説明

空気潤滑式船舶の空気供給装置

【課題】過給機により主機に供給される加圧空気圧が主機の出力によって変動し、更に積載状態によって喫水圧が変動しても、これらの変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができ、エネルギー効率が高く省エネ効果の向上が可能な空気潤滑式船舶の空気供給装置を提供する。
【解決手段】空気潤滑式船舶の主機6に加圧空気を供給する過給機10と、加圧空気の一部を取り出す取出手段と、取出手段で取り出した加圧空気をさらに昇圧する昇圧手段30aと、昇圧手段30aで昇圧された昇圧空気を供給する昇圧経路41aと、昇圧手段30aをバイパスするバイパス経路51と、昇圧経路41aとバイパス経路51を選択する経路選択手段とを備え、経路選択手段で昇圧経路41a及び/又はバイパス経路51を選択して昇圧空気及び/又は加圧空気を供給して船体の周囲に噴出させたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航行中の船舶の船底部外面に沿う水の摩擦抵抗を低減させるための空気潤滑式船舶の空気供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航行中の船舶では、一般に船底部の没水表面に水の摩擦抵抗を受けており、特に大型船の場合には、船体抵抗の大部分が船底部における外水の相対流により生じる摩擦抵抗で占められている。
船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑による船体摩擦抵抗の軽減は省エネ効果が大きく、船舶からのCO排出削減に有効な手段である。
しかし喫水の深い大型外航船舶では船底に空気を送る必要エネルギーが大きく、ブロワのみによる空気潤滑法の適用は省エネ効果を得る上で限界がある。そこで考えられたのが主機の過給機まわりの加圧された空気あるいは排気ガスを利用するシステムである。
【0003】
特許文献1及び特許文献2では、空気冷却機と主機間の加圧された空気である掃気ガスを利用する装置が提案されている。
また、特許文献3及び特許文献4では、主機の排気ガスを利用する装置が提案されている。
また、特許文献5では、過給機の低圧箇所から抽出した圧力の低い加圧空気を利用する装置が提案されている。
また、特許文献6では、過給機と主機との間の加圧空気及び/又は排気ガスを利用する装置が提案されている。
また、特許文献7では、排気ガスにより回転駆動される圧縮ガス提供手段を備えて、この圧縮ガス提供手段での圧縮ガスを利用する装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−348870号公報
【特許文献2】特開平11−348871号公報
【特許文献3】特開平11−348869号公報
【特許文献4】特開2001−97276号公報
【特許文献5】特開2001−48082号公報
【特許文献6】特開2010−23631号公報
【特許文献7】特開2010−274905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、過給機により主機に供給される加圧空気圧(掃気圧)は主機出力に比例し、主機負荷が低いときには低く、主機負荷が高いときには高くなる性質がある。排気ガスについても、主機出力に比例する点では同様である。
一方、船の喫水は載荷状態で変わるため、満載等で主機負荷が低い場合には主機の掃気圧が喫水圧より低くなり、空気潤滑が適用できないケースが出てくる。
特許文献1から特許文献7では、主機出力によって変動するガス圧や積載状態によって変動する喫水圧に対して、空気潤滑が適用できる範囲を広げ、またエネルギー効率を考えた対応は取られていない。
【0006】
そこで、本発明は、過給機により主機に供給される加圧空気圧が主機の出力によって変動し、更に積載状態によって喫水圧が変動しても、これらの変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができ、エネルギー効率が高く省エネ効果の向上が可能な空気潤滑式船舶の空気供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した空気潤滑式船舶の空気供給装置においては、船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑式船舶の空気供給装置において、空気潤滑式船舶の主機に加圧空気を供給する過給機と、加圧空気の一部を取り出す取出手段と、取出手段で取り出した加圧空気をさらに昇圧する昇圧手段と、昇圧手段で昇圧された昇圧空気を供給する昇圧経路と、昇圧手段をバイパスするバイパス経路と、昇圧経路とバイパス経路を選択する経路選択手段とを備え、経路選択手段で昇圧経路及び/又はバイパス経路を選択して昇圧空気及び/又は加圧空気を供給して船体の周囲に噴出させたことを特徴とする。請求項1に記載の本発明によれば、バイパス経路が選択された場合には、主機に供給する加圧空気を用いて船体の周囲に空気を噴出し、昇圧経路が選択された場合には、加圧空気を昇圧手段によって更に昇圧した昇圧空気を用いて船体の周囲に空気を噴出することができ、加圧空気だけで噴出させる場合と昇圧手段でアシストした昇圧空気で噴出させる場合とを選択することができる。従って、請求項1に記載の本発明によれば、主機に供給される加圧空気圧が主機の出力によって変動し、更に積載状態によって喫水圧が変動しても、これらの変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができるため、エネルギー効率が高く省エネ効果の向上が可能な空気潤滑式船舶を実現することができる。なお、ここで言う加圧空気とは、過給機で加圧された空気が主機で燃焼した後の、加圧された排気ガスも含むものとする。
【0008】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、昇圧手段と昇圧経路と経路選択手段とを複数備え、昇圧手段の任意数の運転による昇圧空気の供給を可能にしたことを特徴とする。請求項2に記載の本発明によれば、複数の昇圧手段を切り換えることで、加圧空気圧の変動や喫水圧の変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができるため、エネルギー効率や省エネ効果を更に高めることができる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、昇圧手段に大気から空気を吸い込む大気吸込手段をさらに備え、大気からの空気を昇圧して供給することを可能にしたことを特徴とする。請求項3に記載の本発明によれば、加圧空気とは別に、大気からの空気を用いて船体の周囲に空気を噴出することができ、例えば喫水圧が低い場合には、大気からの空気を船体の周囲に供給することができるため、エネルギー効率や省エネ効果を更に高めることができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、経路選択手段でバイパス経路を選択し、昇圧手段をバイパスして加圧空気をバイパス経路から供給し、また大気吸込手段を制御して大気からの空気を昇圧して昇圧経路から供給したことを特徴とする。請求項4に記載の本発明によれば、バイパス経路では加圧空気を供給するとともに、昇圧経路では大気からの空気を供給することで、船体の周囲への空気の噴出量を多くして摩擦低減効果を高め、省エネ効果を更に向上することができる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、取出手段で取り出す加圧空気が、過給機を構成するコンプレッサーから主機に送られる加圧空気の一部としての掃気ガスであることを特徴とする。請求項5に記載の本発明によれば、掃気ガスを利用することで、昇圧手段に要するエネルギーを低減することができる。
