説明

空胞化毒素中和剤

この発明は、副作用が少なく、耐性菌の発生のない、ヘリコバクター・ピロリ菌が関与する消化器疾患の予防、再発予防又は治療およびヘリコバクター・ピロリの除菌効果を有する医薬品、医薬部外品または飲食品を提供する。ヘリコバクター・ピロリが産生する空胞化毒素を中和(無毒化)する効果を有するプロアントシアニジン類、特に好ましくはリンゴ未熟果またはホップ苞に由来するプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、医薬品、医薬部外品、飲食品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ヘリコバクター・ピロリが産生する空胞化毒素を無毒化する効果を有するプロアントシアニジン類、特に好ましくはリンゴ、またはホップより得られるプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリが関与する消化器疾患の予防、再発予防又は治療およびヘリコバクター・ピロリ菌が産生する空胞化毒素の中和剤、医薬品、医薬部外品および飲食品に関する。
【背景技術】
ホップはアサ科の多年生植物であり、その毬花(未受精の雌花が成熟したもの)を一般にホップと呼んでいる。ホップにはこの花部の他、葉、蔓、根などの各部が存在する。ホップの毬花に存在するルプリン部分(球果の内苞の根元に形成される黄色の顆粒)は、ホップの苦味、芳香の本体であり、ビール醸造において酵母、麦芽と並んで重要なビール原料である。またホップは、民間療法では鎮静剤や抗催淫剤として通用している。ホップ苞はホップ毬花よりルプリン部分を除いたものであり、ビール醸造には有用とされず、場合によってはビール醸造の際に取り除かれ、副産物として生じる。その際、ホップ苞は土壌改良用の肥料として用いられる他に特に有効な利用法は見い出されておらず、より付加価値の高い利用法の開発が望まれている。
なお、本出願人の出願にかかる特許文献1、2、3、4、5、6ではホップ、特にホップ苞由来のポリフェノール類について、抗酸化作用、発泡麦芽飲料に対する泡安定化作用、抗う蝕作用、消臭作用、癌細胞転移抑制作用、トポイソメラーゼ阻害作用を有することを確認している。また、特許文献7では、RNA N−グリコシダーゼ活性、またはADPリボシルランスフェラーゼ活性を持つ蛋白質毒素中和効果を有することを確認している。
しかし、ホップ由来のプロアントシアニジン類について、ヘリコバクター・ピロリの産生する空胞化毒素の中和(無毒化)効果を明らかにした例はこれまでに見当たらない。
ヘリコバクター・ピロリ(以下単に「ピロリ菌」という)はらせん状の形態を有するグラム陰性桿菌であり、ワーレン及びマーシャルによりその存在が報告(非特許文献1)されて以来、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の消化器疾患の発症に、深く関与することが明らかとなっている(非特許文献2、3、4参照)。また、胃癌患者の90%以上がピロリ菌の保菌者であることなどから、ピロリ菌は胃癌の発生に関与している可能性が高く、WHOは1994年に「ピロリ菌はまぎれもなく胃癌の発癌因子である」と発表するに至っている。
ピロリ菌の産生する病因因子として、これまでにウレアーゼ、カタラーゼ、リポ多糖(LPS)などが報告されてきたが、近年、胃の粘膜細胞に空胞化変性を引き起こす空胞化毒素(VacA)の単独投与により動物モデルで胃炎が惹起されることが明らかとなり(非特許文献5)、空胞化毒素がピロリ菌の主要な病因因子であるという認識が急速に高まっている。
従来より、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の潰瘍性疾患の治療には、ソファルコン、プロウノトール等の抗潰瘍剤;オメプラゾール、ランソプラゾール等のプロトンポンプ阻害剤(PPI);ファモチジン、シメチジン等の胃酸分泌抑制剤(H2ブロッカー)等が用いられてきた。しかし、これらの薬物は、ピロリ菌に対する増殖抑制等の効果を有するものではなく、潰瘍性疾患に対する対症療法剤であった。そのため、上記のような薬剤による潰瘍性疾患の治癒が見られた後も、ピロリ菌が胃内に残存しているため、治療終了後の1年以内の再発率が80−90%もの高率であるという欠点を有していた。
