説明

立軸ポンプの揺れ止め装置

【課題】 地盤沈下が生じても、これに追従可能でポンプに余分な力を伝えない立軸ポンプの揺れ止め装置を提供する。
【解決手段】 ポンプ駆動用の駆動手段17を設置した床51から水槽55内に吊り下げた立軸ポンプ10の揺れを防止する立軸ポンプ10の揺れ止め装置である。揺れ止め装置は、立軸ポンプ10の下部と水槽55の底面との間に立軸ポンプ10の振動を吸収する防振ダンパ35を設置し、且つ防振ダンパ35と水槽55の底面間を防振ダンパ支持部材37に設けたシリンダ部37a内に防振ダンパ35の下部を挿入することで構成されるスライド手段を介して接続して構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、立軸ポンプの振動を効果的に防止できる立軸ポンプの揺れ止め装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図4は排水機場の排水ポンプとして設置された立軸ポンプを示す図である。同図に示すようにこの立軸ポンプ80は、ポンプ駆動用の電動機81等を設置した床83から水槽85内に吊り下げて設置されている。そして雨などによる増水時は、電動機81を駆動することで立軸ポンプ80内の羽根車を回転駆動し、水槽85内の水を排水する。
【0003】ところでこのような排水機場に設置される立軸ポンプ80は、最近先行待機ポンプとして運転される場合が増えている。ここで先行待機ポンプとは、水位が低い状態においても予め立軸ポンプ80の駆動を開始しておき、水位が上昇したときに即座にその揚水が行なえるように使用されるポンプのことである。そして例えば大雨が予想されるときに予め前記立軸ポンプ80によって水槽85内に溜まっている水を全て排出しておき、その後急激に生ずる増水に即座に対応するように使用する。
【0004】しかしながら立軸ポンプ80を先行待機運転すると、水槽85内の水位が立軸ポンプ80の吸込口に達しない状態でもポンプを運転しておくこととなり(気中運転)、また水位が上昇して吸込口に達して排水を開始しても水位が低い内はその排水に水と気体が混じった運転(気水混合運転)となり、通常の定常運転(水のみを揚水する運転)に比べてその振動が激しくなるという問題があった。
【0005】このため従来は図4に示すように、例えば立軸ポンプ80と水槽85の底面(内壁)の間を棒状の防振部材89によって固定したり、立軸ポンプ80の側面と水槽85の側壁(内壁)の間を板状の防振部材91によって固定したりしていた。
【0006】しかしながら上記構成の防振部材89,91によって立軸ポンプ80を水槽85内に固定した場合は、その後地盤沈下が生じた際に、防振部材89,91が立軸ポンプ80を無理に引っ張ったり押したりすることで立軸ポンプ80に余分な力が伝わってしまい、傾いたり、ポンプ性能を劣化させたりしてしまう等の恐れがあった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は上述の点に鑑みてなされたものでありその目的は、地盤沈下が生じても、これに追従可能でポンプに余分な力を伝えない立軸ポンプの揺れ止め装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するため本発明は、床から水槽内に吊り下げた立軸ポンプの揺れを防止する立軸ポンプの揺れ止め装置において、前記揺れ止め装置は、前記立軸ポンプの下部と水槽の底面との間に立軸ポンプの振動を吸収する防振ダンパを取り付け、且つ前記防振ダンパと前記水槽又は立軸ポンプの何れか一方間を上下動自在なスライド手段を介して接続したことを特徴とする。これによって立軸ポンプの振動防止と、地盤沈下に対するポンプへの余分な力の伝達防止が図れる。
【0009】また本発明は、床から水槽内に吊り下げた立軸ポンプの揺れを防止する立軸ポンプの揺れ止め装置において、前記揺れ止め装置は、前記立軸ポンプと水槽の内壁との間を防振部材によって連結し、且つ前記防振部材には振動速度に比例して制振力を発生させるダッシュポットを取り付けたことを特徴とする。これによっても立軸ポンプの振動防止と、地盤沈下に対するポンプへの余分な力の伝達防止が図れる。
