説明

細胞に対する被検物質の評価

【課題】 細胞に対する被検物質の作用および/または効果について、精度よく再現性の高い定量値を得る方法等を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法であって、(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、(2)所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、(3)前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る工程と、(4)前記エリア値をもとに、前記被検物質の作用および/または効果を評価する工程と、を含む評価方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞に対する被検物質の性質の評価に係り、より詳細には、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異もしくは過剰発現した細胞または遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法、および被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法、ならびに当該方法を実行するプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検物質が作用するメカニズムおよびその標的分子の同定は、ゲノム構造が明らかになった現在でも困難な課題の一つである。最近、DNA microarray等のポストゲノム技術の進展により、被検物質の作用をゲノムワイドに解析する試みがなされてきている(たとえば、非特許文献1参照)。この中で、多くのヒト相同遺伝子を持ち遺伝学的手法が使える出芽酵母S.cerevisiaeは(以下、「酵母」と称する場合がある)、被検物質の作用メカニズム解明に有用な道具と考えられてきた(たとえば、非特許文献2参照)。
【0003】
最近、酵母の全遺伝子約6000種を一種ずつ破壊するプロジェクトが完了し(たとえば、非特許文献3参照)、これらの酵母を用いたシステムが注目されている。この結果、酵母ゲノム上に存在する約6000種のうち、約1200遺伝子は、生存に必須の遺伝子、即ち、これらの遺伝子を一つでも破壊すると、当該酵母が致死となる遺伝子であることが明らかになった。一方、残りの約4800遺伝子は、その遺伝子を破壊しても、当該酵母が通常の培地中での増殖が可能であり、当該酵母が致死とならない遺伝子であることが明らかになった。
【0004】
しかし、その増殖速度は、遺伝子を破壊していない親株と全く同等のものから、非常に遅いものまで様々である。また、これらの遺伝子破壊株は、周囲の環境に対する反応性も異なる。つまり、破壊された遺伝子の役割によって、ある条件下で増殖への影響を受ける場合がある。逆にいえば、ある条件で増殖に影響を受けた株で破壊されている遺伝子は、その条件に対する細胞応答において、何らかの役割を持っていることがわかる。
【0005】
このときの条件の一つとして、細胞を被検物質処理することが挙げられる。たとえば、ある被検物質を約4800種の非必須遺伝子破壊株それぞれに作用させたとき、特異的にその被検物質の影響を受ける非必須遺伝子破壊株があれば、その遺伝子がその被検物質の作用に関連していることがわかる。ここで、非必須遺伝子とは、遺伝子を破壊(二倍体細胞の場合には2本の対立遺伝子の双方を破壊、一倍体細胞の場合には1本の遺伝子を破壊)しても細胞が増殖できる遺伝子をいう。実際に、この原理を用いた被検物質作用機序解析法が次々と報告されてきている(たとえば、非特許文献4〜7参照)。また、様々な被検物質について被検物質感受性株プロファイリングを行い、これらを比較することで、ターゲット未知の被検物質の作用点が見えてくる可能性が報告されている(たとえば、非特許文献7参照)。この方法をyeast deletion set法(酵母破壊株セット法(以下、「YDS法」と称する場合がある))と呼ぶ。
【0006】
ところで、被検物質による細胞の増殖阻害活性は、通常、被検物質非存在下における細胞数に対する、被検物質存在下における細胞数の割合で表される。しかし、細胞数を実測することは煩雑な作業であるため、細胞数を代替できる指標を設定し、これを定量化する様々な方法が使用されている。たとえば、微生物(細菌、酵母など)では、あるタイムポイントにおける培養液の濁度を測定する方法や培養液の濁度を経時的に測定し、増殖速度の遅延時間を指標とする方法などが知られている。
【0007】
しかし、これらの方法では、約4800種の非必須遺伝子破壊株について、増殖阻害活性を一律に評価する場合には、精度よく再現性の高い定量値を得ることは困難であった。その理由は、以下の通りである。すなわち、約4800種の非必須遺伝子破壊株は、それぞれ異なる増殖速度を持ち、また、被検物質による増殖阻害パターンも大きく分けて3種類、すなわち(A)対数増殖期への進入が遅延するパターン、(B)細胞の倍加時間が延長するパターンおよび(C)飽和細胞数が減少するパターンに分けられることが報告されている(たとえば、非特許文献8、図1(A)ないし(C)参照)。そのため、これらの非必須遺伝子破壊株について、増殖阻害活性を一律に評価するには、あるタイムポイントにおける培養液の濁度を測定する方法では、全ての株において被検物質非処理群と被検物質処理群の差が最大となるようなタイムポイントを取ることは不可能であり(図1参照)、増殖倍加時間の遅延を指標とする方法では、飽和細胞数が減少するパターンの時に感受性株を見逃してしまうこと、はずれ値(outlier)があった場合にその値に大きく影響を受けること、測定開始時間が遅れると算出できないこと、過去のデータを当てはめることが困難であること、さらには、実験では常に理想的な増殖曲線を得られるとは限らず、対数増殖期の傾きを求める方法などでは測定ポイントのずれによって大きな誤差を生じる可能性があった。
【0008】
また、細胞増殖に対する影響を調査するために、DNAマイクロアレイを用いた方法も報告されている(たとえば、非特許文献5および6参照)が、細胞からゲノムDNAを抽出する必要があることから、同一サンプルを用いて経時的に増殖を追うことは不可能である。また、DNAマイクロアレイを用いた方法では、ランニングコストが大変高価であることから、一般的な方法とはなりにくいと考えられる。
【0009】
一方、ヒトを含む哺乳動物培養細胞では、被検物質の細胞増殖阻害活性の測定には、標識した基質のDNAへの取り込みを測定する方法(トリチウムチミジン法等)、ミトコンドリア活性を測定する発色基質を用いて細胞数の指標とする方法(MTT法、Alamar Blue法等)、タンパク質染色を原理とするSRB法などが広く用いられてきた。しかし、これらの方法は、検出のために細胞を殺す必要があり、特定のタイムポイントで測定することになるため、当該タイムポイントで細胞増殖を抑制した場合しか検出できず、また、経時的な測定のためには、測定ポイント分のサンプルを準備する必要がある。このような状況下においては、異なる増殖速度を持つ多種多様な細胞に対する、ある被検物質の増殖阻害活性を一律に評価する方法は知られていないのが現状である。
【0010】
増殖阻害活性を評価する方法として、たとえば、50%増殖阻害活性を示す被検物質濃度(IC50: 50% Inhibitory Concentration)がよく用いられるが、濃度依存性が緩やかな被検物質の場合には、実験回毎にその値が大きく異なることがある。
【0011】
一方、ゲノムシークエンスプロジェクトが様々な生物種で完了したことにより、ゲノムDNA塩基配列情報およびこれをもとにしたタンパク質のアミノ酸配列情報は簡単に入手できるようになった。しかしながら、各遺伝子が生体にとってどのような役割を担っているかについては配列情報からは得ることはできないのが現状である。
【0012】
前述のように、YDS法は、ある一つの遺伝子が破壊された株がある被検物質に対する
感受性の変化を示すことを指標に、被検物質の作用を見出していく方法である。したがって、感受性の変化を示した株で破壊された遺伝子がどのような生理的機能を持っているのかという情報があって初めて被検物質の作用点予測が可能となる。
【0013】
ところで、これまで、遺伝子の機能情報に関する記述に関しては、個々の研究者にゆだねられており、統一的にこれらを定義する試みはなされていなかった。また、異なる生物種間では、それぞれ全く互換性のない言葉が使用されており、遺伝子の機能情報について、コンピュータで一律に処理するのは不可能であった。
【0014】
Gene Ontology(以下、GOと称する場合がある)は、遺伝子の機能情報の記述に使用される語彙を定義したものであり、Gene Ontologyコンソーシアムによって進められているプロジェクトである(The Gene Ontology Consortium, 2000, Nature BioTenology, 25: 25-29)。Gene Ontologyは、3つのオントロジー、即ち、Biological Process(主要な生物現象についての記述)、Molecular Function(遺伝子産物の生化学レベルでの挙動に関する記述)、およびCellular Component(遺伝子産物の細胞内局在や所属する高分子複合体に関する記述)で構成されている。それぞれのオントロジー内は階層化された構造となっており、階層をたどることにより大雑把な分類から、より詳細な記述となっていく構成を有する。
【非特許文献1】Huels et al, 2002, Drug Discovery Today, 7 (suppl.):119-124.