上記のような欠点を克服するため、対症療法に加えて、ピロリ菌を除菌する治療法が提案され、ピロリ菌に抗菌効果を有するアモキシシリン、クラリスロマイシン、メトロニダゾール、チニダゾール等の抗生物質が臨床で用いられるようになった。現在ではプロトンポンプ阻害剤と、抗生物質2剤を組み合わせた、いわゆる新3剤併用療法が除菌治療の主流になっている。
しかし、新3剤併用療法にも、比較的多量の薬剤の長期投与が必要となるために、薬剤の副作用や菌交代症の発症が臨床上の問題として現実に生じている。また、抗生物質の使用は、菌体の破壊に伴い、ピロリ菌の産生する病因因子である空胞化毒素を胃粘膜周辺に多量に排出させる可能性が懸念される。さらに抗生物質の多用は、新たな、より強力な耐性菌の発生をもたらす恐れがある。以上のような知見を考え合わせると、現在広く用いられている新3剤併用療法も理想的な治療法であるとは言い難い。
日本ではピロリ菌の感染率が特に40代以上の世代で高いほか、潰瘍性疾患、および胃癌の発症率が欧米に比べ高く、仮に副作用や、耐性菌の問題のない治療法が見出された場合、産業上の価値は大きなものである。
【特許文献1】特開平09−002917号公報
【特許文献2】特開平09−163969号公報
【特許文献3】特開平09−295944号公報
【特許文献4】特開平10−025232号公報
【特許文献5】特開2000−327582号公報
【特許文献6】特開2001−039886号公報
【特許文献7】国際公開第02/07826号パンフレット
【非特許文献1】Lancet,1273−1275(1983)
【非特許文献2】Med.J.Aust.,142,436(1985)
【非特許文献3】Gastroenterology,102,1575(1992)
【非特許文献4】N.Engl.Med.,328,308(1993)
【非特許文献5】Infect.Immun.63,4154−4160(1995)
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、副作用が少なく、耐性菌の発生のない、ピロリ菌が関与する消化器疾患の予防、再発予防又は治療、およびピロリ菌が産生する空胞化毒素の中和効果を有する医薬品、医薬部外品、飲食品を提供することである。本発明者らは、これらの現状に鑑み、ピロリ菌を死滅させるのではなく、ピロリ菌が産生する空胞化毒素を無毒化する因子を見出すことにより、問題を解決することを試みた。もしも空胞化毒素の効果的な無毒化因子が見出されれば、その医学、産業上の意義には測り知れないものがある。
【発明の開示】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ホップおよびリンゴ中に存在するポリフェノールの一種が、ピロリ菌の産生する空胞化毒素を効果的に無毒化することを見出し、本発明を完成した。このポリフェノールは、リンゴの未熟果やホップの苞部分に特に多く含有される。
ホップに含まれるこのポリフェノールは、スチレン−ジビニルベンゼン樹脂などのポリフェノールと親和性を示す樹脂に吸着され、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しない性質を持ち、さらに5%程度の塩酸を含むアルコール溶液中で加熱した際には加水分解されシアニジンを生じる、プロアントシアニジン類であると考えられる。またこのプロアントシアニジン類は、GPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析において図1のようなクロマトグラムを与え、一方、吸光度分析において図2のような吸光度分布を与える。またリンゴに含まれるこのポリフェノールもスチレン−ジビニルベンゼン樹脂などのポリフェノールと親和性を示す樹脂に吸着され、5%程度の塩酸を含むアルコール溶液中で加熱した際には加水分解されシアニジンを生じる、プロアントシアニジン類であると考えられる。
すなわち、本発明は、プロアントシアニジン類、特に好ましくはホップまたはリンゴに由来するプロアントシアニジン類を有効成分として含有する空胞化毒素中和剤に関する。
