説明

精密雷管及びその製造方法

【課題】比較的低い電気エネルギーの印加でも安定して起爆できる精密雷管及びその製造方法を提供する。
【解決手段】有底の管体3に添装薬を圧填して形成されてなる添装薬層2と、該添装薬層2の上部に起爆薬層1とを有する原管部と、電橋5を有する塞栓部4と、脚線部7とを備え、前記電橋5と前記脚線部7とが電気的に接続され、前記原管部と前記塞栓部4とが封止される精密雷管において、前記起爆薬層1が、所定の粒径範囲に分級された起爆薬から形成され、タンピング密度に対して100%乃至135%の充填密度を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電橋線の線爆発により起爆される起爆時間精度が高い高起爆時間精度精密雷管、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電橋線の線爆発により起爆される精密雷管は、高電圧によって起爆することにより高精度に起爆時間を制御可能な技術として提案されている。
【0003】
当該精密雷管は、有底の管体に添装薬としてペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)を圧填し、該添装薬の上に起爆薬として再結晶して微粒化したペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)が充填されてなる原管部と、電橋を有する塞栓部と、脚線部とからなり、前記電橋と脚線部は電気的に接続され、前記原管部と塞栓部とが機械的に封止されるかしめ部を有する構造が一般的である。
【0004】
前記起爆薬の粒度は、平均粒径で50μm以下、好ましくは3μm〜20μmであることが提案されている。
【0005】
一般的に、前記起爆薬の充填密度が大きい方が、威力が大きくなり、起爆薬の充填密度が小さい方が、着火感度が高くなる傾向にあることが知られており、0.7g/ccにて設計された例もある。また、前記電橋に半導体電橋装置を使用した場合には、ある程度高い充填密度の方が着火しやすくなり、通常1.0g/cc以上、好ましくは1.3g/cc以上であることが提案されている。
【0006】
前記精密雷管は、前記の通り線爆発によって起爆されるが、線爆発を発生させる起爆装置は、一般に2kV以上を出力するものとされ、高いものでは24kVを印加する例もある。精密雷管を確実に起爆するためには、可能な限り高電圧、高エネルギーの電気エネルギーを出力することが有利であるが、起爆装置としては土木工事や採石等の発破作業で用いられる一般の電気雷管用発破器と比べて極めて大型化せざるを得ない。
【0007】
このため、4μFの発破用コンデンサを用い、該コンデンサに2.5kV充電し、1Ωの出力負荷抵抗器を通して出力される起爆装置が提案されている。前記出力負荷抵抗器は、前記発破用コンデンサ及びサイリスタ等からなる出力用電子スイッチの過電流通電による焼損を防止するためのものである。また、精密雷管用として用いられる電橋の線径は、一般に50μm乃至100μmと太く、電気抵抗値が低いため、電橋に印加される電気エネルギーは、前記出力負荷抵抗器や発破母線等の放電経路の電気抵抗の影響を受けやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−221799号公報
【特許文献2】特開2006−138510号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】線爆発型安全電気雷管の試作と性能テスト(工業火薬協会誌、第36巻、p136−140、1975年)
【非特許文献2】PETNを使用した線爆発型雷管の性能(工業火薬協会誌、第50巻、p23−27、1989年)
【非特許文献3】線爆発電気雷管による精密制御発破に関する研究(工業火薬協会誌、第53巻、p200−203、1992年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
精密雷管の起爆性においては、一般的に、起爆薬の充填密度が大きい方が、威力が大きくなり、起爆薬の充填密度が小さい方が、着火感度が高くなる傾向がある。また、同じ容積に起爆薬を充填する場合において、起爆薬粒径が小さくなるほど、より多くの起爆薬が充填できることになり、充填密度が高くなる。逆に、起爆薬粒径が大きくなるほど、起爆薬の充填量が少なくなり、充填密度は低くなる。
