説明

粉体塗料組成物

【目的】 耐候性、耐チッピング性、耐衝撃性及び外観特性に優れ、特に車両塗装用途に好適な粉体塗料組成物を提供する。
【構成】 (A)グリシジル基を有する(メタ)アクリル系共重合体と、(B)多価カルボン酸系化合物と、(C)Tg20℃以下のコア及びTg40℃以上のシェル(グリシジル基を含まない)から成るゴム粒子とを含む熱硬化性粉体塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐衝撃性、耐チッピング性に優れると共に、耐候性にも優れる熱硬化性粉体塗料組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
[エコロジー等の観点からの塗料の技術分野における研究開発動向と粉体型塗料への期待]近年、塗料の技術分野において、ローカル又はグローバルな環境保全、労働安全衛生環境改善、火災や爆発の予防、省資源等、の観点から、溶剤型塗料にかわって、粉体型塗料への期待が大きくなってきた。そして、歴史的又は社会的要請により、粉体型塗料の高機能化・多様化への期待が大きくなるに従い、粉体型塗料にも、溶剤型塗料に匹敵する高度な塗膜性能(例えば、耐衝撃性、耐酸性雨性等)が要求されるようになってきた。しかしながら、粉体型塗料に要求される塗膜性能が厳しくなってきたにもかかわらず、必ずしも、このような要求を完全に満足する粉体型塗料が上市されてきたとはいえない。
【0003】従来型の粉体塗料の具体例としては、例えば、ビスフェノ−ルAを主体とするエポキシ樹脂及びポリエステル樹脂粉体塗料が挙げられる。しかしながら、これらは耐候性に問題があるばかりでなく、環境の酸性化に伴い、最近になり特に問題となってきた酸性雨に対する耐性にも問題があり、自動車車体塗装等の屋外での使用を前提とした用途に問題があった。
【0004】その欠点を克服すべく、特公昭48−38617号により、アクリル系粉体塗料が提案され、顕著な耐候性の改善が実現した。しかしながら、耐衝撃性の観点からは、このアクリル系粉体塗料も、従来型ポリエステル系粉体塗料に比較して劣っていた。すなわち、耐候性、耐酸性雨性及び耐衝撃性を同時に満足する粉体型塗料が、必ずしも上市されているとはいえなかった。
【0005】このように、耐候性、耐酸性雨性及び耐衝撃性を同時に満足する粉体型塗料が市場から要望され、このような塗料を上市すべく研究開発も精力的にすすめられてきた。
【0006】[アクリル系粉体塗料塗膜の耐衝撃性の改良に関する従来技術]アクリル系粉体塗料に関して、塗膜の耐衝撃性の改良について、このような開発経緯の中、例えば、以下の(1) 〜(3) のような技術が開示されてはきたが、未だ決定的な解決方法が見い出されたとはいえない。
【0007】例えば、以下の、(1) の技術(特開平5−112743号)は、二塩基酸等を混合することにより、そして、(2) の技術(特開昭63−165463号)は、アルキルチタネートを混合することにより、それぞれ、低温度硬化性やリコート性の改善を図ったものであるが、いずれも、耐衝撃性は二次的な効果として挙げられているにすぎず、その効果は必ずしも充分なものではなかった。
【0008】(1) 特開平5−112743号
特開平5−112743号(名称:粉末形の被覆組成物、出願人:ヘキストAG)には、硬化性に優れた粉末形の被覆組成物を得る技術が開示されている。すなわち、(A)グリシジル基を含有する共重合体、(B)脂肪族又は脂環式二塩基酸、その無水物又は二塩基酸のポリオ−ル−変性無水物、(C)場合により顔料及び他の添加剤、を含む粉末形の被覆組成物に関する技術が開示されている。
【0009】ここで、共重合体(A)は、1,000〜10,000の数平均分子量(Mn)及び30〜90℃のガラス転移温度を有し、そして、a)少なくとも20重量%のグリシジルアクリレ−ト又はグリシジルメタクリレ−ト、b)35〜50重量%のスチレン、c)10〜45重量%の脂肪族的に不飽和なモノカルボン酸又はジカルボン酸の1又は多数のアルキルエステル及びd)0〜50重量%のオレフィン的に不飽和な1又は多数の他の単量体からなる共重合体である。
【0010】しかしながら、この技術においては、耐衝撃性は二次的な効果として挙げられているにすぎず、その効果は必ずしも充分なものではなかった。
【0011】(2) 特開昭63−165463号
特開昭63−165463号(名称:熱硬化性アクリル樹脂粉体塗料組成物、出願人:関西ペイント(株))には、特定のグリシジル基官能性アクリル樹脂、脂肪族二塩基酸(無水物)及びアルキルチタネ−ト化合物を主成分とする、低温で溶融・硬化し、しかも硬度、耐衝撃性、耐屈曲性等に優れた塗膜を与える熱硬化性アクリル樹脂粉体塗料組成物に関する技術が開示されている。
【0012】すなわち、(A)(メタ)アクリル酸の炭素原子数1〜14のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸のグリシジルエステルとを主成分として共重合させて得られるグリシジル基官能性アクリル樹脂、(B)脂肪族二塩基酸(好ましくはアジピン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ムコン酸等)もしくはその無水物、及び(C)式Ti(OR)4(Rは、炭素原子数15〜20のアルキル基)で示されるアルキルチタネ−ト化合物(例:テトラペンタデシルチタネ−ト等)、を主成分とする熱硬化性アクリル樹脂粉体塗料組成物に関する技術が開示されている。
【0013】しかしながら、この技術においては、耐衝撃性は二次的な効果として挙げられているにすぎず、その効果は必ずしも充分なものではなかった。
【0014】(3) 特公昭62−25709号
特開昭59−230068号(特公昭62−25709号、登録1417360号、名称:新規な粉体塗料用エポキシ樹脂組成物、出願人:旭化成工業(株))には、エポキシ樹脂に、特定のエポキシ変性ゴムを特定量含有させてなる、耐衝撃性、可撓性、耐食性に優れる、低温においても衝撃吸収能を消失しない新規な粉体塗料用エポキシ樹脂組成物に関する技術が開示されている。
【0015】すなわち、(A)分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ当量400〜2500のエポキシ樹脂97〜65(重量)部に、(B)(1)トルエンに不溶のゲル含量が50%以上である基層ゴム粒子を、(2)1分子当り0.5個以上のエポキシ基と、0.1〜1.0個のアクリロイル基を有する重合性エポキシ化合物及び/又はモノエチレン性グリシジルエステル又はエ−テルと、(3)エチレン性単量体とでグラフト変性したエポキシ変性ゴムを、ゴム分として3〜35部含有してなる新規な粉体塗料用エポキシ樹脂組成物に関する技術が開示されている。
【0016】以下に、前記技術の構成要素及び作用効果について概説する。
【0017】i) 樹脂成分前記技術で使用される樹脂成分は、「エポキシ樹脂」である。
【0018】前記技術で用いられる「エポキシ樹脂」なる語の概念には、文言上、狭義のエポキシ樹脂(ビスフェノールAジグリシジルエーテル系エポキシ樹脂)を包含するのみならず、広義のエポキシ樹脂(分子内に2個以上のエポキシ基を有する樹脂)をも包含する。ここで、狭義のエポキシ樹脂とは、工業的にも最も大きな圧倒的なシェアを有し、当業者により、通常、単に「エポキシ樹脂」と称することが慣用化されている、ビスフェノールAジグリシジルエーテル系エポキシ樹脂である。
【0019】しかしながら、前記技術のエポキシ樹脂としては、最も好ましい態様(ベスト・モード)をはじめとした全ての記載について、前記狭義のエポキシ樹脂のみが挙げられるのみであり、前記狭義のエポキシ樹脂以外の広義のエポキシ樹脂については、何等開示がない。
【0020】ii) 硬化剤成分前記技術に用いられる硬化剤は、特に限定されていない。
【0021】前記技術に用いられる硬化剤の具体例として、ノボラックフェノール樹脂、ジシアンジアミド、イミダゾール類、ヒドラジド類、芳香族アミン類、酸無水物が開示されている。
【0022】iii) ゴム粒子前記技術において、硬化剤により架橋した樹脂の連続相(海)、及び、ゴム粒子の分散相(島)とから成る海島構造を有する塗膜を形成させることにより、塗膜の耐衝撃性を向上させることを企図して、特定の条件を有するゴム粒子が、発明の構成要素となっている。特定の条件を有するゴム粒子とは、粒子表面に、エポキシ基又はグリシジル基を導入したものである。
【0023】ゴム粒子の表面に、特定量のエポキシ基を導入しなければならない理由は、海島構造を有する高分子多相系マトリックスにおいては、その均一性を確保するために、海と島の界面エネルギー又は相溶性が重要な問題となるために、海島間の相溶性又は界面接着性を改善することにあると思料される。
【0024】iv) 作用効果及び用途前記技術において、その用途の具体例としては、耐衝撃性が要求される、鋼管の外面塗装、棒鋼の被覆、電気絶縁、塗料が例示されている。
【0025】(4) 特公昭62−25709号と本発明との異同特公昭62−25709号と本発明との異同を以下に説明する。
【0026】i) 樹脂成分前記技術で使用される樹脂成分は、「エポキシ樹脂」である。
【0027】本発明者らは、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される塗膜について鋭意検討を重ねた結果、前記技術の最も好ましい態様(ベスト・モード)においても、耐チッピング性、耐候性及び外観が劣ることを確認した。
【0028】前記技術の用途に関する開示内容から判断するに、前記技術の発明者らは、その用途として、前述した様な、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のような用途を予定していないものと思料される。すなわち、屋内用途や遮蔽物のある屋外用途を予定していたものと思料される。
【0029】一方、本発明で使用される樹脂成分としては、その様な用途においても、優れた耐候性を発揮する、分子内に2個以上のエポキシ基を有するアクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂を採用した。
【0030】すなわち、本発明で使用される樹脂剤成分は、本発明の構成において、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、優れた外観(平滑性、鮮映性等)が要求され、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される場合に、優れた外観、耐衝撃性、耐チッピング性を発揮することに大きく寄与する。
【0031】先に述べた様に、本発明で使用される樹脂成分は、前記技術で定義されるエポキシ樹脂の概念に、文言上含されるけれども、前記技術に具体的に開示されてはいない。したがって、耐紫外線性、耐太陽光線性をはじめとした耐候性という作用効果の観点からは、本発明で使用される樹脂成分は、前記技術で定義されるエポキシ樹脂の概念に対して、具体的に開示されていない部分を選択した下位概念であり、かつ他の成分と組合わせることにより予想外の顕著な効果を与えるものである。
【0032】ii) 硬化剤成分前記技術に用いられる硬化剤は、特に限定されていない。
【0033】本発明者らは、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される塗膜について鋭意検討を重ねた結果、前記技術の最も好ましい態様(ベスト・モード)からゴム粒子の構成要素を除外した塗膜では、耐衝撃性、耐候性及び外観が劣ることを確認した。
【0034】一方、本発明で使用する硬化剤は、多価カルボン酸(b1)及び多価カルボン酸線状無水物(b2)からなる群から選択された少なくとも1種類の多価カルボン酸系化合物(B)である。この具体例は後に詳述する。
【0035】本発明で使用される硬化剤成分は、本発明の構成において、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、優れた外観(平滑性、鮮映性等)が要求され、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される場合に、優れた外観、耐衝撃性、耐チッピング性を発揮することに大きく寄与する。
【0036】本発明で使用される硬化剤成分は、前記技術の硬化剤の概念に、文言上包含される。しかしながら、特定の種類の硬化剤を選択して他の特定の樹脂成分及びゴム粒子と組合わせることにより、耐衝撃性及び耐チッピング性の点で予想外の顕著な作用効果を与える観点からは、本発明で使用される硬化剤成分は、前記技術の硬化剤の概念に対して、特別に選択した下位概念である。
【0037】iii) ゴム粒子前記技術において、粒子表面に、特定量のエポキシ基(高分子1分子当たりエポキシ基0.5個以上)を導入したゴム粒子が、発明の構成要素となっている。ゴム粒子の表面に、特定量のエポキシ基を導入しなければならない理由は、上述の通り、海島構造を有する高分子多相系マトリックスにおいて、海島間の相溶性又は界面接着性を改善することにあると思料される。
【0038】本発明者らは、例えば自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される塗膜について鋭意検討を重ねた結果、前記技術の最も好ましい態様(ベスト・モード)では、耐衝撃性については優れるものの、耐チッピング性については劣り、さらには、塗膜外観が劣ることを確認した。
【0039】本発明者らは、前記技術においては、海島間の相溶性又は界面接着性を改善するために、海と島の両者に、共通する官能基であるエポキシ基を高密度配置しているが、そのために、海島間の架橋密度が高くなりすぎてしまうために、粒子周辺の超局所的な弾性率が高くなりすぎてしまい、局所的な衝撃を吸収しきれずに、耐チッピング性(局所的な耐衝撃性)も劣るものと考察した。