空胞化毒素を中和する物質としては、5−ニトロ−2−(3−フェニルプロピルアミノ)ベンゼン酸やフロレチン、さらに一部のポリフェノール類が、空胞化毒素により生じる細胞膜上の電流の変化を抑制することが、Tombolaらによって示されている(Tombola F.et al.,FEBS Lett.543,184−189(2003))。しかし、これらの系で細胞膜上の電流の変化を抑制する物質は、空胞化毒素による細胞内の空胞化の阻害や、細胞への毒性の中和とは無関係であることが同じ文献に述べられている。また、これらの文献で細胞膜上の電流の変化を抑制する物質として示されている化合物は、ポリフェノール類ではあるものの、全てプロアントシアニジン類ではない化合物である。
従って、植物、特に好ましくはホップまたはリンゴに由来するプロアントシアニジン類を用いて空胞化毒素を無毒化する技術については、これまでに全く報告がなされていない。
【図面の簡単な説明】
図1はホップ由来のプロアントシアニジン類のGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)分析結果を示す図である。
図2はホップ由来のプロアントシアニジン類の吸光度分布を示す図である。
図3はホップ由来のプロアントシアニジン類のHPLC分析結果を示す図である。
図4はヒト胃癌細胞AZ−521の培養細胞における空胞化毒素の無毒化を示す図である。(実施例13)
図5はヒト腎臓癌細胞G401の培養細胞における空胞化毒素の無毒化を示す図である。(実施例13)
図6はヒト胃癌細胞AZ−521の培養細胞における空胞化毒素の細胞への取り込みの阻害を示す図である。(実施例14)
図7はヒト腎臓癌細胞G401の培養細胞における空胞化毒素の細胞への取り込みの阻害を示す図である。(実施例14)
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の空胞化毒素中和剤の原料としては、リンゴの未熟果のほか、ホップの蔓や苞部分が好適であるが、特にリンゴやホップの各部を分離せずに、全体を使用することもできる。
ホップ苞とは、ホップ毬果よりルプリン部分を取り除いて得られるものであり、一般に、ホップ毬果を粉砕後、ふるい分けによってルプリン部分を除くことによってホップ苞を得る。しかし、最近のビール醸造において、ホップ苞をふるい分けして除去する手間を省くために、ビール醸造に有用でないホップ苞を取り除かずにホップ毬果をそのままペレット状に成形し、ホップペレットとして、ビール醸造に利用する傾向にある。従って、本発明の原料として、ホップの蔓や苞を含むものであれば特に限定せず、ホップ苞を含むホップ毬果やホップペレットを原料としてもなんら問題ない。
空胞化毒素中和剤をホップから得る場合の製造法としては、ホップ蔓、苞、またはホップ苞を含むホップ毬果やホップペレット、あるいはそれらのホップ植物体の部分を含むものを原料とし、これを水または80v/v%以下のアルコール、アセトン、アセトニトリルなどの水と混和する有機溶媒の水溶液で抽出する。好適な例としては、エタノール50v/v%以下の含水エタノールが挙げられる。原料と抽出溶媒の割合は、1:20〜100(重量比)程度が望ましく、また抽出は4〜95℃、撹拌下、20〜60分間程度行われることが望ましい。濾過により抽出液を得るが、その際必要があればパーライトなどの濾過助材を用いることもできる。
かくして得られた抽出液より溶媒を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により除き、空胞化毒素中和剤を粉末として得ることができる。ここで得られた空胞化毒素中和剤は十分に実用に供しうるが、必要があれば以下に述べる吸着樹脂を用いる方法によってさらにその精製度を上げることもできる。ただしこの過程はあくまで空胞化毒素中和剤の精製度を上げるための工程であり、必要がなければ省略することもできる。
上記抽出液をポリフェノール類と親和性を持つ合成樹脂を粒状にしたものにより処理し、空胞化毒素中和剤を濃縮する。この工程は、粒状の合成樹脂を充填したカラムにホップ抽出液を通液し、カラムを十分に洗浄した後、カラムに吸着された空胞化毒素中和剤を溶出してもよいし、粒状の樹脂をホップ抽出液に浸漬し、バッチ処理して行う事も出来る。
