説明

積層型圧電アクチュエータ及びその製造方法

【目的】本発明の目的は、圧電セラミックスと内部電極が交互に積層され、内部電極が外部電極と一層おきに接続される積層型圧電アクチュエータにおいて、電圧印加時内部電極付近に発生する応力を緩和し、耐久性のある積層圧電アクチュエータを提供することにある。
【構成】内部電極層間の内部電極が重ならない部分に応力緩和部を設けたことを特徴とする積層型圧電アクチュエータ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は積層型圧電アクチュエータの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】積層型圧電アクチュエータは一般に図1R>1、図2に示される様に、圧電セラミックス層2と内部電極1が交互に積層し、内部電極1は一層おきに外部電極4に接続される構造になっている。図1の様な構造の積層型圧電アクチュエータにおいては、内部電極1が素子断面全体に形成され、外部電極4を形成する前に、露出した内部電極1に一層おきに絶縁体5を形成する必要がある。この様な絶縁体の形成にはスクリーン印刷法や、電気泳動法が用いられている。しかしながらいずれの方法においても積層体の内部電極1の間隔が70μmより薄くなると、絶縁体5の形成が不可能となる。
【0003】また、図2の様な構造の積層型圧電アクチュエータにおいては、内部電極1が交互にアクチュエータの一方の側面に露出して外部電極4と接続されるもので、交互に形成される内部電極1で挟まれた圧電セラミックス層2は電界に応じて変位するが、内部電極1に挟まれていない部分の圧電セラミックス層2は変位しない。このため、内部電極1の周辺部に応力が発生し、素子全体の変位を妨げるだけでなく、応力の集中する内部電極の角部に機械的な破損を生じる欠点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】図2のような構造の積層型圧電アクチュエータにおいて応力を緩和するための空乏層を形成する方法などが、例えば特開昭61−142780号、特開昭62−25475号、特開昭63−174380号に記載されている。しかしながらこの様な空乏層を設ける方法は、焼成時には空乏層が融着してしまうという問題や、空乏層付近が脆くなるといった問題がある。本発明の目的は図2のような構造の積層型圧電アクチュエータにおいて、内部応力による素子全体の変位を妨げない、特に応力が内部電極の角部に集中して機械的破損の生じない積層型圧電アクチュエータの構造を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、本発明は、圧電セラミックス層と内部電極が交互に積層され、内部電極が外部電極と一層おきに接続される積層型圧電アクチュエータにおいて、上記内部電極層間に応力緩和部を設けたことを特徴とする。
【0006】即ち、この発明に依れば、上記応力緩和部がチタン酸鉛であり、該応力緩和部を相隣る内部電極間の前記圧電セラミックス層周辺部に設けたことを特徴とする。又、この発明に依れば、内部電極の角部が直線で面取り、または曲線で丸められることを特徴とする。
【0007】
【作用】圧電セラミックスは電界を印加することにより変位し、伸縮する素子であ。本発明の積層型圧電アクチュエータは相隣る内部電極間の前記圧電セラミックス層周辺部にチタン酸鉛よりなる応力緩和部を設け、該応力緩和部が圧電セラミックス層ではさまれた構造である。
【0008】本発明者らは先に特願平3−15321号明細書において、外部電極と内部電極の絶縁を保ち、且つ、内部応力を緩和する部分がチタン酸鉛で構成される方法を提供し、この中でチタン酸鉛の性質について詳しく述べているが、簡単に説明すると、チタン酸鉛は高温で焼成すると降温過程で500℃付近で微細に破壊され焼結しない。つまり微細な粒状になっている。また、上記先願の発明では内部応力を緩和する部分が内部電極と同じ圧電セラミックス上に、内部電極と隣接する様に配設され、内部応力を緩和すると共に内部電極と外部電極を絶縁する機能も持っていた。しかしながらその後、上記応力緩和部で内部電極と外部電極間でマイグレーションが発生し絶縁を保持できないことがわかった。そこで、本発明では上記応力緩和部を内部電極が重ならない部分に配設した。内部電極が重ならない部分とは、応力緩和部を内部電極と同じ圧電セラミックス上に形成するのではなく、上記応力緩和部がアクチュエータ表面から交互に露出するように積層される内部電極間の、上記内部電極をアクチュエータの積層方向から投影的に見て二重にならない部分、あるいは二重になる内部電極の周辺部からわずかに内方へ突出する部分を含めて、セラミックス層の周辺部に設けて形成した。
