説明

糖尿病の予防及び/又は治療用組成物

【課題】糖尿病患者、糖尿病予備軍にあたる人々が糖尿病の予防・治療のために摂取することができる安全であり、かつ、血糖値を低下させる効果を有する組成物を提供する。
【解決手段】イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分そのまま、あるいは水抽出物を有効成分として含有する糖尿病の予防及び/又は治療用組成物である。イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)をそのまま又はその水抽出物またはその水抽出物の精製物を食品に添加したことを特徴とする糖尿病の予防及び/又は治療のために摂取する機能性食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食物由来成分であるため高い安全性が期待できるイカ内臓の用途に関する。詳細には、糖尿病の予防及び/又は治療用に用いることができる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病人口が増加している。日本における糖尿病人口は約690万人(5.3%)であるといわれ、糖尿病予備人口も約680万人(5.2%)いるといわれている。10人に一人が糖尿病またはその可能性あるということになる。そのうち90%以上が2型糖尿病、すなわち、インスリンを作り出すことはできるが、量が十分でないか作られたインスリンが十分に作用しないために引き起こされるタイプである。2型糖尿病は一過的な食後高血糖後、慢性的な食後高血糖の過程を経て空腹時血糖の上昇へと憎悪すると考えられている。
本発明者らは、資源の有効利用の観点からイカの内臓の成分について研究を重ねた結果、肝臓からトリプリンヒンヒビターを分離精製した(非特許文献1)。さらに、イカの肝臓以外の内臓部分からもより耐熱性の高いトリプシンインヒビターを見出している(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2006−304666号
【非特許文献1】Kishimura, H. etal., Comp. Biochem. Physiol.,130B, 117−123(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、糖尿病患者、糖尿病予備軍にあたる人々が糖尿病の予防・治療のために摂取することができる安全であり、かつ、血糖値を低下させる効果を有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)あるいはその水抽出物にラットの糖尿病モデルにおいて血糖値の上昇を抑制する効果を有することを確認し、さらにヒトにおける試験により摂取可能な用量で血糖値の上昇を抑制することを見出し、本発明を完成させた。
本発明は、以下の(1)〜(6)の糖尿病の予防及び/又は治療用組成物を要旨とする。
(1)イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分を有効成分として含有する糖尿病の予防及び/又は治療用組成物。
(2)イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分の水性溶媒抽出物を有効成分として含有する糖尿病の予防及び/又は治療用組成物。
(3)水性溶媒抽出物が水抽出物である(2)の糖尿病の予防及び/又は治療用組成物。
(4)イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分の水性溶媒抽出物をさらに精製した組成物を有効成分として含有する(2)又は(3)の組成物。
(5)水抽出物の精製が酸沈殿及び/又は加熱沈殿により不溶成分を除去によることを特徴とする(4)の組成物。
(6)水抽出物の精製がゲルろ過及び/又はイオン交換クロマトグラフィーによる精製であることを特徴とする(4)又は(5)に記載の組成物。
【0006】
本発明は、以下の(7)〜(9)の糖尿病の予防及び/又は治療のために摂取する機能性食品を要旨とする。
(7)(1)ないし(6)いずれかの組成物を食品に添加したことを特徴とする糖尿病の予防及び/又は治療のために摂取する機能性食品。
