説明

粘土薄膜及びその積層体

【課題】 本発明は耐熱性、耐水性、柔軟性、透明性、難燃性を両立した優れた粘土薄膜を提供することにあり、有機ELディスプレイに好適なフィルム基板を提供するものである。
【解決手段】 薄片状耐熱材料と難燃性流動物質とを含む粘土薄膜であり、前記薄片状耐熱材料が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、スメクタイト及び層状チタン酸のうち一種以上であることが好ましく、前記難燃性流動物質が、リン酸エステルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄片状耐熱材料が積層した構造を有し、難燃性流動物質を含む粘土薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイは、モバイル性や省スペースの面より、従来のブラウン管方式から液晶方式(LCD)に急激に変わりつつある。更に次世代ディスプレイとして、自発光デバイスであり、明るさ、鮮やかさ、消費電力の点でも優れた有機EL方式のものが生産され始めている。これらは従来のブラウン管方式のものと比べればモバイル性や省スペースの面で格段に優れているが、基板としてガラスが使用されているために、比較的重量があり、また、割れるという問題も有している。
これらの問題点を解決するため、一部の液晶方式のものではフィルム基板(プラセルと呼ばれている)が使用されている。しかしながら、次世代ディスプレイとして脚光を浴びている有機ELディスプレイの場合、低抵抗な透明導電膜が必要とされており、この為250℃を超える熱処理が不可欠である。
また、太陽電池パネルにもガラス基板から軽くて、割れにくいフィルム基板の利用が注目されている。この場合、透明性、耐熱性、耐候性はもちろんのこと、難燃性の要求も高まってきている。
従来のプラスチック基板ではこのような特性をすべて両立して満足するものが無い。これらの要求を満たし得る材料としては粘土薄膜が注目されている。
【0003】
粘土薄膜は、透明性をもち優れたフレキシビリティーを有し、粒子が層状に緻密に配向している構造を有しているので、気体バリア性に優れ、主成分が無機物である為に非常に耐熱性に優れた材料である(特許文献1参照)。しかしながら、液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板として使用する場合、いくつかの問題が存在する。
一つは耐水性の問題である。一般的に用いられる粘土は層間に親水性の陽イオンを含んでおり、吸湿性の高い物質である。このため、水分による劣化が懸念される有機ELディスプレイ用のフィルム基板としては適さない。耐水性を上げる対策の一つとして層間への撥水剤添加が考えられるが、吸水性を制御した場合、全く水分がなくなると膜が柔軟性を喪失してしまい、柔軟性を保つ程度の水分を保持しようとすると、急激な過熱による水分の沸騰の為膜を破壊する結果となってしまう。もう一つの耐水化の方法として粘土層間に含まれる親水性陽イオンを疎水性陽イオンに交換する方法がある。しかしながら粘土膜に柔軟性を与える為には熱に弱い樹脂分を多量に粘土層間に挿入する必要があり、粘土が有する耐熱性を十分に発揮することができないという問題を有していた。
また、粘土自体は無機物であるために不燃である。しかし、柔軟性を与える為に添加する樹脂分が有機物であるために、その有機物が燃える為に粘土膜は燃焼するという問題も有していた。
【特許文献1】特開2005−104133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、粘土薄膜を有機ELディスプレイや太陽電池用のフィルム基板として利用するために透明性、耐熱性、耐水性、難燃性に優れたフレキシブル性を有する薄膜を提供する必要がある。したがって、本発明の目的は、薄片状耐熱材料が積層した構造を有し、難燃性を有する流動性物質を含ませることにより耐熱性、耐水性、柔軟性、難燃性を両立し、且つ環境に配慮した、優れた粘土薄膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の粘土薄膜は、薄片状耐熱材料と難燃性流動物質とを含むことを特徴とする。
本発明でいう粘土薄膜とは、薄片状耐熱材料が配向して積層した構造を有する膜厚1〜3000μmの膜状物のことである。本発明の粘土薄膜は、例えば薄片状耐熱材料及び難燃性流動物質を溶剤に分散させ、これをフィルムなどに膜状化して形成し、その後該膜状物を熱処理後、フィルムから剥離することにより得ることができる。
