説明

窒素、リン含有有機性排水の処理方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、窒素、リン含有有機性排水の処理方法に係り、特に、下水、し尿、産業排水などの窒素、リン含有有機性排水の生物学的処理において、脱窒素及び脱リン能力を増強、安定化し、併せて処理水清澄度の向上、汚泥発生量の削減を可能とする処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、硝化液循環型脱窒素活性汚泥法と嫌気好気式活性汚泥法を基礎とする硝化液循環型嫌気好気活性汚泥法(いわゆるA2 O法)の発展により、生物処理プロセスで窒素、リンを同時除去することが可能になってきた。しかし、硝化反応を担う硝化細菌の増殖速度が他の細菌(例えばBOD酸化菌、脱窒菌)と比較して小さいために、硝化細菌のウォッシュアウトを防ぐには汚泥滞留時間(SRT)を長くする必要があった。その結果、水理学的滞留時間(HRT)の大きなエアレーションタンクを必要とした。例えば、都市下水を脱窒、脱リン処理する場合には、HRTが14〜16時間のエアレーションタンクが必要であった。標準活性汚泥法のHRTが6〜8時間であることを考えれば、その大きさが理解できる。
【0003】そこで、最近では、硝化細菌を固定化担体に固定化することで硝化細菌の実質的なSRTを増加させて硝化細菌のウォッシュアウトを阻止し、HRT8〜12時間程度の運転条件で脱窒、脱リンを可能にする方法が開発されつつある。ここではその技術を固定化担体併用型循環式嫌気好気活性汚泥法と称する。この方法がHRTを短くできる最大の要因は、好気槽HRT:2〜3時間で硝化を完了させることができることによる。図3R>3に、固定化担体併用型循環式嫌気好気活性汚泥法のフローを示す。この方法によれば、窒素、リン、及び有機物の除去が概ね可能であるが、下記に示すような問題を有していることも明らかになっている。
(a)低水温期の処理水中に、アンモニアが残留するケースが度々認められた。
(b)処理水の清澄度が概して悪く、コロイダルな濁りが認められた。
(c)汚泥発生量が標準活性汚泥法よりも有意に高かった。
【0004】これらの問題点の発生原因を追求したところ、次のような原因が明らかになった。
(1)アンモニアの残留原因について好気槽の水質収支を詳細に調査したところ、硝化活性の低下と好気槽流入溶解性BOD(すなわち第二嫌気槽流出液中の溶解性BOD)の間に相関が認められ、好気槽流入溶解性BODが高くなるほど、硝化性能が低下する傾向が認められた。したがって硝化性能の低下原因は、好気槽固定化担体の表面にBOD酸化菌が付着増殖し、BOD酸化菌と固定化硝化細菌の間で溶存酸素の摂取を巡る競合が生じ、その結果硝化細菌の活性が低下したものと考えられた。
【0005】(2)処理水清澄度の低下原因について処理水清澄度と種々の運転操作因子との間で重回帰分析を行ったところ、処理水清澄度は浮遊活性汚泥の曝気時間が短いほど低下することが認められた。浮遊活性汚泥の曝気時間とは、好気槽滞留時間に相当する。これより、処理水清澄度の低下原因は、浮遊活性汚泥が好気的環境におかれる時間が相対的に短いために、通常の活性汚泥が有しているほどの濁質吸着能力を、固定化担体併用型循環式嫌気好気活性汚泥法の活性汚泥が有していないことが原因と考えられた。
【0006】(3)汚泥発生量が標準活性汚泥法よりも多い原因についてこれに関しても重回帰分析の結果、汚泥発生量の増加と浮遊活性汚泥と曝気時間との間に相関が認められ、曝気時間が短いほど汚泥発生量が多い傾向が認められた。これより、汚泥発生量の増加原因は、固定化担体併用型循環式嫌気好気活性汚泥法の活性汚泥は、通常の活性汚泥にくらべて好気的環境におかれる時間が相対的に短いために、汚泥の好気性消化による減少量が少ないためと考えられた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記問題点を解決することを課題としており、固定化担体併用型の循環式嫌気好気活性汚泥法において、(a)硝化細菌固定化担体と溶解性BOD成分の接触機会を減少させて、硝化細菌の固定化担体表面でのBOD酸化菌の増殖を抑制し、硝化細菌の活性を安定化させ、(b)浮遊活性汚泥の嫌気槽滞留時間と好気槽滞留時間の配分を適切に行うことで、処理水清澄度を高く保ち、かつ汚泥発生量の増加を抑制する、ことのできる窒素、リン含有有機性排水の処理方法を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、本発明では、窒素、リン含有有機性排水の嫌気工程、好気工程、固液分離工程の各工程を順次通す処理方法において、前記嫌気工程が浮遊活性汚泥を含む第一嫌気工程及び浮遊活性汚泥と微生物固定化担体を含む第二嫌気工程からなり、また好気工程が浮遊活性汚泥を含む第一好気工程及び浮遊活性汚泥と微生物固定化担体を含む第二好気工程からなると共に、前記固液分離工程で分離された活性汚泥を第一嫌気工程へ返送し、第二好気工程流出液を第二嫌気工程へ循環し、前記二つの好気工程の水理学的滞留時間が、第一嫌気工程から第二好気工程までの全水理学的滞留時間の40%以上であることとしたものである。本発明において、第一嫌気工程と第二嫌気工程あるいは第一好気工程と第二好気工程は、完全に分離された二つの反応槽である必要はない。例えば、一つの反応槽内で両工程の反応液が混合しないように隔壁が設けられていればよい。
