空気膜構造物
【課題】構成部材の小型軽量化を図ることができるとともに、内部空間の高さを適宜調整することが可能になり、よって内部空間に対する排気等の制御も容易となる空気膜構造物を提供する。
【解決手段】平面視多角形状をなし、かつ上方に向けて凸曲面状をなす複数のユニット膜2の外周縁同士を接続することにより、複数の凸曲面によって内部空間Sを覆う屋根1を形成し、複数本のケーブル17、23を、複数のユニット膜2の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と内部空間の下方に設けられてケーブル17、23に生じる引張力を支持するアンカー材22との間に、鉛直方向の長さ寸法を調節可能に設け、かつ内部空間Sに加圧空気を供給することにより屋根1の凸曲面形状を保持した。
【解決手段】平面視多角形状をなし、かつ上方に向けて凸曲面状をなす複数のユニット膜2の外周縁同士を接続することにより、複数の凸曲面によって内部空間Sを覆う屋根1を形成し、複数本のケーブル17、23を、複数のユニット膜2の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と内部空間の下方に設けられてケーブル17、23に生じる引張力を支持するアンカー材22との間に、鉛直方向の長さ寸法を調節可能に設け、かつ内部空間Sに加圧空気を供給することにより屋根1の凸曲面形状を保持した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜材によって形成されて廃棄物処理場等の屋根を構成するとともに、内部に空気が充填されることにより上記屋根形状が保持される空気膜構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理場や大規模な物品の集配場においては、降雨や降雪による悪影響を防止したり、あるいは廃棄物等の飛散を防止したりするために、簡易的な構造物によって内部を覆うことが要請されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、廃棄物処分領域の周囲に複数の支柱を立設するとともに、これら支柱から対向位置の支柱まで、廃棄物処分領域の上方を引っ張り力のみを支持する横方向及び縦方向の主ケーブルを張設し、当該横方向及び縦方向の主ケーブルをその交差位置で相互に連結するとともに膜体からなる屋根材を支持し、当該屋根材を主ケーブルによる支持部以外の部位が重力方向に凸となる様に張設下した廃棄物処分場の異形平面対応屋根架設構造が提案されている。
【特許文献1】特開2004−162429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記廃棄物処理場は、一般に人里離れた山間部に立地されることが多く、したがって谷間の傾斜面等を利用した平坦ではない場所に設けられている。
このため、上記従来の屋根架設構造にあっては、廃棄物処理領域の周囲に支柱を立設するために、多大の手間を要するという問題点がある。
【0005】
また、廃棄物処理場等は、広大な面積を必要とするために、上記支柱や主ケーフルに作用する応力が大きなものになり、この結果上記支柱、主ケーブル、屋根材といった各構成部材が大型化して、その製作、搬送および施工が難しいという問題点もある。
【0006】
さらに、上記廃棄物処理場は、廃棄物の処理によって経時的に敷地の高さが増すのに対して、上記従来の屋根架設構造においては、上記支柱として、廃棄物処理場における最終的なレベルよりも高いものを立設しておく必要がある。このため、特に上記屋根材下方の内部空間を負圧あるいは正圧に保持する場合には、廃棄物処理の初期段階において上記内部空間の容積が極めて大きなものとなるために、排気または給気に大容量の設備を要するとともに、当該排気または給気の制御が難しいいう問題点がある。
【0007】
しかも、一旦上記屋根架設構造を構築した後においては、その形状が決まってしまうために、廃棄物処理場の領域を変更することが困難になるとともに、この種の廃棄物処理場においては、処理期間が十年以上となることが多いために、当該期間中に膜体からなる屋根材が部分的に損傷した場合においても、その補修が難しいという問題点もある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、構成部材の小型軽量化を図ることができるとともに、内部空間の高さを適宜調整することが可能になり、よって内部空間に対する排気等の制御も容易となる空気膜構造物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、平面視多角形状をなし、かつ上方に向けて凸曲面状をなす複数のユニット膜の外周縁同士を接続することにより、上記複数の凸曲面によって内部空間を覆う屋根を形成し、複数本のケーブルを、各々上記複数の上記ユニット膜の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と上記内部空間の下方に設けられて当該ケーブルに生じる引張力を支持するアンカー材との間に、鉛直方向の長さ寸法を調節可能に設け、かつ上記内部空間に加圧空気を供給することにより上記屋根の凸曲面形状を保持したことを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記アンカー材が、上記内部空間の敷地上に載置されていることを特徴とするものである。
ここで、敷地上に載置するとは、例えば大規模な物品の集配場等の一般的な場所においては、当該集配場等の敷地上に直接載置することであり、廃棄物処理場のように敷地上に汚染された水等が当該敷地に滲入することを防止するための遮水シートが設けられ、その上に保護層土が盛られている場合には、当該保護層土上に載置することを意味する。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、隣接する上記ユニット膜材が、互いの上記外周縁同士が着脱可能に接続されるとともに、この接続部に、当該接続部を気密的に封じる封止部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記谷部の底部には、当該谷部に溜まった水を抜き出し可能な排水管が接続されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、屋根を複数の凸曲面状をなすユニット膜の外周縁同士を接続することにより構成した屋根に作用する引張力を、上記ユニット膜の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と内部空間の下方のアンカー材との間に長さ寸法を調整可能に設けた複数本の上記ケーブルに分散して、各々のアンカー材で支持することができる。
