説明

粘着剤、及び該粘着剤を用いた粘着シート、並びにこれらの製造方法

【課題】吸水力及び透明性が飛躍的に向上し得る、新規な構造の粘着剤を提供すること。
【解決手段】疎水性物質11と、親水性物質12と、多価アルコール13と、を含む粘着剤1であって、前記疎水性物質11で形成された連続相中に、前記多価アルコール13によって膨潤した前記親水性物質12が連続的および/または不連続的に存在し、前記親水性物質12を5〜55重量%、前記多価アルコール13を2〜45重量%含有し、下記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤1。(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性、透明性に優れた粘着剤に関する。より詳しくは、疎水性物質と親水性物質からなる新規な構造を備えた粘着剤、及び該粘着剤を用いた粘着シート、並びにこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、疎水性物質と親水性物質とを含む粘着剤は、様々な用途に使用されている。例えば、創傷、ストーマ、瘻孔、褥瘡等の保護、及びそこからの体液等の吸収のための被覆手段、褥瘡予防等のための保護や圧力緩和手段として使用されている。
【0003】
このように様々な分野で有効に活用されている粘着剤には、一般的に以下のような性質が求められる。
(1)皮膚から発生する汗や滲出液等に対して十分な吸水性が確保されていること。
(2)汗や滲出液等を吸収した後にも、十分な形状保持性を有すること。
【0004】
ここで、前記のような粘着剤に求められる性質を向上させる技術として、例えば、特許文献1には、熱可塑性弾性体と、それに必要な軟化剤である油又は高級脂肪酸とをベースポリマーとし、特定の親水性ポリマー水溶液を乳化剤(界面活性剤)を用いることなく分散させ、かつ、水を配合することができる技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ヒドロコロイドと相溶性の非揮発性膨潤剤でヒドロコロイドを溶解・ゲル化させた後、ヒドロコロイドゲル塊を粉砕して膨潤ヒドロコロイド粒子を形成し、該ゲル粒子を感圧性接着剤組成物を含む溶液に分散させることにより、粘着剤の水蒸気透過度および剥離強さを向上させる技術が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ジクロフェナクナトリウム、多価アルコール及び吸水性充填剤を含有し、この多価アルコールを粘着剤層に相溶状態で含有させることにより、薬物であるジクロフェナクナトリウムを効果的に経皮又は経粘膜吸収させることができる技術が開示されている。
【0007】
ところで、疎水性物質と親水性物質とを含む従来の粘着剤は、一般的に、疎水性物質からなる連続相に、親水性物質が分散された構造を呈している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−212429号公報
【特許文献2】特表平05−503863号公報
【特許文献3】特開平10−45579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の通り、疎水性物質と親水性物質とを含む従来の粘着剤は、その含有成分等を工夫することにより、様々な方向からその性質を向上させる技術が開発されつつある。
【0010】
しかしながら、前記粘着剤の含有成分等を工夫しても、疎水性物質と親水性物質との基本的な構造は類似しているため、上記(1)及び(2)の要件を満足する粘着剤はいまだなく、吸水力等の粘着剤に必要な性質を飛躍的に向上させるには限界があった。
【0011】
例えば、前記特許文献2に記載の技術においては、ヒドロコロイドゲル塊を砕いた膨潤ヒドロコロイド粒子を感圧性接着剤組成物を含む溶液に分散させるため、エッジによって透明性が低下してしまうという問題があった。また、粉砕工程が煩わしいといった問題があった。
【0012】
そこで、本発明では、上記(1)及び(2)の要件をすべて満たし、なおかつ吸水力及び透明性が飛躍的に向上し得る、新規な構造の粘着剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者は、前記課題を解決するために、粘着組成物中の疎水性物質と親水性物質との構造に着目し、粘着組成物に必要な性質を飛躍的に向上させるための方法を鋭意研究した結果、疎水性物質からなる連続相に親水性物質が分散された一般的構造から発想を転換して、新規な構造を形成させることに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明では、まず、疎水性物質と、親水性物質と、多価アルコールと、を含む粘着剤であって、
前記疎水性物質で形成された連続相中に、前記多価アルコールによって膨潤した前記親水性物質が連続的および/または不連続的に存在し、
前記親水性物質を5〜55重量%、前記多価アルコールを2〜45重量%含有し、
下記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤を提供する。
【数1】

本発明に係る粘着剤は、前記構造を呈し、前記吸水率を有するものであれば、その吸水達成率は特に限定されないが、下記式(2)で示される吸水達成率が、60分後において40%以上であると好ましい。
【数2】

また、本発明に係る粘着剤の光透過度も特に限定されないが、660nmの光透過率が10%以上であると好ましい。
【0015】
本発明では、次に、疎水性物質と、親水性物質と、多価アルコールと、を含む粘着剤であって、
前記疎水性物質で形成された連続相中に、前記多価アルコールによって膨潤した前記親水性物質が連続的および/または不連続的に存在し、
3〜30重量%の熱可塑性エラストマー、0〜35重量%の粘着付与剤、0〜35重量%の軟化剤、及び0〜40重量%の液状ゴムを含む疎水性物質と、
10〜50重量%の親水性物質と、
2〜35重量%の多価アルコールと、を含む粘着剤を提供する。
これらの本発明に係る粘着剤の詳細な組成比は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、熱可塑性エラストマーを10〜25重量%、軟化剤を2〜10重量%、粘着付与剤を5〜35重量%、液状ゴムを5〜30重量%、親水性物質を20〜40重量%、多価アルコールを2〜20重量%、含有させることが好ましい。
【0016】
以上説明した本発明に係る粘着剤は、例えば、支持層と、該支持層の少なくとも片面に粘着層と、を少なくとも備える粘着シートの前記粘着層に好適に用いることができる。
該粘着シートの使用目的は特に限定されないが、例えば、創傷用に用いることが可能である。
【0017】
本発明では、次に、疎水性物質と、親水性物質と、多価アルコールと、を含む粘着剤の製造方法であって、
前記疎水性物質と前記親水性物質とを混合する混合工程と、
該混合工程を経た後に、混合物中の前記親水性物質を前記多価アルコールによって膨潤させる膨潤工程と、
を少なくとも行い、
前記親水性物質を5〜55重量%、前記多価アルコールを2〜45重量%含有し、
前記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤の製造方法を提供する。
【0018】
本発明では、更に、支持層と、該支持層の少なくとも片面に設けられた粘着層と、を少なくとも備える粘着シートの製造方法であって、
疎水性物質と親水性物質とを混合する混合工程と、
該混合工程を経た後に、混合物中の前記親水性物質を前記多価アルコールによって膨潤させる膨潤工程と、
を少なくとも行うことにより、
前記親水性物質を5〜55重量%、前記多価アルコールを2〜45重量%含有し、
前記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤を作製し、
該粘着剤を前記支持層の少なくとも片面に設けるシート化工程と、
を行う粘着シートの製造方法を提供する。
【0019】
ここで本発明で用いる技術用語を説明する。
【0020】
本発明で用いる「連続相」とは、所定の物質からなる相が他の相に完全に覆われて点状に存在する「分散相」あるいは「分散」とは異なる概念であり、所定の物質からなる相が他の相に完全に覆われることなく、少なくとも線状あるいは面状に連続的な広がりを呈する相をいう。また、本発明で用いる「シート化工程」とは、支持層の少なくとも片面に粘着剤層を設ける工程のことであり、設けるための技術は制限されない。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る粘着剤は、疎水性物質で形成された連続相中に、多価アルコールによって膨潤した親水性物質が連続的および/または不連続的に存在するため、吸水力、透明性等の粘着剤に必要な性質を飛躍的に向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る粘着剤1の具体的構造の第1実施形態を示す概念模式図である。
