説明

粘着剤組成物及び光学フィルム

【課題】
高温高湿の環境下においても耐久性に優れると共に、光学フィルムの貼り直しが要求される場合は容易にリワークできる光学フィルム用粘着剤、及び光学フィルムを提供する。
【解決手段】
反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部と、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成しうる官能基を2つ以上含有する架橋剤(B)と、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)0.01〜1重量部と、トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)0.001〜0.2重量部とを含有する粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムを、液晶セル等の被着体に貼着することに用いる光学フィルム用粘着剤組成物、及び当該粘着剤付光学フィルムに関する。更に詳しくは、本発明は、被着体へ光学フィルムを貼着した時に不具合が生じた場合は剥離でき、高温高湿下においても優れた耐久性を示す等の特性を有する光学フィルム用粘着剤、及び当該粘着剤付光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
表示装置として広範な分野で使用されている液晶表示装置は、通常、ガラス等の2枚の支持基板の間に、所定の方向に配向した液晶成分を挟持した液晶セルと、偏光フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム等の光学フィルムとから構成されており、光学フィルム同士の積層、液晶セルへの貼着には粘着剤が使用されていることが多い。
【0003】
液晶表示装置は、パーソナルコンピュータ、テレビジョン、カーナビゲーション等の表示装置として広範囲に使用されている。それに伴って高温高湿下のような過酷な環境下での使用においても耐久性に優れた、即ち、長期間の使用においても剥がれ、気泡の発生等が生じない粘着剤が要求されている。
【0004】
更に、この技術分野では、このような粘着剤層を有する光学フィルムを被着体に貼着する際に、異物等の噛み込み、位置ズレ等の不具合が生じた場合に、被着体から光学フィルムを剥離・除去して新しい光学フィルムを貼り直すリワーク作業が実施される。この時に、光学フィルムの接着強度が大きいと被着体から光学フィルムを剥離することが困難であったり、光学フィルムを剥離した後、粘着剤の一部が被着体に残留したりするという不具合が発生していた。
【0005】
このように、光学フィルムに使用される粘着剤は、リワーク作業の時には被着体から剥がれやすく粘着剤の一部が被着体に残留しない特性(以下、リワーク性という)が要求される。一方で、高温高湿下での使用によっても剥がれ、気泡が発生しないように液晶セル等の被着体に接着しなければならない耐久性が要求される。このように、相反するリワーク性と耐久性とを両立する粘着剤が求められている。
【0006】
上記の問題を解決する為に種々の検討がなされている。例えば、特開平7−331204号公報(特許文献1)には、炭化水素基とアルコキシ基のみを有するシラン化合物を用いた粘着剤組成物が開示されている。この粘着剤組成物はシラン化合物がアルコキシ基以外の官能基を有していないのでリワーク性は良好であるが、樹脂との相溶性が悪く耐久性に劣ることが十分に予想される。
【0007】
例えば、特開平7−331206号公報(特許文献2)には、アルコキシ基と有機物に対する官能基を有するポリマー型シランカップリング剤が開示されている。この公報に記載のポリマー型シランカップリング剤を用いた粘着剤組成物は、耐久性およびリワーク性に優れると記載があるが、このポリマー型シランカップリング剤は有機物に対する官能基を有している為、初期はリワーク性に優れるが、経時で接着力が上昇し、リワーク性は十分ではないと予測される。
【0008】
また、特開平11−131033号公報(特許文献3)には、耐久性及び応力緩和性に優れる粘着剤組成物として、トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレートを用いた粘着剤組成物が開示されている。この公報においては、耐久性の評価が実施例に記載されているが、いずれの実施例においても耐久性試験において、評価サンプルのサイズに関する記載がない。本発明者らが、該公報の実施例に記載された粘着剤を用いて耐久性を12インチサイズの偏光板で評価した結果は、十分に満足し得るものではなかった。
【0009】
また、本発明者等は、紫外線などのエネルギー線によって架橋する多ビニル単量体及びトリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレートを含有したエネルギー線架橋型の粘着剤組成物を用いることで、耐久性とリワーク性が両立できることを既に提案している(特許文献4:特願2007−291046(未公開))。しかしながら、上記特許文献4に記載のエネルギー線架橋型の粘着剤組成物は高価な光重合開始剤や多ビニル単量体(多官能(メタ)アクリル酸エステル)を使用する必要があり、また製造設備としてエネルギー線照射装置が必要であるため、経済的に不利である。
【0010】
【特許文献1】特許3498156号公報
【特許文献2】特許3498158号公報
【特許文献3】特開平11−131033号公報
【特許文献4】特願2007−291046号(未公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は光学フィルムの貼り直しが要求される場合は容易にリワークできると共に、高温高湿の環境下においても耐久性に優れ、その架橋工程に特別の装置を必要としない光学フィルム用粘着剤、及び光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定構造のシラン化合物を2種以上使用した粘着剤組成物を用いることで上記課題を解決し得ることを見出した。すなわち、本発明は上記課題を解決するため、以下の構成からなる。
1. 反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部と、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成しうる官能基を2つ以上含有する架橋剤(B)とトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)0.01〜1重量部と、トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)0.001〜0.2重量部とを含有する熱架橋型粘着剤組成物。