【0009】第二嫌気工程及び第二好気工程に投入する固定化担体としては、活性炭、プラスチック、スポンジ、親水性ゲルなどの粒状担体が適当であるが、これらに限定されるものではない。その他に、ハニコム、紐状ろ材などの固定床、回転円板などを利用することも可能である。なお、粒状担体を使用する場合には、第二嫌気工程及び第二好気工程の入出口に、固定化担体が流出しないようなスクリーン等の担体分離手段を設ける必要がある。粒状担体の充填率としては、5〜25容量%が適切である。微生物を固定化担体へ固定化する方法としては、担体表面に自然付着させる付着固定化法(担体結合法)を採用することが多いが、ゲル包括固定化法の適用も可能である。
【0010】また、本発明では、好気工程の水理学的滞留時間(第一好気工程+第二好気工程のHRT)が、全水理学的滞留時間(第一嫌気工程から第二好気工程までのHRT)の40%以上であるのがよい。これにより、浮遊活性汚泥が好気的環境下におかれる時間を相対的に長くでき、(イ)処理水清澄度が高く維持されるとともに、(ロ)汚泥発生量の増加を削減できる。図2の横軸に(好気槽滞留時間/全滞留時間)比、縦軸に(処理水透視度)及び(除去BOD当たりの汚泥発生量)をプロットする。図より横軸が40%以上になると、処理水透視度及び汚泥発生量がほぼ一定になりなんら遜色がなくなることが明らかである。
【0011】更に、本発明では、第一好気工程の大きさが第二好気工程の5〜30%であるのがよい。これにより、好気工程流入水(すなわち第二嫌気工程流出水)の溶解性BODは第一好気工程で浮遊活性汚泥の体内に取り込まれるために、第二好気工程へ流入する溶解性BODは極めて少なくなる。その結果、第二好気工程の固定化担体上へは硝化細菌が優占的に増殖し、BOD酸化菌の付着増殖は抑制される。第一好気工程と第二好気工程の容積比率は、第二嫌気工程流出水の溶解性BODにより適宜調整されるが、通常5〜30%の範囲が適切であり、その中でも5〜20%であるのがよい。
【0012】
【作用】従来の固定化担体併用型循環式嫌気好気活性汚泥法では、好気工程に持ち込まれる溶解性BODの影響により、硝化細菌固定化担体上にBOD酸化菌が増殖し、硝化細菌と酸素摂取を巡って競合するために、硝化能力が不安定になりがちであった。本発明によれば、好気工程に持ち込まれるBOD成分の大部分は、硝化細菌の固定化担体と接触する前に、第一好気工程の活性汚泥によって活性汚泥体内に取り込まれる。従って、第二好気工程固定化担体表面でのBOD酸化菌の増殖は抑制される。従って、固定化されている硝化細菌とBOD酸化菌との酸素摂取を巡る競合は起こらないので、硝化能力を高い状態に維持することが可能である。また本発明では、従来法に比べて浮遊活性汚泥が好気的環境にさらされる時間を十分に確保できるために、浮遊活性汚泥の濁質吸着能力が増大する。その結果、処理水の清澄度が従来法よりも高くなる。また、浮遊活性汚泥の好気性消化が従来法よりも進むために、汚泥発生量の増加が抑制可能である。
【0013】
【実施例】以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実施例1本発明の処理方法と従来法(固定化担体併用型循環式嫌気好気活性汚泥法)の脱窒素、脱リン性能、並びに処理水透視度、余剰汚泥発生量を以下の条件での実験により比較する。
(a)被処理有機性排水・流入水質:BOD=150mg/l、ケルダール窒素=30mg/l、酸化態窒素=tr.、全リン=3mg/l、SS=100mg/l・処理水温:14〜17℃
【0014】(b)本発明図1に処理フローを示す。図1において、排水は、流入管1から第1嫌気工程2、第2嫌気工程3を通り、第1好気工程15及び第2好気工程16を通って処理され固液分離工程7で固液分離され、処理水は12から排出され、汚泥は第1嫌気工程2へ管8で返送され、一部は余剰汚泥として排出11される。第2好気工程16を出た処理水の一部は硝化液循環配管9により、第2嫌気工程3に循環される。10は空気配管、6,14は担体5,13の分離装置である。
【0015】
・好気工程:第一嫌気槽・・・200リットル(HRT=2.5時間)
第二嫌気槽・・・300リットル(HRT=2.0時間)
第一好気槽・・・ 50リットル(HRT=0.5時間)
第二好気槽・・・250リットル(HRT=3.0時間)
─────────────────────────── 計 800リットル(HRT=8.0時間)
・処理水量:2.4m3 /日・返送汚泥量:1.2m3 /日・硝化液循環量:4.8m3 /日・通気量:40Nl/分・固定化担体第二嫌気槽:スポンジ(10mm×12.5mm×12.5mm)を60リットル投入。スポンジの流出を防止するために、目開き7.5mmのスクリーンを第二嫌気槽の入出口に設置。