【非特許文献2】Simon and Bedalov, Nat Rev Cancer, 2004, 4:481-92.
【非特許文献3】Giaever et al, Nature 2002 418:387-91.
【非特許文献4】Giaever et al, Nat Genet, 1999, 21:278-83.
【非特許文献5】Giaever et al, Proc Natl Acad Sci U S A, 2004, 101:793-798.
【非特許文献6】Lum et al, Cell, 2004, 116:121-37.
【非特許文献7】Parsons et al, Nat BioTechnol, 2004, 22:62-9.
【非特許文献8】Warringer et al, 2003, Proc Natl Acad Sci USA, 100:15724-15729.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、細胞に対する被検物質の作用および/または効果について、精度よく再現性の高い定量値を得る方法、および、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質について、精度よく再現性の高い結果を得る方法ならびに遺伝子の機能情報についても同時に容易に得る方法ならびにこれらの方法を実行するプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため、増殖グラフの見た目を最もよく反映し、あらゆる感受性パターンに対応でき、しかもはずれ値の影響をほとんど受けない指標を鋭意検討した結果、被検物質非存在下および存在下で描かれた増殖曲線で囲まれた「面積」を用いることを見出した。さらに、異なる実験間での比較を可能とするため、これを培養時間で除算した値を「エリア値」として、細胞数に関する指標に用いることで、細胞数の評価が可能であるという知見を得た。また、これにより、増殖速度の大きく異なる細胞群を同時に比較すること、また、異なる感受性パターンを示す細胞を一律に評価することが実現される。そして、YDS法において、感受性の変化の指標として有用であることが示される。
【0017】
また、本発明では、被検物質に対して感受性の変化を示した細胞株において破壊された遺伝子に関する情報について、遺伝子機能情報を有するデータベースへ照会して遺伝子機能情報を取得し、前記破壊された遺伝子が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別することにより、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出することを容易にし、被検物質の作用メカニズムおよびその標的分子の同定が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すわなち、本発明の一の態様によれば、本発明は、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法であって、(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、(3)前記エリア値をもとに、前記被検物質の作用および/または効果を評価する工程と、を含む評価方法を提供する。前記エリア値を用いることで、細胞に対する被検物質の作用および/または効果の評価をすることが可能となる。
【0019】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において行う。このように、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得ることで、測定のタイムポイントの誤差を減少させることができる。
【0020】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る。かかるエリア値を用いて、異なる実験間の比較をすることができる。
【0021】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞において行う。このように、遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞の細胞数を評価することで、細胞応答における被検物質の役割に関する知見を得ることができる。
【0022】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である。異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞を利用することで、細胞応答に関連する複数の遺伝子および/またはタンパク質の相関関係についての知見を得ることができる。
【0023】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞において行う。このように、遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞の細胞数を評価することで、細胞応答における被検物質の役割に関する知見を得ることができる。
【0024】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である。異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞を利用することで、細胞応答に関連する複数の遺伝子および/またはタンパク質の相関関係についての知見を得ることができる。
【0025】
本発明に係る評価方法の好ましい態様では、前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上または以下のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める。このようにして、本発明によるエリア値を利用して、被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を見つけ出すことができる。
【0026】
また、本発明の別の態様によれば、本発明は、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法であって、(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、(3)前記エリア値をもとに、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する工程と、を含む検出方法を提供する。かかる方法により、被検物質の作用および/効果と、遺伝子および/またはタンパク質との関連性に関する情報を入手することができる。
【0027】
本発明に係る検出方法の好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において行う。このように、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得ることで、測定のタイムポイントの誤差を減少させることができる。
【0028】
本発明に係る検出方法の好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る。かかるエリア値を用いて、異なる実験間の比較をすることができる。
【0029】
本発明に係る検出方法の好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である。異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞を利用することで、細胞応答に関連する複数の遺伝子および/またはタンパク質の相関関係についての知見を得ることができる。
【0030】
本発明に係る検出方法の好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である。
【0031】
本発明に係る検出方法の好ましい態様では、前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上または以下のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の作用および/または効果に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める。
【0032】
本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、(5)遺伝子および/またはタンパク質と前記エリア値との関係を表示する工程をさらに含む。かかる工程により、被検物質に影響を受ける遺伝子および/タンパク質を表示することが可能となる。
【0033】
また、本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して、前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得する工程をさらに含み、前記(6)工程にて、取得した遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を表示する工程を含む。このようにして、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質の機能が推定される。
【0034】
本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得し、前記遺伝子が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別する工程をさらに含む。かかる工程により、被検物質が関与する遺伝子および/またはタンパク質の機能が推定される。