前記薄片状耐熱材料としては、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、スメクタイト及び層状チタン酸などを挙げることができる。これらは一種以上を粘土薄膜に用いることができる。
【0006】
難燃性流動物質とは、耐熱性を有する流動物質であるとともに難燃効果を有する構造のものである。ここでいう耐熱性を有する流動物質は、潤滑油等に代表される200℃以上の加熱においても分解・沸騰等の変質を起こさない液状もしくはペースト状の物質である。例えばポリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、リン酸エステル、アルキルベンゼン、ポリ−α−オレフィン、ポリオールエステル、アルキルナフタレン、シリコーンオイル、ハロカーボン、ポリアリールアルカン、ポリフェニル、珪酸エステル、ポリフェニルエーテルなどが挙げられる。本発明における難燃性流動物質は、上記に挙げた耐熱性を有する流動物質をベースにして難燃性を付与させた構造のものである。
【0007】
本発明においては、難燃性流動物質としてリン酸エステルが好ましく用いられる。より好ましくは、非ハロゲンリン酸エステルである。さらに好ましくは、芳香族化合物が化学結合して含有されているリン酸エステルである。これらの難燃性流動物質は、重量比で粘土薄膜全体の1〜60%であることが好ましい。1%未満の場合では、粘土に柔軟性を付与することが困難であり、60%を超えると膜として自立しにくくなる。ここで、リン酸エステルとは、有機リン化合物のうちリン酸とアルコールが脱水縮合したエステル化合物である。このうち、ハロゲン元素を含有したリン酸エステルは、環境面で悪影響を及ぼす可能性があるために、本発明では好適には用いず、環境面を考慮して非ハロゲンリン酸エステルを使用することが好ましい。また、芳香族化合物がリンとエステル結合をしているリン酸エステルが好適に用いられる。芳香族化合物を含有することで、炭化水素系、その他の化合物とのエステル結合をしているリン酸エステルよりも、耐熱性が向上し、沸点および分解温度の高いリン酸エステルとなる。この為に、複合体である粘土薄膜の耐熱性を損ねることなく、柔軟性、難燃性の特性を付与することができる。
【0008】
また粘土薄膜の強度を増すために、樹脂を添加することもできる。樹脂に関しては、耐熱性の高い樹脂を適宜選択することが出来る。例えば、エポキシ系樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等をあげることが出来る。本発明においては、特に限定されるものではない。
【0009】
また、本発明の粘土薄膜を構成する薄片状耐熱材料の層間には、疎水性を有する陽イオン物質を含むことが好ましく、これにより粘土層間に難燃性流動物質が含有しやすくなる。一般に粘土は層間に親水性の交換性陽イオンを含んでいる。本発明においては粘土である薄片状耐熱材料の層間に有する親水性の交換性陽イオンを疎水性の陽イオン物質に交換し有機化させることが好ましい。疎水性の陽イオン物質としては例えば、ジメリルジステアリルアンモニウム塩やトリメチルステアリルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩や、ベンジル基やポリオキシエチレン基を有するアンモニウム塩を用いたり、ホスホニウム塩やピリジニウム塩やイミダゾリウム塩を用い、粘土のイオン交換性、例えば、モンモリロナイトの陽イオン交換性を利用して有機化することができる。これにより、薄片状耐熱材料の有機溶剤への分散が容易になり、難燃性流動物質の含有が容易となる。以下に上記に示した疎水性を有する陽イオン物質の構造の例を示す。
【0010】
【化1】

【0011】
本発明の粘土薄膜は、単独でも自立膜として利用可能であるが、より高いガスバリア性、耐薬品性、表面平滑性を得るために粘土薄膜の片面または両面に無機薄膜または有機薄膜のうち少なくとも一方を単層または複数層形成することが可能である。積層膜種は特に限定しないが、用途により最適なものを選択できる。例えば酸化珪素もしくは酸化窒化珪素をスパッタ法もしくはプラズマCVD法により製膜を行うことにより高いガスバリア性及び耐薬品性を付与することができる。更には有機ポリマーを塗布することにより表面に平坦性を持たせることができる。例えば、ハードコート層を積層して、ハードコート性を付与することもできる。これらの無機及び有機の表面コートを積層することにより粘土薄膜単独では持ち得ない特性を付与することができる。