【0014】
このため、構造が簡易であるとともに、ユニット膜、ケーブル、アンカー材等の各構成部材を小型化することにより軽量化も図ることができ、よって製作、組立、施工あるいは撤去等が極めて容易になる。
【0015】
しかも、上記ケーブルの長さ寸法が調整可能であるために、例えば廃棄物処理場に適用した場合には、廃棄物処理の進行による敷地高さの増加に併せて、屋根の高さを適宜増して行くことができる。このため、常に屋根下方の内部空間の容積を最小限に保つことができ、よって給排気設備等の小型化を図ることもできるうえに、当該内部空間の排気等の制御も容易になる。また、ランニングコストの低減化も実現することができる。
【0016】
さらに、請求項2に記載の発明のように、上記アンカー材を内部空間の敷地上に載置すれば、特に廃棄物処理場に適用した場合において、ケーブルの支持に、当該アンカー材の上部に埋め戻された土等の廃棄物の設置圧を利用することができるとともに、上記アンカー材により敷地上に張られた遮水シートに破損を生じることもないという利点がある。
【0017】
加えて、請求項3に記載の発明によれば、隣接する上記ユニット膜材の外周縁同士を、着脱可能に接続して、この接続部に気密的に封じる封止部材を設けているために、上記屋根を現場において容易に組み立てることが可能になる。しかも、平常時においては、上記封止部材によって屋根としての気密性を確保することができるとともに、長期間の使用によって屋根が局部的に損傷や摩耗を受けた場合においても、当該箇所のユニット膜材のみを交換することにより、容易に補修することが可能になる。
【0018】
また、本発明においては、複数の凸曲面状に形成されたユニット膜によって屋根を形成し、内部空間に加圧空気を供給することにより上記屋根の凸曲面形状を保持した構造であるために、隣接する上記ユニット膜の角隅部が集合する箇所に、谷部が形成されている。
この結果、当該谷部に雨水や融雪が溜まることになるが、請求項4に記載の発明によれば、上記谷部の底部に、当該谷部に溜まった水を抜き出し可能な排水管を接続しているために、この排水管を介して上記内部空間内の適所、あるいは外部へと排水することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1〜図12は、本発明に係る空気膜構造を、廃棄物処理場の屋根構造に適用した一実施形態を示すものである。
これらの図において、図中符号1は、上記廃棄物処理場Aを気密的に覆う屋根であり、この屋根1は、複数枚のユニット膜2から構成されている。ここで、各ユニット膜2は、塩化ビニルをコーティングしたポリエステル布等の素材からなる平面視正方形状の膜材であり、上方に向けて凸曲面状に形成されたものである。
【0020】
また、ユニット膜2は、図2〜図4に示すように、互いの外周縁を近接させて配置されるとともに、4枚のユニット膜2の外周縁の角隅部が集合する部分が切り欠かれて、正方形状の開口部が形成されている。そして、この開口部に隅部フレーム3が配置されている。
【0021】
この隅部フレーム3は、各々のユニット膜2の切り欠かれた外周縁に沿う方形状の枠部3aと、この枠部3aの角部下面から四角錐の辺部に沿って垂下して先端部が円板状の支持板4に一体的に接合された脚部3bとから構成されたもので、枠部3aの外周に沿って、後述するレーシングロープ5の受けバー3cが設けられている。また、枠部3aの角部外面には、隣接するユニット膜2の外周縁の間に沿って、隅部フレーム3間に張設されたバレーケーブル6の端部が連結されている。
【0022】
他方、各ユニット膜2の外周縁には、縫い込みロープ7が縫い込まれて一体化されているとともに、この縫い込みロープ7の内側に、所定間隔をおいてレーシングロープ5の挿通孔8aが穿設された膜端補強プレート8が接合されている。
そして、隣接するユニット膜2および隅部フレーム3は、レーシングロープ5によって互いに着脱自在に接続されている。
【0023】
すなわち、レーシングロープ5が、各ユニット膜2の膜端補強プレート8に穿設された挿通孔8aに挿通されるとともにバレーケーブル6の外周に巻回されることにより、隣接するユニット膜2同士がバレーケーブル6を間に介して連結されている。また、上記レーシングロープ5が、各ユニット膜2の挿通孔8aに挿通されるとともに隅部フレーム3の枠部3aに突設された受けバー3cに巻回されることにより、各ユニット膜2と隅部フレーム3とが連結されている。
【0024】
そして、これら隣接するユニット膜2間の隙間およびユニット膜2と隅部フレーム3の枠部3aとの間の隙間は、シールキャンバス(封止部材)9および当該シールキャンバス9を両面テープ折り畳みジョイント10を介して覆うカバーキャンバス11によって気密的に塞がれている。なお、図中符号12は、一辺側が各ユニット膜2に接合されたカバーキャンバス11の他辺側同士を連結するレーシングロープである。
【0025】
また、隅部フレーム3の枠部3a内には、袋状のドレイン収納部材13が設けられており、このドレイン収納部材13の下部外周には、当該ドレイン収納部材13内に流入した水を排水するための縦樋管(排水管)14の上端部が接続されている。そして、この縦樋管14の下端部は、バレーケーブル6から垂下されたワイヤ15によって、屋根1の下方に幾分の傾斜をもって支持されている集水管(排水管)16に接続されている。これにより、複数のユニット膜2からなる屋根1が構成されている。
【0026】
他方、隅部フレーム3の下端部に接合された円板状の支持板4の下面には、屋根1を支持するための引き込みケーブル(ケーブル)17の上端部が連結されている。
そして、図5および図6に示すように、この引き込みケーブル17の下部は、上下方向に間隔をおいて順次上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19の中央部に形成された貫通孔内に挿通されている。また、この引き込みケーブル17は、下部ケーブル定着器19から下方部分が所定の長さ寸法に形成されるとともに、その端部が自由端になっている。
【0027】
ここで、引き込みケーブル17の外周と、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19の貫通孔との間には、それぞれくさび20、21が着脱自在に介装されており、これにより、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19は、各々引き込みケーブル17の外周に固定および離脱自在に設けられている。