【0040】一方、本発明で用いるゴム粒子においては、その様な粒子表面にエポキシ基を導入する必要は無い。本発明においては、例えば、分散相(島)を構成する、コア/シェル構造を有する粒子(C)は、シェル(粒子表面)高分子として、連続相(海)を構成するアクリル系及び又はメタクリル系共重合体が有する溶解度パラメーター(SP値)に近傍のものを選択することにより、又は、適当な相溶化剤を第三成分として導入することにより、粒子表面にエポキシ基又はグリシジル基を全く導入することなく又は高密度で導入することなく、均一な高分子多相系を実現することができる。
【0041】本発明で使用される粒子成分は、本発明の構成において、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、優れた外観(平滑性、鮮映性等)が要求され、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される場合に、優れた耐衝撃性のみならず、優れた耐チッピング性や優れた外観を発揮することに大きく寄与する。
【0042】したがって、本発明で使用されるコア/シェル構造を有する粒子は、前記技術のゴム粒子に包含されない。
【0043】iv) 作用効果及び用途前記技術において、その用途の具体例としては、耐衝撃性が要求される、鋼管の外面塗装、棒鋼の被覆、電気絶縁、塗料が例示されている。前記技術において、発明の作用効果としては、塗膜の耐衝撃性の改善、特に低温における耐衝撃性が開示されている。上述した通り、本発明者らは、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される塗膜について鋭意検討を重ねた結果、前記技術の最も好ましい態様(ベスト・モード)では、500g鋼球落下のような広い面積の耐衝撃性については優れるものの、小石衝突のような局所的な耐衝撃性である耐チッピング性については劣り、さらには、塗膜外観が劣ることを確認した。
【0044】前記技術の発明者らは、その用途として、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露されるような用途を予定していないものと思料される。
【0045】一方、本発明の作用効果は、前記技術による塗膜では得ることが困難な、優れた耐候性、耐チッピング性、耐衝撃性、外観特性を同時に実現することができる。したがって、本発明は、前記技術を応用することが困難な、前述の用途における塗膜に、きわめて好適に応用することができる。
【0046】v) 特公昭62−25709号と本発明との異同したがって、上記の i)〜iv) から明らかなように、特公昭62−25709号と本発明は、その構成要素及び作用効果を異にする。
【0047】すなわち、本発明によれば、前記技術とは異なる構成を採用することにより、前記技術を応用することが困難な、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される塗膜に、きわめて好適に応用することができる。
【0048】[耐チッピング性]本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「チッピング」なる語の概念は、ピンポイントに短時間で荷重を負荷したの際の衝撃破壊の現象を包含し、特に自動車塗料の技術分野においては、飛来してくる小石と衝突した際に自動車車体塗膜が被る傷付きの現象をも包含する。本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「耐チッピング性」なる語の概念は、「チッピング」に対する塗膜の抵抗性を包含する。
【0049】耐チッピング性の評価方法の具体例としては、例えば、米国で採用されている、自動車用塗膜の試験法SAE−J400、ASTM D−370に従ったグラベロメーターによる飛石試験が挙げられる。これらの評価法では、所定粒度の小石を、所定の力で塗膜に衝突させて、それにより生じた塗膜傷直径を評価することにより判定される。
【0050】[耐衝撃性]本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「耐衝撃性」なる語の概念は、広い面積に短時間で荷重を負荷した際の衝撃破壊の現象を包含し、特に自動車塗料の技術分野においては、大きな物と衝突した際に自動車車体塗膜が被る傷付きの現象をも包含する。
【0051】耐衝撃性の評価方法の具体例としては、例えば、耐衝撃性試験(デュポン式衝撃性試験)JIS K5400 6.13.3に従ったものが挙げられる。これらの評価法では、おもり(500g又は1kgの2種類)を塗膜に落下した際に、塗膜に割れやはがれが発生する落下高さを評価することにより判定される。
【0052】[耐衝撃性と耐チッピング性の相関関係]従来、粉末塗料の技術分野においては、塗膜の耐衝撃性と耐チッピング性の概念の違いがほとんど認識されず、また、塗膜の耐衝撃性が重視されることはあったが、塗膜の耐チッピング性の重要性については、ほとんど注意されることがなかった。すなわち、塗膜について耐衝撃性について評価しても、塗膜について耐チッピング性について評価することはほとんどなく、耐衝撃性と耐チッピング性の相関関係については検討されてはこず、耐衝撃性に優れることが、必ずしも、耐チッピング性に優れるとはいえなかった。
【0053】例えば、特開平3−221567号においては、粉体塗料の硬化形式として酸/イソシアネート反応により粉体塗料塗膜を硬化せしめ、それにより塗膜の耐衝撃性を改善する技術が開示されている。この特開平3−221567号においてさえ、塗膜の耐チッピング性の概念が全く想到されず、また、塗膜の耐衝撃性のみ重視し、塗膜の耐チッピング性の重要性について全く注意されていない。
【0054】このような背景から、本発明者らは、粉体塗料により形成した塗膜の、耐衝撃性と耐チッピング性との間の相関関係について着目した。例えば、米国特許3,845,016号(Santokh S.Labana等)、米国特許3,919,347号(Themistoklis Katsimbas等)、特開平5−112743号等には、グリシジル基/酸無水物基反応により硬化せしめた粉体塗料塗膜は、耐衝撃性に劣ることが記載されている。
【0055】本発明者らは、これらに開示されている塗膜について耐衝撃性について追試したところ、確かに耐衝撃性に劣っていることが確認された。本発明者らは、これらに開示されている塗膜について、同時に、耐チッピング性についても独自に試験したが、耐衝撃性に劣っているにもかかわらず、耐チッピング性については逆に優れていることが確認された。すなわち、少なくともこれら事例に関する限り、耐衝撃性と耐チッピング性との間には相関関係がないことが確認された。
【0056】本発明者らは、この結果に立脚し、また、アクリル系をはじめとする粉体塗料の従来技術について、当業者が、耐衝撃性を解決課題とすることはあったが、耐チッピング性を解決課題とすることがほとんどなかったことに着目し、粉体塗料により形成した塗膜に、耐衝撃性のみならず、耐チッピング性をも付与することを解決課題とした。本発明者らは、このような観点から、高分子化学領域の「ポリマーアロイ」又は「ポリマーブレンド」の分野における、ミクロ相分離構造によるタフニング機構の概念を、粉体塗料の技術分野に応用し、塗膜に耐衝撃性と耐チッピング性を同時に付与するという、全く新規な技術的思想に基づき鋭意検討を進めた。
【0057】従来技術とは対照的に、本発明は、コア中にガラス転移点計算値20℃以下の重合体を配し、シェル中にガラス転移点計算値40℃以上の重合体を配した、コア/シェル構造を有する粒子を分散相(島)として、有機高分子を含む連続相(海)中に、前記有機高分子の三次元架橋網目構造及び又はIPN(inter−penetrating network)構造により、均一に保持し又は封じ込めることにより、前記コア/シェル構造を有する粒子の耐衝撃性により、得られる塗膜全体に、優れた耐衝撃性及び耐チッピング性を付与するという技術的思想に基づいている点で、新規性を有する。
【0058】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、エポキシ樹脂粉体塗料やポリエステル粉体塗料の欠点である耐候性を改善し、かつ、ポリエステル粉体塗料に匹敵する優れた耐衝撃性を有し、さらには、従来ほとんど当業者により注目されなかった耐チッピング性についても優れた、アクリル系粉体塗料を提供することを目的とする。
【0059】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記従来技術の問題点を解決すべく、鋭意検討を重ねた結果、グリシジル基(エポキシ基)を有するアクリル系共重合体、多価カルボン酸及び/又はその無水物、さらに、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上の少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子を、均一分散するという新しい試みにより、耐衝撃性(従来のデュポン衝撃試験で評価される耐衝撃性)のみならず、耐チッピング性(飛石試験により評価されるピンポイント集中荷重負荷による耐衝撃性)をも同時に達成できるという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0060】即ち、本発明の上記目的は、単量体(a1)として、少なくとも1つのグリシジル基及び少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体、及び、単量体(a2)として、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有し、かつ、グリシジル基を分子内に有さないエチレン性不飽和単量体を含む反応系で重合して得られる少なくとも1種類のアクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)、多価カルボン酸(b1)及び多価カルボン酸無水物(b2)からなる群から選択された少なくとも1種類の多価カルボン酸系化合物(B)、並びに、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上でありかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まない少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)を含む熱硬化性粉体塗料組成物により達成される。
【0061】以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0062】[アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)]アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)は、単量体(a1)として、少なくとも1つのグリシジル基及び少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体、及び、単量体(a2)として、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有し、かつ、グリシジル基を分子内に有さないエチレン性不飽和単量体、を含む反応系で重合して得られる。
【0063】この樹脂剤成分(A)は、後に詳述する硬化剤成分(B)と共に本発明の構成において、例えば自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、優れた外観(平滑性、鮮映性等)が要求され、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される場合に、優れた外観、耐衝撃性、耐チッピング性を発揮することに大きく寄与する。
【0064】本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「共重合体」なる語の概念は、「コポリマー」なる語の概念と相互に等価である。コポリマー(共重合体)の配列の様式は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよい。高分子は、線状、大環状、分岐状、星形、三次元網目状等のいずれでもよい。
