説明

窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法

【課題】3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤は含有しておらず、研削加工を行っても表面粗さの小さい窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】耐食性を有する純度99%以上の窒化アルミニウム焼結体であって、密度が3.20×10kg/m以上であり、Caを200ppm以上400ppm以下、Siを10ppm以上100ppm以下、Cを220ppm以上1500ppm以下含有する。窒化アルミニウム焼結体は、3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤を含有せず、緻密化を促進する物質であるCaと阻害する物質であるSiおよびCを所定量含有する。これにより、研削面において窒化アルミニウム焼結体の表面粗さを小さくすることが可能となる。その結果、研削面の表面積が小さくなり、窒化アルミニウム焼結体の耐食性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置の部品、特に腐食性ガス環境下で使用される部品に用いられる高純度の窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムセラミックスは熱伝導率の高さ、耐食性の高さから、半導体製造におけるエッチングやCVD用の装置の部品として広く用いられている。この耐食性を向上させる方法として、表面粗さを小さくすることは有効である。一般的に、表面粗さを小さくすることで表面積が小さくなり、腐食のレートが低下する。
【0003】
一方、腐食によるパーティクルの発生という観点から、窒化アルミニウム焼結体を応用した部品には3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤は添加されていないことが望ましい。それは3A族、例えばYについていえばY−Al−O化合物は窒化アルミニウムよりも耐食性が高いため、これを焼結助剤として用いた窒化アルミニウム焼結体を腐食環境下で使用すると、先に窒化アルミニウム層が腐食され、Y−Al−O化合物が析出しそれが離脱し、パーティクルの原因となってしまうからである。
【0004】
たとえば、特許文献1〜5には、耐食性を向上できる窒化アルミニウム焼結体として、アルミニウムを除く金属元素の含有量が小さいものが開示されている。その中には、Ca、Si、Cの含有率または表面粗さについて言及している文献もあるが、特に、含有元素と表面粗さとの関係について考察したものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第436055号公報
【特許文献2】特許第2883207号公報
【特許文献3】特許第3447305号公報
【特許文献4】特許第3228921号公報
【特許文献5】特開平01−160873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、半導体製造装置の部品等に用いられる窒化アルミニウム焼結体の表面粗さは小さくすることが望ましい。できれば窒化アルミニウム焼結体の表面を研磨し、その表面粗さを小さくしておくことが望ましい。しかしながら、応用する部品の形状は複雑であることが多く、全面に研磨を施すことは困難である。つまり、表面粗さが大きくなり易い研削加工した面を含む窒化アルミニウム焼結体を耐食性部材として使用せざるを得ない。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤は含有しておらず、研削加工を行っても表面粗さの小さい窒化アルミニウム焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、耐食性を有する純度99%以上の窒化アルミニウム焼結体であって、密度が3.20×10kg/m以上であり、Caを200ppm以上400ppm以下、Siを10ppm以上100ppm以下、Cを220ppm以上1500ppm以下含有することを特徴としている。
【0009】
このように、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤を含有せず、緻密化を促進する物質であるCaと阻害する物質であるSiおよびCを所定量含有する。これにより、研削面において窒化アルミニウム焼結体の表面粗さを小さくすることが可能となる。その結果、研削面の表面積が小さくなり、窒化アルミニウム焼結体の耐食性を向上させることができる。
【0010】