【0035】
本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、前記(6)工程にて、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かにより識別して表示する工程を含む。かかる表示により、遺伝子および/またはタンパク質ごとに、特定の機能を有するか否かの評価が容易にできる。
【0036】
本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、前記細胞数に関する指標は、細胞または培養液を採取せず、および/または、非破壊的手法による指標である。これらの指標を用いて、細胞数を評価することができる。
【0037】
本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、前記細胞数に関する指標は、グルコース消費量、濁度、細胞数、細胞面積、蛍光強度から選択される指標である。これらの指標を用いて、細胞数を評価することができる。
【0038】
本発明に係る評価および検出方法の好ましい態様では、前記細胞は、真核細胞であり、その真核細胞は酵母および/または哺乳動物細胞であることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明では、前記一および別の態様における方法を実行するプログラムを提供する。具体的には、本発明のさらに別の態様では、コンピュータに、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価させるプログラムであって、(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、(3)前記エリア値をもとに、前記被検物質の作用および/または効果を評価する工程と、を実行するプログラムを提供する。かかるプログラムにより、エリア値という指標を用いて、細胞に対する被検物質の作用および/または効果の評価を、コンピュータに実現させることができる。
【0040】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において行う。このように、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得ることで、測定のタイムポイントの誤差を減少させることができる。
【0041】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る。かかるエリア値を用いて、異なる実験間の比較をすることができる。
【0042】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞において行う。このように、遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞の細胞数を評価することで、細胞応答における被検物質の役割に関する知見を得ることができる。
【0043】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である。異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞を利用することで、細胞応答に関連する複数の遺伝子および/またはタンパク質の相関関係についての知見を得ることができる。
【0044】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞において行う。
【0045】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である。
【0046】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上または以下のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める。
【0047】
さらにまた、本発明の別の態様では、本発明は、コンピュータに、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質の検出を実行させるプログラムであって、(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、(3)前記エリア値をもとに、前記被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する工程と、を実行するプログラムを提供する。かかるプログラムにより、エリア値という指標を用いて、特定の被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質の検出を、コンピュータに実現させることができる。
【0048】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(2)を、所定の時間内において行う。このように、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得ることで、測定のタイムポイントの誤差を減少させることができる。
【0049】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(2)を、前記工程(2)を、所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る。かかるエリア値を用いて、異なる実験間の比較をすることができる。
【0050】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞において行う。このように、遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞の細胞数を評価することで、細胞応答における被検物質の役割に関する知見を得ることができる。
【0051】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である。異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞を利用することで、細胞応答に関連する複数の遺伝子および/またはタンパク質の相関関係についての知見を得ることができる。
【0052】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞は、複数の細胞を含み、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である。
【0053】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める。
【0054】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、(5)遺伝子と前記エリア値との関係を表示する工程をさらに含む。
【0055】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得する工程をさらに含み、前記(6)工程にて、取得した遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を表示する工程を含む。
【0056】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得し、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別する工程をさらに含む。
【0057】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記(6)工程にて、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かにより識別して表示する工程を含む。
【0058】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞数に関する指標は、細胞または培養液を採取せず、および/または、非破壊的手法による指標である。これらの指標を用いて、細胞数を評価することができる。
【0059】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞数に関する指標は、グルコース消費量、濁度、細胞数、細胞面積、蛍光強度から選択される指標である。
【0060】
本発明に係るプログラムの好ましい態様では、前記細胞は、真核細胞であり、その真核細胞は、酵母および/または哺乳動物細胞であることが好ましい。
【0061】
さらにまた、本発明のさらなる態様では、得られた遺伝子発現データに基づいて、遺伝子機能情報から、特定の機能を有する遺伝子を表示する方法であって、遺伝子機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子機能情報を取得し、前記得られた遺伝子発現データから関連遺伝子が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別する工程と、前記判別結果に基づき、前記関連遺伝子が前記特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かにより前記関連遺伝子を識別して表示する工程と、を含む表示方法を提供する。かかる方法によれば、遺伝子を機能毎に分類して識別表示することが可能となる。
