説明

糖尿病発症トランスジェニックブタ及びその作出方法

【課題】 げっ歯類よりもヒトのモデルとして適切な糖尿病発症トランスジェニック動物及びその作出方法を提供すること。
【解決手段】 トランスジェニックブタの作出方法は、肝細胞核因子−1αの二量化ドメインをコードする領域を含むが、正常な肝細胞核因子−1αをコードしない外来遺伝子と、該外来遺伝子の上流に位置し、ブタ細胞内で該外来遺伝子を発現させることができるプロモーターとを含む核酸を、受精卵若しくはクローン卵又は胚に導入し、該受精卵若しくはクローン卵又は胚から個体を発生させることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病発症トランスジェニックブタ及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝細胞核因子(Hepatocyte Nuclear Factor、HNF)は転写調節に関わっている因子であり、HNF-1α、HNF-1β、HNF-4αなどが知られている。HNF-1αに変異が起こると転写調節が出来ないために、インスリン遺伝子、グルコーストランスポーター2遺伝子、グルコキナーゼ遺伝子の発現が不全となり、さらに膵臓β細胞の発育も不全となるために糖尿病を発症する。全糖尿病の2〜3%を占める若年性成人発症型糖尿病(MODY)は若年発症、常染色体優性遺伝形式で糖尿病が発症し、現在まで6つの原因遺伝子が同定されている。これらの内、HNF-1αの遺伝子異常はMODY3の原因遺伝子と同定され、日本人MODYの中で最も頻度が高い。現在までに2つのグループによりHNF-1αの変異体遺伝子:HNF-1αP291fsinsCを導入することで、糖尿病発症トランスジェニックマウスを作製した報告がある。
【0003】
【非特許文献1】Endocrinology Vol.142, 5311-5320, 2001 KERSTIN A. HAGENFELDT-JOHANSSON et al. β-Cell-Targeted Expression of a Dominant-Negative Hepatocyte Nuclear Factor-1α Induces a Maturity-Onset Diabetes of the Young(MODY)3-Like Phenotype in Transgenic Mice.
【非特許文献2】Diabetes Vol51, 114-123, 2002 Kazuya Yamagata et al. Overexpression of Dominant-Negative Mutant Hepatocyte Nuclear Factor-1α in Pancreatic β-Cells Causes Abnormal Islet Architecture With Decreased Expression of E-Cadherin, Reduced β-cell Proliferation, and Diabetes.
【非特許文献3】Kurome M, Fujimura T, Murakami H, Takahagi Y, Wako N, Ochiai T, Miyazaki K, Nagashima H. Compalison of electro-fusion and intracytoplasmic nuclear injection methods in pig cloning. Cloning and Stem Cells 2003; 5: 367-378
【非特許文献4】Kurihara T, Kurome M, Wako N, Ochiai T, Mizuno K, Fujimura T, Takahagi Y, Murakami H, Kano K, Miyagawa S, Shirakura R, Nagashima H. Developmental competence of in vitro matured porcine oocyte after electrical activation. J Reprod Dev 2002; 48: 271-279
【非特許文献5】Pursel VG, Hohnson LA. Freezing of boar spermatozoa: Freezing capacity with concentrated semen and a new thawing procedure. J. Anim. Sci. 1975; 40: 99-102
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
様々な遺伝子を導入したトランスジェニックマウスおよび様々な遺伝子を破壊したノックアウトマウスは作製されているが、げっ歯類であるマウスとヒトとの遺伝的、生理学的差は大きく、ヒトのモデルとしては不適切な部分も多い。
【0005】
従って、本発明の目的は、げっ歯類よりもヒトのモデルとして適切な糖尿病発症トランスジェニック動物及びその作出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、ブタは遺伝的、生理的にヒトに近いとされており、さらに食生活においても雑食性でヒトと同じものを食べることから食生活が及ぼす糖尿病への影響を調べるためや糖尿病治療の開発においても良いモデルになると考えた。そして、肝細胞核因子−1αの二量化ドメインをコードする領域を含むが、正常な肝細胞核因子−1αをコードしない外来遺伝子を受精卵若しくはクローン卵又は胚に導入し、該受精卵若しくはクローン卵又は胚から個体を発生させることにより、糖尿病発症トランスジェニックブタを作出できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、肝細胞核因子−1αの二量化ドメインをコードする領域を含むが、正常な肝細胞核因子−1αをコードしない外来遺伝子と、該外来遺伝子の上流に位置し、ブタ細胞内で該外来遺伝子を発現させることができるプロモーターとを含む核酸を、受精卵若しくはクローン卵又は胚に導入し、該受精卵若しくはクローン卵又は胚から個体を発生させることを含む、糖尿病を発症するトランスジェニックブタの作出方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法により作出され、糖尿病を発症しているトランスジェニックブタ又は前記外来遺伝子を維持し、糖尿病を発症しているその子孫を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、HNF-1αの変異体遺伝子が導入され、糖尿病を発症するトランスジェニックブタが初めて提供された。