説明

米粉製造のための製粉前処理方法及びその装置

【課題】水洗工程及び浸漬工程による排水を生じることなく、かつ、米の硬度を著しく低下させるような米粉製造の前処理方法及びその装置を提供する。
【解決手段】水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲にある原料精白米に対して低湿度の風を送給し、水分を11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に調整して水分を均質化する水分均質化工程と、 該水分均質化工程を通過させた精白米に、水分が20.0〜45.0%(w.b.%)までの加水及び該加水後の精白米の米粒中心部への水分吸収の促進を行う調質工程と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米粉製造のための製粉前処理方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、米粉の製造方法として、精白米を水洗し、該水洗した精白米を、2時間以上24時間以内の浸漬処理を施して含水させた後、水挽きや気流製粉などで製粉することが古くから知られている。当該製造方法によれば、前記水洗した後の精白米に前記長時間の浸漬処理を施すことにより、粒度の細かい上質な米粉を製造することが可能となる。
【0003】
つまり、前記精白米の長時間の浸漬処理は、米粒内の水分分布を均一化するとともに、該米粒を軟質化するために行われる。一方で、精白米は、浸漬処理が短時間しか行われないと、米粒内の水分分布が不均一となり、吸水が少ない箇所が多く存在することになる。その場合、前記精白米は、米粒内における吸水が少ない箇所では製粉時に粗粉となり、粗粉の割合が多い粒度の米粉となる。このため、製粉前の水洗、浸漬の各工程が米粉の品質上、極めて重要な意義を持つことになる(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記製造方法における製粉前の水洗工程及び浸漬工程で使用した排水は、そのまま河川や下水道等に放流することは許されず、例えば、好気性生物処理や嫌気性生物処理などの排水処理設備で浄化させた後に外部に放出する必要があった。従来は、この排水処理に係るイニシャルコスト及びランニングコストに対して莫大な費用を投じていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】倉澤文夫 著、「最新食品加工講座 米とその加工」、株式会社建帛社、昭和57年11月25日初版発行、P.221-223
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記問題点にかんがみ、水洗工程及び浸漬工程による排水を生じることなく、かつ、米の硬度を著しく低下させるような米粉製造の前処理方法及びその装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲にある原料精白米に対して低湿度の風を送給し、水分を11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に調整して水分を均質化する水分均質化工程と、
該水分均質化工程を通過させた精白米に、水分が20.0〜45.0%(w.b.%)までの加水及び該加水後の精白米の米粒中心部への水分吸収の促進を行う調質工程と、
を備える米粉製造のための前処理方法とした。
【0008】
請求項2記載の発明によれば、前記水分均質化工程と前記調質工程との間に、前記水分均質化工程により水分が均質化された精白米に、水分を添加して糊粉層部分を軟質化させ、この精白米を粒々摩擦することにより糊粉層部分の除糠を行う除糠工程を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
一般的に原料となる精白米の水分は15.5%(w.b.%)として知られているが(例えば、五訂増補食品成分表2006)、実際には、新米なら14.0〜16.0%(w.b.%)、古米なら13.0〜15.0%(w.b.%)であり、鮮度や保管状態によってバラツキがある。このため、本発明では、まず、水分均質化工程において、水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲にある原料精白米に対して低湿度の風を送給し、水分を11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に調整して水分をほぼ均質化するのである。これにより、ほぼ全ての精白米の水分が均質化し、しかも精白米の米粒の表面には、微細な亀裂が多数形成され、米粒の表面から水分の吸収しやすい状態となっている。
