説明

空気調和装置および空気調和装置の制御方法

【課題】エネルギー効率が高い空気調和装置を提供すること。
【解決手段】外気を取り入れて空調処理を施した後に被調和室に供給する空気調和装置10において、空調制御の目標となる温度範囲および湿度範囲によって定義される目標温湿度範囲と、外気を空調処理しないで被調和室に取り込んだ場合に、当該空気の温湿度が目標温湿度範囲内に収まる範囲としての空調不要温湿度範囲と、を設定する設定手段(制御部30)と、外気の温湿度が空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量を調整することにより、被調和室の温湿度が目標温湿度範囲内に収まるように制御する制御手段(制御部30)と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和装置および空気調和装置の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、給気温度が一定となるように、冷却(除湿)、加熱、または、加湿等の空調制御を行い、室内温度が一定となるように送風量を制御する空気調和装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−97906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、屋外から導入される外気の温湿度の状態に拘わらず一律に空調制御がなされるため、エネルギー効率が低いという問題点があった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、エネルギー効率が高い空気調和装置および空気調和装置の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、外気を取り入れて空調処理を施した後に被調和室に供給する空気調和装置において、空調制御の目標となる温度範囲および湿度範囲によって定義される目標温湿度範囲と、前記外気を空調処理しないで前記被調和室に取り込んだ場合に、当該空気の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まる範囲としての空調不要温湿度範囲と、を設定する設定手段と、前記外気の温湿度が前記空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量を調整することにより、前記被調和室の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まるように制御する制御手段と、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、外気の温湿度が空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量のみの調整がなされるので、エネルギー効率を高めることができる。
【0007】
また、他の発明は、上記発明に加えて、前記設定手段は、空気線図上において、空調処理の目標となる温度範囲および湿度範囲に基づいて前記目標温湿度範囲を定義するとともに、前記目標温湿度範囲の上端および下端によって指定される範囲内をそれぞれ通るとともに、前記被調和室の顕熱比に対応する傾きを有する第1および第2の顕熱比一定線と、前記目標温湿度範囲よりも低い温度を示す第1および第2の温度線とによって囲まれる領域として前記空調不要温湿度範囲を設定することを特徴とする。
このような構成によれば、第1および第2の温度線と、第1および第2の顕熱比一定線とによって空調不要温湿度範囲を定義するようにしたので、領域を簡易に定義することができるとともに、当該領域に属するか否かの判断を簡易に行うことができる。
【0008】
また、他の発明は、前記設定手段は、前記顕熱比が変化した場合には、変化後の顕熱比に応じて前記第1および第2の顕熱比一定線を再設定することを特徴とする。
このような構成によれば、顕熱比の変化に応じて空調不要温湿度範囲を再定義するようにしたので、環境条件が変化した場合でも、高いエネルギー効率を達成することができる。
【0009】
また、他の発明は、前記制御手段は、前記送風量を変更しても前記被調和室の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まらない場合には、少なくともその時点における外気の温湿度が前記空調不要温湿度範囲から外れるように前記設定手段に再設定を実行させることを特徴とする。
このような構成によれば、環境変化等に対応して空調不要温湿度範囲を再定義することにより、環境条件が変化した場合でも、常に高いエネルギー効率を達成することができる。
【0010】
また、他の発明は、前記制御手段は、送風される空気の絶対湿度の現在値と上限値との偏差に基づいて可変パラメータPID制御によって冷却装置を制御するとともに、送風される空気の絶対湿度の現在値と下限値との偏差に基づいて可変パラメータPID制御によって加湿装置を制御し、前記被調和室の湿度が上下限値で特定される範囲内に維持されるように制御することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、外気を取り入れて空調処理を施した後に被調和室に供給する空気調和装置の制御方法において、空調制御の目標となる温度範囲および湿度範囲によって定義される目標温湿度範囲と、前記外気を空調処理しないで前記被調和室に取り込んだ場合に、当該空気の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まる範囲としての空調不要温湿度範囲と、を設定する設定ステップと、前記外気の温湿度が前記空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量を調整することにより、前記被調和室の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まるように制御する制御ステップと、を有することを特徴とする。