【0028】
また、引き込みケーブル17の下方であって、廃棄物処理場の敷地上には、コンクリートブロックからなるアンカーウエイト(アンカー材)22が載置されている。すなわち、図5に示すように、廃棄物処理場の敷地上には、廃棄物によって汚染された水が敷地内へと滲入することを防止するための浸水シート30が張設されるとともに、この浸水シート30上に保護層土31が盛られており、この保護層土31上に、アンカーウエイト22が載置されている。
【0029】
そして、このアンカーウエイト22の上面に固定されたリング22aに、アンカーケーブル(ケーブル)23が挿通されるとともに、これにより2本となったアンカーケーブル23の上部が、それぞれ順次下部ケーブル定着器19および上部ケーブル定着器18に引き込みケーブル17を間に挟んで形成された貫通孔内に挿通されている。また、アンカーウエイト22は、上部ケーブル定着器18から上方部分が所定の長さ寸法に形成されるとともに、その端部が自由端になっている。
【0030】
ここで、アンカーケーブル23についても、それぞれの外周と上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19の貫通孔との間に、くさび24、25が着脱自在に介装されており、これにより、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19は、各々アンカーケーブル23の外周に固定および離脱自在に設けられている。
【0031】
さらに、引き込みケーブル17を間に挟むように、2本のリフティング補助ケーブル26が配置され、それぞれの上端部が円板状の支持板4に連結されている。そして、これらリフティング補助ケーブル26は、その下端部が下部ケーブル定着器19の上面に臨む位置まで垂下されるとともに、当該リフティング補助ケーブル26の下端部と下部ケーブル定着器19の上面との間には、必要に応じてレバーブロック27が取り付け可能になっている。
【0032】
次に、図5〜図12に基づいて、以上の構成からなり廃棄物処理場の屋根を形成する空気膜構造の作用について説明する。
先ず、図5および図12(a)に示すように、廃棄物処理場における廃棄物の埋め立て作業エリアを、上記屋根1によって気密的に覆うとともに、屋根1の形状安定性を確保するために、内部空間Sに屋根1の自重よりも幾分高い内圧を付与しておく。なお、この廃棄物による埋め立て初期においては、未だ埋め立てによる敷地のレベルが低いために、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の長さ寸法を短くした状態で、それぞれくさび20、21、24、25により上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19に固定しておく。
【0033】
そして、上記廃棄物処理場における廃棄物の埋め立てが進行して、図12(b)に示すように敷地のレベルが増した際に、屋根1の高さを増加させる。
この際には、先ず内部空間の圧力を、屋根1の自重とバランスする程度の圧力(リフティング内圧)まで下げた後に、図7に示すように、リフティング補助ケーブル26の下端部と下部ケーブル定着器19との間に、レバーブロック27を取り付ける。
【0034】
そして、このレバーブロック27によってリフティング補助ケーブル26を引き込むことにより、屋根1からの引張力を、リフティング補助ケーブル26→下部ケーブル定着器19→その下方のアンカーケーブル23→アンカーウエイト22によって支承する。これにより、引き込みケーブル17および下部ケーブル定着器19から上方のアンカーケーブル23に作用していた荷重が解除される。
【0035】
次に、上部ケーブル定着器18におけるアンカーケーブル23のくさび24と、下部ケーブル定着器19における引き込みケーブル17のくさび21を解除する。これにより、上部ケーブル定着器18は、引き込みケーブル17によって、単に吊り下げられた状態になる。そこで、図8に示すように、レバーブロック27を逆に操作して、リフティング補助ケーブル26を送り出すと、送り出された分だけ内圧によって屋根1が上昇する。
【0036】
そして、屋根1が所定の高さに到達した際に、レバーブロック27の操作を停止し、この状態で、図9に示すように、上部ケーブル定着器18におけるアンカーケーブル23のくさび24を効かせてアンカーケーブル23を上部ケーブル定着器18に固定した後に、レバーブロック27によるリフティング補助ケーブル26の荷重を解除する。これにより、屋根1からの引張力を、引き込みケーブル17→上部ケーブル定着器18→その下方のアンカーケーブル23→アンカーウエイト22によって支承する。
【0037】
次いで、下部ケーブル定着器19におけるアンカーケーブル23のくさび25を解除すると、下部ケーブル定着器19は、レバーブロック27を介してリフティング補助ケーブル26によって吊り下げられた状態になる。そこで、図10に示すように、レバーブロック27を操作して、下部ケーブル定着器19を所定の高さまで引き上げる。そして、下部ケーブル定着器19におけるくさび21を効かせて引き込みケーブル17を固定するとともに、くさび25を効かせてアンカーケーブル23を固定する。
【0038】
次いで、図11に示すように、レバーブロック27を取り外して、内圧を常時の圧力に上げることにより、屋根1のリフティング作業が終了する。
そして、埋め立てがさらに進行して、図12(c)に示すように、敷地のレベルがさらに高くなった場合には、上記工程と同様にして屋根1のリフティング作業を実施し、埋め立てが完了した際には、図12(d)に示すように、最終的に上記屋根1を撤去する。
【0039】
以上のように、上記構成からなる空気膜構造によれば、屋根1を複数の凸曲面状をなすユニット膜2の外周縁同士を接続することにより構成し、4枚のユニット膜2の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と内部空間の敷地上に載置さられたアンカーウエイト22の間に、各々全体の長さ寸法が調整可能な引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23を設けているために、屋根1に作用する引張力をこれら複数本の引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23に分散して各々のアンカーウエイト22で支持することができる。
