説明

立軸ポンプおよびポンプ機場

【課題】水位が低下しても気水混合運転になりにくく、大きな振動の発生しない立軸ポンプおよびポンプ機場を提供すること。
【解決手段】縦方向に配置される回転軸21により回転し、水槽1内の水を吸い込む羽根車20と、羽根車の上流側に配置され、羽根車に向けて水を流す流路90を形成する吸込管31と、吸込管の外側に配置され、吸込管に流入する水が流れる流路を形成する外ケーシング60と、吸込管の内側に配置される内筒であって、吸込管の流路を、内筒の内側92と、内筒の外側94とに区分する内筒とを備える立軸ポンプ。また、複数台の、上述の立軸ポンプと、複数台の立軸ポンプを設置する水槽1とを備え、複数台の立軸ポンプは、羽根車が異なる高さに配置される、少なくとも2台の立軸ポンプを含むポンプ機場。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立軸ポンプおよびポンプ機場に関し、特に、先行待機運転に適する立軸ポンプおよびポンプ機場に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から図11に示すように、縦方向に配置された軸の先端に羽根車112を備え、羽根車112に水と共に空気を吸い込ませることにより、吸込水槽111の最低運転水位LWL以下でも運転を継続することを可能にした立軸ポンプ113があった。このポンプ113では、羽根車112より上流側の吸込管114に水位LWLからh≒v/2gだけ低い位置LLWLに貫通した吸気用の孔115を設け、該孔115に羽根車112の取り付け位置より上で開口する他端116aを有する空気管116を取り付けている。ここで、vはその部分の水の流速であり、gは重力加速度である。このことにより、最高水位HWLより低い最低運転水位LWL以下では、該孔115を経て流入する空気により徐々に排水量を低下させることによって、水位の低下による急激な揚水停止を回避し、また、羽根車112の取り付け位置より下の水位からの水位上昇においても、水位が前記最低運転水位LWLに至るまでは該孔115を経て流入する空気により排水量を低下させることによって、急激な揚水開始を回避している。このような立軸ポンプでは、水位が低下したときに吸込管14から吸込渦を巻き込むことによる振動を防止することができる。
【0003】
このようにして、例えば大都市の雨水排水用として、吸込水位に関係なく降雨情報等により予めポンプを始動しておき、低水位から水位が上昇するときは空運転から水量を徐々に増やしながら全量運転へ、また高水位から水位が低下するときは全量運転から水量を徐々に減らしながら空運転へと、スムーズに運転を移行できるようにしていた。このようなポンプは、ケーシング下端よりも低い水位LLLWLで始動される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実公平5−33752号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の立軸ポンプでは、水位が最低運転水位LWLになって気水混合運転になると、羽根車の近傍には比重の大きく異なる水と空気が混合して流入することになるため負荷がアンバランスになり、立軸ポンプの振動が増加する傾向が見られる。特に水位が低下し、空気管が取り付けられた水位LLWL付近になると高振動が発生することがあった。
【0005】
そこで、本発明は、水位が低下しても気水混合運転になりにくく、大きな振動の発生しない立軸ポンプおよび立軸ポンプシステム並びに立軸ポンプ機場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る立軸ポンプは、例えば図1に示すように、縦方向に配置される回転軸21により回転し、水槽1内の水を吸い込む羽根車20と;羽根車20の上流側に配置され、羽根車20に向けて水を流す流路90を形成する吸込管31と;吸込管31の外側に配置され、吸込管31に流入する水が流れる流路96を形成する外ケーシング60と;吸込管31の内側に配置される内筒50であって、吸込管31の流路90を、内筒50の内側92と、内筒50の外側94とに区分する内筒50とを備える。
【0007】
このように構成すると、水位が低下し、吸込管が水面から渦を形成しつつ空気を巻き込みながら水を吸い込もうとすると、水の流れは、外ケーシングにより形成された流路から吸込管に流れ込む成分と、外ケーシングの外側を回って吸込管に流れ込む成分とに分けられる。すると、2つの成分の流れが吸込管に流れ込む手前でぶつかり合い、渦が乱れ、渦が消滅しあるいは断続的になる。そのために、渦による振動が生じにくくなる。
