説明

粘着剤組成物およびそれを用いた粘着テープ

【課題】常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着体に接着が可能であり、かつ、高い耐熱性を有する粘着剤を提供すること。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸成分とジアミノポリシロキサン成分とから構成されるポリイミドシロキサンおよび有機過酸化物からなる粘着剤組成物およびこの粘着剤組成物を用いた粘着剤層を有する粘着テープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドシロキサンおよび過酸化物からなる粘着剤組成物およびそれを用いた粘着テープに関する。
【背景技術】
【0002】
特開平2−127430号公報には、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノポリシロキサンから得られるポリイミドをプラスチック、紙、加工紙または不織布に塗工して成る、剥離性シートが開示されている。
【0003】
特開平5−140524号公報には、ビフェニルテトラカルボン酸類を主成分とする芳香族テトラカルボン酸成分と、ジアミノポリシロキサンおよび芳香族ジアミンからなるジアミン成分とから得られた可溶性のポリイミドシロキサンおよびエポキシ化合物からなる耐熱性接着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−127430号公報
【特許文献2】特開平5−140524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、常温で粘着性を有し、軽い圧力で被着体に接着が可能であり、かつ、高い耐熱性を有する粘着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のようなものである。
1.芳香族テトラカルボン酸成分とジアミノポリシロキサン成分とから構成されるポリイミドシロキサンおよび有機過酸化物からなる粘着剤組成物。
2.ジアミノポリシロキサン成分が式(1)の構造である前記の粘着剤組成物。
【化1】

(式中、m+nは2〜50の整数であり、0.05≦n/(m+n)≦0.5である。)

3.芳香族テトラカルボン酸成分が、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸化合物である前記の粘着剤組成物。
4.基材テープ上に前記いずれかの粘着剤組成物を用いた粘着剤層を有する粘着テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粘着剤組成物を用いて得られる粘着剤は高い耐熱性を有し、軽い圧力で被着体に接着が可能であり、低温から高温まで幅広い温度範囲で安定した粘着性を有しているため、特に、耐熱粘着テープの粘着剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】粘着剤の粘弾性特性
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の粘着剤組成物は、ポリイミドシロキサンおよび過酸化物からなるが、用いるポリイミドシロキサンは、芳香族テトラカルボン酸成分と特定の構造を有するジアミノポリシロキサン成分とから構成されるポリイミドシロキサンであるのが好ましい。
【0010】
ポリイミドシロキサンの芳香族テトラカルボン酸成分としては、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類などのビフェニルテトラカルボン酸類、ピロメリット酸類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類などのベンゾフェノンテトラカルボン酸類、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸類、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸類、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸類、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸類などのナフタレンテトラカルボン酸類、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル類などのビス(ジカルボキシフェニル)エーテル類、2,2−ビス(2,5−ジカルボキシフェニル)プロパン類などのビス(ジカルボキシフェニル)プロパン類、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン類などのビス(ジカルボキシフェニル)エタン類、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン類などのビス(ジカルボキシフェニル)スルホン類などの芳香族テトラカルボン酸類を単独又は混合して好適に用いることができる。これらの中でもビフェニルテトラカルボン酸類、特に、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類を、テトラカルボン酸成分の主成分(50モル%以上、好ましくは80モル%以上)として用いるのが好適である。
ここでテトラカルボン酸類とは、テトラカルボン酸、そのエステル化物、その無水化物
などのポリイミドを形成し得るテトラカルボン酸及びその誘導体を意味する。
【0011】
ポリイミドシロキサンのジアミノシロキサン成分としては、公知の両末端アミン変性ポリシロキサンを使用できるが、ケイ素原子に結合した置換基の少なくとも一部がフェニル基であることが必須である。中でも、下記の式(1)の構造を有するものが特に好ましい。
【化2】