2.前記トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)がエポキシ系シラン化合物である前記1に記載の熱架橋型粘着剤組成物。
3.前記トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)の重量部を、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の重量部で除した値が0.05〜0.5である前記1、2に記載の熱架橋型粘着剤組成物。
4.前記1〜3のいずれかに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する光学フィルム。
5.前記粘着剤層を形成後、23℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、及び50℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が0.5〜15N/25mmであり、80℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力及び60℃、90%RHで24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が10N/25mm以上である前記に記載の光学フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る光学フィルム用粘着剤、及び光学フィルムによれば、光学フィルムの貼り直しが要求される場合は容易にリワークできると共に、高温高湿の環境下においても耐久性に優れる、光学フィルム用粘着剤、及び光学フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る粘着剤組成物は、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)と、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成しうる官能基を2つ以上含有する架橋剤(B)と、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)と、トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)とを含有する。
【0015】
本実施の形態において、アクリル系共重合体(A)とは、共重合体中に共重合成分としてのアクリル酸エステル単量体、メタクリル酸エステル単量体(以下、「アクリ」を含む単語と「メタクリ」を含む単語とを併記する場合には「(メタ)アクリ」と記載することがある)が80重量%以上含まれる共重合体を意味し、90重量%以上の共重合成分が含まれる共重合体が好ましい。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル構造を有する単量体であれば特に限定するものではなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18の直鎖若しくは分枝アルキルエステル、更にはこれらの各種誘導体の1種又は2種以上を用いることができる。
【0017】
本実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)は、アクリル系共重合体(A)の定義を超えない範囲で(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体を共重合体成分として含有することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体としては、一例として、飽和脂肪酸ビニルエステル、芳香族ビニルエステル、シアン化ビニル単量体、マレイン酸若しくはフマル酸のジエステルを用いることができる。飽和脂肪酸ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、「バ−サチック酸ビニル」(商品名)等(好ましくは酢酸ビニル);芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等;シアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル;マレイン酸もしくはフマル酸のジエステルとしては、例えば、ジメチルマレ−ト、ジ−N−ブチルマレ−ト、ジ−2−エチルヘキシルマレ−ト、ジ−N−オクチルマレ−ト、ジメチルフマレ−ト、ジ−N−ブチルフマレ−ト、ジ−2−エチルヘキシルフマレ−ト、ジ−N−オクチルフマレ−ト等を用いることができる。
【0018】
本実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)中の構成成分としては、アクリル系共重合体(A)と架橋剤(B)とを反応させる目的で、反応性官能基を有する単量体を含む。
なお、反応性官能基を有する単量体(メタ)アクリル酸エステルも、アクリル系共重合体を定義する際の、アクリル系共重合体(A)中に共重合成分として含有される(メタ)アクリル酸エステル単量体の量としてカウントされる。
【0019】
反応性官能基を有する単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、水酸基含有単量体、グリシジル基含有単量体、アミド基含有単量体、N−置換アミド基含有単量体、三級アミノ基含有単量体等の1種又は2種以上を用いることができる。反応性官能基を有する単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物の凝集力を増加させて粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上とする。また、反応性官能基を有する単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物に柔軟性を付与することを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下とする。
【0020】
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0021】
水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、メタリルアルコール等を用いることができる。
【0022】
グリシジル基含有単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル等を用いることができる。
【0023】
