説明

紙、不織布およびこれに有用な熱接着性繊維

【目的】 セルロース系繊維に少量で熱接着効果のよい熱接着性繊維を得る。この繊維は微生物崩壊性であり、これを使用する紙、不織布は自然に分解するから環境保全の効果がある。
【構成】 グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した脂肪族ポリエステル樹脂、微生物由来の脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体を30%以上含む熱接着性繊維をセルロース系繊維に5〜30%の混合して紙、不織布とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、従来の熱接着繊維に比べはるかにセルロースとの親和性に優れた脂肪族系ポリエステル樹脂を熱接着成分とする熱接着性繊維をバインダー繊維として用いた、セルロース系の繊維を主体繊維とする紙および不織布に関する。
【0002】
【従来の技術】水離解性の紙の代表例は、トイレットペーパーであり、これらはポバールやCMCなどの水溶性高分子をバインダーとして用い、水中に投じられるとバインダーが溶解し、繊維がばらばらになり、水洗可能となる。水離解性の不織布は、特開昭61−296159号および特開平1−306661号公報に見られる様に水離解性の紙と同様、基本的には、水溶性高分子をバインダーとして用いており、使用時の耐水性に工夫がはらわれている。これらの水離解性の不織布および紙は、いずれもバインダー水溶液に含浸する方法で作られており、経済的な熱接着加工法によって作られたものはない。また、現在一般に使われている耐水性が要求されるティーパックやだしパックは一般的な合成繊維を用いて作られているため、内部の空気が抜けにくく問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来の一般的な紙は耐水性がないため、水に濡れる用途には樹脂含浸や樹脂コーティングして耐水性を付与した紙や、ポリエチレンまたはエチレン−酢酸ビニル共重合体を熱接着成分とする熱接着複合繊維で接着した紙や不織布などの特別仕様の紙や不織布が用いられる。前記熱接着複合繊維はセルロース系繊維に接着しにくいので、一般に30%ほど添加しないと実用的な製品にできない。しかしこの添加量では空気を抱きやすいので、これで作ったティーパックやだしパックは内部の空気が抜けにくく使用時に浮き上がる欠点があった。また、上記樹脂含浸や樹脂コーティングしたものは製造コストが上昇し安価な使い捨て商品としては問題があった。従来の水洗可能な使い捨て不織布は、バインダーに水溶性高分子を用いた水離解性の不織布であり、耐水性が不十分なため、ウエットテッシュなどの湿潤状態で用いる用途に適用できず問題があった。特開昭62−184193号公報に見られる水不溶性樹脂を部分使用したものもあるが、水不溶性樹脂で接着された部分は、水に離解せず繊維の塊となり、水洗パイプがつまり易く問題があった。
【0004】又、従来の水離解性の不織布や一般の紙を根巻シートやポットなどに用いると、耐水性欠如のため根巻作業中に破損したり、育苗中にポットが破損してしまうという欠点があった。本発明は、前記従来の課題を解決するため、耐水性があり、セルロース繊維に良く接着し、そして微生物によって捕食可能な脂肪族ポリエステル樹脂を熱接着成分とする熱接着性複合繊維をバインダーとして用いた、耐水性と微生物崩壊性のある紙または不織布を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】前記目的を達成するため、本発明の紙または不織布は、セルロース繊維に良く接着し耐水性と微生物崩壊性のある特定の脂肪族ポリエステル樹脂を熱接着成分とする熱接着性複合繊維を5〜30重量%、より好ましくは 8〜20重量%、最も好ましくは10重量%前後含み、該熱接着性繊維によって接着一体化している、レーヨンまたはパルプなどのセルロース系繊維が主体の、親水性と耐水性に優れたことを、そして耐水性向上のため紙本来の特徴である水離解性は消失したが、これに替わり微生物崩壊性を保持し、汚水中で崩壊する一種の水離解性を有することを特徴とする紙または不織布である。