このような構成によれば、外気の温湿度が空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量のみの調整がなされるので、エネルギー効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エネルギー効率が高い空気調和装置および空気調和装置の制御方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る空気調和装置の構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示す制御部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図4】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図5】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図6】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図7】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図8】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図9】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図10】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図11】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図12】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【図13】図1に示す実施形態の動作を説明するためのフローチャートである。
【図14】図13に示す送風量制御処理の詳細を説明するためのフローチャートである。
【図15】図1に示す実施形態の動作を説明するための空気線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について説明する。
【0015】
(A)実施形態の構成の説明
図1は本発明の実施形態に係る空気調和装置の構成例を示すブロック図である。この図1に示すように本発明の実施形態に係る空気調和装置10は、冷却コイル11、加熱コイル12、加湿装置13、送風ファン14、センサ21〜23、および、制御部30を主要な構成要素とし、例えば、工場の建屋またはクリーンルーム等に設置され、建屋またはクリーンルーム内の空調を行う。
【0016】
ここで、冷却コイル11は、例えば、ヒートポンプ装置の蒸発器等によって構成され、室外から取り入れた外気を冷却(除湿)して出力する。加熱コイル12は、例えば、ヒートポンプ装置の凝縮器によって構成され、冷却コイル11から出力される空気を加熱して出力する。なお、冷却コイル11と加熱コイル12とを同一の構成とし、図示せぬ室外機に内蔵される四方弁によって冷媒の流れを切り換えることにより、冷却コイル11と加熱コイル12の機能を択一的に実現するようにしてもよい。また、加熱コイル12としては、例えば、コージェネレーション等によって発生された温水等を使用して空気を加熱するようにしてもよい。
【0017】
加湿装置13は、例えば、水を霧状にして空気に吹き込み、これを蒸発させて加湿する水噴霧加湿装置、または、水蒸気を吹き込んで加湿する蒸気加湿装置を使用することができる。あるいは、加湿パン内の水を電熱ヒータ等で加熱して、水表面から蒸気を発生させて加湿するパン型加湿装置、または、空気の露点温度以上の大量の水を噴霧して加湿するエアウオッシャ装置を使用することもできる。なお、水噴霧加湿装置およびエアウオッシャ装置を使用する場合には、水が気化熱を奪うことから空気の温度が低下する。また、蒸気加湿装置および加湿するパン型加湿装置の場合には、水蒸気の有する熱によって空気が加熱されるので温度が上昇する。
【0018】
送風ファン14は、空調処理が施された空気を被調和室内(以下、単に「室内」と称する)に送り出すためのファンである。なお、送風ファン14は、制御部30から供給される駆動信号の周波数により回転数を制御可能とされている。センサ21は、室外の外気の温度TOAと、相対湿度RHOAとを検出し、対応する電気信号を生成して制御部30に供給する。センサ22は、送風ファン14によって室内に送風される送風空気の温度TSAと、露点温度DPSAとを検出し、対応する電気信号を生成して制御部30に供給する。センサ23は、室内の温度TRMと、相対湿度RHRMとを検出し、対応する電気信号を生成して制御部30に供給する。
【0019】
制御部30は、センサ21〜23によって検出される各場所(室外、送風ファン出口、室内)の温度、湿度等に応じて、冷却コイル11、加熱コイル12、加湿装置13、および、送風ファン14を制御し、被調和室の温度および湿度(以下、単に「温湿度」と称する)が所定の範囲に収まるように制御する。
【0020】
図2は、制御部30(請求項中の「設定手段」および「制御手段」に対応する)の詳細な構成例を示す図である。この図2に示すように、制御部30は、CPU(Central Processing Unit)31、ROM(Read Only Memory)32、RAM(Random Access Memory)33、記憶装置34、画像処理装置35、I/F(Interface)36、バス37、画像表示装置38、および、入力装置39を主要な構成要素としている。
【0021】
ここで、CPU31は、ROM32または記憶装置34に記憶されているプログラムに基づいて冷却コイル11、加熱コイル12、加湿装置13、および、送風ファン14を制御する。ROM32は、CPU31が実行するプログラムおよびデータを予め格納する半導体記憶装置である。RAM33は、CPU31が実行するプログラムおよびデータを一時的に格納する半導体記憶装置である。記憶装置34は、例えば、ハードディスクドライブ等の記憶装置または半導体記憶装置によって構成され、CPU31が実行するプログラムおよびデータを書き換え可能に格納するとともに、必要に応じて読み出すことができる装置である。なお、この図2の例では、記憶装置34は、後述する処理を実行するためのプログラム34aおよびデータ34bを格納している。なお、記憶装置34は、これ以外にも、アプリケーションソフトから共通して利用される基本的な機能を提供し、装置全体を管理するプログラムとしてのオペレーティングシステム(不図示)を記憶している。
【0022】
画像処理装置35は、CPU31から供給された描画命令に基づいて描画処理を実行し、得られた画像を映像信号に変換し、画像表示装置38に供給して表示させる。I/F36は、入力装置39およびセンサ21〜23から供給される信号を制御部30の内部表現形式に対応するデータに変換して出力する。また、I/F36は、冷却コイル11、加熱コイル12、加湿装置13、および、送風ファン14に対して制御信号を供給し、これらを制御する。バス37は、CPU31、ROM32、RAM33、記憶装置34、画像処理装置35、および、I/F36を相互に接続する信号線群であり、これらの間で情報の授受を可能とする。画像表示装置38は、例えば、CRT(Cathode Ray Tube)モニタまたはLCD(Liquid Crystal Display)モニタ等によって構成され、画像処理装置35から供給される映像信号を表示部に表示する。入力装置39は、例えば、キーボードおよび/またはマウス等の入力デバイスによって構成され、操作者の操作に応じた情報を生成して出力する。