アミド基含有単量体、N−置換アミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等を用いることができる。
【0024】
三級アミノ基含有単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等を用いることができる。
【0025】
共重合体成分としての各種反応性官能基を有する単量体のうち、接着性が良好であることからカルボキシル基含有単量体がアクリル系共重合体(A)に含まれることが好ましい。また、凝集力の調整が容易であることから、アクリル系共重合体(A)にカルボキシル基含有単量体と共に水酸基含有単量体が更に共重合体成分として含まれることが好ましい。
【0026】
カルボキシル基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物の凝集力と接着性を増加させて粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上にする。また、カルボキシル基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物の接着力が高くなりすぎることの抑制を目的として、アクリル系共重合体(A)に対して10重量%以下、好ましくは5重量%以下、特に好ましくは3重量%以下にする。
【0027】
水酸基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物の凝集力を増加させて粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上にする。また、水酸基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物が耐久性にて剥がれが生じることを抑制することを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して5重量%以下、好ましくは3重量%以下にする。
【0028】
アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与え、気泡の発生を抑制することを目的として、80万以上、好ましくは100万以上にする。また、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、粘着剤組成物の塗工作業性を確保することを目的として、250万以下にする。
【0029】
アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定された値である。
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
下記(1)〜(3)に従って測定する。
(1)アクリル系共重合体(A)溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状のアクリル系共重合体(A)を得る。
(2)上記(1)で得られたフィルム状のアクリル系共重合体(A)をテトラヒドロフランにて固形分0.2%になるように溶解させる。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)を測定する。
(条件)
GPC:HLC−8220 GPC〔東ソー(株)製〕
カラム:TSK−GEL GMHXL 4本使用
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.6ml/min カラム温度:40℃
【0030】
アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与え、十分な耐久性を発揮させることを目的として、−80℃以上、好ましくは−60℃以上にする。また、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、支持基板に対する十分な密着性を粘着剤組成物に発揮させ、剥がれ等が生じない耐久性を発揮させることを目的として、−20℃以下、好ましくは−30℃以下にする。
【0031】
アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は下記式1の計算により求められる温度(K)を(℃)に換算した値である。
式1 1/Tg=M1/Tg1+M2/Tg2+M3/Tg3+・・・・+Mn/Tgn
式中、Tg1、Tg2、Tg3・・・及びTgnは、成分1、成分2、成分3・・・及び成分nそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度(
K ) を示す。
式中、M1、M2、M3・・・及びMnは各種成分のモル分率を示す。
【0032】
本実施の形態に用いられるアクリル系共重合体(A)の重合方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合等の方法により重合できる。なお、重合により得られる共重合体の混合物を用いて本実施の形態に係る粘着剤組成物を製造するにあたり、処理工程が比較的簡単で、かつ、短時間で粘着剤組成物を得られる溶液重合により重合することが好ましい。
【0033】
溶液重合は、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流温度で、撹拌しながら数時間加熱反応させる等の方法を使用することができる。なお、本実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)の分子量は、反応温度、時間、溶剤量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量にすることができる。
【0034】
本実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成しうる官能基を2つ以上、好ましくは2〜4つの官能基を含有する架橋剤(B)を含有する。
【0035】
架橋剤(B)は、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成する限り、特に限定されない。例えば、架橋剤としては、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、エポキシ化合物、メラミンホルムアルデヒド縮合物、金属塩、金属キレート化合物等を用いることができる。また、光学フィルムと粘着剤組成物との密着性、アクリル系共重合体(A)に配合した後の安定性等の観点から、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、及び/又はエポキシ化合物を用いることが好ましい。これら架橋剤はそれぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