【0006】一般に不織布製造につかわれる熱ロール加工機は加熱限度が200℃未満のため使用する熱接着性繊維はその融点を20℃低い180℃未満としないと熱接着ができず不都合であり、また不織布製造の熱風貫通型熱接着加工機や紙を製造する時用いるヤンキードライヤーの加熱限度は、熱源であるボイラーの都合上一般に150℃以下のため、その融点を少なくとも10℃低い140℃以下とすることが好ましい。また接着を十分にするためより好ましくは130℃以下とするのが良い。
【0007】また、熱接着性繊維はその融点が50℃未満であると保管に制限を生じ好ましくなく、繊維製造工程において、作られる繊維は帯電防止剤や水中分散剤を水溶液の形で塗布され、一般にこれを乾燥して製品にする都合上、その融点を少なくとも80℃以上、より好ましくは100℃以上とするのが繊維製造上良い。
【0008】本発明の熱接着成分に用いる脂肪族ポリエステル樹脂には、融点(Tm1℃)が70<Tm1<130のグリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂(APE)および、融点(Tm1℃)が90<Tm1<170の微生物によって生産された脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体(PHB)を都合良く用いることができ、融点(Tm1℃)が60℃前後のポリカプロラクトン(PCL)も接着温度を低下させる必要がある時は、50重量%未満の量であれば、前記脂肪族ポリエステル樹脂に添加しても差し支えないが、50重量%を超えると繊維間融着を生じるなど繊維製造上の問題が多くなりあまり好ましくない。
【0009】なお、上記脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体(PHB)はレーヨンなどのセルロース系繊維に対し熱接着性が特に優れ、ポリエチレン(PE)やエチレン−酢酸ビニル(EVA)に比べ1/3〜1/10の添加量で同等の接着力を示し、上記合成脂肪族ポリエステル樹脂(APE)とポリカプロラクトン(PCL)もこれに次ぐことが実験の結果判明した。これらを熱接着成分とする熱接着性繊維は従来の熱接着性繊維を用いた場合と同等の紙強力または不織布強力を得るためには、1/3以下の添加量で良くなり、親水性の主体繊維であるセルロース系繊維をより多く含有する紙や不織布となり、その結果本発明の紙および不織布は、親水性に富むものとなる。
【0010】また上記脂肪族ポリエステル樹脂はいずれも耐水性のため水には溶けず、かつ、熱可塑性樹脂であるから、熱処理すると耐水性のある接着物に容易にすることができるのである。しかも、該樹脂はいずれも水には溶けないが微生物崩壊性を有しているため、汚水中や土壌中の微生物によって捕食されて消失できるので、汚水中に捨てたり、土のなかに埋めると消失するので、処分する時、水離解性に類似した性能を本発明の紙や不織布に与えることができ、好都合である。言うまでもないが、本発明の熱接着性繊維を従来の接着繊維並みに添加すると、強力が格段に向上した紙や不織布を得ることができる。
【0011】本発明の繊維形成成分として用いるもう一つの熱可塑性樹脂は、熱接着性複合繊維として主として用いる都合上、少なくとも熱接着成分の融点(Tm1℃)よりその融点(Tm2℃)が20℃以上高くないと、繊維形成成分を溶かさずに熱接着成分だけを溶かすことのできる接着加工温度(T℃)の制御が極めて困難となりあまり好ましくなく、よりこのましくはTm1+25≦Tm2の関係を満足する樹脂を選択することである。なお、熱接着成分に用いる脂肪族ポリエステル樹脂は熱的変化を受けやすいので、溶融複合紡糸する時、紡糸温度はできるだけ低い方が繊維製造上好ましい。従って、200℃前後で紡糸するには、その融点(Tm2℃)を170℃未満とするのが最も好ましい。しかしながら、熱接着加工する上ででは、繊維形成成分は接着加工機の最大温度より少なくとも20℃高い融点を持つことが好ましい。従って、少なくとも170℃以上、熱ロールを考慮すると220℃以上の融点のものが好ましいが、紡糸温度を考慮するとその融点(Tm2℃)は170≦Tm2<230の範囲も好ましい。
【0012】またカード通過性を考慮すると、繊維形成成分は熱接着成分と接着性の良いものが好ましく、具体的には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)またはその変成体、またはポリエチレンテレフタレート(PET)の変成体などのポリエステル樹脂がこの目的には好ましい。 また、本発明では、特に紙では、熱接着性繊維をすべて溶かし接着に使用すると、より該熱接着性繊維の添加量を少なくすることが可能な場合も多く、繊維形成成分も脂肪族ポリエステル樹脂とするのが特に好ましい場合がある。