【0062】
本発明に係る前記方法の好ましい態様では、前記遺伝子発現データは、複数の遺伝子の発現変化に関するデータである。
【0063】
本発明に係る前記方法の好ましい態様では、前記発現変化は、DNAチップ法、ディフェレンシャルディスプレイ法、定量的PCR法から選択される方法により測定される。
【0064】
くわえて、本発明のさらなる別の態様では、コンピュータに、得られた遺伝子発現データに基づいて、遺伝子機能情報から、特定の機能を有する遺伝子を表示させるプログラムであって、遺伝子機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子機能情報を取得し、前記得られた遺伝子発現データから関連遺伝子が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別する工程と、前記判別結果に基づき、前記関連遺伝子が前記特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かにより前記関連遺伝子を識別して表示する工程と、を実行するプログラムを提供する。かかるプログラムによれば、遺伝子を機能毎に分類して識別表示することを、コンピュータに実行させることができる。
【0065】
本発明に係る前記プログラムの好ましい態様では、前記遺伝子発現データは、複数の遺伝子の発現変化に関するデータである。
【0066】
本発明に係る前記プログラムの好ましい態様では、前記発現変化は、DNAチップ法、ディフェレンシャルディスプレイ法、定量的PCR法から選択される方法により測定される。
【0067】
本発明で用いる用語「被検物質」とは、既知物質だけでなく、今後、開発されるであろう未知物質を含む物質を意味する。また、本発明で用いる用語「被検物質の作用および/または効果」とは、被検物質の性質や特性等を指すものである。
【発明の効果】
【0068】
本発明に係る評価および検出方法、並びに当該方法を実行するプログラムによれば、被検物質の細胞数に与える影響を評価することができ、また、被検物質の影響を受ける遺伝子やタンパク質を検出することができ、さらに、被検物質の作用メカニズム解明に有効な解析手法が提供される。また、細胞数に関する指標を用いて細胞数に対する被検物質の作用および/または効果を評価する本発明によれば、酵母に限らず細胞一般、たとえば、ヒトを含む哺乳動物の細胞に適用可能であり、様々な増殖速度や微妙な感受性パターンを検出することが可能となる。くわえて、増殖能を指標とした化合物の活性測定(たとえば、抗腫瘍活性や抗菌活性)に広く一般的に用いることのできるパラメータになり得る。
【0069】
さらに、本発明によれば、被検物質に対して感受性の変化を示した細胞で欠損、変異または過剰発現した遺伝子、転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子やその他の遺伝子発現データと、その遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を関連付けて表示する方法およびその方法を実行するプログラムが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0070】
以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。なお、本明細書において引用した文献、公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
また、以下の説明では、真核細胞として最も単純な細胞の一つである酵母を例として説明するが、本発明は、細胞として酵母に限定されるものではない。
【0071】
本発明において、遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞は、種々の方法により入手することができる。遺伝子が欠損した細胞の作製方法は、人工的にゲノム上の特定の遺伝子を不活性化することにより作製できる。ゲノム上の特定の配列と相同的であるが欠失や挿入などの変異により遺伝子として機能しないDNA断片を細胞に導入し、相同部分での組み換えを起こし、特定の遺伝子を不活性化させることができる。また、ゲノムの中の特定の遺伝子を標的にして個体を操作する遺伝子ターゲッティング法により、細胞および個体レベルで、特定遺伝子のみに変異を導入することが可能であり、標的遺伝子を部分的あるいは完全に欠損させた個体を得ることもできる。本発明では、標的遺伝子を欠損させた個体からの細胞を用いることもできる。遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞には、癌細胞が挙げられる。
【0072】
本発明において、遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞は、RNAi、アンチセンス、リボザイム、アプタマー、DNA-RNAキメラ、優性阻害変異(ドミナントネガティブ)、CALI法、人工ポリアミド、デコイ法などの方法により作製することができる。さらに、これらのライブラリーを用いることにより、遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞群を作製することもできる(BMC Cell Biol. 2004 Apr 30;5(1):16., Nature. 2004 Mar 25;428(6981):431-7., Nature. 2004 Mar 25;428(6981):427-31.)。
【0073】
前述のとおり、図1は、約4800種の非必須遺伝子破壊酵母株における典型的な被検物質による増殖阻害パターンの概略図を示す。図1から分かるように、約4800種の非必須遺伝子破壊株は、大きく分けて3種類の被検物質による増殖阻害パターン、即ち、対数増殖期への進入が遅延するパターン(A)、細胞の倍加時間が延長するパターン(B)および飽和細胞数が減少するパターン(C)に大別される。
【0074】
図2は、図1に例示した増殖阻害パターンの解析についての説明図である。図2(A)および(D)では、ある時間点での細胞数の比を算出する解析法を示す。この場合、増殖速度の違う細胞同士を比較する際、設定されたタイムポイントによって測定値が大きく異なるという欠点がある。図2(B)に示す解析法は、ある細胞数に到達する時間の遅延を、薬物に対する細胞増殖の感受性の指標とする方法である。この場合には、図2(E)に示すように、飽和細胞数が低下するような増殖阻害パターンのときには、ある細胞数に到達する時間の遅延を算出することは不可能となる。さらに、図2(C)は、細胞増殖曲線の傾きを計算することにより、倍加時間を算出する解析法を示す。しかし、図2(F)のように、対数増殖期の倍加時間が変わらないパターンでは、細胞増殖に対する薬物の感受性を評価することができないという問題点がある。
【0075】
そこで、本発明では、図3(G)ないし(I)にて示すように、被検物質としての薬物の非存在下および存在下における二本の経時的増殖曲線で囲まれる面積に着目し、かかる面積を細胞に対する薬物感受性の尺度とすれば、図2(A)ないし(F)のいかなる阻害パターンに対しても適用可能である。なお、図3では、細胞数の指標として細胞数を表示したが、細胞数に限定されず、細胞数の指標となるものであればよい。細胞数を測定する方法としては、血球計算盤、フローサイトメトリー、細胞係数分析装置(コールターカウンター)により細胞数を計測する方法等が好ましい。細胞数に関する指標としては、破壊的手法による方法として、核酸の取り込み量(トリチウムチミジン法など)、ミトコンドリア活性(MTT法、Alamar Blue法など)、DNA量等、細胞および培養液を採取せず、非破壊的手法による方法として、グルコース消費量、濁度、画像解析による細胞数または細胞面積を測定する方法、蛍光強度(蛍光標識された細胞を用いた方法)等が挙げられる。本発明に係る評価および検出方法では、グルコース消費量、濁度、画像解析による細胞数または細胞面積を測定する方法、蛍光強度(蛍光標識された細胞を用いた方法)等が好ましい。
【0076】
本発明にて用いる細胞に対する薬物の感受性の尺度としての「二本の経時的増殖曲線で囲まれる面積」について、以下に説明する。二本の経時的増殖曲線で囲まれる面積は、被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数(以下、「F(t)」という。)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数(以下、「G(t)」という。)とを求める(図3(G)参照)。次いで、そのコントロール曲線の関数とそのテスト曲線の関数の差、つまり、式(F(t)−G(t))を積分することで、本発明にて用いる「二本の経時的増殖曲線で囲まれる面積」を算出することができる。
【0077】
ここで、前述の関数F(t)およびG(t)の求め方について説明する。図4は、細胞数の指標として濁度を利用した場合において、本発明による評価方法に用いるF(t)とG(t)の概略図を示す。図4に示すように、黒四角は、被検物質非存在下における各時間での濁度を吸光度の値とし、黒丸は、被検物質存在下、各時間における濁度を吸光度の値として示す。そして、関数F(t)およびG(t)は、たとえば、実際に測定された二つの時間における吸光度を直線と近似して求めることができる。また、最小二乗法の考え方を測定値へ当てはめて関数F(t)およびG(t)を求めることもできる。そして、求められた関数F(t)およびG(t)から、式(F(t)−G(t))を積分することにより、本発明にて用いる細胞に対する薬物感受性の尺度としての「二本の経時的増殖曲線で囲まれる面積S1」を算出することができる。