【0023】
(B)実施形態の動作の概要の説明
つぎに、本実施形態の動作の概要について、図を参照して説明する。なお、詳細な動作については、図を参照して後述する。
【0024】
図3は、本実施形態の動作を説明するための空気線図である。この図3の横軸は乾球湿度(℃)を示し、縦軸は絶対湿度(kg/kg(空気1kg中の水の量(kg)))を示す。曲線STは、飽和曲線(各温度における飽和水分量)を示している。上下方向に伸びる破線の直線は21℃、23℃、および、25℃の温度をそれぞれ示す。左下から右上に伸びる破線の曲線は60%、50%、および、40%の相対湿度をそれぞれ示す。また、図の右端に示す1.00〜0.33の範囲の目盛は、顕熱比(=q/(q+q))(ここで、qは顕熱量を示し、qは潜熱量を示す)を示し、点P0は顕熱比の基準点(温度26℃および相対湿度50%の点)を示す。直線SHF(Sensible Heat Factor)は、顕熱比一定の直線を示し、この例では、顕熱比が0.70の場合の直線が示されている。なお、右端に示す1.00〜0.33の範囲の目盛から所定の顕熱比の値を選択し、当該値と基準点P0とを結ぶ直線を描画することにより、顕熱比一定の直線SHFを得ることができる。
【0025】
なお、図3〜12では、説明を簡略化するために、空気線図内に表示されている顕熱比を用いて説明を行っているが、後述するように、本実施形態では、顕熱比として実際には以下の式により求められる値を適宜用いている。
SHF=(HRMPV−HSAPV)/(TRMPV−TSAPV
【0026】
領域APは、本実施形態の空気調和装置10の空調目標となる温度および湿度の範囲(目標温湿度範囲)を示す。なお、この図3の例では、目標温度範囲は23℃±2℃とされているので、下限温度が21℃であり、上限温度が25℃とされている。また、目標湿度(相対湿度)範囲は50%±10%とされているので、下限湿度が40%であり、上限温度が60%とされている。なお、これ以外の目標温湿度範囲に設定することが可能であることはいうまでもない。
【0027】
直線L1は、領域APの上端の点P1を起点として直線SHFに平行になるように描画した直線である。直線L2は、領域APの下端の点P2を起点として直線SHFに平行になるように描画した直線である。なお、図3の例では、基準点P0は顕熱比0.70の点と結ばれているので、これらの直線L1,L2上を移動する場合には、顕熱比は0.70で一定となる。
【0028】
図4において、ハッチングが付された領域ANは、外気を調和処理(冷却コイル11による冷却(除湿)、加熱コイル12による加熱、または、加湿装置13による加湿)をしないでそのまま取り込んだ場合に、当該空気の温湿度が目標温湿度範囲(領域AP)に収まると想定される範囲(空調不要温湿度範囲)を示している。この領域ANの上辺と下辺は、領域APの上端の点P1を起点として直線SHFと平行に描画された直線L1および領域APの下端の点P2を起点として直線SHFと平行に描画された直線L2である。また、領域ANの左辺と右辺は、領域APの低い方の温度(この例では21℃)よりも低い所定の温度T1,T2を示す直線L3,L4にそれぞれ対応している。
【0029】
本実施形態の空気調和装置10では、センサ21によって検出した外気の温湿度が図4に示す領域AN内に収まっている場合には、制御部30は冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13の動作を停止させ、送風ファン14だけを動作させる。また、制御部30は、室内の温湿度をセンサ23によって検出し、必要に応じて送風ファン14の回転数(または、動作/停止)を制御することで、室内の温湿度が領域AP内に収まるように制御する。具体的な例としては、例えば、外気の温湿度が点S1で表される場合には、制御部30は、冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13の動作を停止させ、送風ファン14だけを制御して外気をそのまま室内に取り入れる。この結果、送風ファン14から吐出される空気は、顕熱比一定のライン(図4中の矢印)上を移動し、温湿度が点S2の状態となる。
【0030】
このような動作によれば、外気が空調不要温湿度範囲(領域AN)に収まる場合には、冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13を動作させずに、送風ファン14のみを動作させることで、空調に必要なエネルギーを削減し、エネルギー効率を改善することができる。また、目標温湿度範囲(領域AP)として所定の広さを有する範囲を設定するようにしたので、空調不要温湿度範囲(領域AN)をある程度の広さを有する範囲とすることができるので、外気を有効利用できる範囲を拡大し、空調に必要なエネルギーを一層削減することができる。また、空調不要温湿度範囲(領域AN)としては、領域APの上端の点P1を起点として直線SHFと平行に描画された直線L1および領域APの下端の点P2を起点として直線SHFと平行に描画された直線L2とし、また、領域ANの左辺と右辺は、それぞれ所定の温度T1,T2を示す直線としたので、当該領域に属するか否かを簡単に判断することができる。なお、飽和曲線STを超える空気は一般的には存在しないので、実際に存在する空気の範囲を考えると、空調不要温湿度範囲(領域AN)は、実際には図5に示すような範囲(ハッチングが施された範囲)となる。しかしながら、空調不要温湿度範囲(領域AN)に属するか否かの判断においては、図4に示す平行四辺形の領域を考えれば十分であるため、図4に示すような領域ANを用いることで、判断に係る処理コストを削減できる。
【0031】
なお、以上は、室外から室内に取り入れた空気の温湿度が領域AP内に収まる場合の例であるが、室内の状況(例えば、戸外への熱の流失等)によっては、外気の温湿度が領域AN内に収まっている場合であっても、室内の温湿度が図6に示すように領域AP内に収まらない場合が存在する。より具体的には、図6に示すように、外気の温湿度を示す点S1が領域AN内に収まっており、送風ファン14の送風量が最大である場合(送風ファン14が最大能力で稼働している場合)であっても、室内の温湿度を示す点S2が領域AP外に属する場合が発生する。そのような場合、本実施形態の空気調和装置10では、図7に示すように、領域ANの範囲の再設定を行い、室内の温湿度が領域AP内に確実に収まるように調整がなされる。具体的には、図6の例では、温度が高い側に室内温湿度が外れているので、領域ANの右辺が所定の温度だけ左側にシフト(温度が低くなる方向にシフト)され、T2がT2’(但し、T2>T2’)に再設定されている。このような再設定を行うことにより、当初設定されていた領域ANが、環境変化等に起因して適切でなくなった場合には、領域ANを適宜再設定することにより、常に適切な領域ANを得ることができる。