【0010】
調質工程においては、前述の水分均質化工程を通過させた精白米に水分が20.0〜45.0%(w.b.%)になるまで加水を行う。この調質工程において、米粒表面に付着した付着水が、微細な亀裂からデンプン層に浸透するようになる。そして、前記デンプン層では、細胞壁組織の浸透圧によってデンプン複粒への吸水が行われる。この結果、急速な膨潤により細胞壁組織のひずみ量が増加し、強固な細胞壁組織が破壊されやすくなっており、米の硬度が低下した状態にある。したがって、後工程の製粉工程では細胞壁組織が簡単に破壊され、デンプン単粒まで細かく破砕されることになる。
【0011】
以上のように、本発明の米粉製造のための製粉前処理では、容器内に水を満たして米粒を長時間浸漬するような、どぶ浸け処理や、米粒をあらかじめ洗米する処理が不要であるため、多量の水を使用することがなく、排水処理設備が不要となり、ランニングコストも大幅に削減することが可能となる。また、後工程の製粉工程では、細胞壁組織が簡単に破壊されデンプン単粒まで細かく破砕されるために、製粉工程における動力削減が可能となり、損傷デンプンの発生を防止することもできる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、前記水分均質化工程と前記調質工程との間に、前記水分均質化工程により水分が均質化された精白米に、水分を添加して糊粉層部分を軟質化させ、この精白米を粒々摩擦することにより糊粉層部分の除糠を行う除糠工程を備えているから、原料として米粒表面にわずかに糠が付着した精白米を使用する場合や、原料として外国産の長粒種(例えば、タイ国産の長粒種)を使用する場合に、米粒表面への加水により糊粉層部分を軟質化させた後、米粒同士の粒々摩擦を施して除糠を行うことができるものであり、米粉に粉砕した時の品質向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の米粉製造のための製粉前処理方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の米粉製造のための製粉前処理方法を具体化した製造装置のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づき、本発明の好適な実施の形態について説明する。図1は本発明の米粉製造のための製粉前処理方法を示すフロー図であり、図2は本発明の米粉製造のための製粉前処理方法を具体化した製造装置のフロー図である。
【0015】
原料となる米は、搗精後の精白米であれば特に産地、品種、保存方法、搗精方法を問わない。米の搗精の程度は、通常の精米手段であれば特に限定されず、精米歩合が94%以下であればよい。原料精白米の水分は、13.0〜16.0%(w.b.%)が好ましい。原料精白米の水分が高いものは、良食味値となる傾向が高く、米粉の食味を考慮する場合には水分の高いものを使用するのが好ましい。また、砕米、飼料米、古米なども原料として用いることができるが、著しく品質が悪いものは避けることが望ましい。
【0016】
本発明においては、最初の水分均質化工程(図1のステップ1)において、水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲にある原料精白米に対して、温度が40〜60℃、相対湿度10%以下の低湿度の風を約10〜20分間送給して乾燥を行う。このとき、例えば、水分が11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に調整されて、水分分布がほぼ均質化する。
【0017】
水分均質化工程における装置は特に限定されないが、例えば、図2の符号10に示す流下式乾燥機を用いるのが、経済性、焦げ防止の点から好ましい。流下式乾燥機10は、希望する仕上がり水分に応じて、温度、風量、乾燥時間等を適宜設定することができる。
【0018】