イソシアネート化合物としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、該芳香族イソシアネート化合物の水素添加物等の脂肪族又は脂環族イソシアネート;それらイソシアネートの2量体もしくは3量体又はそれらイソシアネートと、トリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体などの各種イソシアネートに由来するイソシアネート化合物を用いることができる。これらは単独で、あるいは組み合せて使用することが出来る。
【0037】
イソシアネート化合物は、例えば「コロネートL」、「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」〔以上日本ポリウレタン工業(株)製〕、「デスモジュールN3400」〔住友バイエルウレタン(株)製〕、「デュラネートE−405−80T」、「デュラネートTSE−100」〔旭化成工業(株)製〕、「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」「MT−オレスタ−NP1200」〔以上三井化学ポリウレタン(株)製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0038】
アジリジン化合物としては、イソシアネート化合物とエチレンイミンとの反応生成物が使用でき、イソシアネート化合物としては、前記で例示したものを用いることができる。またトリメチロールプロパンやペンタエリトリトールなどのポリオールと(メタ)アクリル酸などとの多価エステルにエチレンイミンを付加させた化合物も知られており、使用することができる。
【0039】
アジリジン化合物としては、例えば、N,N’−ヘキサメチレンビス(1−アジリジンカルボアミド)、メチレンビス[N−(1−アジリジニルカルボニル))−4−アニリン]、テトラメチロールメタン−トリス(β−アジリジニルプロピオナート)、トリメチロールプロパン−トリス(β−アジリジニルプロピオナート)などを挙げることができ、これらのうち、例えば「TAZO」、「TAZM」〔以上相互薬工(株)製〕、「ケミタイトPZ−33」〔(株)日本触媒製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0040】
エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリトリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどを用いることができる。
【0041】
エポキシ化合物のうち、3つ以上のエポキシ基を含有するエポキシ化合物が好ましく、中でもトリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサンN,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどのエポキシ化合物の使用がさらに好ましく、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンの使用が特に好ましい。このようなエポキシ化合物は、例えば「TETRAD−C」、「TETRAD−X」〔三菱ガス化学(株)製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0042】
アクリル系共重合体(A)100重量部に対する架橋剤の使用量は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与え、気泡の発生を抑制することを目的として、0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上にする。また、アクリル系共重合体(A)100重量部に対する架橋剤の使用量は、粘着剤組成物の凝集力過多に伴う剥がれを抑制することを目的として、20重量部以下、好ましくは15重量部以下、特に好ましくは10重量部以下にする。
【0043】
本実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.01〜1重量部のトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)と0.001〜0.2重量部のトリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)が含有される。トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)は以下の化学式「化 1」で表される。なお、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示しており、nは1〜3の整数である。
【0044】
【化1】

【0045】
トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の例としては、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等を用いることができる。
【0046】
湿熱環境下において粘着剤組成物と被着材との間に剥がれ、発泡等の発生の抑制を目的として、粘着剤組成物中のトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の含有量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、特に好ましくは0.2重量部以上とする。また、粘着剤層からトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)がブリードアウトすることの抑制を目的として、粘着剤組成物中のトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の含有量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、特に好ましくは0.3重量部以下にする。
【0047】
本実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.001〜0.2重量部のトリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)を更に含有する。
【0048】
このようなシラン化合物(D)としては、例えばγ − メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ
− メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ − メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプト基含有シラン化合物; 例えば、β − ( 3 , 4