ブタは遺伝的、生理的にヒトに近いので、本発明のトランスジェニッククローンブタは糖尿病の発症メカニズム、治療方法の開発を行なうのに適したモデル動物として利用可能であるので、本発明はヒトの糖尿病研究に大いに貢献するものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記の通り、本発明の糖尿病発症トランスジェニックブタの作出方法では、HNF-1αの二量化ドメイン(dimerization domain)をコードする領域を含むが、正常な肝細胞核因子−1αをコードしない外来遺伝子を受精卵若しくはクローン卵又は胚(以下、便宜的に「受精卵等」と呼ぶことがある)に導入する。HNF-1αの二量化ドメインは、HNF-1αの5'末端領域に位置する。例としてヒトHNF-1α遺伝子の塩基配列を、それがコードする推定アミノ酸配列と共に配列表の配列番号29に示す。なお、この配列は公知であり、GenBank Accession No. M57732に記載されている。配列番号29に示すアミノ酸配列の1番目〜32番目(以下、例えば1番目のアミノ酸を「1aa」のように示す)が二量化ドメインである。ちなみに、配列番号29に示すアミノ酸配列の150aa〜280aaがホメオボックスDNA結合ドメイン (Homeobox DNA-binding domain)、281aa〜631aaがトランス活性化ドメイン(transactivation domain)である。二量化ドメインは、他のHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成する領域であり、この領域が正常に存在すれば、他のHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成することが可能である。本発明の方法において、トランスジェニックブタ作出に用いる外来遺伝子は、HNF-1αの二量化ドメインをコードする領域を含むが、正常なHNF-1αをコードしないものである。なお、ここで、「正常なHNF-1α」とは、他のHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成して、機能する転写因子を与えるHNF-1αを意味する。本発明の方法で用いられる外来遺伝子は、二量化ドメインをコードするが、正常なHNF-1αをコードしないので、他のHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成することは可能であるが、ホモダイマー又はヘテロダイマーを形成してもそれは転写因子として機能しない。
【0010】
本発明の方法で用いる変異型HNF-1α遺伝子は、好ましくは、上記二量化ドメインとホメオボックスDNA結合ドメインをコードする領域を含み、ホメオボックスDNA結合ドメインよりも下流のトランス活性化ドメインが破壊されたものである。このような破壊は、HNF-1αの二量化ドメインよりも下流の位置、好ましくはホメオボックスDNA結合ドメインよりも下流の位置、すなわちトランス活性化ドメイン中にフレームシフト突然変異又はナンセンス突然変異を導入することによりもたらすことができる。トランス活性化ドメイン内の上流部分、好ましくはトランス活性化ドメイン内の5'端から1〜100番目の塩基(以下、塩基配列中、5'端から1番目の塩基を「1nt」のように記載)、さらに好ましくは1〜50ntの領域内にフレームシフト突然変異又はナンセンス突然変異を導入すると、その変異点よりも下流の部分が欠失したり無意味な構造となるので、転写活性を確実に喪失させることができる。このような突然変異は、ナンセンス突然変異か、変異点の下流にストップコドンを生じるフレームシフト突然変異が好ましい。下記実施例では、ヒトHNF-1α遺伝子(配列番号29)の888nt〜895ntにあるcが8個連続する領域にさらにcを1個挿入して、969nt〜971ntにストップコドンを生じるフレームシフト突然変異を導入している。
【0011】
HNF-1αの二量化ドメインは、哺乳動物の種を越えてよく保存されているので、HNF-1α遺伝子はいずれの種由来のHNF-1α遺伝子を用いてもよい。ヒト由来のHNF-1α遺伝子は、配列番号29に示すように、既にその全塩基配列が明らかにされ、上記のように各ドメインの領域も特定されており、さらに、市販の肝細胞cDNAライブラリーを鋳型としたPCRにより容易に調製することができるので、ヒトHNF-1α遺伝子に上記変異を導入して好ましく用いることができる(下記実施例参照)。
【0012】
上記のような、HNF-1αの正常な二量化ドメインをコードするが、正常なHNF-1αをコードしない外来遺伝子を導入して作出したトランスジェニックブタでは、導入された外来遺伝子の発現により生産される変異型HNF-1αが、ブタ由来の正常なHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成し、変異型HNF-1αを含むホモダイマー又はヘテロダイマーは、転写因子として機能しない。このため、ブタ由来の正常なHNF-1αが生産されても、それが変異型HNF-1αとホモダイマーを形成したり、あるいは、変異型HNF-1αが正常なHNF-1α又は HNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成して正常なブタ由来のHNF-1αが正常なHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成する機会が減少することにより、ブタ由来の正常なHNF-1α遺伝子が存在しているにもかかわらず、機能する転写因子の量は減少する。特に、外来遺伝子のプロモーターとして強力なプロモーターを用いると、外来遺伝子由来の変異型HNF-1αが大量に生産され、ブタ由来の正常なHNF-1αが、機能する転写因子を形成する確率が大幅に少なくなり、正常な転写因子の量が大幅に少なくなる。このため、トランスジェニックブタは糖尿病を発症する。
【0013】