かくして得られた精白米は、ほぼ全ての精白米の水分が均質化し、しかも精白米の米粒の表面には、微細な亀裂が多数形成され、米粒の表面から水分の吸収しやすい状態となっている。次に、この精白米は、除糠工程に至り(図1のステップ2)、加水により糊粉層部分が軟質化された後、米粒同士の粒々摩擦が施され、米粒の糊粉層部分がこすり取られて除糠が行われるようになる。なお、原料として精白米表面の糠をあらかじめ除去した、いわゆる無洗米を用いる場合は、除糠工程を省略することも可能である。さらに、品質の悪い外国産米を用いる場合は、水分均質化工程の前段に除糠工程を配置するのが望ましい。
【0019】
除糠工程における装置は特に限定されないが、例えば、図2に示す加湿式研米機20を用いるのが、経済性、効率性の点から好ましい。加湿式研米機20の圧力は、通常の圧力でよく、加水量及び通過時間は、希望する仕上がり水分や白度に応じて、適宜設定することができる。
【0020】
次に、米粒は調質工程に至り(図1のステップ3)、該調質工程において米粒の水分が20.0〜45.0%(w.b.%)となるように加水される。この調質工程においては、米粒表面に付着した付着水が、米粒表面の微細な亀裂からデンプン層に浸透するようになる。そして、該デンプン層では、細胞壁組織の浸透圧によってデンプン複粒への吸水が行われるようになる。この結果、急速な膨潤により細胞壁組織のひずみ量が増加し、強固な細胞壁組織が破壊されやすくなって、米の硬度が低下した状態になる。
【0021】
調質工程における装置は特に限定されないが、例えば、図2に示す回転ドラム式の調質機30を用いるのが、経済性、効率性の点から好ましい。調質機の加水量は、希望する仕上がり水分に応じて、適宜設定することができる。また、加水後のテンパリング時間も希望する仕上がり水分に応じて、適宜設定することができる。
【0022】
図1のステップ4は、製粉工程であり、米粒を粉砕して粉にできればよく、その方式、粒径に限定はない。米粉の粒径に合わせて粉砕方式や粒径を設定することができる。
【0023】
図1のステップ5は、米粉を気流で乾燥する乾燥工程であり、例えば、8.0〜14.0%(w.b.%)の範囲となるように、乾燥時間や気流の温度を適宜調整することができる。以上のように、本発明の米粉製造のための製粉前処理方法であれば、容器内に水を満たして米粒を長時間浸漬するような、いわゆる、どぶ浸け処理や、米粒をあらかじめ洗米する処理が不要であるため、多量の水を使用することがなく、排水処理設備が不要となり、ランニングコストも大幅に削減することが可能となる。
【0024】
次に上記した米粉製造のための製粉前処理方法を具体的に実施するための装置について説明する。
【0025】
図2において、米粉製造のための製粉前処理装置1は、前述のように流下式乾燥機10、加湿式研米機20及び回転ドラム式調質機30から構成される。
【0026】
流下式乾燥機10の前段には、原料投入タンク2、繰出バルブ3及び搬送装置4が配置されており、搬送装置4からは流下式乾燥機10に至る配管5が配置されている。これらの構成により、原料米を所定量ずつ流下式乾燥機10に投入することができる。そして、流下式乾燥機10は、米粒を貯留する貯留タンク部6、米粒を低湿度の風により乾燥させる乾燥部7及び米粒を機外に排出する排出部8を重設した構成である。
【0027】
乾燥部7は、多孔板7a,7aにて形成される米粒流下路7b,7bを左右一対設け、この一対の米粒流下路7b,7bで囲まれる空間に、低湿度空気を前記米粒流下路7b,7bに向けて送給するための空気供給口7cが設けられ、米粒流下路7b,7bと乾燥部7の機枠とで囲まれる空間に、各米粒流下路7b,7bを通過した空気を機外に排風する排風路7d,7dがそれぞれ設けられている。該排風路7d,7dには排風ファン(図示せず)が接続してあり、該排風ファンの作動により米粒流下路7b,7bを通過した空気を機外に排風する構成にしてある。
【0028】
排出部8は、各米粒流下路7b下端に配置したロータリーバルブ8a,8aと、該ロータリーバルブ8a,8aから繰り出された米粒を集合させる漏斗部8b,8bと、該漏斗部8b,8bによって集合された米粒を機外に搬送する下部スクリュー8cとから構成されている。なお、別途昇降機などの搬送部を設けて排出部8と貯留タンク部6とを連絡し、米粒を再乾燥することができる構成としてもよい。
【0029】
流下式乾燥機10の後段には、搬送装置11が配置されており、搬送装置11からは加湿式研米機20に至る配管12が配置されている。これらの構成により、ほぼ全て水分が均質化した米粒を所定量ずつ湿式研米機20に投入することができる。なお、原料が、精白米表面の糠をあらかじめ除去した、いわゆる無洗米の場合は、湿式研米機20に至る配管12に代えて、回転ドラム式調質機30に至る配管13を選択し、除糠処理を省略することも可能である。