【0065】[単量体(a1)及び(a2)]アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)を重合する際に使用する、少なくとも1つのグリシジル基及び少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体(a1)の具体例としては、例えば、グリシジルメタクリレ−ト、グリシジルアクリレ−ト、メチルグリシジルメタクリレ−ト、メチルグリシジルアクリレ−ト、アクリルグリシジルエ−テル等が挙げられ、これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0066】アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)を重合する際に使用する、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有し、かつ、グリシジル基を分子内に有さないエチレン性不飽和単量体(a2)の具体例としては、メチル−、エチル−、n−プロピル−、イソプロピル−、n−ブチル−、イソブチル−、sec−ブチル−、tert−ブチル−、n−アミル−、イソアミル−、n−ヘキシル−、シクロヘキシル−、2−エチルヘキシル−、オクチル−、2−エチルオクチル−、デシル−、ドデシル−、オクタデシル−、ステアリル−、シクロヘキシル−、ベンジル−、フェニル−、ヒドロキシエチル−、2−ヒドロキシプロピル−、3−ヒドロキシプロピル−、2−ヒドロキシブチル−、3−ヒドロキシブチル−、4−ヒドロキシブチル−、ポリエチレングリコールモノ−、1,4−ブタンジオールモノ−、ジメチルアミノ−等のアクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを含むアクリル酸誘導体又はメタクリル酸誘導体、マレイン酸やイタコン酸等のジカルボン酸のエステル類、ビニルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド等のアミド類等が挙げられ、これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0067】アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)を重合する際に使用する、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有し、かつ、グリシジル基を分子内に有さないエチレン性不飽和単量体(a2)の他の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ふっ化ビニル、モノクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロプレン等のハロゲン化エチレン系不飽和単量体類、アクリロニトリルやメタアクリロニトリル等のニトリル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、炭素数4乃至20のα−オレフィン等のα−オレフィン類、ラウリルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類、ビニルピロリドン、4−ビニルピロリドン等の含窒素ビニル類、などを包含するエチレン系不飽和単量体が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0068】アクリル系及び/又はメタクリル系モノマーは、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の製造に用いる全モノマーに対し、通常60〜100モル%、更に80〜100モル%の範囲で使用することが好ましい場合が多い。これが60モル%未満で、これ以外の単量体(40モル%以上の分)として、例えばスチレン等の芳香族ビニル類を多用した場合は、塗膜の耐候性の悪化が顕著となる傾向にある。また、アクリロニトリル等のニトリル類を多用した場合は、塗膜の着色が顕著となる傾向にあり、外観上好ましくない。
【0069】本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「誘導体」なる語の概念には、特定の化合物の水素原子が、他の原子あるいは原子団Rによって置換されたものを包含する。ここでRは、少なくとも1個の炭素原子を含む1価の炭化水素基であり、より具体的には、脂肪族、実質的に芳香族度の低い脂環族、これらを組み合わせた基、又はこれらが水酸基、カルボキシル基、アミノ基、窒素、硫黄、けい素、りんなどで結合されるような2価の残基であってもよく、これらのうち特に、狭義の脂肪族系の構造のものが好ましい。Rは、上記のものに、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリル基、アルコキシル基、シクロアルコキシル基、アリルオキシル基、ハロゲン(F、Cl、Br等)基等が置換した基であってもよい。
【0070】これらの置換基を適宜選択することにより、本発明に係る粉体塗料組成物により形成される塗膜の諸特性を制御することができる。
【0071】[アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のガラス転移点]塗料組成物の貯蔵安定性、塗料焼付時塗料組成物流動性低下に起因する塗膜平滑性等を考慮して、一般的には、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のガラス転移点計算値は、20〜120℃が好ましく、40〜110℃がより好ましい。
【0072】[アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の数平均分子量]同様に、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の数平均分子量は、一般的には、1,000〜10,000の範囲が好ましい。ここで、数平均分子量は、ポリスチレンを標準としてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により評価することができる。
【0073】[アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のエポキシ当量]塗料焼き付け時の低温硬化性が達成されず硬化性が不足し耐溶剤性が低下する問題、塗膜の表面が平滑とならず好ましい塗膜外観が得られにくくなる問題、等を考慮して、一般的には、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のエポキシ当量が、好ましくは200〜1,000g/eqになるように、より好ましくは300〜800g/eqとなるように、少なくとも1つのグリシジル基(エポキシ基)及び少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体(a1)の仕込比率を調製する。
【0074】ここで、エポキシ当量とは、エポキシ基の1g当量当たりの樹脂の重量g数で表され、単位はg/eqである。エポキシ当量を求める為に、樹脂中のグリシジル基の量を測定する方法としては、グリシジル基を開環させる作用を有する開環剤と樹脂とを、該開環剤の過剰雰囲気下で反応させ、未反応分の開環剤を逆滴定する方法が一般的であり、「塩酸ピリジン法」、「過塩素酸法」等があり、何れを選択してもかまわない。開環剤/滴定指示薬/滴定剤としては、前者では、塩酸ピリジン溶液/フェノールフタレイン+チモールブルーのメタノール溶液/KOHのメタノール溶液が、後者では、氷酢酸+セチルトリメチルアンモニウムブロマイド/パテントブルーNAの酢酸溶液+チモールブルーのメタノール溶液/過塩素酸の(無水)酢酸溶液が、それぞれ使用される。また、上記2法から測定されるエポキシ当量は、共に次式で与えられる。
【0075】
【数1】


W:樹脂の重量(g)
X:滴定液の濃度X規定(mol/L)
F:滴定液の力価(ファクター)
1 :樹脂溶液への滴定量(ml)
2 :ブランクへの滴定量(ml)。
【0076】[アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の合成法]アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の合成法は、実質的に所望の特性を有するものが得られるのであれば、特に限定されない。アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)は、公知・公用の常法により合成することができる。アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)は、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法を包含するラジカル重合法により調製することができるが、特に、溶液重合法が好適に用いられる。
【0077】また、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の分子量を調整する方法としては、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、ジベンゾイルスルフィドなどのジスルフィド類、チオグリコール酸2−エチルヘキシルなどのチオグリコール酸の炭素数1〜18のアルキルエステル類、四臭化尿素などのハロゲン化炭化水素類の連鎖移動剤、イソプロピルアルコール、イソプロピルベンゼン、トルエン等の連鎖移動効果の大なる有機溶剤の存在下に重合する等の手段を用いることができる。
【0078】[多価カルボン酸系化合物(B)]多価カルボン酸系化合物(B)は、多価カルボン酸(b1)及び多価カルボン酸無水物(b2)からなる群から選択された少なくとも1種類の化合物である。この化合物(B)は、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)分子内に存在するエポキシ基(グリシジル基)と反応する硬化剤成分である。
【0079】この多価カルボン酸系化合物(B)としては、脂肪族、芳香族、脂環式の何れの化合物も使用できる。芳香族多価カルボン酸の具体例としては、例えば、イソフタル酸、トリメリット酸等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。脂環式多価カルボン酸の具体例としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸等が等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。また、カルボキシル基を有するポリエステル樹脂等も使用できる。
【0080】但し、本発明においては、脂肪族多価カルボン酸系化合物を用いることが、平滑性、耐衝撃性、耐候性等の塗膜特性の点で好ましい。
【0081】本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「脂肪族」なる語の概念には、狭義の脂肪族のみならず、実質的に芳香族度が低い脂環族をも包含する。すなわち、この「脂肪族」化合物なる語の概念には、少なくとも1個の炭素原子を含む2価の炭化水素基を分子内に有する、実質的に芳香族度の低い化合物からなる群をも包含し、具体的には、狭義の脂肪族基のみならず、実質的に芳香族度の低い脂環族基、これらを組み合わせた基、又はこれらが水酸基、窒素、硫黄、けい素、りんなどで結合されるような2価の残基を分子内に有する化合物からなる群をも包含し、さらに具体的には、上記のものに、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリル基、アルコキシル基、シクロアルコキシル基、アリルオキシル基、ハロゲン(F、Cl、Br等)基等が置換した基を分子内に有する化合物からなる群をも包含する。これらの置換基を適宜選択することにより、本発明に係る共重合体の諸特性(耐熱性、強靱性、分解性、強度特性、分解性等)を制御することができる。本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「脂肪族」化合物なる語の概念には、一種類の化合物のみならず、二種類以上の組み合わせによるものをも包含する。
【0082】以下、この脂肪族多価カルボン酸系化合物の例について説明する。
【0083】[脂肪族多価カルボン酸(b1)]脂肪族多価カルボン酸(b1)は、実質的に、分子内にカルボキシル基を、少なくとも2個有する脂肪族化合物であれば、特に制限されず、1種類または2種類以上を用いることができる。
【0084】脂肪族多価カルボン酸(b1)の具体例としては、脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、クエン酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタンコン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、ペンタデカン2酸、トリデカン2酸、テトラデカン2酸、ヘキサデカン2酸、オクタデカン2酸、アイコサン2酸、ドコサン2酸、テトラドコサン2酸等が挙げられ、これらの中では、ドデカンジカルボン酸が好ましく、これらは、単独でまたは2種類以上を併せて用いることができる。
【0085】平滑性、耐衝撃性、耐候性等の塗膜特性に関して、脂環族多価カルボン酸については、芳香族度が高くなるに従い、塗膜特性が劣化する傾向がある。
【0086】[脂肪族多価カルボン酸無水物(b2)]本出願の特許請求の範囲又は明細書で用いる「アンヒドリド」、「アンヒドリド基」、「アンヒドリド結合」及び「ポリアンヒドリド」なる語の概念には、MARUZEN高分子大辞典(丸善刊・1994年)・996〜998頁の「ポリアンヒドリド」の項に記載されているそれぞれの語に関する概念をも包含する。本出願の特許請求の範囲又は明細書で用いる「酸無水物」及び「アンヒドリド」なる語の概念は、相互に等価の概念であり、本出願の特許請求の範囲又は明細書で用いる「酸無水物」または「アンヒドリド」なる語の概念には、化学大辞典・第3巻(共立出版刊・1963年)・996頁左欄〜997頁右欄記載の「酸無水物」の項に記載されている概念をも包含する。
【0087】本発明においては橋架け効果等の点から、線状の脂肪族多価カルボン酸無水物が好ましい。以下、この多価カルボン酸線状酸無水物の例について説明する。
【0088】脂肪族多価カルボン酸線状無水物(b2)は、実質的に、分子内にカルボキシル基を有するかまたは有しない、線状の2量体以上のオリゴまたはポリの脂肪族の酸無水物(アンヒドリド)であって、分子内に実質的に存在するカルボキシル基及び/又は酸無水物(アンヒドリド)基を、少なくとも2個有する化合物であれば、特に制限されず、1種類または2種類以上を用いることができる。
【0089】本出願の特許請求の範囲又は明細書において、「線状」なる語の概念には、線状のみならず、線状の2量体以上のオリゴまたはポリの脂肪族の酸無水物(アンヒドリド)が、線状と同様の作用を奏する大環状を形成している場合をも包含する。
