説明

筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用

【課題】簡便かつ短期間で達成できる、筋肉増強方法を提供する。
【解決手段】筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用は、目的とする筋肉に対する機械的負荷を与えることなく、単に目的部位に二酸化炭素を吸収させるだけで、簡便かつ短期間で筋力増強を可能とする。また、目的とする筋肉に対する機械的負荷を与えることにより、筋力増強作用が促進されるとともに、機械的負荷による筋肉疲労の回復を促進する作用とを併せ持つ。また筋力増強のための二酸化炭素吸収手段の使用により、家畜の肉量増量も可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用に関する。より詳細には、二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤、二酸化炭素供給手段を用いる、筋力トレーニング方法及び二酸化炭素供給手段を用いる家畜の肉量増量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、概ね次の(1)〜(10)に示すような症状等に有効であると特許文献1に記載されている(特許文献1参照)。
(1) 水虫、虫さされ、アトピー性皮膚炎、貨幣状湿疹、乾皮症、脂漏性湿疹、蕁麻疹、痒疹、主婦湿疹、尋常性ざ瘡、膿痂疹、毛包炎、癰、せつ、蜂窩織炎、膿皮症、乾癬、魚鱗癬、掌蹠角化症、苔癬、粃糠疹、創傷、熱傷、き裂、びらん、凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒み、褥創、創傷、熱傷、口角炎、口内炎、皮膚潰瘍、き裂、びらん、凍瘡、壊疽などの皮膚粘膜損傷;
(2) 移植皮膚片、皮弁などの生着不全;
(3) 歯肉炎、歯槽膿漏、義歯性潰瘍、黒色化歯肉、口内炎などの歯科疾患;
(4) 閉塞性血栓血管炎、閉塞性動脈硬化症、糖尿病性末梢循環障害、下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感、しびれ感;
(5) 慢性関節リウマチ、頸肩腕症候群、筋肉痛、関節痛、腰痛症などの筋骨格系疾患;
(6) 神経痛、多発性神経炎、スモン病などの神経系疾患;
(7) 乾癬、鶏眼、たこ、魚鱗癬、掌蹠角化症、苔癬、粃糠疹などの角化異常症;
(8) 尋常性ざ瘡、膿痂疹、毛包炎、癰、せつ、蜂窩織炎、膿皮症、化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;
(9) 除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理);
(10) そばかす、肌荒れ、肌のくすみ、肌の張りや肌の艶の衰え、髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満
上記症状の改善を達成するために、二酸化炭素供給手段として二酸化炭素外用剤調製用組成物(特許文献2〜3参照)、二酸化炭素外用組成物(特許文献4参照)、二酸化炭素外用ゲル調製用組成物(特許文献5参照)、二酸化炭素外用剤調製用材料(特許文献6参照)、二酸化炭素外用投与装置(特許文献7〜8参照)が開示されている。
また特許文献9には、二酸化炭素の経皮導入による筋骨格障害を含む痛みの軽減について開示されている。
【0003】
しかしながら、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用、より具体的には二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤、二酸化炭素供給手段を用いる、筋力トレーニング方法および家畜の肉量増量方法については何ら知られていない。
【0004】
筋力増強方法としては、目的とする筋肉を最大筋力の60%以上の力で収縮させる筋力トレーニングが一般的である。さらに、運動時に目的とする筋肉を圧迫して血流を阻害することにより、より短時間で筋力増強を可能にすると言われる加圧筋力トレーニングが提案されている。
【0005】
上記筋力トレーニングによる筋力増強方法は、一定以上の筋肉疲労を起こすことによって、一定時間経過後に筋力が増強する現象を利用している。この場合、筋肉疲労の回復が遅ければ、疲労の蓄積等により筋力トレーニングの効果が減少するだけでなく、けがなどにもつながりやすいため、疲労回復が必要となる。従って、筋力増強効率を上げるために、筋力トレーニング後にマッサージや低周波治療器、温浴などにより、トレーニング後の疲労回復が図られる。しかしながら、マッサージは筋力増強促進効果がないことが明らかにされており(非特許文献1参照)、疲労回復には必ずしも有用とは言えない。
【0006】
筋力トレーニングが不要な筋肉増量方法として、生体に外部から温熱負荷を与えて筋肉量を増加させる方法が提案されている(特許文献10参照)。本発明において、筋力増強と筋肉増量は同じ意味を有する。