【0013】すなわち、本発明の繊維形成成分として用いるもう一つの熱可塑性樹脂には、グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂または脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体が好ましく用いられ、またいずれの脂肪族ポリエステル樹脂も汎用樹脂に比べると高価なため、安価に該繊維を供給する上でポリプロピレン樹脂を用いるのも好ましい。従って、前記の熱接着性繊維をすべて溶かし接着に使用する紙の場合、複合繊維の形態でなく、熱接着成分である前記脂肪族ポリエステル樹脂のみでなる単一繊維でも本発明の目的を達成できるので、このように使用する場合は単一繊維の熱接着性繊維であっても良い。
【0014】本発明の熱接着性繊維は、セルロース繊維に良く接着し耐水性と微生物崩壊性を有する特定の脂肪族ポリエステル樹脂を熱接着成分とし、該樹脂より融点が少なくとも20℃高い熱可塑性樹脂を繊維成形成分とする複合繊維であって、その繊維断面は、偏心もしくは同心円状の鞘芯型、両成分が背腹状のサイドバイサイド型、両成分が交互に配列された風車型もしくは積層型、繊維成形成分を芯成分とする多芯型、および、両成分が単に混合されて溶融紡糸された混合紡糸型等が都合良く、紙や不織布などの繊維組成物として熱接着し、該組成物の強力を保つ都合上、該熱接着成分は、繊維表面の少なくとも30%を占めることが好ましい。
【0015】また両成分の面積複合比(熱接着成分/繊維成形成分)は、70/30〜30/70が都合良く、この範囲以外では溶融紡糸しがたい。本発明の熱接着性繊維の溶融紡糸温度は、繊維成形成分の融点(Tm2℃)より少なくとも高い温度、より好ましくはこれより20℃以上高い温度であって、熱接着成分すなわち脂肪族ポリエステル樹脂が熱分解する温度(Tm3℃)より低い温度、より好ましくはこれより20℃以上低い温度である。前記熱分解温度(Tm3℃)は、樹脂によって異なり、一般に脂肪族ポリエステルは230〜280℃であるので、好ましい溶融紡糸温度(Te℃)はこの場合、210〜260℃以下となる。従って、用いる繊維成形成分の融点(Tm2℃)は、190〜240℃以下、より好ましくは230℃未満、最も好ましくは150〜220℃のものが良い。なお繊維成形成分はその融点(Tm2℃)を100℃超とするのが使用上および熱加工上都合が良い。 溶融複合紡糸して得られた未延伸糸は、熱接着成分の融点(Tm1℃)より少なくとも15℃低い温度で少なくとも2倍、より好ましくは2.5倍以上に延伸して繊維強力を向上させるのが最も好ましい。
【0016】本発明の熱接着性繊維とは、紙用短カット繊維およびステープル繊維などの切断されて有限の繊維長を有するものを言う。本発明の紙とは、一般に言う紙の他に厚紙や段ボール紙などの厚みを持ったものも含まれ、成形加工には厚紙などが適している。また、不織布とは、一般に言う不織布のほか、堅綿などの厚みの大きいものも指し、これら厚みの大きいものは、紙と同様成形加工に用いると都合が良い。本発明の熱接着性繊維の繊度(デニール、d)は、一般には0.5〜500dであり、機械捲縮を付与していない紙用短カット繊維は、0.5〜10d(繊維長3〜20mm)、ローラカードなどの機械的開繊手法を用いる不織布などの用途向けの機械捲縮などの捲縮を付与したステープル繊維は、0.5〜50d(繊維長20〜150mm)が都合良い。
【0017】本発明の熱接着性繊維を熱接着に供する場合、その熱接着加工温度(T℃)は、熱風加工法においては、Tm1+10≦T≦Tm2+20が最も好ましく、熱ロール加工法においては、Tm1−10<T≦Tm2+20が好ましく、Tm1−5≦T≦Tm1+25かつT≦Tm2+20が最も好ましい。
【0018】本発明に用いるセルロース系繊維は、レーヨンやアセテートなどのセルロースを原料とする化学繊維、パルプなどの繊維状破砕物および、木綿、カポック、麻、こうぞ、および、わらなどの天然セルロース繊維などであり、これらを都合良く用いることができる。また、キチンなどのセルロースと分子構造が類似のものからなる繊維状物も同様に用いることが可能なためセルロース系繊維に含める。
