説明

紙用塗被液組成物

【目的】 塗工性及び印刷適性に優れた紙用塗被液組成物を提供する。
【構成】 顔料及び接着剤を含む紙用塗被液組成物において、その接着剤としてアミラーゼ及びプルラナーゼにより処理した澱粉を使用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、印刷紙等の紙用塗被液組成物に関し、特に、塗工性及び印刷適性に優れた紙用塗被液組成物に関する。
【従来の技術】印刷用塗工紙においては、近年、印刷画質の高級化、印刷速度の高速化へと技術革新が進んでいる。印刷画質面としては、グラビア印刷では、網点の再現性や印刷光沢が重要な特性であり、また、オフセット印刷では、インキのセット、表面強度、印刷光沢等が重要な特性であるが、印刷速度の高速化につれて、耐ブリスター性や、モットリング性(又は均一塗工性)等の印刷適性が重要な特性として注目されるようになってきた。一方、印刷速度の高速化に伴って、塗被液組成物の低粘度高濃度化の要求が高まり、印刷適性及び塗工性の両面で優れた塗被液組成物の開発が強く要望されている。
【0002】
【発明が解決しょうとする課題】従来より、塗被液組成物に使用する接着剤として、アミラーゼで処理した澱粉接着剤を使用することは公知であり(例えば、特開平1−156595号、同1−162894号、同1−162895号及び同2−3000号の各公報)、このようなアミラーゼ処理澱粉を接着剤として使用することによって、塗被液組成物の塗工性及び印刷適性をある程度改良することができた。しかしながら、このようなアミラーゼ処理澱粉を接着剤として使用する塗被液組成物の印刷適性及び塗工性は、印刷速度の高速化に対応するには未だ満足すべきものとは言えず、更にこれらの特性が改良された紙用塗被液組成物が強く要望されていた。従って、本発明は、印刷適性及び塗工性が更に改良された紙用塗被液組成物を提供することを目的とする。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討した結果、アミラーゼとともに、α−1,6−グルコシド結合を加水分解する酵素(以下、枝切り酵素という)を使用して処理した澱粉を紙用塗被液組成物の接着剤として使用することによって、その塗工性及び印刷適性が、従来のアミラーゼにより処理した澱粉を接着剤として使用する場合に比べて大いに改善されることを見出した。澱粉は、アミロースとアミロペクチンとから構成されている。アミロースは、α−1,4−グルコシド結合のみによって構成され、直線状となっている。一方、アミロペクチンは、α−1,4−グルコシド結合とともに、α−1,6−グルコシド結合によって構成されているので、分岐を有する高分子である。ところで、澱粉は、塗被液組成物に接着剤として使用する場合、そのままでは、粘度が高すぎて、流動性が充分ではない。そのため、従来よりアミラーゼのような酵素で処理した変性澱粉が接着剤として使用されてきた。このアミラーゼは、アミロース及びアミロペクチンに存在するα−1,4−グルコシド結合を加水分解し、澱粉を低分子量化することによって、粘度の低下、流動性の向上を図るために使用される。しかしながら、澱粉を変性するのに、アミロペクチンに存在するα−1,6−グルコシド結合を切断する枝切り酵素を併用する試みは、これまで全くなされていなかった。
【0004】本発明者らは、印刷速度の高速化に対応できる紙用塗被液組成物について鋭意検討した結果、アミラーゼに枝切り酵素を併用することによって、アミラーゼ単独で変性した場合に比べて、塗被液組成物の印刷適性及び塗工性が大きく改善されることを見出した。この原因は、必ずしも明瞭ではないが、枝切り酵素によって、アミロペクチンの側鎖が切断され、分岐が少なくなるとともに、アミロース含量が増大し、このことが、塗被液組成物を高濃度化しても、流動性を著しく増大する原因になるものと考えられる。本発明は、このような予想外の知見に基づいて完成されたものである。即ち、本発明は、顔料及び接着剤を含む紙用塗被液組成物において、前記接着剤が、アミラーゼと、枝切り酵素とによって処理した澱粉を含むことを特徴とする紙用塗被液組成物に関する。