合成樹脂に空胞化毒素中和剤を吸着させる際には、ホップ抽出液を15〜30℃の室温程度まで冷却した後、必要があれば、吸着効率を上げるために、減圧濃縮などによりあらかじめ抽出液の有機溶媒濃度を下げておくことが望ましい。合成吸着剤の材質としては、ヒドロキシプロピル化デキストラン、親水性ビニルポリマー、スチレン−ジビニルベンゼン重合体などを用いる事も出来る。
次いで合成樹脂を洗浄し、空胞化毒素中和剤の精製度をよりあげることができる。洗浄に用いる溶媒としては、水ないし1〜10w/w%のエタノール水溶液が好適であり、樹脂量の1〜10倍程度の溶媒量を用い、洗浄することが望ましい。
続いて、ポリフェノール類を吸着した合成樹脂より空胞化毒素中和剤を脱離溶出する。溶出に用いる溶媒としては含水アルコール、含水アセトン、含水アセトニトリルなどを用いることができ、特に好適な例としては30w/w%以上のエタノール水溶液またはエタノールが挙げられる。溶出溶媒の通液量は樹脂量の2〜6倍程度が望ましい。
得られた溶出液より溶媒を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により除き、空胞化毒素中和剤を粉末として得ることができる。また減圧濃縮の際、アルコール、アセトン、アセトニトリルなどを回収し、再利用することもできる。使用した合成樹脂は80v/v%以上のアルコール水溶液、0.05N程度の水酸化ナトリウム水溶液などで洗浄した後、繰り返し使用することが可能である。
かくして得られた空胞化毒素中和剤は、そのまま実用に供する事も出来るが、以下に述べるような限外ろ過膜を用いる方法によって、さらに精製度を上げる事も出来る。ただしこの過程はあくまで空胞化毒素中和剤の精製度を上げるための工程であり、必要がなければ省略することもできる。
上記方法で得られた空胞化毒素中和剤を、水、あるいは水と混和する有機溶媒に溶解し、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜で処理する。膜の素材としては、セルロース、セルロースアセテート、ポリサルフォン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエーテルスルホン、PVDFなど、通常限外ろ過膜の材質として使用するものであれば、特に制限なく用いることができる。また分画分子量は1,000以上であれば特に問題なく用いることができるが、あまり分画分子量の大きい膜を用いると、収量が極端に下がり、また分画分子量が小さい場合は、処理に要する時間が長くなるので、分画分子量5,000〜50,000程度の限外ろ過膜が好適である。また処理は、抽出溶媒の種類や抽出溶媒とホップまたはホップ苞の割合にもよるが、およそ上残り液の量が処理開始時の1/10〜1/100程度になるまで行うのが望ましい。その際の圧力は、限外ろ過膜やろ過装置にもよるが、およそ0.1〜10.0kg/cmであることが望ましい。また必要があれば、一度処理した上残り液を再び水などの適当な溶媒で薄め、同様に再処理して精製度を高めることもできる。
得られた上残り液の溶媒を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により除き、空胞化毒素中和剤を粉末として得ることができる。また減圧濃縮の際、アルコール、アセトン、アセトニトリルなどを回収し、再利用することもできる。
このようにして得られた空胞化毒素中和剤は、かすかに苦味を呈した無臭の肌色、褐色ないし淡黄色の粉末であり、ポリフェノールと親和性を持つ合成樹脂に吸着し、分画分子量が1,000以上の限外ろ過膜により処理した際に膜を透過しないプロアントシアニジンである。
なお収率は、ホップ苞重量換算で0.5〜20.0w/w%、ホップ毬果重量換算で0.5〜15.0w/w%である。
空胞化毒素中和剤をリンゴから得る場合の製造法としては、リンゴ果実、好ましくはリンゴ未熟果を、圧搾により搾汁し、空胞化毒素中和剤を含む溶液とし、その溶液を濃縮、凍結乾燥、スプレードライなどの通常の方法により粉末として用いることができる。また、必要に応じて空胞化毒素中和剤を、ポリフェノールに親和性のある粒状の樹脂などを充填したカラムなどを用いて精製し、精製度を上げて用いることもできる。その工程はホップより得られる空胞化毒素中和剤を濃縮精製する工程と同様の操作である。