また、本発明の粘土薄膜を作製する際に、硬化助剤、酸化防止剤、界面活性剤、顔料、レベリング剤等の一般的な添加剤を種々添加することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の粘土薄膜は、薄片状耐熱材料が積層した構造を有し、難燃性を有する流動性物質を含ませることにより耐熱性、耐水性、柔軟性、透明性、難燃性を両立した、優れた薄膜である。
また、本発明の粘土薄膜は、それがもつ上記特性により、多くの製品に利用することができる。例えば電子ペーパー用基板、電子デバイス用封止フィルム、レンズフィルム、導光板用フィルム、プリズムフィルム、位相差板・偏光板用フィルム、視野角補正フィルム、PDP用フィルム、LED用フィルム、光通信用部材、タッチパネル用フィルム、各種機能性フィルムの基板、内部が透けて見える構造の電子機器用フィルム、ビデオディスク・CD/CD−R/CD−RW/DVD/MO/MD・相変化ディスク・光カードを含む光記録メディア用フィルム、燃料電池用封止フィルム、太陽電池用フィルム等に使用することができる。
また、下記実施例5に示すように表面コートにより付加機能をつけると高いガスバリア性を実現でき、液晶や有機ELディスプレイ用のフィルム基板として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
(粘土の有機化)
テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド5gを純水50g中に分散させた後、合成スメクタイト(クニミネ工業社製、商品名:スメクトンSA)5g投入し十分に分散膨潤させた。この溶液を遠心分離器で固液分離し液分を取り除いた後、更に純水50gを投入し分散、固液分離を行った。この分散・固液分離を発泡がなくなるまで繰り返したのち、乾燥機で水分を完全に除去した。これにより粘土に含まれる親水性の交換性陽イオンとテトラデシルトリメチルアンモニウムイオンが交換され、無極性溶剤であるトルエン対し膨潤性を持つ有機化粘土を得た。
【0015】
(粘土薄膜の形成)
上記により得られた有機化粘土を粉砕し、有機化粘土10gをトルエン100g中に分散・膨潤させ、リン酸エステルとして、トリクレジルホスフェート(大八化学工業社製、以下TCPという)を2.5gを添加し分散を行った。得られた溶液をアプリケーターで離けい処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムという)上に塗布して製膜した。その後、100℃の乾燥機に投入し、溶剤分を除去し、PETフィルムから剥がして本発明の粘土薄膜を得た。
この粘土薄膜は、透明で柔軟性のある厚さ80μmの薄状物であった。
【実施例2】
【0016】
実施例1において、リン酸エステルTCPの添加量を0.5gにした以外は同様にして厚さ80μmの本発明の粘土薄膜を得た。
【実施例3】
【0017】
実施例1において、リン酸エステルTCPの添加量を10gにした以外は同様にして厚さ80μmの本発明の粘土薄膜を得た。
【実施例4】
【0018】
実施例1において、リン酸エステルとして、TCPの代わりに芳香族縮合リン酸エステルCR−733S(大八化学工業社製)を用いた以外は同様にして厚さ80μmの本発明の粘土薄膜を得た。
【実施例5】
【0019】
実施例1にて作製した粘土薄膜の表裏面に、反応性スパッタリングにて無機層であるS膜を厚さ60nm積層し、本発明の粘土薄膜積層体を得た。
この粘土薄膜積層体は、実施例1で得られた粘土薄膜の透明性と柔軟性を維持していた。
【0020】
[比較例1]
実施例1において、リン酸エステルTCPの代わりに非難燃性の流動物質であるジメチルシリコーンオイル(信越化学工業社製 KF96)を用いた以外は同様にして厚さ80μmの粘土薄膜を得た。
【0021】
[比較例2]
実施例1において、流動物質を添加せずに有機化粘土のみで粘土薄膜を形成した。
【0022】
(粘土薄膜の特性評価)
上記のように得られた実施例1〜4及び比較例1、2で作製した粘土薄膜について、下記の特性を測定しその結果を表1に記した。
〔燃焼試験〕