【0012】
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、船体の喫水を検出する喫水検出手段と、経路選択手段と昇圧手段とを制御する制御手段とをさらに備え、喫水検出手段の検出結果に基づいて制御手段で制御を行うことを特徴とする。請求項6に記載の本発明によれば、積載状態による喫水圧の変動を、喫水検出手段で検出することができ、制御手段では喫水圧に応じた制御を行うことで、加圧空気と昇圧空気を適宜組み合わせて供給することが可能となり、空気潤滑の適用できる条件を的確に設定でき、エネルギー効率が高い空気の供給方法を選択することができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、主機の負荷を検出する負荷検出手段をさらに備え、負荷検出手段の検出結果に基づいて制御手段で制御を行うことを特徴とする。請求項7に記載の本発明によれば、主機の出力による加圧空気圧の変動を、負荷検出手段で検出することができ、制御手段では加圧空気圧に応じた制御を行うことで、エネルギー効率が高い空気の供給方法を選択することができる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、負荷検出手段が、過給機の掃気ガス圧の検出であることを特徴とする。請求項8に記載の本発明によれば、掃気ガス圧によって主機の出力による変動を検出することで、加圧空気圧の変動検出をタイムラグ無く検出することができるため、負荷の変動に追随した制御を行うことができ、エネルギー効率を高めることができる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、請求項1から請求項8のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、過給機から昇圧手段までの間に、加圧空気の流量を調節する流量調節弁をさらに備えたことを特徴とする。請求項9に記載の本発明によれば、流量調整弁を備えることで、昇圧手段の運転状態の影響による流量変動を緩和し、過給機から主機への加圧空気の供給流量を安定させることができ、主機のエネルギー効率の低下を防止することができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、請求項1から請求項8のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、過給機から昇圧手段に至る加圧空気の流量を検出する流量検出手段をさらに備えたことを特徴とする。請求項10に記載の本発明によれば、流量検出手段を備えることで、加圧空気の流量制御を安定して行うことができる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、請求項10に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、流量検出手段で検出される流量検出値をフィードバックして流量調節弁を制御することを特徴とする。請求項11に記載の本発明によれば、流量調節弁を制御することで、加圧空気を設定した流量に従って取り出す制御ができ、主機への加圧空気量を適正に維持し、昇圧手段での昇圧を効果的に高めることができる。更に、例えば昇圧手段にトラブルが発生した場合では流量調整弁によって掃気圧を調整できるために主機にトラブルの影響を与えることがなく安全性が高い。
【0018】
請求項12記載の本発明は、請求項9から請求項11のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、流量調節弁の開度又は流量検出手段で検出される流量検出値をフィードバックして昇圧手段を制御することを特徴とする。請求項12に記載の本発明によれば、設定した開度又は流量に従って昇圧手段を制御し、所定の流量を得ることができる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、請求項1から請求項12のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、昇圧手段として、回転数制御が可能なブロワを用いたことを特徴とする。請求項13に記載の本発明によれば、加圧空気圧の変動や喫水圧の変動に応じてブロワによる昇圧調整を行うことができる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、請求項13に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、ブロワの回転数を検出し、検出される回転数検出値をフィードバックしてブロワを制御したことを特徴とする。請求項14に記載の本発明によれば、ブロワの回転数によって制御ができるため、流量検出手段などの検出を行うことなく制御できる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、請求項9から請求項14のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置において、船体の運動を検出する船体運動検出手段をさらに備え、船体運動検出手段の船体運動検出値をフィードフォワードして流量調節弁及び/又は昇圧手段を制御したことを特徴とする。請求項15に記載の本発明によれば、船体運動検出手段を備えることで、船体運動検出値から喫水等の変動を予測し加圧空気や昇圧空気の組み合わせや流量制御を行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、過給機により主機に供給される加圧空気圧が主機の出力によって変動し、更に積載状態によって喫水圧が変動しても、これらの変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができるため、エネルギー効率が高く省エネ効果の向上が可能な空気潤滑式船舶を実現することができる。