(2)また、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、破断面を形成したとき、前記破断面の平均粒径が2μm以上8μm以下であることを特徴としている。このように、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、密度が高い上に十分に平均粒径が小さいため、研削面で大きな粒子は粒内破壊し、小さい粒子は粒界破壊する。その結果、研削面の表面粗さが小さくなる。
【0011】
(3)また、本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、耐食性を有する純度99%以上の窒化アルミニウム焼結体の製造方法であって、窒化アルミニウム粉末に、合計でCaが200ppm以上400ppm以下、Siが10ppm以上100ppm以下、Cが220ppm以上1500ppm以下含有されるように、Ca、SiおよびCのそれぞれの含有粉末を添加し、有機溶媒、分散剤およびバインダーとともに混合する工程と、前記混合物から得た顆粒を脱脂した原料に、7MPa以上の荷重をかけ、不活性雰囲気において1800℃以上で2時間以上ホットプレス焼成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
このように本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法では、3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤を添加せず、緻密化を促進する物質であるCaと阻害する物質であるSiおよびCを所定量添加する。これにより、研削面における窒化アルミニウム焼結体の表面粗さを小さくすることが可能となる。その結果、研削面表面積が小さくなり、窒化アルミニウム焼結体の耐食性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤は含有していない窒化アルミニウム焼結体の研削面の表面粗さを小さくすることが可能となる。その結果、表面積が小さくなり、窒化アルミニウム焼結体の耐食性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】表面粗さの測定方向を示す図である。
【図2】実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(窒化アルミニウム焼結体の構成)
次に、本発明の実施形態について説明する。本発明の窒化アルミニウム焼結体(以下、窒化アルミニウム焼結体)は、耐食性を有し、純度99%以上である。また、焼結体中にはCaを200ppm以上400ppm以下、Siを10ppm以上100ppm以下、Cを220ppm以上1500ppm以下含有している。
【0016】
このように、3A族の酸化物をはじめとする焼結助剤を含有せず、緻密化を促進する物質であるCaと阻害する物質であるSiおよびCを所定量含有するため、研削加工による窒化アルミニウム焼結体の表面粗さを小さくすることが可能となる。その結果、表面積が小さくなり、窒化アルミニウム焼結体の耐食性を向上させることができる。
【0017】
窒化アルミニウム焼結体の密度は、3.20×10kg/m以上である。また、破断面を形成したとき、破断面の平均粒径が2μm以上8μm以下である。密度が高い上に十分に平均粒径が小さいため、研削面で大きな粒子は粒内破壊し、小さい粒子は粒界破壊する。その結果、研削面の表面粗さが小さくなる。
【0018】
窒化アルミニウム焼結体の破断面の平均粒径は2〜8μmであり、4μm以上の粒子の50%以上は粒内破壊をしている。また、2μm以下の粒子の50%以下は粒界破壊をしている。
【0019】
(研削面の表面粗さが小さくなる理由)
従来の十分な焼結助剤を添加された窒化アルミニウム焼結体について、その破断面を観察すると粒界破壊が発生していることがわかる。そのため、これを研削加工すると脱粒が多く発生し、表面粗さを粒径以下とすることが困難である。
【0020】
焼結助剤を添加しない窒化アルミニウム焼結体の場合、その破断面は粒内破壊と粒界破壊が発生していることがわかる。しかし、密度を3.20×10kg/m以上にしようとする場合、必然的に助剤添加品よりも高温、長時間で焼成せねばならず、粒径が大きくなりやすい。粒界破壊も発生しているため、やはり脱粒が発生してしまい、表面粗さを粒径以下とすることは困難であった。
【0021】