(8)イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)を5〜200g、又は該量のイカ類の内臓(肝臓と墨を除く)からの水抽出物又はその精製物を1日摂取量として食品に添加したことを特徴とする(7)の機能性食品。
(9)(7)又は(8)の機能性食品であって、その食品の用法・用量を食品の容器あるいは包装に記載されていることを特徴とする機能性食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成物は、医薬品やサプリメントとして、又は食品に添加して経口摂取することにより、血糖値の上昇を抑制させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の糖尿病の予防及び/又は治療用に用いることができる組成物としては、イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)そのままでも、水性溶媒抽出物あるいはその精製物としても使用することができる。イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)に含まれる血糖値の上昇を抑制することができる成分は、水抽出することができ、酸沈殿や加熱沈殿により不溶成分を除去することにより濃縮することができる。用途に応じていずれの形態で用いてもよい。食品に添加する場合は、魚類を原料とするよう食品のようにイカの色や匂いが問題にならない場合であれば、内臓(肝臓と墨を除く)をそのまま用いてもよく、その他の場合は粗精製物を用いるのが好ましい。飲料のように味や透明感に影響が少ないことが要求される場合には、さらに精製したものを用いる。あるいは、カプセルやタブレットにして、サプリメントとすることもできる。水抽出物は茶褐色で生のイカの匂いがあり、塩味がするが、酸沈殿や加熱沈殿により粗精製することにより色は薄茶色になり、匂いもかなり軽減される。
【0009】
本発明に係る水性溶媒抽出物は、イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分に等量程度の水性溶媒を添加して撹拌するだけで得られる。抽出温度条件には特に制限はない。特別な設備を必要としない低温〜室温での抽出が実用的である。
水性溶媒は水のほか、水に食品製造に使用できる有機溶媒、例えばアルコール、アセトン、n−ヘキサンなど、あるいは、塩類などを適宜添加した水溶液を用いることもできる。好ましくは水である。水は特に限定されるものではなく、水道水や工業用水であってもよいが、塩類などの不純物の混入を少なくするため蒸留水を用いることが好ましい。用いる水の量は特に限定されるものではなく、上記内臓を浸漬することができる量であればよい。
上記イカ類としてはイカ亜綱に属するもの、例えばコウイカ目やツツイカ目に属するもの等を好適に利用することができる。コウイカ目に属するものとしては、例えばコウイカ、ダンゴイカ、ミミイカ、ヒメイカ、トグロコウイカが挙げられる。また、ツツイカ目に属するものとしては、例えばヤリイカ、アオリイカ、ホタルイカ、ツメイカ、ドスイカ、ダイオウイカ、スルメイカ、ソデイカ、ユウレイイカを挙げることができる。中でも、漁獲量が多く、入手が容易であるという観点から、特にスルメイカ(Todarodes pacificus)が好ましく用いられる。
ここで「内臓」とは、動物の体腔中にある諸器官の総称であり、消化呼吸器系、泌尿生殖系の器官を含む。例えば、食道、胃、盲腸、直腸、胆汁嚢、肝臓、脾臓、小腸、大腸等が含まれる。「肝臓以外の内臓」とは、肝臓を除く全ての内臓であってもよいし、肝臓を除く全ての内臓の一部であってもよい。墨は色の点から除いたほうがよい。たとえば外套長26cm、体重409gのスルメイカの肝臓重量は34g程度であり、肝臓以外の内臓重量は33g程度であった。
【0010】
上記水抽出物をpH5程度で酸沈殿、あるいは、80℃程度で加熱沈殿させて不溶物を除去することにより、不用な成分を除去することができる。
具体的には、例えば、スルメイカの内臓から肝臓及び墨を除去し、細切した後、等量の蒸留水を加え、5℃で2時間攪拌し抽出することにより水抽出物を得ることができる。水抽出液を20,000×gで10分間遠心分離して上清を得、1Nの塩酸水溶液を加えpHを5に調整する。さらに20,000×gで10分間遠心分離して上清を得、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液にてpHを7に中和する。さらに20,000×gで10分間遠心分離して上清を得、粗精製液(水抽出物の粗精製物)とするなどの方法が例示される。