【0023】
また、昇圧手段と昇圧経路と経路選択手段とを複数備え、昇圧手段の任意数の運転による昇圧空気の供給を可能にした場合には、複数の昇圧手段を切り換えることで、加圧空気圧の変動や喫水圧の変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができるため、エネルギー効率や省エネ効果を更に高めることができる。
【0024】
また、昇圧手段に大気から空気を吸い込む大気吸込手段をさらに備え、大気からの空気を昇圧して供給することを可能にした場合には、加圧空気とは別に、大気からの空気を用いて船体の周囲に空気を噴出することができ、例えば喫水圧が低い場合には、大気からの空気を船体の周囲に供給することができるため、エネルギー効率や省エネ効果を更に高めることができる。
【0025】
また、経路選択手段でバイパス経路を選択し、昇圧手段をバイパスして加圧空気をバイパス経路から供給し、また大気吸込手段を制御して大気からの空気を昇圧して昇圧経路から供給した場合には、バイパス経路では加圧空気を供給するとともに、昇圧経路では大気からの空気を供給することで、船体の周囲への空気の噴出量を多くして摩擦低減効果を高め、省エネ効果を更に向上することができる。
【0026】
また、取出手段で取り出す加圧空気が、過給機を構成するコンプレッサーから主機に送られる加圧空気の一部としての掃気ガスである場合には、掃気ガスを利用することで、昇圧手段に要するエネルギーを低減することができる。
【0027】
また、船体の喫水を検出する喫水検出手段と、経路選択手段と昇圧手段とを制御する制御手段とをさらに備え、喫水検出手段の検出結果に基づいて制御手段で制御を行う場合には、積載状態による喫水圧の変動を、喫水検出手段で検出することができ、制御手段では喫水圧に応じた制御を行うことで、加圧空気と昇圧空気を適宜組み合わせて供給することが可能となり、空気潤滑の適用できる条件を的確に設定でき、エネルギー効率が高い空気の供給方法を選択することができる。
【0028】
また、主機の負荷を検出する負荷検出手段をさらに備え、負荷検出手段の検出結果に基づいて制御手段で制御を行う場合には、主機の出力による加圧空気圧の変動を、負荷検出手段で検出することができ、制御手段では加圧空気圧に応じた制御を行うことで、エネルギー効率が高い空気の供給方法を選択することができる。
【0029】
また、負荷検出手段が、過給機の掃気ガス圧の検出である場合には、掃気ガス圧によって主機の出力による変動を検出することで、加圧空気圧の変動検出をタイムラグ無く検出することができるため、負荷の変動に追随した制御を行うことができ、エネルギー効率を高めることができる。
【0030】
また、過給機から昇圧手段までの間に、加圧空気の流量を調節する流量調節弁をさらに備えた場合には、流量調整弁を備えることで、昇圧手段の運転状態の影響による流量変動を緩和し、過給機から主機への加圧空気の供給流量を安定させることができ、主機のエネルギー効率の低下を防止することができる。
【0031】
また、過給機から昇圧手段に至る加圧空気の流量を検出する流量検出手段をさらに備えた場合には、流量検出手段を備えることで、加圧空気の流量制御を安定して行うことができる。
【0032】
また、流量検出手段で検出される流量検出値をフィードバックして流量調節弁を制御する場合には、流量調節弁を制御することで、加圧空気量を設定した流量に従って取り出す制御ができ、主機への加圧空気量を適正に維持し、昇圧手段での昇圧を効果的に高めることができる。更に、例えば昇圧手段にトラブルが発生した場合では流量調整弁によって掃気圧を調整できるために主機にトラブルの影響を与えることがなく安全性が高い。また、例えば流量調節弁を全開としない開度となるように余力を持たせて流量設定をし、昇圧手段の変動に対応して流量調節弁でこれを補う制御をして流量を安定化することも可能となる。
【0033】
また、流量調節弁の開度又は流量検出手段で検出される流量検出値をフィードバックして昇圧手段を制御する場合には、設定した開度又は流量に従って昇圧手段を制御し、所定の流量を得ることができる。
【0034】
また、昇圧手段として、回転数制御が可能なブロワを用いた場合には、加圧空気圧の変動や喫水圧の変動に応じてブロワによる昇圧調整を行うことができる。
【0035】
また、ブロワの回転数を検出し、検出される回転数検出値をフィードバックしてブロワを制御した場合には、ブロワの回転数によって制御ができるため、流量検出手段などの検出を行うことなく制御できる。
【0036】
また、船体の運動を検出する船体運動検出手段をさらに備え、船体運動検出手段の船体運動検出値をフィードフォワードして流量調節弁及び/又は昇圧手段を制御した場合には、船体運動検出手段を備えることで、船体運動検出値から喫水等の変動を予測し加圧空気や昇圧空気の組み合わせや流量制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態による空気供給装置を搭載した空気潤滑式船舶の概略構成図
【図2】掃気バイパスガスを昇圧して空気供給口から噴出させる経路を示す同空気潤滑式船舶の空気供給装置の概略構成図
【図3】掃気バイパスガスを昇圧することなく空気供給口から噴出させる経路を示す同空気潤滑式船舶の空気供給装置の概略構成図
【図4】掃気バイパスガスと大気導入空気とをそれぞれ別に空気供給口から噴出させる経路を示す同空気潤滑式船舶の空気供給装置の概略構成図
【図5】横軸を掃気圧(Ps)、縦軸を喫水圧(Pd)とし、それぞれの条件による切り換え方法を示す図
【図6】空気潤滑式船舶の他の実施形態による空気供給装置の概略構成図
【図7】空気潤滑式船舶の更に他の実施形態による空気供給装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下に、本発明の実施形態による空気潤滑式船舶の空気供給装置について説明する。
図1は本発明の実施形態による空気供給装置を搭載した空気潤滑式船舶の概略構成図、図2から図4は同空気潤滑式船舶の空気供給装置の概略構成図であり、図2は掃気バイパスガスを昇圧して空気供給口から噴出させる経路、図3は掃気バイパスガスを昇圧することなく空気供給口から噴出させる経路、図4は掃気バイパスガスと大気導入空気とをそれぞれ別に空気供給口から噴出させる経路を示している。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の空気潤滑式船舶は、船体1の船首部2側には空気供給装置7(主要部)を備え、船尾3側にはプロペラを駆動する駆動源5を備えている。船首部2の船底4には、空気供給口80が設けられている。空気供給口80から船体1の船底4周囲に空気を気泡として噴出することにより、海面S.L.よりも下の船底4の広い領域に気泡を供給して、高い摩擦抵抗低減効果を得ることができる。