【0012】
式(1)において、mおよびnは、それぞれ1〜40の整数であり、m+nは2〜50の整数であり、好ましくは5〜30の整数、より好ましくは8〜20の整数である。さらに、n/(m+n)が0.05〜0.5であり、好ましくは0.1〜0.4、最も好ましくは0.15〜0.3である。
【0013】
式(1)の構造を有するジアミノポリシロキサンとして、例えば、信越化学工業(株)製 X−22−9409、X−22−9409S等を使用することができる。通常、一般に入手できるジアミノポリシロキサンは、環状シロキサンオリゴマーを含有しているため、必要に応じてこれらを除去して用いるのが好ましい。
【0014】
有機過酸化物としては、分解してフリーラジカルを発生するものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、過酸化ベンゾイル(BPO)、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイドなどを挙げることができる。
【0015】
有機過酸化物の配合量は、ポリイミドシロキサン100質量部に対して1.0〜15質量部であり、好ましくは3.0〜10質量部である。1.0質量部未満では硬化性や保持力が低下することがある。15質量部を超えると粘着剤層に着色が生じたり、タックが低下することがある。
【0016】
本発明の粘着剤組成物は、まず、芳香族テトラカルボン酸成分および特定の構造を有するジアミノポリシロキサンを用いてポリイミドシロキサンを製造し、これと有機過酸化物を混合することにより調製することができる。
【0017】
ポリイミドシロキサンは、例えば、以下のようにして製造することができる。
(1)芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミノポリシロキサンを無溶媒で混合し180〜200℃の温度で1時間〜30時間反応させることで、ポリイミドシロキサンが得られる。
(2)芳香族テトラカルボン酸二無水物をメタノールあるいはエタノールと反応させてエステル化物とした後、ジアミノポリシロキサンを混合し180〜200℃の温度で1時間〜30時間反応させることで、ポリイミドシロキサンが得られる。
【0018】
次いで、得られたポリイミドシロキサンと有機過酸化物を混合することにより本発明の粘着剤組成物を調製することができる。混合は、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、酢酸エチル、メチルエチルケトン等の溶剤中で行うことができる。
【0019】
本発明の粘着剤組成物は、さらに任意の成分を添加してもよい。例えば、フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、チオエーテル系などの酸化防止剤、ヒンダードアミン系、トリアゾール系、ベンゾフェノン系などの光安定剤、リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、アンチモン系などの難燃剤、各種帯電防止剤、染料、顔料などを用いることができる。
【0020】
このようにして得られた粘着剤組成物を、種々のテープ状基材に塗布、硬化して粘着剤層を形成することにより粘着テープを得ることができる。基材としては、例えばポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミド等の樹脂フィルム、金属箔などの種々の材質のものが使用できる。
【0021】
粘着剤組成物の架橋(硬化)条件は150〜350℃で5分〜60分間、好ましくは280〜310℃で9分〜25分間である。
【実施例】
【0022】
本実施例の各測定は、以下の通りに行なった。
(1)粘度: JIS K5600に従い、25℃で測定した。
(2)粘弾性: 溶融粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製 ARES)を用いて、窒素気流下、昇温速度3℃/分、周波数10Hzで−140℃から400℃までの粘弾性を測定した。
(3)粘着力: 耐熱粘着剤をJIS Z0237に従い、180°引き剥がし法により測定した。
(4)加熱エージング: SUS板の表面を#400サンドペーパーで磨き、アセトンで脱脂を行った後、幅10mm、長さ100mmの粘着テープをJIS Z0237の圧着方法に従い、室温でSUS板に圧着し、室温で30分置いた後280℃のオーブンに1時間放置した。そして、室温まで冷却し、外観観察および粘着力を測定した。
(5)保持力: JIS Z0237に従い、幅10mm、長さ20mmの耐熱粘着テープに500gの荷重をかけ室温および100℃で1時間放置後の粘着テープのズレを測定した。
(6)熱衝撃試験: SUS板の表面を#400サンドペーパーで磨き、アセトンで脱脂を行った後、幅10mm、長さ100mmの粘着テープをJIS Z0237の圧着方法に従い、室温でSUS板に圧着し、室温で30分置いた後液体窒素に5分間投入し、直ちに取り出して120℃のオーブンに移し5分置く操作を100回繰り返し、その後の粘着力を測定した。
また、以下の記載において、各略号は次の化合物を意味する。
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PhSi:両末端アミン変性フェニル基含有ポリシロキサン
BPO:過酸化ベンゾイル
【0023】
(実施例1)