あるいは、上記水抽出物を、ゲルろ過及び/又はイオン交換クロマトグラフィー等に供して精製して用いることもできる。例えば、実施例に例示しているGKラットを用いた血糖値の上昇に対する効果を見る試験は、単回投与で血糖値上昇抑制効果を確認することができるので、本発明の水抽出物をさらに精製する場合は、そのような試験で活性が保持されることを確認して精製することができる。
肝臓以外の内臓は脂質の含有量が少ないため、脂質を多く含む肝臓を材料とする場合と比べて、水抽出物を調製しやすいという利点がある。大量処理が可能となり、コスト的にも安価である。
本発明の水性溶媒抽出物やその精製物はイカ由来の塩分、あるいは、酸沈殿及び中和処理により発生する塩分を含むため、使用目的によっては、電気透析、イオン交換樹脂処理、膜処理などの常法により脱塩して用いるのが好ましい。また、濃縮したり、凍結乾燥或いは噴霧乾燥などの方法により乾燥して用いることもできる。乾燥方法は問わないが、あまり高温にならない方法が好ましい。さらに、濃縮,乾固したものを水性溶媒に再度溶解したり、あるいはその作用を損なわない範囲で脱色,脱臭等の精製処理や殺菌処理を行って用いることもできる。
【0011】
水抽出物の精製方法は、酸沈殿及び/又は加熱沈殿、あるいは、ゲルろ過及び/又はイオン交換クロマトグラフィーに限定されるものではなく、血糖値の上昇を抑制する効果が失われないかぎり、どのような精製方法を用いてもよい。その他の操作としては、疎水クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができる。
ゲルろ過に用いる担体は特に限定されるものではなく、架橋デキストラン、架橋ポリアクリルアミド、架橋アガロース、親水性ビニルポリマー、多孔性セルロース等を用いることができる。
イオン交換クロマトグラフィーは、陽イオン交換クロマトグラフィーでも陰イオン交換クロマトグラフィーでもよく、目的とするポリペプチドの等電点に応じて選択すればよい。イオン交換基としては従来公知のものを用いることができる。例えば、陽イオン交換基としてはスルホプロピル、スルホエチル、スルホネート、ホスフェート、カルボキシメチル等を用いることができ、陰イオン交換基としてはクオータナリーアミノエチル、クオータナリーアミノ、ジエチルアミノエチル等を用いることができる。また、イオン交換体の担体としては、セルロース、架橋デキストラン、架橋アガロース、親水性ビニルポリマー等、従来公知のものを用いることができる。
【0012】
本発明のイカ類の内臓(肝臓と墨を除く)には各種酵素や酵素阻害物質が含まれている。本発明者がすでに見出しているトリプシンインヒビター(特許文献1参照)もそのひとつである。本発明によれば、これら各種酵素や酵素阻害剤が種々含まれている組成物のままで摂取することにより、血糖値の上昇を抑制する効果が得られる。また、その摂取量も現実的に継続的に摂取可能な量である。
すなわち、イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)そのままであれば、5〜200g/日の摂取が好ましく、特に10〜50g/日程度の摂取が好ましい。5〜200gのイカ類の内臓(肝臓と墨を除く)を水抽出し、乾燥させるとタンパク質をおよそ0.5〜20g含有する固形分が得られる。この程度の量であれば、各種食品の1回あるいは1日摂取量に十分に添加することができる。各種食品の1日摂取量とは厳密な基準があるものではなく、通常の人が毎日継続して摂取するのに苦痛がない程度の量というのが目安である。例えば、魚肉ソーセージや竹輪1本のように固形食品であれば200g以下、好ましくは100g以下の量、飲料であれば200ml以下の量が好ましい。食品に添加せず、カプセルやタブレットの形態の健康食品として用いることもできる。その場合も上記量であれば、適当な賦形剤を添加してタブレットなどに成型することが可能である。
本発明において、「食品の用法・用量を食品の容器あるいは包装に記載する」とは、血糖値の上昇を気にしているその食品の消費者のために、その食品を1日どれくらいの量、どのように摂取すればよいかを食品の容器あるいは包装袋などに記載することである。例えば、日本の厚生労働省が認める特定保険用食品などのような機能の表示をした食品の態様である。