さらに水位が低下し、吸込管に逆流が生じると、逆流は吸込管の内壁に沿って流れるので、吸込管と内筒との間の流路を流れて吸込管の外側に流れ出す。そこで、吸込管が水を吸い込むことにより生ずる渦を乱し、渦を消滅させ、あるいは断続的にする。そのために、渦による振動が生じにくくなる。
【0008】
また、請求項2に記載の立軸ポンプでは、例えば図1に示すように、請求項1に記載の立軸ポンプ10において、吸込管31の内側に開口し(45)、空気を導入する空気管40を備えてもよい。
【0009】
このように構成すると、さらに水位が低下することにより、空気管を通じて吸込管内に空気が導入され、立軸ポンプに空運転をさせることができる。そのため、空気の巻き込みによる振動を生ずることなく、運転モードを空運転に切り換えることができる。
【0010】
また、請求項3に記載の立軸ポンプでは、例えば図1に示すように、請求項2に記載の立軸ポンプ10において、空気管40に、開閉弁41が配設されてもよい。
【0011】
このように構成すると、立軸ポンプでの水槽内の水の排出を止めるときには、開閉弁を開くことにより、空気管を通じて吸込管内に空気を導入し、立軸ポンプに空運転をさせることができる。そのため、空気の巻き込みによる振動を生ずることなく、運転モードを空運転に切り換えることができる。
【0012】
また、請求項4に記載の立軸ポンプでは、例えば図1に示すように、請求項3に記載の立軸ポンプ10において、開閉弁41を開閉する開閉手段42と;水槽1内の水位Lを計測し、水位信号i1を送信する水位計71と;水位信号i1を受信し、水位Lが低下して所定の水位LLWLとなったときに開閉弁41を開くための信号i2を開閉手段42に送信する制御装置70とを備えてもよい。
【0013】
このように構成すると、水位が所定の水位より低下し、もはや立軸ポンプで水槽内の水を排出する必要がなくなったときに、制御装置により自動的に開閉弁を開き、空気管を通じて吸込管内に空気を導入し、立軸ポンプに空運転をさせることができる。したがって、信頼性の高い運転モードの制御が可能となる。
【0014】
前記目的を達成するため、例えば図10に示すように、請求項5に記載の発明に係るポンプ機場101は、複数台の、請求項1ないし請求項4のいずれか1項にに記載の立軸ポンプ10a、10b、10cと;複数台の立軸ポンプ10a、10b、10cを設置する水槽1とを備え;複数台の立軸ポンプ10a、10b、10cは、羽根車20a、20b、20cが異なる高さに配置される、少なくとも2台の立軸ポンプ10a、10b、10cを含む。
【0015】
このように構成すると、水を吐出し始め、また、し終える水位が異なる立軸ポンプが水槽に備えられるので、過大な排水を行うことが防止でき、また、電源装置に対する負荷も軽減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、立軸ポンプが、羽根車に向けて水を流す流路を形成する吸込管と、吸込管の外側に配置され、吸込管に流入する水が流れる流路を形成する外ケーシングと、吸込管の内側に配置される内筒であって、吸込管の流路を、内筒の内側と、内筒の外側とに区分する内筒とを備えるので、水位が低下しても渦による振動が生じにくい立軸ポンプを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置等には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0018】
先ず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態である立軸ポンプを説明する。図1は、立軸ポンプ10の主要部の断面と、立軸ポンプ10の一部である空気管40および関連する装置の構成を示す断面構成図である。本立軸ポンプ10は、先行待機運転用のポンプである。先行待機運転、特に全速先行待機運転とは雨水が吸込水槽に流入する前にあらかじめポンプを始動し、水位L(Level)の上昇にしたがって排水を始め、水位が低下してもポンプを停止させずに全速で運転することである。立軸ポンプ10は、雨水などを一次貯留する吸込水槽である水槽1に配設され、水槽1内に貯留された水を排出する。
【0019】
図1を参照して立軸ポンプ10の構造を説明する。立軸ポンプ10は、鉛直方向に上から配列された揚水管ケーシング(ケーシング本体)33、ライナケーシング32、吸込管(吸込ベル)31を備える。それぞれは水平方向のフランジ37、36で締結されている。これらが広い意味のケーシングを構成している。
【0020】