攪拌機、温度計、冷却管、窒素導入管を装着した容量2Lの4つ口セパラブルフラスコに88.27g(0.3mol)のa−BPDAと105.60g(3.3mol)のメタノールを入れ、窒素を導入しながら、加熱、攪拌し還流下3時間反応した。
室温まで冷却し、冷却管を滴下ロート変え、滴下ロートに393.00g(0.3mol)のPhSi(信越化学工業社製 X−22−9409)を取り、攪拌しながら内温が40℃を超えない速度で滴下した後、滴下ロートを外して水抜き菅および冷却管を装着し、攪拌しながらメタノールを留去した後、系内の温度を190℃に上げて20時間反応してイミド化を完結させ、ポリイミドシロキサンを得た。
このポリイミドシロキサンを100℃まで冷却し、213.64gのキシレンおよび47.05gのBPOを加え、その温度で4時間攪拌した後、室温まで冷却して粘着剤組成物溶液を得た。この溶液の粘度は10ポイズであった。
得られた粘着剤組成物溶液1gをアルミ製のカップに入れ、60℃で30分、180℃で60分熱処理を行って得られた粘着剤の粘弾性測定結果を図1に示す。
【0024】
(実施例2)
実施例1で得られた粘着剤組成物溶液を幅100mm、長さ100mm、厚み25μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製 カプトン100H)に硬化後の粘着剤層の厚みが50μmになるように塗工し、60℃で30分、180℃で30分熱処理して粘着テープを得た。この粘着テープの粘着力は370g/cmであった。
【0025】
(実施例3)
ポリイミドフィルムを宇部興産製ユーピレックス25S(厚み25μm)にし熱処理温度を100℃で3分、310℃で9分にした以外は、実施例2と同様に行い粘着テープを得た。評価結果を、表1に示す。
【0026】
(実施例4)
ポリイミドフィルムを宇部興産製ユーピレックス25RN(厚み25μm)にし熱処理温度を100℃で3分、310℃で9分にした以外は、実施例2と同様に行い耐熱粘着テープを得た。評価結果を、表1に示す。
【0027】
(実施例5)
熱処理温度を100℃で3分、280℃で25分にした以外は、実施例3と同様に行い耐熱粘着テープを得た。評価結果を、表1に示す。
【0028】
(実施例6)
実施例1で得られた粘着剤組成物溶液を幅508mm、長さ10m、厚み25μmのポリイミドフィルム(宇部興産製 ユーピレックス25RN)に硬化後の粘着剤層の厚みが50μmになるように塗工機(共栄加工社製 3号機)で連続塗工し、100℃で乾燥した。次いで、280〜310℃で25分の連続熱処理(根岸製作所 遠赤外線テスト乾燥機1号)を行い、粘着剤層側に38μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを重ねて巻き取って粘着テープを得た。評価結果を、表1に示す。
【0029】
(比較例1)
攪拌機、温度計、窒素導入管、水抜き菅と冷却管を装着した容量2Lのガラス製フラスコに、294.22gのa−BPDAと700gのトリグライムを仕込み、室温で攪拌しながら溶解した後、605.30gのα,ω−ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン(信越化学工業社製 X−22−161AS、n=9)と185gのトリグライムを加え均一に溶解させ、窒素気流下185℃に加熱して、この温度で4時間重合した。
次いで、反応液を室温に戻して攪拌しながら62.20gの2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパンと23.05gの3,5−ジアミノ安息香酸と509gのトリグライムを加えた後、温度を185℃に上げて更に4時間反応させてポリイミドシロキサン溶液を製造した。
この溶液を幅100mm、長さ100mm、厚み25μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 ユーピレックス25RN)にポリイミドシロキサンの厚みが50μmになるように塗工し、80℃で10分、150℃で10分、180℃で10分熱処理してポリイミドシロキサン層を有するテープを得た。このテープは、室温下ではSUSに接着しなかった。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸成分とジアミノポリシロキサン成分とから構成されるポリイミドシロキサンおよび有機過酸化物からなる粘着剤組成物。
【請求項2】
ジアミノポリシロキサン成分が式(1)の構造である請求項1に記載の粘着剤組成物。
【化1】

(式中、m+nは2〜50の整数であり、0.05≦n/(m+n)≦0.5である。)
【請求項3】
芳香族テトラカルボン酸成分が、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸化合物である請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
【請求項4】
基材テープ上に請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤組成物を用いた粘着剤層を有する粘着テープ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−67728(P2013−67728A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207586(P2011−207586)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】