粘土薄膜を125×13mmに切り出し、長い方を高さ方向にしてつるす。
下から炎を近づけて、粘土薄膜に火を5秒接炎する。その後炎を粘土薄膜より離して、炎が燃焼していくのかどうか確認した。
評価として、×:燃焼(燃え広がる)、△:若干の燃焼(燃え広がるが、ある程度の燃焼後に自己消火)、○:即自己消火(火はつくが、燃え広がらずにすぐに自己消火)、◎:不燃(火がつかない)の5段階評価を行った。
〔柔軟性〕
粘土薄膜を100×50mmに切り出し、両手で短い方の辺(50mm)を持ち、お互いの辺がくっつくまで折り曲げ、その後反対方向に折り曲げ同様にお互いの辺がくっつくようにする屈曲運度を50回行い粘土薄膜を屈曲させる。
屈曲させた後の粘土膜の状態に応じて以下の3段階の評価を行った。○:屈曲後も変化無し、△:一部亀裂が発生、×:屈曲途中で割れる。
【0023】
【表1】

【0024】
上記表1の結果から明らかなように、実施例1〜4において、粘土薄膜に難燃性流動物質が含有されているために、粘土薄膜の柔軟性および難燃性の両立が達成されていることが分かる。一方、難燃性のない流動物質を含有した粘土膜(比較例1)は燃焼試験で燃焼し、流動物質を添加しない粘土のみの膜(比較例2)では柔軟性に欠けていることが分かる。
【0025】
(粘土薄膜積層体の特性評価)
実施例1で得られた粘土薄膜および実施例5で得られた粘土薄膜積層体について、ガスバリア性の評価として、下記の方法にて水蒸気透過率の特性を測定した。
〔水蒸気透過率〕
JIS K 7126 A法(差圧法)に準じた差圧式のガスクロ法により、ガス・蒸気等の透過率・透湿度の測定が可能なGTRテック社製のガス・蒸気透過率測定装置を用いて、温度40℃/湿度90%RHの条件における水蒸気透過率の測定を行った。
【0026】
上記の測定の結果、実施例1の粘土薄膜の水蒸気透過率は0.8g/m・dayであり、ガスバリア性は良好であった。実施例5の粘土薄膜積層体の水蒸気透過率は1×10−5g/m・day以下であり、さらにガスバリア性に優れたものであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片状耐熱材料と難燃性流動物質とを含むことを特徴とする粘土薄膜。
【請求項2】
前記薄片状耐熱材料が、雲母、バーミキュライト、モンモリ-ロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ノントロナイト、マガディアイト、アイラライト、カネマイト、スメクタイト及び層状チタン酸のうち一種以上であることを特徴とする請求項1に記載の粘土薄膜。
【請求項3】
前記難燃性流動物質が、リン酸エステルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の粘土薄膜。
【請求項4】
前記リン酸エステルが芳香族化合物を含有し、かつ、ハロゲン元素を含まない非ハロゲンリン酸エステルであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の粘土薄膜。
【請求項5】
前記難燃性流動物質の含有量が、重量比で粘土薄膜全体の1〜60%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の粘土薄膜。
【請求項6】
薄片状耐熱材料の層間に疎水性を有する陽イオン物質を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の粘土薄膜。
【請求項7】
前記疎水性を有する陽イオン物質が、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩のうち一種以上であることを特徴とする請求項6に記載の粘土薄膜。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の粘土薄膜の片面または両面に、無機薄膜または有機薄膜のうち少なくとも一方が単層または複数層積層されたことを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2008−239409(P2008−239409A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82956(P2007−82956)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】