【0078】
【数1】

【0079】
本発明では、式(F(t)−G(t))を求める際、所定の時間内において積分することが好ましい。ここで、積分する際の所定の時間について説明する。この所定の時間は、二つの関数が共通にする時間であることが必要であり、図4では、有効時間(Te−Ts)で表される。
【0080】
【数2】

【0081】
前述の積分された面積S1およびS2は、積分する時間により面積自体の値が変動する、つまり、面積S1およびS2は、積分する時間に依存する値であることは、当業者には容易に理解できる。そこで、時間に依存せずに、各測定間で対比できるように、前述の面積S2を、前記所定の時間で除算した値を、本発明では「エリア値」(以下、「ARS」と称することもある。)として、細胞に対する被検物質の感受性の指標とする。
【0082】
【数3】

【0083】
なお、二つの経時的増殖曲線に囲まれた面積のその他の算出方法としては、シンプソン法、ロンバーグ法などがある。経時的増殖曲線は不規則なタイミングで吸光度を測定しているため、これらの方法にて面積を算出するためには、スプライン変換などのデータ補間、近似曲線の算出が必要となる。
【0084】
このように、被検物質の非存在下および存在下にて、各種の細胞数に関する指標で追跡し、前述のARSを求めることで、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価することが可能となる。
【0085】
本発明によるARSを用いれば、成長曲線の形によらず、データの比較が可能となる。つまり、理想的な成長曲線が得られない場合にも評価することができる。具体的には、本発明によるARSでは、成長曲線の立ち上がり時間の遅れや最大値到達点の違いもそのまま反映されるため、被検物質による影響を総合的に評価できる指標として採用している。
【0086】
さらに、遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞、および/または、遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞を用いて、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出することができる。なお、以下に、酵母を用いた具体的な例を説明するが、本発明は、酵母に限定されるものではない。
【0087】
非必須遺伝子破壊株を用い、合成致死(synthetic lethal)を利用して、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出することができる。ここで、合成致死とは、細胞中の複数種の遺伝子を同時に破壊すると致死に至る性質をいう。また、合成致死に至る遺伝子の組合せを合成致死の関係にあるという。
【0088】
たとえば、それぞれ非必須遺伝子である遺伝子Aまたは遺伝子Bの破壊株は、生育可能であるが、遺伝子Aおよび遺伝子Bを同時に破壊された株は、致死となる場合がある。このとき、遺伝子Aと遺伝子Bは、合成致死の関係にあるということができる。そして、たとえば、遺伝子Bの破壊株は、遺伝子Aの転写産物および/または翻訳産物を阻害する被検物質を作用させると、遺伝子Bを破壊していない株の生育が完全には阻害されない濃度であっても致死となることが期待される。この原理を応用して、被検物質を非必須遺伝子破壊株に作用させたときに致死となる株を同定すると、その株で破壊されている遺伝子と合成致死の関係にある遺伝子が明らかになる。そして、当該合成致死の関係にある遺伝子の転写産物および/または翻訳産物が、その被検物質の標的分子となると考えられる(Hartwell et al, Science, 1997, 278:1064-8, Parsons et al, Nat Biotechnol, 2004,22:62-9)。
【0089】
また、ある遺伝子と合成致死の関係にある遺伝子が知られていない場合であっても、約4800種の非必須遺伝子破壊株に対する作用を網羅的に解析することによって、被検物質の標的分子を推定することも可能である。たとえば、すでに標的分子が明らかになっている物質を約4800種の非必須遺伝子破壊株に作用させ、網羅的に感受性パターンを取得しておく。この作業を可能な複数の物質について行う。次に、標的分子の知られていない被検物質を約4800種の非必須遺伝子破壊株に作用させ網羅的に感受性パターンを取得し、先に取得した複数の物質の感受性パターンと比較する。その結果、被検物質により得られたパターンと一致または類似した感受性パターンを示す物質が存在すれば、被検物質の標的分子が当該物質の標的分子と同一であると考えられる。
【0090】
さらには、たとえば、ある特定の代謝経路に存在する遺伝子群の破壊株が特異的に感受性を示した場合、その代謝経路そのものか、もしくは代謝的に密接な関係のある経路に存在する遺伝子が標的分子候補となる。
【0091】
また、必須遺伝子について、2本ある対立遺伝子のうちの1本が破壊された株(以下、「ヘテロ欠損株」と称する場合がある)を用いて、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出することができる。ここで、必須遺伝子とは、2本の対立遺伝子の双方を破壊すると細胞が増殖できず死んでしまう遺伝子をいう。また、酵母の全遺伝子約6000種のうち約1200種の遺伝子は、必須遺伝子である。
【0092】
たとえば、必須遺伝子である遺伝子Cのヘテロ欠損株は、遺伝子Cの転写産物および/または翻訳産物を阻害する被検物質を作用させると、遺伝子Cの転写産物および/または翻訳産物の機能が低下する結果、被検物質に対して特異的な感受性を示す(Drug-induced haploinsufficiency) (Giaever et al, Nature genetics, 1999,21:278-283)。この原理を応用して、被検物質をヘテロ欠損株に作用させたときに致死となる株を同定すると、その株で破壊されている遺伝子が明らかになる。そして、当該へテロ欠損株において破壊されている遺伝子の転写産物および/または翻訳産物が、その被検物質の標的分子となると考えられる。
【0093】
さらに、非必須遺伝子破壊株を用いて、被検物質による増殖抑制に対する特異的な耐性化を利用して、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出することができる。
【0094】
たとえば、非必須遺伝子である遺伝子Dの破壊株は、遺伝子Dの転写産物および/または翻訳産物を阻害する被検物質を作用させると、野生株の生育が阻害される濃度であっても当該破壊株の生育が阻害されないことがある。この原理を応用して、被検物質を非必須遺伝子破壊株に作用させたときに生育が阻害されない株を同定すると、その株で破壊されている遺伝子が明らかになる。そして、当該非必須遺伝子破壊株において破壊されている遺伝子の転写産物および/または翻訳産物が、その被検物質の標的分子または標的分子と同一の情報伝達経路に存在する分子となると考えられる(Heitman et al, Proc Natl Acad Sci U S A. 1991, 88:1948-52)。
【0095】
図5は、本発明に係る評価方法および検出方法を実行する装置のハードウエア構成図を示す。図5に示すように、本発明にて用いる解析装置10は、CPU12とマウスやキーボードなどの入力装置14と、CRTなどから構成される表示装置16と、RAM(Random Access Memory)18と、ROM(Read Only Memory)20と、CD−ROMやDVD−ROMなどの可搬式記録媒体23をアクセスする可般記録媒体ドライバ22と、ハードディスク装置24と、外部とのデータ授受を制御する通信制御インターフェース(I/F)26とを備える。本発明に用いる解析装置10は、入出力制御I/Fを介して、検出装置30を接続され、検出装置30にて得られたデータと、解析装置10にて解析されたデータとの通信を行うことができる。図5から明らかなように、本実施の形態に係る装置10としては、パーソナルコンピュータなどを利用することができる。
【0096】
なお、本発明で用いる検出装置30には、以下の装置に限定されるわけではないが、細胞数を計測するフローサイトメトリー分析装置、細胞数に関する指標としての濁度を検出する分光光度計、蛍光強度を検出する蛍光光度計、コロニー数、細胞面積を検出する装置、DNA量を検出する装置等が挙げられる。分光光度計を用いた場合には、吸光度に関するデータを、細胞増殖を反映したデータとして、本発明の解析装置10に取り込むことができる。一方で、遺伝子発現に関するデータは、たとえば、DNA量を検出する装置では、DNAチップをCCDカメラなどで撮影し、スポット毎のシグナル強度に関するデータを、解析装置10へ送ることもできる。
【0097】
前述の可般式記録媒体には、本発明にて用いられるデータ変換処理を実行するプログラム、処理が施されたデータを解析するためのプログラムが記憶されている。したがって、可般式記録媒体ドライブ22が、可般記録媒体23から、上記プログラムを読み出し、これをハードディスク装置24に記憶して、これを起動することにより、パーソナルコンピュータが、本発明にて用いる解析装置として作動することが可能となる。あるいは、インターネット等の外部ネットワークを介して、上記プログラムをダウンロードしてもよい。
【0098】
図6は、本発明による解析装置10の要部の機能ブロック図である。解析装置10は、前述の分光光度計等にて得られた細胞数に関する指標となるデータを入手する入力部51と、そのデータを保存するデータ記憶部52と、かかるデータをもとに、解析に必要な関数、たとえば、前述のコントロール曲線の関数やテスト曲線の関数などに変換する変換部53と、前記関数を用いて積分などを実行する演算部54と、その演算部54における結果を表示する表示部55と、を備える。そして、前記データ記憶部52は、前記演算部54にて得られた関数等に関するデータを保存することもできる。
