説明

糖鎖提示担体の製造方法

【課題】還元末端に限らずオリゴ糖中の任意の位置にリンカーを導入し、担体に提示することができる設計自由度の高い糖鎖提示担体の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程によりなる糖鎖提示担体の製造法を提供する。
(i)アジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として、あるいはアジド化糖を糖受容体として、糖転移酵素を用いて糖鎖を伸長させることにより、還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;および(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、リンカーを介してクリック反応により担体に結合させる工程。
本発明を用いることにより、簡便な方法によって、還元末端の遊離状態を維持したまま、アジド基含有オリゴ糖を担体表面に提示することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糖鎖提示担体(oligosaccharide displayed carriers)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖鎖(オリゴ糖)は、主に細胞表層や細胞内器官の表面に存在し、様々な糖鎖認識因子と相互作用することで細胞接着や免疫などの生命現象に関与している。これら糖鎖の多くは、タンパク質や脂質といった生体高分子上の特定の位置に結合していることが知られている。これらは、いずれも糖鎖の還元末端において、グリコシド結合を形成して糖鎖が提示されている。一方で、生体内の糖鎖には、還元末端が他の物質に結合せず、遊離した状態で存在しているものも多く知られている。
【0003】
癌細胞、ウイルス、病原菌などの表層に提示されたものを含め、疾患に関与する生体高分子には糖鎖を認識してその機能を発現しているものが多く知られている。このため、特定の糖鎖を投与することで疾患関連因子の活性に変化を与えることができれば、糖鎖の役割を疾患治療に利用することができ、従来に無い薬剤の創製につながることが期待される。そこで、糖鎖機能を効果的に利用するには生体内での存在様式を模倣することが望ましいことから、還元末端においてタンパク質や脂質等と結合している糖鎖の機能を調べる方法として、タンパク質などの天然高分子やそれに近い高分子ポリマー等に糖鎖を提示した糖鎖提示担体の調製が必要とされてきた。このような方法としては、たとえば、オリゴ鎖の還元側の糖残基の還元末端のヒドロキシル基にトリアゾール環を含むスペーサーを結合し、これを介して固相担体に結合させる方法などが知られている(特許文献1、2)。
【0004】
しかしながら、従来の糖鎖を担体に提示する方法では、還元末端側に位置する糖残基の還元末端を用いて担体と糖鎖を結合させていた。したがって、糖鎖中の還元側糖残基における還元末端構造は、リンカーとの結合によって破壊されてしまうために、還元末端の遊離状態を維持したままで担体に提示させることが出来ず、糖鎖の還元末端を特異的に認識するタンパク質やウイルス等を検出することができないといった問題があった。このことから、遊離状態にある糖鎖還元末端がどのような機能を持つかを探索するために、従来法を適用することは全く不可能であり、還元末端が遊離状態にある糖鎖が生体内においてどのような機能を持ち、どのように局在しているかについては、これまでほとんど調べられてこなかった。
【0005】
一方、アジド化アミノ糖ヌクレオチドおよび当該糖ヌクレオチドを用いてアジド化アミノ糖含有オリゴ糖を合成し、当該化合物を糖転移酵素の阻害剤とすることで、癌細胞の増殖や転移を抑制させる方法がすでに知られている(特許文献3)。しかしながら、アジド化アミノ糖含有オリゴ糖を担体に提示することは考えられておらず、その方法も示唆されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2008−231013号公報
【特許文献2】特開2008−231014号公報
【特許文献3】特開2005−314382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上記のような問題点を解決し、還元末端が遊離状態にある糖鎖の機能、局在等を調べるための糖鎖提示担体の簡便かつ安定な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは前記課題を解決するため、鋭意検討を行った結果、糖供与体としてアジド化糖ヌクレオチドを用いるか、あるいは糖受容体としてアジド化糖を用いて合成したアジド基含有オリゴ糖を、クリック反応を用いて担体に結合させることによって本問題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、還元末端以外の部位でアジド基と糖が結合したアジド化糖ヌクレオチドまたはアジド化糖を用いることで、糖転移酵素を用いた糖鎖の伸長において、糖鎖中に導入されたアジド化糖の位置にかかわらず、オリゴ糖の還元末端が遊離したアジド基含有オリゴ糖を得ることができる。そこで、該アジド基含有オリゴ糖のアジド基を、リンカーを介してクリック反応により担体に結合させることによって、糖鎖還元末端の遊離状態を維持したまま、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を担体に提示することができる。したがって、本発明は以下の[1]から[6]に示す糖鎖提示担体の製造方法に関するものである。
【0010】
[1] 糖鎖提示担体を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする糖鎖提示担体の製造方法:
(i)アジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として、あるいはアジド化糖を糖受容体として、糖転移酵素を用いて糖鎖を伸長させることにより、オリゴ糖の還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;および
(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、リンカーを介してクリック反応により担体に結合させる工程。
[2] 以下の工程を含む、[1]記載の糖鎖提示担体の製造方法:
(i)オリゴ糖の還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;
(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基に、クリック反応を用いてリンカーを結合させる工程;および
(iii)(ii)で合成したリンカー付きアジド基含有オリゴ糖のリンカー部分と担体とを結合させることで糖鎖提示担体を合成する工程。
[3] 以下の工程を含む、[1]記載の糖鎖提示担体の製造方法:
(i)オリゴ糖の還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;
(ii)担体にリンカーを結合させる工程;及び
(iii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、クリック反応を用いて(ii)で合成した担体のリンカー部分に結合させることで糖鎖提示担体を合成する工程。
