このように、本発明の移動体通信装置試験システムおよび試験方法では、ユーザーが実行させようとする測定シーケンスで取得されるデータ量の合計値を算出し、その合計値が受信データメモリの容量について予め設定した許容値を超えているか否かを判定し、超えている場合にはその判定結果を表示するから、ユーザーが任意に作成して実行要求した測定シーケンスや、既存の測定シーケンスのパラメータ変更等により、その測定シーケンスで取得しようとするデータ量が許容値をオーバーしていることを、ユーザーに実行前に通知することができ、誤測定および無駄な測定を行わずに済む。
【0023】
また、実行指定された測定シーケンスで取得されるデータ量の合計値が許容値を超えていると判定された場合に、そのシーケンスのうち実行可能な範囲を調べて判定結果とともに表示するものでは、ユーザーによる測定シーケンスの変更作業等の負担が少ない状態で、所望の測定を行うことができる。
【0024】
また、実行指定された測定シーケンスで取得されるデータ量の合計値が許容値を超えていると判定したときに、その測定シーケンスを、それぞれのデータ量が許容値を超えない実行可能な複数組のブロックに分け、そのブロックの範囲を特定する情報を判定結果に含めて表示するものでは、ユーザーによる測定シーケンスの変更作業等の負担が極めて少ない状態で、所望の測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態の全体構成図
【図2】シーケンスリストの一例を示す図
【図3】測定モードと1ステップ当たりのサンプル数との関係を示す図
【図4】測定モードと最長測定シーケンス長との関係を示す図
【図5】データ量判定結果の表示例を示す図
【図6】実行指定された測定シーケンスを実行可能な複数のブロックに分割した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用した移動体通信装置試験システム20の全体構成を示している。
【0027】
この移動体通信装置試験システム20は、各種携帯電話機等の移動体端末や基地局、あるいはそれらに用いる通信回路部品(通信用集積回路やそれを実装した基板等)を試験対象(DUT)1とするものであり、試験対象1との間で無線周波数の信号を送受信する送受信部21と、試験対象1の受信機能試験のために用いるベースバンドのデータ信号を記憶している送信データメモリ22と、試験対象1の送信機能試験の際に送受信部21が受信したデータ信号を解析対象のデータとして記憶する所定容量Mの受信データメモリ23を有している。以下、移動体端末を試験対象1とする例で説明する。
【0028】
送受信部21は、試験対象1の受信機能試験の際には、送信データメモリ22から読み出されたベースバンドのI、Qの直交データを内部でD/A変換してキャリア信号を直交変調し、I、Qの直交データに応じて振幅と位相が変化する高周波のデジタル変調波を生成して出力する。ここで、試験対象1が前記したループバック状態に設定されている場合には、試験対象1で復調されたデータで変調されたデジタル変調波が試験端末1から送信され、これを送受信部21が受信してI、Qの直交データに復調し、これを後述の解析手段26に与えて誤り測定等の処理を行なわせる。また、試験対象1がループバック状態でなく、ケーブルを介して復調データとクロックを出力できる状態であれば、その復調データとクロックを後述するシーケンス測定制御手段35を介して解析手段26に与えて誤り測定等の処理を行なわせる。つまり、試験対象1の受信機能試験の場合には、受信データメモリ23に対するデータの格納処理は行わない。
【0029】
また、試験対象1の送信機能試験の際には、送受信部21は、試験対象1から出力された無線周波数の信号を選択的に受信し、直交復調してベースバンドのI、Qの直交データに変換し、これを解析対象データとして受信データメモリ23に記憶する。
【0030】
送受信制御部25は、後述する操作部60やシーケンス測定制御手段35から指定された測定パラメータに基づいて、送受信部21の送受信周波数、送信レベル、帯域幅等の直接的な制御および各メモリ22、23の読み出し、書込みの制御等を行う。
【0031】
本システムのハードウエア構成は特に限定されないが、ここでは、上記送受信部21、送受信のメモリ22、23、送受信制御部25については、広帯域で高速な専用化されたハードウエアを用いており、それ以外の構成は、主にCPU、RAM、ROM等を含み、メモリに記憶されたプログラムにしたがって各種処理を行うソフトウエア処理部20aと、多数のキーやタッチパネル、ポインティングデバイス等からなる操作部60および表示部61によって構成される(一部に汎用パーソナルコンピュータとリモート制御用のインタフェースを用いた構成も含むものとする)。
【0032】
