説明

積層化粧シート

【課題】エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化しにくく、成形性、低温衝撃性、表面平滑性、無色透明性に優れ、その他の各種物性も実用上十分なものである積層化粧シートを提供すること。
【解決手段】(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層、および(B)ポリオレフィン系樹脂からなる基材層を、この順で積層したことを特徴とする積層化粧シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層化粧シートに関するものであり、さらに詳しくは本発明は、エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化しにくく、成形性、低温衝撃性、表面平滑性、無色透明性に優れ、その他の各種物性も実用上十分なものである積層化粧シートに関するものである。また本発明の積層化粧シートは、真空プレス成形、圧空プレス成形並びにメンブレンプレス成形にとくに適している。
【背景技術】
【0002】
従来から積層化粧シートは、家具、キャビネット、建具、机、食器棚等の金属または木質系の材料に貼り合わされて幅広く使用されている。また、積層化粧シートを複雑な曲面を有する被着体に対してメンブレンプレス成形に施し、その輪郭に忠実に積層化粧シートを貼着することも行われている。
【0003】
このような積層化粧シートとしては、下記特許文献1に記載されているシートが挙げられる。これは、ポリ塩化ビニルシートを基材層とし、その上に転写フィルムをいわゆるダブリングエンボスという積層方式を用いて積層することにより得られる。該シートは、耐汚染性、耐傷付き性、高光沢性を有するとされている。
これとは別に、例えば下記特許文献2の記載されているシートが挙げられる。これは、不透明のポリオレフィン系樹脂フィルムの基材層と、非結晶性ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムとからなる積層化粧シートである。なお、この特許文献2に記載されたシートに用いられる非結晶性フィルムは、一部結晶性を有するものである。この従来技術によれば、成形性に優れ、透明性、耐候性、耐汚染性等に優れたが良好である積層化粧シートが得られるとされている。
【0004】
【特許文献1】特公平7−39170号公報
【特許文献2】特開平7−24979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の積層化粧シートをメンブレンプレス成形、真空、圧空プレス成形に用いると、エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化現象が発生するという問題点がある。
メンブレンプレス成形とは、所望の厚みで所望の着色または表面印刷した熱可塑性の化粧シートを、その軟化点近傍まで加熱し、これを所定の形状の被着体、例えばキッチンセットのドアの形状のような複雑な曲面を有する被着体にかぶせ、この上にさらに伸縮自在のメンブレン(膜状物)、例えばゴム膜をかぶせて、これを空気または液体の圧力を掛けて、その輪郭に忠実に積層化粧シートを貼着するというものである。また、真空プレス成形および圧空プレス成形は、基本原理はメンブレンプレス成形と同じであるが、前者はメンブレンゴムを使用せずに真空圧によって成形する方法であり、後者は空気加圧を利用した成形方法である。
また、積層化粧シートは一般的にカレンダー圧延法で製造されるが、このとき、いわゆるバンクマークと呼ばれるカレンダー製シート特有の樹脂の流れムラによる凹凸が部分的に生じてしまう。実用上支障はないが、表面の平滑性が悪くなり、その結果外観性を損なうことになる。さらに、ダブリングエンボス時にラインスピードを上げると、このバンクマークが一層目立つことにより生産性に乏しいという欠点もある。
さらに、積層化粧シートは低温時に割れ易い傾向があり、冬場の取り扱い時に稀に、割れが発生することがある。
さらにまた、特許文献1に記載されているポリ塩化ビニルシートを基材層にするシートは、熱劣化による初期着色が起こり、透明性もとくに優れた材料とは言えない。
【0006】
本発明の目的は、エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化しにくく、成形性、低温衝撃性、表面平滑性、無色透明性に優れ、その他の各種物性も実用上十分なものであり、とくに真空プレス成形、圧空プレス成形並びにメンブレンプレス成形にとくに適した積層化粧シートの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、上記のような従来の課題を解決することができた。