ゲルろ過及び/又はイオン交換クロマトグラフィーなどにより高度に精製したい場合には、血糖値上昇抑制効果を指標にするほか、上記トリプシンインヒビターの活性などを目安に濃縮することもできる(特許文献1参照)。本実施例の水抽出物のトリプシンインヒビター活性は精製方法によるが、0.005〜0.03IU/mg程度であった。
【0013】
以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
1.試験方法
1-1. 試薬
スルメイカは八戸産船内一尾凍結イカを購入し、使用するまで-35℃で凍結保存した。試薬は和光純薬工業より特級グレードのものを購入した。実験動物はSPF/VAF Crj:Wistar ラット(日本チャールズ・リバー)および2型糖尿病(NIDDM)モデルラットGK/Slc(日本エスエルシー株式会社)を使用した。動物飼料はラット・マウス・モルモット用の実験動物用固形飼料MF(オリエンタル酵母製)を使用した。経口糖認容力試験糖質液にはトレーランG75(味の素ファルマ製、225ml)を使用した。正常型(2名)および境界型(1名)被験者は研究室内のボランティアを募った。血糖値の測定には、小型血糖測定機グルコカードダイアメーター(ARKRAY社製)を用いた。インスリン測定キットは株式会社森永生化学研究所製のものを使用した。
【0015】
1-2. スルメイカ内臓ホモジネートの調製
スルメイカを流水解凍後、内臓(墨、肝臓を除く)を取り出した。内臓は-80℃で急速冷凍し、凍結した内蔵は包丁で細切した。細切した内蔵は氷冷下でホモジナイザーにより1分間ホモジナイズした。ホモジネートは0.5% カルボキシメチルセルロース溶液で3倍希釈し、これをスルメイカ内臓ホモジネートとした。対照として0.5% カルボキシメチルセルロース溶液で蒸留水を3倍希釈した溶液をCMC蒸留水とした。スルメイカ内臓ホモジネートおよびCMC蒸留水は実験時まで−80℃で凍結保存した。
【0016】
1-3. 水抽出物の粗精製物の調製
スルメイカ5匹を流水解凍後、内臓(墨、肝臓を除く)を取り出し(約150g)、-80℃で急速冷凍した。凍結した内蔵は包丁で細切した。細切した内蔵に対して等量の蒸留水を加え、5℃、2時間マグネチックスターラーで攪拌して水溶性成分を抽出した。抽出液を20,000×gで10分間遠心分離し、約300mlの上清を得た。こうして得られた水抽出物のタンパク質含有量は約15gであった。得られた上清に1 M HClを加えてpH 5.0に調整した。この溶液を20,000×gで10分間遠心分離後、得られた上清に0.5 M NaOHを加えてpH7.0に調整した。この溶液をさらに20,000×gで10分間遠心分離し、上清を得た(水抽出物の粗精製物)。
【0017】
上記水抽出物の粗精製物のタンパク質重量あたりのトリプシンインヒビター活性を以下の方法で測定したところ、0.016IU/mgであった。ブタ膵臓由来トリプシン(和光純薬工業)2.0mgに0.5M Tris-HCl(pH8.0)0.4ml、0.1M CaCl2 0.4ml、蒸留水1.2mlを混合し、ブタトリプシン溶液とした。このブタトリプシン溶液に粗阻害液を混合し、反応液を作製した。TAME( Nα-p-tosyl-L-arginine methyl-ester hydrochloride、和光純薬工業)を5mM Tris-HCl(pH 8.0)に溶解し、1.74mM TAMEを調製した。TAMEと10 mM Tris- HCl緩衝液(pH 8.0)を混合し、基質溶液を作製した。基質溶液に5 μlの反応溶液を添加し、30℃で5分間インキュベートした。この混合溶液の波長247 nmにおける吸光度を測定した。トリプシン活性の1 ユニット(U)は247 nmにおける吸光度を1分間に1.0増加させる活性と定義した。インヒビター活性の1 インヒビターユニット(IU)は1 mgのトリプシン活性を50%にまで減少させる活性と定義した。
【0018】
1-4. 動物飼育方法
本試験では、7週齢雄Wistar系ラット、7週齢GKラットを購入した。ラットは室温23±1℃、湿度30±10%、照明時間12h/day(7:00-19:00)の環境下で飼育した。健康状態を確認した後、10週齢から試験を開始した。給餌器はステンレス製固形飼料給餌器を使用し、給水器はポリサルフォン製給水器(先管ステンレス製)を用いた。また、飼育にはステンレス製金網ゲージ(1区画 W 260×D 380×H180mm)を使用し、1匹ずつ個別に、または、2匹ずつ収容した。