【0032】
なお、図6,7の例では、室内の温度が領域APよりも高温側へシフトする場合の例であるが、低温側にシフトする場合であっても対応することができる。図8は、室内の温度が領域APよりも低温側へシフトした場合の例である。この例では、室内の温湿度を示す点S2は、領域APよりも低温側へシフトしている。このような場合、本実施形態の空気調和装置10では、図9に示すように、領域ANの左辺を右側にシフトするように再設定する。この図9の例では、領域ANの左辺の温度T1がT1’(但し、T1’>T1)に変更され、図の右側にシフトされている。このような再設定により、当初設定されていた領域ANが、環境変化等に起因して適切でなくなった場合には、領域ANを適宜再設定することにより、常に適切な領域ANを得ることができる。
【0033】
また、以上は、室内の温湿度が領域AP内に収まらなくなった場合の例であるが、室内の顕熱比が変化することも想定される。図10は、顕熱比が0.70から0.55に変化した場合を示しており、顕熱比の変化に起因して、点S2が領域AP外に移動している。このような場合には、図11に示すように、領域APの上端と下端を起点とし、新たな顕熱比(0.55)に対応する直線SHFに平行な直線L1,L2を描画し、温度T1,T2を示す直線L3,L4によって囲まれる領域を新たな領域APとする。このような再設定によれば、例えば、被調和室内の人の数が増加し、吐息等に含まれる水分の上昇に起因して顕熱比が低下し、当初設定されていた領域ANが適切でなくなった場合には、領域ANを再設定することにより、常に適切な領域ANを得ることができる。
【0034】
なお、図10,11の例は、顕熱比が低下した場合の例であるが、逆に顕熱比が増加した場合であっても同様の方法によって対応することができる。図12は、顕熱比が0.70から0.85に増加した場合に本実施形態の空気調和装置10において実行される処理の一例を示す図である。図12の例では、顕熱比が0.70から0.85に増加し、これに対応して、顕熱比を示す直線SHFの傾きが小さくなっている。このような場合には、図12に示すように、領域APの上端と下端を起点とし、新たな顕熱比(0.85)に対応する直線SHFに平行な直線L1,L2を描画し、温度T1,T2を示す直線L3,L4によって囲まれる領域を新たな領域APとする。このような再設定によれば、例えば、被調和室内の人の数が減少して顕熱比が増加し、当初設定されていた領域ANが適切でなくなった場合には、領域ANを再設定することにより、常に適切な領域ANを得ることができる。
【0035】
(C)実施形態の詳細な動作の説明
つぎに、図13,14に示すフローチャートを参照して、本発明の実施形態において実行される処理の詳細について説明する。図13は、図1に示す空気調和装置10において実行される処理を説明するフローチャートの一例である。なお、このフローチャートの処理は、図2に示す記憶装置34に格納されているプログラム34aがCPU31によって読み出されて実行されることにより実現される。
【0036】
まず、図13,14において用いられる変数およびその添え文字について、以下に概略説明を行う。
a)変数
T:温度[℃]
DP:露点温度[℃]
H:絶対湿度[kg/kgDA]
RH:相対湿度[%]
MV:バルブ開度[%]
INV:送風ファンインバータ周波数[Hz]
【0037】
b)前付文字
Δ:不足分(余剰分)
E_:設定値からの偏差
ESUM_:積分誤差
DE_:微分誤差
【0038】
c)下付文字
OA:外気
SA:送風空気
RM:室内
CC:冷却コイル
HC:加熱コイル
SM:加湿蒸気
【0039】
d)上付文字
LL:下限値
UL:上限値
PV:現在値
SV:設定値
【0040】
図13に示す処理が開始されると以下のステップが実行される。
【0041】
ステップS10:CPU30は、記憶装置34に格納されているデータ34bを読み出し、初期設定を行う。具体的には、以下の処理を実行する。
(1)変数ΔTSALL=ΔTSAUL=SHF=0に設定する。ここで、ΔTSALLは送風空気の下限値からの不足分(余剰分)であり、ΔTSAULは送風空気の上限値からの不足分(余剰分)であり、SHFは顕熱比である。また、積分誤差を示すESUM_変数の値を0に設定する。
(2)KPCC_cool,KICC_cool,KDCC_cool,KPCC_dehum,KICC_dehum,KDCC_dehum,KPHC,KIHC,KDHC,KPSM,KISM,KDSM,KPINV,KIINV,KDINV,TRMSV,TOL_TRM,RHRMSV,TOL_RHRM,INVUL,INVLLのそれぞれの初期値を記憶装置34のデータ34bから読み出して各変数に設定する。なお、KPCC_cool,KICC_cool,KDCC_coolは、冷却コイル11の冷却に関するPID(Proportional Integral Derivative)制御変数を示している。KPCC_dehum,KICC_dehum,KDCC_dehumは、冷却コイル11の除湿に関するPID制御変数を示している。KPHC,KIHC,KDHCは、加熱コイル12のPID制御変数を示している。KPSM,KISM,KDSMは、加湿装置13のPID制御変数を示している。KPINV,KIINV,KDINVは、送風ファン14のPID制御変数を示している。TRMSVは、室内温度の設定値を示す。TOL_TRMは、室内温度許容値(±)を示す。RHRMSVは、室内湿度設定値を示す。TOL_RHRMは、室内湿度許容値(±)を示す。INVUL,INVLLは、送風ファン14のモータの回転数を制御するためのインバータの周波数を示す。なお、具体例として、図4の例では、TRMSVは23℃に設定され、RHRMSVは50%に設定され、TOL_TRMは2℃に設定され、TOL_RHRMは10%に設定されている。なお、一例として、INVULは50Hzに設定し、INVLLは20Hzに設定することができる。
【0042】
ステップS11:CPU30は、記憶装置34に格納されているデータ34bを読み出し、室内の目標となる温湿度範囲である目標温湿度範囲(図4の領域AP)を設定する。具体的には、以下の処理を実行する。