解析手段26は、試験対象1の受信機能試験(主に誤り測定)の場合には、前記したように、送受信部21から送信されたデジタル変調波に対する試験対象1の復調データを受けて、誤り測定等の解析処理を行う。なお、誤り測定に限定すれば、復調データと送信データメモリ22に記憶されているデータとを比較して誤り率を求める。また、試験対象1の送信機能試験の場合には、受信データメモリ23に記憶された解析対象のデータに対して、指定された測定項目毎の解析処理を行い、最終的な試験結果を求め、その試験結果(計測値や良否判定結果)を、表示部に61に表示させる。
【0033】
シーケンスリスト記憶手段30には、試験対象1に対して一括実行しようとする複数の測定項目(測定パラメータを含む)とその実行順とを含む情報が、測定シーケンスとして記憶される。
【0034】
図2は、その一例を示すものであり、それぞれ独立して実行指定可能な複数(ここでは4つ)の測定シーケンスSQ1〜SQ4が定義され、各測定シーケンスは、測定の大まかな単位としてのセグメントが、所定数(この例では200個)まで設定できる(セグメント番号000〜199)。このセグメントは、各パラメータが共通に記述できる測定をまとめたものであり、ユーザーが任意に設定できる。
【0035】
各セグメントには、送受信の周波数(UL/DL Frequency)、送受信レベル(Input/Output Level)、セグメント長(Segment Length)、トリガ設定(Trigger
Setting)、モード(Mode)、平均化数(Measurement item and average)、送信パターン(ARB waveform
pattern)等のパラメータが記載される。この記述形式は、例えば、測定器のリモート制御用に定義されているGPIBのコマンドが使用できる。
【0036】
これらの測定シーケンスからユーザーが任意に指定した測定シーケンスが実行対象となるが、後述するように、指定した一つの測定シーケンスについてさらに、実行開始と終了のセグメント番号が指定された場合には、その指定された範囲のシーケンスのみを実行できるようになっている。
【0037】
シーケンスリスト作成手段31は、シーケンスリスト記憶手段30に対してユーザーが任意の測定シーケンスを登録するためのものであり、例えば、測定シーケンスの様式がテキストデータとすれば、テキスト文の入力機能および編集機能を有するテキストエディタで構成することができる。なお、このシーケンスリスト作成手段31は、例えばパーソナルコンピュータ(PC)がもつテキスト編集機能を用いて実現することができる。
【0038】
実行シーケンス指定手段32は、操作部60の操作によりシーケンスリスト記憶手段30に記憶されている測定シーケンスのいずれかをシーケンス測定制御手段35に指定して実行させるためのものであり、この測定シーケンスの指定の際には、指定した測定シーケンスに対してスタートと終了のセグメント番号を入力させることで、一つの測定シーケンスの任意の範囲を実行指定することができる。
【0039】
シーケンス測定制御手段35は、実行シーケンス指定手段32によって測定シーケンスの実行が指定されたとき、データ量算出手段40、データ量判定手段41およびパラメータ判定手段42に対して、指定された測定シーケンスに対するデータ量の算出および判定要求と設定パラメータの判定要求を行い、両判定手段41、42で実行可能と判定された場合、指定された測定シーケンスの情報(上記例でセグメント単位の情報)を実行順に読み出し、その読み出した情報に含まれるパラメータを送受信制御部25および試験対象1に与えることで、実行指定された測定シーケンスに従って試験対象1および送受信部21を制御しながら、試験対象1の送信機能の解析評価に必要なデータを受信データメモリ23に記憶させる。
【0040】
ここで、例えば、測定シーケンスの測定項目として試験対象1の送信波の送信電力、スペクトラム解析等が含まれている場合、シーケンス測定制御手段35は、図示しないインタフェースを介してケーブル接続された試験対象1の動作モードをテストモードに設定した後、実行要求された測定シーケンスの情報にしたがって、例えば送信(オン)、送信周波数(Ft)、送信レベル(La)等のパラメータを指定して、周波数Ft、レベルLaの信号を送信させる。また、それと同期して送受信部21の受信周波数を例えばFt±ΔF(通信規格で決まる幅)の範囲で一定時間毎に変化させて、試験対象1の送信波のスペクトラム特性を示すデータを受信データメモリ23に記憶させる。この場合、解析手段26は受信データメモリ23に記憶されたスペクトラムデータから、試験対象1の送信レベルおよびスペクトラムに関する測定項目(スプリアス、隣接チャネル妨害比等)の解析処理を行い、送信電力の値、スプリアス値、隣接チャネル妨害比等の最終的な試験結果を求めて、これを例えば表示部61に表示させる。
【0041】
なお、シーケンス測定制御手段35は、データ量判定手段41あるいはパラメータ判定手段42から実行不可の通知を受けた場合には、この指定された測定シーケンスの実行を拒否し、これを表示部61に表示して、ユーザーに通知する。
【0042】