かくして得られた空胞化毒素中和剤は、一般に使用される担体、助剤、添加剤等とともに製剤化することができ、常法に従って経口、非経口の製品として医薬品として用いることができ、また食品素材と混合して飲食品とすることができる。
医薬品は経口剤として錠剤、カプセル剤、顆粒剤、シラップ剤などが、非経口剤として軟膏剤、クリーム、水剤などの外用剤、無菌溶液剤や懸濁剤などの注射剤などがある。これらの製品を医薬として人体に投与するときは、2mg〜500mgを1日に1ないしは数回、すなわち2mg〜1000mgの全日量で投与し、十分にその効果を奏しうるものである。
本発明の空胞化毒素中和剤を含有する医薬品は、生理的に認めうるベヒクル、担体、賦形剤、統合剤、安定剤、香味剤などとともに要求される単位容量形態をとることができる。錠剤、カプセル剤に混和される佐薬は次のようなものである。トラガント、アラビアゴム、コーンスターチ、ゼラチンのような結合剤、微晶性セルロースのような賦形剤、コーンスターチ、全ゼラチン化澱粉、アルギン酸のような膨化剤、ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤、ショ糖、乳糖、サッカリンのような甘味剤、ペパーミント、アカモノ油、チェリーのような香味剤など。また、カプセル剤の場合は上記の材料に更に油脂のような液体担体を含有することができ、また、他の材料は被覆剤として、または製剤の物理的形態を別な方法で変化させることができる。例えば、錠剤はシェラック、砂糖で被覆することができる。シロップまたはエリキシル剤は、甘味剤としてショ糖、防腐剤としてメチルまたはプロピルパラベン、色素およびチェリーまたはオレンジ香昧のような香味剤を含有することができる。
注射剤のための無菌組成物は、注射用水のようなベヒクル中の活性物質、ゴマ油、ヤシ油、落花生油、綿実油のような天然産出植物油、またはエチルオレートのような合成脂肪ベヒクルを溶解または懸濁させる通常の方法によって処方することができる。また、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤などを必要に応じて配合することができる。外用剤としては基材としてワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールなどを用い、通常の方法によって軟膏剤、クリーム剤などとすることができる。
本発明の空胞化毒素中和剤を含有した飲食品は、上記製剤の形態でもよいが、あめ、せんべい、クッキー、飲料などの形態でそれぞれの食品原料に所要量を加えて、一般の製造法により加工製造することもできる。健康食品、機能性食品としての摂取は、病気予防、健康維持に用いられるので、経口摂取として1日数回に分けて、全日量として5mg〜500mgを含む加工品として摂取される。これらの飲食品に空胞化毒素中和剤を添加する際には、空胞化毒素中和剤を粉末のまま添加してもよいが、好ましくは空胞化毒素中和剤を1〜2%の水溶液またはアルコール水溶液の溶液あるいはアルコール溶液とし、飲食品に対し最終濃度が1〜10,000ppm、好ましくは100〜5000ppmとなるように添加することが望ましい。
本発明の空胞化毒素中和剤は、該消化器疾患を予防する目的で使用する際には予防剤として、いったん治癒した該消化器疾患の再発を予防する目的で使用する際には再発予防剤として、ピロリ菌を除去することによって該消化器疾患を治療する目的で使用する際には除菌剤として使用され得る。また、該消化器疾患を予防、再発予防又は治療する際に、本発明のヘリコバクター・ピロリ除菌剤を単独で使用してもよいし、プロトンポンプ阻害剤及び/又は抗生物質を併用してもよい。
本発明の空胞化毒素中和剤の一日投与量は、その用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度等により適宜選択されるが、通常有効成分である本発明化合物の量が成人1日当たり0.1〜2000mg程度、好ましくは0.5〜1800mg程度、特に好ましくは1.0〜1500mg程度とするのがよく、1日1〜4回に分けて、例えば空腹時に投与することができる。
以下、実施例を示すが本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
(ゲル型合成吸着剤によるホップ毬果からの空胞化毒素中和剤の調製)