[4] リンカーが、クリック反応に利用するアセチレン基を一方に有し、他方に担体との結合に利用する官能基を有する、[1]から[3]のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法は、還元末端の遊離状態を維持したままで糖鎖を担体に提示するものであり、生体内における遊離糖鎖の機能や局在を解析するには理想的な手法である。すなわち、本発明の方法は、マーカー分子を担体として遊離糖鎖の生体内での局在を探求したり、遊離糖鎖を認識する細菌やウイルス、各種の生体内分子等を探索し同定するなど、従来全く知られていなかった糖鎖の還元末端構造の機能や関連物質、微生物等を解明・発見することを可能とするものである。
【0012】
このような設計自由度の高い提示方法からなる本発明の製造方法は、さらにウイルスや病原菌の検出あるいは診断用のツール、複合糖質の創製、DDS素材としての利用やイメージング技術への応用など様々な産業分野への利用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の糖鎖提示担体の製造方法は上述の通りであり、以下、工程ごとに詳細に説明する。
【0014】
(i)アジド基含有オリゴ糖を合成する工程
還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成するに当たっては、アジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として、あるいはアジド化糖を糖受容体として、糖転移酵素を用いて糖鎖を伸長させればよい。このような本発明の方法によって、アジド基を糖鎖の還元末端側を含めて糖鎖中の任意の位置(還元末端を除く)に置くことが可能である。
【0015】
最初に、アジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として用いたアジド基含有オリゴ糖の合成法を説明する。すなわち、糖供与体となるアジド化糖ヌクレオチドとしては、あらゆるアジド化糖ヌクレオチドを用いることができる。具体的には5’−ウリジン二リン酸−N−アジドアセチルグルコサミン(UDP−GlcNAz)、5’−ウリジン二リン酸−N−アジドアセチルガラクトサミン(UDP−GalNAz)、5’−シチジン一リン酸−アジド−N−アセチルノイラミン酸(CMP−NNeuAc)などを用いることができる。
【0016】
このようなアジド化糖ヌクレオチドの調製は、公知の方法(特開2005−314382)で行うことができる。
【0017】
また、アジド基含有オリゴ糖を合成するときに糖受容体として用いることのできる単糖としては、例えばガラクトース、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、アラビノース、キシロース、キシリロース、リブロース、エリトロース、トレオース、リキソース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、タロース、タガトース、ソルボース、プシコース、D−グリセロ−D−ガラクトヘプトース、D−グリセロ−グルコヘプトース、DL−グリセロ−D−マンノヘプトース、アロヘプツロース、アルトヘプツロース、タロヘプツロース、マンノヘプツロース、オクツロース、ノヌロース、D−グリセロ−L−ガラクトオクツロース、D−グリセロ−D−マンノオクツロース、ノムロース、フコース、ラムノース、アロメチロース、キノボース、アンチアロース、タロメチロース、ジキタロース、ジギドキソース、シマロース、チベロース、アベロース、パラトース、コリトース、アスカリロース、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸、イズロン酸、グルロン酸、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン、ノイラミン酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルマンノサミン、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチル−O−アセチルノイラミン酸、N−グリコイルノイラミン酸、ムラミン酸、並びにその誘導体が挙げられる。
【0018】
また、同様に、糖受容体として用いることのできるオリゴ糖としては、例えばマルトース、セロビオース、ラクトース、キシロビオース、イソマルトース、ケンチオビオース、メリビオース、プランテオビオース、ルチノース、プリメベロース、ビシアノース、ニゲロース、ラミナリビオース、ツラノース、コージビオース、ソホロース、スクロース、トレハロース、キトビース、ヒアロビオウロン酸、コンドロシン、セロビオウロン酸、ラフィノース、ゲンチアノース、メレジトース、ブランテオース、ケストース、マルトトリオース、パノース、イソマルトトリオース、スタキオース、ベルバスコース、シクロデキストリン、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、乳汁オリゴ糖(例えばフコシルラクトース、シアリルラクトース、ラクト−N−テトラオース、ラクト−N−フコペンタオース、ラクト−N−ネオテトラオースなど)、ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルマタンなどのグリコサミノグリカン、ABO型血液型糖鎖、各種N−結合型糖鎖、各種ムチン(O−結合)型糖鎖、スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質などの糖脂質糖鎖、並びに以上の誘導体などが挙げられる。
【0019】
アジド化糖ヌクレオチドより糖受容体にアジド化糖を転移させるには、糖転移酵素を用いる。また、得られたアジド基含有オリゴ糖の糖鎖をさらに伸長させる方法に関しても、反応が簡便で選択性の高い酵素的な伸長が好ましく、さらに効率の点で糖転移酵素を用いた酵素合成が望ましい。
【0020】
糖転移酵素としては、通常の糖(オリゴ糖を含む)以外にもアジド化糖を糖受容体として認識できるもの、あるいは通常の糖ヌクレオチド以外にもアジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として糖受容体にアジド化糖を転移させる活性を有するものであればいかなるものでもよく、目的の糖鎖に応じて公知の糖転移酵素の中から適宜選択して使用することができる。具体的にはN−アセチルグルコサミン転移酵素、N−アセチルガラクトサミン転移酵素、シアル酸転移酵素、ガラクトース転移酵素、フコース転移酵素、マンノース転移酵素、グルクロン酸転移酵素などが挙げられる。
【0021】
このような糖転移酵素は、当該活性を有する限りどのような形態であってもよい。なお、酵素調製の簡便さと共に調製効率を高めるため、該酵素遺伝子をクローン化し、微生物菌体内で大量発現させ、該酵素の大量調製を行う、いわゆる遺伝子操作技術を用いた酵素生産が最も都合が良い。使用する酵素標品としては具体的には、微生物の菌体、該菌体の処理物または該処理物から得られる酵素調製物などを例示することができる。
【0022】