上記のような変異型HNF-1α遺伝子を外来遺伝子として用いる点を除けば、通常のトランスジェニック動物の作出方法を駆使して本発明のトランスジェニックブタを作出することができる。すなわち、上記変異型HNF-1α遺伝子の上流に、該変異型HNF-1α遺伝子の発現を制御するプロモーターを組み込んだ核酸を、常法である前核注入法や精子ベクター法により受精卵等に注入し、適当な段階で胚を仮親の子宮に戻して個体を発生させることにより本発明のトランスジェニックブタを得ることができる。なお、肝臓、腎臓、小腸および膵臓で発現しているHNF-1αであるが、変異型HNF-1αを、膵細胞中で発現させるために、プロモーターとしては、膵細胞中で強力なプロモーター活性を発揮するものが好ましく、例えば、ブタインシュリンプロモーター等を好ましく用いることができる。ブタインシュリンプロモーター自体は公知であり(GenBank Accession No. AY044828, AF263916)、配列番号17に示す塩基配列を有する断片中に含まれている。なお、プロモーター配列がどこからどこまでかということは特定困難であるが、プロモーターを含む核酸断片は容易に得ることができる。後述のように、本発明のトランスジェニックブタ作出用核酸を構築するにあたり、プロモーターのみを単離する必要はなく、プロモーターを含む核酸断片を用いることができる。通常、プロモーターは、転写開始点から150塩基程度上流までの断片に含まれているので、この部分を少なくとも含む断片で、下流の構造遺伝子の発現を制御できるプロモーター含有断片を用いることができる。従って、下記実施例では、ブタインシュリンのエキソン2の一部までを含む674bpの断片(配列番号17)を、ブタインシュリンプロモーター含有断片として用いているが、このように大きなサイズの断片を用いる必要はなく、転写開始点を基準にして-150〜0bp程度の位置の断片をプロモーター含有断片として用いることが可能である。もっとも、転写が確実に起きるように、プロモーター含有断片に転写開始点及びその下流の短い領域も含めておくことが好ましく、転写開始点を基準として、15bp〜50bp程度下流まで含めておくことが好ましい。なお、ブタ膵細胞中で、プロモーター活性を発揮するプロモーターであれば、ブタインシュリンプロモーター以外のプロモーターを用いることもできる。
【0014】
上記プロモーターの下流に、上記変異型HNF-1α遺伝子を連結してもよいが、プロモーターの下流にウサギβ−グロビン遺伝子(エクソン3の下流にターミネーター(polyA)配列を含む)を連結し、そのエキソン3中に変異型HNF-1α遺伝子を挿入することが好ましい。ウサギβ−グロビンのエクソン3を使用しているのは、エクソン3に存在する3'非翻訳領域に、宿主細胞中で転写されたmRNAの安定性を高める(すなわち、mRNAが分解されにくくする)効果があるためである。また、ウサギβ−グロビン遺伝子のエキソン3中に変異型HNF-1α遺伝子を挿入すると、プロモーターと変異型HNF-1α遺伝子の間には、ウサギβ−グロビンのエクソン2及びエクソン3の一部が位置するが、これにより転写開始点と翻訳開始点の間にイントロンが存在するとタンパク発現が高まるため好ましい。なお、ウサギβ−グロビン遺伝子由来の領域は、エクソン1を含んでおらず、開始コドンが存在しないため、翻訳はされない。ウサギβ−グロビン遺伝子はその塩基配列も公知であり(GenBank Accession No. V00882)、ウサギのゲノムDNAを鋳型としたPCRにより容易に調製可能である。β−グロビン遺伝子のエクソン2及びエクソン3の他にこのような作用を持つ遺伝子として、α−グロビン遺伝子の3'非翻訳領域、ウシ成長ホルモン(BGH)のpolyAテールも知られており、これらを用いることもできる。
【0015】
プロモーターの下流にウサギβ−グロビン遺伝子が連結され、そのエキソン3中に変異型HNF-1α遺伝子を挿入した直鎖状の核酸断片は、例えばpBluescriptシリーズ(商品名、Stratagene社製)のような市販のクローニングベクターのマルチクローニング部位にプロモーター含有断片とウサギβ−グロビン遺伝子を挿入し、ウサギβ−グロビン遺伝子のエキソン3中に変異型HNF-1α遺伝子を挿入して環状の組換えベクターを調製し、プロモーターからウサギβ−グロビン遺伝子のターミネーターまでを含む断片を制限酵素で切り出すことによって得ることができる(詳細は下記実施例参照)。なお、受精卵等に導入する核酸は、染色体DNA中に組み込まれる確率を高めるために直鎖状であることが好ましい。
【0016】
上記核酸断片を受精卵等に導入する点を除けば、本発明のトランスジェニックブタの作出方法は、従来のトランスジェニック動物の作出方法と同様に実施することができる。すなわち、上記した核酸断片を、受精卵若しくはクローン卵又は胚に常法である精子ベクター法や前核注入法により導入する(下記実施例参照)。ここでクローン卵は、除核したレシピエント卵に、体細胞の核(体細胞クローンの場合)又は受精卵の核(受精卵クローンの場合)を移植して得られた卵である。また、胚は、単細胞の卵から、子宮に戻して受胎が可能な胚(好ましくは脱出胚盤胞期胚)までの任意の段階の胚を意味する。もっとも、単細胞の卵の段階で遺伝子導入すれば、トランスジェニック動物の全細胞に遺伝子が含まれるので好ましい。遺伝子を導入した卵又は胚は、好ましくは、常法に従い、桑実期胚まで増殖させた後、動物の子宮に戻し、個体を発生させることができる。
【0017】
本発明の方法により作出された、導入した上記核酸断片が染色体DNA中に挿入されたトランスジェニックブタでは、機能を発揮できない変異型HNF-1αが生産され、これがブタ由来の正常なHNF-1α又は HNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成して正常なブタ由来のHNF-1αが正常なHNF-1α又はHNF-1βとホモダイマー又はヘテロダイマーを形成する機会が減少する。このため、ブタ由来の正常なHNF-1α遺伝子が存在しているにもかかわらず、機能する転写因子の量は減少し、トランスジェニックブタは糖尿病を発症する。
【0018】
本発明は、上記した本発明のトランスジェニックブタの作出方法により作出され、糖尿病を発症しているトランスジェニックブタ又は前記外来遺伝子を維持し、糖尿病を発症しているその子孫をも提供する。ここで、「子孫」とは、通常の有性生殖で得られた子孫のみならず、体細胞クローン技術により、そのトランスジェニック動物と同じ染色体遺伝子を有する体細胞クローン動物をも包含する意味で用いている。なお、体細胞クローン技術は既に常法となっており、具体的な手法が下記実施例に詳述されている。本発明の作出方法により作出されたトランスジェニック動物は、染色体DNA中に変異型HNF-1α遺伝子を含むので、これを核ドナーとして用いて得られる体細胞クローン動物は、当然、変異型HNF-1α遺伝子を含むものである。
【0019】
本発明のトランスジェニックブタは、糖尿病を発症している。ブタは遺伝的、生理的にヒトに近いとされており、さらに食生活においても雑食性でヒトと同じものを食べることから、本発明のトランスジェニックブタは、食生活が及ぼす糖尿病への影響を調べるためや糖尿病治療の開発においても良いモデルになる。
【0020】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0021】
1. ベクターの構築
ブタインスリンプロモーターによりヒトHNF-1αP291fsinsCを発現させるために2種類のベクター:CMVPINS-hHNF-1αP291fsinsCSVA及びPINS-globin-hHNF-1αP291fsinsCを次のようにして構築した。
【0022】