【0099】
図7は、本発明に係る評価方法を実行するプログラムを、概念的に表すフローチャートである。以下では、本発明の評価方法の説明の便宜のため、酵母の細胞数の指標として濁度を、分光光度計にて得られた吸光度に関するデータを用いて説明する。工程S10にて、被検物質非存在下での各時間に対する吸光度を、分光光度計から入力部51にて入手する。その後、入手した時間に対する吸光度の変化から、変換部53にて実際に測定された吸光度の変化を表す関数を求める。この関数の求め方は、前述のように、実際に測定された二つの時間における吸光度を直線と近似する方法や、最小二乗法を測定値へ適用する方法等により行うことができる。かかる方法により、被検物質非存在下における細胞数のコントロール曲線の関数(F(t))を求める(工程S11参照)。一方、同様の方法を採用して、工程S12に示すように、被検物質存在下での各時間に対する吸光度を分光光度計から入力し、被検物質存在下における細胞数のテスト曲線の関数(G(t))を求めることもできる(工程S13参照)。なお、本発明では、工程S10およびS11と、工程S12および13の順序を逆にしても、後述する「エリア値」を算出することもできる。
【0100】
演算部54では、前記F(t)およびG(t)の関数から、式(F(t)−G(t))にて積分を行う。本発明の好ましい態様においては、工程S14に示すように、前記F(t)およびG(t)の関数から、両関数に共通する測定時間帯(以下、「有効時間」という。)を求めることができる。その後、かかる有効時間の範囲内で、式(F(t)−G(t))にて積分を行うことができる(工程S15参照)。また、本発明の好ましい態様においては、前述のように、この積分値は、積分する際の有効時間に依存するものであるから、工程S16に示すように、前記積分値を有効時間で除算して、「エリア値」を算出することができる。このエリア値をもとに、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価することが可能となる。具体的には、エリア値(の絶対値)が大きい値であれば、その被検物質の細胞に対する作用および/または効果が強いことが推定され、逆に、エリア値(の絶対値)が小さいと、その被検物質の細胞に対する作用および/または効果は弱いことが推定される。なお、図7では、説明の便宜上、被検物質非存在下での細胞数の指標に関するデータを取得することから説明したが、被検物質存在下での細胞数の指標に関するデータの取得から開始しても、同様な評価は可能である。
【0101】
前述の本発明に係る評価方法を実施するとき、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異もしくは過剰発現した細胞または遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節させた細胞を用いた場合には、被検物質の細胞に対する作用および/または効果に対して、その遺伝子が細胞に影響を与えているか否かの評価をすることができる。異なる遺伝子が欠損、変異もしくは過剰発現した細胞または遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節させた細胞を用いて、本発明に係る評価方法を実施すると、欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子に被検物質が作用するか否かの判断をすることができる場合がある。さらに、複数の細胞において、各細胞にて異なる遺伝子が欠損、変異もしくは過剰発現した細胞または遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節させた細胞を用いて本発明に係る評価方法を実施すると、欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子類に被検物質が作用するか否かを判断すること、また、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求めることができる。たとえば、複数の細胞の各細胞に対するエリア値をもとに、当該エリア値の偏差値から、所定の値以上または以下のエリア値を有する遺伝子および/タンパク質を分類し、被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を見出すことができる。そして、後述する外部データベースと照合することにより、遺伝子および/またはタンパク質に関する機能に関する情報も得ることができ、被検物質が関連する機能情報も入手できる。
【0102】
本発明に係る評価方法は、被検物質自体はその性質が公知な物質でも未知の物質でも適用できる。また、被検物質自体の性質が公知な物質と、未知の物質とを比較して、細胞増殖の阻害パターンが略同一であり、未知の物質のエリア値が公知な物質のエリア値と同じ場合には、かかる未知の物質は公知物質と類似の作用効果を有すると推測することもできる。
【0103】
また、本発明に係る評価方法は、被検物質に影響を受ける遺伝子およびその遺伝子から発現されるタンパク質の検出方法とすることもできる。たとえば、被検物質が影響を与える遺伝子の機能が公知のとき、かかる被検物質を用いて、破壊された遺伝子が未知の細胞を用いて、本発明に係る評価方法と同じ工程(図7のS10ないしS17)を実施し、前記被検物質が影響を与える遺伝子と同様な細胞増殖阻害パターンとエリア値を示せば、当該破壊された遺伝子が機能公知の遺伝子と同様な性質を有することが推測される。
【0104】
このようにして、各種の遺伝子が欠損、変異もしくは過剰発現した細胞または遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞を用いて、一つの被検物質に対する細胞の感受性をエリア値で評価することができる。欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子および/またはそのタンパク質と被検物質との関係を、以下のように関連付けることも可能となる。図8は、本発明の評価方法により得られたエリア値の結果をもとに、欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子および/またはそのタンパク質と機能との関連付ける方法のフローチャートを示す。まず、工程S20にて、破壊対象となった遺伝子について、本発明に係る評価方法で得られたエリア値をもとに、分類する。たとえば、全てのエリア値をもとに偏差値を算出し、特定の偏差値を有するものに分類することができる。次いで、本発明による解析装置10の通信制御I/Fを介して、遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有する外部のデータベースへ照会し(工程S21参照)、工程S22にて、欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子および/またはそのタンパク質の機能情報を取得することができる。外部のデータベースとしては、たとえば、LocusLink (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/LocusLink/)等を挙げることができる。この遺伝子および/またはタンパク質の機能情報には、Gene Ontology(biological process)、Gene Ontology (cellular component)、Gene Ontology (molecular function)等のカテゴリーが含まれており、かかる遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を入手することができる。なお、各Gene Ontologyには、機能が階層化されており、上層から下層へとより詳細な機能へと分類されている。
【0105】
次いで、工程S23において、欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子および/またはそのタンパク質が前記カテゴリーに含まれているか否かを判別する。その結果、前記欠損、変異もしくは過剰発現した遺伝子または転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された遺伝子および/またはそのタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれている場合、含まれていない遺伝子および/またはタンパク質と識別して表示することができる。かかる工程S20〜S24は、本発明の解析装置10の演算部54にて実行される(図6参照)。なお、識別して表示する際、色分け表示することもできる。
【0106】
図8にて説明した遺伝子を、機能情報に基づき表示する方法は、本発明に係る評価方法で得られた結果に限定されず、DNAチップ等の解析から得られた遺伝子発現データを利用して、特定の機能カテゴリーに含まれるか否かを判別し、該カテゴリーに含まれるか否かを識別表示することも可能である。遺伝子発現データは、前述のDNAチップ法で得られたデータに限定されず、ディフェレンシャルディスプレイ法、定量的PCR法で得られたデータにも適用可能である。
【実施例】
【0107】