【0007】
しかしながら、特許文献10に記載の温熱負荷による筋肉増量方法は、筋肉増量効果が得られるとされる有効温度(38〜41度)と、組織細胞が死滅する温度(43度)が近いため、精密な温度管理が必要である。外部熱源によって生体を加温する場合、皮膚が最も温度が高くなり、生体内部に向かって温度は低下するため、筋肉のみを一定時間以上、有効温度に加熱することは容易でない。
【0008】
また、本方法による筋肉増量は、筋力トレーニングを併用しても、例えば上腕二頭筋が4%増加するには14週間もの長期間を必要とし、きわめて非効率的である。
【特許文献1】特許文献:日本特許公開2000−319187号公報
【特許文献2】特許文献:国際公開2002/80941号公報
【特許文献3】特許文献:国際公開2006/80398号公報
【特許文献4】特許文献:国際公開2003/57228号公報
【特許文献5】特許文献:国際公開2005/16290号公報
【特許文献6】特許文献:国際公開2004/4745号公報
【特許文献7】特許文献:国際公開2004/2393号公報
【特許文献8】特許文献:国際公開2008/047829号公報
【特許文献9】特許文献:米国特許6,652,479B2公報
【特許文献10】特許文献:日本特許公開2006−61687号公報
【非特許文献1】非特許文献1:Sven Joenhagen et al.,Sports Massage After Eccentric Exercise. The American Journal of Sports Medicine.2004;6:1499-1503
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便かつ短期間に効果が得られる、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用であって、具体的には二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤、二酸化炭素供給手段を用いる筋力トレーニング方法及び家畜の肉量増量方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、筋力トレーニング等において、筋力増強促進作用と疲労回復促進作用とを同時に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、目的とする部位で、筋力増強のための二酸化炭素供給手段を使用し、二酸化炭素を生体内に吸収させることにより筋力が増強もしくは筋力の低下を抑制すること、また二酸化炭素を有効成分とする二酸化炭素供給手段が、筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤として有用であること、さらには二酸化炭素供給手段を用いる、筋力トレーニング方法及び家畜の肉量増量方法を見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用である。
本発明によれば、目的とする部位の筋力増強促進と疲労回復促進を同時に達成することが可能である。
なお、本発明において、二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤とは、筋力増強のための二酸化炭素を含む、外用に用いられるもの全てを言い、例えば気体状二酸化炭素や、粘性組成物に含有された状態の二酸化炭素、水蒸気の水に溶解した二酸化炭素、二酸化炭素を溶解する溶媒に溶解した状態の二酸化炭素などを意味し、その投与手段は噴霧、塗布、貼付など、目的部位に二酸化炭素が供給可能な方法であれば限定されない。また、二酸化炭素を有効成分とする筋力低下抑制剤とは、筋力低下抑制のための二酸化炭素を含む、外用に用いられるもの全てを言い、例えば気体状二酸化炭素や、粘性組成物に含有された状態の二酸化炭素、水蒸気の水に溶解した二酸化炭素、二酸化炭素を溶解する溶媒に溶解した状態の二酸化炭素などを意味し、その投与手段は噴霧、塗布、貼付など、目的部位に二酸化炭素が供給可能な方法であれば限定されない。
【0011】
本発明は、二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤である。
本発明はまた、二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いて、局所的に二酸化炭素が投与される上記の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤である。
本発明はまた、二酸化炭素外用投与装置を用いて、経皮的に二酸化炭素が投与される上記の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤である。