また、空気供給装置7を船首部2に設けることにより、空気供給口80に至る空気経路90を短くすることができる。従って、空気経路90における圧力損失を抑制して、空気供給口80に効率良く空気を供給することができる。
なお、空気供給口80は、船底4に近い船首側面部や、船体1の幅が狭くなり始める船底4又は船体1側面に設けてもよい。
【0040】
駆動源5は、内燃機関である主機6と、主機6に加圧空気を供給し主機6の排気ガスにより駆動される過給機10を有する。
主機6に供給される前の加圧空気の一部は、取出経路21を通って空気供給装置7に送られる。
空気供給装置7には、大気から空気を吸い込む大気吸込経路70が設けられている。
【0041】
次に、図2を用いて空気供給装置の構成について説明する。
空気供給装置7(主要部)には、取出経路21から加圧空気の一部が導入される。
過給機10は、主機6の排気経路から動力を取り出すタービン11と、このタービン11によって動作するコンプレッサー12と、コンプレッサー12で加圧された空気を主機6のシリンダーに導入する掃気レシーバ13とを有する。
取出経路21の一端は、掃気レシーバ13に接続されており、加圧空気は、掃気レシーバ13から取出経路21に導出される。
取出経路21の他端は3つ経路に分岐しており、それぞれ経路端には第1の開閉弁61a、第2の開閉弁61b、第3の開閉弁63が設けられている。
【0042】
取出経路21には、加圧空気の流量を調節する流量調節弁22と、加圧空気の流量を検出する流量検出手段31を設けている。流量調節弁22は、流量検出手段31で検出される流量検出値をフィードバックしてPID制御される。流量検出手段31で検出される流量検出値は弁制御部32で設定値SPと比較され、弁制御部32では流量検出値が設定値SPに近づくように流量調節弁22に動作信号を与える。弁制御部32に入力される設定値SPは、例えば主機出力等に応じた最適流量を設定する。
取出手段は、取出経路21、流量調節弁22、流量検出手段31、及び弁制御部32で構成される。
【0043】
ブロワ制御部33は、流量調節弁22の開度で検出される流量検出値をフィードバックして第1の昇圧手段30aを制御する。流量調節弁22で検出される流量検出値はブロワ制御部33で設定値と比較され、ブロワ制御部33では流量検出値が設定値SPに近づくように第1の昇圧手段30aの回転数を制御する。ブロワ制御部33に入力される設定値SPは、例えば弁開度80〜95%の範囲での一定値を設定する。
【0044】
第1の昇圧経路41aは、一端に第1の開閉弁61aを、他端に第4の開閉弁62aを有する。第1の昇圧経路41aには、取出手段で取り出した加圧空気をさらに昇圧する第1の昇圧手段30aを備えている。第1の昇圧経路41aは、第1の昇圧手段30aで昇圧された昇圧空気を供給する。
第2の昇圧経路41bは、一端に第2の開閉弁61bを、他端に第5の開閉弁62bを有する。第2の昇圧経路41bには、取出手段で取り出した加圧空気をさらに昇圧する第2の昇圧手段30bを備えている。第2の昇圧経路41bは、第2の昇圧手段30bで昇圧された昇圧空気を供給する。
【0045】
第3の開閉弁63には、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bをバイパスするバイパス経路51が接続されている。
第1の昇圧経路41aとバイパス経路51を選択する経路選択手段は、第1の開閉弁61a、第3の開閉弁63、及び第4の開閉弁62aで構成される。
第2の昇圧経路41bとバイパス経路51を選択する経路選択手段は、第2の開閉弁61b、第3の開閉弁63、及び第5の開閉弁62bで構成される。
経路選択手段は、経路選択の設定を行う設定手段、経路選択制御を行う制御手段を含むこともできる。
【0046】
第1の開閉弁61aと第1の昇圧手段30aとの間の第1の昇圧経路41aには、第1の大気吸込経路71aが接続されている。第1の大気吸込経路71aは、一端を大気に開放し、他端を第1の昇圧経路41aに接続している。第1の大気吸込経路71aには、第6の開閉弁72aを備えている。
第1の昇圧手段30aと第4の開閉弁62aとの間の第1の昇圧経路41aには、第1の大気経路73aが接続されている。第1の大気経路73aは、一端を第1の昇圧経路41aに、他端を第7の開閉弁74aに接続している。
第1の昇圧手段30aに大気から空気を吸い込む大気吸込手段は、第1の大気吸込経路71aと第6の開閉弁72aで構成される。
【0047】
第2の開閉弁61bと第2の昇圧手段30bとの間の第2の昇圧経路41bには、第2の大気吸込経路71bが接続されている。第2の大気吸込経路71bは、一端を大気に開放し、他端を第2の昇圧経路41bに接続している。第2の大気吸込経路71bには、第8の開閉弁72bを備えている。
第2の昇圧手段30bと第5の開閉弁62bとの間の第2の昇圧経路41bには、第2の大気経路73bが接続されている。第2の大気経路73bは、一端を第2の昇圧経路41bに、他端を第9の開閉弁74bに接続している。
第2の昇圧手段30bに大気から空気を吸い込む大気吸込手段は、第2の大気吸込経路71bと第8の開閉弁72bで構成される。
【0048】
図1に示した空気供給口80は、S1右舷側供給口81、S2右舷側供給口82、S3右舷側供給口83、P1左舷側供給口84、P2左舷側供給口85、及びP3左舷側供給口86から構成される。
S1右舷側供給口81にはS1供給経路91が、S2右舷側供給口82にはS2供給経路92が、S3右舷側供給口83にはS3供給経路93が、P1左舷側供給口84にはP1供給経路94が、P2左舷側供給口85にはP2供給経路95が、P3左舷側供給口86にはP3供給経路96が接続されている。
S1供給経路91にはS1開閉弁101が、S2供給経路92にはS2開閉弁102が、S3供給経路93にはS3開閉弁103が、P1供給経路94にはP1開閉弁104が、P2供給経路95にはP2開閉弁105が、P3供給経路96にはP3開閉弁106が設けられている。
【0049】
第4の開閉弁62aの流出側経路は複数に分岐して、S1供給経路91、S2供給経路92、S3供給経路93、P1供給経路94、P2供給経路95、及びP3供給経路96に接続されている。
第5の開閉弁62bの流出側経路は複数に分岐して、S1供給経路91、S2供給経路92、S3供給経路93、P1供給経路94、P2供給経路95、及びP3供給経路96に接続されている。
バイパス経路51の流出側経路は複数に分岐して、S1供給経路91、S2供給経路92、S3供給経路93、P1供給経路94、P2供給経路95、及びP3供給経路96に接続されている。
第7の開閉弁74aの流出側経路75aは、S1右舷側供給口81に接続されている。
第9の開閉弁74bの流出側経路75bは、P1左舷側供給口84に接続されている。
【0050】
