説明

米飯用製剤組成物

【課題】保存性に優れるとともに、食品の風味を損ねることの無い新規日持向上剤を提供する。
【解決手段】各1種以上の有機酸、有機酸塩およびアミノ酸を含有する米飯日持向上用製剤によって、上記の課題を解決できた。酢酸や乳酸の様な有機酸またはその塩や、アラニン等のアミノ酸を適切に選択し組み合わせることによって、優れた日持向上剤とすることができる。本発明に係る製剤は、食品の持つ自然な風味に影響を与えることなく、長時間に渡って静菌作用を発揮することができるため、食品の日持向上剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品保存用の製剤組成物に関する。さらに詳しくは、米飯に添加することによって、保存性を向上させるとともに、味、臭いに影響を与えない製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活水準が高まるとともに生活様式、特に食生活のスタイルが多様化する傾向にある。外食産業の発達ばかりでなく、握り飯や寿司等の米飯食品、出来合いの惣菜を家庭に持ち帰って食べる、いわゆる「中食」が広まってきた。その結果、食品の保存性を良くしたり、風味を改善したりする目的で、食品添加物を使用した食品が増えている。
【0003】
食品の保存性を高める方法としては、加熱滅菌・殺菌処理、静菌剤、保存剤、食塩等の添加、食酢・クエン酸等の添加によるpH低下等がある。この中で炊飯した米飯の日持ちを向上させる技術については、以下の様な報告がある。
【0004】
例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、非イオン界面活性剤、少量の水またはカルボキシメチルセルローズを添加した水で油を乳化したものを多数の弾性球体に付着させ、これを米穀類に添加する防黴処理法(特許文献1)が開示されている。また、低級脂肪酸モノグリセライドおよびフィチン酸を添加する食品の保存法(特許文献2)、キトサン、有機酸および有機酸塩を含む米飯の保存性向上剤(特許文献3)、ポリリジン、乳酸およびサイクロデキストリンを含む米飯用保存性向上剤(特許文献4)が記載されている。
【0005】
さらに、有機酸または有機酸の酸性塩、キトサン及び柑橘種子抽出物を含有する食品の保存法(特許文献5)、有機酸およびクルクリンを含む調理加工食品日持ち向上剤(特許文献6)、ホップ毬花成分のキサントフモールを有効成分とする食品用保存剤(特許文献7)がそれぞれ記載され、米飯用としても使用できることが開示されている。
【0006】
また、グリシンとアミラーゼを米に添加することを特徴とする米飯品質の改良法(特許文献8)、乳酸、酒石酸、グリシン、リジン等から選ばれる米飯用食感改良剤(特許文献9)、竹類エキス、モノグリセライドと、グリシン、有機酸の1種以上からなる米飯抗菌剤(特許文献10)が開示されている。
【特許文献1】特公昭33−84号公報
【特許文献2】特公昭46−31353号公報
【特許文献3】特開平4−11856号公報
【特許文献4】特開平5−284919号公報
【特許文献5】特開平4−27373号公報
【特許文献6】特開平7−250659号公報
【特許文献7】特開2002−51757号公報
【特許文献8】特開昭50−48155号公報
【特許文献9】特開昭62−220162号公報
【特許文献10】特開平4−197146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品が米飯類であるときには、保存剤等を添加しても自然な風味が損なわれないことが重要である。既存の米飯用保存剤としては、上記の様に多数の技術が報告されているが、米飯類にはない苦味が感じられたり、酸臭を生じたりしてしまい満足できるものではなかった。
そこで、本発明は、保存性に優れるとともに、米飯の風味を損ねることの無い新規日持向上剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、各1種以上の有機酸、有機酸塩およびアミノ酸を含有する米飯日持向上用製剤である。また、本発明は有機酸が酢酸、乳酸、クエン酸またはリンゴ酸である上記米飯日持向上用製剤である。上記有機酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩等が挙げられ、特に酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム等が好ましい。
【0009】
さらに、上記アミノ酸がアラニン、グリシンまたはベタインである米飯日持向上用製剤も本発明に含まれる。またこれら米飯用日持向上剤を添加した米飯食品の態様も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製剤組成物は、食品、特に米飯を使用した食品への添加物として使用することによって、長時間に渡って静菌効果を発揮し、しかも味や臭いに影響を与えることのない優れた日持向上剤である。添加できる食品としては、通常の白飯の他にも、赤飯、五目飯、味付け飯、混ぜご飯、栗ご飯、チャーハン、ピラフ、お握り、寿司、雑炊、粥、ドリア、リゾット、パエリア等に使用することができる。
【0011】