【0011】
精密雷管の起爆薬を充填する際、充填密度が低過ぎると、電橋との密着度合いが低下し、起爆できない状態に陥る。また、充填密度が高過ぎても、起爆できない状態に陥ることが経験的に知られていた。
【0012】
よって、起爆薬層の容積が一定である精密雷管にあっては、起爆薬の適正な粒径と充填密度との相関性を明らかにしておく必要があった。
【0013】
また、前記起爆薬は、一般に再結晶して微粒化したペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)が用いられる。再結晶は、前記ペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)を一旦アセトンに溶解した後、冷水に滴下することによって微粒化されるが、製造条件等によっては所望する粒度分布が得られない問題、また粒径の小さいものから大きいものまで、様々な粒径の粒子を包含することになり、均一な充填密度が得難い問題などがあった。
【0014】
また、従来技術において、半導体電橋装置を使用した場合には、ある程度高い充填密度の方が着火しやすくなり、通常1.0g/cc以上、好ましくは1.3g/cc以上である旨提案されているが、電橋方式の場合には、0.7g/ccにて設計された例もあり、一般の電橋を用いた精密雷管にあっては、適正な粒径と充填密度が不明確であった。また、半導体電橋装置を用いる際には、該半導体電橋装置の構造が特殊なため、一般的な電気雷管製造工程では製造できない。
【0015】
精密雷管の起爆可否を決定する因子は、精密雷管自体の設計仕様の他、点火(発破)器の出力可能な電気エネルギーに拠るところが大きい。必要十分な電気エネルギーを出力できる点火器を準備すれば、前記起爆薬の粒度仕様、充填密度仕様が緩和され、広範囲な設計仕様にて安定して起爆可能な精密雷管を提供できる。
【0016】
しかしながら、前記の通り、高エネルギーを出力できる点火器が大型化することが避けられないために、使用目的によっては、実用上において支障を来す恐れがある。
【0017】
本発明は、比較的低い電気エネルギーの印加でも安定して起爆できる精密雷管及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者等は、前記課題を解決するため起爆薬の適正な粒径と充填率との相関性を明らかにすることによって、本発明をなすに至った。
【0019】
すなわち、本発明の精密雷管は、有底の管体に添装薬を圧填して形成されてなる添装薬層と、該添装薬層の上部に起爆薬層とを有する原管部と、電橋を有する塞栓部と、脚線部とを備え、前記電橋と前記脚線部とが電気的に接続され、前記原管部と前記塞栓部とが封止される精密雷管において、前記起爆薬層が、所定の粒径範囲に分級された起爆薬から形成され、タンピング密度に対して100%乃至135%の充填密度を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の精密雷管は、起爆薬層がタンピング密度に対して100%乃至135%の充填密度を有することによって、安定して起爆することができる。一方、起爆薬層が、タンピング密度に対して100%未満又は135%を超える充填密度を有する場合には、起爆薬層だけが爆発して添装薬層が起爆されない、又は起爆薬層及び添装薬層がともに起爆されないことがあり、安定して起爆させることはできない。
【0021】
前記起爆薬の粒径は、30μm乃至100μmとすることができ、好適には30μm乃至50μmとすることができる。
【0022】
また本発明の起爆薬が充填される精密雷管を製造する方法は、前記起爆薬を所定の粒径範囲に分級するステップと、分級された前記起爆薬のタンピング密度を測定するステップと、測定された前記タンピング密度に基づいて、前記起爆薬の充填密度を決定するステップとを含むことを特徴とする。
【0023】
所定の粒径範囲に分級された起爆薬のタンピング密度に基づいて起爆薬の充填密度を決定するので、粒径範囲に応じた起爆可能な起爆薬の充填密度を確実に決定することができる。
【0024】