(1)室内温度の上限TRMULおよび下限TRMLLを以下の式によって算出する。なお、TRMSVは室内温度の設定値であり、TOL_TRMは室内温度許容値である。
RMUL=TRMSV+TOL_TRM
RMLL=TRMSV−TOL_TRM
(2)室内湿度の上限RHRMULおよび下限RHRMLLを以下の式によって算出する。なお、RHRMSVは室内湿度の設定値であり、TOL_RHRMは室内湿度許容値である。
RHRMUL=RHRMSV+TOL_RHRM
RHRMLL=RHRMSV−TOL_RHRM
(3)室内絶対湿度の上限値HRMULおよび下限値HRMLLは、室内温度の現在値に依存し、以下の式によって算出することができる。
RMUL=H(TRMPV_sat,RHRMUL
RMLL=H(TRMPV_sat,RHRMLL
なお、H(T,RH)は、室内温度がTであり、室内相対湿度がRHである場合の室内絶対湿度を与える関数である。また、TRMPV_satは、TRMPVをTRMLLとTRMULとの間で飽和させた値である。つまり、TRMPV<TRMLLの場合にはTRMPV=TRMLLとし、TRMPV>TRMULの場合にはTRMPV=TRMULとしたものである。H(T,RH)は、以下の式によって表される。
H=0.62P/(PT−P)
ここで、PT=1013であり、P=(RH/100)×Pであり、P=6.11×10^(7.5×T/(T+237.3))(Tetensの式)である。
送風ファン14の送風口では、空気は飽和状態であることから露点DPが検出されるため、Tetensの式のTにDPを代入してRH=100とすることにより、後述するHSAPVを求めることができる。なお、前述した(3)の式によって求められる絶対湿度の上限値HRMULおよび下限値HRMLLは、領域APの上端および下端の点P1,P2の絶対湿度を示す。
【0043】
ステップS12:CPU30は、送風温度上下限補正処理を実行する。具体的には、以下の処理を実行する。なお、この処理により、送風空気の温湿度が設定範囲内にあるにも拘わらず、室内温湿度が設定範囲を外れる場合に、送風空気の温湿度の設定範囲を適切な範囲に変更することができる。
(1)TSALL≦TSAPV≦TSAULかつINV=INVLLかつTRMLL>TRMPVが成立する状態が、例えば、10分間継続した場合には、ΔTSALLを以下の式により求めて設定(補正)する。
ΔTSALL←ΔTSALL+(TRMLL−TRMPV)−(TSALL−TSAPV
すなわち、送風空気の温度が上下限の範囲に収まり、かつ、インバータの周波数が最低であり、かつ、室内温度の現在値が下限値を下回る状態が10分以上続く場合は、送風空気温度の下限からの不足分を示すΔTSALLの値が更新される。これにより、領域ANの左辺を示すT1が変更される。
なお、以上の式において←(矢印)は、右辺から左辺への代入を示す。
(2)TSALL≦TSAPV≦TSAULかつINV=INVULかつTRMPV>TRMULが成立する状態が、例えば、10分間継続した場合には、ΔTSAULを以下の式により求めて設定(補正)する。
ΔTSAUL←ΔTSAUL+(TRMUL−TRMPV)−(TSAUL−TSAPV
すなわち、送風空気の温度が上下限の範囲に収まり、かつ、インバータの周波数が最高であり、かつ、室内温度の現在値が上限値を上回る状態が10分以上続く場合は、送風空気温度の上限からの不足分を示すΔTSAULの値が更新される。これにより、領域ANの右辺を示すT2が変更される。
【0044】
ステップS13:CPU30は、顕熱比補正処理を実行する。具体的には、以下の処理を実行する。
(1)現時点の顕熱比SHF_newを以下の式によって求め、予め設定された顕熱比SHFと比較する。この結果、図11,12に示すように、顕熱比を示す直線SHFが変更されるとともに、領域ANが変更されることになる。
SHF_new=(HRMPV−HSAPV)/(TRMPV−TSAPV
但し、小数点第一位を四捨五入して整数とする。
(2)以下のa)〜c)の条件のいずれかを満足する場合であって、SHFの変更を禁止するビット情報であるSHF変更禁止マスクがOFF(例えば、“0”)の状態であり、かつ、「外気をそのまま取り入れている状態」でない場合には、SHF=SHF_newとするとともに、SHF変更禁止マスクを、例えば、30分の間ON(例えば、“1”)の状態にする。なお、SHF変更禁止マスクの更新を30分間制限するのは、顕熱比の変化は通常は非常にゆっくり進行するので、オーバーシュートまたはアンダーシュートが発生しないようにするためである。
a)「TSALL≦TSAPV≦TSAULかつHSALL≦HSAPV≦HSAULかつ(HRMPV<HRMLLまたはHRMPV>HRMUL)」の状態が4分または8分以上継続し、SHF≠SHF_newである場合、または、
b)「TSALL≦TSAPV≦TSAULかつHRMLL≦HRMPV≦HRMULかつ(HSAPV<HSALLまたはHSAPV>HSAUL)」の状態が4分または8分以上継続し、SHF≠SHF_newである場合、または、
c)SHF≠SHF_newの状態が10分以上継続している場合。
【0045】
ステップS14:CPU30は、送風空気許容範囲を計算する。具体的には、以下の処理を実行する。なお、送風空気許容範囲とは、送風空気が収まるべき温湿度の範囲をいう。
(1)以下の式に基づいて送風空気の温度の上限値TSAULおよび下限値TSALLを求める。なお、TSALLの式の右辺の第2項は、条件「H(TSALL,100)=HSALL(TSALL)」を満たすときのTの値を示している。
SAUL=ΔTSAUL+18℃
SALL=ΔTSALL+T|H(TSALL,100)=HSALL(TSALL
なお、送風温度の下限値を示すTSALLの式は、その温度で相対湿度が100%となるときの絶対湿度が送風絶対湿度の下限値となる温度を示す。換言すると、室内絶対湿度下限値(図12の領域APの下端の点P2)を通り、顕熱比がSHFで一定の線と飽和線とが交わる点(図12の点P3)の温度である。
(2)以下の式に基づいて送風空気の現在温度TSAPVに対する湿度の上限値HSAULおよび下限値HSALLを求める。
SAUL(TSAPV)=HRMUL−SHF(TRMPV_sat−TSAPV
SALL(TSAPV)=HRMLL−SHF(TRMPV_sat−TSAPV
ここで、TRMPV_satは、TRMPVをTRMLLとTRMULとの間で飽和させた値である。つまり、TRMPV<TRMLLの場合にはTRMPV=TRMLLとし、TRMPV>TRMULの場合にはTRMPV=TRMULとしたものである。なお、以下では、簡略化のため、HSAUL(TSAPV)を単にHSAULと表し、HSALL(TSAPV)を単にHSALLと表す。