【0090】脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物(b2)の具体例としては、1種類または2種類以上の脂肪族多価カルボン酸を脱水縮合して得られる線状重縮合物が挙げられる。
【0091】脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物(b2)として使用することができる、耐チッピング性改善に特に有効な無水物としては、1種類の脂肪族多価カルボン酸を脱水縮合して得られる線状重縮合物のある種のものは、次の一般式で表すことができる。
【0092】
HO−[−OC(CH2mCOO−]n−Hここで、mは1以上、nは2以上であり、好ましくはmは30以下である。
【0093】2種類以上の脂肪族多価カルボン酸の共重合線状縮合物を使用することもできる。
【0094】脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物(b2)の耐チッピング性改善に特に有効な具体例としては、上記脂肪族多価カルボン酸(b1)の脱水線状縮合物が挙げられ、これらの中では、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、アイコサン2酸、オクタデカン2酸の脱水線状縮合物がより好ましく、ドデカン2酸の脱水線状縮合物がさらに好ましい。
【0095】例えば、本出願に係る粉体塗料組成物から、その構成要素であるコア/シェル構造を有する粒子(C)を除いた組成物から生成した塗膜でさえも、耐衝撃性については充分なものではないが、耐チッピング性に関しては、ある程度の顕著な改善効果を示す。
【0096】脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物(b2)は、融点が40〜150℃の範囲にあるように調製することが好ましい。
【0097】[脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物(b2)による架橋結合形成]無水こはく酸や無水フタル酸のような、(脂肪族)多価カルボン酸の環状無水物を、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)と反応させると、該無水物は、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)分子中の特定のグリシジル基のエポキシ環とのみ反応する確率が高いため、複数のアクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)分子を橋架けする効果が小さい。
【0098】一方、脂肪族多価カルボン酸の(共)重合線状縮合物を、共重合体(A)と反応させると、該縮合物は、アンヒドリド基部分で開裂して複数のフラグメントとなり、それぞれが、別々のアクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)分子中のグリシジル基と反応するため、複数のアクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)分子を橋架けする効果が発揮される。
【0099】[多価カルボン酸系化合物の使用量]共重合体(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸(b1)中のカルボキシル基は、0.1〜1.2当量が望ましく、0.2〜1.1当量が好ましく、0.3〜1.0当量がより好ましい。また、共重合体(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸無水物(b2)中の酸無水物基は、同様に、0.1〜1.2当量が望ましく、0.2〜1.1当量が好ましく、0.3〜1.0当量がより好ましい。さらに、共重合体(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸系化合物(B)分子中に存在するカルボキシル基及び/又は酸無水物基の合計当量は、0.5〜1.3当量が望ましく、0.6〜1.2当量が好ましく、0.7〜1.0当量がさらに好ましい。多価カルボン酸系化合物の使用量がこの範囲から離れると塗膜の耐溶剤性や耐衝撃性などの特性が劣化する傾向にある。
【0100】[コア/シェル構造を有する粒子(C)]コア/シェル構造を有する粒子(C)は、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上の少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する。
【0101】本発明の組成物を用いて塗膜を形成すると、このコア/シェル構造を有する粒子(C)を分散相(島)として、有機高分子を含む連続相(海)中に、前記有機高分子の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により、均一に保持し又は封じ込めることにより、前記コア/シェル構造を有する粒子(C)の耐衝撃性により、塗膜全体に優れた耐衝撃性及び耐チッピング性を付与できる。
【0102】(1) 「コア」、「シェル」及び「コア/シェル」なる語の概念本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「コア」、「シェル」及び「コア/シェル」なる語は、これらの語が高分子化学において一般的に有する概念を完全に包含するが、必ずしも等価なものではない。例えば、本発明に係る「コア/シェル」粒子に関しては、「コア」が少なくとも部分的に「シェル」に包まれている態様、コア中又は粒子中に微小空隙(マイクロボイド、ボイド、キャビティーを包含する。以下の記述において同様。)を1つ以上有するような態様、コア中又は粒子中に微小空隙を1つ以上有し該空隙が粒子の外側の空間と連結する通路を1つ以上有するような態様、等をも包含する。このように、本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「コア」、「シェル」及び「コア/シェル」なる語は、これらの語が高分子化学において一般的に有する概念と、必ずしも等価なものではないのではあるが、本発明に係るヘテロポリマー系の本質的「態様」について屡々言及するに当たり便宜的に用いるものとする。
【0103】なお、高分子化学においては、一般的に、「コア」なる語は、「核(core,center,nucleus)」、「芯(core,center)」及び「種(seed)」なる語と等価に用いられ、「シェル(shell)」なる語は、「殻(shell,skin,husk)」、「鞘(sheath)」及び「おおい(robe)」なる語と等価に用いられる。したがって、本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「コア」なる語については、「核(core,center,nucleus)」、「芯(core,center)」及び「種(seed)」なる語と同等に用いることもできる。同様に、「シェル」なる語については、「殻(shell,skin,husk)」、「鞘(sheath)」及び「おおい(robe)」なる語と同等に用いることもできる。
【0104】(2) 「粒子」なる語の概念本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「粒子」なる語の概念には、これらの語が高分子化学において一般的に有する概念を完全に包含するが、必ずしも等価なものではない。本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「粒子」の走査電子顕微鏡的形態の態様に関しては、例えば、ラズベリー状又は金米糖(こんぺいとう、ポルトガル語のconfeito)状の多くの突起を有するような態様、赤血球状の偏平な態様、ラグビーボール状の回転楕円体様の態様、大腸菌状の紡錘形様の態様、内部に1つ以上の空隙(ボイド)を有する様な中空粒子の態様、鈴のように中空粒子の中にさらに非中空粒子を有するような態様、ロシアの民芸品のマトリョーシカのように中空粒子の内部にさらに中空粒子を1つ以上有するような態様、等をも包含する。本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「粒子」なる語の概念には、例えば、ポリマーエマルジョン、ラテックス、ポリマーサスペンジョンを構成するマイクロスフィアをも包含する。このように、本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「粒子」なる語は、これらの語が高分子化学において一般的に有する概念と、必ずしも等価なものではないのではあるが、本発明に係るヘテロポリマー系の本質的「態様」について屡々言及するに当たり便宜的に用いるものとする。
【0105】(3) 「連続的な乳化重合又は懸濁重合」、「多段階継続的重合」又は「継続的重合」の概念本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「連続的な乳化重合又は懸濁重合」、「多段階継続的重合」又は「継続的重合」なる記載の概念は、水系連続相(水系媒体)において予備生成した粒子、すなわち、種(seed)ポリマー粒子を、1又は2以上の引き続く工程に、単量体と共に適用して重合することにより、種ポリマーの上に、1又は2以上のポリマーを堆積させる(depositさせる)ことにより、1又は2以上のポリマー層を積層させ、かつ、粒子直径を増加させていく、乳化重合又は懸濁重合の技術を包含する。ここで、「単量体」なる語の概念には、1又は2以上の種類の単量体を包含し、「ポリマー」なる語の概念には、ホモポリマー及びコポリマーを包含する。コポリマー(共重合体)の配列の様式は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよい。
【0106】(4) 単一態様性(unimodal)継続的重合ヘテロポリマー多段階継続的重合においては、ある段階から引き続くすぐ次の段階で、界面活性剤を全く追加添加しなければ、反応系において実質的にミセルが生成しないので、その段階の反応系に存在するモノマーは全て、すぐ前の段階の反応系から得られた粒子上に取り込まれ、かつ物理的及び/又は化学的に緊密に結合する。このような反応様式を、粒子製造のプロセスにおいて、一貫して採用すると、実際の結果はともかく、原理的には、1種類のみのコア/シェル構造又はポリマー堆積構造を有する粒子を得ることができるはずである。
【0107】このような粒子を、「単一態様性(unimodal)」継続的重合ヘテロポリマーと称する。前記単一態様性継続的重合へテロポリマーについては、例えば、特公平3−9124号(Kowalskiら)・10欄31行〜11欄8行において、さらに詳細に説明されている。その記載は、参照により、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0108】(5) 多態様性(polymodal)継続的重合ヘテロポリマー一方、ある段階から引き続く、すぐ次の段階で、ミセルを形成し得る量の、すなわち、CMC(臨界ミセル形成濃度)以上の量の、界面活性剤を追加添加すると、その段階の反応系に存在するモノマーについては、一部分のモノマーは、すぐ前の段階の反応系から得られた粒子上に取り込まれ、かつ物理的及び又は化学的に緊密に結合し、残りの部分のモノマーは、すぐ前の段階の反応系から得られた粒子上に取り込まれず、付加的ミセルに取り込まれて、付加的粒子を生成する。このような反応様式を、粒子製造のプロセスにおいて採用する場合、実際の結果はともかく、原理的には、多種多様なコア/シェル構造又はポリマー堆積構造を有する粒子を得ることができるはずである。
【0109】このような粒子を、「多態様性(polymodal)」−例えば、「二元態様性」、「三元態様性」または「多元態様性(multimodal)」−継続的重合ヘテロポリマーと称する。前記多態様性継続的重合へテロポリマーについては、例えば、特公平3−9124号(Kowalskiら)・10欄31行〜11欄8行において、さらに詳細に説明されている。その記載は、参照により、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0110】意図する「単一態様性」又は「多態様性」を有する粒子の生成を実現するためには、界面活性剤の種類・濃度・添加様式・添加の時期と期間等、及び、界面活性剤とモノマーとの相対比率等、を適宜設定すればよい。
【0111】(6) コア/シェル構造を有する粒子の多態様性本発明に係る粒子は、単一態様性であっても、多態様性であってもよい。多態様性の場合は、一般的には、二元態様性が好ましい。多態様性の場合は、一般的には、主たる態様が約60%乃至約90%を構成していることが好ましく、約75%乃至約85%を構成していることがより好ましい。
【0112】(7) 種ポリマー本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「種(seed)ポリマー」なる語の概念は、予備的に生成したポリマー粒子であり、重合における第1段階の生成ポリマー粒子、又は、継続的重合の最終段階を除く任意の段階の生成ポリマー粒子であってもよい。したがって、1又は2以上の継続的段階によって、その後シェルを備えることを意図したポリマー粒子は、それ自体、種ポリマー粒子上にシェル形成ポリマーを堆積させる次の段階において、その段階のための種ポリマーと称する。したがって、種ポリマー又はコアは、単一段階又は継続的重合の工程において製造することができる。