該ケーシングの中心に縦方向(鉛直方向)に回転軸21が配設され、回転軸21の下方先端にオープン型の羽根車20が取りつけられている。羽根車はクローズ型であってもよい。羽根車20の外周(オープン羽根の先端)と僅かな隙間をもってライナケーシング32が羽根車20を収納している。立軸ポンプ10は斜流ポンプである。斜流ポンプは吐出ヘッドが比較的大きい場合に用いられる。また羽根車20の吐出側、ケーシング本体33の内側にはガイドベーン35が配設されている。
先行待機運転用のポンプとしては、不図示の軸流ポンプが用いられることもある。軸流ポンプは、吐出ヘッドに対して流量が比較的大きい場合に適する。
【0021】
ケーシング本体33は、回転軸21と平行に垂直方向の管胴部分と、上方で水平方向に曲がった曲管部とそれに連なる水平管部分とを含んで構成され、曲管部分を、回転軸21が貫通している。該貫通部には軸受22cと不図示のシールが配設されている。回転軸は、羽根車20近傍に配設された軸受22aと前記軸受22c、さらに両軸受の中間に配設された軸受22bで3点支持されている。また、不図示のスラスト軸受が回転軸21にかかる鉛直方向の荷重(即ち羽根車20、回転軸21を含む回転体の重量と羽根車20にかかる流体力)を支持している。
【0022】
ケーシング本体33には、据え付け用のフランジ39が取り付けられており、フランジ39で据え付け台であるコンクリート製の床2に据え付けられている。ケーシング本体33の前記水平管部分にはフランジ38が取りつけられており、フランジ38により、吐出配管34と接続されている。吐出配管34は雨水を河川や海等に導いて排出するための配管である。
【0023】
吸込管31は、羽根車20の先端よりも下方に位置し、羽根車に水を流す流路90を形成する。吸込管31は、内筒50および外ケーシング60と組み合わされて、三重管構造を有する。すなわち、吸込管31の内側には、吸込管の内壁と間隙を持って配置される内筒50が、吸込管31の外側には吸込管31の外壁と間隙を持って配置される外ケーシング60が配置される。
【0024】
吸込管31は、下端、すなわち水の流れの上流で、ベル形に拡径した開口端を有し、開口端から水槽1内の水を吸い込み、羽根車に向けて送り込む。その形状から、吸込ベルと呼ばれることもある。開口端が拡径することにより、水槽1内の水を吸い込むときの吸込管31の開口端での流速が下がり、振動が起こりにくくなるが、必ずしも拡径せず、例えば径が均一な円筒形であってもよい。
【0025】
内筒50は、吸込管31の内側に配置され、内側に第1の流路92を形成し、外側には、吸込管31との間にほぼ均一な間隙を持った空間、すなわち第2の流路94を形成する、略円筒形をした部材である。ここで、略円筒形とは、吸込管31の形状に合わせて下端が拡径している形状を含み、また、断面が多角形であっても、全方位から第1の流路92、第2の流路94に水を吸い込む程度に、均一な中心軸(回転軸21の延長線)からの距離に内筒の壁が分布している形状を含む。内筒50は、吸込管31と内筒50との間に配設されたリブ51により、吸込管31に固着される。リブ51は、その面を内筒50の円周方向に垂直にした平板であり、吸込管31および内筒50が拡径する箇所より下流側で、吸込管31と内筒50とに接合する。吸込管31および内筒50が拡径する箇所で接合してもよいが、吸込管31および内筒50が拡径する箇所より下流側で接合すると、矩形、台形等、簡単な形状のリブ51で固着することができ、好適である。あるいは、上流側の拡径する部分にまでリブ51を設けると、接合強度が向上する。リブ51は、等間隔で複数枚、たとえば4枚ないし8枚配設される。
【0026】
図2の部分断面図に示すように、内筒50はリブで吸込管31に固定されずに、水槽1の底から支持台53、54で支えてもよい。支持台53、54は、水槽の底に設置されたベース54で保持された数本の柱53あるいは板等で構成される。円筒形の板とする場合には、水が流れる流路を確保するために多数の孔が形成される。円筒50は、その下部を支持台53、54で支持される。円筒50を支持する方法は、上記に限られず、他の方法で支持してもよく、円筒50を吸込管31の所定の位置に配置し、また、円筒50に吸い込まれる水の流路を確保するいかなる方法で支持してもよい。
【0027】
外ケーシング60は、吸込管31の外側の周囲を覆い、吸込管31との間にほぼ 均一な間隙を持った空間、すなわち第3の流路96を形成する部材である。外ケーシング60の下端(あるいは、外縁)は、吸込管31の下端(外縁)とほぼ同じ直径あるいは、多少大きな直径とすることが好ましい。多少大きな直径とは、水面が低下し、吸込管31が水を吸い込むときに水面からの渦が形成されるとしたら、渦が通るような範囲をいう。外ケーシング60は、吸込管31と外ケーシング60との間に配設されたリブ61により、吸込管に固着される。リブ61は、その面を吸込管31の円周方向に垂直にした平板である。リブ61は、等間隔で複数枚、たとえば4枚ないし8枚配設される。
