説明

立毛布帛および立毛布帛製品

【課題】立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えた立毛布帛、および該立毛布帛を用いてなる立毛布帛製品を提供する。
【解決手段】立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛において、前記立毛部に、単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aを含ませて立毛布帛を得た後、必要に応じて該立毛布帛を用いて立毛布帛製品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えた立毛布帛、および該立毛布帛を用いてなる立毛布帛製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛は、外観、触感、風合いなどに優れるため、衣料用途を始め、家具用椅子張材、自動車、電車などの車輌内装材、スキンケア用具、塗装用ペイントローラーなど、多用途に用いられている。特に立毛糸に極細繊維を用いたものはソフト性な風合いに優れるという特徴を有している(例えば特許文献1参照)。
しかしながら、立毛糸に極細繊維を用いた立毛布帛では、反発性に劣るため使用や着用により立毛糸がへたってしまい、外観品位が損われるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−84989号公報
【特許文献2】特開2007−291567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えた立毛布帛、および該立毛布帛を用いてなる立毛布帛製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛において、前記立毛部に、特定の単繊維径を有する超極細繊維からなる立毛糸を配すと、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えた立毛布帛が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記立毛部に、単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aが含まれることを特徴とする立毛布帛。」が提供される。
【0007】
その際、前記立毛部に、他の立毛糸として、単繊維径が5〜40μmのポリエステル立毛糸Bが含まれていることが好ましい。その際、前記立毛部に含まれる、ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比が(ポリエステル立毛糸A:ポリエステル立毛糸B)15:85〜85:15の範囲内であることが好ましい。また、前記立毛糸の立毛糸高さが0.5〜20mmの範囲内のカットパイル糸であることが好ましい。また、前記ポリエステル立毛糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が50〜1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなる立毛糸であることが好ましい。また、前記ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとが、ポリエステル立毛糸A用糸条とポリエステル立毛糸B用糸条とで構成される複合糸から製造されたものであることが好ましい。また、前記地組織部がポリエステル繊維で構成されることが好ましい。
【0008】
本発明によれば、前記の立毛布帛を用いてなる、スキンケア用具、ヘルスケア用具、化粧用パフ、塗装用ペイントローラー、カーシート、吸音シート、液晶素子製造用ラビング布帛、研磨布、ワイピング材からなる群より選択されるいずれかの用途に使用される立毛布帛製品が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えた立毛布帛、および該立毛布帛を用いてなる立毛布帛製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明において、立毛糸の立毛長を説明するための説明図である。
【図2】KES風合い計測器による圧縮特性曲線を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の立毛布帛は、有機繊維で構成される地組織部と、該地組織部に織り込まれるか、または編み込まれてなる立毛糸から構成される立毛部とで構成される。ここで、立毛糸はループパイル糸でもよいが、適度な反発性を得る上でカットパイル糸であることが好ましい。また、立毛糸の立毛糸高さLとしては、立毛部のソフトな風合いと適度な反発性とを両立させる上で、0.5〜20mm(より好ましくは1.0〜10mm)の範囲内であることが好ましい。該立毛糸高さLが0.5mmよりも小さいと、立毛部のソフトな風合いが損われるおそれがある。逆に、該立毛糸高さLが20mmよりも大きいと、適度な反発性が損われるおそれがある。
【0012】
前記立毛部には、単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aが含まれる。該ポリエステル立毛糸Aにおいて、その単繊維径(単繊維の直径)が50〜1500nm(好ましくは100〜800nm、特に好ましくは550〜800nm)の範囲内であることが肝要である。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1500nmよりも大きい場合は、立毛部が超極細繊維特有のソフトな風合いを呈さないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状は特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよく、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0013】
前記ポリエステル立毛糸Aを形成するポリマーの種類としては、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。なお、ポリエステル以外のポリアミドなどのポリマーでは、布帛の耐光性や耐摩耗性が損われるため好ましくない。
【0014】
前記ポリエステル立毛糸Aは、後記のように、海成分とポリエステルからなりその径が50〜1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなる立毛糸であることが好ましい。
【0015】