【図2】本発明に係る粘着剤1の具体的構造の第2実施形態を示す概念模式図である。
【図3】本発明に係る粘着シート10の第1実施形態を示す模式断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シート10の第2実施形態を示す模式断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シート10の第3実施形態を示す模式斜視図である。
【図6】本発明に係る粘着剤1の製造方法および粘着シート10の製造方法のフロー図である。
【図7】実施例において37℃生理食塩水に24時間浸漬後の各試験片の状態を撮影した結果を示す図面代用写真である。
【図8】比較例において37℃生理食塩水に24時間浸漬後の各試験片の状態を撮影した結果を示す図面代用写真である。
【図9】比較例において37℃生理食塩水に48時間浸漬後の各試験片の状態を撮影した結果を示す図面代用写真である。
【図10】実施例、比較例及び原料の親水性物質の状態を撮影した図面代用写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0024】
<粘着剤>
本発明に係る粘着剤1は、疎水性物質11と、親水性物質12と、多価アルコール13と、を少なくとも含む粘着剤であって、疎水性物質11で形成された連続相中に、多価アルコール13によって膨潤した親水性物質12が連続的および/または不連続的に存在する。このように、親水性物質12が膨潤した状態で、疎水性物質11で形成された連続相中に存在することによって、前記式(1)で示される吸水率を、60分後において90%以上にまで向上させることに成功した。
【0025】
本発明に係る粘着剤1は、親水性物質12が膨潤した状態で、疎水性物質11で形成された連続相中に存在していれば、その存在形態は特に限定されない。例えば、図1に示すように、疎水性物質11で形成された連続相中に、膨潤した親水性物質12を、連続的に存在させることができる。あるいは、図2に示すように、疎水性物質11で形成された連続相中に、膨潤した親水性物質12を、不連続的に存在させることもできる。更には、図示しないが、疎水性物質11で形成された連続相中に、膨潤した親水性物質12が連続的に存在する部分と、不連続的に存在する部分と、を混在させることも可能である。
【0026】
本発明に係る粘着剤は、前記の構造を呈し、かつ、前記の吸水率を有するものであればよいが、前記式(1)で示される吸水率が、60分後において150%以上であるとより好ましく、200%以上であることがさらにより好ましい。なお、吸水率の上限は疎水成分によるため、特に限定されるものではないが、1000%程度であることが好ましい。
【0027】
本発明に係る粘着剤1は、前記の構造的特徴を呈しているため、従来の粘着剤に比べ、その吸水が最大に達するまでの時間(初期吸水速度)が著しく速い。これは、親水性物質12が膨潤した状態で、疎水性物質11で形成された連続相中に存在するためと考えられる。
【0028】
具体的な吸水達成率は特に限定されないが、前記式(2)で示される吸水達成率が、60分後において40%以上であると好ましい。吸水達成率が早いほど、多量の発汗などに対応できるため、皮膚の浸軟を防ぐことができる。
【0029】
本発明に係る粘着剤1は、親水性物質12が膨潤した状態で、疎水性物質11で形成された連続相中に存在するため、従来の粘着剤に比べ、その透明性が著しく高い。これは、疎水性物質11で形成された連続相中に存在する親水性物質12が膨潤した状態であるため、親水性物質12の表面が滑らかであり、光の反射や散乱が起きないためであると考えられる。また、より透明性を得るためには、多価アルコール13によって膨潤したときに透明となる(光透過性を有する)親水性物質12であることが好ましい。
【0030】
具体的な光透過度は特に限定されないが、660nmの光透過率が10%以上であると好ましく、15%以上であるとより好ましい。透明性が高いほど、粘着剤を用いた被覆材を貼付した時に、創傷や皮膚などの状態を外部から視認することができる。これにより、従来のように被覆材を剥がして確認する必要性がないため、被覆材を剥がすときの患者の感じる苦痛、衛生面、確認及び交換の煩わしさ、皮膚刺激、コスト面が解消される。
【0031】
以上説明した本発明に係る粘着剤1は、前記の構造を呈し、かつ、前記の吸水率を有するものであれば、その具体的構成成分は特に限定されるものではないが、以下、本発明に係る粘着剤1に好適に用いることができる成分を説明する。
【0032】
(1)疎水性物質11
本発明に係る粘着剤1は、疎水性物質11を含む。この疎水性物質11は、本発明に係る粘着剤1において、連続相を形成した状態で存在する。本発明における疎水性物質11の含有量は、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、粘着剤全重量に対し、疎水性物質の範囲が20〜93重量%であることが好ましく、45〜70重量%であることがより好ましい。疎水性物質の含有量を20重量%以上に設定することにより、吸水時による崩壊、粘着性の低下、透明性の低下を防ぐことができるからである。また、疎水性物質の含有量を93重量%以下に設定することにより、吸水量の低下を防ぐことができるからである。
【0033】
本発明に係る粘着剤1に用いる疎水性物質11としては、連続相を形成できればその種類は限定されないが、例えば、エラストマーを用いることができる。
【0034】
本発明に係る粘着剤1に用いることが可能なエラストマーは、連続相を形成できればその種類は特に限定されず、公知のものを1種又は2種以上自由に選択することが可能である。一例としては、スチレン系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系ポリマー等が挙げられる。スチレン系ポリマーとしては、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン/エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)、水添スチレン−ブタジエンラバー(HSBR)、スチレン−エチレン/ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、ウレタン系共重合体、アクリル系共重合体、オレフィン結晶−エチレン/ブチレン−オレフィン結晶ブロック共重合体(CEBC)、ポリイソブチレン、天然ゴム、ポリイソプレン、ニトリルゴムを挙げることができる。本発明においては、この中でも特に、熱可塑性エラストマーを選択して用いることが好ましい。
【0035】
アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系のものは、それぞれ粘結組成物を合成する段階で適度の初期粘着力、粘着保持力等が得られるようにモノマーの選択、重合度の決定をして作ることができる。また必要に応じて合成された何種類かをブレンドすることも可能である。例えば、アクリル系の場合は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステルの各種、さらには酢酸ビニル等の他のモノマーを用いて重合することができる。これらは個々に重合した後にブレンドすることも可能である。
【0036】
本発明においては、前記エラストマーの中でも、スチレン系エラストマーを用いることが好ましく、水添スチレン−ブタジエンラバー(HSBR)を用いるとより好ましい。
【0037】
本発明においては、粘着剤全重量に対し、熱可塑性エラストマーの範囲が3〜30重量%であることが好ましく、10〜25重量%であることがより好ましい。エラストマーの含有量を3重量%以上に設定することにより、吸水時による崩壊を防ぐことができるからである。また、エラストマーの含有量を30重量%以下に設定することにより、粘着剤が硬くならず、また、粘着力が発現しやすくなるため、好適に用いることができるからである。
【0038】
ここで、本発明における疎水性物質11として、必須ではないが、軟化剤、粘着付与剤、液状ゴムなどを含有させることもできる。
【0039】
軟化剤を加えることにより、疎水性物質11の弾性を低下させて柔軟性を付与すると共に、粘着性を高める働きもする。本発明に係る粘着剤1に用いることの可能な軟化剤の種類は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、公知の軟化剤を自由に選択することができる。一例としては、鉱油、植物油、動物油及び合成油から1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0040】