【0028】
内筒50には、空気管40が接続し、内筒50の内面の高さA3の位置に開口部45を有している。空気管40は、吸込管31を貫通し、外ケーシング60の形状によっては外ケーシング60をも貫通し、鉛直上方に向きを変え、床2を貫通して、水槽1内から外部まで敷設され、大気中に開口部46を有している。すなわち、内筒50の内面の開口部45が大気中の開口部46と連通している。大気中の開口部46は、必ずしも床2の上方でなくてもよく、後述の立軸ポンプ10の水の吸い込みを止める水位LLWLより上方であればよい。開口部46を、好ましくはLWLより上方とする。また、床2より下方の水槽1内の水面より上方に開口部46を配置すると、水が汚水であっても異臭が床2上に放出されることが無く好適である。空気管40には、開閉弁41が配設され、内筒50の内面の開口部45と大気中の開口部46との連通を遮断できる。開閉弁41は、仕切弁、ニードル弁等、空気の流れを封止できる弁であれば、その種類は何でもよい。開閉弁41は、水槽1の外部に配設される方が、操作やメンテナンスがし易いので好適である。図1では、立軸ポンプ10には、1本の空気管40が備えられているように図示されているが、空気管40は2本以上でもよく、多くの本数を備えると、空気が均等に送り込まれるので好適である。
【0029】
ここで、立軸ポンプ10の高さ方向の構造と水位の関係を説明する。水位HWLは、水槽1の最高水位である。水位Lがこれ以上に上昇することはない。その下方に最低水位LWLがある。これは、ポンプ固有の値であり、水位がこれ以下になると何らかの問題が起こりポンプの運転が継続できなくなる水位である。典型的には、それ以下では吸込管31の下端から渦状に空気を吸い込み始める水位である。本実施の形態では、吸込管31を内筒50および外ケーシング60と組み合わせて三重管構造としているが、LWLは、内筒50および外ケーシング60を備えず、吸込管31だけを備えるとした場合に、水面から渦を形成し、空気を吸い込み始める水位である。しかし水位LWLは渦状の空気吸込以外の条件で定まる場合もある。
【0030】
最低水位LWLの下方には、羽根車20の吸込開始水位SLWLがある。この水位は、羽根車20の先端部分の水位に相当する。低い水位から水位が上昇して、羽根車20が水に接すると、気水攪拌が開始され間もなく水が吐出されるからである。すなわち、羽根車20は、最低水位LWLよりも下方に設置されている。通常、吸込開始水位SLWLより低い位置に、立軸ポンプ10の水の吸い込みを止める水位LLWLがある。水位LLWLより下方に、吸込管31の下端(開口部)の水位A1および内筒50の下端(開口部)の水位A2がある。
【0031】
続いて、図1を参照して、立軸ポンプ10の作用について説明する。先ず水位がA2よりも低い状態で立軸ポンプ10を始動する。例えば川の上流で大雨が降ったとの降雨情報が入った場合等、ある時間の後に水位が急に上昇することが予測される。そのような場合に、水位がA2よりも下の状態で、先行待機運転用の立軸ポンプ10が始動される。先行待機運転の開始である。このとき、開閉弁41は閉じておく。
【0032】
雨水の流入により水槽内の水位Lが上昇し、吸込ベルの下端水位A2を越える。水位が水位A1を越えても、水位LLWLを越えても、まだ水は吸い上げられない。羽根車20は空転している。水位Lがさらに上昇して、水位SLWLまで到達したところで、羽根車20は水を吸い込み始める。水の吸い込みを始めたときには、水面と吸込管31の下端の距離が短く、水面から渦が形成されようとする。すなわち、吸込管31は、水面からの渦により、空気を巻き込みながら水を吸い込もうとする。
【0033】
しかし、図3の吸込管31周りの部分断面図に示すように、立軸ポンプ10には外ケーシング60が備えられているので、吸込管31に吸い込まれる水は、外ケーシング60の外側を流れる水82と、第3の流路96を流れる水84とに分かれ、そして、吸込管31の下端付近でぶつかり合うことになる。そのために、渦が形成されたとしても消滅し、あるいは、断続的な渦になる。よって、渦のための空気の巻き込みにより生ずる立軸ポンプ10の振動が抑えられる。
【0034】