本発明において、立毛部は前記ポリエステル立毛糸Aのみで構成されていてもよいが、前記ポリエステル立毛糸Aと他の立毛糸とで構成されていてもよい。例えば、かかる他の立毛糸としては、単繊維径が5〜40μm(好ましくは6〜25μm)のポリエステル立毛糸Bが好ましい。ポリエステル立毛糸Bの単繊維径が5μm以下であると、立毛部が前記ポリエステル立毛糸Aのみからなる場合と同様、立毛部の反発性が損われるおそれがある。逆に該単繊維径が40μmよりも大きいと、超極細繊維が有するピーチタッチ状の独特の風合いが損われるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。また、該ポリエステル立毛糸Bは、通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0016】
前記ポリエステル立毛糸Bを形成するポリマーの種類としては、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。なお、ポリエステル以外のポリアミドなどのポリマーでは、布帛の耐光性や耐摩耗性が損われるため好ましくない。
【0017】
本発明の立毛布帛において、前記ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとが立毛部に含まれる場合、前記ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比が(ポリエステル立毛糸A:ポリエステル立毛糸B)15:85〜85:15の範囲内であることが好ましい。前記ポリエステル立毛糸Aの重量比が該範囲よりも小さいと立毛部のソフトな風合いが損なわれるおそれがある。また、ポリエステル立毛糸Bの重量比が該範囲よりも小さいと立毛部の適度な反発性が損なわれるおそれがある。
【0018】
なお、前記立毛部は、前記ポリエステル立毛糸Aのみ、あるいは前記ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bだけで構成されることが好ましいが、立毛部の全重量に対して30重量%以下であれば、前記ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸B以外の他の立毛糸が含まれていてもさしつかえない。
【0019】
本発明の立毛布帛は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分とポリエステルからなりその径が50〜1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(ポリエステル立毛糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0020】
すなわち、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0021】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0022】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。その際、該径が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0023】
かかる海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。そして、必要に応じて撚糸を施す。かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊度30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。
【0024】
一方、必要に応じて、単繊維径が5〜40μmのポリエステル立毛糸B用繊維を用意する。該ポリエステル立毛糸B用繊維において、単繊維繊度が0.1dtexより大(好ましくは0.2〜6dtex)であることが好ましい。また、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本(好ましくは40〜200本)の範囲内であることが好ましい。
【0025】
次いで、立毛部用繊維として、前記ポリエステル立毛糸A用海島型複合繊維のみ、あるいは前記ポリエステル立毛糸A用海島型複合繊維とポリエステル立毛糸B用繊維とを用い、地組織部用繊維として例えばポリエステル繊維を用いて常法によりループパイル織編物を製編織する。
【0026】
織編組織としては特に限定されないが、例えば経パイル織物、緯パイル織物、シンカーパイル編物、ラッセルパイル編物、トリコットパイル編物などが好ましい。そして、必要に応じてループパイルをカットする。この際、立毛糸高さが0.5〜20mmの範囲内になるようにカットすることが好ましい。
【0027】
その際、前記ポリエステル立毛糸A用海島型複合繊維とポリエステル立毛糸B用繊維とを用いる場合、前記ポリエステル立毛糸A用海島型複合繊維とポリエステル立毛糸B用繊維が複合糸として製編織されていると、最終的に得られる立毛布帛の立毛部において、ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとがランダムに混在し、その結果、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えることになり好ましい。かかる複合糸の複合方法としては、インターレース空気加工、カバリング加工、引き揃え仮撚捲縮加工などが例示される。
【0028】
次いで、該布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維を単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜5%のNaOH水溶液を使用し55〜80℃の温度で処理するとよい。かかるアルカリ水溶液処理は前記カットの前の工程で行ってもよいが、前記カットの後の工程で行うことが好ましい。
【0029】
次いで、必要に応じて、常法の染色加工、バフ加工、起毛加工、裏面バックコーテイング、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0030】
かくして得られた立毛布帛の立毛部には、単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aが含まれるので立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備える。特に、立毛部に、単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aと単繊維径が5〜40μmのポリエステル立毛糸Bとが含まれる場合は、立毛部がソフトな風合いとさらに適度な反発性とを兼ね備える。その際、反発性の指標として、KES風合い計測器による布帛の圧縮回復率(立毛布帛の厚さ方向の圧縮回復率)が30%以上(より好ましくは40〜80%)であることが好ましい。ただし、該圧縮回復率は、KES風合い計測器による圧縮特性(圧縮方向:立毛布帛の厚さ方向、圧縮面積:2cm、圧縮速度:50sec/mm、指定圧力:49cN/cm(50gf/cm))における曲線(図2に例示)から求める三角形ABCにおけるaの面積とbの面積から下記の式で圧縮回復率を計算する。