本発明はまた、前記二酸化炭素外用投与装置が、体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部において二酸化炭素の経皮経粘膜吸収を助ける吸収補助材とを備えていることを特徴とする、上記の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤である。
【0012】
本発明は、二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いた二酸化炭素の経皮吸収と、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは当該筋肉への血流を阻害することを組み合わせた、筋力トレーニング方法である。
【0013】
本発明は、体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部において二酸化炭素の経皮経粘膜吸収を助ける吸収補助材とを備えていることを特徴とする二酸化炭素外用投与装置を用いた二酸化炭素の経皮吸収と、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは当該筋肉への血流を阻害することを組み合わせた、筋力トレーニング方法である。
【0014】
本発明は、ヒト又は動物の体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部の体表面での発汗を増進させる発汗増進手段とを備えていることを特徴とする二酸化炭素外用投与装置を用いた二酸化炭素の経皮吸収と、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは当該筋肉への血流を阻害することを組み合わせた、筋力トレーニング方法である。
【0015】
本発明は、二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いることを特徴とする、家畜の肉量増量方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は、筋力トレーニングの実施が困難な、筋力の低下した高齢者や腰痛、肘もしくは膝痛患者等に適用すれば、その筋力増強もしくは筋力低下の抑制が、簡便かつ短期間で実施できる。筋力の増強もしくは筋力低下の抑制により行動体力が増強されるため、筋力の低下した高齢者や患者等の行動の自立性を高め、行動範囲を拡大でき、生活の質を上げることができる。本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は寝たきり患者等にも容易に適用できるため、当該患者の回復を促進し、廃用症候群等の障害を予防できる。本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は、ギプスに特許文献7(日本特許公開2004−517345号公報)記載の密閉包囲材の機能を持たせることで、骨折部位等の固定時に発生する筋力低下と関節拘縮を予防できる。固定終了後のリハビリテーションに本発明の、筋力増強剤、及び/もしくは筋力低下抑制剤を適用すれば、筋力の回復が促進され、リハビリテーションに要する日数が短縮できる。そのほか、脳血管障害や脊髄損傷による麻痺、外科手術後の安静等による筋力低下にも、本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は有効である。
【0017】
本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤としては、二酸化炭素外用剤調製用組成物や二酸化炭素外用投与装置のような、携行が容易な二酸化炭素の経皮吸収手段が利用できるため、スポーツジムやリハビリテーション室のような特別な施設がなくても、容易に筋力増強及び/もしくは筋力低下抑制が可能である。
【0018】
本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は、重力の影響を受けないため、例えば宇宙飛行士が休憩もしくは睡眠時間中に用いると、身体機能低下を防ぐ運動に割く時間が少なくなり、より効率的に科学実験等の業務を行うことができる。
【0019】
本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は、スポーツ選手等の筋力トレーニングによる筋力増強を短期間で促進するだけでなく、疲労回復も促進するため、運動能力向上が効率的かつ安全に行える。
もちろん、本発明の筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は動物にも適用できるため、例えば競走馬の走力向上等が効率的かつ安全に行える。また本発明の、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用により、牛、豚、羊などの家畜の肉を安全かつ効率的に増やすこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用は、二酸化炭素を生体内に吸収させる手段の使用であれば特に限定されるものではないが、局所的な吸収手段が好ましい。例えば二酸化炭素の生体内吸収手段としては、次のものが例示される。