【0005】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の塗被液組成物に使用される接着剤は、アミラーゼと、枝切り酵素とによって処理した澱粉を含む。この酵素処理に使用する澱粉原料としては、従来よりこのような澱粉接着剤に使用される澱粉原料であれば、特に制限なく使用することができる。このような澱粉原料としては、トウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、小麦澱粉等の天然澱粉原料や、そのような天然澱粉原料に酸化、カチオン化、酢酸変性、リン酸エステル化、ヒドロキシエチル化、カルボキシメチル化等の種々の変性を行ったものが挙げられる。上記澱粉原料は、アミラーゼと、枝切り酵素とによって処理され、接着剤として使用される。アミラーゼとしては、動物由来、植物由来、微生物由来等の種々の由来のアミラーゼを使用することができる。アミラーゼには、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、γ−アミラーゼ等の種々のアミラーゼがあるが、α−アミラーゼが好ましく使用される。
【0006】枝切り酵素は、アミロペクチンのα−1,6−グルコシド結合を切断するものであれば、何れの酵素であってもよい。このような酵素としては、例えば、プルラナーゼや、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ、デキストラナーゼ等が挙げられる。これらの酵素の内、末端から徐々にα−1,6−グルコシド結合を切断する酵素(エキソ型)は、内部から徐々にα−1,6−グルコシド結合を切断する酵素(エンド型)に比べて、多量に使用しないと効果が十分に発揮できないので、エンド型の枝切り酵素が特に好ましく使用される。これらの枝切り酵素の内、プルラナーゼは、α−1,6−グルコシド結合を効率よく切断することができるので、特に有用である。アミラーゼと枝切り酵素とは、同時に使用して澱粉原料を処理してもよく、またアミラーゼ及び枝切り酵素を別々に使用して、澱粉原料を処理してもよい。アミラーゼと、枝切り酵素との使用割合(重量比)は、一般に3:1〜1:100、好ましくは、2:1〜1:40である。アミラーゼの量が、3:1より多くなると、枝切り酵素の効果が小さくなる。一方、1:100より少なくなると、枝切り酵素の使用量に対する枝切り効果はそれに比例して大きくならないので好ましくない。アミラーゼは、澱粉原料1kgに対して一般に1〜1000 unit 、好ましくは10〜400 unitの量で使用する。枝切り酵素は、澱粉原料1kgに対して一般に 10 〜4000 unit 、好ましくは300 〜3000 unit の量で使用する。
【0007】澱粉原料の酵素処理は、一般に澱粉原料を水中に懸濁した状態で行われる。懸濁液には、必要に応じてpHを調整した後、酵素を添加し、一般に30〜90℃、好ましくは50〜70℃において、5〜150分、好ましくは10〜40分保持することによって酵素処理を行う。懸濁液における澱粉濃度は、一般に15〜50重量%、好ましくは30〜40重量%である。pHは、6〜7の範囲になる時に効率良く酵素が作用する。酵素処理した後、その酵素を失活させるために、酵素処理した澱粉懸濁液を、一般に100℃以上、好ましくは130℃以上に加熱する。この場合、加圧下で失活を行ってもよい。このようにして調製した酵素処理澱粉(澱粉接着剤)を含む懸濁液は、濃度35重量%の時に、60℃において50〜200 cpsの粘度を有する。この懸濁液は、そのまま本発明の塗被液組成物を調製するために使用してもよく、また必要に応じて、乾燥又は水の添加等により澱粉濃度を調整した後、塗被液組成物を調製するために使用してもよい。
【0008】本発明で使用される接着剤には、上記澱粉接着剤とともに、従来より使用されている他の接着剤を併用することができる。このような他の接着剤としては、例えばポリビニルアルコール、カゼイン、スチレン−ブタジエン系ラテックス(例えば、SBR ラテックス)、アクリル系ラテックス、スチレン−ブタジエン−アクリル系ラテックス等が挙げられる。澱粉接着剤は、本発明で使用される接着剤にもとづいて、0.5 〜40重量%、好ましくは3〜25重量%の量で使用される。澱粉接着剤の量が、0.5 重量%よりも少ないと、保水性が低下し、一方、その量が40重量%よりも多くなると、流動性が低下し、好ましくない。また、接着剤は、後述する顔料100重量部に対して、一般に4〜28重量部、好ましくは10〜20重量部の量で使用される。