【0040】
このため、構造が簡易であるとともに、ユニット膜2、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23、アンカーウエイト22等の各構成部材を小型化することにより軽量化も図ることができ、よって製作、組立、施工あるいは撤去等が極めて容易になる。
【0041】
しかも、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の全体の長さ寸法が調整可能であるために、図12(e)に示すように、廃棄物処理の進行による敷地高さの増加に併せて、初期状態Xから最終状態Zに至るまで、屋根1の高さを適宜増して行くことができる。このため、常に屋根1の下方の内部空間Sの容積を最小限に保つことができ、よって給排気設備等の小型化を図ることもできるうえに、内部空間Sの排気等の制御も容易になる。また、ランニングコストの低減化も実現することができる。
【0042】
さらに、アンカーウエイト22を、内部空間Sの敷地上に載置しているために、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の支持に、アンカーウエイト22上に埋め戻された土等の廃棄物の設置圧を効果的に利用することができる。
【0043】
加えて、隣接するユニット膜材2の外周縁同士およびユニット膜2と隅部フレーム3とを、レーシングロープ5によって着脱可能に接続するとともに、この接続部をシールキャンバス9によって気密的に封じているために、屋根1を現場において容易に組み立てることが可能になる。しかも、平常時においては、シールキャンバス9等によって屋根1としての気密性を確保することができるとともに、長期間の使用によって屋根1を構成する1枚または複数枚のユニット膜2が損傷や摩耗を受けた場合においても、当該箇所のユニット膜材2のみを交換して、再びシールキャンバス9によって封じることにより、容易に補修することができる。
【0044】
さらに、隣接する凸曲面状のユニット膜2の角隅部が集合して谷部となる箇所に、隅部フレーム3を設けるとともに、この隅部フレーム3の外周を画成する枠部3a内に袋状のドレイン収納部材13を設け、このドレイン収納部材13の下部外周に、当該ドレイン収納部材13内に流入した水を排水するための縦樋管14を接続しているために、雨水や融雪がユニット膜2から流下してドレイン収納部材13内に流入した場合においても、縦樋管14および集水管16を介して内部空間S内の適所、あるいは外部へと排水することができる。
【0045】
なお、上記実施形態においては、本発明に係る空気膜構造を、廃棄物処理場を覆う屋根の構造に適用した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、大規模な物品の集配場や保管場所等の様々な箇所に適用することができる。
【0046】
また、本実施形態の屋根構造においては、屋根1からの引張力を支承するケーブルを、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23によって構成し、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19を用いて、これら引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の長さ寸法を調整自在に設けたが、これに限定されるものではなく、当該ケーブルの長さ寸法を調整可能にするものであれば、各種の構成を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る空気膜構造の一実施形態の屋根形状を示す概略斜視図である。
【図2】図1のユニット膜の接合部分を一部省略して示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線視断面図である。
【図4】図2の底部を一部省略して示す斜視図である。
【図5】図1の屋根を支持するとともに長さが調整可能に設けられたケーブルの構成を示す斜視図である。
【図6】図5のケーブル定着器と引き込みケーブルおよびアンカーケーブルの固定状態を示す斜視図である。
【図7】図5のリフティング補助ケーブルと下部ケーブル定着器の間にレバーブロックを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】図7のレバーブロックを操作してリフティング補助ケーブルを送り出すことにより屋根を上昇させる状態を示す斜視図である。
【図9】図8の上部ケーブル定着器におけるアンカーケーブルのくさびを効かせてアンカーケーブルを上部ケーブル定着器に固定した状態を示す斜視図である。
【図10】図9のレバーブロックを操作して下部ケーブル定着器を引き上げる状態を示す斜視図である。
【図11】図10のレバーブロックを取り外して屋根のリフティング作業が終了した状態を示す斜視図である。
【図12】廃棄物処理場における埋め立ての進行とこれに応じた屋根の高さの変化を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 屋根
2 ユニット膜
3 隅部フレーム
5 レーシングロープ
6 バレーケーブル
9 シールキャンバス
13 ドレイン収納部材
14 縦樋管(排水管)
16 集水管(排水管)
17 引き込みケーブル(ケーブル)
18 上部ケーブル定着器
19 下部ケーブル定着器
20、21、24、25 くさび
22 アンカーウエイト(アンカー材)
23 アンカーケーブル(ケーブル)
26 リフティング補助ケーブル
27 レバーブロック
A 廃棄物処理場
S 内部空間
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜材によって形成されて廃棄物処理場等の屋根を構成するとともに、内部に空気が充填されることにより上記屋根形状が保持される空気膜構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物処理場や大規模な物品の集配場においては、降雨や降雪による悪影響を防止したり、あるいは廃棄物等の飛散を防止したりするために、簡易的な構造物によって内部を覆うことが要請されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1においては、廃棄物処分領域の周囲に複数の支柱を立設するとともに、これら支柱から対向位置の支柱まで、廃棄物処分領域の上方を引っ張り力のみを支持する横方向及び縦方向の主ケーブルを張設し、当該横方向及び縦方向の主ケーブルをその交差位置で相互に連結するとともに膜体からなる屋根材を支持し、当該屋根材を主ケーブルによる支持部以外の部位が重力方向に凸となる様に張設下した廃棄物処分場の異形平面対応屋根架設構造が提案されている。