(1) CMVPINS-hHNF-1αP291fsinsCSVAの構築
まず、First Choice PCR-Ready Human Liver cDNA(Cat#3323、Ambion社製)をテンプレートにしてPCRを行い、2355bpのヒトHNF-1α cDNAの1部分(開始コドンからストップコドンは含む)をクローニングした。これは具体的には次のようにして行なった。ヒトHNF-1αのcDNA断片(2357bp)はFirst Choice PCR-Ready Human Liver cDNA(Ambion; Cat#3323) をテンプレートにし、制限酵素認識配列NcoI(CCATGG)を境にPCRを3つのパートに分けて行なった。
【0023】
クローニングしたHNF-1αの5'端部分(856bp)はnested PCRにより得た。1st PCRではプライマーにhHNF-1a-7/hHNF-1a-8:tggcagccgagccatggtttc/gcagcgcaggtcccgggcctgを使用してPCRにて調製した(フォワード側プライマーがhHNF-1a-7でその塩基配列がtggcagccgagccatggtttc、リバース側プライマーがhHNF-1a-8でその塩基配列がgcagcgcaggtcccgggcctg、以下、プライマーセットをこのように表示することがある)。PCRポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq (タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/10分間→(94℃/60秒→55℃/60秒→70℃/60秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCRプロダクトをテンプレートにして2nd PCRを行なった。プライマーはEcoRIの認識配列を付加したhHNF-1a-9:gaattctctaaactgagccagctgcagacgとhHNF-1a-10: ggtaccccatggccagcttgtgccggaaggを使用し、PCRにて調製した。PCR ポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ(株)を使用し、「94℃/10分間→(94℃/60秒→55℃/60秒→70℃/60秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR2.1-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0024】
クローニングしたHNF-1αの中央部分(772bp)はnested PCRにより得た。1st PCRではプライマーにhHNF-1a-3/ hHNF-1a-6:ggctgggctccaacctcgtcacgg /ggcgctcaggttggtggtgtcggtを使用してPCRにて調製した。PCR ポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/10分間→(94℃/60秒→55℃/60秒→70℃/60秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCRプロダクトをテンプレートにして2nd PCRを行なった。プライマーはhHNF-1a-13/hHNF-1a-12:caactggtttgccaaccggcgcaa /catagtctgcgggagcaggcccgtを使用し、PCRにて調製した。PCR ポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq (タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/10分間→(94℃/60秒→58℃/60秒→70℃/60秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR2.1-TOPO (Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0025】
クローニングしたHNF-1αの3'端部分(888bp)はPCRにより得た。プライマーにhHNF-1a-11:ggtaccccaccatggctcagctgcagagccとBamHIの認識配列を付加したhHNF-1a-2: ggatccacaaggccacgctgatccagggccを使用してPCRにて調製した。PCR ポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq (タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/10分間→(94℃/60秒→55℃/60秒→70℃/60秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR2.1-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0026】
pCR2.1-TOPOにサブクローニングした3'端部分をEcoRIとBamHIで処理すること切り出し、pBluescript SK(-)(商品名、Stratagene社製)のEcoRI/BamHIにライゲーションした。続いて、サブクローニングした5'端部分をEcoRIで切り出し、先の3'端部分をライゲーションしたpBluescript SK(-)のEcoRI部位にライゲーションし、ライゲーション断片の向きを確認した。さらに、サブクローニングした中央部分をNcoIで切り出し、5'端部分及び3'端部分をライゲーションしたpBluscript(商品名)のNcoIにライゲーションした。最後に、挿入した中央部分の向きを確認し、ヒトHNF-1αのcDNA断片(2357bp)を完成させた。得られたcDNA断片の塩基配列を配列番号11に示す。
【0027】