【0009】本発明で使用される顔料は、従来よりこの分野で使用される顔料であれば、特に制限なく使用することができる。このような顔料としては、例えばクレー、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、サチンホワイト、硫酸カルシウム、タルク、ホワイトカーボン、プラスチックピグメント、バインダーピグメント、尿素樹脂等を挙げることができる。本発明の塗被液組成物には、必要に応じて、分散剤や、消泡剤、潤滑剤、保水剤、防腐剤、pH調整剤、蛍光染料等の種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤の量は、本発明の塗被液組成物に基づいて一般に0.01〜0.5重量%である。本発明の塗被液組成物の濃度は、高い程好ましいが、一般には、50〜70重量%の範囲である。本発明によれば、高濃度であっても、粘度を低下することができるので、従来採用されていたような50〜60重量%から、例えば70重量%のような高濃度まで採用することができる。なお、高速塗工においては、50重量%よりも濃度が小さいと、白紙光沢性及び表面平滑性が劣り易くなる。本発明の塗被液組成物が塗工される原紙の種類は特に制限はなく、パルプや、化学パルプ、機械パルプ、脱墨パルプ等の種々のパルプから構成される原紙が使用される。この原紙には、填料や、紙力剤、サイズ剤、濾水歩留り向上剤等の添加剤を添加したものであってもよい。更に、原紙は、酸性抄紙、中性抄紙又はアルカリ抄紙等の種々の抄紙法によって製造したものであってもよい。
【0010】本発明の塗被液組成物の塗工方法としては、従来よりこの分野で採用される塗工方法を制限なく使用することができる。このような塗工方法としては、例えば、ブレードコーターや、ゲートロールコーター、エアーナイフコーター、チャンピオンコーター等の種々のコーターを使用する塗工方法が挙げられる。最近の塗工速度の高速化においては、ブレードコーターが広く使用されている。原紙に塗工する場合の本発明の塗被液組成物の塗工量(乾燥前)は、一般に、3〜10g/m2(片面)、好ましくは6〜9g/m2(片面)である。なお、本発明の塗被液組成物を塗工する前に、印刷適性の改善等を図るために原紙に予め下塗り塗料を塗工し、その上に本発明の塗被液組成物を上塗り塗料として塗工してもよい。
【0011】
【実施例】以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明する。
実施例1カチオン化カピオカ澱粉(P-4A: Piraab Starch 製)を水に懸濁して、20重量%の澱粉濃度の懸濁液(pH:7)を調製した。この懸濁液に、澱粉1kgに対して200 unit の量でα−アミラーゼ(ファンガミル:ノボノルディスティック社製)を添加し、更に、澱粉1kgに対して400 unit の量でプルラナーゼ(プロザモイム:ノボノルディスティック社製)を添加した。この懸濁液を、60℃で20分間保持し、次いで懸濁液の温度を95℃に加熱して酵素を失活させた。酵素処理した懸濁液におけるアミロース含量は、澱粉の還元末端基量を比色定量法により測定した結果、2.08ミリモル/リットルであり、プルラナーゼを使用しない場合の1.58ミリモル/リットルに比べて、約32%増大した。この酵素処理した懸濁液を使用して、以下の配合組成を有する上塗り塗料を形成した。
【0012】
上塗り塗料(塗料濃度:63重量%(固形分)) 重量部 カオリン(UW-90: エンゲルハード社製) 70 重質炭酸カルシウム(エース25:同和カルファイン社製) 50 上記酵素処理した懸濁液(澱粉固形分) 3 SBRラテックス(SN−328:住友ダウ社製) 13 分散剤(アロン−T40:東亜合成社製) 0. 3 NaOH 0. 1 水 40.0 全176.4この上塗り塗料について、B型粘度、ハイシェア粘度及び保水度を測定した。その結果を以下の表1に示す。ここで、B型粘度は、30℃において、60 rpmで測定した。ハイシェア粘度は、ハーキュレス粘度計を使用して、30℃において4400 rpmで測定した。また、保水度は、上記塗料の上に濾紙を置き、塗料中の水が濾紙を貫通するまでの時間によって評価した。
【0013】比較例1プルラナーゼを使用しないことを除いて、実施例1と同様にして、上塗り塗料を調製した。この上塗り塗料のB型粘度、ハイシェア粘度及び保水度を、表1に示した。
実施例2実施例1において、澱粉懸濁液にα−アミラーゼを添加して、60℃で20分間α−アミラーゼで処理した後、95℃に加熱してα−アミラーゼを失活させ、酵素処理液を60℃に冷却し、次いで澱粉懸濁液にプルラナーゼを添加し、60℃で20分間酵素処理し、酵素処理懸濁液を95℃に昇温して、酵素を失活させたことを除いて、実施例1と同様にして、上塗り塗料を調製した。この上塗り塗料のB型粘度、ハイシェア粘度及び保水度を、表1に示した。