【特許文献1】特開2004−162429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記廃棄物処理場は、一般に人里離れた山間部に立地されることが多く、したがって谷間の傾斜面等を利用した平坦ではない場所に設けられている。
このため、上記従来の屋根架設構造にあっては、廃棄物処理領域の周囲に支柱を立設するために、多大の手間を要するという問題点がある。
【0005】
また、廃棄物処理場等は、広大な面積を必要とするために、上記支柱や主ケーフルに作用する応力が大きなものになり、この結果上記支柱、主ケーブル、屋根材といった各構成部材が大型化して、その製作、搬送および施工が難しいという問題点もある。
【0006】
さらに、上記廃棄物処理場は、廃棄物の処理によって経時的に敷地の高さが増すのに対して、上記従来の屋根架設構造においては、上記支柱として、廃棄物処理場における最終的なレベルよりも高いものを立設しておく必要がある。このため、特に上記屋根材下方の内部空間を負圧あるいは正圧に保持する場合には、廃棄物処理の初期段階において上記内部空間の容積が極めて大きなものとなるために、排気または給気に大容量の設備を要するとともに、当該排気または給気の制御が難しいいう問題点がある。
【0007】
しかも、一旦上記屋根架設構造を構築した後においては、その形状が決まってしまうために、廃棄物処理場の領域を変更することが困難になるとともに、この種の廃棄物処理場においては、処理期間が十年以上となることが多いために、当該期間中に膜体からなる屋根材が部分的に損傷した場合においても、その補修が難しいという問題点もある。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、構成部材の小型軽量化を図ることができるとともに、内部空間の高さを適宜調整することが可能になり、よって内部空間に対する排気等の制御も容易となる空気膜構造物を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、平面視多角形状をなし、かつ上方に向けて凸曲面状をなす複数のユニット膜の外周縁同士を接続することにより、上記複数の凸曲面によって内部空間を覆う屋根を形成し、複数本のケーブルを、各々上記複数の上記ユニット膜の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と上記内部空間の下方に設けられて当該ケーブルに生じる引張力を支持するアンカー材との間に、鉛直方向の長さ寸法を調節可能に設け、かつ上記内部空間に加圧空気を供給することにより上記屋根の凸曲面形状を保持したことを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記アンカー材が、上記内部空間の敷地上に載置されていることを特徴とするものである。
ここで、敷地上に載置するとは、例えば大規模な物品の集配場等の一般的な場所においては、当該集配場等の敷地上に直接載置することであり、廃棄物処理場のように敷地上に汚染された水等が当該敷地に滲入することを防止するための遮水シートが設けられ、その上に保護層土が盛られている場合には、当該保護層土上に載置することを意味する。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、隣接する上記ユニット膜材が、互いの上記外周縁同士が着脱可能に接続されるとともに、この接続部に、当該接続部を気密的に封じる封止部材が設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記谷部の底部には、当該谷部に溜まった水を抜き出し可能な排水管が接続されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜4のいずれかに記載の発明によれば、屋根を複数の凸曲面状をなすユニット膜の外周縁同士を接続することにより構成した屋根に作用する引張力を、上記ユニット膜の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と内部空間の下方のアンカー材との間に長さ寸法を調整可能に設けた複数本の上記ケーブルに分散して、各々のアンカー材で支持することができる。
【0014】
このため、構造が簡易であるとともに、ユニット膜、ケーブル、アンカー材等の各構成部材を小型化することにより軽量化も図ることができ、よって製作、組立、施工あるいは撤去等が極めて容易になる。
【0015】
しかも、上記ケーブルの長さ寸法が調整可能であるために、例えば廃棄物処理場に適用した場合には、廃棄物処理の進行による敷地高さの増加に併せて、屋根の高さを適宜増して行くことができる。このため、常に屋根下方の内部空間の容積を最小限に保つことができ、よって給排気設備等の小型化を図ることもできるうえに、当該内部空間の排気等の制御も容易になる。また、ランニングコストの低減化も実現することができる。
【0016】
さらに、請求項2に記載の発明のように、上記アンカー材を内部空間の敷地上に載置すれば、特に廃棄物処理場に適用した場合において、ケーブルの支持に、当該アンカー材の上部に埋め戻された土等の廃棄物の設置圧を利用することができるとともに、上記アンカー材により敷地上に張られた遮水シートに破損を生じることもないという利点がある。
【0017】
加えて、請求項3に記載の発明によれば、隣接する上記ユニット膜材の外周縁同士を、着脱可能に接続して、この接続部に気密的に封じる封止部材を設けているために、上記屋根を現場において容易に組み立てることが可能になる。しかも、平常時においては、上記封止部材によって屋根としての気密性を確保することができるとともに、長期間の使用によって屋根が局部的に損傷や摩耗を受けた場合においても、当該箇所のユニット膜材のみを交換することにより、容易に補修することが可能になる。
【0018】
また、本発明においては、複数の凸曲面状に形成されたユニット膜によって屋根を形成し、内部空間に加圧空気を供給することにより上記屋根の凸曲面形状を保持した構造であるために、隣接する上記ユニット膜の角隅部が集合する箇所に、谷部が形成されている。