【0019】
1-5 ラットでの糖負荷試験
1-5-1 スルメイカ内臓ホモジネート投与での糖負荷試験
試験実施前日の9:30より体重測定を行い、Wistar系ラットを体重により、10匹ずつ2群(試料投与群および蒸留水投与群)に群分けを行った。17:00より絶食させ、16時間後の9:00より試験を開始した。はじめにラットの糖負荷前の絶食状態における初期血糖値を尾静脈より採血して測定した。同時にインスリン分泌量測定用にエッペンチューブに血液を100μl採取し、氷冷下で保管した。次に、ゾンデを用いてスルメイカ内臓ホモジネート(あるいは蒸留水)およびグルコース溶液を経口投与し、この時間を0分とし、15、30、60、120分経過後に採血および血糖値測定を行った。グルコースはラットの体重1kg当たり2.0gを投与した。スルメイカ内臓ホモジネートはラットの体重当たり2.5g/kg投与した。グルコース溶液とスルメイカ内臓ホモジネートは試験開始直前に混合しておいた。蒸留水投与群には蒸留水をカルボキシメチルセルロース溶液で3倍希釈したものを与えた。血糖値変化は初期血糖値を100%として相対血糖値で示した。採取した血液を10,000×g、10分間の遠心分離を行い、得られた血清中のインスリン濃度を森永インスリン測定キット(株式会社森永生化学研究所製)を用いて測定した。
【0020】
1-5-2 水抽出物の粗精製物投与での糖負荷試験
1-5-1と同様の方法で試験を行った。Wistar系ラットおよびGKラットを体重により、8匹ずつ2群(試料投与群および蒸留水投与群)に群分けを行った。試料投与群にはイカ内臓由来水抽出物の粗精製物をラットの体重当たり約150mg/kg(150mgは粗精製物に含まれるタンパク量で表示)与え、蒸留水投与群には同容量の蒸留水を与えた。
【0021】
1-6. 被検者の分類
ヒトでの糖負荷試験での被験者が正常型、境界型、糖尿病のどの範囲に該当するのかの判定は以下のように行った。10時間以上の絶食後、採血を行い空腹時血糖値とした。次に、経口糖認容力試験糖質液を摂取させた2時間後の血糖値を負荷後2時間血糖値とした。75gブドウ糖負荷試験による判定区分により、被験者を分類した。空腹時血糖値が110mg/dl以下、かつ、負荷後2時間血糖値が140mg/dl以下の場合は正常型、空腹時血糖値が126mg/dl以下かつ、負荷後2時間血糖値が200mg/dl以下で正常型でない場合は境界型、空腹時血糖値が126mg/dl以上又は負荷後2時間血糖値が200mg/dl以上の場合は糖尿病型と分類した。
【0022】
1-7. ヒトでの糖負荷試験
10時間以上の絶食を行い、初期血糖値を測定した。スルメイカ内臓30gまたは水抽出物の粗精製物(正常型の被験者(体重65kg)は54ml(1512mgのタンパク質を含有)、境界型の被験者(体重70kg)は65ml(2145mgのタンパク質を含有))を摂取後、ただちに経口糖認容力試験糖質液を摂取した。試料摂取後30分ごとに240分目まで初期血糖値と同様の方法で血糖値測定を行った。対照区としては同重量のイカ可食部(外套筋肉)または同容量・同タンパク質量のカゼイン溶液を摂取した。血糖値変化は初期血糖値を100%として相対血糖値で示した。
【0023】
1-9 統計処理
得られた実験データは各項目で平均値および標準偏差を算出し、有意差検定を行った。有意水準は危険率5%あるいは1%とし、P<0.05の場合には統計学的に有意、P<0.01の場合では統計学的にきわめて有意とした。
【0024】
2.試験結果
2-1. スルメイカ内臓ホモジネートの単回投与がラット糖負荷試験に与える影響
10週齢Wistar系ラットにスルメイカ内臓ホモジネートをゾンデにより単回経口投与した結果を図1に示す。糖負荷試験において、スルメイカ内臓ホモジネート投与群と蒸留水投与群との間で相対血糖値に差は認められなかった。しかしながら、図2に示すように、血中インスリン濃度に関しては糖負荷試験開始15分目以降のすべての採血時において有意差が得られ、イカ内臓ホモジネートを投与した群は蒸留水を投与した群と比較して、血中インスリン濃度が高く(P<0.05)、特に60分目では顕著な有意差が得られた(P<0.01)。これらの結果から、健康体のWistar系ラットにイカ内臓ホモジネートを投与すると、糖負荷による血糖値上昇は抑制されなかったが、インスリン分泌量が有意に増加することが明らかになった。