(1)二酸化炭素外用剤調製用組成物、例えば、a)加水分解されて酸を生じる物質、炭酸塩、増粘剤および水を必須成分とし、さらにカルシウムイオンによってゲル化するゲル化剤、および水不溶性若しくは水難溶性カルシウム塩からなることを特徴とする二酸化炭素外用剤調製用組成物(国際公開2006/80398号公報)、または、b)水溶性酸、増粘剤、水溶性分散剤を必須成分とし、増粘剤が水溶性酸及び水溶性酸および水溶性分散剤と混合されている粒状物と、炭酸塩、水、増粘剤を必須成分とし、使用時に粒状物と混合される粘性組成物からなる二酸化炭素外用剤調製用組成物(国際公開2002−80941号公報)、から得られる二酸化炭素外用剤;
【0021】
(2)少なくとも水と増粘剤からなる粘性物に二酸化炭素が非気泡状態で溶解していることを特徴とする二酸化炭素外用組成物、または少なくとも発酵菌と該菌の代謝産物、増粘剤、水および二酸化炭素を含むことを特徴とする二酸化炭素外用組成物(国際公開2003/57228号公報);
(3)下記の粒状物(A)と、この粒状物(A)と混合する粘性物(B)と、からなることを特徴とする二酸化炭素 外用ゲル調製用組成物から得られる二酸化炭素外用剤。
(A)弱酸と、カルシウムイオン捕捉剤とを必須成分とする粒状物。
(B)炭酸カルシウムと、カルシウムイオンによりゲル化するゲル化剤と、水とを必須成分とする粘性物(国際公開2005/16290号公報);
【0022】
(4)体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部において二酸化炭素の経皮経粘膜吸収を助ける吸収補助材とを備えていることを特徴とする二酸化炭素外用投与装置(国際公開2004/02393号公報)。
(5)ヒト又は動物の体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部の体表面での発汗を増進させる発汗増進手段とを備えていることを特徴とする二酸化炭素外用投与装置(国際公開2008/047829号公報)
【0023】
その他、人工炭酸泉を含む炭酸泉や二酸化炭素含有水蒸気も利用可能である。前記二酸化炭素含有水蒸気とは、東ヨーロッパなどで痔疾治療等に利用される、地下から噴出する、二酸化炭素を含有した天然の水蒸気や、ドライアイスを空気中に置くと発生する、二酸化炭素を含有した水蒸気の白煙などを意味する。さらには、注射針等を用いて目的とする組織内に直接二酸化炭素を注入する方法も利用できる。もちろん、本発明はこれらの二酸化炭素供給手段に限定されるものではなく、筋力増強が促進される量の二酸化炭素が目的部位に吸収される手段であればよい。これらの中でも上記(4)または(5)の二酸化炭素外用投与装置が好ましい。
【0024】
上記二酸化炭素供給手段は筋力トレーニングにも適用される。本発明の、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用を筋力トレーニングに利用する場合、二酸化炭素の吸収は筋力トレーニングの前、筋力トレーニング中、あるいは筋力トレーニング終了後のいずれの時期でも良いが、筋力トレーニング終了後が、疲労回復促進効果が強いため好ましい。なお、本発明において、筋力トレーニングとは、筋肉を種々の方法で加圧してトレーニングする、いわゆる加圧トレーニングも包含する。
【0025】
二酸化炭素の吸収濃度及び時間は、二酸化炭素供給手段によるが、二酸化炭素外用投与装置を利用する場合、二酸化炭素濃度としては300ppm以上が好ましく、1,000ppm以上がさらに好ましい。吸収時間としては概ね5分以上が好ましく、10分以上がさらに好ましい。二酸化炭素は安全性が高いため、長時間の吸収に問題はないが、概ね30分で所期の効果が得られる。
二酸化炭素外用剤を利用する場合は、例えば上記(2)の外用組成物の場合、二酸化炭素溶解濃度は300ppm以上が好ましく、1000ppm以上飽和濃度までが特に好ましい。
二酸化炭素の吸収頻度は、1週間に1回以上が好ましく、1日1回以上がさらに好ましい。
本発明の、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用を筋力トレーニングに併用する場合、筋力トレーニングを行うたびに二酸化炭素を吸収させることが好ましいが、数回に1回二酸化炭素の吸収を行わなくても、ほぼ所期の効果が得られる。筋力トレーニングを行わない日にも二酸化炭素を吸収させることは、筋力増強と疲労回復が促進されるため好ましい。
【実施例】
【0026】
次に実施例をあげて本発明について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
脚の等尺トルク伸展運動による筋力増強促進(筋力増強のための二酸化炭素供給手段として二酸化炭素外用投与装置を使用)