これらに対し、緻密化を促進する物質であるCaと阻害する物質であるSiおよびCとの相反するものが添加されていることで、本発明の窒化アルミニウム焼結体に特徴のある微構造が形成されている。つまり、焼結助剤であるCaを添加することで緻密化を促進ししつ、緻密化を阻害するSiとCを添加することで、粒子径に分布をもった微構造となる。これを研削すると、大きな粒子は粒内破壊となり、小さい粒子は粒界破壊となるため、従来の窒化アルミニウム焼結体よりも表面粗さが小さくなる。
【0022】
(窒化アルミニウム焼結体の製造方法)
次に、上記のような構成の窒化アルミニウム焼結体の製造方法を説明する。まず、窒化アルミニウム粉末に、合計でCaが200ppm以上400ppm以下、Siが10ppm以上100ppm以下、Cが220ppm以上1500ppm以下含有されるように、Ca、SiおよびCのそれぞれの含有粉末を添加し、有機溶媒とともに混合する。このようにして得られた混合物から顆粒を作製し、その顆粒を脱脂して原料を作製する。なお、焼結体の窒化アルミニウムの純度は99%以上となるように設計した。
【0023】
原料中の酸素量は1.5重量%以下となるように設計する。1重量%以下であればなお好ましい。1.5重量%を上回る酸素量が存在すると、窒化アルミニウム焼結体中にAl−O−N化合物が生成する。この物質は熱伝導率の低下の要因となるため、焼結体中に存在しないことが好ましい。なお、XRDで検出不能(AlNのピークのみが検出された状態)であるか、SEMで確認できない場合には、存在しないと判断できる。
【0024】
Al−O−N化合物は、抵抗が低下する原因ともなりやすい。窒化アルミニウムの絶縁性を期待する製品に使用される場合には不利になる。窒化アルミニウム原料中の酸素量は、比表面積に依存しやすいため2〜5m/gであることが望ましい。比表面積は焼結性と相関がある。そのため比表面積が2m/g未満だと緻密化が困難となる。一方、5m/gを上回ると酸素量が多くなりやすくなる。その場合には、Nパージ等の低酸素雰囲気での保管であっても、保管時に酸素量が増える。
【0025】
次に、作製された原料をホットプレス用ダイス(カーボン治具)に充填し、7MPa以上の荷重をかけ、不活性雰囲気において1800℃以上で2時間以上ホットプレス焼成する。そして、焼成により製造された窒化アルミニウム焼結体は、応用される部品形状に応じて研削加工される。
【0026】
このようにして製造された窒化アルミニウム焼結体を用いた部品は、半導体製造装置、特にエッチング装置、CVD装置、スパッタ装置に好適であり、腐食性ガスに曝される環境での使用にその優位性が発揮される。たとえば、静電チャック、ヒータ、クランプリング等の素材に用いることができる。
【0027】
なお、脱脂およびホットプレスについては、上記のように顆粒を脱脂した後、ホットプレスのカーボン治具に充填してホットプレス焼成してもよいが、顆粒を金型によるプレス成形、CIP成形またはこれらの組合せにより成形し、それをホットプレスのカーボン治具に合うように加工した後に脱脂し、それをカーボン治具に設置しホットプレス焼成してもよい。この場合も基本的にホットプレス焼成炉ではなく別の炉を使用して脱脂する。
【0028】
以上のような脱脂工程に代えて、脱脂をホットプレス焼成炉でカーボン治具ごと行ってもよい。たとえば、顆粒をホットプレスのカーボン治具に充填して脱脂し、それをホットプレス焼成する方法を採ることもできる。また、顆粒を金型によるプレス成形、CIP成形またはこれらの組合せにより成形し、それをホットプレス用のカーボン治具に合うように加工してカーボン治具に設置し、その後、脱脂しホットプレス焼成してもよい。
【0029】
上記の工程例のうち、脱脂をホットプレス焼成炉とは別の炉で行なう場合には、カーボン治具の劣化を防止できる。また、脱脂をホットプレス焼成炉でカーボン治具ごと行う場合には、作業負担を軽減できる。
【0030】
(実験)
次に、窒化アルミニウムの焼結体について行なった実験を説明する。まず、比表面積2.8m/gの窒化アルミニウム原料粉末を準備し、窒化アルミニウム原料に存在するCa、SiおよびCの含有量を予め測定しておく。これらの含有量に、Ca、SiおよびCを添加したときに合計で所望の含有率(図2参照)になるように、Ca、SiおよびCの配合を決定し、その配合の通りに添加した。
【0031】
そして、Ca、SiおよびCを添加した窒化アルミニウム原料粉末に溶媒としてIPA、所定量の分散剤およびバインダーを添加し、これをボールミル混合した。混合物はスプレードライ乾燥して顆粒化した。これにより、粉末の流動性を向上できる。本発明では原料の焼結助剤が少なく、さらに焼結阻害物質が添加されているため、焼結しづらい。そのため、顆粒化して粉末のパッキングを上げることが有効である。その顆粒を脱脂し、各組成のための原料を作製した。
【0032】