データ量算出手段40は、シーケンス測定制御手段35からデータ量の算出要求を受けると、実行指定された測定シーケンスをシーケンスリスト記憶手段30から読み出して、その各セグメントに記載されているパラメータに基づいて、その測定シーケンスで送受信部21が取得する予定のセグメント毎のデータ量とその合計値Dmaxを算出して、データ量判定手段41に出力する。
【0043】
ここで、受信データメモリ23の容量と測定シーケンスで取得されるデータ量の数値例を示す。例えば、受信データメモリ23の容量Mを4×256Mバイトとし、各16ビットのI、Qデータを1サンプル分(4バイト)の容量とすると、受信データメモリ23に記憶(キャプチャー)できるのは最大で256Mサンプルとなるが、それに近い許容値M′として、例えば233331000サンプル分を最大値とする。
【0044】
測定の最小単位を1ステップとし、その1ステップあたりのサンプル数は通信規格等のモードに依存する。
【0045】
例えば、W−CDMAのサンプリングレートは50MS/Sであり、測定最小単位(最小通信単位)は1スロット(666.667μS)分であるから、1ステップ当たりのサンプル数は、
50×10×666.667×10−6=33333
となる。
【0046】
したがって、W−CDMAに関する測定で受信データメモリ23に対するデータ取得を行う場合、最大で7000スロット(=233331000/33333)分のデータの取得ができ、これは466フレーム(約5秒)に相当する。
【0047】
図3に、上記W−CDMAと他の通信規格GSM、cdma2000等を含むモード毎の1スップ当たりのサンプル数の例を示し、図4には各モードについてメモリに記憶可能な最長シーケンス長(最長キャプチャー長)を示している。
【0048】
なお、許容値M′は、測定対象の通信規格や測定項目毎に設けてもよいし、一律の値としてもよい。図4は、項目毎に異なる許容値M′とし、それに応じて最長キャプチャー長を定めた例である。
【0049】
上記図3、4に例を示したように、各モードのサンプリングレートと最小測定単位に相当する時間(スロットやフレーム)との積で決まる測定単位当たりのサンプル数に、セグメントの測定に要する単位数を乗じることで、セグメント当たりのデータ量D(1)〜D(200)が得られ、それらの総和を取ることで、測定シーケンスが取得予定のデータ量の合計値が得られる。
【0050】
つまり、複数u(前記例では200)の各測定セグメントについてそれぞれ測定単位当たりのサンプル数Siとその測定に要する単位数Kiを求め、
Dmax=ΣDi=Σ(Si・Ki)
(ただし記号Σはi=1〜uの総和を示す)
の演算によって合計値Dmaxを求めることになる。
【0051】
なお、ここでは、上記合計値Dmaxの他に、各セグメントについてのデータ量D(1)〜D(200)をデータ量判定手段41に出力するものとする。
【0052】
データ量判定手段41は、シーケンス測定制御手段35からの判定要求を受けると、データ量の合計値Dmaxと受信データメモリ23の容量Mに対して予め設定した許容値M′(=M−α)(αは余裕値であり、Mより十分小さい正の値とする)との大小を比較することで、実行指定された測定シーケンスが実行可能か否かを判定し、その判定結果をシーケンス測定制御手段35に通知する。
【0053】
また、OK/NGやUNDER/OVER等の実行可否の情報だけでなく、許容値M′に対する予定使用量の割合、実行不可の場合に、指定された測定シーケンスのスタートセグメントからのデータ量を実行順に累積し、許容値M′を超える直前までのセグメンの累積数、即ち、実行可能範囲を求めてシーケンス測定制御手段35に通知する。
【0054】
また、パラメータ判定手段42は、シーケンス測定制御手段35からの判定要求を受けると、実行指定された測定シーケンスの各セグメントに記載されている測定パラメータ(周波数やレベル等)が、装置として設定可能な範囲(予め図示しないパラメータテーブルに記憶されている)にあるか否かを判定し、設定範囲を超えるパラメータがあるときには、その判定結果とともに、そのセグメント番号とパラメータの種別などの情報をシーケンス測定制御手段35に通知する。
【0055】
シーケンス測定制御手段35は、データ量判定手段41からの実行不可の判定結果やパラメータ判定手段42から設定範囲超えの判定結果を受けたときには、これを表示部61に表示し、その測定シーケンスの実行を規制(拒否)する。
【0056】
この表示形態は任意であるが、データ量の判定結果に関して言えば、例えば、図5のように、ユーザーが視認しやすいように「OVER」の文字と、メモリの使用割合(ここでは124%)および実行可能範囲(ここではセグメント番号80)を表示して、ユーザーが実行指定した測定シーケンスで取得予定のデータ量がオーバーすること、およびセグメント80までのシーケンスが実行可能であることを表示する。また、パラメータの判定結果に関しては、例えば、設定可能な範囲を超えるパラメータが含まれるセグメント番号とパラメータの種別とをリスト表示する。
【0057】