【0030】
そして、湿式研米機20は、米粒を一時貯留する貯留タンク部21と、該貯留タンク部21からの米粒を横搬送する送穀部22と、該送穀部22により横搬送された米粒を研米する研米部23と、該研米部23により研米された米粒を排出する排米部24と、前記研米部23での研米により剥離された糠を集糠する集糠部25と、前記研米部23内の米粒に加湿を行う加水部26とを備えた構成である。
【0031】
前記送穀部22は、ハウジング22a内で軸受22b,22bにより回転自在に支持された回転軸22cの一端側に搬送螺旋22dを取り付けた構成であり、貯留タンク部21から流下された米粒を研米部23に向けて搬送できる構成となっている。
【0032】
研米部23は、横設した多孔壁除糠精白筒23a内に、前記回転軸22cの他端側に取り付けた精白転子23bを回転可能に配置した構成であり、前記多孔壁除糠精白筒23aの内側にあって前記精白転子23bとの間隙を精白室23cとなし、前記除糠精白筒23aの外側を除糠室23dに形成してある。そして、前記除糠室23dと連通する前記研米部23の下方側に研米により剥離された糠を集糠する集糠部25が形成される。
【0033】
前記精白転子23bは中空状となし、排米部24側は加水部26と連通する一方、貯留タンク部21側は閉鎖され、研米部23の領域で水滴が放出されるような水分添加孔23eが多数形成されている。前記加水部26は、水管、調節弁及び水タンク(いずれも図示せず)より構成され、前記送穀部22から米粒が研米部23内に向けて搬送されると、加湿部26、精白転子23b中空部及び水分添加孔23eを経由した水分の添加によって瞬間的に米粒表面が湿潤軟質化される。そして、多孔壁除糠精白筒23a及び精白転子23bにより、米粒どうしの粒々摩擦が行われる。このとき、米粒表面の薄層を剥離することで除糠が行われ、米粒は排米部24から機外に排出されることになる。
【0034】
加湿式研米機20の後段には、回転ドラム式調質機30に至る配管27が配置されている。
【0035】
回転ドラム式調質機30は、筒部の中心を軸心として回転可能に形成する一方、筒部の長尺方向の傾斜角度を変更可能とした回転ドラム31と、該回転ドラム31を載置する架台32と、前記回転ドラム31内に米粒を投入するための米粒投入ホッパ33と、該米粒投入ホッパ33に連絡して回転ドラム31内に水を供給するための加水部34と、前記回転ドラム31からの米粒を排出するための流下樋35と、前記回転ドラム31から排出された米粒の調質を行う無端ベルトコンベア36と、から主要部が構成される。
【0036】
前記回転ドラム31を載置する架台32上には、回転ドラム31の筒部の長尺方向中間部を支持し、かつ、長尺方向の傾斜角度を変更することが可能な支点37を設けるとともに、前記回転ドラム31の一端側を上下動させて長尺方向の傾斜角度を変更することが可能なジャッキ38が設けられている。このジャッキ38の駆動により、支点37を中心にして、回転ドラム31の傾斜角度が例えば、0°(水平位置)から10°まで変更可能となる。これにより、回転ドラム31へ投入された米粒の滞留量又は流量を増減制御することができる。そして、回転ドラム31の架台32上には、回転ドラム31を軸心を中心に回転させるギアモータ39が設けられている。
【0037】
前記回転ドラム31の筒形状は、円筒形状であっても、多角筒形状であってもよいが、米粒投入ホッパ33から投入された米粒と加水部34から供給された水とを混合・撹拌させるため、撹拌効果の高い形状、すなわち、多角筒形状を採用するのが好ましい。また、撹拌効果の弱い円筒形状を採用する場合にあっては、円筒内部に撹拌部材を配設するのが望ましい。
【0038】
前記回転ドラム31からの米粒を排出するための流下樋35は、その内部に米粒のほぐし機(図示せず)を設けるのが望ましく、このほぐし機により加水が施された米粒をバラけさせて次工程の無端ベルトコンベア36のベルト36a上に供給することができる。
【0039】