【0046】
ステップS15:CPU30は、送風空気の温湿度の現在値と、上下限値との間の偏差を計算する。具体的には、以下の処理を実行する。
(1)以下の式に基づいて、E_HSAUL、ESUM_HSAUL、および、DE_HSAUL(t)を求める。ここで、E_HSAULは、送風空気の絶対湿度の上限値からの偏差を示す。ESUM_HSAULは、送風空気の絶対湿度の上限値からの積分誤差を示す。DE_HSAUL(t)は、時刻tにおける送風空気の絶対湿度の上限値からの微分誤差を示す。
E_HSAUL=HSAUL−HSAPV(但し、E_HSAULは、−∞〜0の範囲を超えないように飽和させる。)
ESUM_HSAUL=ESUM_HSAUL+E_HSAUL(但し、ESUM_HSAULは、−100/KICC_dehum〜0の範囲を超えないように飽和させる)
DE_HSAUL(t)=HSAPV(t)−HSAPV(t−30)(但し、HSAPV(t)は時刻tにおける送風空気の絶対湿度の値を示す。また、HSAPV(t−30)は、現在から30秒前の送風絶対湿度の値を示す)
(2)以下の式に基づいて、E_HSALL、ESUM_HSALL、および、DE_HSALL(t)を求める。ここで、E_HSALLは、送風空気の絶対湿度の下限値からの偏差を示す。ESUM_HSALLは、送風空気の絶対湿度の下限値からの積分誤差を示す。DE_HSALL(t)は、時刻tにおける送風空気の絶対湿度の下限値からの微分誤差を示す。
E_HSALL=HSALL−HSAPV(但し、E_HSALLは、0〜∞の範囲を超えないように飽和させる)
ESUM_HSALL=ESUM_HSALL+E_HSALL(但し、ESUM_HSALLは、0〜100/KISMの範囲を超えないように飽和させる)
DE_HSALL(t)=HSAPV(t)−HSAPV(t−30)
(3)以下の式に基づいて、E_TSAUL、ESUM_TSAUL、および、DE_TSAUL(t)を求める。ここで、E_TSAULは、送風空気の温度の上限値からの偏差を示す。ESUM_TSAULは、送風空気の温度の上限値からの積分誤差を示す。DE_TSAUL(t)は、時刻tにおける送風空気の温度の上限値からの微分誤差を示す。
E_TSAUL=TSAUL−TSAPV(但し、E_TSAULは、−∞〜0の範囲を超えないように飽和させる)
ESUM_TSAUL=ESUM_TSAUL+E_TSAUL(但し、ESUM_TSAULは、−100/KICC_cool〜0の範囲を超えないように飽和させる)
DE_TSAUL(t)=TSAPV(t)−TSAPV(t−30)(但し、TSAPV(t)は時刻tにおける送風空気の絶対湿度の値を示す。)
(4)以下の式に基づいて、E_TSALL、ESUM_TSALL、および、DE_TSALL(t)を求める。ここで、T_HSALLは、送風空気の温度の下限値からの偏差を示す。ESUM_TSALLは、送風空気の温度の下限値からの積分誤差を示す。DE_TSALL(t)は、時刻tにおける送風空気の温度の下限値からの微分誤差を示す。
E_TSALL=TSALL−TSAPV(但し、E_TSALLは、0〜∞の範囲を超えないように飽和させる)
ESUM_TSALL=ESUM_TSALL+E_TSALL(但し、ESUM_TSALLは、0〜100/KIHCの範囲を超えないように飽和させる)
DE_TSALL(t)=TSAPV(t)−TSAPV(t−30)
【0047】
なお、偏差を4通り求めているのは、各バルブの操作量を必要最小限にするためである。すなわち、「冷却は送風空気の温度上限値を基準にして制御を行い」、「除湿は送風空気の絶対湿度上限を基準にして制御を行い」、「加熱は送風空気の温度下限値を基準にして制御を行い」、「加湿は送風空気の絶対湿度下限を基準にして制御を行う」ことにより、不必要な冷却、加熱、除湿、加湿を行わないようにしている。
【0048】
また、偏差(E_)を飽和させているのは、送風空気の温湿度が領域ANの範囲内の場合は、偏差に応じた比例出力を行わない、いわゆるゲインスケジューリング型PID制御を行うためである。なお、「ゲインスケジューリング型PID制御」とは、PIDの制御係数を、状態の変化と共に変えることによって、常に最善の制御性能を実現する制御方法をいう。
【0049】
さらに、積分誤差(ESUM_)を飽和させているのは、操作量が上下限を超えた場合には、積分誤差をそれ以上蓄積させない、いわゆる、リセットワインドアップ対策のためである。
【0050】
ステップS16:CPU30は、制御量を算出する。具体的には、以下の処理を実行する。
(1)以下の式に基づいて、冷却コイル11の制御量(バルブ開度)MVCCを計算する。
MVCC=min(MVCC_cool,MVCC_dehum
但し、min(x,y)は、x,yのうち、値の小さい方を選択する関数である。また、MMVCC_cool,MVCC_dehumは、以下の式により表される。
MVCC_cool=100−(KPCC_cool×E_TSAUL+KICC_cool×ESUM_TSAUL−KDCC_cool×DE_TSAUL
MVCC_dehum=100−(KPCC_dehum×E_HSAUL+KICC_dehum×ESUM_HSAUL−KDCC_dehum×DE_HSAUL
(2)以下の式に基づいて、加熱コイル12の制御量(バルブ開度)MVHCを計算する。
MVHC=KPHC×E_TSALL+KIHC×ESUM_TSALL−KDHC×DE_TSALL
(3)以下の式に基づいて、加湿装置13の制御量(バルブ開度)MVSMを計算する。
MVSM=KPSM×E_HSALL+KISM×ESUM_HSALL−KDSM×DE_TSALL
但し、HOAPV>HSALLの場合(外気の絶対湿度が送風絶対湿度の下限値よりも小さい場合)、MVSM=0(加湿装置13を停止)とする。これは、外気が湿度過多の場合には、加湿を行わないようにするためである。
【0051】
ステップS17:CPU30は、ステップS16において算出した制御量に基づいて、冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13を制御する。具体的には、ステップS16において算出したバルブ開度MVCC、MVHC、および、MVSMに基づいて、冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13のバルブの開度を制御する。
【0052】
ステップS18:CPU30は、送風ファン13の送風量を制御するための処理を実行する。なお、この処理の詳細については、図14に示すフローチャートを参照して後述する。
【0053】