空気供給装置7は、取出手段、経路選択手段、第1の昇圧手段30a、及び大気吸込手段を制御する制御手段110と、船体1の喫水を検出する喫水検出手段111と、主機6の負荷を検出する負荷検出手段112と、船体1の運動を検出する船体運動検出手段113とをさらに備えている。
負荷検出手段112は、例えば、過給機10の掃気ガス圧によって負荷を検出するものである。
制御手段110は、喫水検出手段111、負荷検出手段112、及び船体運動検出手段113の少なくても一つの検出結果に基づいて制御を行う。
船体運動検出手段113の船体運動検出値は、フィードフォワードして流量調節弁22及び/又は第1の昇圧手段30aを制御することができる。この場合、応答が比較的緩慢な空気供給系の制御を、フィードフォワード制御により船体運動検出値から喫水等の変動を予測して加圧空気や昇圧空気の組み合わせや流量制御を行い、応答遅れなく的確に制御を行うことができる。概念的には、フィードフォワード制御でラフに速く制御を行い、フィードバック制御で更に微調整していくことになる。
【0051】
なお、図2では、第1の昇圧手段30aに関する制御だけを示しているが、第2の昇圧手段30bについても同様の構成で制御することができる。この場合、ブロワ制御部33は、制御機能を兼ねることができる。第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bには、回転数制御が可能なブロワを用いることが好ましい。
【0052】
次に、図2から図4を用いて空気供給経路について説明する。
図2は掃気バイパスガスを昇圧して空気供給口から噴出させる経路を示している。
取出経路21からの加圧空気は、経路選択手段によって第1の昇圧経路41aに導かれ、第1の昇圧手段30aで昇圧された後、S1供給経路91、S2供給経路92、P1供給経路94、及びP2供給経路95に導かれ、S1右舷側供給口81、S2右舷側供給口82、P1左舷側供給口84、及びP2左舷側供給口85から噴出する。
【0053】
経路選択手段では、第1の開閉弁61aと第4の開閉弁62aを開、第2の開閉弁61bと第3の開閉弁63と第5の開閉弁62bを閉とすることで、第1の昇圧経路41aに取出経路21からの加圧空気を導いている。
なお、掃気バイパスガスを昇圧して噴出する場合には、大気からの空気は吸い込まない。従って、第6の開閉弁72a、第7の開閉弁74a、第8の開閉弁72b、及び第9の開閉弁74bは閉としている。
また、昇圧空気は、S1右舷側供給口81、S2右舷側供給口82、P1左舷側供給口84、及びP2左舷側供給口85から噴出させるため、S1開閉弁101、S2開閉弁102、P1開閉弁104、及びP2開閉弁105は開、S3開閉弁103及びP3開閉弁106は閉としている。
【0054】
図2に示す経路は、満載時で主機6の出力が低い場合に有効な経路である。すなわち、満載時には喫水圧が高くなり、主機6に供給される加圧空気圧が低下している場合には、第1の昇圧手段30aでアシストした昇圧空気を噴出させることで、摩擦抵抗を低減させる空気を噴出することができる。
【0055】
ここで、喫水圧の上昇は喫水検出手段111で検出され、主機6に供給される加圧空気圧の低下は負荷検出手段112で検出される。
従って、喫水検出手段111で喫水圧の上昇を検出し、負荷検出手段112で加圧空気圧の低下を検出した場合には、制御手段110によって、経路選択手段とその他の開閉弁、第1の昇圧手段30a、及び第2の昇圧手段30bが制御され、第1の昇圧手段30aでのアシストが行われる。
【0056】
図3は掃気バイパスガスを昇圧することなく空気供給口から噴出させる経路を示している。
取出経路21からの加圧空気は、経路選択手段によってバイパス経路51に導かれた後、S1供給経路91、S2供給経路92、P1供給経路94、及びP2供給経路95に導かれ、S1右舷側供給口81、S2右舷側供給口82、P1左舷側供給口84、及びP2左舷側供給口85から噴出する。
【0057】
経路選択手段では、第1の開閉弁61aと第4の開閉弁62aと第2の開閉弁61bと第5の開閉弁62bを閉、第3の開閉弁63を開とすることで、バイパス経路51に取出経路21からの加圧空気を導いている。
なお、掃気バイパスガスを昇圧することなく噴出する場合には、大気からの空気は吸い込まない。従って、第6の開閉弁72a、第7の開閉弁74a、第8の開閉弁72b、及び第9の開閉弁74bは閉としている。
また、加圧空気は、S1右舷側供給口81、S2右舷側供給口82、P1左舷側供給口84、及びP2左舷側供給口85から噴出させるため、S1開閉弁101、S2開閉弁102、P1開閉弁104、及びP2開閉弁105は開、S3開閉弁103及びP3開閉弁106は閉としている。
【0058】
図3に示す経路は、満載時で主機6の出力が高い場合に有効な経路である。すなわち、満載時には喫水圧が高くなるが、主機6に供給される加圧空気圧が高い場合には、第1の昇圧手段30aでアシストすることなく加圧空気を噴出させることができ、摩擦抵抗を低減させる空気を噴出することができる。
【0059】
ここで、喫水圧の上昇は喫水検出手段111で検出され、主機6に供給される加圧空気圧は負荷検出手段112で検出される。
従って、喫水検出手段111で喫水圧の上昇を検出しても、負荷検出手段112で十分な加圧空気圧を検出した場合には、制御手段110によって、経路選択手段とその他の開閉弁、第1の昇圧手段30a、及び第2の昇圧手段30bが制御され、第1の昇圧手段30aでのアシストを行わない。
【0060】
図4は掃気バイパスガスと大気導入空気とをそれぞれ別に空気供給口から噴出させる経路を示している。
取出経路21からの加圧空気は、経路選択手段によってバイパス経路51に導かれた後、S2供給経路92、S3供給経路93、P2供給経路95、及びP3供給経路96に導かれ、S2右舷側供給口82、S3右舷側供給口83、P2左舷側供給口85、及びP3左舷側供給口86から噴出する。
【0061】
第1の大気吸込経路71aの一端から導入される空気は、第1の昇圧経路41aに導かれ、第1の昇圧手段30aで昇圧された後、第1の大気経路73a及び流出側経路75aに導かれ、S1右舷側供給口81から噴出する。
第2の大気吸込経路71bの一端から導入される空気は、第2の昇圧経路41bに導かれ、第2の昇圧手段30bで昇圧された後、第2の大気経路73b及び流出側経路75bに導かれ、P1左舷側供給口84から噴出する。
【0062】
経路選択手段では、第1の開閉弁61aと第4の開閉弁62aと第2の開閉弁61bと第5の開閉弁62bを閉、第3の開閉弁63を開とすることで、バイパス経路51に取出経路21からの加圧空気を導いている。
大気からの空気を吸い込むため、第6の開閉弁72a、第7の開閉弁74a、第8の開閉弁72b、及び第9の開閉弁74bは開としている。
また、加圧空気は、S2右舷側供給口82、S3右舷側供給口83、P2左舷側供給口85、及びP3左舷側供給口86から噴出させるため、S2開閉弁102、S3開閉弁103、P2開閉弁105、及びP3開閉弁106は開、S1開閉弁101及びP1開閉弁104は閉としている。