− エポキシシクロヘキシル) エチルトリメトキシシラン、β − ( 3 , 4 − エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、メチルトリ( グリシジル)
シラン、γ − グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ − グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ − グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有シラン化合物;
例えば、3 − トリエトキシシリルプロピルコハク酸(無水物) 、3 − トリメトキシシリルプロピルコハク酸( 無水物) 、3 − メチルジメトキシシリルプロピルコハク酸(
無水物) 、メチルジエトキシシリルプロピルコハク酸( 無水物) 、1 − カルボキシ− 3 − トリエトキシシリルプロピルコハク酸( 無水物) などのカルボキシル基含有シラン化合物;例えば、N
− ( β − アミノエチル) − γ − アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N −( β − アミノエチル) − γ − アミノプロピルトリメトキシシラン、N
− ( β − アミノエチル) − γ − アミノプロピルトリエトキシシラン、γ − アミノプロピルトリメトキシシラン、γ − アミノプロピルトリエトキシシラン、N
− フェニル− γ − アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シラン化合物; 例えば、γ − ヒドロキシプロピルトリメトキシシランなどのヒドロキシル基含有シラン化合物;例えば、γ
− イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどのイソシアネート基含有シラン化合物などを1種または2種以上用いることができる。
上記シラン化合物(D)のうち、高温高湿下における耐久性が良好であることから、特にエポキシ基含有シラン化合物が好ましい。
【0049】
上記シラン化合物(D)の含有量は、湿熱環境下において粘着剤組成物と被着材との間で剥がれ、気泡等が発生することの抑制を目的として、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上特に好ましくは0.02重量部以上にする。また、上記シラン化合物(D)の含有量は、粘着剤組成物の経時変化によって粘着剤組成物の接着力が増加することによるリワーク性の低下の抑制を目的として、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.2重量部以下、好ましくは0.1重量部以下、特に好ましくは0.05重量部以下にする。
【0050】
本実施の形態に係る粘着剤組成物には、上述の通りトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)とトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)を用いており、2種以上のシラン化合物を併用している。
【0051】
トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)はイソシアヌレート骨格の極性によりアクリル系共重合体(A)との相溶性に優れると考えられる。また、本発明者らが検討した結果、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)は、高温高湿の環境下にさらされると粘着剤組成物の接着力を増加させる働きがあるが、初期及び経時での接着力は低下させる傾向にあり、リワーク性に優れる。しかしながら、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)のみでは、高温高湿下での耐久性が十分ではなかった。
【0052】
トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)としては、アクリル系樹脂や架橋剤との反応性を有する官能基を含有するシラン化合物を用いることができる。このシラン化合物(D)は、アクリル系共重合体や架橋剤との反応性を有する官能基を有している為、粘着剤組成物に使用することで耐久性が向上するが、経時で粘着剤組成物の接着力が増加しやすくなる為、リワーク性には劣っていた。
【0053】
上記の通り、シラン化合物として、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)やシラン化合物(D)のみを使用した粘着剤組成物では、高温高湿下での耐久性とリワーク性を両立することは難しかったが、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)とシラン化合物(D)を併用することにより、初期又は経時の接着力上昇が小さくリワーク性に優れ、かつ、高温高湿下での耐久性が良好な粘着剤組成物を得ることが出来る。
【0054】
本実施の形態に係る粘着剤組成物に含まれるトリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)とシラン化合物(D)の割合は、粘着剤組成物の耐久性、及びリワーク性を両立させることを目的として、(トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)の添加重量部)を(トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の添加重量部)で除した値が、0.05〜0.5であることが好ましい。
【0055】
本実施の形態に係る粘着剤組成物には、上述したアクリル系共重合体(A)、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(B)、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(B)以外のシラン化合物(C)、架橋剤の他に、本実施の形態に係る粘着剤組成物が発揮する効果を損なわない範囲内の量で、各種添加剤、溶剤、耐候性安定剤、タッキファイヤ−、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤等を適宜配合することができる。耐候性安定剤、タッキファイヤ−、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤等の配合量の範囲は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対し、30重量部以下が好ましく、更に好ましくは20重量部以下、最も好ましくは10重量部以下にする。配合量を係る範囲内にすることにより、粘着剤組成物の接着力、濡れ性、耐熱性、糊転着性のバランスを適切に保つことができ、良好な各種物性を示す粘着剤組成物が得られる。