以下に示す本発明の実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明は以下の具体例に制限されるものではない。当業者は、以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願特許請求の範囲に包含される。
【0108】
[実施例1]Yeast deletion set法を用いた評価方法の比較
本発明の方法が、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法として優れていることを確認するため、約4800種類の酵母細胞株からなる非必須遺伝子破壊株セット(Invitrogen社 #95401.H2 およびOpen biosystems社、#YSC1066)を用いて、ベノミルおよびロバスタチンの効果を検討した。
【0109】
初めに、検討に用いるベノミルおよびロバスタチンの濃度を決めるため、以下の実験を行った。96ウェルプレートにベノミル(Sigma-aldrich社、#38,158-6)の濃度が0.23μg/ml-120μg/ml、ロバスタチン(Sigma-aldrich社、#M2147)の濃度が3.91μM-1000μMの濃度範囲になるように加えた。そこへ親株(BY4743)(Open biosystems社、#YSC1050)を1コロニーピックアップし、二日間静置培養したものを、1/2000となるように蒔き込んだ。続いて、30℃で二日間静置培養した。そして、プレートリーダー(ARVO、パーキンエルマー社)を用いて、650 nmにおける吸光度を測定し、培養液の濁度とした。その結果、ベノミルおよびロバスタチンについて、酵母の増殖が、化合物非存在下に比べ50%に抑えられる濃度それぞれ7.5μg/mL、500μMを得た。
【0110】
次に、非必須遺伝子破壊株セット(Invitrogen社 #95401.H2 およびOpen biosystems社、#YSC1066)に含まれる約4800種類の酵母細胞株を、96ウェルプレートにグリセロールストックした。そして、当該グリセロールストックしておいた各酵母細胞株を96ウェルプレートに20倍希釈で植え継ぎ、3日間静置培養した。一方、384ウェルプレート中のウェルに7.5μg/mlのベノミルもしくは500μMのロバスタチンを含むYPAD(yeast extract-polypeptone-adenine-dextrose)培地または化合物を含まないYPAD培地25μlを加えた。そして、当該384ウェルプレートに前記培養した各酵母細胞株(ベノミルについてはInvitrogen社、ロバスタチンについては Open Biosystems社を使用)を2000倍に希釈されるように植菌した(0 hr)。その後、25℃にて培養した。
【0111】
培養開始後、約15時間から65時間または85時間までの間、プレートリーダー(ARVO、パーキンエルマー社)を用いて、650 nmにおける吸光度を経時的に測定し、培養液の濁度とした。なお、測定前には、プレートを振とう機で振とうし、培養液を均一に懸濁した。
【0112】
これらの測定で得られたデータをもとに各酵母細胞株について、化合物非存在下およびベノミルまたはロバスタチン存在下における培養液の濁度をプロットし、各酵母細胞株の経時的成長曲線を得た。この二つの曲線から以下の方法でエリア値(ARS)を算出し、感受性の順位づけをした。
【0113】
ARSは、以下のように算出した。初めに、各酵母細胞株について、化合物非存在下およびベノミルまたはロバスタチン存在下における経時的成長曲線の測定時間範囲のうち、ともに経時的成長曲線の描かれている範囲の開始時間をTs、終了時間をTeとし、Te-Tsを有効時間とした。また、経時的成長曲線は、各測定時間における吸光度を直線で結んだもので、この測定時間ごとに異なる回帰直線の集まりを経時的成長曲線の式とし、化合物非存在下における経時的成長曲線の式をF(t)、ベノミルまたはロバスタチン存在下における経時的成長曲線の式をG(t)とした。有効時間Te-Tsにおける二つの経時的成長曲線で囲まれた部分の面積Sを次の式で算出した。
【0114】
【数2】

【0115】
ここで、有効時間Te-Tsは、実験ごとに異なるため、実験間において、面積S2を比較することは好ましくない。そこで、実験間の比較を容易に行えるようにするために、面積S2を有効時間Te-Tsで除したものをARSと定義し、感受性株の順位付けをした。
【0116】
【数3】

【0117】
一方、従来の方法と比較するために、同一のデータをもとに細胞の増殖速度の遅延を基にしたパラメーター(以下、GDSと称する場合がある)を算出した。
【0118】
GDSは、以下のように算出した。各酵母細胞株について、化合物非存在下およびベノミルまたはロバスタチン存在下における培養液の吸光度をLog2で変換した。各々の経時的成長曲線について、Log2で変換された各測定時間における吸光度を結んだ直線のうち、最も傾きの大きいものを取り出しその傾きをamaxとした。測定開始時間から順番に直線の傾きを算出し、amaxの55%以上の傾きを持つものが始めて検出された直線の開始点を対数増殖期の開始点Psとし、amaxの55%以下の傾きを持つ直線の開始点までを対数増殖期の終了点Peとした。PsからPeまでの間における吸光度から最小二乗法により近似直線を求め、これを対数増殖期の回帰直線とした。そして、化合物非存在下における経時的成長曲線の終了時間の吸光度をmaxODとし、その半分の値をLog2に変換した値をmidODとした。先に求めた回帰直線において、化合物非存在下およびベノミルまたはロバスタチン存在下におけるmidODに対する時間を各々Tc、Ttとした。そして、Tt-TcによりGDSを算出した。
【0119】
図9に代表的なグラフのパターンを示す。その結果から、本発明によるARSは、GDSと比較してグラフの見た目を反映したものであった。これらの感受性株の中には、ベノミル処理によって細胞の倍加時間が延長する株(A)、ベノミル処理によって対数増殖期への進入が遅延する株(B)、ロバスタチン処理によって飽和細胞数が減少する株(C)が含まれていた。これらの結果から、本発明の方法は、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法として優れていることが明らかになった(図9(D)参照)。
【0120】
[実施例2]Yeast deletion set法を用いた評価方法および検出方法の比較
本発明の方法が、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法として優れていることならびに被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法として優れていることを確認するため、約4800種類の酵母細胞株からなる非必須遺伝子破壊株セット(Invitrogen社 #95401.H2)を用いて、チュニカマイシンの効果を検討した。
【0121】
初めに、検討に用いるチュニカマイシンの濃度を決めるため、以下の実験を行った。96ウェルプレートにチュニカマイシン(T-7765, SIGMA)の濃度が0.2μM-100μMの濃度範囲になるように加えた。そこへ親株(BY4743)(Open biosystems社、#YSC1050)を1コロニーピックアップし、二日間静置培養したものを、1/2000となるように蒔き込んだ。続いて、30℃で二日間静置培養した。そして、プレートリーダー(Rainbow、SLT)を用いて、650 nmにおける吸光度を測定し、培養液の濁度とした。その結果、チュニカマイシンについて、酵母の増殖が、化合物非存在下に比べ50%に抑えられる濃度0.5μMを得た。
【0122】
次に、非必須遺伝子破壊株セット(Open biosystems社、#YSC1066)に含まれる約4800種類の酵母細胞株を、96ウェルプレートにグリセロールストックした。そして、当該グリセロールストックしておいた各酵母細胞株を96ウェルプレートに20倍希釈で植え継ぎ、3日間静置培養した。一方、384ウェルプレート中のウェルに0.5μMのチュニカマイシンを含むYPAD培地または化合物を含まないYPAD培地25μlを加えた。そして、当該384ウェルプレートに前記培養した各酵母細胞株を2000倍に希釈されるように植菌した(0 hr)。その後、25℃にて培養した。
【0123】
培養開始後、約15時間から65時間までの間、プレートリーダー(ARVO、パーキンエルマー社)を用いて、650 nmにおける吸光度を経時的に測定し、培養液の濁度とした。なお、測定前には、プレートを振とう機で振とうし、培養液を均一に懸濁した。これらの測定で得られたデータをもとに各酵母細胞株について、化合物非存在下およびチュニカマイシン存在下における培養液の濁度をプロットし、各酵母細胞株の経時的成長曲線を得た。この二つの曲線からARSおよびGDSを算出し、偏差値70以上のものを感受性と判定した。
【0124】
その結果、ARSを指標とした場合には、感受性と判定された株は170株あったのに対し、GDSを指標とした場合には、感受性株と判定された株は112株であった。ARSを指標とした場合に感受性だった170株のうち、GDSを指標とした場合に感受性とならなかった株は、92株であった。これらの全ての株は、グラフの見た目では感受性と判定し得るものであった。いくつかの例を図に示す(図10)。ここに上げた4株は、Parsonsらの報告において(Parsons et al, Nat Biotechnol, 2004, 22:62-9)感受性株として同定されているものである。一方、GDSを指標とした場合に感受性だった112株のうち、ARSを指標とした場合に感受性とならなかった株は、35株であった。これらの株の中には、グラフで見て明らかに感受性を示していないと考えられるものが含まれていた。いくつかの例を図に示す(図11)。このように、増殖速度の遅延時間を指標とするGDSでは、濁度測定の一部のはずれ値により経時的成長曲線に乱れが生じ、GDS算出に必要な回帰直線が適切に引かれず、精度のよい結果を得ることができない。特に、約4800種の酵母細胞株について、同一の指標で一律に感受性の変化を検出するには適切ではない。