得られたヒトHNF1α cDNAの291番目のアミノ酸(プロリン)をコードする部分に存在する8塩基並ぶポリ「C」に、さらにQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(商品名)により「C」を1塩基付加させることによりhHNF1αP291fsinsCを構築した。本変異遺伝子の5'上流にブタインスリンプロモーターからエキソン2の一部を含む674bpの断片(配列番号17)を、3'下流には95bpのSV40 early polyadenylation signal(GenBank Accession No. U55762、配列番号20)を連結した。なお、上記674bpの断片は次のようにして調製した。すなわち、ブタインスリンプロモーター含有断片(674bp)はnested PCRにより得た。1st PCRではプライマーにpINSprom-1/pINSprom-2:ttggagatgagaagcaggggccag/ aggggcaggaggcgcgtccacaggを使用し、テンプレートにPig Genomic DNA (Seegene, GDPI2016-1)を使ってPCRにて調製した。PCRポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq (タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/25秒→72℃/180秒)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/180秒)32サイクル→67℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCRプロダクトをテンプレートにして2nd PCRを行なった。プライマーはそれぞれEcoRIの認識配列を付加したpINSprom-3/-4: gaattcaccgccgcagcagcccggggt/ gaattcggcggggggtgaggacctgggを使用し、PCRにて調製した。PCRポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq(タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/25秒→72℃/180秒)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/180秒)20サイクル→67℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR2.1-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。また、SV40 early polyadenylation signal(配列番号20)は、次のように調製した。すなわち、SV40 early polyadenylation signal(100bp)は、プライマーにそれぞれBamHIおよびXbaIの認識配列を付加したBSV40polyA1/XSV40polyA2:ggatccgcagcttataatggttac/ tctagaacaaaccacaactagaatを使用し、テンプレートにpEGFP-N1 (商品名、クローンテック社製)を使ってPCRにて調製した。PCRポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq (タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/3分間→(94℃/60秒→55℃/60秒→70℃/60秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR2.1-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0028】
ブタインスリンプロモーターとhHNF1αP291fsinsCを接続する為に使ったEcoRI制限酵素認識配列(gaattc)を翻訳開始点の配列(atggtt)に変換する為に、QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(商品名)により配列の変換を行なった。変換には2組のプライマーを用い、2度に分けて反応を行なうことで翻訳開始点を構築した。プライマーはmutATG-1/mutATG-2:cctcaccccccgccatattttctaaactgagc/gctcagtttagaaaatatggcggggggtgagg及びmutATG-3/mutATG-4:caccccccgccatggtttctaaactgagcc/ggctcagtttagaaaccatggcggggggtgを使用した。配列の変換後、シークエンスにより配列を確認した。
【0029】
さらに、本変異遺伝子の発現を高めるためにヒトサイトメガロウイルスimmediate early プロモーターのエンハンサー部分(GenBank Accession No. U55762、配列番号23)を連結させた。このエンハンサー部分は次のようにして調製した。すなわち、ヒトCMV immediate early promoterのエンハンサー部分(419bp)はプライマーにEcoRIの認識配列を付加したEcoCMVenS/ EcoCMVenA:gaattccgcgttacataacttacgg/gaattccaaaacaaactcccattgacを使用し、テンプレートにpEGFP-N1 (クローンテック)を使ってPCRにて調製した。PCR ポリメラーゼはPfuTurbo DNA polymerase(STRATAGENE社)を使用し、「95℃/3分間→(95℃/30秒→54℃/30秒→72℃/60秒)30サイクル→72℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR4Blunt-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0030】
最後に、連結させたエンハンサーの影響が他の遺伝子に及ばないように、本ベクターの5'端及び3'端にチキンβ-グロビン遺伝子よりクローニングしたインスレーター配列(GenBank Accession No. U78775、配列番号28)を含む断片を連結した。このインスレーター配列は次のようにして調製した。チキンゲノムDNAをテンプレートにし、プライマーにそれぞれEcoRVおよびEcoRIの認識配列を付加したEco5insulator-1/EcoInsulator-2:gatatcgggacagcccccccccaaagc/ gaattcctcactgactccgtcctggagとそれぞれXbaIおよびNotIの認識配列を付加したXbaInsulator-1/NotInsulator-2:tctagagggacagcccccccccaaagc/ gcggccgcctcactgactccgtcctggagの2組のプライマーでPCRを行なった。PCRポリメラーゼはTaKaRa Ex Taq (タカラバイオ社製)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/25秒→70℃/180秒)5サイクル→(94℃/25秒→65℃/180秒)20サイクル→67℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はそれぞれpCR2.1-TOPO (Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0031】
