説明

糸検出装置

【課題】糸条の走行状態だけでなく、糸条の幅方向の位置変化も確実に検出することができるようにする。
【解決手段】糸条に向けて光を照射する光源17と、光源17からの照射された光の受光量に応じて出力信号が変化し且つ糸条の走行方向に沿って所定間隔で設置された複数の糸検出部18とを備えた糸検出装置1において、糸検出部18は、走行方向に直交する幅方向に伸びる帯状とされ、光源17は、幅方向における受光量が異なるように設置されており、糸検出部18の受光量の応じた出力信号に基づいて糸の走行状態及び幅方向の位置変化を求める演算部19を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、織機、ミシンなどの繊維機械において糸の状態を検出する糸検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
織機、ミシンなどの繊維機械において、当該繊維機械に給糸する糸条の走行状態を検出する装置として様々なものが開発されてきている(例えば、特許文献1)。
特許文献1では、発光素子、差動型空間フィルター素子及び糸条走行用の筒状透明ガイドをそれぞれ密閉容器間に設け、且つ並列状に設置したスリット列からなるスリット列群A及びスリット列からなるスリット列Bをそれぞれ別途に一体化連設するとともにスリットA、Bを交互に設置して差動型空間フィルター素子を構成する。そして、この差動空間フィルターに平行光或いは点光源を照射して糸条を走行させ、差動型空間フィルター素子上に投影された陰影の移動によりこれを感知し、差動型空間フィルター素子の出力の電気信号をパルス列に変換して糸条の走行糸長さや糸速度、糸切れ等を監視している。この特許文献1の関連技術として、その他に特許文献2などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−37082号公報
【特許文献2】特開2009−179410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2の技術では、差動型フォルターからのパルス信号が出力されている場合は、糸条が走行していると検知し、パルス信号が出力されていない場合は、糸条が走行していないと検知している。即ち、特許文献1及び特許文献2ではパルス信号の有無によって糸条の走行を検知している。
しかしながら、これらの特許文献では、糸条の走行状態を検知することができるものの、糸条の幅方向の動き(幅方向の位置変化)を検出することができないのが実情であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、糸条の走行状態だけでなく、糸条の幅方向の位置変化も確実に検出することができる糸検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明は、糸条に向けて光を照射する光源と、前記光源からの照射された光の受光量に応じて出力信号が変化し且つ糸条の走行方向に沿って所定間隔で設置された複数の糸検出部とを備えた糸検出装置において、前記糸検出部は、前記走行方向に直交する幅方向に伸びる帯状とされ、前記光源は、前記幅方向における受光量が異なるように設置されており、前記糸検出部の受光量の応じた出力信号に基づいて糸の走行状態及び幅方向の位置変化を求める演算部を備えていることを特徴とする。
【0007】
前記演算部は、前記走行方向に並ぶ糸検出部から出力される出力信号の差に基づいて走行状態及び幅方向の位置変化を求めるようにするとよい。
前記糸条が内部を走行すると共に光を透過する筒状の糸走行部が、前記糸検出部と光源との間に設置されており、前記糸条は非張力状態で前記糸走行部を通過することが好ましい。前記糸条は、耐熱性繊維とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る糸検出装置では、糸条の走行状態だけでなく、糸条の幅方向の位置変化も確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】織機に設置した糸検出装置を示した全体図である。
【図2】糸検出装置の構成図である。
【図3】糸検出部の平面図である。
【図4】糸検出装置によって糸条の状態を検出するフローチャート図である。
【図5】第1近接センサ及び第2近接センサの信号と差動出力信号との関係図である。
【図6】緯糸の状態を示す図である。
【図7】差動出力信号の変化図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図7は、本発明に係る糸検出装置1の一実施形態を示している。