ステップS19:CPU30は、センサ21およびセンサ22の出力を参照し、外気および送風空気が所定の条件を満たしているか否か(領域ANに属しているか否か)を判定し、条件を満たしていると判定した場合(ステップS19;YES)にはステップS20に進み、それ以外の場合(ステップS19;NO)にはステップS21に進む。具体的には、CPU30は、外気および送風空気の温湿度が以下の4つの条件を全て満足しているか否かを判定する。
(1)TSALL≦TSAPV≦TSAUL
(2)HSALL≦HSAPV≦HSAUL
(3)TSALL≦TOAPV≦TSAUL
(4)HOALL≦HOAPV≦HOAUL
すなわち、送風空気の現在温度TSAPVが送風空気の温度の上限値TSALLおよび下限値TSAULの範囲内にあり、かつ、送風空気の現在絶対湿度HSAPVが絶対湿度の上限値HSALLおよび下限値HSAULの範囲内にあり、かつ、外気の現在温度TOAPVが送風空気の温度の上限値TSALLおよび下限値TSAULの範囲内にあり、かつ、外気の現在の絶対湿度HOAPVが外気の湿度の上限値HOALLおよび下限値HOAULの範囲内にある場合には、ステップS20に進み、それ以外の場合にはステップS21に進む。ここで、外気のみならず、送風空気も判断対象としているのは、外気が冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13を通過する際に、これらの影響によって、温湿度が変化するため、通過後の温湿度が所定の範囲に収まっていることも監視する必要があるためである。
【0054】
なお、HOALLおよびHOAULは、正確には外気の現在温度TOAPVに基づいて決定されることからHOALL(TOAPV)およびHOAUL(TOAPV)と表され、これらの値は以下の式によって得られる。
OALL(TOAPV)=HRMLL−SHF(TRMPV_sat−TOAPV
OAUL(TOAPV)=HRMUL−SHF(TRMPV_sat−TOAPV
【0055】
ステップS20:CPU30は、外気をそのまま取り入れる処理を実行する。具体的には、CPU30は、バルブ開度を以下のように設定する。
MVCC=MVHC=MVSM=0
この結果、冷却コイル11、加熱コイル12、加湿装置13の運転が停止され、送風ファン14のみによって被調和室の空調がなされる。すなわち、被調和室の温度が高くなった場合には、送風ファン14の回転数が増加され、外気が取り入れられて温度が下げられる。また、被調和室の温度が低くなった場合には、送風ファン14の回転数が減少され、外気の取り入れ量が減少される。
【0056】
ステップS21:CPU30は、処理を終了するか否かを判定し、終了しないと判定した場合(ステップS21;NO)には、例えば、2秒が経過するまで待機した後、ステップS11に戻って前述の場合と同様の処理を繰り返し、それ以外の場合(ステップS21;YES)には処理を終了する。
【0057】
つぎに、図14を参照して、図13に示すステップS18の処理(送風量制御処理)の詳細について説明する。この図に示すフローチャートの処理が開始されると、以下のステップが実行される。
【0058】
ステップS30:CPU30は、偏差を算出する処理を実行する。具体的には、以下の処理を実行する。
(1)以下の式に基づいて室内温度の偏差E_TRMを計算する。
E_TRM=TRMSV−TRMPV
(2)以下の式に基づいて室内温度の積分誤差ESUM_TRMを計算する。
ESUM_TRM=ESUM_TRM+E_TRM(但し、ESUM_TRMは、−50/KIINV〜0の範囲を超えないように飽和させる)
(3)以下の式に基づいて室内温度の微分誤差DE_TRM(t)を計算する。
DE_TRM(t)=TRMPV(t)−TRMPV(t−300)
なお、TRMPV(t−300)は、300秒前の室内温度の値を示す。
【0059】
ステップS31:CPU30は、インバータの周波数を計算する。具体的には、以下の式に基づいてインバータの周波数を計算する。
INV=INVLL−(KPINV×E_TRM+KIINV×ESUM_TRM−KDINV×DE_TRM
【0060】
ステップS32:CPU30は、ステップS31において算出したインバータ周波数に基づいて、送風ファン14の回転数を制御する。この結果、INVの値が大きい場合には送風ファン14の回転数が速くなり、INVの値が小さい場合には送風ファン14の回転数が遅くなる。
【0061】
ステップS33:CPU30は、ステップS30の処理が実行されてから所定の時間(例えば、10秒)が経過したか否かを判定し、所定の時間が経過していない場合(ステップS33;NO)には同じ処理を繰り返し、それ以外の場合(ステップS33;YES)には元の処理に復帰(リターン)する。
【0062】
以上に説明したように、本発明の実施形態によれば、外気の温湿度が所定の範囲(領域AN)内に収まっている場合には、外気をそのまま取り入れるようにし、冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13を動作させないようにしたので、必要に応じて冷却、加熱、除湿、および、加湿動作を停止することにより、エネルギー効率を改善することができる。
【0063】
また、本実施形態では、外気の温湿度が領域AN内に収まっている場合において、室内空気の温湿度が領域AP内に収まらないときには、領域ANの範囲を調整するようにしたので、環境条件によらず、室内空気の温湿度条件を一定に保つことができる。
【0064】
また、本実施形態では、室内空気の顕熱比が変化した場合には、領域ANの範囲を調整するようにしたので、環境条件によらず、室内空気の温湿度条件を一定に保つことができる。
【0065】
また、本実施形態では、送風ファン14から吐出される空気の湿度の上限値および下限値を予め設定し、当該上限値および下限値と、センサ22によって検出される湿度の現在値とを比較し、比較結果に応じて冷却コイル11および加熱コイル12を可変パラメータPID制御によって調整し、室内湿度が上限値もしくは下限値内に収まるよう制御を行うようにした。より詳細には、本実施形態では、送風ファン14から吐出される空気の絶対湿度の現在値と上限値の偏差に基づいて可変パラメータPID制御により冷却コイル11のバルブ開度(冷却コイル11の冷却量を制御するためのバルブの開度)を計算し、または、送風ファン14から吐出される空気の絶対湿度の現在値と下限値の偏差に基づいて可変パラメータPID制御により加湿装置13のバルブ開度(加湿装置13の加湿量を制御するためのバルブの開度)を計算し、室内湿度が上限値もしくは下限値内に収まるように制御を行う。このような制御により、不必要な冷却、加熱、除湿、加湿を行わないようにすることで、エネルギー効率を高めることができる。つまり、本実施形態では、送風空気の温湿度の検出値と、温湿度の上下限値との比較に基づいて制御を行うことにより、制御の速度を向上させることができる。また、ある程度の許容範囲を設定して制御を行うとともに、許容範囲を適宜設定することにより、エネルギー効率を改善できる。