【0056】
本実施の形態に係る光学フィルムは、本実施の形態に係る粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する光学フィルムである。その具体的な製造方法は、剥離シート上に本実施の形態に係る粘着剤組成物を塗布し乾燥することにより剥離シート上に粘着剤層を形成する。そして、剥離シート上に形成された粘着剤層を光学フィルムに転写し、次いで養生させて作成することが出来る。
【0057】
剥離シートとしては、フッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーン等の離型剤で離型処理を施したポリエステル等の合成樹脂シートを用いることができる。剥離シート上に形成される粘着剤層の厚さは、例えば、乾燥後の厚みで1〜100μm、好ましくは5〜50μm、更に好ましくは15〜30μm程度の厚さにする。
【0058】
剥離シート上に塗布された粘着剤組成物は、熱風乾燥機で70〜120℃、1〜3分程度の加熱条件で乾燥することができる。
【0059】
本実施の形態に係る光学フィルム用粘着剤組成物は、架橋構造が形成された後における光学フィルム用粘着剤組成物中のゲル分は十分な凝集力を与えることを目的として40重量%以上にする。また、架橋構造が形成された後における光学フィルム用粘着剤組成物のゲル分は、耐久性において剥がれが生じることを抑制することを目的として95重量%以下にする。
【0060】
なお、ゲル分とは、下記方法により測定できる。
(粘着剤組成物のゲル分の測定)
下記(1)〜(6)に従って測定する。
(1)粘着剤組成物の溶液をシリコーン系離型剤で表面処理された剥離シートに、乾燥後の塗工量が25g/mとなるように塗布し、100℃で90秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥し、フィルム状の感圧接着剤層を形成する。
(2)形成された感圧接着剤層を23℃、湿度50%RHで10日間養生する。
(3)精秤した250メッシュの金網(100mm×100mm)に(2)で得られたフィルム状粘着剤層を約0.25g貼付し、ゲル分が漏れないように包む。その後、精密天秤にて重量を正確に測定して試料を作成する。
(4)上記の金網を酢酸エチル溶液に3日間浸漬する。
(5)浸漬後、金網を取り出して少量の酢酸エチルにて洗浄し、120℃で24時間乾燥させる。その後、精密天秤にて重量を正確に測定する。
(6)下式によりゲル分を計算する。
ゲル分(重量%)=(C−A)/(B−A)×100
ただし、Aは金網の重量(g)、Bは粘着剤を貼付した金網の重量(粘着剤重量)(g)、Cは浸漬後、乾燥させた金網の重量(ゲル樹脂重量)(g)である。
【0061】
本実施の形態に係る光学フィルムは、粘着剤層を形成後、23℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、及び50℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が0.5〜15N/25mmであり、80℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、及び60℃、90%RHで24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が10N/25mm以上である。
【0062】
光学フィルムに粘着剤層を形成した後、リワーク作業する場合は、直ちにリワーク作業がなされるか、あるいは、比較的良好な環境で長時間保管された後にリワーク作業がなされる。本実施の形態に係る粘着剤から形成された粘着層は、高温高湿になるほど接着力が上昇するので、上記の如く50℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が15N/25mm以下、好ましくは10N/25mm以下であれば、容易にリワーク作業できる。
【0063】
一方、粘着剤層が形成された光学フィルムが、実用に供された場合には、高温高湿下の厳しい環境下にさらされ、高温下にさらされた場合の粘着剤層の接着力特性は、試料を80℃で24時間放置された後の接着力特性が良好であれば問題ないとされる。また、高湿度下、かつ、高温下にさらされた場合の粘着剤層の接着力特性は、60℃、相対湿度(RH)90%で24時間放置された後の接着力特性が良好であれば問題ないとされている。本実施の形態に係る粘着剤組成物から形成された粘着層は、高温高湿の環境下にさらされると接着力が上昇し、80℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、及び60℃、90%RHで24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が10N/25mm以上である。本実施の形態に係る粘着剤層はゲル分で代表される適当な架橋状態を有しているため、強力な接着力と架橋による凝集力とによって、高温高湿下で従来の粘着剤層に発生していたハガレ、気泡の発生が抑制される。粘着層が形成された光学フィルムを無アルカリガラスに貼着後80℃の環境下に24時間放置した後の接着力が、20N/25mm以上であることが更に好ましい。
【0064】
(実施の形態の効果)
本実施の形態に係る粘着剤組成物、この粘着剤組成物から形成された粘着層、この粘着層を備える光学フィルムは、上述した構成を備えるので、光学フィルムは、被着材に対して十分な接着力を有すると共に、所定の接着力に抑えられていることからリワーク性に優れている。また、本実施の形態に係る粘着剤組成物、粘着層、及び光学フィルムは、高温高湿の環境下にさらされると接着力が上昇して、ゲル分で代表される適当な架橋状態を有することにより、高温高湿下で通常発生するハガレ、気泡の発生を抑制することができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例、及び比較例を説明する。なお、実施例、及び比較例において用いた試験片の作成、並びに各種の試験方法、及び評価方法は以下の通りである。
【0066】
(1)試験用光学フィルムの作成
光学フィルムの一例として偏光フィルムを使用し粘着剤層を有する偏光フィルムを作成した。シリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルム上に、乾燥後の塗工量が25g/cmとなるように、粘着剤組成物を塗布した。次に、100℃で90秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥して粘着剤層を形成した。続いて、偏光ベースフィルム〔ポリビニルアルコール(