鉱油としては、例えば、流動パラフィン、流動イソパラフィン、ナフテン油等を挙げる事ができる。
【0041】
植物油としては、例えば、オリーブ油、オリーブスクワラン、マカデミアナッツ油、ホホバ油、アーモンド油、落花生油、ひまし油、やし油、パーム油、サフラワー油、ひまわり油、綿実油、硬化やし油、硬化パーム油、アボガド油、杏仁油、グレープシード油等を挙げることができる。
【0042】
動物油としては、例えば、ラノリン、タートル油、ミツロウ、スクワレン、プリスタン等を挙げることができる。
【0043】
合成油としては、例えば、グリセリントリ−2−エチルヘキサノエート等の脂肪酸トリグリセライド;ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、アミノシリコン等のシリコーンオイル;ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソノナン酸イソノニル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸エチルヘキシル等のエステル類等を挙げることができる。
【0044】
本発明においては、前記軟化剤の中でも、鉱油を用いることが好ましく、流動パラフィンを用いるとより好ましい。
【0045】
本発明においては、粘着剤全重量に対し、軟化剤の範囲が0〜35重量%であることが好ましく、1〜25重量%であることがより好ましく、2〜10重量%であることがさらにより好ましい。可塑剤の含有量を35重量%以下に設定することにより、適度な柔軟性を付与しつつ、凝集破壊しにくくすることができるからである。
【0046】
本発明に係る粘着剤1に用いることの可能な粘着付与剤の種類は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、公知の粘着付与剤を自由に選択することができる。一例としては、天然ロジン誘導体、クマロン−インデン樹脂、テルペンオリゴマー、脂肪族石油樹脂、アルキル変性フェノール樹脂、ポリテルペン樹脂、ガムロジン、ロジンエステル、油性フェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、石油系炭化水素樹脂等を挙げることができる。
【0047】
本発明においては、前記粘着付与剤の中でも、石油系炭化水素樹脂等を用いることが好ましく、脂環族飽和炭化水素樹脂を用いるとより好ましい。
【0048】
本発明においては、粘着剤全重量に対し、粘着付与剤の範囲が0〜50重量%であることが好ましく、5〜35重量%であることがより好ましい。他の組成との関係を考慮すると、粘着付与剤の範囲としては、粘着剤全重量に対し、0〜35重量%が好ましい。粘着付与剤の含有量を35重量%以下に設定することにより、適度な粘着力を付与することができるからである。
【0049】
本発明に係る粘着剤1に用いることの可能な液状ゴムの種類は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、公知の液状ゴムを自由に選択することができる。一例としては、液状イソプレンゴム(LIR)、液状スチレン−イソプレンゴム(LSIR)、液状エチレン/プロピレンゴム(LEPR)、液状スチレン−エチレン/プロピレンゴム(LSEPR)、粘度平均分子量30000〜100000の液状ポリイソブチレン、液状ポリブテンを挙げることができる。
【0050】
前記液状ゴムは、疎水性物質11の弾性を低下させて柔軟性を付与すると共に、粘着性を高める働きもする。相溶性の点から、スチレン系エラストマーと流動パラフィンの組み合わせとして好ましいのは、SISであればLIR及び/又はLSIR、SBSであれば液状ブタジエンゴム、SEPSであればLEPR及び/又はLSEPR、HSBRであればLEPR、LSEPR、液状ポリイソブチレン、液状ポリブテンのいずれか1種、もしくはこれらの混合物からなる液状ゴム、の組み合わせが考えられる。このような相溶性の良い組み合わせにすることで、液状ゴムの配合比を増やした場合、即ち柔軟性を高めようとする場合でも、液状ゴムのブリーディングや剥離時の糊残りを防ぐことができる。
【0051】
本発明においては、粘着剤全重量に対し、液状ゴムの範囲が0〜40重量%であることが好ましく、1〜35重量%であることがより好ましく、5〜30重量%であることがさらにより好ましい。他の組成との関係を考慮すると、液状ゴムの範囲としては、粘着剤全重量に対し、0〜40重量%が好ましい。液状ゴムの含有量を40重量%以下に設定することにより、凝集破壊しにくくすることができるからである
【0052】
本発明においては、前記疎水性物質11としてHSBRを用い、液状ゴムとしてLEPR、LSEPR、液状ポリイソブチレン、液状ポリブテンのいずれか1種、もしくはこれらの混合物からなる液状ゴムを、組み合わせて用いることが好ましい。
【0053】
また、前記液状ゴムは架橋したものを用いることができ、凝集性を向上させる目的で適宜配合すると効果的である。更に、スチレン系エラストマーと流動パラフィンの重量比が6:1〜1:1の範囲に配合するのが好ましい。
【0054】
(2)親水性物質12
本発明に係る粘着剤1は親水性物質12を含有するため、皮膚から発生する汗や滲出液等を吸収することができる。また、この親水性物質12が、後述する多価アルコール13によって膨潤された状態で、疎水性物質11で形成された連続相中に存在するため、従来の粘着剤に比べ、吸水力の顕著な向上を達成することに成功した。なお、本発明において、親水性物質とは多価アルコールを含まない親水性の物質を意味する。
【0055】
本発明に係る粘着剤1に用いる親水性物質12としては、後述する多価アルコール13によって膨潤させることができるものであればその種類は限定されず、公知の粘着剤に用いることができる親水性物質を1種または2種以上自由に選択して用いることができる。また、親水性物質としては、粉状または粒状であるものが好ましい。
【0056】
例えば、コーンスターチ、グアーガム、ローカストビーンガム、デンプン、アルギン酸塩、カラギーナン、寒天、ゼラチン、キチン、キトサンペクチン、カラヤガム、アラビアゴム、キサンタンガム、デキストラン、カルボキシメチルセルロース・ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、メチルセルロース、デンプンアセテート、デンプンフォスフェート、ヒドロキシエチル化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、酸化デンプン、デキストリン化デンプン、デンプン・アクリル酸グラフト重合体、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン、カオリン、含硫ケイ酸アルミニウム、クオタニウム−18ヘクトライト、シリカ、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等を挙げることができる。なお、親水性物質としては、膨潤後に透明性を有するものが好ましい。
【0057】
本発明においては、前記親水性物質の中でも、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いると好ましい。
【0058】
本発明においては、粘着剤全重量に対し、親水性物質の範囲が、5〜55重量%であり、10〜50重量%であるとより好ましく、20〜40重量%であることがさらにより好ましい。親水性物質の含有量を5重量%以上に設定することにより、本発明に係る粘着剤が必要とする吸水率を達成させることができるからである。また、親水性物質の含有量を55重量%以下に設定することにより、吸水時の崩壊、粘着力の低下、透明性の低下を防ぐことができるからである。
【0059】
なお、本発明においては、親水性物質12は、吸水性を示す物質であれば、水溶性であっても水不溶性であっても問題ない。
【0060】
(3)多価アルコール13
本発明に係る粘着剤1には、前記親水性物質11を膨潤させるために多価アルコール13を用いる。本発明に係る粘着剤1に用いる多価アルコール13としては、親水性物質12を膨潤させることができるものであればその種類は限定されず、公知の多価アルコールを1種または2種以上自由に選択して用いることができる。
【0061】
例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等を挙げることができる。また、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラグリセリン、ポリグリセリン等の多価アルコール重合体を使用することもできる。なお、多価アルコールとしては、グリセリンを用いることが好ましい。
【0062】