【0010】ここで地盤沈下などの際に、防振部材の立軸ポンプや水槽への取り付け角度を抵抗なく変化させるようにするために、前記防振部材の両端は、回転自在な連結手段によって、立軸ポンプと水槽の内壁間に連結されていることが好ましい。
【0011】また防振部材の長さ方向の調節のために、前記防振部材には長さ調整手段を取り付けることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態を用いてなる立軸ポンプとその揺れ止め装置を示す概略側面図である。同図に示すようにこの立軸ポンプ10は、床51に設けた開口52の上にポンプ台板13を固定し、その上に電動機架台15を介して電動機(駆動手段)17を設置し、一方前記ポンプ台板13に固定した吐出曲管19の下端に吊り下げ管21と吐出ボウル23と吸込ベルマウス25と整流板取付部材27とを取り付け、一方吐出曲管19の吐出側に吐出管31を取り付けて構成されている。なお整流板取付部材27には吸込ベルマウス25に吸い込まれる流体を整流する複数枚の整流板29が取り付けられている。
【0013】そして本実施形態においては、前記整流板取付部材27の下面中央と水槽55の底面との間に、立軸ポンプ10の振動を吸収する防振ダンパ35を設置している。防振ダンパ35としては、例えば地面と建築物等の構造物との間に設置して地震等の地面の揺れに対してこれを吸収する構造の防振ダンパ(構造物の耐衝撃支持構造)であっても良いし、その他、自動車や船舶等に使用されて車両や船舶の揺れを減衰する構造の防振ダンパ等、各種構造の防振ダンパを使用することができる。通常防振ダンパ35はバネやゴム等を用いた防振弾性体や、油圧等を利用して構成されるが、その他の各種部材を用いて構成したものでもよいことは言うまでもない。要は急激な振動加振力を吸収して緩やかな動作に変換する構造の防振ダンパであれば、どのような構造であってもよい。
【0014】そしてこの防振ダンパ35の整流板取付部材27に取り付ける側は、整流板取付部材27に固定されている。一方防振ダンパ35の水槽55の底面に取り付ける側は、水槽55の底面に固定した防振ダンパ支持部材37に対して上下動自在に取り付けられている。即ち防振ダンパ支持部材37にはシリンダ部37aを設け、防振ダンパ35の下部をピストンとして前記シリンダ部37aに挿入することでピストン・シリンダ機構(スライド手段)を構成し、これによってたとえ水槽55の底面に対して立軸ポンプ10が上下動した場合でも、防振ダンパ35がこれにスムーズに追従できるように構成している。なおシリンダ部37aの内周面にはOリングやオイルシールなどからなるダストシール39が取り付けられており、これによって水槽55内の水中のスラリーなどがシリンダ部37a内に浸入しないようにしている。なおこの実施形態ではスライド手段を防振ダンパ35と水槽55の底面間に設けたが、水槽55の底面と防振ダンパ35間を固定し、その代わりに立軸ポンプ10と防振ダンパ35間にスライド手段を設けてもよい。
【0015】そして電動機17を駆動すれば、吸込ベルマウス25内に設置された図示しない羽根車が回転駆動することで、水槽55内の水は整流板29の間から吸込ベルマウス25の吸込口内に吸い込まれ、吐出管31から吐き出されていく。
【0016】ところでこの立軸ポンプ10を先行待機ポンプとして運転することで気中運転や気水混合運転を行なった場合は、定常運転の場合に比べて大きな振動が発生しようとするが、立軸ポンプ10と水槽55の底面との間に防振ダンパ35が設置されているので、前記振動は吸収され、大きな振動となることはない。
【0017】一方この立軸ポンプ10を設置した地盤に沈下が生じて、水槽55の底面と立軸ポンプ10の下端部との間の隙間が少しずつ変化していったとしても、前記スライド手段によって、防振ダンパ35の下側部分が防振ダンパ支持部材37のシリンダ部37a内をスライドするだけで、立軸ポンプ10に防振ダンパ35側から余分な力が伝えられることはない。