ホップ毬果20gを乳鉢で粉砕し、2Lの水で撹拌下、95℃、40分間抽出した。ろ過後、放冷し、抽出液を親水性ビニルポリマー樹脂80mlを充填したカラムに通液し、次いで400mlの5%エタノール水溶液で洗浄した。さらに同カラムに80%エタノール水溶液400mlを通液し、同溶出液を回収し、凍結乾燥して、空胞化毒素中和剤800mgを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップからの収率は4%であった。
【実施例2】
(ゲル型合成吸着剤によるホップ苞からの空胞化毒素中和剤の調製)
ホップ苞20gを600mlの50%エタノール水溶液で撹拌下、30℃、20分間抽出した。ろ過後、減圧濃縮し、その濃縮液をスチレン−ジビニルベンゼン樹脂80mlを充填したカラムに通液し、次いで400mlの水で洗浄した。さらに同カラムに80%エタノール水溶液400mlを通液し、同溶出液を回収し、凍結乾燥して、空胞化毒素中和剤1.6gを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップ苞からの収率は8%であった。
【実施例3】
(限外ろ過膜によるホップ毬果からの空胞化毒素中和剤の調製)
ホップ毬果20gを乳鉢で粉砕し、2Lの水で撹拌下、95℃、40分間抽出した。ろ過後、放冷し、抽出液を分画分子量が50,000の限外ろ過膜により、1.0kg/cm、室温下、20mlになるまで処理した。得られた上残り液を減圧乾固し、空胞化毒素中和剤200mgを無臭のかすかに苦味を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップからの収率は1%であった。
【実施例4】
(限外ろ過膜によるホップ苞からの空胞化毒素中和剤の調製)
ホップ苞20gを600mlの50%エタノール水溶液で撹拌下、80℃、40分間抽出した。ろ過後、抽出液を分画分子量が1,000の限外ろ過膜により、3.0kg/cm、室温下、60mlになるまで処理した。得られた上残り液を凍結乾燥して、空胞化毒素中和剤0.8gを無臭のかすかに苦昧を呈した淡黄色の粉末として得た。ホップ苞からの収率は4%であった。
【実施例5】
(空胞化毒素中和剤のさらなる精製および定性分析)
実施例2で得た空胞化毒素中和剤0.8gを、500mlの10%エタノール水溶液に溶解し、分画分子量が5,000の限外ろ過膜により、1.0kg/cm、室温下、20mlになるまで処理した。得られた上残り液を凍結乾燥して、空胞化毒素中和剤0.4gを無臭のかすかに苦味を呈した肌色の粉末として得た。この粉末を下記に示すような条件でHPLC分析すると、図3に示すような特徴的なクロマトグラムとなり、また一般的なポリフェノール類の定量法のひとつであるカテキン定量(食品公定分析法)を行ったところカテキン含量に換算して40.6%の値を得た。
(HPLC条件)装置:島津LC−10Aシステム、カラム:ODS−80TM(東ソー、4.6mmI.D.×25cm)、移動相:(A液:B液)=(100:0)から同(50:50)まで30分間の直線グラディエント、A液:5%アセトニトリル(0.1%HCl含有)、B液:アセトニトリル、サンプル注入量:20μg、検出:200〜300nmでの多波長検出。
【実施例6】
(リンゴ未熟果からの空胞化毒素中和剤の調製)
リンゴ未熟果(平均重量5.03g)400gを1%塩酸酸性メタノールと共にホモジナイズした後、加熱還流しながら抽出し(3回)、抽出液を減圧濃縮してメタノールを留去後、クロロホルムを加えて分配し(2回)、水層を回収し、濾過後蒸留水で200mlにメスアップした。さらにSep−pak C18を用いた固相抽出法により精製し、凍結乾燥して空胞化毒素中和剤を得た。
【実施例7】
(錠剤、カプセル剤)
実施例5に従って得た物質 10.0g
乳糖 75.0g
ステアリン酸マグネシウム 15.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って錠剤、カプセル剤とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4、6に従って得た物質を添加した錠剤、カプセル剤も同様に得た。
【実施例8】
(散剤、顆粒剤)