微生物の菌体の調製は、当該微生物が生育可能な培地を用い、常法により培養後、遠心分離等で集菌する方法で行うことができる。具体的に、大腸菌(Escherichia coli)に属する細菌を例に挙げ説明すれば、培地としてはブイヨン培地、LB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエキストラクト、1%食塩)または2×YT培地(1.6%トリプトン、1%イーストエキストラクト、0.5%食塩)などを使用することができ、当該培地に種菌を接種後、20〜50℃で5〜50時間程度必要により撹拌しながら培養し、得られた培養液を遠心分離して微生物菌体を集菌することにより糖転移酵素活性を有する微生物菌体を調製することができる。
【0023】
微生物の菌体処理物としては、上記微生物菌体を機械的破壊(ワーリングブレンダー、フレンチプレス、ホモジナイザー、乳鉢などによる)、凍結融解、自己消化、乾燥(凍結乾燥、風乾などによる)、酵素処理(リゾチームなどによる)、超音波処理、化学処理(酸、アルカリ処理などによる)などの一般的な処理法に従って処理して得られる菌体の破壊物または菌体の細胞壁もしくは細胞膜の変性物を例示することができる。
【0024】
酵素調製物としては、上記菌体処理物から当該酵素活性を有する画分を通常の酵素の精製手段(塩析処理、等電点沈澱処理、有機溶媒沈澱処理、透析処理、各種クロマトグラフィー処理など)を施して得られる粗酵素または精製酵素を例示することができる。
【0025】
アジド基含有オリゴ糖の酵素合成時の使用濃度としては、糖供与体の基質濃度が0.01〜500mM、好ましくは1〜50mMの間、糖受容体の基質濃度が0.01〜200mM、好ましくは1〜20mMの間から適宜選定できる。
【0026】
アジド基含有オリゴ糖の合成反応あるいは糖鎖の伸長反応は、転移酵素毎に、リン酸緩衝液などの緩衝液中、5〜40℃以下、好ましくは10〜37℃で1〜100時間程度、必要により撹拌しながら反応させることにより実施できる。
【0027】
合成されたアジド基含有オリゴ糖は、糖鎖の精製法として通常使用されている方法によって分離精製することができる。例えばゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、塩析などの方法を用いて単離精製することができる。
【0028】
次ぎに、アジド化糖を糖受容体として用いたアジド基含有オリゴ糖の合成法を説明する。すなわち、糖受容体となるアジド化糖としては、1位の還元末端部以外の任意の箇所にアジド基を有するアジド化糖であれば、いずれも用いることができる。具体的には、N−アジドアセチルグルコサミン(GlcNAz)、N−アジドアセチルガラクトサミン(GalNAz)、アジド−N−アセチルノイラミン酸(NNeuAc)などを用いることができるが、これに限定されるわけでなく、オリゴ糖の形態であっても使用可能である。
【0029】
このようなアジド化糖の調製は、公知の方法(特開2005−314382)で行うことができる。
【0030】
アジド化糖を糖受容体として用いた糖転移酵素によるアジド基含有オリゴ糖の合成は、上述したアジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として用いたアジド基含有オリゴ糖の合成法と同様の方法・条件にて実施することができる。
【0031】
(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、リンカーを介してクリック反応により担体に結合させる工程
本発明の糖鎖提示担体の製造方法では、クリック反応(Click Chemistry ligation)を利用して、糖鎖中に含まれるアジド基を、リンカーを介して担体に結合させることを特徴とする。
【0032】
本発明で用いるリンカーとしては、クリック反応に利用するアセチレン基を一方に有し、他方に担体との結合に利用する官能基を有するものであれば、特に制限されない。たとえば、アセチレン基を持つ骨格部分の構造としては(ポリ)エチレングリコール鎖やアルキル鎖、糖脂質やそれらを組み合わせたものなどが挙げられ、具体的には下記式(1)
【化1】

(nおよびmは0または正の整数、Rはヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、チオール、アルデヒド、ビオチニル、クロロ、ブロモ、フルオロおよびヨードより選ばれる官能基、Xは水素または下記式(2)
【化2】

(nおよびmは0または正の整数、Yはヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、チオール、アルデヒド、ビオチニル、クロロ、ブロモ、フルオロおよびヨードより選ばれる官能基を示す)で示される基を示す)で示される構造を有するものが挙げられる。
【0033】
上記式(1)および(2)において、nおよびmは上記定義の通りであり、具体的にnは、0または1〜20の整数、mは0または1〜30の整数から選択すればよい。式(1)および(2)において、nおよびmは、それぞれ同じものであっても異なるものであってもよい。また、RおよびYは、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、チオール、アルデヒドおよびビオチニルより選ばれる官能基を示す。RとYは同じものであっても異なるものであってもよい。
【0034】
このようなリンカーを具体的に示せば、下記式(3)で示される構造を有するリンカーなどが挙げられる。
【化3】

【0035】
また、本発明で使用できるリンカーの他の具体例としては、下記式(4)
【化4】

(mは0または正の整数、Rはヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、チオール、アルデヒド、ビオチニル、クロロ、ブロモ、フルオロおよびヨードより選ばれる官能基、Xで示される基を示す)で示される構造を有するものが挙げられる。
【0036】
上記式(4)において、mは上記定義の通りであり、具体的にmは0または1〜30の整数から選択すればよい。また、RおよびYは、ヒドロキシ、アミノ、カルボキシル、チオール、アルデヒドおよびビオチニルより選ばれる官能基を示す。RとYは同じものであっても異なるものであってもよい。
【0037】
このようなリンカーを具体的に示せば、下記式(5)又は(6)で示される構造を有するリンカーなどが挙げられる。
【化5】

【化6】

【0038】
このようなリンカーは常法により調製することができ、たとえば、上記式(3)の化合物は、ホワイトサイドらの報告(J.Am.Chem.Soc.,1991,12−20)に記載されている方法で調製したHS(CH11(OCHCHOHを酸化反応により二量体化し、さらにプロパギルブロミドとのエーテル結合によりアセチレン化することで合成することが可能である。上記式(5)の化合物は、公知の方法(Proc.Natl.Acad.Sci,2007,Vol.14 No.8,2614−2619)で、式(6)の化合物も公知の方法(特開2008−231013)に従って調製することができる。
【0039】
(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、リンカーを介してクリック反応により担体に結合させるには、具体的には、
<製法1>