起爆薬の充填密度を決定するステップは、タンピング密度に対して異なる割合の充填密度を有する起爆薬層が充填された複数の精密雷管を作成するステップと、作成された複数の精密雷管に対して起爆試験を行うステップと、前記起爆試験の結果に基づき、起爆可能な起爆薬層の充填密度のタンピング密度に対する割合の上限値及び下限値を求めるステップと、求められた前記上限値及び下限値に基づいて、起爆薬の充填密度を選択し、充填薬量を決定するステップとを含むことができる。
【0025】
前記添装薬及び起爆薬に用いられる薬種は、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)、ヘキソーゲン(RDX)、テトリール、オクトーゲン(HMX)等である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の精密雷管及びその製造方法は、比較的低い電気エネルギー印加で安定して起爆できる効果を有する。
【0027】
本発明の精密雷管及びその製造方法は、所定範囲の起爆薬粒径を選択可能であるため、再結晶して得られた起爆薬の粒度分布に影響されることなく、安定した品質の精密雷管を提供できる。また、粒径範囲ごとに起爆可能な充填密度を選択可能であるため、より安定した品質の精密雷管を提供できる。
【0028】
本発明の精密雷管及びその製造方法は、前記の通り比較的低いレベルの電気エネルギーで起爆可能であるため、点火器を小型化できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の精密雷管の模式図。
【図2】本発明の精密雷管の起爆薬の充填密度を決定する手順を示すフロー図。
【図3】本発明の精密雷管を起爆するための点火(発破)器の放電回路の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明を、実施例に基づいて説明する。
【0031】
[実施例1]
図1は、本発明の精密雷管の内部構造を示す模式図である。図1を用いて、本発明の精密雷管の構造を説明する。
【0032】
本発明の精密雷管は、有底の管体3に、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)からなる第1の添装薬(0.2g)を計量して装填し、プレス圧100kg/cmにて圧填した。続いて、同じくPETNからなる第2の添装薬(0.2g)を計量して装填し、プレス圧100kg/cmにて圧填することによって、添装薬層2を形成した。荷重を掛けて圧填するのは、添装薬の装填密度を上げ、所望の威力を発現させるためであり、荷重圧力は適宜変更できる。
【0033】
次にPETNからなる起爆薬を、適宜変更して計量し、充填して、起爆薬層1を形成した。該起爆薬層を充填する際は、プレス工程を経ない。プレス圧を印加せずに充填するのは、適正な起爆薬の充填密度を得ること、および電橋部を起爆薬層に押し込む際に、起爆薬層を比較的低密度状態にした上で埋め込むことにより、電橋と起爆薬との密着性を上げるためである。
【0034】
前記の通り、起爆薬層1と添装薬層2とを管体3に装填し、原管部を形成する。実施例1では、前記筒体の材質に銅を用いた。原管部を形成した後、電橋5を有する塞栓4を挿入し、前記電橋5を起爆薬層1に埋め込んだ。前記電橋5は、発破電力を受け取るための脚線7と電気的に接続される。前記脚線7は、気密性および量産性を向上させるため、前記塞栓成型時に埋め込まれ、電橋接続部(図示せず)が前記塞栓4より突出するよう構成され、前記電橋5が、該突出部に電気的に接続される。実施例1では、脚線7と電橋5とを接続する方法として、超音波溶接法を用いた。
【0035】
前記の通り、原管部と電橋5及び脚線7を有する塞栓部4とを結合した後、前記原管部の管口部を機械的に締め付けてかしめ部6を形成して、前記原管部を封止し、精密雷管を構成した。
【0036】
実施例1で用いた起爆薬は、前記の通り薬種はペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)である。該起爆薬用PETNは、再結晶工程を経て微粒化し、粒度分級して用いた。前記再結晶は、前記ペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)を、一旦アセトンに溶解して40℃に保ち、0℃乃至2℃に保たれた冷水に、110滴/分乃至140滴/分の滴下速度で、30cm乃至40cmの高さから滴下することによって行った。前記冷水には50%乃至80%濃度のアルコール水を用いた。アルコール水を用いた理由は、前記冷水の表面張力を下げるためである。