【0019】本発明では、必要に応じ、主体繊維であるセルロース系繊維や熱接着性繊維以外の繊維を添加することも好ましく、弾性や嵩を出すためにポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル繊維、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維およびビニロン繊維などの合成繊維、そして、保水性を向上させるためにナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46などのポリアミド繊維やSWPなどの繊維状物を10重量%以下の割りで添加しても良い。なお、これらの添加が過大になると紙などの強力が低下するので好ましくない。
【0020】本発明の紙または不織布は、セルロース系繊維を主体繊維として親水性を発現しているため、これらの強力が実用的な範囲で熱接着性繊維の添加量を少なくするのが好ましいので、熱接着性繊維の添加量は5〜30重量%、より好ましくは8〜20重量%、最も好ましくは10重量%前後の量が良い。
【0021】
【発明の作用】本発明に用いる熱接着樹脂成分である脂肪族ポリエステル樹脂は、セルロース繊維に良く接着し、耐水性と微生物崩壊性を有するため、耐水性で、かつ水離解性類似の接着樹脂消滅による繊維集合体の離解性を有している。該樹脂の耐水性は、主として主鎖に親水基を持ち側鎖にはあまり親水基を持たない、もしくは化学的に隠蔽された樹脂であるため、水に難溶である特徴を生じている。このため本発明の紙と不織布は、耐水性がありながら水洗が可能となる。
【0022】また、本発明の紙と不織布は、従来の熱接着性繊維より格段にセルロース繊維との接着性が向上した熱接着性繊維を用いているため、本発明の紙と不織布は、一般に多用されている熱ロール加工機、熱風加工機およびヤンキードライヤー式抄紙機などで容易に製造でき、このため安価に提供できるのでディスポ商品として都合が良い。
【0023】本発明の紙と不織布は、主体繊維にセルロース系繊維を使用しており、かつ接着成分に微生物崩壊性を有する脂肪族ポリエステル樹脂を使用しているので、水洗トイレなどにそのまま捨てても、数カ月の内に浄化槽内で消化されるので、赤ちゃんのお尻拭き用ウエットティッシュとして用いると特に都合が良い。また、果実の防虫袋として使用し、不要になった時、従来の様に焼却せず土中に埋めて処分することができるので、焼却時周りの樹木を気にすることもなくなる。
【0024】
【実施例】
[実施例イ〜ト、比較例チ] 昭和高分子社製の融点89℃、190℃でのメルトインデックス(MI)25g/10分の合成脂肪族ポリエステル[ビオノーレ3000](樹脂A)、融点118℃、MIが25g/10分の合成脂肪族ポリエステル[ビオノーレ1000](樹脂B)、融点118℃、MIが45g/10分の合成脂肪族ポリエステル[ビオノーレ1000](樹脂C)、ICI社製の融点164℃、MIが100g/10分の微生物によって生産された生合成脂肪族ポリエステル[バイオポールBXPO30](樹脂D)、UCC社製の融点60℃、MIが30g/10分の合成脂肪族ポリエステル[TONE−P767](樹脂E)および融点160℃、MIが35g/10分のポリプロピレン(PP)を表1の組合せと条件で鞘芯型複合繊維を溶融紡糸し、温水中で延伸して延伸糸とした。繊維性能を常法で測定し結果を表1のイ〜チに示す。
【0025】
【表1】


【0026】さらに、抄紙用短カット繊維は、水分散性増強のための繊維処理剤を含浸させた後、5mmに切断して作成した。不織布用ステープル繊維は、繊維処理剤を含浸させて、氷冷したスタフィングボックスで機械捲縮を付与し、冷風貫通型乾燥機で乾燥した後、切断し51mmのステープルとした。比較例として融点が101℃のEVAを用いた当社の熱接着繊維NBF(E)と中密度PEを用いた熱接着繊維NBF(M)(大和紡績株式会社製)および日本エステル社製の低融点ポリエステルを接着成分とし、芯成分をPETとする熱接着繊維メルティー4080;3d、51mmを用意した。
【0027】[実施例1〜8、比較例1〜6] 当社レーヨンRB1.5d、5mmまたNBKPパルプと実施例と比較例の短カット繊維を混抄し、坪量約50g/m2 の湿紙とし、熱プレス機を用いプレス圧15kg/cm2 で5分間プレスして紙とした。常法に従い3cm幅の強度と伸度を測定した。結果を表2、表3および表4に示す。