(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基に、クリック反応を用いてリンカーを結合させる工程;および
(iii)(ii)で合成したリンカー付きアジド基含有オリゴ糖のリンカー部分と担体とを結合させることで糖鎖提示担体を合成する工程、あるいは
<製法2>
(ii)担体にリンカーを結合させる工程;および
(iii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、クリック反応を用いて(ii)で合成した担体のリンカー部分に結合させることで糖鎖提示担体を合成する工程、が挙げられる。
【0040】
製法1において、クリック反応によるアジド基とリンカーの結合反応は、公知の方法(特表2006−502099)で行うことができる。具体的には、触媒としてのCu2+が0.01〜50mM、好ましくは0.5〜5mM、還元剤としてのアスコルビン酸が0.01〜50mM、好ましくは0.5〜5mM、含まれている水溶液中で、アジド基含有糖鎖を0.01〜500mM、好ましくは1〜50mMの間、リンカーが0.01〜200mM、好ましくは1〜20mMの間になるような反応液を用い、16〜37℃で0.5〜36時間反応させることで実施できる。
【0041】
リンカーに結合された糖鎖の精製は、通常使用されている糖鎖の精製法(ゲル濾過法、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィーなど)を用いて分離精製することが可能である。
【0042】
製法1において、リンカー付きアジド基含有オリゴ糖のリンカー部分と担体とを結合させる際に用いる担体としては、通常用いられているものであればどのようなものでも使用でき、例えば、タンパク質、脂質、核酸などの生体試料、金、白金などの金属微粒子、鉄、酸化鉄などの磁性金属微粒子、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、アガロース、デキストラン、ラッテクスなどの高分子ポリマーなどが挙げられる。
【0043】
担体、特に高分子ポリマーを担体として用いる際の形状としては、微粒子状、粒状、板状、ウエルなど利用目的に応じて適宜選択すればよい。
【0044】
また、本発明においては、担体として、各種センサーのチップ表面であってかまわない。チップ表面に糖鎖を提示することで、糖鎖と生体分子との相互作用を観察する道具としてそのまま利用することができる。
【0045】
リンカー付きアジド基含有オリゴ糖のリンカー部分を担体に結合する方法としては、用いる担体およびリンカーの末端の種類に合わせて公知の方法を用いることができる。例えばホワイトサイドらの報告(Chem.Rev.;2005;105(4)pp.1103−1170)で知られるチオール基を金表面に提示する方法、高分子ポリマー上に露出したエポキシ基にアミノ基を結合させる方法、ビオチンーアビジン相互作用を利用して、基盤表面に固定化したストレプトアビジンに結合させる方法、などを利用することができる。また、リンカーと担体を結合する際には、常法に従い、他のリンカーを同時に添加することによって結合の効率を上げることができる。他のリンカーは、糖鎖を担体およびリンカーの末端の種類に応じて、公知のものから適宜選択すればよい。
【0046】
製法2は、製法1の工程の順番を変更したものであり、基本的なコンセプトは製法1と同じである。すなわち、製法1が、(i)アジド基含有オリゴ糖を合成し、次に(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基に、クリック反応を用いてリンカーを結合させ、最後に(iii)(ii)で合成したリンカー付きアジド基含有オリゴ糖のリンカー部分と担体とを結合させることで糖鎖提示担体を製造する方法に対し、製法2では、(i)アジド基含有オリゴ糖を合成し、次に(ii)担体にリンカーを結合させ、最後に(iii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、クリック反応を用いて(ii)で合成した担体のリンカー部分に結合させることで糖鎖提示担体を製造する方法である。
【0047】
このような順番の違い以外は、用いる試薬、反応条件等は製法1と同じであり、目的とする糖鎖提示担体の種類の合成収率や造り易さによりどちらかの方法を選択すればよい。
【0048】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の表記において、Galはガラクトース、Fucはフコース、Lacはラクトース、NeuAcはN−アセチルノイラミン酸、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン、GlcNAzはN−アジドアセチルグルコサミン、LacNAcはN−アセチルラクトサミン、LacNAzはN−アジドアセチルラクトサミンをそれぞれ表す。また、以下の実施例においては、リンカーをクリックリンカーと言うこともある。
【0049】
(1)糖分析法
糖の分析には日本ダイオネクス社製の糖分析システムDX−500を用いて行った。分離にはCarboPacTMPA1カラムを用い、溶出液として0.2M水酸化ナトリウム水溶液、0.5M酢酸ナトリウム+0.2M水酸化ナトリウム水溶液を用い、高性能イオン交換−パルスドアンペロメトリー検出(HPAE−PAD)法にて検出した。
【0050】
(2)MALDI−TOF MSによる分析
オリゴ糖およびリンカー結合糖鎖の分析はBruker Daltonics社製ultraflexを用いたMALDI−TOF MS法にて行った。
【0051】
(3)酵素液の調製
(3−1)ガラクトース転移酵素
β1,4−ガラクトース転移酵素(Human,Recombinant)は東洋紡績株式会社より購入した。
【0052】
(3−2)β1,3−GlcNAc転移酵素の調製
Neisseria menigitidis MC58株(ATCC BAA−335D)由来のβ1,3−GlcNAc転移酵素は公知の方法(Glycobiology,9,1061−1071(1999))に従って調製した。
【0053】
(3−3)α1,3−フコース転移酵素の調製
Helicobacter pylori J99株(ATCC 700824D)由来のα1,3−フコース転移酵素を公知の方法(J.Org.Chem.,71,9609−9621(2006))に従って調製した。
【0054】
(3−4)α2,3−シアル酸転移酵素の調製
(3−4−1)α2,3−シアル酸転移酵素をコードするlst遺伝子のクローニング
【0055】
Haemophilus ducreyi HP35000株の染色体DNA(ATCC 700724D−5)を鋳型として、以下に示す2種類のプライマーDNAを常法に従って合成し、PCR法によりHaemophilus ducreyiのlst遺伝子(EMBL/GENEBANK/DDBJ DATA BANKS、Accession No.NC002940)を増幅した。
【0056】
プライマー(C):5’−aaccatggtgaaagaaattgccattattagcaatcaaaga−3’
プライマー(D):5’−aaaagcttcatacaattacaactcac−3’
【0057】