このように、実施形態の移動体通信装置試験システム20では、ユーザーが実行しようとする測定シーケンスで取得される予定のデータ量の合計値を算出し、その合計値が受信データメモリ23の容量に対応した許容値M′を超えるか否かを判定し、その判定結果を表示してユーザーに通知するとともに、超える場合には実行指定された測定シーケンスの実行を規制している。
【0058】
したがって、ユーザーが、実行しようとする測定シーケンスについて、過剰な測定項目を設定したり、測定時間、帯域、周波数分解能等として不適切な値を設定して、その測定シーケンスが取得する予定のデータ量の合計が許容値を超えてしまっている場合であっても、その測定シーケンスは実行されず、その判定結果が通知されるから、不正確で無駄な測定を行わずに済む。
【0059】
なお、ここではデータ量判定手段41の判定結果として、OVER等の文字、許容値に対するデータ量の割合および実行可能範囲を数値表示する例を示したが、グラフ表示を用いてもよい。
【0060】
実施形態のシステムは、単に実行可否だけでなく、実行可能範囲をユーザーに通知する機能を有しているので、終了セグメントを実行可能な最終セグメントN(前記例ではN=80)に変更して実行指定をやり直すことで、その指定範囲までの測定シーケンスを確実に実行させることができる。また、その最終セグメントNまでの測定シーケンスが終了した後に、スタートセグメントを(N+1)に変更して実行指定をやり直すことで、残りの測定シーケンスを実行でき、ユーザーが望む測定シーケンスを重複、あるいは、脱落がない状態で容易に完了させることができる。
【0061】
また、判定結果の表示画面において、実行可能な範囲まで実行するか否かをユーザーに指定させ、実行指定する操作があった場合に、直ちにスタートから実行可能範囲までの測定シーケンスを実行してもよい。
【0062】
また、最初に実行指定された測定シーケンスを、それぞれのデータ量が許容値を超えない複数のシーケンスブロックに分けて、それぞれのシーケンスブロックの範囲を特定する情報をユーザーに通知すれば、ユーザーが望む測定シーケンスを重複、あるいは、脱落がない状態でさらに容易に完了させることができる。
【0063】
例えば、図6のように、データ量判定手段41が、最初に実行指定された測定シーケンスSQ1についてのデータ量の合計値が許容値M′を超えると判定した場合に、その測定シーケンスSQ1を、それぞれのデータ量の合計値が許容値M′を超えない複数(この例では3つ)のシーケンスブロックB1、B2、B3に分け、それぞれのシーケンスブロックの範囲を特定する情報としてスタートセグメント番号ST1〜ST3、終了セグメントEND1〜END3の情報をシーケンス測定制御手段35に通知する。
【0064】
シーケンス測定制御手段35は、複数のシーケンスブロックの範囲を特定するスタートセグメント番号ST1〜ST3、終了セグメントEND1〜END3の情報を受けると、これをデータ量の判定結果に含めて表示部61に表示し、分割したシーケンスブロックを実行するか否かをユーザーに指定させる。
【0065】
ここで、ユーザーが操作部60の操作で実行を選択すると、シーケンス測定制御手段35は、始めに、ST1〜END1の範囲のシーケンスブロックB1を実行させ、そのシーケンスで得られたデータに対する解析手段26の解析処理が終了した段階で、ST2〜END2の範囲のシーケンスブロックB2を実行するという処理を繰り返して、全てのシーケンスブロックを完了させる。
【0066】
このように、試験システムが自動的に測定シーケンスを複数のシーケンスブロックに分割する場合でも、実行指定された測定シーケンスが連続して実行できないことをユーザーに通知し、それに対してユーザーが分割実行を指定した際に、上記一連の処理を行うようにすれば、ユーザーの最初の指定に問題があったことを確認した上での測定シーケンス実行となるので、その点についての問題意識を持たずに測定結果の評価を行う危険が回避される。
【符号の説明】
【0067】
1……試験対象、20……移動体通信装置試験システム、21……送受信部、22……送信データメモリ、23……受信データメモリ、25……送受信制御部、26……解析手段、30……シーケンスリスト記憶手段、31……シーケンスリスト作成手段、32……実行シーケンス指定手段、35……シーケンス測定制御手段、40……データ量算出手段、41……データ量判定手段、42……パラメータ判定手段、60……操作部、61……表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体端末または基地局、あるいはそれらに用いる通信回路部品を試験対象とし、該試験対象との間で信号の授受を行うための送受信部(21)と、
前記試験対象の送信信号を前記送受信部で受信して得られた解析対象のデータを記憶するための所定容量の受信データメモリ(23)と、
指定されたパラメータにしたがって前記送受信部および前記受信データメモリに対する送受信制御を行う送受信制御部(25)と、