【0018】なお前記立軸ポンプ10にはその下端に整流板取付部材27を取り付けたので、防振ダンパ35はこの整流板取付部材27と水槽55の底面の間に取り付けたが、整流板取付部材27を取り付けない立軸ポンプ10の場合は吸込ベルマウス25と水槽55の底面間に取り付けてもよい。要は防振ダンパ35は立軸ポンプ10の下部の所定部分と水槽55間に取り付けるものであればよい。
【0019】図2は本発明の他の実施形態を用いてなる立軸ポンプとその揺れ止め装置を示す概略側面図である。この実施形態において、立軸ポンプ10自体の構造は前記図1に示すものと同一なので、その詳細な説明は省略する。
【0020】この実施形態において前記図1に示す実施形態と相違する点は、防振ダンパ35を設置する代わりに、立軸ポンプ10と水槽55の内壁(側壁と底面)の間を防振部材40によって連結した点である。
【0021】ここで防振部材40は、棒部材で構成され、その途中にはダッシュポット43が取り付けられている。ダッシュポット43は急激な振動を吸収(緩衝)して緩やかな動作をせしめる機構(軸方向にゆっくり動かせば動くが、急激な動作になるほど大きな抵抗を生じる機構、即ち振動速度に比例して制振力を発生する機構)であり、油圧機構などによって構成されている。さらに防振部材40の途中には、その長さを調整するターンバックル44が取り付けられている。またこの防振部材40の両端は、回転自在な連結手段47,47によって立軸ポンプ10と水槽55に取り付けられている。
【0022】防振部材40は図2では立軸ポンプ10と水槽55の底面間と、立軸ポンプ10と水槽55の側壁間に1箇所ずつのみ示しているが、実際は、立軸ポンプ10と水槽55の底面間は周方向に3箇所もしくは立軸ポンプ10と水槽55の側壁間も周方向に3箇所設けられている。
【0023】図3は立軸ポンプ10と水槽55の側壁間に取り付けた防振部材40の取り付け状態を示す図である。同図に示すようにこの実施形態においては、防振部材40を周方向に3箇所設置しているが、防振部材40の側壁に対する設置角度θは、θ=20°〜70°の範囲であることが好ましい。なお両側の防振部材40を省略して中央の防振部材40のみを取り付けてもよい。また、中央の防振部材40を省略し両側の防振部材40のみを取り付けてもよい。即ち防振部材40を取り付ける数及び位置は、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0024】そしてこの立軸ポンプ10を先行待機ポンプとして運転することで気中運転や気水混合運転が行なわれると、定常運転の場合に比べて大きな振動が発生しようとするが、立軸ポンプ10と水槽55間には防振部材40が連結されており、且つ前記ダッシュポット43はポンプ振動のような速い動きに対してはこれに追従しないので防振部材40全体が剛体として作用し、従って前記振動は水槽55に連結された防振部材40によって確実に抑えることができる。
【0025】一方この立軸ポンプ10を設置した地盤に沈下が生じて、水槽55と縦軸ポンプ10との相対位置が少しずつ変化していったとしても、そのようなゆっくりとした変動に対してはダッシュポット43は抵抗なく伸び縮みするので、立軸ポンプ10に防振部材40側から余分な力が伝えられることはない。
【0026】また水槽55と縦軸ポンプ10との相対位置が少しずつ変化すると、防振部材40とこれを取り付ける立軸ポンプ10と水槽55との取り付け角度も少しずつ変化するが、上記防振部材40の両端には回転自在な連結手段47が取り付けられているので、前記取り付け角度の変化も抵抗なく行なえる。
【0027】なお上記実施形態の防振部材40としては剛性のある棒部材を用いたが、板状部材やL字鋼など、他の各種形状・構造の部材で構成しても良い。
【0028】また上記実施形態では防振部材40の長さを調整する長さ調整手段としてターンバックルを用いたが、他の各種構造の長さ調整手段を用いてもよい。
【0029】なお本発明に係る揺れ止め装置は、前記実施形態のように先行待機ポンプに用いて好適であるが、通常の定常運転を行なうポンプに用いても同様に有効であることは言うまでもない。