【0113】(8) ヘテロポリマーのガラス転移点(Tg)の評価特定の単量体組成を有する重合体のガラス転移点(Tg)は、フォックス(Fox)の式により計算により求めることができる。ここで、フォックスの式とは、共重合体を形成する個々の単量体について、その単量体の単独重合体のTgに基づいて、共重合体のTgを算出するためのものであり、その詳細は、ブルテン・オブ・ザ・アメリカン・フィジカル・ソサエティー,シリーズ2(Bulletin of the American Physical Society,Series 2)1巻・3号・123頁(1956年)に記載されている。その記載は全て、引用文献及び引用範囲を明示したことにより本出願明細書の開示の一部とし、明示した引用範囲を参照することにより、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0114】フォックスの式による共重合体のTgを評価するための基礎となる各種エチレン性不飽和単量体についてのTgは、例えば、新高分子文庫・第7巻・塗料用合成樹脂入門(北岡協三著、高分子刊行会、京都、1974年)168〜169頁の表10−2(塗料用アクリル樹脂の主な原料単量体)に記載されている数値を採用することができる。その記載は全て、引用文献及び引用範囲を明示したことにより本出願明細書の開示の一部とし、明示した引用範囲を参照することにより、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0115】(9) A層/B層からなるコア/シェル構造を有する粒子の態様本発明に係る粒子のある態様においては、エマルジョンの分散相を構成する粒子が、A層/B層からなるコア/シェル構造を有している。A層及びB層のガラス転位点計算値は通常は−50℃〜100℃である。
【0116】i)A層(コア):A層(コア)は、実質的に、ガラス転移点計算値20℃以下であればよい。
【0117】ii)B層(シェル):B層(シェル)は、ガラス転移点計算値40℃以上であればよい。
【0118】(10)A層/B層からなるコア/シェル構造を有する粒子の調製の態様前記態様の粒子は、例えば、以下のように調製することができる。
【0119】A層を形成する、コア単量体の混合液を一括添加又は連続滴下して重合する。次に、A層の重合体が得られた後、B層を形成する、シェル単量体混合液を一括添加又は連続滴下して重合し、A層/B層からなるコア/シェル構造を有する粒子を得ることができる。ここで、単量体は、予め、純水及び界面活性剤と混合して乳化物としてもよい。
【0120】(11)コア/シェル構造を有する粒子の調製方法コア/シェル構造を有する粒子の調製方法は、所望する粒子の特性(層構造、非中空構造、中空構造、形態、粒度、粒度分布、単一態様性/多態様性等)を実質的に実現できる手段であれば特に制限されない。例えば、予め合成ゴムエマルジョンを釜内に仕込んでおき、そこにビニル系単量体とラジカル重合開始剤とを添加して重合させる、いわゆる乳化重合法によって好ましく調製することができるが、懸濁重合法によっても調製することもできる。
【0121】(12)界面活性剤コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法において用いる界面活性剤は、水系連続相中に、単量体を含む分散相を、実質的に持続的に安定して均一に形成するものであれば特に制限されない。コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法において用いる界面活性剤としては、通常の乳化重合に用いられる公知の界面活性剤を、単独で又は混合して、好適に使用され得る。
【0122】以下に、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤及びカチオン系界面活性剤の具体例を列挙するが、これらは、単独で又は組み合わせて、好適に使用することができる。
【0123】i) アニオン系界面活性剤アニオン系界面活性剤の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS、SDS)、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、tert−オクチルフェノキシエトキシポリ−(40)−エトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いることができる。
【0124】ii) ノニオン系界面活性剤ノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、tert−オクチルフェノキシエチルポリ−(39)−エトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリ−(40)−エトキシエタノール等が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いることができる。
【0125】iii) カチオン系界面活性剤カチオン性界面活性剤の具体例としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いることができる。
【0126】(13)種ポリマー重合時の界面活性剤の使用量コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法において用いる界面活性剤の使用量は、反応系において実質的にミセルを形成する量、あるいは、水系連続相中に、単量体を含む分散相を、実質的に持続的に安定して均一に形成する量であれば特に制限されない。
【0127】一般的には、界面活性剤の種類や濃度は、界面活性剤特有のCMC(臨界ミセル形成濃度)値や、HLB(親水性疎水性バランス)値を考慮しつつ、所望する粒子の特性(層構造、中空構造、形態、粒度、粒度分布、単一態様性/多態様性等)を実質的に実現できる条件を適宜選択する。
【0128】ある態様においては、前記界面活性剤の使用量は、反応系に供給した単量体全部の合計重量を基準として、0.1乃至10重量%を使用することができる。このような態様においては、界面活性剤使用量を、0.1重量%以下に減少させていくと、重合安定性が低下し、重合中にゲル化しやすい傾向がみられる。一方、界面活性剤使用量を、10重量%以上に増加させていくと、被膜を形成した際の被膜の耐水性が低下していく傾向がみられる。
【0129】また、過硫酸塩系重合開始剤を使用する別の態様においては、前記界面活性剤の使用量は、反応系に存在する単量体全部の合計重量を基準として、0乃至2.0重量%使用することができる。
【0130】(14)多段階継続的重合における界面活性剤の使用量過硫酸塩系重合開始剤を使用するある態様において、界面活性剤の使用量は、重合の第1段階において供給された単量体全部の合計重量を基準として、0乃至2.0重量%であればよい。
【0131】界面活性剤の使用量を低レベルに維持しながら乳化重合を行なうことにより、ポリマー生成の継続的段階は、最も新しく形成されたポリマーを、先行の段階で生成して得た現存する分散ポリマー粒子上に堆積することができる。ここで、「界面活性剤の使用量を低レベルに維持しながら乳化重合を行なう」とは、一般的に、その段階の反応系において、界面活性剤の使用量をCMC値に相当する量よりも低く保つことを意味する。
【0132】このような「界面活性剤の使用量を低レベルに維持しながら乳化重合を行なう」という条件の限定は、一般的には好ましいものであって、かつ、単一態様性生成物を得るためのものであるとはいうものの、ある態様の反応系においては、CMC値に相当する量以上の量の界面活性剤を用いたとしても、好ましい性質を有する又は過剰でない数量の分散ミセル又は粒状体の生成を伴うことが見い出されている。このような「界面活性剤の使用量を低レベルに維持しながら乳化重合を行なう」という条件の限定は、多段階継続的重合の各段階において、ミセルの数を制御し、その結果、前の段階において生成した粒状体又はミセルの上に、その段階において生成するポリマーを堆積させるという効果をもたらす。
【0133】(15)重合温度コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法において採用する重合温度は、重合反応が実質的に充分に進行すれば特に制限されない。
【0134】重合温度は、使用する単量体の種類、重合開始剤の種類等を勘案して設定し、一般的には、約10乃至約100℃の温度範囲が好ましく、約30乃至約90℃の温度範囲がより好ましい。
【0135】各種重合開始剤に好適な重合温度は、例えば、化学モノグラフ第15巻・高分子合成の化学(大津隆行著、化学同人、京都、1968年)63頁・表3−2「開始剤の分類」に記載されており、本発明に係る水系分散液の製造方法においても、このような条件を好適に採用することができる。その記載は全て、引用文献及び引用範囲を明示したことにより本出願明細書の開示の一部とし、明示した引用範囲を参照することにより、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0136】過硫酸塩系重合開始剤を使用する場合は、一般的に、約60乃至約90℃の温度範囲が好ましい。酸化還元系重合開始剤を使用する場合は、一般的に、約30乃至約70℃の温度範囲が好ましく、約30乃至約60℃の温度範囲がより好ましく、約30乃至約45℃の温度範囲がさらに好ましい。
【0137】(16)重合開始剤の種類コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法において使用する重合開始剤の具体例としては、過酸化水素、過酸化第3ブチル、過硫酸アンモニウム、過硫酸アルカリ金属(金属;ナトリウム、カリウム又はリチウム)の過硫酸塩類、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物類、クメンハイドロパーオキサイドやtert−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類等の、乳化重合において一般的に用いられる水溶性遊離基開始剤が挙げられ、これらは単独又は混合物として使用することができる。
【0138】前記重合開始剤の他の具体例としては、前記重合開始剤と共に還元剤を用いることにより酸化還元系を形成する酸化還元(レドックス)重合開始剤が挙げられる。前記還元剤としては、メタ重亜硫酸、ヒドロ亜硫酸、次亜硫酸アルカリ金属等の亜硫酸塩類、スルホキシル酸ホルムアルデヒドナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、鉄イオン等の金属イオン等が挙げられ、これらは単独又は混合物として使用することができる。
【0139】コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法においては、例えば、化学モノグラフ第15巻・高分子合成の化学(大津隆行著、化学同人、京都、1968年)62〜72頁・「ラジカル重合の開始剤」の項に列挙されているものも、単独又は混合物として好適に使用することができる。その記載は全て、引用文献及び引用範囲を明示したことにより本出願明細書の開示の一部とし、明示した引用範囲を参照することにより、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0140】(17)重合開始剤の使用量コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法において用いる重合開始剤の使用量は、反応速度が実質的に確保できる量であれば特に制限されない。一般的には、重合開始剤の使用量は、供給する単量体の合計重量100重量部に対して、0.01乃至4重量部の範囲が好ましい。また、酸化還元(レドックス)系において用いる還元剤の使用量は、やはり、供給する単量体の合計重量100重量部に対して、0.01乃至4重量部の範囲が好ましい。前記重合開始剤の添加方式は、一括添加でも、連続添加でもよい。
【0141】(18)多段階継続的重合の各段階において生成するポリマーの分子量多段階継続的重合の各段階において生成するポリマーの重量平均分子量は、一般的には、約3,000,000乃至約100,000程度であり、連鎖移動剤を使用する場合は約100,000以下である。重合の過程において架橋が生じる場合には、ポリマーの分子量は顕著に増加し得る。例えば、約500,000乃至約20,000程度の相対的に低い重量平均分子量を所望するある態様においては、エチレン的不飽和モノマーの使用量を抑制し、かつ、そのかわりに連鎖移動剤を0.05乃至2%以上用いる。
【0142】(19)連鎖移動剤コア/シェル構造を有する粒子の水系分散液の製造方法においては、必要に応じてメルカプタン類等の連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤の具体例としては、第2ブチルメルカプタンのような低級アルキルメルカプタン類が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0143】(20)粒径コア/シェル構造を有する粒子の平均直径は、実質的に組成物の系が継続的に安定して均一であり、実質的に貯蔵安定性と作業性が充分に確保されれば特に制限されない。
【0144】特に、耐衝撃性、耐チッピング性の改善効果の観点から、粒子(C)の一次粒子の直径は0.01〜5μmが好ましく、さらに塗膜の外観、特に平滑性をも併せて考慮すると0.01〜1.5μmがより好ましい。ここで一次粒子とは、コア/シェル構造を有する最小の粒子単位を意味する。したがって、工業的な生産を考慮した場合に、粒子径の制御、粉砕コストの点からエマルジョン重合法が最も有利と考えられる。粒子径は、コールター・カウンターN4(コールター社製)により評価することができる。