実施例5に従って得た物質 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4、6に従って得た物質を添加した散剤、顆粒剤も同様に得た。
【実施例9】
(注射剤)
実施例5に従って得た物質 1.0g
界面活性剤 9.0g
生理食塩水 90.0g
合 計 100.0g
上記の各重量部を加熱混合、滅菌して注射剤とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4、6に従って得た物質を添加した散剤、顆粒剤も同様に得た。
【実施例10】
(飴)
ショ糖 20.0g
水飴(75%固形分) 70.0g
水 9.5g
着色料 0.45g
香 料 0.045g
実施例5に従って得た物質 0.005g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従って飴とした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4、6に従って得た物質を添加した飴も同様に得た。
【実施例11】
(ジュース)
濃縮ミカン果汁 15.0g
果 糖 5.0g
クエン酸 0.2g
香 料 0.1g
色 素 0.15g
アスコルビン酸ナトリウム 0.048g
実施例5に従って得た物質 0.002g
水 79.5g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4、6に従って得た物質を添加したジュースも同様に得た。
【実施例12】
(クッキー)
薄力粉 32.0g
全 卵 16.0g
バター 16.0g
砂 糖 25.0g
水 10.8g
ベーキングパウダー 0.198g
実施例5に従って得た物質 0.002g
合 計 100.0g
上記の各重量部の各成分を用い、常法に従ってクッキーとした。なお実施例5に従って得た物質の代わりに、それぞれ実施例1、2、3、4、6に従って得た物質を添加したクッキーも同様に得た。
【実施例13】
空胞化毒素の培養細胞に対する細胞毒性試験
ヒト胃癌由来細胞株であるAZ−521細胞またはヒト腎臓癌由来細胞株であるG401細胞を2.0×10cells/mlの懸濁液に調整した。その100μlを96穴プレートに分注した後、一晩放置して各々の細胞の単層膜を調製した。これに一定濃度の空胞化毒素と、各種濃度の実施例5または6で得た空胞化毒素中和剤を混合したものを37℃、30分インキュベーションした後添加した。空胞化毒素の最終濃度は120nM、実施例5または6の最終濃度は0−100μg/mlとした。プレートを5%CO雰囲気化、37℃で8時間培養した後、細胞に対する空胞化毒素の毒性を、ニュートラルレッド(0.05%PBS溶液)の空胞への取り込みの度合い(Ab540)により評価した。その結果を図4および図5に示す。実施例5および6で得た空胞化毒素中和剤の濃度に依存して、AZ−521細胞とG401細胞の双方に対して空胞化毒素による細胞毒性が無毒化された。
【実施例14】
培養細胞への結合
ヒト胃癌由来細胞株であるAZ−521細胞またはヒト腎臓癌由来細胞株であるG401細胞を2.0×10cells/mlの懸濁液に調整した。その100μlを96穴プレートに分注した後、一晩放置して各々の細胞の単層膜を調製した。各種濃度のビオチン標識空胞化毒素と、一定濃度の実施例5または6で得た空胞化毒素中和剤を37℃、30分インキュベーション後、細胞の単層膜に添加した。空胞化毒素の最終濃度は0−100nM、実施例5または6の最終濃度は10μg/mlとした。細胞の単層膜を5%CO、37℃インキュベータ中4時間培養した後、細胞を0.25%グルタルアルデヒドで固定した。細胞表面に接着したビオチン標識空胞化毒素の量を、アビジン標識したホースラディッシュペルオキシターゼ(Pharmacia)およびTMBZ色素の発色(Ab450nm)で評価した。その結果を図6および図7に示す。実施例5または6の得た空胞化毒素中和剤の濃度に依存して、空胞化毒素の細胞への結合が阻害された。
【実施例15】
マウス胃傷害実験