圧縮回復率=bの面積/(aの面積+bの面積)×100
【0031】
次に、本発明の立毛布帛製品は、前記の立毛布帛を用いてなる、スキンケア用具、ヘルスケア用具、化粧用パフ、塗装用ペイントローラー(塗装に用いるローラー式の刷毛であり、例えば、外径が5〜15mmのポリエチレン製円筒の外面に立毛布帛を貼り付けたものが好ましい。)、カーシート、吸音シート、液晶素子製造用ラビング布帛、研磨布、ワイピング材からなる群より選択されるいずれかの用途に使用される立毛布帛製品である。かかる立毛布帛製品は前記の立毛布帛を用いているので、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えており、立毛部がへたりにくいという効果を奏する。
【実施例】
【0032】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<風合い>
立毛布帛表面の風合いを試験者3人が官能評価し、3級:超極細繊維(ナノファイバー)特有の柔らかくヌメリ感のある風合いを呈する、2級:普通、1級:超極細繊維特有の風合いを呈さない、の3段階に評価した。
<単繊維径>
布帛を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
<圧縮回復率>
KES風合い計測器による圧縮特性(圧縮方向:立毛布帛の厚さ方向、圧縮面積:2cm、圧縮速度:50sec/mm、指定圧力:49cN/cm(50gf/cm))における曲線(図2に例示)から求める三角形ABCにおけるaの面積とbの面積から下記の式で圧縮回復率を計算した。
圧縮回復率=bの面積/(aの面積+bの面積)×100
<ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比>
1cm×1cmの正方形の試料を切り取り、該試料に含まれるポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bの重量を実測し、これの重量比を求めた。
<立毛糸高さ>
キーエンス(株)製マイクロスコープ(型式:VH−6300)を用いて、立毛布帛の断面を撮影(倍率50倍)し、全体厚みおよび地組織部の厚みを測定して、下記式により立毛糸高さを算出した。なお、全体厚みは地組織部の最底部から立毛部の最高部までの距離を測定した。n数は5でその平均値を求めた。
立毛糸高さL(mm)=全体厚み(mm)−地組織部厚み(mm)
【0033】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、ポリエステル立毛糸A用糸条とした。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。その後、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸84dtex/36fil(単繊維径14.8μm)をグランド糸に全量配し、前記ポリエステル立毛糸A用糸条をパイル糸に全量配し、24Gの丸編み機にて、通常の製編方法によりシンカーパイル編物生機を得た。次いで、ループ状に形成されたパイル糸の先端をカットした後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて24.7%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステル立毛糸Aの平均繊維径は700nmであった。また、ポリエステル立毛糸Aの立毛糸高さは0.7mm、圧縮回復率は33.1%であり、風合いはソフト(3級)であった。
次いで、該立毛布帛を用いて、化粧用パフおよび塗装用ペイントローラーを作製した。化粧用パフおよび塗装用ペイントローラーともに、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えており、長時間使用してもへたることがなかった。
【0034】
[実施例2]
実施例1と同様にして海島型複合延伸糸56dtex/10fil(ポリエステル立毛糸A用糸条)を得た。また、ポリエステル立毛糸B用糸条として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸84dtex/36filを用意し、前記ポリエステル立毛糸A用糸条2本とポリエステル立毛糸B用糸条1本を引き揃えてインターレース加工により複合糸を得た。
その後、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸84dtex/36fil(単繊維径14.8μm)をグランド糸に全量配し、前記複合糸条をパイル糸に全量配し、24Gの丸編み機にて、通常の製編方法によりシンカーパイル編物生機を得た。次いで、ループ状に形成されたパイル糸の先端をカットした後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて15.7%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステル立毛糸Aの平均繊維径は700nmであった。また、ポリエステル立毛糸Bの平均繊維径は14.8μmであった。また、ポリエステル立毛糸Aおよびポリエステル立毛糸Bの立毛糸高さは2.2mm、圧縮回復率は35.2%であり、風合いはソフト(3級)であった。また、ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比は、(ポリエステル立毛糸A:ポリエステル立毛糸B)48:52であった。
次いで、該立毛布帛を用いて、化粧用パフおよび塗装用ペイントローラーを作製した。化粧用パフおよび塗装用ペイントローラーともに、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えており、長時間使用してもへたることがなかった。
【0035】
[実施例3]
実施例1において、ポリエステル立毛糸A用糸条1本とポリエステル立毛糸B用糸条2本を引き揃えてインターレース加工により混繊糸を得ること以外は実施例1と同様にした。
得られた編物において、ポリエステル立毛糸Aの平均繊維径は700nmであった。また、ポリエステル立毛糸Bの平均繊維径は14.8μmであった。また、ポリエステル立毛糸Aおよびポリエステル立毛糸Bの立毛糸高さは2.2mm、圧縮回復率は37.9%であり、風合いはソフト(3級)であった。また、ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比は、(ポリエステル立毛糸A:ポリエステル立毛糸B)19:81であった。