【0063】
図4に示す経路は、バラスト時に有効な経路である。すなわち、バラスト時には喫水圧が低くなるため、主機6に供給される加圧空気は、第1の昇圧手段30aでアシストすることなく噴出させることができ、摩擦抵抗を低減させる空気を噴出することができる。また、バラスト時には喫水圧が低いため、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bの動作に大きなエネルギーを要さない。従って、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bを動作させて大気導入空気を用いることで、摩擦抵抗を低減させる効果が第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bを動作させることによるエネルギー損出を上回ることができる。
【0064】
ここで、バラスト時の喫水圧の低下は喫水検出手段111で検出される。
従って、喫水検出手段111で喫水圧の低下を検出した場合には、制御手段110によって、経路選択手段とその他の開閉弁、第1の昇圧手段30a、及び第2の昇圧手段30bが制御され、掃気バイパスガスを導出させるとともに大気導入空気も噴出させる。
【0065】
次に、経路切り換え方法について説明する。
図5は、横軸を掃気圧(Ps)、縦軸を喫水圧(Pd)とし、それぞれの条件による切り換え方法を示している。
掃気圧(Ps)が所定値以下の場合には、掃気バイパスを行わず(掃気バイパス停止領域)、掃気圧(Ps)が所定値を越える場合に、掃気バイパスを行う(掃気バイパス実施領域)。
【0066】
領域Aは、掃気バイパス停止領域、喫水圧が所定値(DPb)以下、かつPd>Psの条件を満たす領域である。領域Aでは、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bを動作させて大気導入空気を用いる。ここで、所定値(DPb)は、空気の噴出による摩擦抵抗の低減効果が、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bに要するエネルギー損出を上回る圧力である。
領域Bは、掃気バイパス停止領域で、喫水圧が所定値(DPb)より高い条件を満たす領域である。領域Bでは、空気の噴出による摩擦抵抗の低減効果よりも、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bに要するエネルギー損出が大きいため、船体1の周囲への空気の噴出を行わない。
【0067】
領域Cは、掃気バイパス実施領域で、DPb+Pd>Ps−P1の条件を満たす領域である。領域Cでは、空気の噴出による摩擦抵抗の低減効果よりも、エネルギー損出が大きいため、船体1の周囲への空気の噴出を行わない。ここで、P1は経路中の損出圧力である。
領域Dは、掃気バイパス実施領域で、喫水圧が所定値(DPb)より高く、Pd>Ps−P1、及びDPb+Pd<Ps−P1の条件を満たす領域である。領域Dでは、掃気バイパスガスを昇圧して噴出させる(図2)。
領域Eは、掃気バイパス実施領域、喫水圧が所定値(DPb)より高く、更にPd<Ps−P1の条件を満たす領域である。領域Eでは、掃気バイパスガスを昇圧することなく噴出させる(図3)。
領域Fは、掃気バイパス実施領域、喫水圧が所定値(DPb)以下、更にPd<Ps−P1の条件を満たす領域である。領域Fでは、掃気バイパスガスと大気導入空気とをそれぞれ別に噴出させる(図4)。
領域Gは、掃気バイパス実施領域で、喫水圧が所定値(DPb)以下で、Pd>Ps−P1、及びDPb+Pd<Ps−P1の条件を満たす領域である。領域Gでは、掃気バイパスガスを昇圧して噴出させる(図2)。領域Gでは、ブロワのみでの運転が可能なところ、敢えてアシストブロワを行って、余剰の掃気を利用しブロワ駆動に必要なエネルギーを低減してエネルギー効率を考慮した対応をしている。
【0068】
以上のように本実施形態によれば、空気潤滑式船舶の主機6に加圧空気を供給する過給機10と、加圧空気の一部を取り出す取出手段と、取出手段で取り出した加圧空気をさらに昇圧する第1の昇圧手段30aと、第1の昇圧手段30aで昇圧された昇圧空気を供給する第1の昇圧経路41aと、第1の昇圧手段30aをバイパスするバイパス経路51と、第1の昇圧経路41aとバイパス経路51を選択する経路選択手段とを備え、経路選択手段で第1の昇圧経路41a及び/又はバイパス経路51を選択して昇圧空気及び/又は加圧空気を供給して船体の周囲に噴出させたことにより、バイパス経路51が選択された場合には、主機6に供給する加圧空気を用いて船体1の周囲に空気を噴出し、第1の昇圧経路41aが選択された場合には、加圧空気を第1の昇圧手段30aによって更に昇圧した昇圧空気を用いて船体1の周囲に空気を噴出することができ、加圧空気だけで噴出させる場合と第1の昇圧手段30aでアシストした昇圧空気で噴出させる場合とを選択することができる。従って、主機6に供給される加圧空気圧が主機6の出力によって変動し、更に積載状態によって喫水圧が変動しても、これらの変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができるため、エネルギー効率が高く省エネ効果の向上が可能な空気潤滑式船舶を実現することができる。
【0069】
また本実施形態によれば、第1の昇圧手段30aとともに第2の昇圧手段30bを、第1の昇圧経路41aとともに第2の昇圧経路41bを、経路選択手段として第1の開閉弁61a及び第4の開閉弁62aとともに第2の開閉弁61b及び第5の開閉弁62bを備え、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bを、いずれか又は双方の運転による昇圧空気の供給を可能にしたことで、加圧空気圧の変動や喫水圧の変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができるため、エネルギー効率や省エネ効果を更に高めることができる。
【0070】
また本実施形態によれば、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bに大気から空気を吸い込む大気吸込手段をさらに備え、大気からの空気を昇圧して供給することを可能にしたことで、加圧空気とは別に、大気からの空気を用いて船体1の周囲に空気を噴出することができ、例えば喫水圧が低い場合には、大気からの空気を船体1の周囲に供給することができるため、エネルギー効率や省エネ効果を更に高めることができる。
【0071】