【0145】(21)コアポリマー/シェルポリマーの重量比コア/シェル型粒子のコアポリマー/シェルポリマーの重量比は、所望するコア/シェル構造を実質的に確保できるものであれば特に制限されない。
【0146】本発明に係るコア/シェル型粒子のコアポリマー/シェルポリマーの重量比は、一般的には、5対95乃至90対10であることが好ましい。前記重量比が、前記の好ましい数値範囲から離れるに従って、コア/シェル間の架橋形成の程度が低下し、被膜形成した際の被膜の架橋密度も低下し、それに伴い被膜の耐溶剤性や耐水性等の性能も低下する傾向がみられる。
【0147】(22)添加剤コア/シェル構造を有する粒子には、必要に応じて、通常のポリマーエマルジョン組成物において使用される添加剤を添加することができる。添加剤の具体例としては、例えば、消泡剤、分散剤、増粘剤、顔料、顔料分散剤、浴剤、造膜補助剤、有機溶剤、可塑剤、防腐剤、防菌剤、防錆剤、チクソ剤(チクソトロピー又は揺変性を抑制する添加剤)等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0148】[コア/シェル構造を有する粒子の態様]コア/シェル構造を有する粒子(C)を構成するコア成分とシェル成分は、いわゆるコア/シェル構造の形態を有する重合体を構成するそれぞれの成分であり、コア成分とは内側部分を形成する成分の名称であり、シェル成分とは外側部分を形成する成分の名称であり、一般的には、グラフト共重合体である。
【0149】粒子(C)のコアは、一般的には、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体を含む反応系で重合して得られ、シェルはそれと同じ又は異なる少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体を含む反応系で重合して得られる。
【0150】この粒子(C)は、ジエン系単量体及び/又は不飽和単量体を重合してなる合成ゴムをコア成分とし、ビニル系重合体をシェル成分とするグラフト共重合体から成ることが好ましい。
【0151】(1) コアの態様コア成分をなす合成ゴムの原料であるジエン系単量体の具体例としては、ブタジエンやイソプレン等が挙げられる。
【0152】不飽和系単量体としては、(1)2−エチルヘキシルアクリレートやブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート等のアルキルアクリレート及び/又はメチルメタアクリレートやn−ブチルメタアクリレート等のアルキルメタアクリレート、(2)酢酸ビニルの如きビニルエステル、(3)塩化ビニルや塩化ビニリデンの如きビニルハライド及び/又はビニリデンハライド、(4)アクリロニトリル、アクリルアミド等の不飽和単量体、(5)ヒドロキシエチルアクリレートやヒドロキシメタアクリレート、メチロールアクリルアミド、メチロールメタアクリルアミド等の水酸基含有不飽和単量体、(6)アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有不飽和単量体、(7)スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系不飽和単量体、また架橋を目的とした(8)2−クロロエチルビニルエーテル等の含ハロゲン単量体、(9)グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、等のグリシジル基含有不飽和単量体、等が挙げられる。これら不飽和系単量体は1種でも良く、2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0153】これらから得られる合成ゴムの具体例としては、例えば、ポリブタジエンやポリイソプレン、ポリアクリル酸エステルゴム、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体、等が挙げられる。これらの中では、ポリブタジエンやポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリアクリル酸エステルゴムが好ましい。
【0154】コア又は合成ゴムのガラス転位温度は、20℃以下であり、0℃以下がより好ましい。ガラス転移温度が20℃を上回る場合、耐衝撃性、耐チッピング性、共に改善効果が十分に得られない傾向がみられる。コア又は合成ゴムのガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)測定により実測することもできるし、フォックスの式により算出することもできる。
【0155】(2) シェルの態様シェル成分であるビニル系重合体とは、ビニル系単量体の1種及び/又は2種以上を重合してなる重合体である。
【0156】ビニル系単量体の具体例としては、例えば、(1)2−エチルヘキシルアクリレートやブチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルアクリレート等のアルキルアクリレート及び/又はメチルメタアクリレートやn−ブチルメタアクリレート等のアルキルメタアクリレート、(2)酢酸ビニルの如きビニルエステル、(3)塩化ビニルや塩化ビニリデンの如きビニルハライド及び/又はビニリデンハライド、(4)アクリロニトリル、アクリルアミド等の不飽和単量体、(5)ヒドロキシエチルアクリレートやヒドロキシメタアクリレート、メチロールアクリルアミド、メチロールメタアクリルアミド等の水酸基含有不飽和単量体、(6)アクリル酸、メタアクリル酸、無水マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有不飽和単量体、(7)スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系不飽和単量体等が挙げられ、これらは単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0157】これらのうち特に好ましいのは、上記(1)のアルキルアクリレート、アルキルメタアクリレート、(7)の芳香族系不飽和単量体の単独重合体やそれらの組み合わせからなる共重合体である。ところで、グリシジル基含有不飽和単量体を使用した場合、マトリックス樹脂である(メタ)アクリル系共重合体(A)とシェルとの界面接着性が必要以上に強まり、得られる塗装塗膜の平滑性を損ない、外観上問題を生じる。
【0158】シェル又はビニル系重合体のガラス転移温度は、コア/シェル構造を有する粒子(C)の合成後の乾燥工程での作業性、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)との相溶性又は分散性の観点から40℃以上である。
【0159】シェル又はビニル系重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)測定により実測することもできるし、フォックスの式により算出することもできる。本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「相溶性」なる語の概念は、「相容性」又は「コンパティビリティー」なる語の概念と相互に等価であり、例えば、「新版高分子辞典(高分子学会編、朝倉書店、東京、1988年)」・437頁左欄〜438頁右欄の「ポリマーブレンド」の項に記載されている「相溶性」又は「相容性」の概念を包含し、高分子多相系が相溶性又は高相溶性であることを包含し、高分子多相系が非相溶性又は低相溶性である場合に第三成分である「相溶化剤」(「相容化剤」「コンパティビライザー」をも包含する。)を高分子多相系に少量添加することにより相溶性を改善する概念をも包含する。その記載は全て、引用文献及び引用範囲を明示したことにより本出願明細書の開示の一部とし、明示した引用範囲を参照することにより、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。高分子多相系が相溶性又は高相溶性である場合は、一般的に、著しい材料物性の向上を発現する。
【0160】本出願の特許請求の範囲又は明細書において用いる「相溶化剤」なる語の概念には、例えば、「ポリマーアロイ−基礎と応用−(高分子学会編、東京化学同人、東京、1981年)」に記載されている「相溶化剤」、「相容化剤」又は「コンパティビライザー」の概念をも包含する。その記載は全て、引用文献又は引用範囲を明示したことにより本出願明細書の開示の一部とし、明示した引用範囲を参照することにより、本出願明細書に記載した事項又は開示からみて、当業者が直接的かつ一義的に導き出せる事項又は開示とする。
【0161】[コアとシェルの機能区分]コアとシェルの機能区分については、弾性率の高いコアが衝撃吸収性を、一方、弾性率の低いシェルがマトリックス樹脂への分散性、相容性、接着性を支配するものと考えられる。また、具体的な衝撃吸収の原理については、河合らによる報告(Journal of Macromolecular SciencePhysics,17巻,427〜頁(1980年))、松尾らの報告(Polymer Engineering Science,9,197〜頁,(1969年))等に記載されている。すなわち、ミクロ相分離構造を有するポリマー中で、弾性率の差によりゴム相界面に応力集中を生じ、この界面からマトリックス樹脂に向かって荷重方向と垂直の方向にマイクロクレーズを生じるという破壊機構の中で説明されている。
【0162】[コア/シェル構造を有する粒子(C)の市販されている製品の具体例]コア/シェル構造を有する粒子(C)としては、既販の衝撃性改良剤(インパクトモディファイヤー)の中にも使用可能なものがある。これらは、本発明者らが合成したものと同等の効果が確認された。
【0163】これらの具体例としては、例えば、合成ゴムがポリアクリル酸エステル系のものとしては、呉羽化学(株)製の「PARALOID KM 330」、「PARALOID EXL 2315」、鐘淵化学(株)製の「カネエース FM」;合成ゴムがスチレン−ブタジエン系のものとしては、呉羽化学(株)製の「BTAIII N2」、「BTA 712」;ポリブタジエン系のものとしては、呉羽化学(株)製の「PARALOID EXL 2602」、「BTA 751」「BTAIII NX」等が挙げられる。
【0164】[溶解度パラメータ]分散相(島)を構成する、このコア/シェル構造を有する粒子(C)は、シェル(粒子表面)高分子として、連続相(海)を構成するアクリル系及び/又はメタクリル系共重合体が有する溶解度パラメーター(SP値)に近傍のものを選択することにより、又は、適当な相溶化剤を第三成分として導入することにより、粒子表面にエポキシ基又はグリシジル基を全く導入することなく又は高密度で導入することなく、均一な高分子多相系を実現することができる。
【0165】[コアシェル構造を有する粒子(C)の使用量]耐衝撃性、あるいは硬度、耐熱性低下の点から、コアシェル構造を有する粒子(C)の使用量は、アクリル系及び/又はメタクリル系重合体(A)及び多価カルボン酸系化合物(B)の合計量100重量部に対して、2〜50重量部が適当である。望ましくは5〜30重量部である。2重量部以下の場合、耐衝撃性の改良効果が十分でない傾向にあり、一方、50重量部を越える場合、塗膜の硬度、耐熱性、さらには外観の悪化が著しい傾向にある。
【0166】[添加剤]本発明の熱硬化性粉体塗料用組成物にはエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド等の合成樹脂、或いは繊維素誘導体のような各種樹脂を本発明の目的を損なわない程度に配合してもよく、その他に顔料、流動調整剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、ベンゾイン、帯電防止剤、酸化防止剤等の通常用いられている塗料添加剤を配合してもよい。またクリヤ−コ−トとして使用する場合に少量の顔料を配合し、完全に隠蔽性の発現しない程度に着色してもよい。
【0167】[溶融混練装置]溶融混練装置としては、通常、加熱ロール機、加熱ニーダー機、押出機(エクストルーダー)等を使用する。本発明の熱硬化性粉体塗料組成物を配合する方法の具体例としては、ロール機、ニーダー機、ミキサー(バンバリー型、トランスファー型等)、カレンダー設備、押出機(エクストルーダー)等の混練機や捏和機を、適宜、組み合わせ、各工程の条件(温度、溶融若しくは非溶融、回転数、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気等)を、適宜、設定して、充分に均一に混合し、その後、粉砕装置により、均一な微細粉末状態の粉体塗料組成物を得る方法を採用することができるが、これらに限定されるものではない。
【0168】[粉体塗料組成物の調製法]粉体塗料を製造するには周知の何れの方法も採用することができ、加熱ロール、エクストルーダーなどの混練機による混合が一般的である。(A)、(B)及び(C)を含む組成物を機械的に混練する際の被混練物の温度は、実質的に均一な粉体塗料組成物を調製できれば特に制限されない。
【0169】但し、本発明においてはコア/シェル構造を有する粒子(C)が、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の中に均一に分散せず、極在化した場合、十分な衝撃吸収効果が得られない場合があり得る。特に、コア/シェル構造を有する粒子(C)を水溶液中で重合、さらに得られた重合体を乾燥工程を経て製造した場合、一次粒子が乾燥時に凝集し、100μm程度の凝集体(二次粒子)を形成する場合が見られ、このような場合、粉体塗料の製造(混練)過程で二次粒子が一次粒子に解砕される必要を生じる。そこで、この解砕を助ける目的で混練温度を高め、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)、多価カルボン酸系化合物(B)のいずれか1成分以上を軟化させながら混練する方法が有効となる。