PVA )フィルムを主体とする偏光子の両面にセルローストリアセテート( TAC )フィルムをラミネートしたもの;約190μm 〕の裏面に粘着剤層面を貼り合せ、加圧ニップロールに通して圧着した。圧着後、23℃、50%RH
で10日間養生させて粘着剤層を有する偏光フィルムを得た。
【0067】
(2)接着力の測定
(2−1)23℃の環境下に放置後の接着力の測定
「(1)試験用光学フィルムの作成」において作成した偏光フィルムを25mm×150mmにカットした後、この偏光フィルム片を、卓上ラミネート機を用いて厚さ0.7mmコーニング社製無アルカリガラス板「#1737」に圧着して試験サンプルとした。このサンプルをオートクレーブ処理(50℃、5kg/cm、20分)した。次にこのサンプルを、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した後、180度剥離における接着力(剥離速度:300mm/分)を測定した。なお、本発明の実施の形態、及び実施例において、「粘着剤層を形成後、23℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力」とは、本試験法で測定した接着力を意味する。
【0068】
(2−2)50℃の環境下に放置後の接着力の測定
「(2−1)23℃の環境下に放置後の接着力の測定」と同様に作成し、オートクレーブ処理を施した試験サンプルを、23℃、50%RHの条件下で1時間放置した後、50℃で24時間の処理を施した。次に、23℃、65%RHの条件化で1時間放置した後、180度剥離における接着力(剥離速度:300mm/分)を測定した。なお、本発明の実施の形態、及び実施例において、「粘着剤層を形成後、50℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力」とは、本試験法で測定した接着力を意味する。
【0069】
(2−3)80℃の環境下に放置後の接着力の測定
「(2−1)23℃の環境下に放置後の接着力の測定」と同様に作成し、オートクレーブ処理を施した試験サンプルを、23℃、65%RHの条件下で1時間放置した後、80℃で24時間の処理を施した。次に、23℃、50%RHの条件化で1時間放置した後、180度剥離における接着力(剥離速度:300mm/分)を測定した。なお、本発明の実施の形態、及び実施例において、「80℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力」とは、本試験法で測定した接着力を意味する。
【0070】
(2−4)60℃×90%RHの環境下に放置後の接着力の測定
「(2−1)50℃の環境下に放置後の接着力の測定」と同様に作成し、オートクレーブ処理を施した試験サンプルを、23℃、65%RHの条件下で1時間放置した後、60℃、90%RHで24時間の処理を施した。次に、23℃、65%RHの条件化で1時間放置した後、180度剥離における接着力(剥離速度:300mm/分)を測定した。なお、本発明の実施の形態、及び実施例において、「60℃、90%RHで24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力」とは、本試験法で測定した接着力を意味する。
【0071】
(3)リワーク性の評価
「(2−1)50℃の環境下に放置後の接着力の測定」にて測定した50℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、および無アルカリガラス板への粘着剤の残留を目視観察して評価した。評価基準は次の通りである。
◎:10N/25mm以下で、かつ、無アルカリガラス板への粘着剤の残留がない。
○:10N/25mmより大きく15N/25mm以下で、かつ、無アルカリガラス板への粘着剤の残留がない。
×:15N/25mmより大きい、又は無アルカリガラス板への粘着剤の残留が有る。
【0072】
(4) 耐久性の評価
「(1)試験用光学フィルムの作成」において作成した偏光フィルムを、吸収軸に対して長辺が45゜になるようにカットした140mm
× 260mm(12インチ)の試験片を用い、0.7mmコーニング社製無アルカリガラス板「#1737」の片面にラミネーターを用いて貼付した。次に、このサンプルにオートクレーブ処理(50℃、5kg/cm、20分)を施し、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。その後、次の温度、及び湿度条件下に1000時間放置し、発泡、剥れや浮きの状態を目視観察にて評価した。評価基準は次の通りである。
【0073】
(耐久性評価基準)
a)発泡
◎:発泡がほとんど見られない
×:発泡が顕著に見られる
【0074】
b)剥がれ
◎:4辺において、外周端部から0.1mm以上の位置に剥がれが無いもの。
○:4辺において、外周端部から0.3mm以上の位置に剥がれが無いもの。
△:4辺において、外周端部から0.8mm以上の位置に剥がれが無いもの。
×:4辺のいずれか1辺に、外周端部から0.8mm以上の位置に剥がれがあるもの。
【0075】
(アクリル系共重合体(A)の製造)
(製造例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、及び還流冷却管を備えた反応器内に、n−ブチルアクリレート(BA)81重量部、メチルアクリレート(MA)15重量部、アクリル酸(AA)3重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート(2HEA)1重量部、酢酸エチル(EAc)100重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部を入れ、反応容器の空気を窒素ガスで置換した。その後、攪拌下、窒素雰囲気中で、反応容器の内容物温度を65℃に昇温させて6時間反応させ、更に、70℃に昇温して2時間反応させた。その後、EAc20重量部にAIBN0.4重量部を溶解させた溶液を1時間かけて滴下し、更に2時間反応させた。反応終了後、反応混合物をトルエンで希釈し、固形分18.0重量%、粘度6000mPa・sのアクリル系共重合体溶液を得た。アクリル系重合体の重量平均分子量は116万であった。
【0076】
(製造例2)
製造例1で使用した共重合体組成の代わりに、共重合体組成を表1の各製造例に示した単量体組成とした以外は製造例1と同様にして重合した。表1に、製造例2の共重合体組成、固形分、ガラス転移点(Tg)、重量平均分子量(Mw)を示した。
【0077】
【表1】

【0078】
(偏光板用感圧接着剤組成物の製造)