前記無端ベルトコンベア36のベルト36aは、通常のベルトや、水切りや通風に適したメッシュベルトなどいずれの形態のものでも採用することができる。しかし、コスト等を考慮すれば通常のベルトを採用すればよい。すなわち、この工程にあっては、前記回転ドラム31での加水量を米粒表面に付着水が生じる程度に制限してあり、ベルト36aが無端軌道上を10〜30分間かけて走行している間に米粒中心部へ水分移行させるものであり、余剰水が生じるような大量の加水ではないために、通常のベルトコンベアを採用することができるのである。符号40は無端ベルトコンベア36を走行駆動するためのギアモータである。以下、本発明の好適な実施例について説明する。
【実施例】
【0040】
<実施例1>
実施例1では、原料が変わった場合でも本発明の製粉前処理方法によって品質の違いが生じるか否かの確認試験を行った。
供試原料としては、
日本産(短粒種)うるち米 テスト1、
日本産(短粒種)砕米 テスト2、
タイ産(長粒種)うるち米 テスト3、
タイ産(長粒種)砕米 テスト4、
の4種類とした。この4種の供試原料ついて本発明の製粉前処理方法を施し、得られた米粒を、同条件のもとで製粉を行い、損傷デンプンの程度、粒度分布及び水分を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1より、テスト1、テスト2、テスト3及びテスト4のように原料が変わったとしても、製粉前水分及び製粉後水分を検証した結果、品種間で大差は生じることがないことが分かった。また、粒度分布を検証した結果、粒径の累積50%を考察してみると、35.0μm(テスト2)〜41.6μm(テスト3)〜42.6μm(テスト4)〜55.7μm(テスト1)といった分布で推移しており、品種間で大差が生じることがないことが分かった。
【0043】
<実施例2>
実施例2では、神経伝達物質の一種として知られるγ-アミノ酪酸(GABA)が豊富に含まれている米粒を原料として用い、容器内に水を満たして米粒を長時間浸漬するような、いわゆる、どぶ浸け処理法(従来の製粉前処理方法)と、本発明の製粉前処理方法とを比較し、どちらの処理方法で製粉した米粉により多くのGABAが含まれているかの検証を行った。試験方法については表2に示し、GABA含有量の分析手法及び分析装置は表3に示し、GABA含有量の測定結果は表4に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
表4より、本発明の製粉前処理方法においては、精米処理後から製粉処理後に至るまでGABA含有量の大きな減少は見られなかった。一方で、従来の製粉前処理方法(どぶ浸け法)においては、浸漬処理以降でGABA含有量の著しい減少が見られた。すなわち、本発明の製粉前処理方法にあっては、水洗工程及び浸漬工程による排水を排出しない方式であるためと考えられる。GABAは水溶性物質であるために、従来の製粉前処理方法にあっては浸漬処理においてGABAが外部に流出したものと考えられる。
【0048】
以上のように本発明によれば、水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲である原料精白米に対して低湿度の風を送給し、水分を11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に調整して水分を均質化する水分均質化工程と、該水分均質化工程を通過させた精白米に、水分が20.0〜45.0%(w.b.%)までの加水及び該加水後の精白米の米粒中心部への水分吸収の促進を行う調質工程と、を備えた米粉製造のための前処理方法としたので、調質工程での急速な膨潤により細胞壁組織のひずみ量が増加し、強固な細胞壁組織が破壊されやすくなって、米の硬度が低下した状態になり、後工程の製粉工程では細胞壁組織が簡単に破壊され、デンプン単粒まで細かく破砕されることになる。
【0049】
そして、従来の容器内に水を満たして米粒を長時間浸漬するような、どぶ浸け処理や、米粒をあらかじめ洗米する処理が不要であり、多量の水を使用することがなく、排水処理設備が不要となり、ランニングコストも大幅に削減することが可能となる。
【0050】
さらに、後工程の製粉工程では、細胞壁組織が簡単に破壊されデンプン単粒まで細かく破砕されるために、製粉工程における動力削減が可能となり、損傷デンプンの発生を防止することができる。
【0051】
加えて、神経伝達物質の一種として知られるγ-アミノ酪酸(GABA)が豊富に含まれている米粒を原料として用い、本発明の方法により前処理を行って製粉処理を行えば、水洗工程及び浸漬工程による排水を排出しないためにGABA成分が外部に流出せず、GABA含有量の高い米粉を容易に製造することができる。
【0052】