また、米に混合してから炊飯、調理することもでき、炊飯または調理後に添加・混合して使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において使用する有機酸は、特に限定されないが、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等が好ましい。本発明にはこれら有機酸の塩も含まれる。塩としてはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等が挙げられるが、特にナトリウム塩が好ましい。
【0013】
本発明におけるアミノ酸は特に限定されないが、好ましくはアラニン、グリシン、ベタインおよびこれらの塩である。
【0014】
本発明における液剤組成物に配合する有機酸またはその塩の量は、その種類によって異なるが、通常0.5〜50%(重量%)であり、好ましくは、1〜30%である。さらに好ましくは、酢酸またはそのナトリウム塩の場合には15〜30%、乳酸では3〜15%、乳酸ナトリウムの場合には3〜10%である。また、アミノ酸の配合量は、通常1〜30%であり、好ましくは3〜10%である。
【0015】
また、本発明の目的を妨げない範囲であれば、通常使用される他の調味料や食品添加物を併用しても差し支えはない。
【0016】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0017】
酢酸ナトリウム 26.8g、グリシン 3.3g、乳酸 5.5gおよび乳酸ナトリウム 5.2gをそれぞれ秤取し、ミキサーに精製水 59.2gとともに入れて十分に攪拌混合して、本発明の液剤組成物100gを得た。
【実施例2】
【0018】
酢酸ナトリウム 20.0g、グリシン 10.0g、クエン酸 10.0gおよびクエン酸ナトリウム 10.0gをそれぞれ秤取し、ミキサーに精製水 50.0gとともに入れて十分に攪拌混合して、本発明の製剤100.0gを製造した。
【実施例3】
【0019】
酢酸ナトリウム 20.0g、グリシン 10.0g、リンゴ酸 10.0gおよびクエン酸ナトリウム 10.0gをそれぞれ秤取し、ミキサーに精製水 50.0gとともに入れて十分に攪拌混合して、本発明に係る液剤 100.0gを得た。
【実施例4】
【0020】
酢酸ナトリウム 48.4g、グリシン 14.0g、乳酸 10.0gおよび乳酸ナトリウム 9.6gをそれぞれ秤取し、ミキサーに精製水 118.0gとともに入れて十分に攪拌混合して、本発明に係る液剤 200.0gを得た。
【0021】
<比較例1〜12>
表1、2および3に示した処方で、実施例1と同様の方法で、比較例1〜12の液剤組成物を得た。
【0022】
表1 調味料組成物の処方(%)
────────────────────────────────
成 分 比較例1 比較例2 比較例3 比較例4 比較例5
────────────────────────────────
酢酸ナトリウム − − 20.0 20.0 20.0
グリシン − − − − 5.0
乳酸 10.0 20.0 − 10.0 10.0
乳酸ナトリウム − − − − −
精製水 90.0 80.0 80.0 70.0 65.0
────────────────────────────────
【0023】
表2 調味料組成物の処方(%)
───────────────────────
成 分 比較例6 比較例7 比較例8
───────────────────────
酢酸ナトリウム − − 20.0
クエン酸 20.0 − −
リンゴ酸 − 20.0 −
クエン酸ナトリウム − − 10.0
精製水 90.0 80.0 70.0
───────────────────────
【0024】
表3 調味料組成物の処方(%)
───────────────────────────
成 分 比較例9 比較例10 比較例11 比較例12
───────────────────────────
酢酸ナトリウム 24.2 24.2 24.2 35.0
グリシン 3.0 3.0 3.0 5.0
乳酸 5.0 5.0 5.0 5.0
リゾチーム − − − 0.1
乳酸ナトリウム 4.8 4.8 4.8 −
トレハロース 4.0 − − −
還元麦芽糖 − 4.0 − −
還元澱粉糖化物 − − 4.0 −
精製水 59.0 59.0 59.0 54.9
───────────────────────────
【0025】
<試験例1>
生米150gを計量・洗米し、水切りをした。190gの水を加え、実施例1および比較例1〜5と同様に製造した液剤組成物を、生米重量に対して1.0%添加した。さらに、しょう油 11g、酒 11g、食塩 0.6g、水 7.4gからなる調味液を添加し、攪拌した。これを家庭用炊飯器で炊飯して調味ご飯を作り、室温で冷却して、以下の実験に供した。
【0026】
1)バイオサーモアナライザー(BTA)試験
上記の調味ご飯5gを検査瓶(PS-3K、第一硝子社)に入れ、蓋を閉めた後、バイオサーモアナライザー(H-201、日本医化器械製作所)の高温槽内セルに設置した。また、対照セルには無添加品を入れた。バイオサーモアナライザーの設定条件は、高温槽温度30℃、微小電圧計レンジ500μV、測定間隔15分とした(表4)。
【0027】
表4 BTA試験結果
───―─────―──────
ピーク時間
─―────────―─────
無添加対照 22.87 時間後
実施例1 43.99
─―────────―─────
比較例1 23.52
比較例2 28.22
比較例3 26.83
比較例4 42.76
比較例5 41.57
───―────―───────