糸検出装置1は、織機、ミシンなどの繊維機械に設置されるもので、繊維機械に給糸される糸条の状態を検出するものである。図1は、織機2に設置した糸検出装置1を示したものである。まず、織機2について説明する。
【0011】
織機2は、横並び状態で縦方向へ一斉に給糸される多数本の経糸3を複数の綜絖枠4中へくぐらせてゆき、各綜絖枠4のタイミングを異ならせた上下動作で経糸3の並び列に杼口5を開口形成させ、この杼口5内を横切るように緯糸6を給糸し、杼口5内の緯糸6を筬(リード)7によって織り生地の織前へ押し込むことによって織りを進める(織成する)機械ものである。この織機2は、綜絖枠4と筬7との前後間を横切るように移動して緯糸6を給糸する給糸用レピア8を備え、この給糸用レピア8はレピア駆動部によって往復移動するようになっている。即ち、給糸用レピア8は、杼口5の上流側(図1の左側)に位置して給糸された緯糸6を掴む給糸開始位置Aと、杼口5の下流側(図1の右側)に位置して掴んだ糸を杼口5内に通す給糸終了位置Bとに往復移動可能となっている。
【0012】
給糸開始位置Aの上流側には、緯糸6の先端を把持して杼口5への給糸に待機させる糸端把持部10が設けられている。糸端把持部10の上流側には、一対の円板で緯糸6を上下から軽度に挟むようにして適度なブレーキ作用を生じさせ、それでいて緯糸6に対して過剰の張力や擦過力が加わらないようにすることによって緯糸6にシンバルテンションを付与する糸導入部11が設けられている。即ち、この織機2において、糸導入部11から下流側では、緯糸6にシンバルテンションが付与されて給糸する構成とされ、上流側では緯糸6を非張力状態として給糸する(消極糸送り)構成とされている。糸導入部11の上流側には糸検出装置1が設けられ、この糸検出装置1によって非張力状態で給糸されている緯糸6の状態(例えば、走行状態の有無、幅方向の位置変化)を検出することができるようになっている。
【0013】
以下、糸検出装置1について詳しく説明する。
図2に示すように、糸検出装置1は、緯糸6などの糸条を走行(通過)させる糸走行部15を備えている。この糸走行部15は、光を透過する筒状のガラス管で構成されたもので、一端側(図2左側)及び他端側(図2右側)がケース16に固定されている。
このケース16内には、糸走行部15の上方側に設置されて糸走行部15内の糸条に向けて光を照射するLED等から構成された光源17が設置されている。また、ケース16内において、光源17の反対側であって糸走行部15(糸条)の下側に複数の糸検出部18が設置されている。各糸検出部18は、光源17からの照射された光の受光量に応じて電圧又は電流などの出力信号が変化するものであり、出力信号は演算部19に出力されるようになっている。
【0014】
図3は、糸検出部18の拡大図を示したものである。
図3に示すように、糸検出部18は、糸条の走行方向に沿って所定間隔(例えば、25μm)で設置されたもので、走行方向に直交する幅方向に伸びる帯状とされている。各糸検出部18は、pnフォトダイオードやpinフォトダイオード等により構成されている。
【0015】
図3に示すように、走行方向に並ぶ各糸検出部18を見たとき、走行方向に1つ置き(1つ飛ばし)に各糸検出部18の幅方向端部側がそれぞれ一体的に連結されて櫛刃状となる受光部20、21が2つ形成されている。一方の受光部(第1受光部)20と他方の受光部(第2受光部)21とは、糸検出部18が互いに噛み合うように(第1受光部20の糸検出部18と第2受光部21の糸検出部18とが走行方向に交互に並ぶように)、設置されている。
【0016】
本実施形態において、各糸検出部18のそれぞれの形成ピッチPを75μmに設定し、各糸検出部18の形成大きさWを50μm、糸検出部18の間に生じさせる隙間Gを25μmとした。
第1受光部20及び第2受光部21は、光源17からの光が糸条によって遮断されて各糸検出部18に陰が生じると各糸検出部18での総受光量が変化し、この総受光量に対応した出力信号を演算部19に出力する。演算部19では、後述するように第1受光部20からの出力信号と、第2受光部21からの出力信号との差、即ち、走行方向に並列する(並ぶ)糸検出部18から出力される出力信号の差に基づいて走行状態や幅方向の位置変化を求めている。この実施形態では、糸条の走行状態や幅方向の位置変化によって給糸異常を検出したときは、給糸用レピア8(織機2)を自動的に停止する制御を行うこととしている。
【0017】
図1に示すように、給糸用レピア8の往復移動に応じて移動する駆動帯24の上方に2個の検知センサ22、23が設けられている。一方の検知センサ(第1近接センサ)22は、駆動帯24に設けた計測ポイントPを検知し、駆動帯24に設けた一定間隔の凹凸部の数を検知し、当該凹凸部の数をパルス信号として演算部19に出力する。同様に、他方の検知センサ(第2近接センサ)23も凹凸部の数をパルス信号として演算部19に出力する。