【0066】
(D)変形実施形態
なお、上記の形態例は、一例であって、これ以外にも各種の変形実施態様が存在する。例えば、以上の実施形態では、「外気をそのまま取り入れる」場合として、冷却コイル11、加熱コイル12、および、加湿装置13を全て停止させ、送風ファン14のみを動作させる場合を想定した。しかしながら、例えば、加熱コイル12または加湿装置13が廃熱(例えば、コージェネレーションの廃熱)を利用している場合には、加熱コイル12または加湿装置13を動作させたとしても、エネルギー効率は大きくは低下しない。そのような場合には、「外気をそのまま取り入れる」場合に、加熱コイル12または加湿装置13を動作させる場合を含めるようにしてもよい。
【0067】
また、以上の実施形態では、領域ANの上辺L1および下辺L2は、領域APの上端P1および下端P2を通る直線としたが、例えば、図15に示すように、領域APの上端P1および下端P2の間の2点を通る直線として定義してもよい。このような方法によれば、領域AP内に確実に収まる領域ANを定義することができる。なお、領域ANの上辺L1および下辺L2を、制御の状態に応じて設定するようにしてもよい。具体的には、室内空気の温湿度が領域APの上側に外れる場合には、上辺L1を図の下側に移動させ、室内空気の温湿度が領域APの下側に外れる場合には、下辺L2を図の上側に移動させることができる。
【0068】
また、以上の実施形態では、領域ANを平行四辺形の領域としたが、これ以外の形状を有するようにしてもよい。具体的には、室内の空気の温湿度が領域AP内に収まるような形状に設定するようにしてもよい。
【0069】
また、以上の実施形態では、領域ANおよび領域APを温度と相対湿度によって定義するようにしたが、温度と絶対湿度によって定義するようにすることも可能である。
【0070】
また、以上の実施形態では、2秒、10秒、4分、8分、10分、および、30分等の時間に関する各種パラメータが登場するが、これは、あくまでも一例であって、被空調室の広さや、空調装置の能力等に応じて、適宜変更することが望ましいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0071】
10 空気調和装置
11 冷却コイル
12 加熱コイル
13 加湿装置
14 送風ファン
21〜23 センサ
30 制御部
31 CPU
32 ROM
33 RAM
34 記憶装置
35 画像処理装置
36 I/F
37 バス
38 画像表示装置
39 入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気を取り入れて空調処理を施した後に被調和室に供給する空気調和装置において、
空調制御の目標となる温度範囲および湿度範囲によって定義される目標温湿度範囲と、前記外気を空調処理しないで前記被調和室に取り込んだ場合に、当該空気の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まる範囲としての空調不要温湿度範囲と、を設定する設定手段と、
前記外気の温湿度が前記空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量を調整することにより、前記被調和室の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まるように制御する制御手段と、
を有することを特徴とする空気調和装置。
【請求項2】
前記設定手段は、空気線図上において、空調処理の目標となる温度範囲および湿度範囲に基づいて前記目標温湿度範囲を定義するとともに、前記目標温湿度範囲の上端および下端によって指定される範囲内をそれぞれ通るとともに、前記被調和室の顕熱比に対応する傾きを有する第1および第2の顕熱比一定線と、前記目標温湿度範囲よりも低い温度を示す第1および第2の温度線とによって囲まれる領域として前記空調不要温湿度範囲を設定することを特徴とする請求項1記載の空気調和装置。
【請求項3】
前記設定手段は、前記顕熱比が変化した場合には、変化後の顕熱比に応じて前記第1および第2の顕熱比一定線を再設定することを特徴とする請求項2に記載の空気調和装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記送風量を変更しても前記被調和室の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まらない場合には、少なくともその時点における外気の温湿度が前記空調不要温湿度範囲から外れるように前記設定手段に再設定を実行させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の空気調和装置。
【請求項5】
前記制御手段は、送風される空気の絶対湿度の現在値と上限値との偏差に基づいて可変パラメータPID制御によって冷却装置を制御するとともに、送風される空気の絶対湿度の現在値と下限値との偏差に基づいて可変パラメータPID制御によって加湿装置を制御し、前記被調和室の湿度が上下限値で特定される範囲内に維持されるように制御することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の空気調和装置。
【請求項6】
外気を取り入れて空調処理を施した後に被調和室に供給する空気調和装置の制御方法において、
空調制御の目標となる温度範囲および湿度範囲によって定義される目標温湿度範囲と、前記外気を空調処理しないで前記被調和室に取り込んだ場合に、当該空気の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まる範囲としての空調不要温湿度範囲と、を設定する設定ステップと、
前記外気の温湿度が前記空調不要温湿度範囲内に属している場合には、空調処理を実行しないで送風量を調整することにより、前記被調和室の温湿度が前記目標温湿度範囲内に収まるように制御する制御ステップと、
を有することを特徴とする空気調和装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−185559(P2011−185559A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52942(P2010−52942)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】