この結果、当該谷部に雨水や融雪が溜まることになるが、請求項4に記載の発明によれば、上記谷部の底部に、当該谷部に溜まった水を抜き出し可能な排水管を接続しているために、この排水管を介して上記内部空間内の適所、あるいは外部へと排水することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1〜図12は、本発明に係る空気膜構造を、廃棄物処理場の屋根構造に適用した一実施形態を示すものである。
これらの図において、図中符号1は、上記廃棄物処理場Aを気密的に覆う屋根であり、この屋根1は、複数枚のユニット膜2から構成されている。ここで、各ユニット膜2は、塩化ビニルをコーティングしたポリエステル布等の素材からなる平面視正方形状の膜材であり、上方に向けて凸曲面状に形成されたものである。
【0020】
また、ユニット膜2は、図2〜図4に示すように、互いの外周縁を近接させて配置されるとともに、4枚のユニット膜2の外周縁の角隅部が集合する部分が切り欠かれて、正方形状の開口部が形成されている。そして、この開口部に隅部フレーム3が配置されている。
【0021】
この隅部フレーム3は、各々のユニット膜2の切り欠かれた外周縁に沿う方形状の枠部3aと、この枠部3aの角部下面から四角錐の辺部に沿って垂下して先端部が円板状の支持板4に一体的に接合された脚部3bとから構成されたもので、枠部3aの外周に沿って、後述するレーシングロープ5の受けバー3cが設けられている。また、枠部3aの角部外面には、隣接するユニット膜2の外周縁の間に沿って、隅部フレーム3間に張設されたバレーケーブル6の端部が連結されている。
【0022】
他方、各ユニット膜2の外周縁には、縫い込みロープ7が縫い込まれて一体化されているとともに、この縫い込みロープ7の内側に、所定間隔をおいてレーシングロープ5の挿通孔8aが穿設された膜端補強プレート8が接合されている。
そして、隣接するユニット膜2および隅部フレーム3は、レーシングロープ5によって互いに着脱自在に接続されている。
【0023】
すなわち、レーシングロープ5が、各ユニット膜2の膜端補強プレート8に穿設された挿通孔8aに挿通されるとともにバレーケーブル6の外周に巻回されることにより、隣接するユニット膜2同士がバレーケーブル6を間に介して連結されている。また、上記レーシングロープ5が、各ユニット膜2の挿通孔8aに挿通されるとともに隅部フレーム3の枠部3aに突設された受けバー3cに巻回されることにより、各ユニット膜2と隅部フレーム3とが連結されている。
【0024】
そして、これら隣接するユニット膜2間の隙間およびユニット膜2と隅部フレーム3の枠部3aとの間の隙間は、シールキャンバス(封止部材)9および当該シールキャンバス9を両面テープ折り畳みジョイント10を介して覆うカバーキャンバス11によって気密的に塞がれている。なお、図中符号12は、一辺側が各ユニット膜2に接合されたカバーキャンバス11の他辺側同士を連結するレーシングロープである。
【0025】
また、隅部フレーム3の枠部3a内には、袋状のドレイン収納部材13が設けられており、このドレイン収納部材13の下部外周には、当該ドレイン収納部材13内に流入した水を排水するための縦樋管(排水管)14の上端部が接続されている。そして、この縦樋管14の下端部は、バレーケーブル6から垂下されたワイヤ15によって、屋根1の下方に幾分の傾斜をもって支持されている集水管(排水管)16に接続されている。これにより、複数のユニット膜2からなる屋根1が構成されている。
【0026】
他方、隅部フレーム3の下端部に接合された円板状の支持板4の下面には、屋根1を支持するための引き込みケーブル(ケーブル)17の上端部が連結されている。
そして、図5および図6に示すように、この引き込みケーブル17の下部は、上下方向に間隔をおいて順次上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19の中央部に形成された貫通孔内に挿通されている。また、この引き込みケーブル17は、下部ケーブル定着器19から下方部分が所定の長さ寸法に形成されるとともに、その端部が自由端になっている。
【0027】
ここで、引き込みケーブル17の外周と、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19の貫通孔との間には、それぞれくさび20、21が着脱自在に介装されており、これにより、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19は、各々引き込みケーブル17の外周に固定および離脱自在に設けられている。
【0028】
また、引き込みケーブル17の下方であって、廃棄物処理場の敷地上には、コンクリートブロックからなるアンカーウエイト(アンカー材)22が載置されている。すなわち、図5に示すように、廃棄物処理場の敷地上には、廃棄物によって汚染された水が敷地内へと滲入することを防止するための浸水シート30が張設されるとともに、この浸水シート30上に保護層土31が盛られており、この保護層土31上に、アンカーウエイト22が載置されている。
【0029】
そして、このアンカーウエイト22の上面に固定されたリング22aに、アンカーケーブル(ケーブル)23が挿通されるとともに、これにより2本となったアンカーケーブル23の上部が、それぞれ順次下部ケーブル定着器19および上部ケーブル定着器18に引き込みケーブル17を間に挟んで形成された貫通孔内に挿通されている。また、アンカーウエイト22は、上部ケーブル定着器18から上方部分が所定の長さ寸法に形成されるとともに、その端部が自由端になっている。
【0030】
ここで、アンカーケーブル23についても、それぞれの外周と上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19の貫通孔との間に、くさび24、25が着脱自在に介装されており、これにより、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19は、各々アンカーケーブル23の外周に固定および離脱自在に設けられている。
【0031】
さらに、引き込みケーブル17を間に挟むように、2本のリフティング補助ケーブル26が配置され、それぞれの上端部が円板状の支持板4に連結されている。そして、これらリフティング補助ケーブル26は、その下端部が下部ケーブル定着器19の上面に臨む位置まで垂下されるとともに、当該リフティング補助ケーブル26の下端部と下部ケーブル定着器19の上面との間には、必要に応じてレバーブロック27が取り付け可能になっている。
【0032】