本発明においては、粘着剤全重量に対し、多価アルコール13の範囲が2〜45重量%であり、2〜35重量%がより好ましく、2〜20重量%であるとさらにより好ましい。多価アルコールの含有量を2重量%以上に設定することにより、本発明に係る粘着剤が必要とする吸水率を達成させることができるからである。また、多価アルコールの含有量を45重量%以下に設定することにより、十分な保持力を有し、吸水時の崩壊がなく粘着シートとして好適に用いることができるからである。
【0063】
また、親水性物質と多価アルコールとの合計が30重量%以上55重量%未満であることが好ましい。親水性物質と多価アルコールとの合計を30重量%以上に設定することにより、吸水速度をより速くすることができるからである。また、親水性物質と多価アルコールとの合計を55重量%未満に設定することにより、透明性をより向上させることができる。
【0064】
更に、多価アルコール/親水性物質<0.85であることが好ましい。多価アルコールの親水性物質に対する割合を0.85よりも少なくすることにより、凝集力をより向上させ、安定性をより高めることができるからである。
【0065】
(3)その他
本発明に係る粘着剤1には、必須ではないが、pH調整剤を含有させることも可能である。pH調整剤の種類は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、公知のpH調整剤を自由に選択することができる。一例としては、ペクチン、無水クエン酸、アルカリ金属水酸化物、有機酸の緩衝液を挙げることができる。
【0066】
本発明においては、前記pH調整剤の中でも無水クエン酸を用いることが好ましい。また、正常な皮膚のpHに合わせ、pH4.0〜6.0の範囲に調整することが好ましい。
【0067】
本発明に係る粘着剤1には、必須ではないが、薬効成分を含有させることも可能である。薬効成分の種類は、本発明の目的を損なわなければ特に限定されず、目的に応じて自由に選択することができる。一例としては、生理活性剤、抗菌剤、消炎鎮痛剤、ステロイド剤、麻酔剤、抗真菌剤、気管支拡張剤、鎮咳剤、冠血管拡張剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、ビタミン剤、性ホルモン剤、抗うつ剤、脳循環改善剤、制吐剤、抗腫瘍剤など、あらゆる薬剤を配合することができる。これらの薬剤は、経皮吸収により全身又は局所においてその効果を発揮したり、あるいは貼付された部位において、局所的に効果を発揮する。
【0068】
本発明に係る粘着剤1には、前記薬効成分の中でも、皮膚の生理機能(皮膚バリア機能等)を保持又は向上させる目的で、局所的な効果を発揮する生理活性剤を添加することが好ましい。生理活性剤の具体例としてはスフィンゴ脂質、尿素、グリコール酸、アミノ酸(アルギニン、システイン、グリシン、リシン、プロリン、セリン等)及びその誘導体、タンパク質加水分解物(コラーゲン、エラスチン、ケラチン等)、ムコ多糖(ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパリン等)及びその誘導体、ビタミンB群(チアミン、リボフラビン、ニコチン酸、ピリドキシン、ピリドキサール、ピリドキサミン、ビオチン、葉酸、シアノコバラミン等)、アスコルビン酸(ビタミンC及びその誘導体)、レチノイド(ビタミンA、レチナール、レチノイン酸等)、ビタミンD(D2、D3等)、ビタミンE及びその誘導体、カロチノイド(カロチン、リコピン、キサントフィル等)、酵素、補酵素等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいが、2種以上を組み合わせて用いることも可能である。
【0069】
以上説明した本発明に係る粘着剤1は、その高い吸水力、吸水速度、透明性に加え、保持力も従来の粘着剤に比べて著しく高い。本発明に係る粘着剤1の具体的保持力も特に限定されないが、後述の実施例の方法で測定された保持力が60分以上であると好ましく、120分以上であることがより好ましく、240分以上であることがさらに好ましい。
【0070】
本発明に係る粘着剤1は、親水性物質12が膨潤した状態で、疎水性物質11で形成された連続相中に存在するため、従来の粘着剤に比べ、柔軟性が高い。そのため、皮膚等の凹凸に沿って粘着剤1が変形し、皮膚に対する密着性も向上する。その結果、粘着付与剤を減量させることが可能となる。そして、剥離時の皮膚への負担(刺激)を大幅に軽減させることができる。
【0071】
<粘着シート>
本発明に係る粘着剤1は、支持層101と、該支持層101の少なくとも片面に粘着層102と、を少なくとも備える粘着シート10の前記粘着層102に好適に用いることができる。以下、本発明に係る粘着剤1を粘着剤層102に用いた粘着シート10について詳細に説明する。
【0072】
図3は、本発明に係る粘着シート10を模式的に示す模式断面図である。本発明に係る粘着シート10は、大別すると、支持層101と、粘着層102と、を少なくとも備えている。本発明に係る粘着シート10の形態は、支持層101と、粘着層102と、を備えていれば特に限定されず、例えば、三角形、四角形、菱形等の多角形、円形、楕円形、又はこれらの形状を適宜組み合わせたシート状の形態、特定の方向に連続的に形成したテープ状、ロール状の形態等、自由な形態に形成することができる。また、貼付する部位に合わせて立体的に形成したり、切り込みやスリット等を設けるなど、自由に設計することができる。以下、各層の詳細をそれぞれ説明する。
【0073】
(1)支持層101
本発明に係る粘着シート10の支持層101は、後述する粘着層102を支持する目的で備える。この支持層101は、粘着層102を支持できれば、その形態は特に限定されず、あらゆる材料を用いて自由に設計することができる。例えば、不織布、編布、織布等の繊維シート、プラスチックフィルム、フォームシート、紙等の形態が挙げられる。本発明においては、これらの中でも特に、柔軟性、伸縮性、適度の水蒸気透過性、菌バリヤー性等の観点からプラスチックフィルムが好ましい。
【0074】
本発明に係る粘着シート10に、繊維シートからなる支持層101を採用する場合、その材料としては、例えば、綿、ビスコースレーヨン、ポリノジック、銅アンモニアレーヨン、リヨセル等のセルロース系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリウレタン系繊維、ビニロン繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維等を挙げることができる。なお、これらの材料は、単独で用いてもよいが、2種以上を混紡して用いることも自由である。
【0075】
本発明に係る粘着シート10に、プラスチックフィルムからなる支持層101を採用する場合、その材料としては、例えば、ポリウレタン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド;ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン・メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン・メチルメタクリレート共重合体(EMMA)、エチレン・メタクリル酸重合体(EMAA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)等のオレフィン系共重合体;ポリビニルアルコール;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン;シリコーン等を挙げることができる。本発明においては、これらの中でも特に、水蒸気透過性が良好で、不感蒸散等を妨げることが少ないポリウレタン、ポリエステル、ポリアミド等が好ましい。なお、これらの材料は、単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いることも自由である。
【0076】
本発明に係る粘着シート10に、フォームシートからなる支持層101を採用する場合、その材料としては、例えば、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル、クロロプレンゴム、シリコーン等を挙げることができる。
【0077】
本発明に係る粘着シート10に、紙からなる支持層101を採用する場合、その材料としては、例えば、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、コート紙等を挙げることができる。
【0078】
本発明に係る粘着シート10の支持層101は、単一の材料により単一の形態とすることもできるが、2種以上の材料を用いて、複合的な形態に形成することも可能である。また、同一又は異なる種類の形態の支持層をラミネートした積層構造の支持層101とすることもできる。
【0079】