【0025】
2-2. スルメイカ水抽出物の粗精製物の単回投与がラット糖負荷試験に与える影響
Wistar系ラットおよびGKラットに水抽出物の粗精製物をゾンデにより単回経口投与したときの血糖値変化を図3に示す。Wistar系ラットでは水抽出物の粗精製物投与群と蒸留水投与群との間に差は認められなかったが、GKラットでは経口投与後30、60、120分目において、水抽出物の粗精製物投与群の相対血糖値が蒸留水投与群の相対血糖値よりも有意に低い(P<0.01)という結果が得られた。一方、血中インスリン濃度については、Wistar系ラット、GKラットともに蒸留水投与群よりも水抽出物の粗精製物投与群の方が血中インスリン濃度が高いという結果が得られた(図4)。Wistar系ラットでは糖負荷後15、30、60分目において有意な差(P<0.05)が得られ、GKラットでは15、60、120分目において有意な差(P<0.05)、30分目において極めて有意な差(P<0.01)が得られた。
【0026】
2-3. スルメイカ内臓の単回摂取がヒト糖負荷試験に与える影響
正常型と判定されたヒトにスルメイカ内臓30gを摂取させ、糖負荷試験を行った時の相対血糖値変化を図5に示す。スルメイカ内臓を経口投与した場合、30分から90分目の間でスルメイカ可食部を摂取したときよりも相対血糖値が低かった。しかしながら、その後スルメイカ可食部を摂取した場合は血糖値が徐々に低下したのに対し、スルメイカ内臓を摂取した場合は60分目以降に血糖値が再上昇し、その後穏やかに血糖値が低下した。このことから、正常型ヒトでの糖負荷試験では、明確な血糖値上昇抑制効果は認められなかった。
一方,境界型と判定されたヒトにスルメイカ内臓30gを摂取させ、糖負荷試験を行った時の相対血糖値変化を図6に示す。スルメイカ可食部を摂取した場合90分目で最大血糖値(280%)に達し、その後低下した。一方でスルメイカ内臓を摂取した場合は、30分目で最大値(180%)に達し、その後は穏やかに血糖値が低下した。このことから、境界型のヒトでのスルメイカ内臓摂取時の糖負荷試験では、明らかな血糖値上昇抑制効果が認められた。
【0027】
2-4.
水抽出物の粗精製物の単回摂取がヒト糖負荷試験に与える影響
正常型と判定されたヒトに、水抽出物の粗精製物54mlを摂取させ糖負荷試験を行った場合の相対血糖値変化を図7に示す。対照区であるカゼイン溶液を摂取させた場合の相対血糖値は糖負荷後30分目で最大相対血糖値150%に達し、その後穏やかに血糖値は低下した。一方水抽出物の粗精製物を摂取したときは60分目で最高血糖値が200%に達し、その後穏やかに血糖値は低下した。 このことから、正常型のヒトでは水抽出物の粗精製物の明確な血糖値上昇抑制効果は認められなかった。
一方、境界型と判定されたヒトに、水抽出物の粗精製物65mlを摂取させ糖負荷試験を行った場合の相対血糖値変化を図8に示す。対照区であるカゼイン溶液を摂取した場合も、水抽出物の粗精製物を摂取した場合も最高血糖値は糖負荷後60分目に観察されたが、相対血糖値はカゼイン溶液摂取では280%、水抽出物の粗精製物摂取では160%であった。このことから、境界型ヒトでの水抽出物の粗精製物摂取時の糖負荷試験では明らかな血糖値上昇抑制作用が認められた。
同時に測定した血圧、心拍数には影響は認められなかった。
【0028】
3.考察
スルメイカ内臓ホモジネートおよび水抽出物の粗精製物ともに、2型糖尿病モデルGKラットではインスリン分泌量増加および血糖値上昇抑制効果が認められた。一方、健康体Wistar系ラットを用いた試験ではインスリン分泌量増加は見られたが、血糖値上昇抑制効果は認められなかった。また、スルメイカ内臓および水抽出物の粗精製物ともに、境界型と判定された被験者では血糖値上昇抑制効果を示したが、正常型のヒトに対しては示さなかった。従って、スルメイカ内臓および水抽出物の粗精製物は2型糖尿病またはその予備軍の場合に血糖値上昇抑制効果を示し、健康体の場合には影響を及ぼさないと考えられた。ラットへの糖負荷試験時の血中インスリン濃度の結果から、血糖値上昇抑制効果はインスリン分泌が促進されることによって生ずることが示唆された。また、Wistar系ラットおよび正常型のヒトでの結果より、インスリン分泌量が一定量以上ある場合には血糖値上昇抑制効果は認められず、健康体のヒトが摂取しても低血糖を引き起こさないことが示唆された。