第二好気槽:親水性ゲル(主鎖ポリビニルアルコール、粒径5mm)を50リットル投入。ゲルの流出防止のために、目開き4mmのスクリーンを第二好気槽の入出口に設置。
【0016】(c)従来法・処理フローは図3の通りである。図3において、図1と同じ符号は同一の意味を有するが、好気工程は1槽4のみである。
・好気工程:第一嫌気槽・・・200リットル(HRT=2.5時間)
第二嫌気槽・・・300リットル(HRT=3.0時間)
好 気 槽・・・300リットル(HRT=2.5時間)
─────────────────────────── 計 800リットル(HRT=8.0時間)
・処理水量:2.4m3 /日・返送汚泥量:1.2m3 /日・硝化液循環量:4.8m3 /日・通気量:40Nl/分・固定化担体:親水性ゲル(主鎖ポリビニルアルコール、粒径5mm)60リットルを好気槽へ投入。ゲルの流出防止のために、目開き4mmのスクリーンを好気槽の入出口に設置。
【0017】(d)運転結果図4に、処理水全窒素及び全リンの経日変化を示す。従来法の処理水にはアンモニアが0.5〜10mg/リットル残留してT−Nが10〜20mg/リットルであったのに対して、本発明の処理水アンモニアは常に0.1〜1mg/リットルであり、T−Nは10mg/リットル以下であった。またリンに関しては、従来法の処理水全リンが0.5〜1.2mg/リットルに対して、本発明の全リンは0.5〜1.0mg/リットルであった。このように、本発明は窒素除去が安定化されるとともに、リンの除去も可能であった。
【0018】図5に、処理水透視度の経日変化を示す。従来法の透視度が20〜30cmで推移したのに対して、本発明の透視度は30〜50cmであり、本発明の処理水は、清澄性が高いものであった。表1に、余剰汚泥発生量(除去BOD当り)を示す。
【表1】


このように、本発明は従来法よりも汚泥発生量が少なかった。
【0019】
【発明の効果】以上述べたように、本発明によれば窒素、リン含有有機性排水の処理において、安定した脱窒素、脱リンが可能であり、また処理水清澄度を高く維持し、汚泥発生量を従来法よりも削減することが可能である。本発明は、今後の窒素、リン含有有機性排水の生理学的処理法に広く採用されていくものと確信する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理方法を示すフロー構成図である。
【図2】好気槽滞留時間/全滞留時間の比と処理水透視度及び汚泥発生量の関係を示すグラフである。
【図3】従来法の処理方法を示すフロー構成図である。
【図4】処理結果を示すグラフである。
【図5】処理結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1:被処理有機性排水流入管、2:第一嫌気工程、3:第二嫌気工程、4:好気工程、5:固定化担体、6:担体分離装置、7:固液分離工程、8:返送汚泥管、9:硝化液循環配管、10:空気配管、11:余剰汚泥排出管、12:処理水配管、13:固定化担体、14:担体分離装置、15:第一好気工程、16:第二好気工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒素、リン含有有機性排水の嫌気工程、好気工程及び固液分離工程の各工程を順次通す処理方法において、前記嫌気工程が浮遊活性汚泥を含む第一嫌気工程及び浮遊活性汚泥と微生物固定化担体を含む第二嫌気工程からなり、また好気工程が浮遊活性汚泥を含む第一好気工程及び浮遊活性汚泥と微生物固定化担体を含む第二好気工程からなると共に、前記固液分離工程で分離された活性汚泥を第一嫌気工程へ返送し、第二好気工程流出液を第二嫌気工程へ循環し、前記二つの好気工程の水理学的滞留時間が、第一嫌気工程から第二好気工程までの全水理学的滞留時間の40%以上であることを特徴とする窒素、リン含有有機性排水の処理方法。
【請求項2】 前記第一好気工程の大きさが第二好気工程の5〜30%であることを特徴とする請求項1記載の窒素、リン含有有機性排水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【特許番号】第2556409号
【登録日】平成8年(1996)9月5日
【発行日】平成8年(1996)11月20日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−23401
【出願日】平成4年(1992)1月14日
【公開番号】特開平5−185090
【公開日】平成5年(1993)7月27日
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【出願人】(000140100)株式会社荏原総合研究所 (6)
【参考文献】
【文献】特開昭60−251997(JP,A)
【文献】特開昭61−220792(JP,A)