PCRによるlst遺伝子の増幅は、反応液50μl中(50mM塩化カリウム、10mMトリス塩酸(pH8.3)、1.5mM塩化マグネシウム、0.001%ゼラチン、0.2mM dATP、0.2mM dGTP、0.2mM dCTP、0.2mM dTTP、鋳型DNA 0.1μg、プライマーDNA(A)および(B)各々0.2mM、AmpliTaq DNAポリメラーゼ2.5ユニット(タカラバイオ社製)、DNA Thermal Cyclerを用いて、熱変性(94℃、30秒)、アニーリング(55℃、45秒)、伸長反応(72℃、2分30秒)のステップを30回繰り返すことにより行った。
【0058】
遺伝子増幅後、反応液をフェノール/クロロホルム(1:1)混合液で処理し、水溶性画分に2倍容のエタノールを添加しDNAを沈殿させた。沈殿回収したDNAを公知の方法(Molecular cloning、(Maniatisら編、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor、New York(1982))に従ってアガロースゲル電気泳動により分離し、1.0kb相当のDNA断片を精製した。該DNAを制限酵素NcoI及びHindIIIで切断し、同じく制限酵素NcoI及びHindIIIで消化したプラスミドpMal−p2x(New England BioLabs社より入手)とT4 DNAリガーゼを用いて連結した。連結反応液を用いて大腸菌(Escherichia coli)JM109菌を形質転換し、得られたアンピシリン耐性形質転換体よりプラスミドpTrc−HDSiaTを単離した。
【0059】
pTrc−HDSiaTは、pTrc99Aのtrcプロモーター下流のNcoI−HindIII切断部位にHaemophilus ducreyiのlst構造遺伝子を含有するNcoI−HindIII DNA断片が挿入されたものである。
【0060】
(3−4−2)α2,3−シアル酸転移活性を有する酵素液の調製
プラスミドpTrc−HDSiaTを保持する大腸菌K12株JM109を、100μg/mlのアンピシリンを含有する2xYT培地50mlに植菌し、37℃で振とう培養した。2×10個/mlに達した時点で、培養液に最終濃度0.5mMになるようにIPTGを添加し、さらに20℃で20時間振とう培養を続けた。培養終了後、遠心分離(9,000×g,10分)により菌体を回収し、5mlの緩衝液(50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)、5mM 2−メルカプトエタノール、10%(w/v)グリセロールを含む)に懸濁した。超音波処理を行って菌体を破砕し、さらに遠心分離(20,000×g、10分)により菌体残渣を除去した。
【0061】
このように得られた上清画分を酵素液とし、酵素液におけるα2,3−シアル酸転移活性を測定した。結果を対照菌(pTrc99Aを保持する大腸菌K12株JM109)と共に下記表1に示す。なお、本発明におけるα2,3−シアル酸転移酵素活性の単位(ユニット)は、以下に示す方法でCMP−NeuAcとラクトースからの3−シアリルラクトースの合成活性を測定、算出したものである。
【0062】
Haemophilus ducreyiシアル酸転移酵素活性の測定と単位の算出法
10mM塩化マグネシウム、10mM塩化マンガン、20mM ラクトース、10mM
CMP−NeuAcを含有する100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、α2,3−シアル酸転移酵素を添加して30℃で30分間反応させた。また、α2,3−シアル酸転移酵素の代わりにpTrc99Aを保持する大腸菌JM109株の菌体破砕液を用い同様の反応を行い、これを対照とした。
【0063】
反応液に1/10容量の1M水酸化ナトリウムを添加することにより反応を停止し、これを希釈した後、糖分析を行った結果から、反応液中の3−CMP−NeuAc量をラクトース換算で算出し、30℃で1分間に1μmoleの3−シアリルラクトースを合成する活性を1単位(ユニット)としてα2,3−シアル酸転移酵素活性を算出した。その結果、JM109/pTrc−HDSiaTはシアル酸転移酵素活性をよく示すことが判明した。
【0064】
【表1】

【0065】
(4)各種リンカーの合成
担体への提示に用いる各種リンカーを以下の方法にて合成した。
(4−A)クリックリンカーの合成
前記式(3)で示されるクリックリンカー(11,11’−ジチオ ビス[ウンデク−11−イル(12−プロピル)ヘキサエチレングリコール])は、以下に示したスキームに従って合成した。なお、以下文中の「化合物1、2・・・」は、それぞれ下記スキーム中の番号と対応している。
【化7】

【0066】
(4−A−1)1−ブロモ ウンデク−11−イルヘキサエチレングリコール(化合物2)の合成
ヘキサエチレングリコール(10g,35.4mmol)を脱水テトラヒドロフラン(160ml)に溶解させ、60%水素化ナトリウム(566mg,14.2mmol)を室温で窒素置換をして攪拌した。30分後、11−ジブロモウンデカン(4.2ml,17.7mmol)を反応液に加え、室温で窒素置換の下、攪拌した。12時間後、メタノールを加えて反応を止め、濃縮した。クロロホルムと水で分液をし、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(40:2:1 EtOAc/EtOH/HO)にて精製し、透明なオイル状の化合物2(3.2g,35%)を得た。
【0067】
(4−A−2)1−チオアセチル ウンデク−11−イルヘキサエチレングリコール(化合物3)の合成
化合物2(3.2g,6.2mmol)をブタノン(60ml)に溶解し、チオ酢酸カリウム(850mg,7.45mmol)とヨウ化テトラブチルアンモニウム(230mg,0.6mmol)を加え、60℃で攪拌させた。12時間後、溶液を濃縮し、酢酸エチルと水で分液をし、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ濾過した。濾液を濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(40:2:1 EtOAc/EtOH/HO)にて精製し、オレンジ色のオイル状の化合物3を得た。
【0068】
(4−A−3)1,1’−ジチオ ビス[ウンデク−11−イルヘキサエチレングリコール](化合物4)の合成
化合物3(2.1g,4.0mmol)をメタノール(40ml)に溶解し、ナトリウムメトキシド(260mg,4.8mmol)を加え、室温で24時間攪拌した。Dowex 50W−X8(H)(The Dow Chemical Company)を加え反応溶液を中和させた後、濾過した。濾液を濃縮して、シリカゲルクロマトグラフィー(20:2:1 EtOAc/EtOH/HO)にて精製し、白い固形物の化合物4(1.6g,86%)を得た。
【0069】
(4−A−4)11,11’−ジチオ ビス[ウンデク−11−イル(12−プロピル)ヘキサエチレングリコール](化合物1)の合成
化合物4(200mg,0.2mmol)を脱水テトラヒドロフラン(5ml)に溶解させ、60%水素化ナトリウム(7.04mg,0.18mmol)を室温で窒素置換をして攪拌した。30min後、3−ブロモ−1−プロピン(38μl,0.48mmol)を反応液に加え、室温で窒素置換の下、攪拌した。2日後、メタノールを加えて反応を止め、濃縮した。シリカゲルクロマトグラフィー(20:2:1 EtOAc/EtOH/HO)にて精製し、白い固形物の化合物1(222mg,77%)、すなわち本実施例で用いるクリックリンカーを得た。