本発明に係る粘着シート10の支持層101の厚さは、本発明の目的を損なわなければ特に限定されないが、粘着層102の支持、貼付する際の操作性、及び皮膚に対する圧迫感等の観点から、1〜100μmが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
【0080】
(2)粘着層102
本発明に係る粘着シート10の粘着層102は、粘着シート10と皮膚との貼付を行うために前記支持層101の少なくとも片面に積層した状態で備える。この粘着層102は、前述した本発明に係る粘着剤1により形成される。該粘着剤1の構造、組成等の特性は、前述した粘着剤1と同一のため、ここでは説明を割愛する。
【0081】
本発明に係る粘着シート10の粘着層102の厚さは、本発明の目的を損なわなければ特に限定されないが、0.05〜10mmであることが好ましく、0.1〜2mmであることがより好ましい。貼付時に適度な粘着力を示し、皮膚に対して優れた密着性及び追従性を発揮するためである。
【0082】
(3)剥離シート103
本発明に係る粘着シート10には、前記支持層101と前記粘着層102の他に、必須ではないが、剥離シート103を設けることができる。該剥離シート103を備えることにより、粘着層102を汚染等から保護し、粘着シート10の取り扱い性を簡便にすることができる。
【0083】
本発明に係る粘着シート10の剥離シート103は、合成樹脂フィルムや紙等、従来、この分野で使用されているあらゆる材料を用いることができる。例えば、紙やフィルムの表面にシリコーン樹脂処理やフッ素樹脂処理等を施したものが挙げられる。
【0084】
なお、この剥離シート103を設けずに、例えば、図4に示すように、支持層101の、接着剤層102が積層された面と逆の面(以下「背面1011」と称する。)を剥離可能な素材で形成又は表面処理した形態の粘着シート10を形成し(図4中(I)参照)、この粘着シート10を複数枚、積層させた状態にして、1枚ずつ剥がしながら使用することも可能である(図4中(II)参照)。また、粘着シート10を複数枚、積層させる方法の他に、図5に示すように、同様に形成した粘着シート10をロール状にすることも可能である。
【0085】
このように剥離シート103を設けない場合には、前記背面1011を、シリコーン樹脂処理やフッ素樹脂処理等を施すことで、支持層101が同時に剥離シート103の役割を果たすこととなる。
【0086】
以上説明した本発明に係る粘着シート10は様々な用途に用いることができるが、特に創傷用に用いると、従来の粘着シートと比較して、創傷治癒効果を飛躍的に向上させることが可能である。これは、粘着シート10に使用する前記粘着剤1の高い吸水力や吸水速度によるものと考えられる。
【0087】
<粘着剤の製造方法>
図6中符号20で示す部分は、本発明に係る粘着剤1の製造方法のフロー図である。本発明に係る粘着剤の製造方法は、大別すると、混合工程21と、膨潤工程22と、を少なくとも行う方法である。以下、各工程をそれぞれ説明する。
【0088】
(1)混合工程21
混合工程21は、疎水性物質11と親水性物質12とを混合する工程である。混合方法は、公知のあらゆる技術を自由に用いることができる。例えば、加圧ニーダ等を用いて混合を行うことができる。
【0089】
混合工程21での混合回数は特に限定されず、粘着剤の配合成分や配合比等に合わせて、適宜設定することができる。また、必要に応じて、加熱や冷却を行うことにより、温度条件も適宜設定することができる。
【0090】
なお、粘着剤に、前述した軟化剤、粘着付与剤、液状ゴム等を含有させる場合には、エラストマー等の疎水性物質11に予め混合させておいてもよく、この混合工程21において、一緒に混合してもよい。
【0091】
この混合工程21では、疎水性物質11で形成された連続相に、親水性物質12を分散させた構造を形成する。
【0092】
(2)膨潤工程22
膨潤工程22は、前記混合工程21で作成した混合物に、多価アルコール13を加えて更に混合することにより、混合物中に分散した親水性物質12を膨潤させる工程である。なお、親水性物質12に、前述したpH調整剤を含有させる場合には、親水性物質12に予め混合させておいてもよく、この膨潤工程22において、一緒に混合させてもよい。
【0093】
このように、本発明に係る粘着剤の製造方法では、疎水性物質11と親水性物質12とを混合して従来の粘着剤と同一の構造を一旦形成した後、多価アルコール13を加えて、親水性物質12を膨潤させることにより、疎水性物質11で形成された連続相に、膨潤した状態の親水性物質12を連続的および/または不連続的に存在させることができる(図1および図2参照)。
【0094】
<粘着シート10の製造方法>
図6中符号200で示す部分は、本発明に係る粘着シート10の製造方法のフロー図である。本発明に係る粘着シート10の製造方法は、大別すると、混合工程21と、膨潤工程22と、を少なくとも行う粘着剤製造方法20を行った後、シート化工程203を少なくとも行う方法である。粘着剤製造方法20は、前述と同様であるため、以下、シート化工程203についてのみ説明する。
【0095】
シート化工程203は、支持層101の少なくとも片面に粘着剤1を含む粘着剤層102を設ける工程である。シート化工程203は、公知のあらゆる技術を自由に用いることができる。例えば、粘着剤製造方法20で製造した本発明に係る粘着剤1を、圧力等をかけながら、適当な厚さになるように支持層101に圧延する方法が挙げられる。この際、必要に応じて加熱等を行ってもよい。
【0096】
また、他の一例としては、粘着剤製造方法20で製造した本発明に係る粘着剤1を、剥離シート103に一旦塗工し、その後、支持層101に貼り合わせることで粘着層102を形成することもできる。
【0097】
前記粘着剤1の支持層101又は剥離シート103への具体的塗工方法は、特に限定されず、公知のあらゆる方法を自由に採用することができる。例えば、コンマダイレクト、ナイフコーター、グラビアダイレクト等の塗工方法を利用して、塗工パターンや厚さを目的に合わせて適宜、制御することができる。
【0098】
また、粘着層102の塗工パターンとしては、支持層101の表面を全面的に被覆しても良いが、部分的に被覆することも可能である。部分的に被覆する場合は、格子状、ネット状、粒状、唐草模様等の任意の形態を選択できる。このように、支持層101の片面に、部分的に粘着層102を設けることにより、通気性、透湿性等をより向上させることもでき、また、皮膚からの剥離時の刺激をより軽減することもできる。
【0099】
本発明に係る粘着シート10の製造時においては、支持層101と粘着層102との接着性を向上させるために、支持層101に表面処理又はプライマー処理を施すことも自由である。支持層101の表面処理としては、例えば、エンボス加工、サンドマット加工、コロナ放電処理、プラズマ処理、アルカリ処理等、公知のあらゆる処理方法を採用することができる。プライマー処理としては、例えば、シランカップリング剤等からなるプライマーを用いるなど、本発明に係る粘着剤に使用可能なプライマーであれば、公知のあらゆるプライマーを用いてプライマー処理を行うことが可能である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0101】
(1)粘着剤の作製
まず、以下に示す方法で、実施例1〜12、比較例1〜7に係る粘着剤を作製した。
【0102】
<実施例1>
エラストマーの一例としてHSBR(JSR株式会社製、以下同じ)7.2重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン(カネダ株式会社製、以下同じ)4.8重量%と、ポリイソブチレン(新日本石油化学株式会社製)10.0重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂(荒川化学工業株式会社製、以下同じ)21.0重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na(ダイセル化学工業株式会社製、以下同じ)40.0重量%、アラビアガム(五協産業株式会社製)5.0重量%、カラヤガム(五協産業株式会社製、以下同じ)10.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン(三洋化成工業株式会社製、以下同じ)2.0重量%を加え、更に混合して前記親水性物質を膨潤させ、実施例1に係る粘着剤を作製した。
【0103】
<実施例2>
エラストマーの一例としてHSBR20.1重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン15.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂29.6重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na5.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン30.0重量%を加え、更に混合し、実施例2に係る粘着剤を作製した。