次に、作製された原料をカーボン製のダイス(ホットプレス用のカーボン治具)に充填し、ホットプレス焼成した。ホットプレス焼成は、荷重7MPaをかけ、窒素雰囲気の下で、1800℃で2時間行なった。得られた窒化アルミニウムの焼結体の密度は3.20×10kg/mで、その形状は20×20×5mmであった。
【0033】
この焼結体の片面を横軸ロータリー研削盤で研削した。用いた砥石のサイズはφ350×30mmで、ダイヤモンド砥粒の粒度は#170であった。砥粒の結合剤は、レジンボンドであり、砥粒の集中度は100であった。砥石の回転数は1500rpm、テーブルの回転は36rpmと設定した。また、テーブル送りは30mm/回転、切り込み量は0.01mmと設定した。
【0034】
次に、検索面の表面粗さを測定した。図1は、表面粗さの測定方向を示す図である。窒化アルミニウム焼結体1の研削面2において、表面粗さの測定方向SRは、研削方向GRと垂直な方向に設定した。3本の直線に沿って、表面粗さRaを測定し、その平均値を計算した。
【0035】
図2は、実験結果を示す表である。上記の条件のもとで、試料No1〜5については、Siの含有率のみを変え、試料No6〜9については、Caの含有率のみを変え、試料No10〜14についてはCの含有率のみを変えて試料を作製、研削し、表面粗さを測定した。
【0036】
試料No1〜5について、Siの含有率が10ppm以上100ppm以下に入る試料No2〜4の表面粗さRaは0.4〜0.5μmであった。一方、Siの含有率が5ppmの試料No1の表面粗さは0.6μmであった。また、Siの含有率が110ppmの試料No5の表面粗さは0.7μmであった。
【0037】
また、試料No6〜9について、Caの含有率が200ppm以上400ppm以下に入る試料No7〜8の表面粗さRaは0.4〜0.5μmであった。一方、Caの含有率が180ppmの試料No6の表面粗さは0.8μmであった。また、Caの含有率が420ppmの試料No9の表面粗さは0.7μmであった。
【0038】
また、試料No10〜14について、Cの含有率が220ppm以上1500ppm以下に入る試料No11〜13の表面粗さRaは0.4〜0.5μmであった。一方、Cの含有率が180ppmの試料No10の表面粗さは0.6μmであった。また、Cの含有率が1600ppmの試料No14の表面粗さは0.7μmであった。このように、試料No2〜4、試料No7〜8、試料No11〜13の研削面の表面粗さは0.5μm以下であり、十分に小さいことが分かった。
【0039】
また、試料No2〜4、試料No7〜8、試料No11〜13を破断し、破断面を観察した。その結果、各試料の破断面の平均粒径は2〜8μmであることを確認できた。また、4μm以上の粒子の50%以上は粒内破壊をしており、2μm以下の粒子の50%以下は粒界破壊をしていることを確認できた。
【0040】
以上の実験により、本発明の窒化アルミニウム焼結体は、焼結助剤を含有せず、研削面の表面粗さが小さいため、耐食性に優れていることが実証された。
【符号の説明】
【0041】
1 窒化アルミニウム焼結体
2 研削面
SR 表面粗さの測定方向
GR 研削方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐食性を有する純度99%以上の窒化アルミニウム焼結体であって、
密度が3.20×10kg/m以上であり、
Caを200ppm以上400ppm以下、Siを10ppm以上100ppm以下、Cを220ppm以上1500ppm以下含有することを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
破断面を形成したとき、前記破断面の平均粒径が2μm以上8μm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
耐食性を有する純度99%以上の窒化アルミニウム焼結体の製造方法であって、
窒化アルミニウム粉末に、合計でCaが200ppm以上400ppm以下、Siが10ppm以上100ppm以下、Cが220ppm以上1500ppm以下含有されるように、Ca、SiおよびCのそれぞれの含有粉末を添加し、有機溶媒、分散剤およびバインダーとともに混合する工程と、
前記混合物から得た顆粒を脱脂した原料に、7MPa以上の荷重をかけ、不活性雰囲気において1800℃以上で2時間以上ホットプレス焼成する工程と、を含むことを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−112556(P2013−112556A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259457(P2011−259457)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】