【0037】
起爆薬の充填密度を決定するためのフローを図2に示す。
【0038】
まず最初のステップとして、起爆薬の粒度分級を行った(S1)。
【0039】
粒度の分級は、2枚の篩を用い、湿式篩いにて行った。実施例1では、粒度上限値として網目が100μmの篩を通過したものであって、且つ粒度下限値として網目が30μmの篩に残存してものを用いた。前記分級した起爆薬を顕微鏡観察すると、殆どの結晶粒径が50μm以下であった。
【0040】
起爆薬の充填量は、該起爆薬のタンピング密度を基準に、起爆薬層の充填容積に応じて決定される。本願明細書において、タンピング密度は、分級された所定重量の起爆薬を容器内に装薬し、容器内の起爆薬層に上部から押圧力を加えることなく、振動を加えた(本願明細書において、この行為をタンピングと呼ぶ)ときの、容積(嵩だか)が変化しなくなった時点の起爆薬層の容積(タンピング容積)での密度として定義される。
【0041】
前記要領にて、粒度分級した起爆薬をサンプリングし、4g計量してメスシリンダに装薬し、起爆薬層の嵩だか(容積)が変化しなくなるまで振動を与えながらタンピングして、起爆薬のタンピング容積を計量したところ、7.4ccであった。よって、タンピング密度Aは、4g/7.4cc=0.541g/ccである(S2)。
【0042】
本実施例では、前記タンピングの要領は、起爆薬層上部から押圧力を加えるのではなく、容積計量容器であるメスシリンダに振動を加えて、内容物である起爆薬を充填する方法を取った。具体的には、計量済みのメスシリンダを、高さ3cm乃至5cm程度からゴム板上に打ち付ける作業を、500回繰り返した。タンピング途中において、適宜メスシリンダ中の起爆薬層容積を計量したところ、約400回ほど繰り返したところで該容積は変化しなくなったが、結果の均一性を確保するために、繰り返し回数を500回に設定したものである。500回の繰り返し作業後に、前記打ち付ける振動の度合いを加減してみたが、前記起爆薬層容積は変動しなかった。また、別のタンピングの要領として、計量済みである、底部にゴム球が固定されたメスシリンダを、高さ10cm乃至20cm程度からゴム板上に落とす作業を繰り返すことも試みた。この方法により決定されたタンピング容積と、ゴム板上に打ち付ける作業からなる前述のタンピングで決定されたタンピング容積との間に差異は無かった。
【0043】
本実施例では、前記の通り手作業により求めたタンピング密度を用いて精密雷管を製造したが、好適には、加振器等を用いてタンピングする方法が可能であり、タンピング条件を定量化することができる。
【0044】
次に、精密雷管構造において、起爆薬が充填されるべき充填容積Vを測定した(S3)ところ、0.571ccであった。本実施例では、充填容積Vは、原管の管口から前記添装薬層2の表面までの長さ(薬高)Lと、原管管体の内径寸法の半径rとを測定し、円筒と見做して容積(S=π×r×L)を計算し、塞栓4の原管部への挿入部分の体積uを別途測定して求め、前記円筒容積Sから減算(V=S−u)することによって求めた。前記タンピング密度Aと、前記充填容積Vより、起爆薬の充填薬量Mが算出できる。前記充填薬量Mは、例えば下記(1)式によって算出される。
充填薬量M=充填容積V×タンピング密度A ・・・ (1)式
【0045】
本発明の精密雷管においては、前記充填薬量Mは、下記(2)式によって算出される。
充填薬量M=(充填容積V×タンピング密度A)×α ・・・ (2)式
【0046】
ここで、α値は、少なくとも100%以上である。すなわち、本発明の精密雷管においては、起爆薬層1の充填密度Bは、前記タンピング密度A以上である。理由は、精密雷管を取り扱う際の振動等によって、充填密度Bが変動する恐れがあり、B<Aであると、精密雷管内の起爆薬層と電橋との密着性を損なう恐れがあるためである。
【0047】
前記の通り、前記起爆薬の充填密度は、前記タンピング密度以上である必要があるため、本願発明の精密雷管は、原管部にタンピング密度超過分の調整のための予備容積を有する。該タンピング密度超過分調整のための予備容積は、前記原管部に挿入される塞栓部の体積に等しい。