【0070】
(4−B)PEGリンカーの合成
下記式(6)
【化8】

で示されるPEGリンカーは公知の方法(Chem.Eur.J.,12,6478−6485(2006))の方法に従って合成した。
【0071】
(4−C)ホスホリルコリンリンカーの合成
下記式(7)
【化9】

で示されるホスホリルコリンリンカーは公知の方法(J.Am.Chem.Soc.,127,14473−14478(2005))に従って合成した。
【0072】
(5)合成例
所期の糖鎖提示担体の合成は、図1および図2に示したスキームに沿って行った。以下文中≪1≫、≪2≫等の番号は、図1および図2内に示した化合物の番号と対応している。
【0073】
合成例1LewisX−クリックリンカー≪4≫の調製
[1−1]アジドLewisX≪3≫の調製
受容体基質となるGlcNAzの合成は古川らの方法(特開2005−314382)に従って行った。GlcNAz≪1≫を5.24mg(20μmol)、供与体基質としてUDP−ガラクトース2Naを18.31mg(30μmol)、補因子として塩化マンガン・4水和物を3.96mg(20μmol)を含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)水溶液2mlに、80mUのβ1,4−ガラクトース転移酵素を添加して反応を行った。糖分析で反応を追跡し、16時間後にガラクトース転移が100%進んだところで反応液を5分間煮沸することにより反応を停止した。次に、反応液を12,000rpm、5分間の遠心分離で回収した上清にGDP−フコース2Naを15.83mg(25μmol)加え、α1,3−フコース転移酵素250mUを添加してフコース転移反応を行った。ガラクトース転移反応の時と同様に、反応を糖分析で追跡した。48時間後、Galβ1−4GlcNAz≪2≫のピークが消失したことを確認し、反応液を遠心分離して沈殿物を除去した。
【0074】
次に、反応液を、あらかじめ30%エタノールで平衡化したSephadex LH−20カラムに供した(φx75 cm;Flow rate,0.25ml/ml;30%エタノール;Fraction size,1.5ml/tube)。検出はTLCおよびMALD−TOF MS解析により行い、その結果Galβ1−4[Fucα1−3]GlcNAz≪3≫(以下「アジドLewisX」とする)のスペクトルを示す画分(No.28−46)を回収した。減圧吸引乾燥で濃縮後、MALDI−TOF MSでアジドLewisXであることを確認した。
【0075】
[1−2]LewisX−クリックリンカー≪4≫の調製
上記[1−1]で調製されたアジドLewisX≪3≫0.5μmol、硫酸銅(II)0.1μmol、上記(4―A)で合成したクリックリンカー0.2μmol、アスコルビン酸ナトリウム塩0.2μmolを混ぜて100μlに調製し、室温で3時間反応させた。反応液を2mlのSephadex LH−20カラムに掛けて溶出液を0.5mlずつ分取し、生成した2量体LewisX‐クリックリンカー≪4≫の溶出をMALDI−TOF MSで確認した。得られたLewisX−クリックリンカー画分を濃縮し、5mMのLewisX−クリックリンカー≪4≫40μlを得ることが出来た。
【0076】
合成例2
3’−シアリルLewisX−クリックリンカー≪7≫の調製
[2−1]3’−シアリルアジドLewisX≪6≫の調製
受容体基質となるGlcNAz≪1≫を5.24mg(20μmol)、供与体基質としてUDP−ガラクトース2Naを18.31mg(30μmol)、補因子として塩化マンガン4水和物を3.96mg(20μmol)溶解させた50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)2mlに、200mUのβ1,4−ガラクトース転移酵素を添加して反応を行った。糖分析で反応を追跡し、16時間後にガラクトース転移が100%進んだところで反応液を5分間煮沸することにより反応を停止した。次に、反応液を12,000rpm、5分間の遠心分離で回収した上清に、CMP−NeuAc,Naを19.75mg(30μmol)、塩化マグネシウム2水和物を2.38mg(25μmol)加え、α2,3−シアル酸転移酵素250mUを添加してNeuAc転移反応を行った。ガラクトース転移反応の時と同様に、反応を糖分析で追跡した。48時間後、Galβ1−4GlcNAz≪2≫のピークが消失したことを確認し、反応液を遠心分離して沈殿物を除去することでNauAcα2−3Galβ1−4GlcNAz≪5≫を合成した。
【0077】
反応液にGDP−フコース2Na 25.33mg(40μmol)を溶解し、最後にα1,3−フコース転移酵素を500mU添加してフコース転移反応を開始させた。反応をDIONEXで追い、48時間後にNeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAz≪5≫のピークがほぼ消失したことを確認して、反応液を遠心分離して沈殿物を除去した。
【0078】
次に、反応液を、あらかじめ30%エタノールで平衡化したSephadex LH−20カラムに供した(φx75 cm;Flow rate,0.25ml/ml;30%EtOH;Fraction size,1.5ml/tube)。検出はTLCおよびMALD−TOF MS解析により行い、その結果NeuAcα2−3Galβ1−4[α1−3]GlcNAz≪6≫(以下「3’−シアリルアジドLewisX」とする)のスペクトルを示す画分(No.28−46)を回収した。減圧吸引乾燥で濃縮後、MALDI−TOF MSで確認した。
【0079】
[2−2]3’−シアリルLewisX−クリックリンカー≪7≫の調製
上記[2−1]で調製された3’−シアリルアジドLewisX≪6≫0.5μmol、硫酸銅(II)0.1 μmol、上記(4−A)で合成したクリックリンカー0.2μmol、アスコルビン酸ナトリウム塩 0.2μmolを混ぜて200μlに調製し、室温で3時間反応させた。反応液を2mlのSephadex LH−20カラムに掛けて0.5mlずつ分取し、生成した2量体3’−シアリルLewisX−クリックリンカー≪7≫の溶出をMALDI−TOF MSで確認した。得られた画分を濃縮し、5mMの3’−シアリルLewisX−クリックリンカー40μlを得ることが出来た。
【0080】
合成例3
LacNAcLac−クリックリンカー≪11≫の調製
[3−1]Galβ1−4GlcNAzβ1−3Galβ1−4Gal(LacNAzラクトース)≪10≫の調製