【0104】
<実施例3>
エラストマーの一例としてSIS(JSR株式会社製、以下同じ)11.4重量%と、液状ゴムの一例としてポリブテン(新日本石油化学株式会社製)3.8重量%と、ポリイソブチレン(新日本石油化学株式会社製)23.0重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂16.3重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na22.3重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン22.3重量%、pH調整剤として無水クエン酸0.9重量%を加え、更に混合し、実施例3に係る組成物を作製した。
【0105】
<実施例4>
エラストマーの一例としてHSBR20.3重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン8.5重量%と、ポリイソブチレン10.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂20.3重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na23.8重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン15.8重量%、pH調整剤として無水クエン酸0.9重量%を加え、更に混合し、実施例4に係る組成物を作製した。
【0106】
<実施例5>
エラストマーの一例としてHSBR10.8重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン3.6重量%と、ポリイソブチレン12.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂24.8重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na22.2重量%、カラヤガム10.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン15.5重量%、pH調整剤として無水クエン酸0.8重量%を加え、更に混合し、実施例5に係る組成物を作製した。
【0107】
<実施例6>
エラストマーの一例としてHSBR13.4重量%と、液状ゴムの一例としてポリブテン4.5重量%と、ポリイソブチレン11.9重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂34.2重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na25.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン10.0重量%、pH調整剤として無水クエン酸1.0重量%を加え、更に混合し、実施例6に係る組成物を作製した。
【0108】
<実施例7>
エラストマーの一例としてSIS7.0重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン3.0重量%と、ポリイソブチレン25.0重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂15.0重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na20.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン30.0重量%を加え、更に混合し、実施例7に係る組成物を作製した。
【0109】
<実施例8>
エラストマーの一例としてHSBR20.0重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン10.0重量%と、ポリイソブチレン20.0重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂5.0重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na5.0重量%、カラヤガム10.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン30.0重量%を加え、更に混合し、実施例8に係る組成物を作製した。
【0110】
<実施例9>
エラストマーの一例としてSIS12.0重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン5.0重量%と、ポリイソブチレン30.0重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂13.0重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na34.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン5.0重量%、pH調整剤として無水クエン酸1.0重量%を加え、更に混合し、実施例9に係る組成物を作製した。
【0111】
<実施例10>
エラストマーの一例としてHSBR18.0重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン5.0重量%と、ポリイソブチレン20.0重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂22.0重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na22.5重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン12.0重量%、pH調整剤として無水クエン酸0.5重量%を加え、更に混合し、実施例10に係る組成物を作製した。
【0112】
<実施例11>
エラストマーの一例としてHSBR20.5重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン3.4重量%、液状ゴムの一例としてポリブテン3.4重量%と、ポリイソブチレン11.7重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂21.0重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na24.0重量%、カラヤガム10.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン5.0重量%、pH調整剤として無水クエン酸1.0重量%を加え、更に混合し、実施例11に係る組成物を作製した。
【0113】
<実施例12>
エラストマーの一例としてHSBR18.4重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン7.9重量%と、ポリイソブチレン11.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂12.5重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na10.0重量%、カラヤガム4.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン35.0重量%、pH調整剤として無水クエン酸1.0重量%を加え、更に混合し、実施例12に係る組成物を作製した。
【0114】
<比較例1>
エラストマーの一例としてHSBR24.3重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン16.2重量%と、ポリイソブチレン22.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂28.7重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na8.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン0.5重量%を加え、更に混合し、比較例1に係る組成物を作製した。
【0115】
<比較例2>
エラストマーの一例としてSIS10.3重量%と、液状ゴムの一例としてポリブテン6.9重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂20.3重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na30.0重量%、カラヤガム10.0重量%、アラビアガム10.0重量%、ペクチン(三晶株式会社製)10.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン2.0重量%、pH調整剤として無水クエン酸0.5重量%を加え、更に混合し、比較例2に係る組成物を作製した。