n=3の平均値
【0028】
表4に示した様に、本発明の製剤では、無添加対照と比較してピーク時間が大幅に延長しており、強い静菌効果があることが明らかになった。
【0029】
2)官能試験
熟練したパネラーに、上記の調味ご飯を約20gずつ食べさせて、それぞれの味と臭いについて、無添加のご飯を比較対照として評価した(表5)。
【0030】
表5 味および臭いの評価結果
─────────────────
評価項目 味 臭い
─────────────────
無添加対照 − −
実施例1 ○ ○
─────────────────
比較例1 酸味有 ○
比較例2 酸味有 ○
比較例3 ○ 酢酸臭有
比較例4 酸味有 酢酸臭有
比較例5 ○ 酢酸臭有
─────────────────
○:無添加対照と差がない
【0031】
表5に示した様に、本発明に係る製剤は、味、臭いともに、無添加対照と差が無く、米飯の自然な美味しさを保てることが明らかになった。
【0032】
<試験例2>
実施例2および3、比較例6〜8で製造した液剤組成物について、試験例1と同様のバイオサーモアナライザー試験を実施した(表6)。
【0033】
表6 BTA試験結果
───―─────―──────
ピーク時間
─―────────―─────
無添加対照 26.73 時間後
実施例2 48.59
実施例3 50.23
────────────────
比較例6 32.35
比較例7 33.23
比較例8 31.36
────―────―──────
n=3の平均値
【0034】
表6に示した様に、本発明に係る日持向上剤は、無添加対照、比較例処方と比較して、明らかにピーク時間が延長し、静菌効果に優れることが明らかになった。
【0035】
<試験例3>
実施例4および比較例9〜12の製剤について、試験例1と同様の方法でBTA試験を実施した(表7)。
【0036】
表7 BTA試験結果
───―─────―──────
ピーク時間
─―────────―─────
無添加対照 19.58 時間後
実施例4 46.97
─―────────―─────
比較例9 29.18
比較例10 30.64
比較例11 30.89
比較例12 45.66
────―────―──────
n=3の平均値
【0037】
表7に示した様に、本発明に係る日持向上剤は、無添加対照、比較例処方と比較して、明らかにピーク時間が延長し、静菌効果に優れることが明らかになった。
【0038】
<試験例4>
製剤の安定性試験(1)
実施例1で製造した日持向上剤および市販の日持向上剤(TL-12、TL-31、上野製薬)をガラスビンに各50g入れて、5℃または40℃で保存した。保存開始から7日後に、目視によって外観を観察し、製剤の安定性を評価した。
その結果、実施例1の製剤では、保存開始前と比較して保存後も変化はみられなかった。TL-12では、5℃保存では水層と油層の2層に分離し、40℃保存では変化はみられなかった。また、TL-31では、5℃保存では水層と油層の2層に分離し、40℃保存では沈殿を生じた。
【0039】
製剤の安定性試験(2)
実施例4および比較例9〜12で製造した製剤をガラスビンに50g入れ、5℃または40℃で保存した。保存開始から7日後に、目視によって外観を観察し、製剤の安定性を評価した(表8)。
【0040】
表8 安定性試験結果
──―────―───────―────
5℃保存 40℃保存
─―──────―─────―─────
実施例4 変化なし 変化なし
─―──────―──―────────
比較例9 沈殿が生じた 変化なし
比較例10 変化なし 微黄色に変色
比較例11 変化なし 微黄色に変色
比較例12 沈殿が生じた 変化なし
───────―────────────
【0041】
表8に示した様に、本発明に係る実施例4の製剤は、7日間保存後でも変化は見られず安定であった。それに対して比較例9〜12の製剤では、保存後には沈殿や変色が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各1種以上の有機酸、有機酸塩およびアミノ酸を含有する米飯日持向上用製剤。
【請求項2】
有機酸または有機酸塩の有機酸が酢酸、乳酸、クエン酸またはリンゴ酸である請求項1に記載の米飯日持向上用製剤。
【請求項3】
有機酸塩がナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩である請求項1または2に記載の米飯日持向上用製剤。
【請求項4】
有機酸塩が酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムまたはリンゴ酸ナトリウムである請求項1〜3のいずれかに記載の米飯日持向上用製剤。
【請求項5】
アミノ酸がアラニン、グリシンまたはベタインである請求項1〜4のいずれかに記載の米飯日持向上用製剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の米飯用日持向上剤を含む米飯食品。

【公開番号】特開2004−208683(P2004−208683A)
【公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−270588(P2003−270588)
【出願日】平成15年7月3日(2003.7.3)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】