【0048】
実施例1では、前記α値を、95%、100%、105%、110%、120%、130%、135%、140%に設定して、各々起爆薬の充填薬量Mを算定して決定し(S4)、各々の充填薬量Mにて精密雷管を試作して(S5)起爆試験を行った(S6)。尚、α値=140%は、本実施例で用いた起爆薬の充填可能な上限値であった。
【0049】
前記起爆試験の結果を表1に示す。
【表1】

【0050】
起爆試験を、JIS規格であるJIS K4806に従って行なった。表1の起爆試験結果において、完爆は、精密雷管の爆発により、管底部に置かれた厚さ4mmの鉛板に貫通孔が形成された場合を指し、半爆は、図1の精密雷管の起爆薬層1のみが爆発し、添装薬層2が起爆されず、結果として管底部に置かれた厚さ4mmの鉛板に貫通孔が形成されなかった場合を指し、不爆は、前記起爆薬層1および添装薬層2ともに起爆されなかった場合を指す。
【0051】
表1によれば、精密雷管は、起爆薬の充填薬量M、すなわち起爆薬の充填密度に、上限値α1(135%)と下限値α2(100%)があることが判った(S7、S8)。このことから、精密雷管の設計条件として、α値を、前記起爆試験における起爆可能な範囲内にある値として120%とした(S9)。α値が120%の場合の充填密度は0.649g/ccであり、充填薬量Mは、0.371gである(S10)。
【0052】
起爆試験に用いた点火(発破)器の放電回路の模式図を図3に示す。図3を用いて、精密雷管に印加される電気エネルギーについて説明する。
【0053】
図3によれば、本実例において用いた点火器10は、発破充電コンデンサ11と、スイッチ12と、放電抵抗器13とにより構成される。前記発破充電コンデンサ11は、静電容量が4μFであり、該コンデンサ11の耐電圧値は4000Vである。実施例1の点火器10では、前記発破充電コンデンサ11は、約2300Vに充電され、スイッチ12を閉じることによって放電抵抗器13を通して外部回路に放電される。前記スイッチ12には、放電タイミング時間の精度を上げるためにサイリスタを用いた。前記放電抵抗器13の電気抵抗値は2.45Ωである。外部放電回路は、精密雷管15と、該精密雷管15と前記点火器10とを遠隔で接続するための発破母線14とからなる。前記精密雷管15の電気抵抗値は、0.68Ωであり、発破母線14の電気抵抗値は、0.11Ωであった。発破母線14の長さは、任意に変更されるが、電圧降下を抑制するため同軸ケーブルを使用した。
【0054】
図3の放電回路により精密雷管15に印加される電気エネルギーは、下記(3)式により概算できる。
W=〔(1/2)×C×E〕×〔Rb/(Rout+Rs+Rb)〕 ・・・ (3)式
ここで、
W:精密雷管15に印加される電気エネルギー値
C:発破充電コンデンサ11の静電容量値
E:発破充電コンデンサ11の充電電圧値
Rout:放電抵抗器13の電気抵抗値
Rs:発破母線14の電気抵抗値
Rb:精密雷管15の電気抵抗値
【0055】
前記(3)式に前記各パラメータ値を代入し、精密雷管15に印加される電気エネルギー値Wを算出したところ、約2.2Jになった。前記(3)式によれば、電気抵抗値のバランスにより印加エネルギーが決定されるため、精密雷管15の電気抵抗値Rbは高い方が望ましい。該精密雷管15の電気抵抗値Rbは、図1に示す通り、精密雷管の脚線7の電気抵抗値と電橋5の電気抵抗値とにより決り、前記精密雷管15の電気抵抗値Rbを高くして起爆し易くするためには、前記電橋5の電気抵抗値を高くする必要がある。実施例1では、電橋5に線径50μmの白金イリジウム合金を用いたが、線径を細くしたり、ニッケルクロム合金等の抵抗率の高い材質を抵抗に用いたりすることにより、起爆感度を上げることも可能である。
【0056】
[比較例1]
比較例1では、網目が30μmの篩を通過した粒径の起爆薬を用いた。前記粒径の起爆薬を用い、実施例1と同様の手順に準じてα値を求めるべく比較実験を行った。
【0057】
前記30μm未満の粒径の起爆薬を用いた場合、タンピング密度Aは、0.714g/ccであった。起爆薬の充填容積Vは、実施例1と同じく0.571ccであった。比較例1では、前記α値を、100%、110%、120%、130%、140%に設定し、実施例1と同様に前記(2)式を用いて、各々の起爆薬の充填薬量Mを算定して決定し、各々の充填薬量Mにて精密雷管を試作して起爆試験を行った。また、α値=140%は、本比較例で用いた起爆薬の充填可能な上限値であった。