【0018】
したがって、第1近接センサ22からのパルス信号及び第2近接センサ23からのパルス信号が入力されている場合は、給糸用レピア8が移動していることを検知することができ、パルス信号が演算部19に入力されてない場合は、給糸用レピア8が移動していないことを検知することができる。そのため、給糸用レピア8が移動しているときに給糸異常を検出したときに、給糸用レピア8(織機2)を自動的に停止することができる。なお、第1近接センサ22及び第2近接センサ23によってパルス信号のパルス数を計測することによって給糸用レピア8の給糸速度を求めることができる。
【0019】
さて、図3に示すように、本発明では、糸条が存在しない状態(光源17の光をそのまま糸検出部18に照射する状態)において、光源17から各糸検出部18に光を照射したときの光量分布を見たとき、幅方向における糸検出部18の受光量が異なるように、光源17の設置を行っている。
詳しくは、各糸検出部18の幅方向中央部30側の光量が両端側の光量よりも小さくなるように光源17の設置位置などを調整している。言い換えれば、1つ1つの糸検出部18において幅方向の光量分布を見たときに、糸検出部18の幅方向中央部30に当たる光が糸検出部18の幅方向両端部31に当たる光よりも明るくなるように、幅方向に明暗を付けている。
【0020】
このような光量の差は、例えば第1受光部20及び第2受光部21に対して光源17を近接させたり、第1受光部20及び第2受光部21と光源17との間にフィルターや特殊レンズを設置することによって意図的に生じさせている。
図4は、織機2にて緯糸6を給糸しているときに糸検出装置1によって緯糸6(糸条)の状態を検出する手順を示したものである。
【0021】
まず、緯糸6を非張力状態で糸走行部15に通し、糸走行部15に通した緯糸6を糸端把持部10に通して給糸を開始する(S1)。光源17を緯糸6に照射して第1受光部20及び第2受光部21で受光している受光量に応じた出力信号を演算部19に入力する(S2)。第1受光部20における出力信号と、第2受光部21における出力信号との差(差動出力信号)を演算部19で算出する(S3)。ここで、第1受光部20における出力信号と第2受光部21における出力信号との差が無い場合は、差動出力信号は出力せず、第1受光部20における出力信号と第2受光部21における出力信号との差があれば差動出力信号が出力することとなる。なお、差動出力信号は、どのような出力でもよいが差動出力信号の大きさに応じて振幅、パルス間隔、デュ−ティ比などが変化するパルス信号として出力することが好ましい。
【0022】
次に、演算部19は、第1近接センサ22及び第2近接センサ23によって給糸用レピア8(織機2)が移動状態にあるか否かを信号有無によって検知する(S4)。そして、給糸用レピア8(織機2)が移動状態であると(S4、Yes)、次ぎに進み、演算部19は、差動出力信号の出力があるか否か(パルス信号の有無)を検出する(S5)。なお、第1近接センサ22及び第2近接センサ23の信号と、差動出力信号との関係は、図5に示すようになる。
【0023】
そして、差動出力信号の出力が有ると次ぎに進み、演算部19で縦糸の状態を求める。例えば、図6(a)に示すように、緯糸6が糸検出部18(第1受光部20及び第2受光部21)の幅方向中央部30に位置しているときと、図6(b)に示すように、緯糸6が糸検出部18の幅方向両端部31側に位置しているときとの差動出力信号の差を考えたとき、図7に示すように、緯糸6が幅方向中心部から端部側にいけばいくほど差動出力信号の差は大きくなる傾向にある。
【0024】
そのため、演算部19は、差動出力信号の変化が大きいときは、緯糸6が幅方向に大きく位置変化していると判断する。ここで、例えば、連続して差動出力信号の変化があるときは、緯糸6が幅方向に振動していると考えられるため、単に幅方向の位置変化の度合いだけでなく、緯糸6の振動を検知することができる。一方、演算部19は、差動出力信号の変化が少ないときは、緯糸6は、振動することなく走行状態であると判断する。
【0025】
そして、演算部19が緯糸6の状態を求めると、演算部19は、例えば、表示装置(モニタ)や音声出力装置などに緯糸6の状態(走行の有無、幅方向に位置ズレの有無、振動しているかなど)を知らせる信号を出力する(S7)。なお、上述したように、給糸用レピア8が移動しているときに緯糸6が検出されないなど給糸異常を検出したときは、給糸用レピア8(織機2)を自動的に停止することができる。
【0026】
以上、本発明によれば、糸条の走行状態だけでなく糸条の幅方向の位置変化も確実に検出することができ、例えば、給糸用レピア8が移動している状態において糸条が正常に給糸しているかどうかや糸条の振動している状態などを検知することができる。