次に、図5〜図12に基づいて、以上の構成からなり廃棄物処理場の屋根を形成する空気膜構造の作用について説明する。
先ず、図5および図12(a)に示すように、廃棄物処理場における廃棄物の埋め立て作業エリアを、上記屋根1によって気密的に覆うとともに、屋根1の形状安定性を確保するために、内部空間Sに屋根1の自重よりも幾分高い内圧を付与しておく。なお、この廃棄物による埋め立て初期においては、未だ埋め立てによる敷地のレベルが低いために、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の長さ寸法を短くした状態で、それぞれくさび20、21、24、25により上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19に固定しておく。
【0033】
そして、上記廃棄物処理場における廃棄物の埋め立てが進行して、図12(b)に示すように敷地のレベルが増した際に、屋根1の高さを増加させる。
この際には、先ず内部空間の圧力を、屋根1の自重とバランスする程度の圧力(リフティング内圧)まで下げた後に、図7に示すように、リフティング補助ケーブル26の下端部と下部ケーブル定着器19との間に、レバーブロック27を取り付ける。
【0034】
そして、このレバーブロック27によってリフティング補助ケーブル26を引き込むことにより、屋根1からの引張力を、リフティング補助ケーブル26→下部ケーブル定着器19→その下方のアンカーケーブル23→アンカーウエイト22によって支承する。これにより、引き込みケーブル17および下部ケーブル定着器19から上方のアンカーケーブル23に作用していた荷重が解除される。
【0035】
次に、上部ケーブル定着器18におけるアンカーケーブル23のくさび24と、下部ケーブル定着器19における引き込みケーブル17のくさび21を解除する。これにより、上部ケーブル定着器18は、引き込みケーブル17によって、単に吊り下げられた状態になる。そこで、図8に示すように、レバーブロック27を逆に操作して、リフティング補助ケーブル26を送り出すと、送り出された分だけ内圧によって屋根1が上昇する。
【0036】
そして、屋根1が所定の高さに到達した際に、レバーブロック27の操作を停止し、この状態で、図9に示すように、上部ケーブル定着器18におけるアンカーケーブル23のくさび24を効かせてアンカーケーブル23を上部ケーブル定着器18に固定した後に、レバーブロック27によるリフティング補助ケーブル26の荷重を解除する。これにより、屋根1からの引張力を、引き込みケーブル17→上部ケーブル定着器18→その下方のアンカーケーブル23→アンカーウエイト22によって支承する。
【0037】
次いで、下部ケーブル定着器19におけるアンカーケーブル23のくさび25を解除すると、下部ケーブル定着器19は、レバーブロック27を介してリフティング補助ケーブル26によって吊り下げられた状態になる。そこで、図10に示すように、レバーブロック27を操作して、下部ケーブル定着器19を所定の高さまで引き上げる。そして、下部ケーブル定着器19におけるくさび21を効かせて引き込みケーブル17を固定するとともに、くさび25を効かせてアンカーケーブル23を固定する。
【0038】
次いで、図11に示すように、レバーブロック27を取り外して、内圧を常時の圧力に上げることにより、屋根1のリフティング作業が終了する。
そして、埋め立てがさらに進行して、図12(c)に示すように、敷地のレベルがさらに高くなった場合には、上記工程と同様にして屋根1のリフティング作業を実施し、埋め立てが完了した際には、図12(d)に示すように、最終的に上記屋根1を撤去する。
【0039】
以上のように、上記構成からなる空気膜構造によれば、屋根1を複数の凸曲面状をなすユニット膜2の外周縁同士を接続することにより構成し、4枚のユニット膜2の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と内部空間の敷地上に載置さられたアンカーウエイト22の間に、各々全体の長さ寸法が調整可能な引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23を設けているために、屋根1に作用する引張力をこれら複数本の引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23に分散して各々のアンカーウエイト22で支持することができる。
【0040】
このため、構造が簡易であるとともに、ユニット膜2、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23、アンカーウエイト22等の各構成部材を小型化することにより軽量化も図ることができ、よって製作、組立、施工あるいは撤去等が極めて容易になる。
【0041】
しかも、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の全体の長さ寸法が調整可能であるために、図12(e)に示すように、廃棄物処理の進行による敷地高さの増加に併せて、初期状態Xから最終状態Zに至るまで、屋根1の高さを適宜増して行くことができる。このため、常に屋根1の下方の内部空間Sの容積を最小限に保つことができ、よって給排気設備等の小型化を図ることもできるうえに、内部空間Sの排気等の制御も容易になる。また、ランニングコストの低減化も実現することができる。
【0042】
さらに、アンカーウエイト22を、内部空間Sの敷地上に載置しているために、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の支持に、アンカーウエイト22上に埋め戻された土等の廃棄物の設置圧を効果的に利用することができる。
【0043】
加えて、隣接するユニット膜材2の外周縁同士およびユニット膜2と隅部フレーム3とを、レーシングロープ5によって着脱可能に接続するとともに、この接続部をシールキャンバス9によって気密的に封じているために、屋根1を現場において容易に組み立てることが可能になる。しかも、平常時においては、シールキャンバス9等によって屋根1としての気密性を確保することができるとともに、長期間の使用によって屋根1を構成する1枚または複数枚のユニット膜2が損傷や摩耗を受けた場合においても、当該箇所のユニット膜材2のみを交換して、再びシールキャンバス9によって封じることにより、容易に補修することができる。
【0044】