24時間絶食(飲水のみ自由摂取)した4週齢のC57BL/6Jマウスに対し、体重10g当り5μgの空胞化毒素および50−250μgの実施例5を、経口ゾンデを用いて投与した。動物は1匹ずつ個別ゲージにて飼育し、投与48時間後、胃を摘出した。摘出標本を10%ホルマリンにて固定し、その前後で実体顕微鏡観察を行った。固定標本はヘマトキシリンエオジン染色を行いGhiaraらの方法(Ghiara.P.,et al.Infect.Immun.63,4154−4160.(1995))に従い、胃傷害の程度を点数化し、評価した。その結果を表1に示す。実施例5は有意に胃の傷害を抑制した。

産業上の利用の可能性
本発明の空胞化毒素中和剤は、空胞化毒素を無毒化する効果を有するので、空胞化毒素を病原因子とする感染症の予防および治療上有効なものである。本発明品は空胞化毒素を病原因子とする感染症の予防/治療剤および生化学的実験用試薬などとして製品化することができる。
ピロリ菌が関与する消化器疾患としては、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃炎、胃癌、MALTリンパ腫等が例示される。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリコバクター・ピロリが産生する空胞化毒素を中和(無毒化)する効果を有するプロアントシアニジン類。
【請求項2】
プロアントシアニジン類がホップまたはホップ苞に由来するプロアントシアニジン類である、請求項1記載のプロアントシアニジン類。
【請求項3】
プロアントシアニジン類がリンゴに由来するプロアントシアニジン類である、請求項1記載のプロアントシアニジン類。
【請求項4】
請求項1記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリが関与する消化器疾患の予防剤、再発予防剤又は治療剤。
【請求項5】
請求項2記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリが関与する消化器疾患の予防剤、再発予防剤又は治療剤。
【請求項6】
請求項3記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリが関与する消化器疾患の予防剤、再発予防剤又は治療剤。
【請求項7】
請求項1記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリ菌が産生する空胞化毒素の中和剤。
【請求項8】
請求項2記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリ菌が産生する空胞化毒素の中和剤。
【請求項9】
請求項3記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する、ヘリコバクター・ピロリ菌が産生する空胞化毒素の中和剤。
【請求項10】
請求項1記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する医薬部外品。
【請求項11】
請求項2記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する医薬部外品。
【請求項12】
請求項3記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する医薬部外品。
【請求項13】
請求項1記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する飲食品。
【請求項14】
請求項2記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する飲食品。
【請求項15】
請求項3記載のプロアントシアニジン類を有効成分として含有する飲食品。

【国際公開番号】WO2005/032542
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【発行日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514515(P2005−514515)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014979
【国際出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(503361710)
【出願人】(599057618)
【Fターム(参考)】