また本実施形態によれば、経路選択手段でバイパス経路51を選択し、第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bをバイパスして加圧空気をバイパス経路51から供給し、また大気吸込手段を制御して大気からの空気を昇圧して第1の昇圧経路41a及び第2の昇圧経路41bから供給したことで、バイパス経路51では加圧空気を供給するとともに、第1の昇圧経路41a及び第2の昇圧経路41bでは大気からの空気を供給することで、船体1の周囲への空気の噴出量を多くして摩擦低減効果を高め、省エネ効果を更に高めることができる。
【0072】
また本実施形態によれば、取出手段で取り出す加圧空気が、過給機10を構成するコンプレッサー12から主機6に送られる加圧空気の一部としての掃気ガスを利用することで、第1の昇圧手段30aに要するエネルギーを低減することができる。
【0073】
また本実施形態によれば、船体1の喫水を検出する喫水検出手段111と、経路選択手段と第1の昇圧手段30aとを制御する制御手段110とをさらに備え、喫水検出手段111の検出結果に基づいて制御手段110で制御を行うことで、積載状態による喫水圧の変動を、喫水検出手段111で検出することができ、制御手段110では喫水圧に応じた制御を行うことで、加圧空気と昇圧空気を適宜組み合わせて供給することが可能となり、空気潤滑の適用できる条件を的確に設定でき、エネルギー効率が高い空気の供給方法を選択することができる。
【0074】
また本実施形態によれば、主機6の負荷を検出する負荷検出手段112をさらに備え、負荷検出手段112の検出結果に基づいて制御手段110で制御を行うことで、主機6の出力による加圧空気圧の変動を、負荷検出手段112で検出することができ、制御手段110では加圧空気圧に応じた制御を行うことで、エネルギー効率が高い空気の供給方法を選択することができる。
【0075】
また本実施形態によれば、負荷検出手段112を、過給機10の掃気ガス圧の検出としたことで、加圧空気圧の変動検出をタイムラグ無く検出することができるため、負荷の変動に追随した制御を行うことができ、エネルギー効率を高めることができる。
【0076】
また本実施形態によれば、過給機10から第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bまでの間に、加圧空気の流量を調節する流量調節弁22を備えることで、第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bの運転状態の影響による流量変動を緩和し、過給機10から主機6への加圧空気の供給流量を安定させることができ、主機6のエネルギー効率の低下を防止することができる。
【0077】
また本実施形態によれば、過給機10から第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bに至る加圧空気の流量を検出する流量検出手段31を備えることで、加圧空気の流量制御を安定して行うことができる。
【0078】
また本実施形態によれば、流量検出手段31で検出される流量検出値をフィードバックして流量調節弁22を制御することで、加圧空気量を設定した流量に従って取り出す制御ができ、主機への加圧空気量を適正に維持し、第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bでの昇圧を効果的に高めることができる。更に、例えば第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bにトラブルが発生した場合では流量調整弁22によって掃気圧を調整できるために主機6にトラブルの影響を与えることがなく安全性が高い。
【0079】
また本実施形態によれば、流量調節弁22の開度で検出される流量検出値をフィードバックして第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bを制御することで、設定した開度又は流量に従って第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bを制御し、所定の流量を得ることができる。
【0080】
また本実施形態によれば、第1の昇圧手段30a又は第2の昇圧手段30bとして、回転数制御が可能なブロワを用いたことで、加圧空気圧の変動や喫水圧の変動に応じてブロワによる昇圧調整を行うことができる。
【0081】
また本実施形態によれば、船体1の運動を検出する船体運動検出手段113をさらに備え、船体運動検出手段113の船体運動検出値をフィードフォワードして流量調節弁22及び/又は第1の昇圧手段30a(又は第2の昇圧手段30b)を制御したことで、船体運動検出値から喫水等の変動を予測し加圧空気や昇圧空気の組み合わせや流量制御を行うことができる。
【0082】
図6を用いて他の実施形態による空気供給装置の構成について説明する。
図6は空気潤滑式船舶の他の実施形態による空気供給装置の概略構成図である。なお、既に説明した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態におけるブロワ制御部33は、流量検出手段31で検出される流量検出値をフィードバックして第1の昇圧手段30aを制御する。流量調節弁22は、全開にしておき、異常発生時に閉動作させるように制御する。
【0083】
本実施形態によれば、第1の昇圧手段30aを高い応答性で制御することができる。
なお、図6では、第1の昇圧手段30aに関する制御だけを示しているが、第2の昇圧手段30bについても同様の構成で制御することができる。
第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bには、回転数制御が可能なブロワを用いることが好ましい。
【0084】
図7を用いて更に他の実施形態による空気供給装置の構成について説明する。
図7は空気潤滑式船舶の更に他の実施形態による空気供給装置の概略構成図である。なお、既に説明した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
本実施形態におけるブロワ制御部33は、第1の昇圧手段30aの回転数を検出し、検出される回転数検出値をフィードバックして第1の昇圧手段30aを制御する。流量調節弁22は、全開にしておき、異常発生時に閉動作させるように制御する。なお、流量調節弁22は、流量検出手段31で検出される流量検出値をフィードバックして制御してもよい。
【0085】
本実施形態によれば、第1の昇圧手段30aの回転数によって制御ができるため、流量検出手段31などの検出を行うことなく制御できる。
なお、図7では、第1の昇圧手段30aに関する制御だけを示しているが、第2の昇圧手段30bについても同様の構成で制御することができる。
第1の昇圧手段30a及び第2の昇圧手段30bには、回転数制御が可能なブロワを用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、主機出力によって変動する供給ガス圧や積載状態によって変動する喫水圧に対して、これらの変動に応じて加圧空気を昇圧して噴出することができ、エネルギー効率の高い空気潤滑式船舶の空気供給装置として利用することができる。