本発明の第1は、(A)ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、かつジオール成分がエチレングリコール60〜80モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノール20〜40モル%である完全非晶性ポリエステル系樹脂層、および(B)ポリオレフィン系樹脂の材料からなる基材層を、この順で積層したことを特徴とする積層化粧シートである。
本発明の第2は、 転写箔を(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層上に設けた前記の積層化粧シートである。
さらに本発明の第3は、前記の積層化粧シートからなるメンブレンプレス成形用積層シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化しにくく、成形性、低温衝撃性、表面平滑性、無色透明性に優れ、その他の各種物性も実用上十分なものである積層化粧シートが提供される。本発明の積層化粧シートは、真空プレス成形、圧空プレス成形並びにメンブレンプレス成形にとくに適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(B) 基材層
本発明における基材層は、ポリオレフィン系樹脂の材料からなる。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、これらの共重合体(例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体)が使用できる。
これら樹脂のMFR(ポリプロピレンの測定条件:JIS K7210、230℃、2.16kgf、ポリエチレンの測定条件:JIS K7210、190℃、2.16kgf)は、0.3〜30g/10分がよい。さらに好ましくは、0.3〜10g/10分がよい。なお、エチレン−酢酸ビニル共重合体を使用する場合は、エチレン含有量が70〜95重量%が好適であり、また鹸化物も使用することができる。
【0011】
(B)基材層の厚さは、用途に応じて適宜決定されるが、例えば0.1〜2mm、好ましくは0.3〜1.0mmがよい。
【0012】
(A) 完全非晶性ポリエステル系樹脂
本発明における(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂は、再度加熱処理を行っても再結晶化による物性低下を起こさず、結晶性成分を全くもたないものである。なお、本発明でいう結晶性とはJIS K7121に準拠し測定したものである(DSC法)。
【0013】
完全非晶性ポリエステル系樹脂は、例えばテレフタル酸またはジメチルテレフタル酸とエチレングリコールを主成分としてエステル化反応を経て重縮合反応によって製造されたものが好適に使用される。
【0014】
また完全非晶性ポリエステル系樹脂は、上記完全非晶性ポリエステルに使用される2成分の他に第3成分が共重合されたコポリマータイプの完全非晶性ポリエステルを使用することができ、本発明においてはこのタイプが好ましい。第3成分としては、1,4−シクロヘキサンジメタノールまたはイソフタル酸などが好適であり、さらに好ましくは、ジオール成分が2種類以上のものから構成されるものであり、最適には、そのジカルボン酸分がテレフタル酸であり、ジオール成分がエチレングリコール50〜99モル%、および1,4−シクロヘキサンジメタノール1〜50モル%であるものがよい。とくに、エチレングリコール60〜80モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノール20〜40モル%のものがよい。
【0015】
完全非晶性ポリエステル系樹脂の製造方法はすでに当業界において広く知られており、例えば米国特許5,340,907号に開示されている。
【0016】
ここで本発明において(B)基材層にポリオレフィン系樹脂を選択した場合は、(A)の完全非晶性ポリエステル系樹脂は、上記の第3成分を含むコポリマータイプのものであるのが好ましい。この組み合わせによって、エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化現象が抑制される。
【0017】
(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層の厚さは、用途に応じて適宜決定されるが、例えば0.1〜2.0mm、好ましくは0.1〜1.0mmがよい。
【0018】
(B)基材層と(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層とは、必要に応じて基材層の接着面にコロナ処理(例えば20〜200W/m/分)を行って、通常の接着剤により積層することができる。
コロナ放電処理は、真空管方式、サイリスター方式等の公知のコロナ放電処理装置を使用して行うことができる。
【0019】
本発明において、(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層は、(B)基材層に印刷が施してある場合、印刷色に影響を与えず、忠実に印刷色を表現することができ、さらに深み感をも付与することができる。