前記受信データメモリに記憶されたデータを読み出して指定された解析処理を行う解析手段(26)と、
試験対象に対して一括実行しようとする複数の測定とその実行順とを含む情報を、測定シーケンスとして記憶するシーケンスリスト記憶手段(30)と、
前記シーケンスリスト記憶手段に記憶された測定シーケンスに対してユーザーが実行したいシーケンスを指定させるための実行シーケンス指定手段(32)と、
前記実行シーケンス指定手段によって実行指定された測定シーケンスにしたがって試験対象および前記送受信制御部へのパラメータ設定・変更処理を順次行い、測定シーケンスの開始から終了までに前記送受信部で得られたデータを前記受信データメモリに記憶させるシーケンス測定制御手段(35)と、
表示部(61)とを有する移動体通信装置試験システムであって、
前記シーケンス測定制御手段が前記実行指定された測定シーケンスにしたがう制御を開始する前に、前記実行指定された測定シーケンスで前記送受信部が解析対象として取得する予定のデータ量の合計値を算出するデータ量算出手段(40)と、
前記算出したデータ量の合計値が前記受信データメモリの前記所定容量に応じて予め設定した許容値を超えるか否かを判定するデータ量判定手段(41)とを備え、
前記シーケンス測定制御手段は、前記データ量判定手段により前記算出したデータ量の合計値が前記許容値を超えると判定されたとき、その判定結果を前記表示部に表示することを特徴とする移動体通信装置試験システム。
【請求項2】
前記データ量判定手段は、前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスのうち、スタートからのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な範囲を調べて前記シーケンス測定制御手段に通知し、
前記シーケンス測定制御手段は、前記実行可能な範囲を判定結果に含めて前記表示部に表示することを特徴とする請求項1記載の移動体通信装置試験システム。
【請求項3】
前記データ量判定手段は、前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスを、それぞれのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な複数のブロックに分け、該ブロックの範囲を特定する情報を前記シーケンス測定制御手段に通知し、
前記シーケンス測定制御手段は、前記実行可能な複数のブロックの範囲を特定する情報を判定結果に含めて前記表示部に表示することを特徴とする請求項1記載の移動体通信装置試験システム。
【請求項4】
移動体端末または基地局、あるいはそれらに用いる通信回路部品を試験対象とし、該試験対象に対して一括実行しようとする複数の測定とその実行順とを含む情報を、測定シーケンスとして記憶する段階と、
前記記憶された測定シーケンスに対してユーザーが実行したいシーケンスを指定させる段階と、
前記実行指定された測定シーケンスにしたがって試験対象との間の信号送受信に必要なパラメータ設定・変更処理を順次行い、測定シーケンスの開始から終了までに受信された解析対象のデータを所定容量の受信データメモリに記憶させる段階と、
前記受信データメモリに記憶されたデータを読み出して指定された解析処理を行う段階とを含む移動体通信装置試験方法であって、
前記実行指定された測定シーケンスを実行する前に、該実行指定された測定シーケンスで解析対象データとして取得する予定のデータ量の合計値を算出する段階と、
該算出したデータ量の合計値が前記受信データメモリの前記所定容量に応じて予め設定した許容値を超えるか否かを判定する段階と、
該判定結果を表示する段階とが含まれていることを特徴とする移動体通信装置試験方法。
【請求項5】
前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスのうち、スタートからのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な範囲を調べる段階と、
前記実行可能な範囲を判定結果に含めて表示する段階とを含むことを特徴とする請求項4記載の移動体通信装置試験方法。
【請求項6】
前記データ量の合計値が前記許容値を超えると判定したときに、前記実行指定された測定シーケンスを、それぞれのデータ量が前記許容値以内に収まる実行可能な複数のブロックに分ける段階と、
前記実行可能な複数のブロックの範囲を特定する情報を判定結果に含めて表示する段階とを含むことを特徴とする請求項4記載の移動体通信装置試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−77944(P2013−77944A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216177(P2011−216177)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】