【0009】外部電極に電圧が印加されると、内部電極が重なる部分の圧電セラミックス層は電界をうけ変位し、積層方向に伸びるが、内部電極が重ならない部分の圧電セラミックス層は変位しない。従って圧電セラミックス層の電界がかかっている部分と電界がかかっていない部分の境界で応力が発生する。しかし本発明では応力が集中する部分即ち内部電極の周囲にチタン酸鉛からなる応力緩和部を設け、この応力緩和部は粒状で圧電セラミックスの変位を拘束しない。したがって応力が発生せず、素子全体の変位を妨げることがなく、また応力による機械的破損を生じない。さらに圧縮に対しても強い構造である。
【0010】さらに内部電極の矩形型形状の角部を直線状に面取りあるいは曲線状に丸めることにより従来内部応力が集中していた内部電極の角部分に、応力が集中しないで分散し、機械的破損が生じない構造にした。
【0011】また内部電極が外部電極との接続部分のみがアクチュエータ表面より露出する形状にすることによりマイグレションによる絶縁破壊を防ぐことができる。
【0012】
【実施例】以下に、実施例を挙げて、この発明の積層型圧電アクチュエータ及びその製造方法を図を追って更に説明する。
【0013】図3は本発明の積層型圧電アクチュエータの構造を示す断面図であり、図4はその斜視図である。図3及び図4に従って本発明の積層型圧電アクチュエータの構造を説明する。
【0014】図3及び図4において1は内部電極層であり、2は圧電セラミックス層、3は応力緩和部、4は外部電極である。電圧を印加すると変位を発生する圧電セラミックス層2と内部電極層1とが交互に積層され、前記内部電極層1は一層おきに外部電極4に共通に接続される。さらに外部電極4はリード線6に接続され、このリード線6より電圧が印加される。また互いに別の外部電極4に接続されている内部電極層1に挟まれた圧電セラミックス層2内に、内部電極の重ならない部分、若しくはわずかに重なる周辺部を含めた部分、即ち電界が作用しない部位に応力緩和部3が配設された構造となっている。また積層型圧電アクチュエータの上下にはアクチュエータを保護するため圧電セラミックス層が積層されている。以下に製造方法を示しながらさらに詳しく本発明を説明する。
【0015】圧電アクチュエータ用材料として好適であるPb(Zr,Ti)O3のセラミックス粉末をサンドミルで粉砕し、バインダー、分散剤、活性剤、消泡剤を加えて混練、真空脱泡した後ドクターブレード法を用いてグリーンシート2a、2bを作製する。得られたグリーンシート2a、2bの厚みは約55μmであった。
【0016】市販の高純度チタン酸鉛の粉末(堺化学工業社製、平均粒径0.5μm)を用意し、これにビヒクル、溶剤を加え応力緩和部用チタン酸鉛ペーストとした。
【0017】先に述べたグリーンシート2a上にスクリーン印刷法を用いて図5、図7の様に内部電極層1(銀パラジウム合金)を印刷する。実際には積層後、所定パターンで切断するため、グリーンシート2a上には内部電極となる複数の領域に図の様な内部電極1のパターンを形成するが、一個分の内部電極1についてのパターンを図5に示したものとする。内部電極1のパターンは外部電極4と接続される一辺1aを残し、他の3辺はその端部から少し内側になるように、即ち内部電極1が圧電アクチュエータ表面に露出しないようにし、さらに好ましくは該パターンの角部1bを直線状に面取りするかまたは曲線状に丸めれば、応力が内部電極1の角部に集中するのを防ぐことができる。
【0018】同様に別のグリーンシート2b上にスクリーン印刷法を用いて図6、図8の様に内部電極を積層方向から見て、内部電極1が重ならない部位あるいは内部電極1と重なる内部電極1の周辺部からわずかに突出する部分を含めて、応力緩和部3としてのチタン酸鉛を印刷する。即ちシート2bの周辺部に応力緩和部3が形成される。このチタン酸鉛は焼成時、微細に破壊され、圧電セラミックス層2と反応しないので、圧電セラミックス層2の変位を誘起する特性に影響を与えない。さらにチタン酸鉛は絶縁物なので内部電極と外部電極の絶縁を保持できると共に圧縮に対しても強い。
【0019】次に100×100mmの大きさに切断した後、内部電極1を印刷したシートと応力緩和部3用チタン酸鉛ペーストを印刷したシートを交互にそれぞれ130枚づつ積層した。これを、圧着し、脱脂焼成後切断研磨し5×7×10mmの個々のブロックを得た。内部電極間隔は約50μmであった。これに外部電極4を取り付け、リード線6を取り出して積層型圧電アクチュエータの素子とした。