さらに水位が、水位LWLと水位HWLの間の水位まで上昇して、ポンプ10は定常運転を継続する。その後、ポンプ10の排水により今度は水位Lが低下し、例えば水位LWLを下回ると、水面と吸込管31の下端の距離が短くなるので、立軸ポンプ10の水の吸込により水面から渦が形成されようとする。しかし、前述の通りに、渦が形成されたとしても消滅し、あるいは、断続的な渦になる。よって、渦のための空気の巻き込みにより生ずる立軸ポンプ10の振動が抑えられる。
【0035】
図4(a)の吸込管31周りの部分断面図に示すように、リブ63を吸込管31に沿わせて上方に延伸してもよい。このようなリブ63を備えると、第3の流路96を流れる水84を整流する作用が増し、渦の発生を抑える効果が増大する。
【0036】
あるいは、図4(b)の吸込管31周りの部分断面図に示すように、外ケーシング65を吸込管31とほぼ均一な間隙を持つようにするのではなく、外ケーシング65を吸込管31の外側に配置される水平な円盤状に形成してもよい。外ケーシング65を備えることにより、外ケーシング65の内縁と吸込管31の外周の間に第3の流路96が形成され、吸込管31に吸い込まれる、主に上方からの水(すなわち、渦が発生したときの水)は、外ケーシング65の外側を流れる水82と、第3の流路96を流れる水84とに分かれ、吸込管31の下端付近でぶつかり合うことになる。そのために、渦が形成されたとしても消滅し、あるいは、断続的な渦になる。よって、渦のための空気の巻き込みにより生ずる立軸ポンプ10の振動が抑えられる。
【0037】
図1に戻り、立軸ポンプ10の作用の説明を続ける。さらに水位Lが低下すると、立軸ポンプ10内にて、逆流が生ずる。すなわち、羽根車20で、総ての水が吐出側に送られるのではなく、一部の水が上流側に流れ落ちてくる。
【0038】
図5に示すポンプの特性を表すQ−H曲線を参照して、この逆流について説明する。図5は、全速先行待機運転ポンプの性能を、縦軸に全揚程H(%)を、横軸に排出量Q(%)をそれぞれとって示した線図である。図5で、曲線イは流量−揚程(Q−H)曲線、曲線ロは計画揚程(直線ハ)時の抵抗曲線、曲線ニは最高実揚程(直線ホ)時の抵抗曲線をそれぞれ表わしている。曲線ニの状態は、吐出圧力が高い場合である。
【0039】
雨水排水用の先行待機運転ポンプでは、排水すべき川や海への排水高さは一般にあまり変化しない。しかしながら、少なくとも水槽1内の水位はA2以下からHWLまで変化する。図1には、A2とHWLとの高低差はあまり大きくない場合が示されているが、実際にはケーシング本体33はもっと長く作ることが可能であり、例えば10mを越えることもある。そのような先行待機運転ポンプでは、水位Lが低くなるとになると抵抗曲線が曲線ニのようになる。即ち、上記のような先行待機運転ポンプでは、計画揚程と最高実揚程とには10mの揚程差が存在するので、必然的に点Bで示されるような流量が小さい運転状態が発生する。
【0040】
図中の点Aは、計画実揚程での運転点を示しており、このときは吸込管31中の水は、軸線方向に一様に羽根車20に向って流れている。また図中の点Bは、最高実揚程での運転点を示しており、最高効率点に対して、かなり小水量側の運転点となる。この小水量の運転においては、羽根車20に逆流が生じている。逆流は羽根車20の回転方向につれて回るような旋回成分を持つので、吸込管31の内側における外周、すなわち吸込管31の内壁付近に生じていることになる。水位Lの低い範囲で運転すると、このような逆流を生じることになり、揚程が大きくなると逆流が無視できない程度に大きくなってくる。
【0041】
図6の吸込管31周りの部分断面図に示すように、旋回成分を持つ逆流86は、吸込管31内を下方に逆流すると、第2の流路94に導かれる。そこで、逆流86は、第2の流路94を通る際に、リブ51に旋回方向の動きを阻止されることにより、旋回成分を持たない逆流88として、第2の流路94から吸込管31外へ流出する。リブ51を吸込管31および内筒50が拡径する箇所まで長くすることは、接合強度が増すことに加え、逆流86の旋回成分を抑える効果が増大する。第2の流路94から流出する逆流88が旋回成分を持たないので、内筒50が水を吸い込むときに、逆流88が内筒50の周囲の流れ場を乱し、渦が発生しにくくなる。
【0042】
また、図7に示すように、内筒50を支持するリブ52を内筒50の円周方向に垂直にではなく、逆流89の流れる向きに沿って斜めに配置してもよい。図7(a)は吸込管31周りの部分断面図で、(b)は、(a)に示すX矢視のリブ52と内筒50との斜視図である。このように逆流89の流れに沿ってリブを配置することにより、逆流89の流速が低下されず、流速を保ったまま第2の流路94から外部に流れ出すので、内筒50の周囲の流れ場を乱す力が大きくなる。よって、渦の発生を抑えることができる。図2で示したように、リブを設置しない場合にも、同様の効果が得られる。