上記で構築した、組換えベクターpBS-CMVPINS-hHNF-1αP291fsinsCSVAをKpnIとNotIで消化して2つに切断し、消化物をアガロースゲル電気泳動にかけて2つの断片を分離した。hHNF-1αP291fsinsCを含むKpnIからNotIの断片をアガロースゲルから切り出し、GENECLEAN(商品名)にて精製して、トランスジェニック動物作出用核酸(CMVPINS-hHNF1αP291fsinsCSVA)を得た。CMVPINS-hHNF1αP291fsinsCSVAの遺伝子地図を図1に示す。これを、pH7.5に調整したTE bufferで50ng/μl濃度に希釈して凍結保存し、後述する前核へのマイクロインジェクションに用いた。
【0032】
(2) PINS-globin-hHNF1αP291fsinsCの構築
まず、ウサギβ-グロビンのエキソン2〜ポリアデニレーション部位を含む864bpのBamHI-XbaIフラグメントをpBluescript(商品名)のBamHI-XbaI部位に導入した。なお、この864bpのBamHI-XbaIフラグメントを含む断片は次のようにして調製した。まず、ウサギβ-グロビンのエキソン2〜ポリアデニレーションシグナル部位を含む断片を調製した(配列番号31)。これは、ウサギゲノムDNAを鋳型とし、フォワード側プライマーとしてctgagtgaactgcactgtgac、リバース側プライマーとしてtctagatatgtccttccgagtgagaを用いたPCRにより調製した。なお、リバース側プライマーにはXbaI部位が5'末端に付加してある。PCR ポリメラーゼはPfuTurbo DNA polymerase(商品名、STRATAGENE社)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/25秒→72℃/180秒)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/180秒)35サイクル→67℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR4Blunt-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。最後に、制限酵素BamHIとXbaIにより切り出し、ウサギβ−グロビン遺伝子の864bpのBamHI-XbaI断片を作製した。
【0033】
続いてブタインスリンプロモーターからエキソン2の一部を含む665bpのEcoRV-BamHIフラグメント(配列番号38)をEcoRV-BamHIに導入した。なお、この665bpのEcoRV-BamHIフラグメントは次のようにnested PCRにより調製した。1st PCRではプライマーにpINSprom-1/pINSprom-2:ttggagatgagaagcaggggccag/ aggggcaggaggcgcgtccacaggを使用し、テンプレートにPig Genomic DNA (Seegene, GDPI2016-1)を使ってPCRにて調製した。PCRポリメラーゼはPfuTurbo DNA polymerase(STRATAGENE社)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/25秒→72℃/180秒)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/180秒)32サイクル→67℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCRプロダクトをテンプレートにして2nd PCRを行なった。プライマーはそれぞれEcoRVおよびBamHIの認識配列を付加したpINSprom-5/-6: gatatcaccgccgcagcagcccggggt/ggatcctgaggacctgggggacgggcgを使用し、PCRにて調製した。PCRポリメラーゼはPfuTurbo DNA polymerase(STRATAGENE社)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/25秒→72℃/180秒)7サイクル→(94℃/25秒→67℃/180秒)20サイクル→67℃/420秒→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR4Blunt-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0034】
最後に、ウサギβ-グロビンのエキソン3に存在するEcoRIの部位に、両端にEcoRI認識部位を付加したhHNF1αP291fsinsCのcDNA(配列番号41)を導入し、シークエンスによりcDNAの向きを確認してpBS-PINS-globin-hHNF1αP291fsinsCを構築した。この両端にEcoRI認識部位を付加したhHNF1αP291fsinsCのcDNAは、templateに先に構築した組換えベクターpBS-CMVPINS-hHNF-1αP291fsinsCSVAを、プライマーとして5'にEcoRI配列を付加したEco1HNF1a-16/Eco1HNF1a-17:gaattcccgagccatggtttctaaactgagccagc/ gaattcacaaggccacgctgatccagggccを使用してPCRにて調整した。PCRポリメラーゼはPfuTurbo DNA polymerase(STRATAGENE社)を使用し、「94℃/180秒→(94℃/60秒→55℃/60秒→72℃/180秒)30サイクル→4℃/∞」の反応条件で反応を行なった。得られたPCR産物はpCR4Blunt-TOPO(Invitrogen社)にサブクローニングし、その後シークエンスにて配列を確認した。
【0035】
上記で構築した、組換えベクターpBS-PINS-globin-hHNF1αP291fsinsCはKpnIとNotIで消化して2つに切断し、消化物をアガロースゲル電気泳動にかけて2つの断片を分離した。hHNF-1αP291fsinsCを含むKpnIからNotIの断片をアガロースゲルから切り出し、GENECLEAN(商品名)にて精製して、トランスジェニック動物作出用核酸(PINS-globin-hHNF1αP291fsinsC)を得た。PINS-globin-hHNF1αP291fsinsCの遺伝子地図を図2に示す。これは、pH7.5に調整したTE bufferで50ng/μl濃度に希釈し、使用時まで凍結保存した。
【0036】
2. 精子ベクター法による核ドナー細胞の確立