【0170】そこで具体的には機械的に混練する際の被混練物の温度を、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のガラス転移温度近傍、多価カルボン酸系化合物(B)の溶融温度のいずれかのうち最も低い温度に対して、同じ、またはそれ以上とすることが好ましい。
【0171】(A)、(B)及び(C)を含む組成物を機械的に混練する際の被混練物の温度は、一般的には、(A)のガラス転位転位点計算値より30℃低い温度、及び、(B)の溶融温度の、何れか低い温度より高い温度が採用される。この温度条件をはずれ、被混練物の温度を、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のガラス転移温度近傍、多価カルボン酸系化合物(B)の溶融温度、のいずれよりも低い温度で混練した場合は、コア/シェル構造を有する粒子(C)の二次粒子が残存するため、十分な耐衝撃性、耐チッピング性を得るためには過大な混練エネルギーを要するため不利となる。
【0172】以上の点を考慮し、コア/シェル構造を有する粒子(C)を効率よく分散させる具体的な混練方法として次のような方法が採用できる。
【0173】(1) 所定の混練温度範囲において、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)、多価カルボン酸系化合物(B)、コアシェル構造を有する粒子(C)を同時に混練。
【0174】(2) 所定の混練温度範囲において、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)とコア/シェル構造を有する粒子(C)のみを予め混練。さらに、この混練物と多価カルボン酸系化合物(B)とを、同様の温度範囲で混練。
【0175】(3) アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)を有機溶剤溶液とした後、これにコア/シェル構造を有する粒子(C)を均一分散し、この混合溶液(またはスラリー)から脱溶剤することで、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)とコア/シェル構造を有する粒子(C)のみを予め均一混合(尚、有機溶剤としてはキシレン、トルエン等が使用可)。さらに、この混合物と多価カルボン酸系化合物(B)とを、所定の温度範囲で混練。
【0176】特に、(3) の方法は、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)をキシレン、トルエン等の有機溶媒中で溶液重合法により調製する場合に、重合終了〜脱溶剤開始の間にコア/シェル構造を有する粒子(C)を分散させることにより工程の簡略化も可能である。また、混練器中での均一分散を促進する目的で、被混練物全体を常温で機械的に予備混合しておくことも有効であり、この目的でヘンシェルミキサー等が使用できる。
【0177】混練工程により調製された塊状塗料の内部で、コア/シェル構造を有する粒子(C)が一次粒子の状態で均一に分散しているか否かは、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、コールーターカウンター等の手法により確認できる。混練により得られた塊状塗料は、冷却の後、平均粒径10〜90μm程度となるように粉砕される。使用される粉砕器としては、ハンマーミル等が挙げられる。
【0178】本発明の粉体塗料組成物に添加剤等を加える配合混練工程の一態様を例示すると、本発明の熱硬化性粉体塗料組成物に、必要に応じ、ブロッキング防止剤、表面調整剤、可塑剤、帯電調整剤、顔料、充填剤、増量剤等の添加剤を加え、40〜130℃の範囲で、充分に溶融混練し、冷却後、適当な粒度(通常、100メッシュ以下)に均一に粉砕し製造される。
【0179】[塗装方法及び焼付方法]粉砕により得られた粉体塗料は、静電塗装法、流動浸漬法等の塗装方法によって、熱硬化性粉体塗料組成物の粉末を、対象物に付着せしめ、加熱して熱硬化させ塗膜を形成させる。本発明の熱硬化性粉体塗料組成物の焼付けは、通常、約100〜約150℃、より好ましくは、約120℃〜約140℃の温度において、通常約10〜約60分間、行なうことにより、共重合体(A)と硬化剤(B)との架橋反応を行なうことができる。焼付け後、室温まで冷却後、優れた特性を有する塗膜を得ることができる。
【0180】この塗膜は、分散相として、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上でありかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まない少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子を有し、連続相として、三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造を有する有機高分子を有し、かつ前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により、分散相を連続相内に均一に保持している。
【0181】この塗膜は、通常、前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により、分散相を連続相内に均一に保持することにより、分散相の有する耐衝撃性により、塗膜全体の耐衝撃性及び耐チッピング性を発現する機能を有する。
【0182】本出願明細書において、実施例、製造例及び態様は、本出願に係る発明の内容の理解を支援するためのものであって、その記載によって、本発明がなんら限定される性質のものではない。
【0183】
【実施例】本発明を、さらに具体的に説明するために、以下に実施例及び比較例等を挙げて説明する。「部」及び「%」は特に説明のない限り重量によるものである。
【0184】[塗装板の調製]ポリエステル−メラミン架橋の黒色塗料を、りん酸亜鉛処理を施した0.8mm厚の梨地鋼板に、30μ厚で塗装し、その後、焼付けをして、下地処理鋼板を調製した。
【0185】[性能評価]性能評価は次のようにして行なった。
【0186】(1) 耐衝撃性試験(デュポン式衝撃性試験)
JIS K5400 6.13.3に従って実施した。ここで採用したおもりの重量は、500g及び1kgである。評価結果の数値は、塗膜に割れやはがれの発生した落下高さで示した。
【0187】(2) チッピング試験(飛石式衝撃性試験)
米国の自動車用塗膜の試験法SAE−J400及びASTM D−370に従ったグラベロメーター(菅試験機(株)製)を使用した。塗装した鋼板を−20℃の冷凍庫中4時間放置し、さらにその後、直ちに−30℃のドライアイス・メタノール浴中で5分間冷却し、塗装鋼板をドライアイスメタノール浴から引き上げ、グラベロメ−タ−にセット、直ちに砕石を吹き付けて試験した。ドライアイスメタノール浴からの引き上げから、砕石を吹き付けまでの所要時間は5秒以内とした。砕石はJIS A5001に規定された道路用砕石7号を使用した。塗装鋼板毎に50gの砕石を使用し、一気に衝突させた。吹き付けのために使用した圧縮空気の圧力は4Kgf/cm2(ゲージ)とした。砕石の衝突により傷を受けた鋼板は、10分間室温で放置した後、剥離しかけた塗膜をマスキングテープを用いて完全に剥した。
【0188】耐チッピング性の良否は、傷の平均直径により表した。したがって、傷の直径が小さいほど、耐チッピング性が良好である。
【0189】(3) 耐候性試験QUVテスターによる1000時間の促進テストを行い、促進テスト前後の塗膜の光沢度を測定し、光沢残存率(%)を求めた。光沢残存率は次式により計算した。
【0190】
【数2】


(4) 耐酸性試験10vol%の硫酸を塗膜表面に滴下し、室温にて1日放置した後拭き取り、外観を観察した。その結果、痕跡の無いものを〇、痕跡の付いているものを×として示した。
【0191】(5) 目視外観塗膜外観を観察し、特に平滑性の優れているものを◎、平滑性の良好なものを〇、平滑性の普通のものを△、平滑性の劣るものを×とした。
【0192】(6) 耐溶剤性キシロールを含浸させたガーゼで塗膜表面を往復50回擦った後、その塗膜を観察した。その結果、痕跡の無いものを〇、痕跡の付いているものを×として示した。
【0193】(7) 塗膜硬度試験鉛筆引っかき試験(JIS K5400 6.14に準ずる。)により実施した。表示は鉛筆の硬度記号で示した。
【0194】[製造例1、2](アクリル系共重合体の製造)
撹拌機、温度計、還流コンデンサ−及び窒素導入管を備えた4ッ口フラスコにキシレン66.7部を仕込み、還流温度まで昇温した。ここに表1に示す単量体(部)と重合開始剤としてN,N’−アゾビスイソブチロニトリルを5時間に渡り滴下して、更にその後は100℃で5時間保持した。得られた重合溶液の溶剤を除去することによりアクリル系共重合体(製造例1と製造例2)を得た。表1に、得られた共重合体の特性値も併せて記載した。
【0195】
【表1】


[製造例3](粒子の製造)
まず、コア成分のポリアクリル酸エステルゴムを次の様にして調製した。
【0196】フラスコ中に、水44.2部と界面活性剤(商品名ペレックスSS−L、花王社製)0.1部、重合開始剤過硫酸カリウム0.2部を仕込んだ。窒素気流下中、温度を75℃に保った。次にブチルアクリレート22.5部とアクリロニトリル15.8部とメタアクリル酸1.2部と界面活性剤(ペレックスSS−L)0.3部と水15.7部とで予め乳化した液を窒素気流下中、75℃に保ったフラスコ中に4時間掛けて連続的に滴下して反応させた。その後3時間、残モノマー重合を実施し、その反応液を室温まで冷却した。生成したポリアクリル酸エステルゴムは固形分40%、粘度22cpsであった。
【0197】次にこれを用いてシェル成分を次の様にして反応してグラフト共重合体粒子を調製した。得られたポリアクリル酸エステルゴムのラテックス40.0部と水30.0部と重合開始剤過硫酸カリウム0.2部をフラスコに仕込み、窒素気流下中、温度を75℃に保った。次に、メチルメタアクリレート9.2部とスチレン5.4部とアクリル酸0.4部と界面活性剤(ペレックスSS−L)0.3部と水14.5部とで予め乳化した液を窒素気流下中、75℃に保ったフラスコ中に6時間かけて連続的に滴下して反応させた。その後2時間、残モノマーの重合を実施し、その反応液を室温まで冷却した。生成したグラフト共重合体ラテックスを凝集沈殿ろ過し、乾燥して水をとばして粉体化した。
【0198】実施例1、2、3、6で使用する製造例3の粒子の平均粒子径実測値は0.3μm、コアのガラス転移点計算値は−5℃、シェルのガラス転移点計算値は106℃であった。
【0199】[製造例4](粒子の製造)
まず、コア成分のポリアクリル酸エステルゴムを次の様にして調製した。フラスコ中に、水41.4部と界面活性剤(ペレックスSS−L)0.1部、重合開始剤過硫酸カリウム0.2部を仕込んだ。窒素気流下中、温度を75℃に保った。次に、ブチルアクリレート35.8部とアクリロニトリル4.5部とメタアクリル酸2.0部と界面活性剤(ペレックスSS−L)0.3部と水15.7部とで予め乳化した液を窒素気流下中、75℃に保ったフラスコ中に4時間掛けて連続的に滴下して反応させた。その後3時間、残モノマー重合を実施し、その反応液を室温まで冷却した。生成したポリアクリル酸エステルゴムは固形分43%、粘度25cpsであった。
【0200】次にこれを用いてシェル成分を次の様にして反応してグラフト共重合体粒子を調製した。得られたポリアクリル酸エステルゴムのラテックス40.6部と水34.2部と重合開始剤過硫酸カリウム0.2部をフラスコに仕込み、窒素気流下中、温度を75℃に保った。次に、メチルメタアクリレート5.4部とイソブチルアクリレート3.4部とグリシジルメタクリレート1.0部と界面活性剤(ペレックスSS−L)0.2部と水15.0部とで予め乳化した液を窒素気流下中、75℃に保ったフラスコ中に6時間かけて連続的に滴下して反応させた。その後2時間、残モノマーの重合を実施し、その反応液を室温まで冷却した。生成したグラフト共重合体ラテックスを凝集沈殿ろ過し、乾燥して水をとばして粉体化した。
【0201】比較例6で使用する製造例4の粒子の平均粒子径実測値は0.4μm、コアのガラス転移点計算値は−39℃、シェルのガラス転移点計算値は41℃であった。尚、シェルを構成する反応性基を有する重合性単量体であるグリシジルメタクリレートの使用量は、計算上、コア100重量部に対して5.7部となっている。
【0202】[実施例1、2]アクリル系共重合体(製造例1、2)とドデカン2酸と粒子(製造例3)及び酸化チタンを表2に示す割合(部)で配合した。これを熱ロールにて90℃の条件下溶融混練して冷却後、粉砕機にて微粉砕し、150メッシュの篩を通過した区分を集め粉体塗料を得た。得られた粉体塗料を燐酸処理鋼板に静電スプレーにて60〜70μmの膜厚になるよう塗装後、130℃で30分間加熱しテスト板を得た。
【0203】[実施例3]酸化チタンを用いないこと以外は実施例1と同様のテスト板を得た。
【0204】[実施例4、5]実施例4では粒子として市販の衝撃性改良剤PALALOID EXL2315(呉羽化学(株)社製)を使用した以外は、全く実施例1と同様の方法によりテスト板を得た。また、実施例5では同様に市販の衝撃性改良剤PALALOID EXL2602(呉羽化学(株)社製)を使用した以外は、全く実施例1と同様の方法によりテスト板を得た。
【0205】配合割合は、実施例1と同様であり、表2に示した。ここで使用された市販品は、共に、シェルにポリメチルメタアクリレートホモポリマーを有する呉羽化学(株)社製のもので、コアについては、EXL2315の方がn−ブチルアクリレートを主成分とする架橋型アクリルゴム、EXL2602の方がスチレン−ブタジエン共重合体であり、いずれも本発明のコア/シェル構造を有する粒子に相当するものである。