(実施例1)
アクリル系共重合体(A)として製造例1で合成したアクリル共重合体溶液を556重量部(アクリル共重合体100重量部)、架橋剤(B)としてコロネートL0.67重量部(日本ポリウレタン社製イソシアネート系化合物、有効成分0.5重量部)とNP−1200 0.27重量部(三井化学ポリウレタン社製イソシアネート化合物、有効成分0.19重量部)、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)として、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを0.3重量部(信越化学社製シランカップリング剤、商品名X−12−965、有効成分0.3重量部)、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを0.05重量部(信越化学社製シランカップリング剤、商品名:KBM−403、有効成分0.05重量部)とを十分に攪拌混合して粘着剤組成物を得た。得られた粘着剤組成物を使用して、前記の試験用光学フィルムの作成方法により試験用光学フィルムを作成し、前記の各種測定を行い、その結果を表3−1に示す。
【0079】
(実施例2〜7、比較例1〜4)
実施例1における配合組成の代わりに、表2−1、及び表2−2に示した各実施例、及び比較例の配合組成を採用する以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物(実施例2ないし7に係る粘着剤組成物、及び比較例1ないし4に係る粘着剤組成物)を作成した。得られた粘着剤組成物を用いて、上述した試験用光学フィルムの作成方法により試験用光学フィルムを作成し、上述した各種測定を実施した。その結果を表3−1、及び表3−2に示す。
【0080】
【表2−1】

【0081】
【表2−2】

【0082】
なお、表2−1、2−2において、「KBM−403/TMSI」は、各配合組成例でのトリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)の重量部を、前記トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の重量部で除した値を表す。
【0083】
なお、表2−1、及び表2−2における各配合物の略号は以下の通りであり、各成分の添加量は有効成分の重量部である。
(a)コロネートL「日本ポリウレタン社製イソシアネート系化合物」
有効成分75%、架橋剤(B)
(b)NP−1200「三井化学ポリウレタン社製イソシアネート系化合物」
有効成分70%、架橋剤(B)
(c)TMSI;「信越化学社製シランカップリング剤」
商品名;X−12−965、有効成分100%
化学名;トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)
(d)KBM−403「信越化学社製シランカップリング剤」
商品名;KBM−403、有効成分100%
化学名;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)成分以外のシラン化合物(D)
【0084】
【表3−1】

【0085】
【表3−2】

【0086】
表3−1を参照すると分かるように、実施例1ないし7に係る全ての光学フィルムは、リワーク性、耐久性(80℃)、耐久性(60℃×90%RH)の全ての項目において評価基準が「◎」又は「○」を示した。すなわち、実施例1ないし7に係る光学フィルムは、高温高湿の環境下においても耐久性に優れると共に、光学フィルムの貼り直しが要求される場合は容易にリワークできることが示された。
【0087】
なお、本実施の形態、及び実施例に係る光学フィルム用粘着剤を有する光学フィルムは、リワーク性に優れ、高温高湿下で通常発生するハガレや気泡の発生がないため、パーソナルコンピュータ、テレビジョン、カーナビゲーション等の表示装置に用いられる光学フィルムに適用することができる。
【0088】
以上、本発明の実施の形態、及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態、及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態、及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)100重量部と、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成しうる官能基を2つ以上含有する架橋剤(B)と、トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)0.01〜1重量部と、トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)0.001〜0.2重量部とを含有する熱架橋型粘着剤組成物。
【請求項2】
前記トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)がエポキシ系シラン化合物である請求項1に記載の熱架橋型粘着剤組成物。
【請求項3】
前記トリス(3−トリアルコキシシリル)イソシアヌレート(C)以外のシラン化合物(D)の重量部を、前記トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレート(C)の重量部で除した値が0.05〜0.50である請求項1、2に記載の熱架橋型粘着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する光学フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層を形成後、23℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、及び50℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が0.5〜15N/25mmであり、80℃で24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力、及び60℃、90%RHで24時間経過後の無アルカリガラス板に対する接着力が10N/25mm以上である請求項4に記載の光学フィルム。




【公開番号】特開2010−95603(P2010−95603A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267078(P2008−267078)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000004592)日本カーバイド工業株式会社 (165)
【Fターム(参考)】