【0028】
【表2】


【0029】
【表3】


【0030】
【表4】


【0031】実施例の紙を、無菌水に一昼夜浸漬したが、紙の形態が保たれていた。また、実施例の紙を、市販の大量に集積した腐葉土に埋め、一月後掘り起こしたところ、いずれも紙の形態を保たず、各所に穴の開いたぼろぼろの状態となっていた。また実施例1の短カット繊維を20部と2d×5mmのレーヨン短カット80部を水中に分散させて抄紙し、90℃のヤンキードライヤーで乾燥して紙とした。これを前記実施例と同様にして試験した所、同様の結果となった。
【0032】[実施例9〜12、比較例7〜10] 当社レーヨンRB2d×51mmと実施例および比較例のステープルを混綿し、ローラーカードで約60g/m2 目付のカードウエッブとなし、熱ロール型熱加工機を用いて熱接着不織布とし、常法に従い5cm幅の強度と伸度を測定した。結果を前記表3、表4に示す。
【0033】前記実施例の不織布を、無菌水に一昼夜浸漬したが、不織布の形態が保持されていた。また、実施例の不織布を、市販の大量に集積した腐葉土に埋め、一月後掘り起こしたところ、いずれも不織布の形態を保たず、各所に穴の開いたぼろぼろの状態となっていた。さらに、実施例10〜12の不織布で市販の野菜苗の根を土と共にくるみ、畑に埋め、3カ月後掘り起こした所、いずれも不織布の形態を保たず、各所に穴が開き、繊維がばらけた状態となっていた。比較例として上記レーヨンステープルで60g/m2 目付のカードウエッブを作成しネットにはさんで澱粉水溶液を含浸させ次いでニップロールで絞り、澱粉を繊維に対し10重量%添加した66g/m2 のウエッブとして、110℃のコンベヤー式熱風貫通型乾燥機で乾燥し不織布化とした。この不織布は薄く紙状であり、この不織布で市販の野菜苗の根を土と共にくるもうとした所、湿潤状態の土を用いると極めて破れ易く手早く作業する必要があった。また、この不織布を無菌水に浸漬した所、不織布は繊維がばらばらになり形態を保っていなかった。
【0034】実施例1と同様にして、樹脂Aであるビオノーレ3000を鞘成分とし、融点208℃、230℃でのMFRが50g/10分のポリプラスチックス社製ポリブチレンテレフタレート共重合体XD590を芯成分とする鞘芯型複合繊維を225℃で溶融紡糸し、55℃の水中で2.5倍に延伸して延伸糸となし、繊維処理剤を付与したのち、スタフィングボックスで機械捲縮を付与し、65℃温風貫通型乾燥機で乾燥し切断して5デニール(d)、51mmのステープルとした。このステープル30部と2d、51mmのレーヨンステープル70部とを混綿し、ローラーカードで60g/m2 目付のカードウエッブとなし、120℃の,熱風貫通型熱加工機を用いて熱接着不織布とした。この不織布は嵩高い不織布で、不織布強力が縦方向で7Kg/5cm、横方向で2Kg/5cmあった。この延伸糸を実施例1と同様にして、短カット繊維とし、さらに同様にして紙とした。これら不織布と紙とを、実施例1と同様にして試験した所、同様の結果を得た。
【0035】
【発明の効果】以上の通り、本発明の紙および不織布は、セルロースとの親和性に優れた樹脂を接着成分とする熱接着繊維を使用しているため該繊維の添加量が少なく、セルロースの親水性などの特徴をより生かすことができ、かつ耐水性があるため、従来の紙では使用上問題があった水に濡れる用途にも使用でき都合が良い。また、主体繊維と熱接着成分は微生物崩壊性がある素材のため、汚水中で数週間以内に不織布が離解して少なくともばらばらになるので、水洗可能な使い捨て不織布や紙、たとえば赤ちゃんのお尻ふき用ウエットティシュなどや、土中で離解してしまう紙製の根巻シートやポットなどに好都合である。また、経済的な熱接着加工によって作られているため、加熱再成形も可能であり、ピクニック用の紙製のお皿などに都合良い。また、ハイキング、山登りあるいはキャンプなどの使い捨てシートや包装材としてもちいると、使用した場所に埋めて処分しても、環境破壊が従来の不織布に比べ少ないので都合が良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 融点(Tm1℃)が、50<Tm1<180の温度範囲にある脂肪族ポリエステル熱可塑性樹脂の熱接着成分が繊維表面の少なくとも30%を占め、繊維成形成分であるもう一つの熱可塑性樹脂がその融点(Tm2℃)を100<Tm2<230かつTm1+20≦Tm2の温度範囲とする複合繊維である熱接着性繊維5〜30重量%と、レーヨン繊維やパルプなどのセルロース系繊維95〜60重量%とその他の繊維0〜10重量%が混合使用され、該熱接着性繊維の熱接着成分で熱接着されて一体化している耐水性に優れた紙および不織布。