[試験方法]
被験者は8名。このうち、週3回以上スポーツを行う被験者(以下、「アスリート」という)は2名、スポーツを行う回数が週2回以下の被験者(以下、「ノンアスリート」という)は6名。各被験者は10分間エアバイクを漕いでウォーミングアップを行った。次に、トレーニングマシンMyoretRZ−450(川崎重工業株式会社製)を用いて大腿四頭筋の等尺トルク伸展運動を300回以上行ない、運動負荷をかけた。その後、MyoretRZ−450を用いて大腿四頭筋の筋力と、運動負荷をかけていないハムストリングス筋の筋力の測定を行った。
トレーニング終了後、特許文献7(日本特許公開2004−517345号公報)の実施例5に記載の二酸化炭素の吸収補助材4をいずれかの決められた足(以下、「処置足」という)に塗布した。処置足を逆止弁が付いた、長さ80cmのポリプロピレン製の袋状密閉包囲材で覆い、炭酸ガスボンベから二酸化炭素を充填し、10分間放置した。二酸化炭素濃度は80%(800,000ppm)とした。もう一方の足は何も処置を行わなかった(以下、「無処置足」という)。トレーニングは、この1回のみ行った。
トレーニングの翌日から3日間、各被験者は大腿四頭筋の等尺トルク伸展運動を行わずに、1日1回10分間、上記と同様に、処置足に、本発明の筋力増強のための二酸化炭素供給手段を使用(二酸化炭素供給手段として二酸化炭素外用投与装置を使用)して二酸化炭素を吸収させた。その後、MyoretRZ−450を用いて大腿四頭筋とハムストリングス筋の筋力を測定した。
試験開始から4日目以降は二酸化炭素の吸収も大腿四頭筋の等尺トルク伸展運動も行わなかった。試験開始から7日目にMyoretRZ−450を用いて大腿四頭筋とハムストリングス筋の筋力を測定した。
【0028】
[試験結果]
試験開始日において、運動負荷前(ex前)の筋力を100%としたとき、両足ともに運動負荷後は25%程度の筋力低下が認められた(図1のex後を参照)。
運動負荷後に二酸化炭素を吸収している間、被験者の血圧、心拍数に変化はなかった。二酸化炭素の吸収後、MyoretRZ−450を用いて大腿四頭筋の筋力を測定したところ、処置足は、筋力回復が無処置足に比べて早かった(図1のCO2後を参照)。
試験2日目〜4日目では、MyoretRZ−450を用いて大腿四頭筋の筋力を測定したところ、両足ともに筋力増強が認められたが、処置足の方が無処置足に比べて筋力増強が促進された(図1の2日目、3日目、4日目を参照)。
試験7日目に大腿四頭筋の筋力を測定したところ、無処置足は軽微な筋力増強が認められたに過ぎなかったが、処置足は二酸化炭素の吸収を止めたにもかかわらず、20%の筋力増強が認められた。特にノンアスリートの場合では、約30%の筋力増強が認められた(図1の7日目を参照)。
一方、運動負荷を行わなかったハムストリングス筋でも、処置足では、約15%の筋力増強が認められたが、無処置足では、ハムストリングス筋の筋力増強は認められなかった(図2の7日目を参照)。図3から明らかなように、この筋力増強は、5%の危険率で統計学的に有意差が認められた。また図2から明らかなように、特にノンアスリートの場合では、約20%の筋力増強が認められた。
【0029】
実施例2
運動負荷をかけない筋肉の筋力増強促進(筋力増強のための二酸化炭素供給手段として二酸化炭素外用投与装置を使用)
[試験方法]
被験者は13名(全て男性、年齢27歳〜43歳)。各被験者は、特許文献7(日本特許公開2004−517345号公報)の実施例5に記載の二酸化炭素の吸収補助材4をいずれかの決められた足(以下、「処置足」という)に塗布した。処置足を逆止弁が付いた、長さ80cmのポリプロピレン製の袋状密閉包囲材で覆い、炭酸ガスボンベから二酸化炭素を充填し、10分間放置した。二酸化炭素濃度は80%(800,000ppm)とした。これらの処置を一週間に少なくとも1回以上、3ヶ月間行った。もう一方の足は何も処置を行わなかった(以下、「無処置足」という)。試験開始前と3月後に処置足、無処置足の筋力測定(MyoretRZ−450による大腿四頭筋とハムストリングス筋筋力測定)を行った。
【0030】
[試験結果]
試験3ヶ月目に、無処置足に比べ、処置足では、大腿四頭筋とハムストリングス筋で約15%の筋力増強が認められた。この筋力増強は、大腿四頭筋では危険率1%、ハムストリングス筋では危険率5%で統計学的に有意差が認められた(図4参照)。
【0031】
実施例3
運動負荷をかけないラットの筋肉量増加(筋力増強のための二酸化炭素供給手段として二酸化炭素外用投与装置を使用)
[試験方法]
Wister系の雄ラット(試験開始時に5週齢)を9匹用い、二酸化炭素の吸収を行うラット(以下、「CO2群」という)と、行わないラット(以下、「CONTROL群」という)の2群にわけて試験を行った。