【0020】
また本発明の積層化粧シートは、必要に応じて転写箔を(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層上に設けることができる。この転写箔は、従来技術と同様に、意匠性を高めるために印刷層や、この印刷層を保護するための透明保護フィルム、およびトップコート層等を含むことができる。転写箔を使用しない場合には、完全非晶性ポリエステル樹脂層上部にエンボス加工を施し、このエンボスの凹部にインクを導入することもできる。さらに、この上部にグラビア法でトップコート層を設けることもできる。
また、完全非晶性ポリエステル系樹脂層上部にエンボス加工を施し、直接この上部にグラビア法でトップコート層を設けることもできる。
【0021】
本発明の積層化粧シートの全体の厚さは、とくに制限されないが、例えば0.15〜2.0mm程度がよく、好ましくは0.2〜1.0mmである。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
(実施例1)
(B)基材層として、厚さ0.1mmのポリプロピレン(理研ビニル工業社製、商品名:#041 OW 9039タイプ、MFR:6〜7g/10分)、(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層として、厚さ0.3mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート(イーストマン・ケミカル社製、商品名:KODAR PETG 6763、コポリマータイプ、ジオール成分:エチレングリコール70重量%および1,4−シクロヘキサンジメタノール30重量%、ジカルボン酸成分:テレフタル酸、結晶成分0%)を用い、(A)層および(B)層間には、厚さ5〜6μmの接着剤(東洋紡績社製のポリエステル系接着剤バイロン63SSと、日本ポリウレタン社製のイソシアネート系硬化剤コロネートHXとの重量比100:3の混合物)を適用し、(A)層−接着剤−(B)層の順番でドライラミネートした。これらを150℃〜160℃のエンボスロールにて40秒間エンボス加工処理した(ニップ圧:2.0kg/cm)。その後、さらに(B)基材層の裏面(A層の反対側)にコロナ処理(例えば20〜200W/m/分)を行って、厚さ2〜3μmのプライマー層(H.B.フーラー社製、商品名:L1135/43と、日本ポリウレタン社製、商品名:コロネートHXを、重量比として100:3で混合したもの)を施した。
【0024】
(比較例1)
(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層を、厚さ0.3mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート(大阪樹脂加工社製、商品名:PET−1S、ホモタイプ、ジオール成分:エチレングリコール、ジカルボン酸成分:テレフタル酸、結晶成分を一部有する)に変更した以外は、実施例1を繰り返した。
【0025】
(比較例2)
(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層を、厚さ0.3mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート(出光石油化学社製、商品名:クリスタレイ、ジオール成分:エチレングリコール、ジカルボン酸成分:テレフタル酸、結晶成分を一部有する)に変更した以外は、実施例1を繰り返した。
【0026】
上記の実施例1および比較例1〜2で得られた積層化粧シートのデュポン衝撃試験、引張試験、エンボス成形後の外観(目視)、メンブレンプレス試験を実施した。結果を表1に示す。各試験方法を以下に示す。
【0027】
デュポン衝撃試験は次のようにして行った。積層化粧シートを23℃の温度に放置した後、突端直径1/2インチの撃芯とその直径と合致した凹みを持つ受け台との間に置き、所定の高さから重鎮を落下させ、シート面のクラック発生の有無を観察する。
重鎮を落下させる高さおよび重鎮の重さを変えていきクラックが発生しない最大値を求め、下記の計算式より衝撃値を得る。
【0028】
[数1]
衝撃値(kg-cm) = 荷重(重鎮の重量(kg))× 高さ(重鎮が落下した高さ(cm))
【0029】
引張試験
積層化粧シートのJIS K6734に準拠し、抗張力、伸度、破断点を測定した。
なお、各種試験において、エンボスロール加工前の積層化粧シートを未処理、エンボスロール加工後の積層化粧シートを処理後として表示した。
【0030】
メンブレンプレス試験
積層化粧シートをメンブレンプレス機(機種名:KT−M−139、製造会社名:ベンホーナー)の所定の場所に設置して、貼り合わせ条件(温度:130〜140℃、時間:60秒間、圧力:4kg/cm)にて貼り合わせを行い、成形性を評価した。