また、船舶のみならず一時的な航行をする浮体や水中航行体にも本発明の思想は適用できる。
【符号の説明】
【0087】
1 船体
4 船底
6 主機
7 空気供給装置
10 過給機
21 取出経路
22 流量調節弁
30a 第1の昇圧手段
30b 第2の昇圧手段
31 流量検出手段
32 弁制御部
33 ブロワ制御部
41a 第1の昇圧経路
41b 第2の昇圧経路
51 バイパス経路
61a 第1の開閉弁
61b 第2の開閉弁
62a 第4の開閉弁
62b 第5の開閉弁
63 第3の開閉弁
70 大気吸込経路
71a 第1の大気吸込経路
71b 第2の大気吸込経路
72a 第6の開閉弁
72b 第8の開閉弁
73a 第1の大気経路
73b 第2の大気経路
74a 第7の開閉弁
74b 第9の開閉弁
80 空気供給口
90 空気経路
110 制御手段
111 喫水検出手段
112 負荷検出手段
113 船体運動検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の周囲に空気を噴出して摩擦抵抗を低減する空気潤滑式船舶の空気供給装置において、前記空気潤滑式船舶の主機に加圧空気を供給する過給機と、前記加圧空気の一部を取り出す取出手段と、前記取出手段で取り出した前記加圧空気をさらに昇圧する昇圧手段と、前記昇圧手段で昇圧された昇圧空気を供給する昇圧経路と、前記昇圧手段をバイパスするバイパス経路と、前記昇圧経路と前記バイパス経路を選択する経路選択手段とを備え、前記経路選択手段で前記昇圧経路及び/又は前記バイパス経路を選択して前記昇圧空気及び/又は前記加圧空気を供給して前記船体の周囲に噴出させたことを特徴とする空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項2】
前記昇圧手段と前記昇圧経路と前記経路選択手段とを複数備え、前記昇圧手段の任意数の運転による前記昇圧空気の供給を可能にしたことを特徴とする請求項1に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項3】
前記昇圧手段に大気から空気を吸い込む大気吸込手段をさらに備え、大気からの空気を昇圧して供給することを可能にしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項4】
前記経路選択手段で前記バイパス経路を選択し、前記昇圧手段をバイパスして前記加圧空気を前記バイパス経路から供給し、また前記大気吸込手段を制御して大気からの空気を昇圧して前記昇圧経路から供給したことを特徴とする請求項3に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項5】
前記取出手段で取り出す前記加圧空気が、前記過給機を構成するコンプレッサーから前記主機に送られる前記加圧空気の一部としての掃気ガスであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項6】
前記船体の喫水を検出する喫水検出手段と、前記経路選択手段と前記昇圧手段とを制御する制御手段とをさらに備え、前記喫水検出手段の検出結果に基づいて前記制御手段で制御を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項7】
前記主機の負荷を検出する負荷検出手段をさらに備え、前記負荷検出手段の検出結果に基づいて前記制御手段で制御を行うことを特徴とする請求項6に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項8】
前記負荷検出手段が、前記過給機の掃気ガス圧の検出であることを特徴とする請求項7に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項9】
前記過給機から前記昇圧手段までの間に、前記加圧空気の流量を調節する流量調節弁をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給置。
【請求項10】
前記過給機から前記昇圧手段に至る前記加圧空気の流量を検出する流量検出手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項11】
前記流量検出手段で検出される流量検出値をフィードバックして前記流量調節弁を制御することを特徴とする請求項10に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項12】
前記流量調節弁の開度又は前記流量検出手段で検出される流量検出値をフィードバックして前記昇圧手段を制御することを特徴とする請求項9から請求項11のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項13】
前記昇圧手段として、回転数制御が可能なブロワを用いたことを特徴とする請求項1から請求項12のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項14】
前記ブロワの回転数を検出し、検出される回転数検出値をフィードバックして前記ブロワを制御したことを特徴とする請求項13に記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。
【請求項15】
前記船体の運動を検出する船体運動検出手段をさらに備え、前記船体運動検出手段の船体運動検出値をフィードフォワードして前記流量調節弁及び/又は前記昇圧手段を制御したことを特徴とする請求項9から請求項14のいずれかに記載の空気潤滑式船舶の空気供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−91376(P2013−91376A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233695(P2011−233695)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(502422351)株式会社アイ・エイチ・アイ マリンユナイテッド (159)
【出願人】(593172223)今治造船株式会社 (15)
【出願人】(592250540)株式会社大島造船所 (32)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(503218067)住友重機械マリンエンジニアリング株式会社 (55)
【出願人】(511161362)常石造船株式会社 (3)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(502116922)ジャパンマリンユナイテッド株式会社 (172)
【出願人】(000232818)日本郵船株式会社 (61)
【Fターム(参考)】