【0043】
また、内筒50が水を吸い込むのに、水面からの渦により空気を巻き込みながら水を吸い込もうとした場合においても、外ケーシング60の外側を流れる水82と、第3の流路96を流れる水84とは、第2の流路94から流出する逆流88とぶつかることになる。そこで、渦が形成されたとしても消滅し、あるいは、断続的な渦になる。よって、渦のための空気の巻き込みにより生ずる立軸ポンプ10の振動が抑えられる。
【0044】
図8の吸込管31周りの部分断面図に示すように、内筒55の下端は、吸込管31の下端と同じ高さとして形成されてもよく、あるいは、さらに短く吸込管31の下端より上方(下流側)に内筒55の下端が形成されてもよい。このように構成しても、逆流88、89による内筒55が水を吸い込もうとする流れ場の乱れを乱し渦の発生を抑えることに加え、第2の流路94から流出する逆流88が外ケーシング60の外側を流れる水82と、第3の流路96を流れる水84とぶつかることにより、渦を消滅させ、あるいは断続的にさせて、渦のための空気の巻き込みにより生ずる立軸ポンプ10の振動を抑える効果は得られる。
【0045】
図1に戻り、立軸ポンプ10の作用の説明を続ける。さらに水位Lが低くなり、水位LLWL付近になると水の吸い込みをとめる。そのためには、開閉弁41を開くことによって、空気管40を通じて空気を内筒50の内側に入れる。内筒50の内面の開口部45の位置における圧力は、(L−A3)−(v/2g);L=水位、A3=開口部45の高さ、v=流速、g=重力加速度であり、水位Lと開口部45の高さA3との差が小さくなれば、負圧になる。そこで、空気管60の内筒50内での開口部45の高さA3は、この水位LLWLと同じか上方に設置するのが好ましい。開口部45位置での圧力が負圧になることにより、開閉弁41を開くことによって、開口部45から内筒50の内側に空気が流入される。なお、水の流れに旋回成分があると、旋回成分による遠心力のため正圧が生じ、空気が流入されにくくなるが、図6で説明したように、旋回成分を持つ逆流86は第2の流路94に導かれるため、内筒50の内側の第1の流路92では、旋回成分はない。内筒50に空気が流入することにより、吸込管31の内側に空気が充満し、水の吸い込みがなくなり、羽根車20は空気中で運転される空運転状態となる。即ち、ポンプ10は全く水を吸い込まないエアロック状態となる。
【0046】
あるいは、開口部45が内筒50の内側ではなく、吸込管31の内側に形成されてもよい。そのときには、前述のように逆流の旋回成分による遠心力のため、開口部位置での圧力が負圧になりにくいので、開口部の設置高さA3を高くすることが好ましい。なお、いずれの場合においても、開口部の設置位置A3は、SLWLより下方(上流側)に設置される。
【0047】
なお、図9に示すように、立軸ポンプ12においては空気管40が開閉弁を備えていなくてもよい。開口部45が負圧になることにより空気が流入されるので、羽根車20は空気中で運転される空運転状態となる。即ち、ポンプ10は全く水を吸い込まないエアロック状態となる。この場合、空気管40の開口部46は、水位LLWLより上方であればよいが、空気管40を通じて水をも吸い込むことになるので、特に水が汚水の場合にはゴミなどによる閉塞を避けるためにHWLより上方とするのが好ましい。また、床2より下方の水槽1内に配置すれば、異臭が床2上に放出されることがなく好適である。
【0048】
このようにして、羽根車20は空気中での空運転状態を続けることになる。降雨が続くときは、そのまま運転を続け、再び水位Lが上昇してきて、前記のように水位SLWLに到達したところでポンプ10は水を吸い込み始める。このようにして、先行待機運転用ポンプ10は、水槽1の水位にかかわらず、空運転と全水量の運転との間で運転を継続することができる。
【0049】
次に、同じく図1を参照して、立軸ポンプ100について説明する。立軸ポンプ100は、立軸ポンプ10に、開閉弁41を開閉する手段としてのアクチュエータ42と、水位Lを計測する水位計71と、水位Lに基づき、開閉弁の開閉を制御する制御装置70とを備えた立軸ポンプである。
【0050】
水位計71は水位を計測し、計測した水位を示す水位信号i1を送信する。図1の立軸ポンプ100では、ケーブル72を通じて水位信号i1が送信されるが、水位信号i1は、無線信号であってもよい。水位計71から送信された水位信号i1は、制御装置70で受信される。
【0051】