【0116】
<比較例3>
エラストマーの一例としてHSBR12.4重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン6.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂21.3重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてカラヤガム10.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン50.0重量%を加え、更に混合し、比較例3に係る組成物を作製した。
【0117】
<比較例4>
エラストマーの一例としてHSBR5.1重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン4.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂10.6重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na65.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン15.0重量%を加え、更に混合し、比較例4に係る組成物を作製した。
なお、比較例4においては、粉状となってしまい、作成することができなかった。これは、親水性物質と多価アルコールとの合計量が多すぎるため、吸水によって相が逆転したためだと考えられる。
【0118】
<比較例5>
エラストマーの一例としてSIS3.4重量%と、液状ゴムの一例としてポリブテン2.8重量%と、ポリイソブチレン4.2重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂9.6重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na25.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン55.0重量%を加え、更に混合し、比較例5に係る組成物を作製した。
【0119】
<比較例6>
エラストマーの一例としてHSBR15.3重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン7.6重量%と、ポリイソブチレン15.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂29.8重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na2.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、多価アルコールの一例としてグリセリン30.0重量%を加え、更に混合し、比較例6に係る組成物を作製した。
【0120】
<比較例7>
エラストマーの一例としてSIS15.5重量%と、軟化剤の一例として流動パラフィン10.3重量%と、粘着付与剤の一例として脂環族飽和炭化水素樹脂33.7重量%とを加圧ニーダに仕込み、十分均一になるまで混合した。次に、親水性物質の一例としてCMC−Na20.0重量%、カラヤガム20.0重量%を加え、均等になるまで加圧混合した。その後、pH調整剤として無水クエン酸0.5重量%を加え、更に混合し、比較例7に係る組成物を作製した。
【0121】
また、比較例8〜14として、以下のように市販品を用いた。
【0122】
<比較例8>
比較例8としては、市販品のビジダーム(登録商標、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社製)を用いた。
【0123】
<比較例9>
比較例9としては、市販品のテガソーブThin(登録商標、スリーエム カンパニー製)を用いた。
【0124】
<比較例10>
比較例10としては、市販品のアブソキュアサージカル(登録商標、日東電工株式会社製)を用いた。
【0125】
<比較例11>
比較例11としては、市販品のデュオアクティブET(登録商標、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社製)を用いた。
【0126】
<比較例12>
比較例12としては、市販品のデュオアクティブCGF(登録商標、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社製)を用いた。
【0127】
<比較例13>
比較例13としては、市販品のテガソーブ(登録商標、スリーエム カンパニー製)を用いた。
【0128】
<比較例14>
比較例14としては、市販品のコムフィールアルカス(登録商標、コロプラスト株式会社製)を用いた。
【0129】
実施例1〜12、比較例1〜7の配合組成を表1に示す。
【表1】

【0130】
(2)吸水率の測定
前記(1)で調整した実施例1〜12および比較例1〜7の粘着剤を、ポリウレタンフィルムからなる支持体と貼り合わせ、それぞれ粘着シートを作製した。
以下の方法に従って、実施例1〜12および比較例1〜7に係る粘着剤を用いて作製した粘着シート、および比較例8〜10の粘着シートの吸水率を測定した。
【0131】
各粘着シート(粘着剤層の厚さ300〜400μm)から、直径30mmの試験片を3枚作成した。37℃にて、生理食塩液(0.9%NaCl溶液)150mlに浸漬した。浸漬前(0分後)、浸漬後20、40、60分後の各試験片の重量を測定した。前記式(1)を用いて、測定した重量から吸水率を計算した。
【0132】
各実施例及び各比較例の吸水率を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
表2に示す通り、実施例1〜12は60分後の吸水率が全て90%以上であった。これに対し、親水性物質の含有量が5重量%未満の比較例6、多価アルコールの含有量が2%未満の比較例1は、吸水率が著しく低かった。また、親水性物質の含有量が55重量%を超える比較例2、多価アルコールの含有量が45重量%を超える比較例5は、吸水時に崩壊してしまった。
【0135】
(3)吸水達成率の測定
以下の方法に従って、実施例1〜12および比較例1〜7に係る粘着剤を用いて作製した粘着シート、および比較例8〜10の粘着シートの吸水達成率を測定した。
【0136】
各粘着シートから、直径30mmの試験片を4枚作成した。37℃にて、生理食塩液(0.9%NaCl溶液)150mlに浸漬した。浸漬前(0分後)、浸漬後20、40、60分後および24時間後の試験片の重量を測定した。前記式(2)を用いて、測定した重量から吸水達成率を計算した。
【0137】
各実施例及び各比較例の吸水達成率を表3に示す。
【0138】
【表3】

【0139】
表3に示す通り、実施例1〜12は60分後の吸水達成率が全て40%以上であった。これに対し、多価アルコールの含有量が2%重量未満の比較例1、7は、吸水達成率が著しく低かった。また、親水性物質の含有量が55重量%を超える比較例2、多価アルコールの含有量が45重量%を超える比較例5は、吸水時に崩壊してしまい吸水達成率を測定することができなかった。
【0140】
(4)吸水状態の比較I
実施例1〜12および比較例1〜7に係る粘着剤を用いて作製した粘着シート、および比較例8〜11の粘着シートの支持体側にカール防止用の粘着シートを貼り付け、直径30mmの試験片を3枚ずつ作成した。支持体はそのままで剥離シートを除去し、37℃にて、生理食塩液(0.9%NaCl溶液)150mlに浸漬した。浸漬後24時間後の試験片の状態を撮影および観察した。撮影した結果を図7および図8に示す。
【0141】
図7および図8に示す通り、実施例1〜12の試験片および比較例1〜6は、24時間浸漬後においても、支持体と粘着剤層とは密着状態であることが確認できた。一方、比較例7〜11は、支持体と粘着剤層との間に親水性成分が溶解した水分が貯留するか分離してしまうという結果になった。
【0142】
図7、図8および表1から、親水性物質を多価アルコールで膨潤させていないものは、支持体と粘着剤層との間に親水性物質および多価アルコールが溶解した水分が貯留するか、支持体と粘着剤層とが分離してしまうことがわかる。ここで、水分が貯留した場合、雑菌の温床となったり剥れやすくなったりする原因となる。また、比較例7、10については、吸水によって分離してしまった。これは、親水性物質と多価アルコールとの合計量が多すぎるため、吸水によって相が逆転したためだと考えられる。
【0143】