改良したNCSU23培養液(非特許文献3)あるいはTCM199培養液(非特許文献4)中で成熟した卵母細胞を単純DCパルス(150V/mm, 100μsec)によって活性化し、その後7.5μg/mlサイトカラシンBで3〜4時間処理した。活性化された卵母細胞は7日間培養された。BTS(非特許文献5)またはBF5(非特許文献5)溶液中に冷凍保存されたブタ精子を2-5 X 105個の濃度に調整し、CMVPINS-hHNF1αP291fsinsCSVA DNA(2.5ng/μl)と共に5分間共存培養した。この後、単離された精子をIVM卵母細胞にピエゾ型微細細胞操作器(マイクロマニュピレーター)により注入し、上記の方法で同様に電気刺激により活性化した。精子を注入された卵母細胞は6日間NCSN23培養液中で培養され胚盤胞に発育した。これらの胚盤胞を6匹のレシピエントブタに移植した。
【0037】
胚盤胞移植35日後、帝王切開により6匹のレシピエントブタから4匹の胎児がえられた。PCRおよびサザンブロティングによるトランスジーンの確認の結果、このうち2匹がトランスジェニック個体であることが判明した。
【0038】
トランスジェニック胎児をはさみにより細断し、PBS(-)で洗浄後、1200rpmで5分間遠心分離処理して上清と沈殿に分離した。この沈殿に0.25%トリプシン-0.01%EDTAを加え37℃で5分間インキュベーションした。続いて400rpmで5分間遠心分離処理し、上清に含まれる細胞を回収して15%ウシ胎児血清(FCS)含有Dulbeco's Modified Eagle's Medium(DMEM)に分散させた。沈殿に再度0.25%トリプシン-0.01%EDTA処理からの過程を繰り返し、細胞分散溶液を得た。最後に、2度の細胞分散溶液を1200rpmで5分間遠心分離処理して得られた沈殿を5%CO2、37.5℃でインキュベーターにより培養することで核ドナー細胞を確立した。
【0039】
NCSU23培養液組成
NaCl 108.73mM, KCl 4.78mM, CaCl2・2H2O 1.70mM, MgSO4・7H2O 1.19mM, NaHCO3 25.07mM, KH2PO4 1.19mM, グルコース 5.55mM, グルタミン 1.00mM, タウリン 7.00mM, ヒポタウリン 5.00mM, BSA 0.4%, ペニシリンG 100IU/L, ストレプトマイシン 50mg/L
【0040】
TCM199培養液組成
CaCl2(無水) 200.00mg/L, Fe(NO3)3・9H2O 0.72mg/L, KCl 400.00mg/L, MgSO4(無水) 97.67mg/L, NaCl 6800.00mg/L, NaH2PO4・H2O 140.00mg/L, アデノシン硫酸 10.00mg/L, ATP(2Na塩)1.00mg/L, アデニル酸 0.20mg/L, コレステロール 0.20mg/L, デオキシリボース 0.50mg/L, D-グルコース 1000.00mg/L, グルタチオン(GSH) 0.05mg/L, グアニン・HCl 0.30mg/L, ヒポキサンチン(Na塩) 0.351mg/L, フェノールレッド 20.00mg/L, リボース0.50mg/L, 酢酸ナトリウム 50.00mg/L, チミン 0.30mg/L, Tween 80(登録商標) 20.00mg/L, ウラシル 0.30mg/L, キサンチン(Na塩) 0.344mg/L, DL-アラニン 50mg/L, L-アルギニン・HCl 70.00mg/L, DL-アスパラギン酸 60.00mg/L, L-システイン・HCl・H2O 0.11mg/L, L-シスチン・2HCl 26.00mg/L, DL-グルタミン酸・H2O 150.00mg/L, L-グルタミン 100.00mg/L, グリシン 50.00mg/L, L-ヒスチジン・HCl・H2O 21.88mg/L, L-ヒドロキシプロリン 10.00mg/L, DL-イソロイシン 40.00mg/L, DL-ロイシン 120.00mg/L, L-リジン・HCl 70.00mg/L, DL-メチオニン 30.00mg/L, DL-フェニルアラニン 50.00mg/L, L-プロリン 40.00mg/L, DL-セリン 50.00mg/L, DL-トレオニン 60.00mg/L, DL-トリプトファン 20.00mg/L, L-チロシン(2Na塩) 57.88mg/L, DL-バリン 50.00mg/L, アスコルビン酸 0.05mg/L, α-トコフェロールホスフェート(2Na塩) 0.01mg/L, d-ビオチン 0.01mg/L, カルシフェロール 0.10mg/L, p-パントテン酸カルシウム 0.01mg/L, 塩酸コリン 0.50mg/L, 葉酸 0.01mg/L, i-イノシトール 0.05mg/L, メナジオン 0.01mg/L, ナイアシン 0.025mg/L, ナイアシンアミド 0.025mg/L, p-アミノ安息香酸 0.05mg/L, ピリドキサール・HCl 0.025mg/L, ピリドキシン・HCl 0.025mg/L, リボフラビン 0.01mg/L, チアミン・HCl 0.01mg/L, ビタミンA(アセテート) 0.14mg/L
【0041】
BTS溶液組成
無水デキストロース 3.7g/100mL, クエン酸ナトリウム二水塩 0.6g/100mL, 炭酸水素ナトリウム 0.125g/100mL, EDTA 2Na 0.125g/100mL, 塩化カリウム 0.075g/100mL
【0042】
BF5溶液組成
Ter-N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル2アミノエタンスルフォン酸 1.2g/100mL, トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン 0.2g/100mL, 無水デキストロース 3.2g/100mL, 卵黄 20mL/100mL, Orbus BSペースト 0.5mL/100mL
【0043】
3. 体細胞核移植
食肉工場から卵巣を75μg/mlペニシリンG、50μg/ml硫酸ストレプトマイシン、0.1%ポリビニルアルコールを添加したダルベッコPBS(PBS(-)-PVA)内に入れ、24〜30℃に加温した状態で輸送した。輸送してきた卵巣は0.2%セチルトリメチルアンモニウムブロミド (CETAB)、続いてPBS(-)-PVAで3回洗浄した後、38.5℃の恒温槽で待機させた。続いて、38.5℃に加温した状態で20Gの注射針と5mlシリンジを使い、直径3〜6mmの卵胞から卵胞液ごと卵を吸引した。得られた卵胞液は800rpmで2分間遠心分離することにより、卵を沈殿させた。得られた卵をTL-Hepes-PVPに分散させ、顕微鏡下で卵丘細胞が多量に付着しており、且つ卵の細胞質が正常な卵丘卵子複合体を選別し、NCSU23に0.6mMシステイン、10μg/ml上皮増殖因子(EGF)、10%ブタ卵胞液、70μg/mlペニシリンG、50μg/ml硫酸ストレプトマイシン、10IU/mlウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)、10IU/mlヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)を添加した培養液で5%CO2、38.5℃でインキュベーターにより培養した。体外成熟培養開始から22時間後にホルモンを除いたNCSU23に移し変え、さらに22時間培養した。