制御装置70では、水位信号i1に基づき、開閉弁41の開閉を判断する。制御装置70は、他の機器の運転をも制御する制御装置としての大型コンピュータであっても、立軸ポンプ10の運転だけを制御するパーソナルコンピュータやマイコンであってもよい。制御装置70では、立軸ポンプ10が水を吐出している場合に、水位Lが水位LLWLに低下してきたときにのみ開き、他の場合は、閉じておくように、開閉弁41を制御する。そこで、制御装置70は、立軸ポンプ10の運転状態の情報を得ていることが好ましい。この運転状態の情報は、立軸ポンプ10の吐出量として得てもよいし、あるいは、開閉弁41の開閉と水位Lの履歴として得てもよく、他の情報から得てもよい。制御装置70で判断した開閉弁41の開閉は、開閉信号i2としてアクチュエータ42に送信される。図1の立軸ポンプ100では、ケーブル73を通じて開閉信号i2が送信されるが、開閉信号i2は、無線信号であってもよい。制御装置70から送信された開閉信号i2は、アクチュエータ42で受信される。
【0052】
アクチュエータ42は、開閉信号i2に従い、開閉弁41を開閉する。アクチュエータ42は、ソレノイドであっても、モータであっても、他の動力を用いてもよい。
【0053】
図1では、制御装置70が水位計71あるいはアクチュエータ42と別に備えられているように示されているが、制御装置70は、水位計71の一部として備えられても、アクチュエータ42の一部として構成してもよい。このように構成すると、水位信号i1あるいは開閉信号i2の送受信が容易となる。
【0054】
立軸ポンプ100では、開閉弁41の開閉による立軸ポンプ10への空気の流入、すなわち、空運転への切換が、水位Lに基づき自動的に行われるので、運転モードの制御の信頼性を高め、かつ、オペレータの労力を軽減することができる。
【0055】
次に、図10の構成図を参照して、本発明の第2の実施の形態である、ポンプ機場101について説明する。ポンプ機場101は、3台の立軸ポンプ10a、10b、10cが一つの水槽1の共通の床2に据え付けられている。3台の立軸ポンプ10a、10b、10cの揚水管ケーシング33a、33b、33cおよび回転軸21a、21b、21cの長さが異なっており、羽根車20a、20b、20cが異なる高さに配置されている。したがって、図1を用いて説明したように、各立軸ポンプ10a、10b、10cに固有である、水位LWL、SLWL、LLWL、A1、A2および空気管の内筒の内面の開口部の高さA3は、それぞれ異なる。他の構造については、各立軸ポンプ10a、10b、10cともに同じ構造でよい。
【0056】
このように、3台の立軸ポンプ10a、10b、10cを備えることにより、ポンプ機場101では、次のような運転を行う。増水時には羽根車20aの一番低い立軸ポンプ10aが先ず運転を開始する。立軸ポンプ10aで吐出を行っても増水が続くならば、羽根車20bが次に低い立軸ポンプ10bの運転を開始する。立軸ポンプ10a、10bで吐出を行っても増水が続くならば、羽根車20cが高い立軸ポンプ10cの運転を開始する。また、減水時には、水位Lが羽根車20cが高い立軸ポンプ10cの水位LLWL(図1参照)となったならば、立軸ポンプ10cを空運転とし、さらに減水が続くのであれば、立軸ポンプ10cの空運転を止めてもよい。さらに減水して、水位Lが羽根車20bが次に高い立軸ポンプ10bの水位LLWLとなったならば、立軸ポンプ10bを空運転とし、さらに減水が続くのであれば、立軸ポンプ10bの空運転を止めてもよい。さらに減水して、水位Lが羽根車20aが低い立軸ポンプ10aの水位LLWLとなったならば、立軸ポンプ10aを空運転とし、さらに減水が続くのであれば、立軸ポンプ10aの空運転を止めてもよい。
【0057】
上記のように、ポンプ機場101では水位Lに応じて、3台の立軸ポンプ10a、10b、10cの運転を順次開始し、順次終了させることができるので、入水量よりも多い過大な水の吐出を行って水槽1内の水位を上下に変動させるような事態が防止され、また、電源設備に対する負荷も軽減できる。
【0058】
ポンプ機場101では、3台の立軸ポンプ10a、10b、10cを備えるが、立軸ポンプの台数は3台に限られることはない。また、総ての立軸ポンプの羽根車の高さが異なる必要はなく、同じ高さに羽根車を有する立軸ポンプを複数台と高さの異なる羽根車を有する立軸ポンプとを備えていてもよい。揚水管ケーシングおよび回転軸の長さが異なるものとして説明したが、同じ長さの揚水管ケーシングおよび回転軸を有する立軸ポンプの設置する高さ(床の高さ)を変えることにより羽根車の高さを変えて、複数台の立軸ポンプを設置してもよい。また、図10では、吸込管の下端の高さが異なるものとして示されているが、同じ高さとなるように構成してもよい。