【0020】この様にして得られた積層型圧電アクチュエータ素子は、内部電極1間のほぼ中央の重ならない部位に応力緩和部3を有してなるもので、外装をする前でも、絶縁抵抗は1GΩ以上あった。また、変位を測定したところ、150Vで約11μmの変位を示した。この素子に、0ー150V、sin波、300Hzを印加して駆動させ、寿命試験を行ったところ、109回変位させても破壊は起こらなかった。また、耐湿性試験を行った。試験は40℃90%R.H.の環境でDC150V印加し破壊までの時間を計測した。比較用に従来の積層型圧電アクチュエータ形状の、内部電極端面が素子表面に露出したタイプも測定した。本発明による素子は、外装を施さなくても30時間以上の耐湿性を示したのに対し、従来の樹脂外装を施した素子は1時間未満で絶縁破壊を起こした。図9にその結果を示す。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように、本発明による積層型圧電アクチュエータは、内部電極間隔が70μm以下の小型積層圧電アクチュエータにおいても対応可能であり、内部電極が一層おきに外部電極と確実に絶縁され、また内部電極間も確実に絶縁されているのでマイグレーションによる絶縁破壊の起こりにくい構造である。さらに内部電極間に応力緩和部を設け、また内部電極の形状を内部応力が集中せず、分散する形状にしたことで、内部応力による機械的破損が生じにくい。また絶縁物を挟むことにより圧縮にたいしての強度も向上した。よって本発明による積層型圧電アクチュエータは、従来のものに比べはるかに耐久性が優れた積層型圧電アクチュエータである。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の積層型圧電アクチュエータの一例の断面図である。
【図2】従来の別の積層型圧電アクチュエータの一例の断面図である。
【図3】本発明の一実施例である積層型圧電アクチュエータの断面図である。
【図4】本発明の一実施例である積層型圧電アクチュエータの斜視図である。
【図5】本発明の一実施例である積層型圧電アクチュエータの内部電極パターン図。
【図6】本発明の一実施例である積層型圧電アクチュエータの応力緩和部パターン図。
【図7】本発明の別の実施例である積層型圧電アクチュエータの内部電極パターン図。
【図8】本発明の別の実施例である積層型圧電アクチュエータの応力緩和部パターン図。
【図9】本発明の積層型圧電アクチュエータと従来型の積層型圧電アクチュエータの耐湿性試験の結果。
【符号の説明】
1 内部電極
2 圧電セラミックス層
3 応力緩和部
4 外部電極
5 絶縁体
6 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電セラミックス層と内部電極が交互に積層され、内部電極が外部電極と一層おきに接続される積層型圧電アクチュエータにおいて、上記内部電極間に応力緩和部を設けたことを特徴とする積層型圧電アクチュエータ。
【請求項2】 上記内部電極の外部電極に接続される面が交互にアクチュエータの一方の側面より露出することを特徴とする請求項1記載の積層型圧電アクチュエータ。
【請求項3】 上記応力緩和部がチタン酸鉛であることを特徴とする請求項1記載の積層型圧電アクチュエータ。
【請求項4】 応力緩和部が相隣る内部電極間の、前記圧電セラミックス層周辺部に設けたことを特徴とする請求項1記載の積層型圧電アクチュエータ。
【請求項5】 応力緩和部を相隣る内部電極間の、該内部電極が前記アクチュエータの積層方向から投影的に見て重ならない部分で前記セラミックス層周辺部に設けたことを特徴とする請求項4記載の積層型圧電アクチュエータ。
【請求項6】 前記応力緩和部が相隣る内部電極間の、該内部電極の周辺部から前記アクチュエータの積層方向から投影的に見て内部電極の重なる部分の内方へわずかに突出するように前記セラミックス層周辺部に設けたことを特徴とする請求項4記載の積層型圧電アクチュエータ。
【請求項7】 前記応力緩和部が相隣る内部電極間のほぼ中間部に内部電極に平行に設けられたことを特徴とする請求項4〜6いずれか記載の積層型圧電アクチュエータ。
【請求項8】 上記内部電極の角部が直線状に面取り、または曲線状に丸められることを特徴とする請求項1記載の積層型圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開平8−274381
【公開日】平成8年(1996)10月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−99918
【出願日】平成7年(1995)3月31日
【出願人】(000000240)秩父小野田株式会社 (1,449)