本研究のラットおよびヒトでの実験系においては、本発明の組成物摂取による消化不良や下痢等の症状は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
糖尿病患者あるいは糖尿病予備軍のための血糖値の上昇を抑制する医薬品、サプリメント、あるいは機能性食品を提供することができる。また、これまで有効な用途がなかったイカの肝臓以外の内臓から分離精製することができるため、廃棄物として処理されていた水産加工残渣の有効利用を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】Wistar系ラットでのスルメイカ内臓ホモジネート経口投与時の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図2】Wistar系ラットでのスルメイカ内臓ホモジネート経口投与時の糖負荷試験におけるインスリン濃度変化を示した図である。
【図3】Wistar系ラットおよびGKラットでのスルメイカ内臓由来水抽出物の粗精製物経口投与時の糖負荷試験における相対血糖値変化を示した図である。
【図4】Wistar系ラットおよびGKラットでのスルメイカ内臓由来水抽出物の粗精製物経口投与時の糖負荷試験における血中インスリン濃度変化を示した図である。
【図5】正常型ヒトでのスルメイカ内臓を用いた糖負荷試験時の相対血糖値変化を示した図である。
【図6】境界型ヒトでのスルメイカ内臓を用いた糖負荷試験時の相対血糖値変化を示した図である。
【図7】正常型ヒトでの水抽出物の粗精製物を用いた糖負荷試験時の相対血糖値変化を示した図である。
【図8】境界型ヒトでの水抽出物の粗精製物を用いた糖負荷試験時の相対血糖値変化を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分を有効成分として含有する糖尿病の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項2】
イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分の水性溶媒抽出物を有効成分として含有する請求項1の糖尿病の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項3】
水性溶媒抽出物が水抽出物である請求項2の糖尿病の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項4】
イカ類の内臓のうち肝臓と墨を除いた部分の水性溶媒抽出物をさらに精製した組成物を有効成分として含有する請求項2又は3の組成物。
【請求項5】
水抽出物の精製が酸沈殿及び/又は加熱沈殿により不溶成分を除去によることを特徴とする請求項4の組成物。
【請求項6】
水抽出物の精製がゲルろ過及び/又はイオン交換クロマトグラフィーによる精製であることを特徴とする請求項4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれかの組成物を食品に添加したことを特徴とする糖尿病の予防及び/又は治療のために摂取する機能性食品。
【請求項8】
イカ類の内臓(肝臓と墨を除く)を5〜200g、又は該量のイカ類の内臓(肝臓と墨を除く)からの水抽出物又はその精製物を1日摂取量として食品に添加したことを特徴とする請求項7の機能性食品。
【請求項9】
請求項7又は8の機能性食品であって、その食品の用法・用量を食品の容器あるいは包装に記載されていることを特徴とする機能性食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−266208(P2008−266208A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111547(P2007−111547)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000004189)日本水産株式会社 (119)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】