【0206】実施例4で使用した粒子EXL2315の平均粒子径は0.4μm、コアのガラス転位温度は−34℃(直径のみ実測値)、シェルのガラス転位温度は85℃であった。実施例5で使用した粒子EXL2602の平均粒子径は0.2μm、コアのガラス転位温度は−73℃(共に実測値)、シェルのガラス転位温度は90℃であった。
【0207】[実施例6、7]実施例6では多価カルボン酸として無水物基を有するドデカン2酸無水物(HO−[OC(CH210COO]3 −H)を使用した以外は、全く実施例1と同様の方法によりテスト板を得た。また、実施例7では同様にドデカン2酸無水物を使用した以外は、全く実施例4と同様の方法によりテスト板を得た。
【0208】これらの配合割合を、表2に示す。
【0209】[比較例1]ポリエステル系粉体塗料の主剤(商品名ER−8105、ユニチカ社製)74.1部と硬化剤であるトリグリシジルイソシアヌレート5.9部と酸化チタン20.0部とを配合した。これを実施例1と同様の方法により粉体塗料とし、燐酸処理鋼板に静電スプレーにて60〜70μmの膜厚になるよう塗装後、200℃で20分間加熱しテスト板を得た。
【0210】[比較例2]実施例1において、粒子を使用しない他は全く実施例1と同様の方法によりテスト板を得た。
【0211】[比較例3]実施例7において、粒子を使用しない他は全く実施例7と同様の方法によりテスト板を得た。
【0212】[比較例4、5]比較例4では、特公昭62−25709号の実施例1に準拠して塗膜を得た。即ち、まずアクリル酸による変性度10%の重合性エポキシ化合物を、原料ビスフェノールA型のエポキシ樹脂としてエピコート828(油化シェル製、エポキシ当量=190)を使用して調製した。次に、得られた重合性エポキシ化合物とポリブタジエンゴムラテックスとアクリルモノマーを用いてエポキシ/アクリル変性ゴム粒子を調製した。これは表面にエポキシ基を有する粒子である。次いで、このエポキシ/アクリル変性ゴム粒子と、エポキシ樹脂(エピコート1004、油化シェル社製、エポキシ当量=950)と、硬化剤としてジシアンジアミドと、流動調製剤(商品名モダフロー、モンサント社製)とを、表3に示す割合で混合して塗工し、塗工後170℃で20分間加熱して塗膜を形成した。
【0213】また、比較例5では、比較例4の塗料配合に表3に示す様に、硬化触媒としてアミキュアPN−23(味の素社製)、及び無機顔料として酸化チタンを併用した以外は、比較例4と同様に塗膜を得た。
【0214】[比較例6]実施例7において、表4に示す割合で、製造例4により製造された粒子を使用した他は全く実施例7と同様の方法によりテスト板を得た。
【0215】実施例1〜7及び比較例1〜6で形成した塗膜の性能評価結果を表5に示す。表5の実施例1〜7の結果から分かるように、本発明の組成物はアクリル系の粉体塗料の耐候性を損なうことなく、耐衝撃性についてポリエステル系塗料と同等或いは、それ以上の値を示しており、また耐酸性試験、目視外観、他の点でも何等問題無いことから、塗料としての実用的な通常物性も有している。
【0216】
【表2】


【0217】
【表3】


【0218】
【表4】


【0219】
【表5】


【0220】
【発明の効果】以上説明した様に、本発明の粉体塗料組成物は、エポキシ樹脂粉体塗料やポリエステル粉体塗料の欠点である耐候性を改善し、かつ、ポリエステル粉体塗料に匹敵する優れた耐衝撃性を有し、さらには、従来ほとんど当業者により注目されなかった耐チッピング性についても優れている。
【0221】また、本発明の粉体塗料組成物は、優れた耐候性、耐チッピング性、耐衝撃性、外観特性を同時に実現できるので、例えば、自動車等の車両のボディーやシャシー表面のように、走行中に砂利や小石が大きな相対速度で衝突し、又、遮蔽物のない屋外で太陽光線や厳しい気象条件に暴露される塗膜に、きわめて好適に応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 単量体(a1)として、少なくとも1つのグリシジル基及び少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体、及び、単量体(a2)として、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有し、かつ、グリシジル基を分子内に有さないエチレン性不飽和単量体を含む反応系で重合して得られる少なくとも1種類のアクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)、多価カルボン酸(b1)及び多価カルボン酸無水物(b2)からなる群から選択された少なくとも1種類の多価カルボン酸系化合物(B)、並びに、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上でありかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まない少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)を含む熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項2】 粒子(C)のコアは、少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有するエチレン性不飽和単量体を含む反応系で重合して得られ、シェルはそれと同じ又は異なる少なくとも1つの不飽和二重結合を分子内に有しかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まないエチレン性不飽和単量体を含む反応系で重合して得られる請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項3】 アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のガラス転移点計算値が、20〜120℃である請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項4】 アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)の数平均分子量が、1,000〜10,000である請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項5】 アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のエポキシ当量が、200〜1,000g/eqである請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項6】 多価カルボン酸(b1)が脂肪族多価カルボン酸である請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項7】 多価カルボン酸無水物(b2)が脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物である請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項8】 脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物が、下記一般式HO−[OC(CH2mCOO]n−H(mは1以上、nは2以上の数を示す)で表わされる請求項7記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項9】 脂肪族多価カルボン酸線状酸無水物が、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、アイコサン2酸、オクタデカン2酸からなる群より選択された少なくとも1種類の脂肪族多価カルボン酸から生成された線状酸無水物である請求項7記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項10】 アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)中のグリシジル基1当量に対し、多価カルボン酸系化合物(B)分子中のカルボキシル基及び/又は酸無水物基が0.5〜1.3当量である請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項11】 少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)のシェルを構成する重合性単量体として、少なくとも1つのカルボキシル基を有する単量体を含む請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項12】 少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)の平均直径が0.01〜5μmである請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項13】 少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)の使用量が、アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)及び多価カルボン酸系化合物(B)の合計100重量部に対して、2〜50重量部である請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項14】 アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)、多価カルボン酸系化合物(B)、及び、少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)を含む混合物を機械的に均一に混練する際の、被混練物の温度が、(i)アクリル系及び/又はメタクリル系共重合体(A)のガラス転移点計算値より30℃低い温度、及び、(ii)多価カルボン酸系化合物(B)の溶融温度、のうち何れか低い方の温度よりも高い請求項1記載の熱硬化性粉体塗料組成物の製造方法。
【請求項15】 分散相として、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上でありかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まない少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子を有し、連続相として、三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造を有する有機高分子を有し、かつ、前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により、前記分散相を前記連続相内に均一に保持した塗膜。
【請求項16】 前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により前記分散相を前記連続相内に均一に保持することにより、前記分散層の有する耐衝撃性により塗膜全体の耐衝撃性及び耐チッピング性を発現する機能を有する請求項16記載の塗膜。
【請求項17】 分散相として、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上でありかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まない少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子を有し、連続相として、三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造を有する有機高分子を有し、かつ、前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により、前記分散相を前記連続相内に均一に保持した塗膜を有する車両。
【請求項18】 前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により前記分散相を前記連続相内に均一に保持することにより、前記分散層の有する耐衝撃性により塗膜全体の耐衝撃性及び耐チッピング性を発現する機能を有する請求項17記載の車両。
【請求項19】 塗膜形成した際に塗膜が、分散相としてコア/シェル構造を有する粒子(C)を有し、連続相として樹脂成分(A)及び硬化剤成分(B)の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造を有する有機高分子を有し、かつ、前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造が前記分散相を前記連続相内に均一に保持しうる機能を有し、樹脂成分(A)、硬化剤成分(B)、並びに、ガラス転移点計算値20℃以下のコアを有し、ガラス転移点計算値40℃以上でありかつ実質的にエポキシ基及びグリシジル基を含まない少なくとも1つのシェルによりコアが少なくとも部分的に覆われているコア/シェル構造を有する粒子(C)を含む熱硬化性粉体塗料組成物。
【請求項20】 前記塗膜が、前記連続相の三次元架橋網目構造及び/又はIPN構造により前記分散相を前記連続相内に均一に保持することにより、前記分散相の有する耐衝撃性により塗膜全体の耐衝撃性及び耐チッピング性を発現する機能を有する請求項19記載の熱硬化性粉体塗料組成物。