【0059】
先に説明した立軸ポンプ100をポンプ機場に用いる場合には、複数台の立軸ポンプ100にそれぞれ制御装置を備えてもよいが、図10に示すように一つの制御装置75が、水位計71からの水位信号i1を受信し、総ての立軸ポンプの開閉弁41a、41b、41cの開閉を制御するように構成してもよい。このように構成すれば、制御装置の台数を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施の形態としての立軸ポンプを説明する断面構成図である。
【図2】内筒の変形例を説明する、立軸ポンプの吸込管周りの部分断面図である。
【図3】外ケーシング周りの水の流れを説明する、立軸ポンプの吸込管周りの部分断面図である。
【図4】外ケーシングの変形例を説明する、立軸ポンプの吸込管周りの部分断面図である。(a)はリブを延伸した変形例、(b)は外ケーシングを水平な円盤状に形成した変形例である。
【図5】立軸ポンプの特性を説明するQ−H曲線である。
【図6】立軸ポンプからの逆流の流れを説明する、立軸ポンプの吸込管周りの部分断面図である。
【図7】内筒を支持するリブ変形例を説明する図であり、(a)は立軸ポンプの吸込管周りの部分断面図、(b)はリブと内筒を示す(a)におけるX矢視部分側面図である。
【図8】内筒の変形例を説明する、立軸ポンプの吸込管周りの部分断面図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態としての立軸ポンプの変形例を説明する断面構成図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態としてのポンプ機場の構成を説明するの構成図である。
【図11】従来の立軸ポンプの構成を説明するの断面図である。
【符号の説明】
【0061】
1 水槽
2 床
10、10a〜10c、12、100 立軸ポンプ
20、20a〜20e 羽根車
21、21a〜21e 回転軸
22a、22b、22c 軸受
31、31a、31d、31e 吸込管
32 ライナケーシング
33、33a、33b、33c 揚水管ケーシング(ケーシング本体)
34 吐出配管
35 ガイドベーン
36〜39 フランジ
40、40a 空気管
41、41a〜41c 開閉弁
42、42a アクチュエータ(開閉手段)
45、46 開口部
50、55 内筒
51、52 リブ
60、65 外ケーシング
61、63、66 リブ
70、75 制御装置
71 水位計
82、84 水の流れ
86 旋回流による逆流
88、89 逆流
90 (吸込管により形成される)流路
92 第1の流路
94 第2の流路
96 第3の流路
101 ポンプ機場
i1 水位信号
i2 開閉信号(開閉弁を開くための信号)
L 水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦方向に配置される回転軸により回転し、水槽内の水を吸い込む羽根車と;
前記羽根車の上流側に配置され、前記羽根車に向けて前記水を流す流路を形成する吸込管と;
前記吸込管の外側に配置され、前記吸込管に流入する水が流れる流路を形成する外ケーシングと;
前記吸込管の内側に配置される内筒であって、前記吸込管の流路を、該内筒の内側と、該内筒の外側とに区分する内筒とを備える;
立軸ポンプ。
【請求項2】
前記吸込管の内側に開口し、空気を導入する空気管を備える;
請求項1に記載の立軸ポンプ。
【請求項3】
前記空気管に、開閉弁が配設された;
請求項2に記載の立軸ポンプ。
【請求項4】
前記開閉弁を開閉する開閉手段と;
前記水槽内の水位を計測し、水位信号を送信する水位計と;
前記水位信号を受信し、前記水位が低下して所定の水位となったときに前記開閉弁を開くための信号を前記開閉手段に送信する制御装置とを備える;
請求項3に記載の立軸ポンプ。
【請求項5】
複数台の、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の立軸ポンプと;
前記複数台の立軸ポンプを設置する水槽とを備え;
前記複数台の立軸ポンプは、羽根車が異なる高さに配置される、少なくとも2台の立軸ポンプを含む;
ポンプ機場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−23938(P2007−23938A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208884(P2005−208884)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)