さらに、隣接する凸曲面状のユニット膜2の角隅部が集合して谷部となる箇所に、隅部フレーム3を設けるとともに、この隅部フレーム3の外周を画成する枠部3a内に袋状のドレイン収納部材13を設け、このドレイン収納部材13の下部外周に、当該ドレイン収納部材13内に流入した水を排水するための縦樋管14を接続しているために、雨水や融雪がユニット膜2から流下してドレイン収納部材13内に流入した場合においても、縦樋管14および集水管16を介して内部空間S内の適所、あるいは外部へと排水することができる。
【0045】
なお、上記実施形態においては、本発明に係る空気膜構造を、廃棄物処理場を覆う屋根の構造に適用した場合についてのみ説明したが、これに限定されるものではなく、本発明は、大規模な物品の集配場や保管場所等の様々な箇所に適用することができる。
【0046】
また、本実施形態の屋根構造においては、屋根1からの引張力を支承するケーブルを、引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23によって構成し、上部ケーブル定着器18および下部ケーブル定着器19を用いて、これら引き込みケーブル17およびアンカーケーブル23の長さ寸法を調整自在に設けたが、これに限定されるものではなく、当該ケーブルの長さ寸法を調整可能にするものであれば、各種の構成を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る空気膜構造の一実施形態の屋根形状を示す概略斜視図である。
【図2】図1のユニット膜の接合部分を一部省略して示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線視断面図である。
【図4】図2の底部を一部省略して示す斜視図である。
【図5】図1の屋根を支持するとともに長さが調整可能に設けられたケーブルの構成を示す斜視図である。
【図6】図5のケーブル定着器と引き込みケーブルおよびアンカーケーブルの固定状態を示す斜視図である。
【図7】図5のリフティング補助ケーブルと下部ケーブル定着器の間にレバーブロックを取り付けた状態を示す斜視図である。
【図8】図7のレバーブロックを操作してリフティング補助ケーブルを送り出すことにより屋根を上昇させる状態を示す斜視図である。
【図9】図8の上部ケーブル定着器におけるアンカーケーブルのくさびを効かせてアンカーケーブルを上部ケーブル定着器に固定した状態を示す斜視図である。
【図10】図9のレバーブロックを操作して下部ケーブル定着器を引き上げる状態を示す斜視図である。
【図11】図10のレバーブロックを取り外して屋根のリフティング作業が終了した状態を示す斜視図である。
【図12】廃棄物処理場における埋め立ての進行とこれに応じた屋根の高さの変化を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 屋根
2 ユニット膜
3 隅部フレーム
5 レーシングロープ
6 バレーケーブル
9 シールキャンバス
13 ドレイン収納部材
14 縦樋管(排水管)
16 集水管(排水管)
17 引き込みケーブル(ケーブル)
18 上部ケーブル定着器
19 下部ケーブル定着器
20、21、24、25 くさび
22 アンカーウエイト(アンカー材)
23 アンカーケーブル(ケーブル)
26 リフティング補助ケーブル
27 レバーブロック
A 廃棄物処理場
S 内部空間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視多角形状をなし、かつ上方に向けて凸曲面状をなす複数のユニット膜の外周縁同士を接続することにより、上記複数の凸曲面によって内部空間を覆う屋根を形成し、複数本のケーブルを、各々上記複数の上記ユニット膜の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と上記内部空間の下方に設けられて当該ケーブルに生じる引張力を支持するアンカー材との間に、鉛直方向の長さ寸法を調節可能に設け、かつ上記内部空間に加圧空気を供給することにより上記屋根の凸曲面形状を保持したことを特徴とする空気膜構造物。
【請求項2】
上記アンカー材は、上記内部空間の敷地上に載置されていることを特徴とする請求項1に記載の空気膜構造物。
【請求項3】
隣接する上記ユニット膜材は、互いの上記外周縁同士が着脱可能に接続されるとともに、この接続部に、当該接続部を気密的に封じる封止部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の空気膜構造。
【請求項4】
上記谷部の底部には、当該谷部に溜まった水を抜き出し可能な排水管が接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の空気膜構造。
【請求項1】
平面視多角形状をなし、かつ上方に向けて凸曲面状をなす複数のユニット膜の外周縁同士を接続することにより、上記複数の凸曲面によって内部空間を覆う屋根を形成し、複数本のケーブルを、各々上記複数の上記ユニット膜の外周縁の角隅部が集合する谷部の底部と上記内部空間の下方に設けられて当該ケーブルに生じる引張力を支持するアンカー材との間に、鉛直方向の長さ寸法を調節可能に設け、かつ上記内部空間に加圧空気を供給することにより上記屋根の凸曲面形状を保持したことを特徴とする空気膜構造物。
【請求項2】
上記アンカー材は、上記内部空間の敷地上に載置されていることを特徴とする請求項1に記載の空気膜構造物。
【請求項3】
隣接する上記ユニット膜材は、互いの上記外周縁同士が着脱可能に接続されるとともに、この接続部に、当該接続部を気密的に封じる封止部材が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の空気膜構造。
【請求項4】
上記谷部の底部には、当該谷部に溜まった水を抜き出し可能な排水管が接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の空気膜構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−144346(P2010−144346A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319995(P2008−319995)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レバーブロック
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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