【0036】
[実施例4]
実施例1と同様にして海島型複合延伸糸56dtex/10fil(ポリエステル立毛糸A用糸条)を得た。一方、ポリエステル立毛糸B用糸条として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント半延伸糸(POY)130dtex/36filを用意し、前記ポリエステル立毛糸A用糸条とポリエステル立毛糸B用糸条とを1本ずつ引き揃えて複合仮撚捲縮加工により複合糸条を得た。
その後、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸167dtex/48fil(単繊維径18.1μm)をグランド糸に全量配し、前記複合糸条をパイル糸に全量配し、16Gの丸編み機にて、通常の製編方法によりシンカーパイル丸編生機を得た。次いで、ループ状に形成されたパイル糸の先端をカットした後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて7.2%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステル立毛糸Aの平均繊維径は700nmであった。また、ポリエステル立毛糸Bの平均繊維径は18.3μmであった。また、ポリエステル立毛糸Aおよびポリエステル立毛糸Bの立毛糸高さは7.5mm、圧縮回復率は47.2%であり、風合いはソフト(3級)であった。また、ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比は、(ポリエステル立毛糸A:ポリエステル立毛糸B)23:77であった。
【0037】
[実施例5]
実施例1と同様に海島型複合延伸糸56dtex/10fil(ポリエステル立毛糸A用糸条)を得た。その後、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸84dtex/36fil(単繊維径14.8μm)をグランド糸に全量配し、前記ポリエステル立毛糸A用糸条のみをパイル糸に全量配し、24Gの丸編み機にて、通常の製編方法によりシンカーパイル編物生機を得た。次いで、ループ状に形成されたパイル糸の先端をカットした後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて25.8%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステル立毛糸Aの平均繊維径は700nmであった。また、ポリエステル立毛糸Aの立毛糸高さは20.5mm、圧縮回復率は19.4%であり、風合いはソフト(3級)であった。
次いで、該立毛布帛を用いて、化粧用パフおよびペイントローラーを作製した。化粧用パフおよびペイントローラーともに、立毛部はソフトな風合いは有していたが、反発性がやや劣り、使用により少しへたりが生じた。
【0038】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸84dtex/36fil(単繊維径14.8μm)をグランド糸に全量配し、一方、ポリエステル立毛糸B用糸条として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸84dtex/36filのみをパイル糸に全量配し、24Gの丸編み機にて、通常の製編方法によりシンカーパイル編物生機を得た。次いで、ループ状に形成されたパイル糸の先端をカットした後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステル立毛糸Bの平均繊維径は14.8μmであった。また、ポリエステル立毛糸Bの立毛糸高さは2.2mm、圧縮回復率は69.3%であり、ソフト感は低く硬い風合い(1級)であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、立毛部がソフトな風合いと適度な反発性とを兼ね備えた立毛布帛、および該立毛布帛を用いてなる立毛布帛製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0040】
1 地組織部
2 ポリエステル立毛糸A
3 立毛部
4 ポリエステル立毛糸B
L 立毛糸高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立毛部と地組織部とで構成される立毛布帛であって、前記立毛部に、単繊維径が50〜1500nmのポリエステル立毛糸Aが含まれることを特徴とする立毛布帛。
【請求項2】
前記立毛部に、他の立毛糸として、単繊維径が5〜40μmのポリエステル立毛糸Bが含まれる、請求項1に記載の立毛布帛。
【請求項3】
前記立毛部に含まれる、ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとの重量比が(ポリエステル立毛糸A:ポリエステル立毛糸B)15:85〜85:15の範囲内である、請求項2に記載の立毛布帛。
【請求項4】
前記立毛部の立毛糸高さが0.5〜20mmの範囲内のカットパイル糸である、請求項1〜3のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項5】
前記ポリエステル立毛糸Aが、海成分とポリエステルからなりその径が50〜1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去してなる立毛糸である、請求項1〜4のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項6】
前記ポリエステル立毛糸Aとポリエステル立毛糸Bとが、ポリエステル立毛糸A用糸条とポリエステル立毛糸B用糸条とで構成される複合糸から製造されたものである、請求項2〜5のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項7】
前記地組織部がポリエステル繊維で構成される、請求項1〜6のいずれかに記載の立毛布帛。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の立毛布帛を用いてなる、スキンケア用具、ヘルスケア用具、化粧用パフ、塗装用ペイントローラー、カーシート、吸音シート、液晶素子製造用ラビング布帛、研磨布、ワイピング材からなる群より選択されるいずれかの用途に使用される立毛布帛製品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−53502(P2010−53502A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76411(P2009−76411)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】