CO2群は、6匹のラットを麻酔下で左右の下腿の除毛を行ない、特許文献7(日本特許公開2004−517345号公報)の実施例5に記載の二酸化炭素の吸収補助材4を右下腿にのみに塗布した(以下、「処置足」という)。次に右後肢だけが二酸化炭素を吸収するように、左後肢が外に出る穴を設けたポリエチレン製の袋状密閉包囲材をラットの下半身に被せ、炭酸ガスボンベを使って、二酸化炭素を充填し、当該密閉包囲材を膨らませた。常に当該密閉包囲材内に十分量の二酸化炭素を確保する為、二酸化炭素を随時追加し、10分間二酸化炭素を充満させた。当該密閉包囲材内の二酸化炭素濃度は100%とした。上記の処置を、週2回、3ヶ月間行った。左下腿については、除毛のみ行ない、それ以外の処置は行わなかった(以下、「無処置足」という)。CONTROL群は、麻酔のみ行ない、二酸化炭素の吸収は行わなかった。
3ヶ月後、ラットの体重を測定後、左右の下腿から筋肉を採取した。採取した筋肉の筋湿重量を測定後、筋線維の成長促進指標タンパク質であるMyoD、及びMyogenin(原 温子他、骨格筋再生過程におけるミオシン重鎖アイソフォームとmyogenin・MyoD発現について 広島大学保健学ジャーナル、Vol.2(1):12〜18、2002参照)、IGF−IR〔鈴木淳一他、L−アルギニン投与下の持久的トレーニングがラット骨格筋のIGF−1受容体発現に及ぼす影響 冬季スポーツ研究(北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター紀要)、第8巻1号1−7、2005参照〕をウエスタンブロッティング法で検出し、得られたバンドを解析ソフト(NIH−Image)で解析し、各成長促進指標タンパク質を定量した。測定によって得られた筋湿重量/体重比を図5に、各タンパク質量を図6に示した。
【0032】
[試験結果]
図5から明らかなように、筋湿重量と体重を測定した結果、CONTROL群に比べ、CO2群で体重あたりの筋湿重量増加が認められた。また、CO2群で無処置足に比べ、処置足で著しい筋湿重量増加が認められた。
図6から明らかなように、CONTROL群に比べ、CO2群の筋肉から抽出した成長促進指標タンパク質が増加していることが認められた。
これらの試験結果より、二酸化炭素の吸収により筋湿重量が増加すること、この増加は、筋線維の成長促進によることが明らかになった。
【0033】
実施例4
加圧トレーニング効果促進作用(筋力増強のための二酸化炭素供給手段として二酸化炭素外用投与装置を使用)
[試験方法]
被験者は2人(男性1人、女性1人)。試験は、Abe T. et al. (2006) Electromyographic responses of arm and chest muscle during bench press exercise with and without KAATSU. Int. J. Kaatsu Training Res. 2:15-18を参考にして行った。各被験者は、試験開始前に両手の握力を測定した。次に特許文献7(日本特許公開2004−517345号公報)の実施例5に記載の二酸化炭素の吸収補助材4を各被験者の左腕全体に塗布し、逆止弁が付いた、長さ80cmのポリプロピレン製の袋状密閉包囲材で覆った。当該密閉包囲材の上から上腕に血圧計のカフを装着した。最初はカフの圧を50mmHgとして上腕を30秒間加圧した。次に一旦10秒間除圧後、カフの圧を70mmHgまで徐々に上げて上腕を加圧した。カフの圧が70mmHgに到達したところで圧を固定し、炭酸ガスボンベから二酸化炭素を当該密閉包囲材内に充填して当該密閉包囲材を膨らませた。その後すぐに、掌開閉運動をすばやく20回行ない、その後15秒間安静にした。この掌開閉運動と安静を3回繰り返した(以下、「処置腕」という)。常に当該密閉包囲材内に十分量の二酸化炭素を確保する為、二酸化炭素を随時追加した。最初の加圧から10分後にカフを除圧し、当該密閉包囲材を取り外した。
右腕は左腕と同じ条件で加圧と掌開閉運動のみ行ない、二酸化炭素の吸収は行わなかった(以下、「無処置腕」という)。
試験3日後、各被験者は再度両手の握力を測定した。
【0034】
[試験結果]
図7より明らかなように、二酸化炭素の吸収は加圧による筋力増強作用を促進することが認められた。筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用により、加圧のみを行った場合に比べ、2倍近い筋力増強率を示した。加圧と掌開閉運動のみのトレーニングは、激しい筋肉の痛みや疲労を伴ったが、筋力増強のための二酸化炭素供給手段の使用により、二酸化炭素を吸収させながら同じトレーニングを行った左腕は、筋肉の痛みと疲労が少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の、二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は、目的とする筋肉に対する機械的負荷を与えることなく、単に目的部位に二酸化炭素を吸収させるだけで、簡便かつ短期間で筋力増強もしくは筋力低下抑制を可能とする。さらに本発明の二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤、及び筋力低下抑制剤は、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは血流を阻害することを組み合わせることにより、筋力増強もしくは筋力低下抑制を更に促進する筋力トレーニング方法として有用である。また本発明の筋力増強のための、二酸化炭素供給手段を使用すれば、家畜の肉量増量も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ex前(運動負荷前。exは大腿四頭筋の等尺トルク伸展運動を表す。以下同様。)を100%とした大腿四頭筋筋力の変化を示す図である。