(5)吸水状態の比較II
比較例12〜14を50mm×30mmの大きさに裁断し、支持体側に両面テープを貼り、ステンレス番に貼付した。剥離シートを除去し、37℃にて、生理食塩液(0.9%NaCl溶液)に浸漬した。浸漬後48時間後の試験片の状態を撮影および観察した。撮影した結果を図9に示す。なお、48時間後の状態を撮影および観察した試験片は、厚さ1mmであった。
【0144】
比較例12〜14は、48時間浸漬した場合であっても、外観上変化は見られなかった。しかしながら、図9に示すとおり、支持体を剥がすと、粘着剤層と支持体との間に親水成分が溶解した水分が貯留していることがわかる。ここで、外観上変化がなかったのは、ハイドロコロイド層が厚いためにわかりにくかっただけであり、実際は他の比較例と同じ状態になっている。一方、本発明においては、支持体を剥がしても親水成分が溶解した水分の貯留は認められなかった(図示せず)。
【0145】
(6)安定性試験
前記(1)で作製した実施例1〜12および比較例1〜7の粘着剤を、ポリウレタンフィルムからなる支持体に塗布し、それぞれ粘着シートを作製した。50度の恒温槽に放置し、5ヶ月後の吸水率、粘着力、保持力について変化を調べた。安定性が高いほど、経時によって物性値などに変動がないこととなる。実施例及び比較例についての経時変化を、以下の表4の基準に従って分類した。
【0146】
【表4】

【0147】
安定性試験の結果を表5に示す。表5には、多価アルコール/親水性物質の配合比も合わせて示す。
【0148】
【表5】

【0149】
前記物性について総合的に評価した結果、多価アルコールの親水性物質に対する割合が0.85よりも多くなると、安定性が悪くなることがわかった。これは、凝集力が低下するためだと考えられる。
【0150】
(7)光透過率の測定
実施例1〜12および比較例1〜10を25mm×40mmの大きさに裁断し、厚さ0.13〜0.17mmの透明なガラス板上に載置した。紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV−1650PC)を使用し、このサンプルの波長660nmにおける光の透過率を測定して、この値を可視光透過率とした。
【0151】
光透過率の測定結果を表6に示す。
【0152】
【表6】

【0153】
表6に示す通り、実施例は比較例に比べ、全体的に光透過率が高いことが確認できた。なお、親水性物質と多価アルコールの合計が50重量%以上である実施例1及び7は、他の実施例に比べて光透過率が低くなることが分かった。
【0154】
(8)保持力の測定
実施例1〜12および比較例1〜7に係る粘着剤を用いて作製した粘着シート、および比較例8〜10の粘着シートを、50mm×25mmの大きさに裁断して試験片を作成した。支持体側に布テープ(積水化学工業株式会社製)を貼り付け、試験片を40℃の環境に1時間以上放置した。
【0155】
一方、保持力用のステンレス板を準備し、360番耐水研磨紙で試験板の幅方向に軽く指標をつけ、この指標が消えるまで長さ方向に均一に水をつけて研磨した。研磨後、水で綺麗に洗い流し、酢酸エチルで表面を清拭した。その後、検体と同様に40℃の環境に1時間以上放置した。
【0156】
ステンレス板の標線に合せて、試験片が25mm×25mmの面積で接するように貼付部分の剥離紙を剥した各検体を貼り付け、試験片の上から2kgのローラで5往復して貼り付けた。その後、摂氏40℃の雰囲気中に20分以上放置した。そして、同環境中で保持力試験機にセットし500gfの錘をつけ、落下するまでの時間を400分まで計測した。
【0157】
保持力の測定結果を表7に示す。なお、400分まで測定し、400分以上ずり落ちなかった検体は、「400分」と表示した。
【0158】
【表7】

【0159】
表7に示す通り、実施例は比較例に比べ、全体的に保持力が顕著に高いことが確認できた。なお、実施例2,10は親水性物質と多価アルコールとの合計量が低いため、保持力が低い結果となった。
【0160】
(9)物質状態の観察
実施例1、3および比較例7、親水性物質(原料の状態)を、ビデオマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて観察および撮影を行った。
【0161】
撮影結果を図10に示す。図10に示すように、実施例1、3は、親水性物質が膨潤していることが確認できた。
【0162】
(10)治癒試験
ポリウレタンフィルムからなる支持体に実施例12、比較例7の粘着剤を張り合わせた粘着シートを作成し、γ線により滅菌を行った。生後10週目のラットに直径30mmの全層皮膚欠損創を作成し、粘着シートを貼付した。その後、経時的に創傷の治癒について確認を行なった。その結果、実施例12に係る粘着シートを貼付したラットの創傷は、比較例7にかかる粘着シートよりも2.0倍の治癒速度であった。また、比較例12にかかる粘着シートを適用した場合と比較して、1.5倍の治癒速度であった。
【符号の説明】
【0163】
1 粘着剤
11 疎水性物質
12 親水性物質
13 多価アルコール
10 粘着シート
101 支持層
102 粘着層
103 剥離シート
20 粘着剤の製造方法
21 混合工程
22 膨潤工程
200 粘着シートの製造方法
203 シート化工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性物質と、親水性物質と、多価アルコールと、を含む粘着剤であって、
前記疎水性物質で形成された連続相中に、前記多価アルコールによって膨潤した前記親水性物質が連続的および/または不連続的に存在し、
前記親水性物質を5〜55重量%、前記多価アルコールを2〜45重量%含有し、
下記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤。
【数1】

【請求項2】
下記式(2)で示される吸水達成率が、60分後において40%以上である請求項1記載の粘着剤。
【数2】

【請求項3】
波長660nmの光透過率が10%以上である請求項1または2に記載の粘着剤。
【請求項4】
疎水性物質と、親水性物質と、多価アルコールと、を含む粘着剤であって、
前記疎水性物質で形成された連続相中に、前記多価アルコールによって膨潤した前記親水性物質が連続的および/または不連続的に存在し、
3〜30重量%の熱可塑性エラストマー、0〜35重量%の粘着付与剤、0〜35重量%の軟化剤、及び0〜40重量%の液状ゴムを含む疎水性物質と、
10〜50重量%の親水性物質と、
2〜35重量%の多価アルコールと、を含む粘着剤。
【請求項5】
10〜25重量%の熱可塑性エラストマーと、
5〜35重量%の粘着付与剤と、
2〜10重量%の軟化剤および/または5〜30重量%の液状ゴムと、
20〜40重量%の親水性物質と、
2〜20重量%の多価アルコールと、を含む請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項6】
支持層と、該支持層の少なくとも片面に設けられた粘着層と、を少なくとも備える粘着シートであって、
前記粘着層は、請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着剤を少なくとも含む粘着シート。
【請求項7】
創傷用に用いる請求項6記載の粘着シート。
【請求項8】
疎水性物質と、親水性物質と、多価アルコールと、を含む粘着剤の製造方法であって、
前記疎水性物質と前記親水性物質とを混合する混合工程と、
該混合工程を経た後に、混合物中の前記親水性物質を前記多価アルコールによって膨潤させる膨潤工程と、
を少なくとも行い、
前記親水性物質を5〜55重量%、前記多価アルコールを2〜45重量%含有し、
前記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤の製造方法。
【請求項9】
支持層と、該支持層の少なくとも片面に設けられた粘着層と、を少なくとも備える粘着シートの製造方法であって、
疎水性物質と親水性物質とを混合する混合工程と、
該混合工程を経た後に、混合物中の前記親水性物質を前記多価アルコールによって膨潤させる膨潤工程と、
を少なくとも行うことにより、
前記親水性物質を5〜55重量%、前記多価アルコールを2〜45重量%含有し、
前記式(1)で示される吸水率が、60分後において90%以上である粘着剤を作製し、
該粘着剤を前記支持層の少なくとも片面に設けるシート化工程と、
を行う粘着シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−127039(P2011−127039A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288135(P2009−288135)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)
【Fターム(参考)】