【請求項2】 熱接着性繊維は、熱接着成分がその融点(Tm1℃)を80≦Tm1≦140とする、グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂および/または微生物が生産した脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体であり、もう一つの熱可塑性樹脂がその融点(Tm2℃)をTm1+20≦Tm2<170とするグリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂または脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体またはポリプロピレン樹脂であり、該熱接着成分が鞘成分である鞘芯型複合繊維である請求項1の紙および不織布。
【請求項3】 熱接着成分にポリカプロラクトンなどのポリラクトンが50重量%未満の量で添加されている請求項2の紙および不織布。
【請求項4】 熱接着性繊維は、熱接着成分がその融点(Tm1℃)を80≦Tm1<140とする、グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂および/または微生物が生産した脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体であり、もう一つの熱可塑性樹脂がその融点(Tm2℃)を170≦Tm2<230とするポリブチレンテレフタレート(PBT)またはその変成体、またはポリエチレンテレフタレートの変成体などのポリエステル樹脂であり、該熱接着成分が鞘成分である鞘芯型複合繊維である請求項1の紙および不織布。
【請求項5】 融点(Tm1℃)を80≦Tm1≦140とする、グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂および/または微生物が生産した脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体からなる熱接着性繊維5〜30重量%と、レーヨン繊維やパルプなどのセルロース系繊維95〜60重量%とその他の繊維0〜10重量%が混合使用され、少なくとも該熱接着性繊維で熱接着されて一体化している耐水性に優れた紙。
【請求項6】 熱接着成分がその融点(Tm1℃)を80≦Tm1≦140とする、グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂および/または微生物が生産した脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体であり、もう一つの熱可塑性樹脂がその融点(Tm2℃)をTm1+20≦Tm2<170とするグリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂または脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体またはポリプロピレン樹脂であり、繊維断面における熱接着成分ともう一つの熱可塑性樹脂の容積比が30:70〜70:30であり、該熱接着成分が繊維表面の少なくとも30%を占めてなる複合繊維である熱接着性繊維。
【請求項7】 熱接着成分に融点が60℃以上のポリカプロラクトンが50重量%未満の量で添加されている請求項6の熱接着性繊維。
【請求項8】 熱接着成分がその融点(Tm1℃)を80≦Tm1≦140とする、グリコールと脂肪族系ジカルボン酸が重合した合成脂肪族ポリエステル樹脂および/または微生物が生産した脂肪族ヒドロキシカルボン酸重合体であり、もう一つの熱可塑性樹脂がその融点(Tm2℃)を170≦Tm2<230とするポリブチレンテレフタレート(PBT)またはその変成体、またはポリエチレンテレフタレートの変成体などのポリエステル樹脂であり、該熱接着成分が鞘成分である鞘芯型複合繊維である熱接着性繊維。