【図2】ex前を100%としたハムストリングス筋筋力の変化を示す図である。
【図3】ex前を100%とした時、運動負荷7日後の大腿四頭筋筋力とハムストリングス筋筋力を示す図である。
【図4】運動負荷を行わない場合の実験3ヵ月後の筋力を示す図である。
【図5】運動負荷を行わないラットの実験3ヶ月後の下肢の筋湿重量/体重比を示す図である。
【図6】運動負荷を行わないラットの実験3ヶ月目の下肢の筋肉から抽出したタンパク質量を示す図である。
【図7】加圧トレーニング後、3日目の握力を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を有効成分とする筋力増強剤。
【請求項2】
二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いて、対象部位に二酸化炭素が投与される請求項1の筋力増強剤。
【請求項3】
二酸化炭素外用投与装置を用いて、経皮的に二酸化炭素が投与される請求項1または2の筋力増強剤。
【請求項4】
前記二酸化炭素外用投与装置が、体表面から外気を密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部において二酸化炭素の経皮経粘膜吸収を助ける吸収補助材とを備えていることを特徴とする、請求項3の筋力増強剤。
【請求項5】
二酸化炭素を有効成分とする筋力低下抑制剤。
【請求項6】
二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いて、対象部位に二酸化炭素が投与される請求項5の筋力低下抑制剤。
【請求項7】
二酸化炭素外用投与装置を用いて、経皮的に二酸化炭素が投与される請求項5または6の筋力低下抑制剤。
【請求項8】
前記二酸化炭素外用投与装置が、体表面から外気を密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部において二酸化炭素の経皮経粘膜吸収を助ける吸収補助材とを備えていることを特徴とする、請求項7の筋力低下抑制剤。
【請求項9】
二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いた二酸化炭素の経皮吸収と、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは当該筋肉への血流を阻害することを組み合わせた、筋力トレーニング方法。
【請求項10】
体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部において二酸化炭素の経皮経粘膜吸収を助ける吸収補助材とを備えていることを特徴とする二酸化炭素外用投与装置を用いた二酸化炭素の経皮吸収と、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは当該筋肉への血流を阻害することを組み合わせた、筋力トレーニング方法。
【請求項11】
ヒト又は動物の体表面を外気から密閉することができる密閉包囲材と、この密閉包囲材の内部に二酸化炭素を供給するための供給装置と、前記密閉包囲材の内部の体表面での発汗を増進させる発汗増進手段とを備えていることを特徴とする二酸化炭素外用投与装置を用いた二酸化炭素の経皮吸収と、目的とする筋肉に負荷を与えること及び/もしくは当該筋肉への血流を阻害することを組み合わせた、筋力トレーニング方法。
【請求項12】
二酸化炭素外用投与装置、二酸化炭素外用剤、炭酸泉、二酸化炭素含有水蒸気及び二酸化炭素の組織内注入からなる群より選ばれる1種もしくは2種以上の二酸化炭素供給手段を用いることを特徴とする、家畜の肉量増量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−120606(P2009−120606A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274585(P2008−274585)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(301039505)ネオケミア株式会社 (15)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】