【0044】
体外成熟培養が終了した卵を0.01%ヒアルロニダーゼで処理した後、TL-Hepes-PVPのドロップ内においてピペッティングにより卵丘細胞、顆粒層細胞を除去した。次に、成熟卵の特徴である第一極体の放出を起こした卵のみを選別し、これをレシピエント卵とした。この際、死んだ卵および細胞質の形状がいびつな卵などは排除した。
【0045】
レシピエント卵は7.5μg/mlサイトカラシンB、10%ウシ胎児血清(FCS)を添加したTL-Hepes-PVP内で、先端が鋭角の口径30μmのピペットを用いてマイクロマニピュレーションにより第一極体周辺の細胞質を吸引して除核した。除核した卵は5μg/mlヘキスト33342を添加したTL-Hepes-PVPドロップ内に入れて5分間染色し、蛍光顕微鏡により除核が成功したか否かを確認した。
【0046】
レシピエント卵を10%ウシ胎児血清(FCS)添加TL-Hepes-PVPのドロップ内に、核ドナー細胞は0.1%トリプシン-0.01%EDTAにより剥がした後、10%ウシ胎児血清(FCS)添加NCSU23-Hepes(NCSU23に21mM Hepesを添加)のドロップ内に入れて待機させた。先端が鋭角の口径30μmのピペットを用いて、除核の際に出来た透明帯の穴からマイクロマニピュレーションによりレシピエント卵の囲卵腔に核ドナー細胞を挿入した。細胞挿入された卵を細胞融合用マンニトール液(0.3Mマンニトールに50μM塩化カルシウム、100μM塩化マグネシウム、0.01%ポリビニルアルコールを添加)のドロップ内に入れ、卵と囲卵腔に挿入された細胞の接触面が電流に対して垂直になるように電極で挟み、細胞融合装置(島津製作所製SSH-1)により細胞融合を行なった。細胞融合は「交流1MHz、5V、5sec、直流200V/mm、10μsec、1回」の条件で行なった。
【0047】
細胞融合1〜1.5時間後、電気刺激による活性化を行なった。活性化はスライドガラス上に平行に置かれた電極間(幅1mm)に活性化用マンニトール液(0.3Mマンニトールに50μM塩化カルシウム、100μM塩化マグネシウム、0.01%ポリビニルアルコールを添加)のドロップを作り、細胞融合に成功した核移植胚を顕微鏡下で一列に並べ、細胞融合装置(島津製作所製SSH-1)により「直流100V/mm、100μsec、1回」の条件で電気刺激を与えた。さらに、活性化された卵は第二極体を放出するので、その前に5μg/mlサイトカラシンB、4mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)を添加したNCSU23に移し、3時間培養することで倍数対化処理を行った。
【0048】
活性化及び倍数体化処理を行なった胚は4mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)を添加したNCSU23内で5% CO2、38.5℃でインキュベーターにより体外培養した。さらに体外培養開始から96時間後に、胚を培養しているドロップに濃度が10%になるようにウシ胎児血清(FCS)を添加した。体外培養開始から168時間後、胚盤胞に発達した胚をレシピエントブタに移植した。胚盤胞移植4ヶ月後、レシピエントブタからトランスジェニッククローンブタがえられた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施例において作製した、トランスジェニック動物作出用核酸CMVPINS-hHNF1αP291fsinsCSVAの遺伝子地図を示す。
【図2】本発明の実施例において作製した、トランスジェニック動物作出用核酸PINS-globin-hHNF1αP291fsinsCの遺伝子地図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝細胞核因子−1αの二量化ドメインをコードする領域を含むが、正常な肝細胞核因子−1αをコードしない外来遺伝子と、該外来遺伝子の上流に位置し、ブタ細胞内で該外来遺伝子を発現させることができるプロモーターとを含む核酸を、受精卵若しくはクローン卵又は胚に導入し、該受精卵若しくはクローン卵又は胚から個体を発生させることを含む、糖尿病を発症するトランスジェニックブタの作出方法。
【請求項2】
前記外来遺伝子は、肝細胞核因子−1α遺伝子の二量化ドメインよりも下流の位置にフレームシフト突然変異又はナンセンス突然変異が導入された変異型肝細胞核因子−1αである請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記外来遺伝子は、肝細胞核因子−1αの二量化ドメイン及びホメオボックスDNA結合ドメインをコードする領域を含む請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記プロモーターが、ブタインシュリンプロモーターである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法により作出され、糖尿病を発症しているトランスジェニックブタ又は前記外来遺伝子を維持し、糖尿病を発症しているその子孫。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−82454(P2007−82454A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273997(P2005−273997)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年8月25日 日本繁殖生物学会発行の「The Journal of Reproduction and Development Vol.51、Supplement August 2005」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度生物系特定産業技術研究支援センター「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(301000505)株式会社バイオス医科学研究所 (10)
【出願人】(801000027)学校法人明治大学 (161)
【Fターム(参考)】