【0030】以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用・効果を奏する以上、本願発明の技術的思想の範囲内である。例えば立軸ポンプ10の駆動手段は電動機に限られず、エンジンやタービン等、他の駆動手段であってもよい。また防振部材40を取り付ける水槽55の内壁は、水槽55の上面(床51の下面)であってもよい。
【0031】
【発明の効果】以上詳細に説明したように本発明によれば以下のような優れた効果を有する。
■立軸ポンプと水槽の間に立軸ポンプの振動を吸収する防振ダンパを取り付け、且つ防振ダンパと水槽又は立軸ポンプの何れか一方間をスライド手段を介して接続したので、立軸ポンプの振動を防止できるとともに、例え地盤沈下が生じてもこれに容易に追従でき、ポンプに余分な力を伝えない。
【0032】■立軸ポンプと水槽の内壁との間を防振部材によって連結し、且つ防振部材にダッシュポットを取り付けたので、立軸ポンプの振動を防止できるとともに、例え地盤沈下が生じてもこれに容易に追従でき、ポンプに余分な力を伝えない。
【0033】■防振部材の両端を回転自在な連結手段によって立軸ポンプと水槽の内壁間に連結したので、例え水槽と立軸ポンプ間の相対位置が変化しても、防振部材の立軸ポンプや水槽への取り付け角度を抵抗なく変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を用いてなる立軸ポンプとその揺れ止め装置を示す概略側面図である。
【図2】本発明の他の実施形態を用いてなる立軸ポンプとその揺れ止め装置を示す概略側面図である。
【図3】立軸ポンプ10と水槽55の側壁間に取り付けた防振部材40の取り付け状態を示す図である。
【図4】従来の立軸ポンプとその揺れ止め装置を示す概略側面図である。
【符号の説明】
10 立軸ポンプ
11 開口
13 ポンプ台板
15 電動機架台
17 電動機
19 吐出曲管
21 吊り下げ管
23 吐出ボウル
25 吸込ベルマウス
27 整流板取付部材
29 整流板
31 吐出管
35 防振ダンパ
37 防振ダンパ支持部材
37a シリンダ部
39 ダストシール
40 防振部材
43 ダッシュポット
44 ターンバックル(長さ調整手段)
47 連結手段
51 床
55 水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】 床から水槽内に吊り下げた立軸ポンプの揺れを防止する立軸ポンプの揺れ止め装置において、前記揺れ止め装置は、前記立軸ポンプの下部と水槽の底面との間に立軸ポンプの振動を吸収する防振ダンパを取り付け、且つ前記防振ダンパと前記水槽又は立軸ポンプの何れか一方間をスライド手段を介して接続したことを特徴とする立軸ポンプの揺れ止め装置。
【請求項2】 床から水槽内に吊り下げた立軸ポンプの揺れを防止する立軸ポンプの揺れ止め装置において、前記揺れ止め装置は、前記立軸ポンプと水槽の内壁との間を防振部材によって連結し、且つ前記防振部材には振動速度に比例して制振力を発生させるダッシュポットを取り付けたことを特徴とする立軸ポンプの揺れ止め装置。
【請求項3】 前記防振部材の両端は、回転自在な連結手段によって、立軸ポンプと水槽の内壁間に連結されていることを特徴とする請求項2記載の立軸ポンプの揺れ止め装置。
【請求項4】 前記防振部材にはその長さを調整する長さ調整手段が取り付けられていることを特徴とする請求項2又は3記載の立軸ポンプの揺れ止め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−5097(P2002−5097A)
【公開日】平成14年1月9日(2002.1.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−187379(P2000−187379)
【出願日】平成12年6月22日(2000.6.22)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)