UDP−GlcNAzの合成は古川らの方法(特開2005−314382)で行った。受容体基質となるラクトース≪8≫を17.12mg(50μmol)、供与体基質としてUDP−GlcNAz,2Naを69.23mg(100μmol)、補因子として塩化マンガン4水和物を9.90mg(50μmol)、塩化マグネシウムを4.76mg(50μmol)溶解させた50mMグリシンNaOH緩衝液(pH10.0,5ml)に、2Uのβ1,3−GlcNAc転移酵素を添加して反応を行い、GlcNAzβ1−3Lactose≪9≫を合成した。糖分析で反応を追跡し、40時間後にGlcNAz転移が100%進んだところで反応液を5分間煮沸することにより反応を停止した。次に、反応液を12,000rpm、5分間の遠心分離で回収した上清に1Mトリス塩酸緩衝液(pH7.5)1000μmol、UDP−ガラクトース2Naを61.03mg(100μmol)加え、β1,4−ガラクトース転移酵素200mUを添加してガラクトース転移反応を行った。GlcNAz転移反応の時と同様に、反応は糖分析で追跡した。20時間後、DIONEX上でGlcNAzβ1−3ラクトース≪9≫のピークが消失したことを確認し、反応液を5分間煮沸して反応を停止した。反応上清はSephadex LH−20カラムに供し、MALDI−TOF MSでGalβ1−4GlcNAzβ1−3Galβ1−4Gal≪10≫(以下「LacNAzラクトース」とする)の溶出を確認して精製した。
【0081】
[3−2]LacNAcLac−クリックリンカーの調製
上記[3−1]で調製されたLacNAzラクトース≪10≫0.5μmol、硫酸銅(II)0.1μmol、上記(4−A)で調製されたクリックリンカー0.2μmol、アスコルビン酸ナトリウム塩0.2μmolを混ぜて100μlに調製し、室温で3時間反応させた。反応液を2mlのSephadex LH−20カラムに掛けて溶出液を0.5mlずつ分取し、生成した2量体LacNAcLac−クリックリンカー≪11≫の溶出をMALDI−TOF MSで確認した。得られた画分を濃縮し、5mMのLacNAcLac−クリックリンカー≪11≫40μlを得ることが出来た。
【0082】
合成例4
3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカー≪13≫の調製
[4−1]3’−シアリルLacNAzラクトース≪12≫の調製
100mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)に、糖受容体基質として[3−1]で調製されたLacNAzラクトース≪10≫を14.97mg(20μmol)、供与体基質としてCMP−NeuAc,Naを26.34mg(40μmol)、補因子として塩化マンガン4水和物を7.92mg(40μmol)、塩化マグネシウム38.01mg(40μmol)を溶解させた後、400mUのα2,3−シアル酸転移酵素を添加して反応を行った。糖分析で反応を追跡し、40時間後にNauAc転移が100%進んだところで反応液遠心分離して沈殿を除去し、吸引濃縮後にSephadex LH−20カラム(75 ml)に供して3’−シアリルLacNAzラクトース≪12≫を精製した。
【0083】
[4−2]3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカーの調製
上記[4−1]で調製された3’−シアリルLacNAzラクトース≪12≫0.5μmol、硫酸銅(II)0.1μmol、上記(4−A)で調製されたクリックリンカー0.2μmol、アスコルビン酸ナトリウム塩0.2 μmolを混ぜて100μlに調製し、室温で3時間反応させた。反応液を2mlのSephadex LH−20カラムに掛けて0.5mlずつ分取し、生成した2量体3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカー≪13≫の溶出をMALDI−TOF MSで確認した。得られた画分を濃縮し、5mMの3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカー≪13≫40μlを得ることが出来た。
【0084】
(6)糖鎖−クリックリンカーの金微粒子表面上への提示
上記(5)で調製された4種の糖鎖−クリックリンカーおよび上記(4−B)で合成したPEGリンカーを、金微粒子表面上に提示した。糖鎖−クリックリンカー0.02μmol,PEGリンカー0.02μmolを、四塩化金カリウム 0.02μmolと混合して90μlとし、水素化ホウ素ナトリウム0.2μmolを添加して、室温で30分静置することによって、金イオンを粒子状に集合(金微粒子の形成)させると同時に表面に糖鎖およびPEGリンカーを提示した。スピンカラムを用いた遠心分離にて上清を除去し、さらに沈殿をミリQ水200μlで3回洗浄したのち、20μlのミリQ水で懸濁して回収した。
【0085】
糖鎖提示処理を行った金微粒子をMALDI−TOF MSで測定した結果を、図3から図6に示した。各糖鎖−クリックリンカーは、MALDI−TOF MSによる測定において、糖鎖−クリックリンカーとPEGリンカーの縮合体の形で検出される。当該縮合体を検出することで糖鎖の提示が確認され、本発明によって金粒子上に糖鎖を正常に提示できることが分かった。
【0086】
(7)担体に提示された糖鎖−クリックリンカーとタンパク質の相互作用
次に、本発明の方法によって担体に提示された糖鎖が、通常糖や糖鎖を認識し、相互作用するとされているタンパク質の認識部位になりうるかを確認するため、以下のように評価を行った。評価に用いるタンパク質としては、末端シアル酸を特異的に認識するレクチンである小麦胚芽レクチン(WGA)、および3’−シアリルLewisXを特異的に認識するレクチンであるE−セレクチンを選出し、上記[4−2]で調製された3’−シアリルLewisX−クリックリンカーをセンサーチップ表面に提示して、糖/糖鎖を認識するとされる2種のレクチンとの相互作用活性を、表面プラズモン共鳴(SPR)法によって観測した。SPR測定はビアコア社製BIACORE2000にて行った。
【0087】
なお評価においては、レクチンの結合が非特異的なものでないことを明らかにするため、上記[4−2]で調製した3’−シアリルLewisX−クリックリンカー、および当該糖鎖―クリックリンカーにシアリダーゼを作用させて糖鎖をアシアロ化したものの双方について、各レクチンとの反応性を比較した。
【0088】
(7−1)WGAとの相互作用
3’−シアリルLewisX−クリックリンカー0.02μmolと上記(4−C)において合成したホスホリルコリンリンカー0.1μmolを含む50%エタノール溶液50μlをセンサーチップ(ビアコア社製Sensor Chip Au)の金表面に乗せ、室温で一晩静置することで、3’−シアリルLewisX−クリックリンカーを提示した。3’−シアリルLewisX−クリックリンカー提示チップ上に、WGA水溶液(0.01mg/ml) 20μlを流速10μl/分で流したときのSPRを測定した。レクチン溶液の希釈緩衝液およびSPR測定緩衝液には10mM Hepes(pH7.4),150mM塩化ナトリウム,0.005% Surfactant P20を含む水溶液を用いた。さらに、1.5mU/mlのArthroobacter ureafaciens由来α2,3−シアリダーゼ(Calbiochem社より購入)60μlを流速1μl/分で流すことで、チップ上の3’−シアリルLewisX−クリックリンカーのシアル酸を除去し、アシアロ型糖鎖(LewisX−クリックリンカー)としてから、同様にSPR測定を行った。対照としてWGAの代わりにウシ血清アルブミンを用いて測定したSPRと比較した。
【0089】
以上の結果を図7に示す。0.01mg/mlのWGA溶液を流したときにレスポンスが上昇し、3’−シアリルLewisX−クリックリンカーとWGAは強く相互作用していることが認められたが、アシアロ型のLewisX−クリックリンカーとWGAのSPRは3’−シアリルLewisX−クリックリンカーとBSAのSPRとほぼ同等のレスポンスを示したことから、末端シアル酸を特異的に認識するWGAとの相互作用観測が可能であることが確認された。