【0014】
【表1】
表1 B型粘度 ハイシェア粘度 保水度 (cps) (cps) (sec)実施例1 710 18 22実施例2 600 18 17比較例1 820 21 13上記表1から、プルラナーゼを使用しない比較例1に比べて、アミラーゼとプルラナーゼとを併用する実施例1及び2の上塗り塗料は、同一の塗料濃度であるにもかかわらず、B型粘度及びハイシェア粘度が低く、流動性の優れていることが分かる。また、実施例1及び2の上塗り塗料の保水度も、比較例1に比べて優れている。保水度が大きい程、原紙上において塗料が水分を失って、固化するのを防止するので、塗工性にとって非常に有用である。
【0015】参考例1以下の配合組成を有する下塗り塗料を調製した。
下塗り塗料(塗料濃度:58重量%(固形分)) 重量部 カオリン(HT カオリン: エンゲルハード社製) 50 重質炭酸カルシウム(エース25:同和カルファイン社製) 50 酸化澱粉(王子エースC:王子コーンスターチ社製) 5 SBRラテックス(SN−328:住友ダウ社製) 16 分散剤(アロン−T40:東亜合成社製) 0.3 NaOH 0.1 水 50.0 全172.0
【0016】中質原紙(坪量:75g/m2)に、上記下塗り塗料を片面に5g/m2(両面で、10g/m2)の量で塗工し、乾燥した後、実施例1及び2並びに比較例1で調製した上塗り塗料を、片面で7.5g/m2(両面で15g/m2)の量で塗工して、それぞれ塗工紙1〜3を製造し、この塗工紙に前処理(JIS P8111)を施した後、テストスーパーカレンダー処理を行った。次いで、得られた塗工紙1〜3について、オフセット印刷適性を調べ、その結果を以下の表2に示す。
【0017】
【表2】
表2 塗工紙 使用した 平滑度 モット ドライ 耐ブリスター 上塗り塗料 (sec) リング性 ピック 性 (℃) 1 実施例1 2000 5 5 172 2 実施例2 2200 5 5 170 3 比較例1 2000 3 3 152 上記表2に示す各特性の測定方法は以下の通りである。平滑度は、王研式平滑度計を使用して測定した。モットリング性(均一塗工性)は、Tappi Japan 46(1):74 (1992) に従って測定した。この場合、5段階評価を行った。その評価基準は以下の通りである。
1・・・著しく不良2・・・不良3・・・普通4・・・やや良好5・・・良好
【0018】ドライピックは、IPI No.7のインクを使用し、塗工紙をRI印刷試験機で印刷し、印刷面におけるピックの発生程度を5段階で目視評価した。その評価基準は以下の通りである。
1・・・全面でむける2・・・約3/4の面積でむける3・・・約半分の面積でむける4・・・わずかにむける5・・・まったくむけない耐ブリスター性は、オフセット輪転機用のインクを使用し、塗工紙をRI印刷試験機で両面印刷し、この印刷塗工紙を加熱したシリコーンオイルに浸漬し、ブリスターの発生し始める温度によって評価した。上記表2から、本発明の塗被液組成物(実施例1及び2)を使用して製造した塗工紙は、比較例1の塗被液組成物を使用して製造した塗工紙に比較して、オフセット印刷において、モットリング性、ドライピック及び耐ブリスター性に優れていた。即ち、本発明の塗被液組成物によって製造した塗工紙においては、均一な塗工ができ、表面硬度が高く、しかも高温においてもブリスターが発生しないという優れた特性が得られた。
【0019】
【発明の効果】本発明の紙用塗被液組成物において、接着剤として、アミラーゼと枝切り酵素とを併用して処理した澱粉を使用することにより、高濃度であっても、低粘度化できるため、塗被液組成物の塗工性が優れ、しかもこの塗被液組成物を使用して得られた塗工紙は、モットリング性、耐ブリスター性等の印刷適性の優れたものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 顔料及び接着剤を含む紙用塗被液組成物において、前記接着剤が、アミラーゼと、α−1,6−グルコシド結合を加水分解する酵素とによって処理した澱粉を含むことを特徴とする、紙用塗被液組成物。

【公開番号】特開平6−306794
【公開日】平成6年(1994)11月1日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−96352
【出願日】平成5年(1993)4月23日
【出願人】(000005407)本州製紙株式会社 (4)