被着体(MDF)は、針葉樹もしくはラワン材等の木材のチップを細かくくだき、プレスして固めた合板である。その被着体をシステムキッチン等に組み込まれる扉の形状にカット(サイズ400mm×600mm程度、厚み18〜40mm程度)し、さらに曲面加工(3R〜10R程度)を施した。さらに天面には装飾の溝を彫りこんだ。
なお、メンブレンプレス成形にあたって、この扉形状のMDF表面に、厚さ1〜30μmウレタン系の接着剤(ヘンミィティン社製接着剤、商品名:34333と、同社製硬化剤、商品名:ハードナーDを、重量比として100:5で混合したもの)を施した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、本発明の積層化粧シートの成形性は良好であり、エンボス加工後に白化も見られなかったのに対し、比較例2および3の積層化粧シートはフィルム伸び不足により成形性に難があり、白化現象も生じたことが判る。
【0033】
(実施例2)
(B)基材層として、厚さ0.1mmのポリプロピレン(理研ビニル工業社製、商品名:#041 OW 9039タイプ、MFR:6〜7g/10分)、(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層として、厚さ0.3mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート(イーストマン・ケミカル社製、商品名:KODAR PETG 6763、コポリマータイプ、ジオール成分:エチレングリコール70重量%および1,4−シクロヘキサンジメタノール30重量%、結晶成分0%)を用い、(A)層および(B)層間には、樹脂インキとしてウレタン系樹脂(東洋インキ社製、商品名:ラミスター)を施し、(A)層−樹脂インキ−(B)層の順番で、これらを熱貼り合わせエンボス機を用い、貼り合わせ温度130℃〜140℃、貼り合わせ時間40秒、貼り合わせ圧2.0kg/cmの条件で貼り合わせた。
【0034】
(比較例3)
(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層を、厚さ0.3mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート(大阪樹脂加工社製、商品名:PET−1S、ホモタイプ、ジオール成分:エチレングリコール、ジカルボン酸成分:テレフタル酸、結晶成分を一部有する)に変更し、さらに樹脂インキを、ウレタン系樹脂(東洋インキ社製、商品名:ラミスター)に変更した以外は、実施例2を繰り返した。
【0035】
(比較例4)
(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層を、厚さ0.3mmの非晶性ポリエチレンテレフタレート(出光石油化学社製、商品名:クリスタレイ、ジオール成分:エチレングリコール、ジカルボン酸成分:テレフタル酸、結晶成分を一部有する)に変更した以外は、比較例3を繰り返した。
【0036】
上記の実施例2および比較例3〜4で得られた積層化粧シートの外観性を評価した。結果を表2に示す。試験方法を以下に示す。
【0037】
外観性
積層化粧シートの熱貼り合わせ後の外観を目視にて評価した。
【0038】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、エンボス加工時、熱貼り合わせ時に白化しにくく、成形性、低温衝撃性、表面平滑性、無色透明性に優れ、その他の各種物性も実用上十分なものである積層化粧シートが提供される。本発明の積層化粧シートは、真空プレス成形、圧空プレス成形並びにメンブレンプレス成形にとくに適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジカルボン酸成分がテレフタル酸であり、かつジオール成分がエチレングリコール60〜80モル%および1,4−シクロヘキサンジメタノール20〜40モル%である完全非晶性ポリエステル系樹脂層、および
(B)ポリオレフィン系樹脂の材料からなる基材層を、
この順で積層したことを特徴とする積層化粧シート。
【請求項2】
転写箔を(A)完全非晶性ポリエステル系樹脂層上に設けた請求項1に記載の積層化粧シート。
【請求項3】
請求項1ないし2のいずれか1項に記載の積層化粧シートからなるメンブレンプレス成形用積層シート。

【公開番号】特開2008−120091(P2008−120091A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328979(P2007−328979)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【分割の表示】特願2003−369196(P2003−369196)の分割
【原出願日】平成10年3月9日(1998.3.9)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【Fターム(参考)】