【0090】
(7−2)E−セレクチンとの相互作用
E−セレクチン(Calbiochem社より購入)との相互作用についても同様にSPR測定を行った。E−セレクチンの希釈およびSPR測定緩衝液には10mM Hepes(pH6.5),1mM塩化カルシウム,150mM塩化ナトリウムを含む水溶液を用い、0.01mg/mlのE−セレクチンを流速10μl/分で20μl流した。結果を図8に示すように、3’−シアリルLewisX−クリックリンカーとのSPRは、アシアロ型にしたLewisX−クリックリンカーとのSPRと比較して有意に高いレスポンスが得られた。したがって、3’−シアリルLewisXを特異的に認識するE−セレクチンとの相互作用観測が可能であることが確認された。
【0091】
以上のように、本発明を用いて合成された糖鎖提示担体は、糖や糖鎖を通常認識するとされるタンパク質との相互作用においても、十分かつ特異的に認識されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の糖鎖提示担体の製造方法によって、還元末端に限らずオリゴ糖の任意の位置にアジド化糖を導入することができるため、酵素などによる糖鎖構造認識に影響しない位置にリンカーを導入することが可能となり、このため担体への糖鎖の提示も還元末端に限定されずに行うことができる。
また、本発明の製造方法により得られる糖鎖提示担体は、糖や糖鎖を通常認識するとされるタンパク質との相互作用においても、十分かつ特異的に認識されるものであり、更には、様々な担体に対して広範囲な構造の糖鎖の提示が可能となり、従って、ウイルスや病原菌の検出あるいは診断用のツール、糖タンパク質ミミックなどの複合糖質の創製、DDS素材としての利用やイメージング技術への応用など様々な産業分野への利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】図1はLewisX−クリックリンカー、および3’−シアリルLewisX−クリックリンカーの合成スキームを示す。なお、図中β1,4−GalTはβ1,4−ガラクトース転移酵素、α1,3−FucTはα1,3−フコース転移酵素、α2,3−SiaTはα2,3−シアル酸転移酵素をそれぞれ表す。
【図2】図2はLacNAcLac−クリックリンカー、および3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカーの合成スキームを示す。なお、図中β1,3−GlcNAcTはβ1,3−GlcNAc転移酵素、β1,4−GalTはβ1,4−ガラクトース転移酵素、α2,3−SiaTはα2,3−シアル酸転移酵素をそれぞれ表す。
【図3】図3は金微粒子へのLewisX−クリックリンカーの提示を示したMALDI−TOF MSスペクトルである。LewisX−クリックリンカーとPEGリンカーの縮合体の分子量と一致していることを示す。
【図4】図4は金微粒子への3’−シアリルLewisX−クリックリンカーの提示を示したMALDI−TOF MSスペクトルである。3’−シアリルLewisX−クリックリンカーとPEGリンカーの縮合体の分子量と一致していることを示す。
【図5】図5は金微粒子へのLacNAcLac−クリックリンカーの提示を示したMALDI−TOF MSスペクトルである。LacNAcLac−クリックリンカーとPEGリンカーの縮合体の分子量と一致していることを示す。
【図6】図6は金微粒子への3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカーの提示を示したMALDI−TOF MSスペクトルである。3’−シアリルLacNAcLac−クリックリンカーとPEGリンカーの縮合体の分子量と一致していることを示す。
【図7】図7は3’−シアリルLewisX、LewisX−クリックリンカーとWGAまたはBSAのSPRを示したものである。横軸は時間(秒)、縦軸はレスポンスを示す。WGAと3’−シアリルLewisX−クリックリンカーの反応が高いレスポンスを示し強い相互作用が観察されるが、WGAとLewisX−クリックリンカー、BSAと3’−シアリルLewsiX−クリックリンカーとの反応レスポンスはほとんど無く、相互作用していないことが確認できた。
【図8】図8は3’−シアリルLewisX、LewisX−クリックリンカーとE−セクレチンまたはWGAのSPRを示したものである。横軸は時間(秒)、縦軸はレスポンスを示す。E−セクレチンとLewisX−クリックリンカーの反応でもレスポンスの上昇がみられ、相互作用していることを示しているが、E−セクレチンと3’−シアリルLewisX−クリックリンカーとの反応ではさらに高いレスポンスが得られ、E−セクレチンが3’−シアリルLewisXにより強く相互作用していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖鎖提示担体を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とする糖鎖提示担体の製造方法:
(i)アジド化糖ヌクレオチドを糖供与体として、あるいはアジド化糖を糖受容体として、糖転移酵素を用いて糖鎖を伸長させることにより、オリゴ糖の還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;および
(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、リンカーを介してクリック反応により担体に結合させる工程。
【請求項2】
以下の工程を含む、請求項1記載の糖鎖提示担体の製造方法:
(i)オリゴ糖の還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;
(ii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基に、クリック反応を用いてリンカーを結合させる工程;および
(iii)(ii)で合成したリンカー付きアジド基含有オリゴ糖のリンカー部分と担体とを結合させることで糖鎖提示担体を合成する工程。
【請求項3】
以下の工程を含む、請求項1記載の糖鎖提示担体の製造方法:
(i)オリゴ糖の還元末端を保持し、かつオリゴ糖の還元末端以外の部位にアジド基を含有するアジド基含有オリゴ糖を合成する工程;
(ii)担体にリンカーを結合させる工程;及び
(iii)(i)で合成したアジド基含有オリゴ糖のアジド基を、クリック反応を用いて(ii)で合成した担体のリンカー部分に結合させることで糖鎖提示担体を合成する工程。
【請求項4】
リンカーが、クリック反応に利用するアセチレン基を一方に有し、他方に担体との結合に利用する官能基を有する、請求項1から3のいずれか1項記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−119320(P2010−119320A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294143(P2008−294143)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】