【0058】
前記起爆試験の結果を表2に示す。比較例1で用いた点火器は、実施例1で用いたものと同じである。
【表2】

【0059】
表2の結果によれば、起爆薬の充填可能な範囲において、起爆可能な起爆薬の充填密度を確認することができなかった。すなわち、前記網目が30μmの篩を通過した粒径の起爆薬は、当該点火器では起爆できない。
【0060】
従来の技術によれば、半導体電橋装置を用いた場合、起爆薬の粒径は、平均粒径で50μm以下、好ましくは3μm〜20μmとされるが、本発明者等の実験結果によれば、前記の通り、従来技術において好適とされる起爆薬の粒径範囲において、起爆できない結果となった。
【0061】
尚、本発明の意図するところは、図2に示す手順により、起爆可能な起爆薬の充填薬量値、すなわち充填密度を求めることであり、また同手順によって製造される精密雷管に関するものであるから、起爆薬の粒径には拠らない。本比較例1で用いた粒径の起爆薬であっても、点火器の出力エネルギーの向上、或いは電橋材質の変更等を行い、本発明に従って精密雷管を設計することによって、安定した品質の精密雷管を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の精密雷管及びその製造方法は、高精度に起爆時間を制御可能な技術の分野で好適に利用できる。
【0063】
起爆時間の誤差が、1μ秒乃至数μ秒に抑制可能であり、且つ点火(発破)器を比較的小型に構成できるため、一般の発破作業にも応用可能である。例えば、トンネル発破において、最外周面を平滑に切り取るスムーズブラスティング等に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 起爆薬層
2 添装薬層
3 管体
4 塞栓
5 電橋
6 かしめ部
7 脚線
10 点火器
11 発破充電コンデンサ
12 スイッチ
13 放電抵抗器
14 発破母線
15 精密雷管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底の管体に添装薬を圧填して形成されてなる添装薬層と、該添装薬層の上部に起爆薬層とを有する原管部と、
電橋を有する塞栓部と、
脚線部とを備え、
前記電橋と前記脚線部とが電気的に接続され、
前記原管部と前記塞栓部とが封止される精密雷管において、
前記起爆薬層が、所定の粒径範囲に分級された起爆薬から形成され、タンピング密度に対して100%乃至135%の充填密度を有することを特徴とする精密雷管。
【請求項2】
前記起爆薬の粒径が、30μm乃至100μmであることを特徴とする請求項1に記載の精密雷管。
【請求項3】
前記起爆薬が、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(PETN)である特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の精密雷管。
【請求項4】
起爆薬が充填される精密雷管を製造する方法において、
前記起爆薬を所定の粒径範囲に分級するステップと、
分級された前記起爆薬のタンピング密度を測定するステップと、
測定された前記タンピング密度に基づいて、前記起爆薬の充填密度を決定するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
前記起爆薬の充填密度を決定するステップが、
タンピング密度に対して異なる割合の充填密度を有する起爆薬層が充填された複数の精密雷管を作成するステップと、
作成された複数の精密雷管に対して起爆試験を行うステップと、
前記起爆試験の結果に基づき、起爆可能な起爆薬層の充填密度のタンピング密度に対する割合の上限値及び下限値を求めるステップと、
求められた前記上限値及び下限値に基づいて、起爆薬の充填密度を選定するステップと、充填薬量を決定するステップとを含むステップとを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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