つまり、糸条の走行検出や糸条の振動検出によって給糸異常の有無を判別するようにしているので、給糸ミスを含め、糸条の給糸異常を確実に判別することができる。そのため、給糸異常の発生時にはただちに織機2を停止させることができるものであり、糸条のみならず、縦糸の無駄な給糸を徹底して防止できる(歩留まり低下の防止)利点がある。勿論、織機21の停止時間を最小限に抑えられるので、稼働効率の低下を防止できる利点もある。
【0027】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
糸検出装置1にて状態を検出する糸条は特に限定されないが、本発明の糸検出装置1では、糸条が炭化ケイ素系繊維やカーボン繊維等の耐熱性繊維であると好ましい。炭化ケイ素系繊維糸を構成する炭化ケイ素系繊維としては、例えば炭化ケイ素からなる繊維、炭素−ケイ素−酸素から構成される繊維、炭素−チタン及び/又はジルコニウム−ケイ素−酸素から構成される繊維、炭素−ケイ素−酸素−ホウ素から構成される繊維等が挙げられる。このような耐熱性繊維は、低屈曲性、低伸び性、高脆性であるため、織機2などでは非張力状態に保持させながら送り込む消極送りを行うことが多い。本発明の糸検出装置1では、特に消極送りを行っている区間での糸条の状態を検出することに優れている。また、この糸検出装置1では、毛羽が少なく断面形状が扁平(円形でない)である耐熱性繊維に対して、特に走行状態と振動状態との両方を検出し易いということでも優れている。
【0028】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。糸検出部18の数は限定されないが、糸検出部18の数が多ければ出力電圧の積算値(総受光量)も大きくなって検出精度も上がるので、ある程度、多くするのが好ましい。また、第1受光部20と第2受光部21とを用いて、即ち、差動出力信号を用いて走行状態と振動状態とを検出しているが、どちらか一方(1つの受光部、差動出力信でない)で走行状態と振動状態とを検出してもよい。
【0029】
また、上記の実施形態では、幅方向中央部30側の光量を多く、幅方向両端部31側の光量を少なくなるように光源の位置を調整していたが、糸検出部18において幅方向での光量を異ならせるようにすればどのような形態でもよく、例えば、幅方向中央部30側の光量を幅方向両端部31側の光量をよりも小さくなるようにしてもよいし、その他に、一方の幅方向端部側から他方の幅方向端部側にいくにしたがって徐々に光量を多くしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 糸検出装置
2 織機
3 経糸
4 綜絖枠
5 杼口
6 緯糸
7 筬(リード)
8 給糸用レピア
10 糸端把持部
11 糸導入部
15 糸走行部
16 ケース
17 光源
18 糸検出部
19 演算部
20 第1受光部
21 第2受光部
22 第1近接センサ
23 第2近接センサ
24 駆動帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条に向けて光を照射する光源と、前記光源からの照射された光の受光量に応じて出力信号が変化し且つ糸条の走行方向に沿って所定間隔で設置された複数の糸検出部とを備えた糸検出装置において、
前記糸検出部は、前記走行方向に直交する幅方向に伸びる帯状とされ、前記光源は、前記幅方向における受光量が異なるように設置されており、
前記糸検出部の受光量の応じた出力信号に基づいて糸の走行状態及び幅方向の位置変化を求める演算部を備えていることを特徴とする糸検出装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記走行方向に並ぶ糸検出部から出力される出力信号の差に基づいて走行状態及び幅方向の位置変化を求めることを特徴とする請求項1に記載の糸検出装置。
【請求項3】
前記糸条が内部を走行すると共に光を透過する筒状の糸走行部が、前記糸検出部と光源との間に設置されており、前記糸条は非張力状態で前記糸走行部を通過することを特徴とする請求項1又は2に記載の糸検出装置。
【請求項4】
前記糸条は、耐熱性繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の糸検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−241294(P2012−241294A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113474(P2011−113474)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】