以上、本発明を実施するための最良の形態を説明したが、具体的な構成はこれに限定されることはなく、例えば、米についてのみ説明したが、さらに麦、そばなどの穀物についても適用できることは言うまでもない。そして、本発明の趣旨を逸脱しない範囲での変更は適宜可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の米粉製造のための製粉前処理方法は、排水処理設備が不要であり、米粉製造プラントを建設するにあたり、建設コストを安価にし、さらに、神経伝達物質の一種として知られるγ-アミノ酪酸(GABA)など機能性成分が豊富に含まれている米粒を原料として用いる場合は、排水が生じないために機能性成分の外部への流出がなく、利用可能性が極めて高くなる。
【符号の説明】
【0054】
1 製粉前処理装置
2 原料投入タンク
3 繰出バルブ
4 搬送装置
5 配管
6 貯留タンク部
7 乾燥部
7a 多孔板
7b 米粒流下路
7c 空気供給口
7d 排風路
8 排出部
8a ロータリーバルブ
8b 漏斗部
8c 下部スクリュー
10 流下式乾燥機
11 搬送装置
12 配管
13 配管
20 湿式研米機
21 貯留タンク部
22 送穀部
22a ハウジング
22b 軸受
22c 回転軸
22d 搬送螺旋
23 研米部
23a 多孔壁除糠精白筒
23b 精白転子
23c 精白室
23d 除糠室
24 排米部
25 集糠部
26 加湿部
27 配管
30 回転ドラム式調質機
31 回転ドラム
32 架台
33 米粒投入ホッパ
34 加水部
35 流下樋
36 無端ベルトコンベア
37 支点
38 ジャッキ
39 ギアモータ
40 ギアモータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲にある原料精白米に対して低湿度の風を送給し、水分を11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に調整して水分を均質化する水分均質化工程と、
該水分均質化工程を通過させた精白米に、水分が20.0〜45.0%(w.b.%)までの加水及び該加水後の精白米の米粒中心部への水分吸収の促進を行う調質工程と、
を備えたことを特徴とする米粉製造のための製粉前処理方法。
【請求項2】
前記水分均質化工程と前記調質工程との間に、前記水分均質化工程により水分が均質化された精白米に、水分を添加して糊粉層部分を軟質化させ、この精白米を粒々摩擦することにより糊粉層部分の除糠を行う除糠工程を備えてなる請求項1記載の米粉製造のための製粉前処理方法。
【請求項3】
貯留タンクから所定量ずつ米粒流下路に流下させながら温度が40〜60℃、相対湿度10%以下の低湿度の風を約10〜20分間送給し、水分が13.0〜16.0%(w.b.%)の範囲にある米粒を水分11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に均質化する流下式乾燥機と、
水分11.0〜13.0%(w.b.%)の範囲に均質化された米粒に水分20.0〜45.0%(w.b.%)となるように加水した後、10〜30分間のねかし処理を行う回転ドラム式調質機と、を備えたことを特徴とする米粉製造のための製粉前処理装置。
【請求項4】
前記流下式乾燥機と前記回転ドラム式調質機との間に、加水により米粒表面の糊粉層部分を軟質化された後、米粒同士の粒々摩擦が施して除糠を行う加湿式研米機を配置してなる請求項3記載の米粉製造のための製粉前処理装置。
【請求項5】
前記回転ドラム式調質機が、筒部の中心を軸心として回転可能に形成する一方、筒部の長尺方向の傾斜角度を変更可能とした回転ドラムと、該回転ドラム内に水を供給するための加水部と、前記回転ドラムから排出された米粒をベルト上に載置し、該ベルトが無端軌道上を10〜30分間かけて走行している間に米粒表面に付着した付着水を米粒中心部へ水分移行させる形態の無端ベルトコンベアと、から構成されてなる請求項3又は4記載の米粉製造のための製粉前処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−71093(P2013−71093A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213800(P2011−213800)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】