【0125】
以上の結果から、ARSを指標とした場合には、グラフの見た目と一致した評価が可能であることが明らかになった。一方、GDSを指標とした場合には、グラフの見た目では明らかに感受性と判断できるパターンであっても、感受性と判定されない場合があることや、逆に、グラフの見た目では明らかに感受性なしと判断されるパターンであっても感受性と判定される場合があることが示された。
【0126】
また、YDS法において、ARSを指標した場合には、チュニカマイシンにより影響を受けることが知られている酵母細胞株であるYLR047C、SLG1、VMA13、TPO1が検出され、GDSを指標とした場合には、検出されなかったことから、ARSは、GDSに比べ、精度のよい指標であることが強く示唆された。
【0127】
[実施例3]Yeast deletion set法を用いた薬剤感受性株の検出
本発明の方法が、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法として優れていることならびに被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法として優れていることを確認するため、約1200種類の酵母二倍体細胞株からなる必須遺伝子ヘテロ破壊株セット(Invitrogen社、#95401.H5R3)を用いて、ザラゴジックアシッドA (Sigma-aldrich社、#Z-2626)の効果を検討した。ここで、必須遺伝子ヘテロ破壊株セットにおける約1200種類の酵母細胞株は、必須遺伝子について、2本ある対立遺伝子のうちの1本が破壊された株である(以下、「ヘテロ欠損株」と称する場合がある)。また、必須遺伝子とは、2本の対立遺伝子の双方を破壊すると細胞が増殖できず死んでしまう遺伝子をいう。ヘテロ欠損株を用いた薬剤感受性株のスクリーニングは、ターゲット分子の遺伝子コピー数が低下する結果、被検物質に対して特異的な感受性を示すという原理(Drug-induced haploinsufficiency)を基にしている(Giaever et al, Nature genetics, 1999, 21:278-283)。
【0128】
初めに、検討に用いるザラゴジックアシッドAの濃度を決めるため、以下の実験を行った。96ウェルプレートにザラゴジックアシッドAの濃度が0.098μM-50μMの範囲になるように加えた。そこへ親株(BY4743)(Open biosystems社、#YSC1050)を1コロニーピックアップし、2日間静置培養したものを、1/1000となるように蒔き込んだ。次に、続いて、30℃で2日間静置培養した。そして、プレートリーダー(ARVO、パーキンエルマー社)を用いて、650 nmにおける吸光度を測定し、培養液の濁度とした。その結果、ザラゴジックアシッドAについて、酵母の増殖が、化合物非存在下に比べ50%に抑えられる濃度20μMを得た。
【0129】
次に、必須遺伝子ヘテロ破壊株セットに含まれる約1200種類の酵母細胞株を、384ウェルプレートにグリセロールストックした。そして、当該グリセロールストックしておいた各酵母細胞株を384ウェルプレートに40倍希釈で植え継ぎ、25℃で3日間静置培養した。一方、384ウェルプレート中のウェルに20μMのザラゴジックアシッドAを含むYPAD培地または化合物を含まないYPAD培地25μlを加えた。そして、当該384ウェルプレートに前記培養した各酵母細胞株を1000倍に希釈されるように植菌した(0 hr)。その後、25℃にて培養した。
【0130】
培養開始後、約20時間から31時間までの間、プレートリーダー(ARVO、パーキンエルマー社)を用いて、OD650 nmにおける吸光度を経時的に測定し、培養液の濁度とした。なお、測定前には、プレートを振とう機で振とうし、培養液を均一に懸濁した。これらの測定で得られたデータをもとに各酵母細胞株について、化合物非存在下およびザラゴジックアシッドA存在下における培養液の濁度をプロットし、各酵母細胞株の経時的成長曲線を得た。この二つの曲線からARSを算出し、その結果を表1に示す。表1に示す結果から、ARSが最も高かった株は、ザラゴジックアシッドAのターゲット遺伝子として知られているERG9(SGD accession number:S0001233)のヘテロ欠損株であるΔerg9株であった(Kennedy et al, BBA,1999,1445:110-122)。よって、ARSは、必須遺伝子破壊株セットを用いた被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法において有用な指標であることが強く示唆された。また、本発明の方法は、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法として優れていることが明らかになった。
【0131】
【表1】

【0132】
表1は、ARSを指標として順位付けを行い、上位10位までに該当した酵母細胞株において欠損した遺伝子、SGD accession number、ARSおよびARS偏差値を示す。
【0133】
[実施例4]細胞面積を指標とする方法による哺乳類細胞の増殖
ヒト癌細胞株であるHela細胞を10%牛胎児血清、ペニシリンG(100 units/ml)、硫酸ストレプトマイシン(100μg/ml)およびアンホテリシンB(250 ng/ml)を含むDMEM培地にて継代培養し、T-75フラスコにconfluentになった時点で細胞を回収し、細胞数を血球計算盤にてカウントした。細胞濃度が1×104 cells/mlになるように上記培地に再懸濁し、96ウェル培養プレートの6ウェルに100μlずつ(1ウェルあたり1000細胞)添加した後、37℃、5%CO2で1日培養した。翌日、上記培地100μlを追加した(0 hr)。その後、37℃、5%CO2で培養を継続した。4時間後に、4 mg/mlのシクロヘキシミド(SIGMA C-6255)5μlを3ウェルに添加した。その後、17時間後、28時間後および41時間後に、単位面積当たりの細胞面積を、細胞形態スクリーニング装置ANAX(HTS-50、パナソニック)にて解析し、細胞数に関する指標とした。そして、測定で得られたデータをもとに、シクロヘキシミド存在下および非存在下の経時的成長曲線を作成した。この二つの曲線からエリア値(ARS)を算出した。
【0134】
図12は、本発明による実施例4にて得られた結果を示す図である。図12に示す結果から、酵母のみならず哺乳動物細胞においても、ARSが得られること、また、濁度のみならず細胞面積を細胞数に関する指標として用いた場合にもARSが得られることが明らかになった。そして、ARSは、シクロヘキシミドの細胞増殖抑制活性の指標となることが明らかになった。以上のことから、本発明の方法は、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法として有用であることが、強く示唆された。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】図1は、4800種の非必須遺伝子破壊株における典型的な被検物質による増殖阻害パターンの概略図を示す。実線は、被検物質非存在の場合における増殖曲線であり、点線は、被検物質存在下の場合における増殖曲線を示す。
【図2】図2は、図1に例示した増殖阻害パターンの解析例についての説明図である。
【図3】図3は、薬物の非存在下(F(t))および存在下(G(t))における二本の増殖曲線で囲まれる面積を細胞数に関する指標とする解析を説明するための図を示す。
【図4】図4は、細胞数に関する指標として濁度を利用した場合において、本発明による評価方法に用いるF(t)とG(t)の概略図を示す。黒四角は、被検物質非存在下にて、各時間における濁度を吸光度の値とし、黒丸は、被検物質存在下にて、各時間における濁度を吸光度の値として示す。
【図5】図5は、本発明による解析装置であるコンピュータのハードウエア構成の一例を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明に係る評価方法を実施する解析装置の機能的構成の一例を示すブロック図である。
【図7】図7は、本発明による解析装置による処理の概略を示すフローチャートである。
【図8】図8は、本発明の評価方法により得られたエリア値の結果をもとに、破壊された遺伝子と機能との関連付ける方法のフローチャートを示す。
【図9】図9は、本発明による実施例1にて得られた結果を示す。図中、Δsec22、Δrsb1、Δyhr116wは、それぞれSEC22(SGD accession number:S0004258)、RSB1(SGD accession number:S0005575)、YHR116W(SGD accession number:S0001158)を破壊された酵母細胞株を示す。また、図中、「control」は、化合物非存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示す。図9AおよびB中の「treatment」は、7.5μg/mL ベノミル存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示す。図9C中の「treatment」は、500 μM ロバスタチン存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示す。
【図10】図10は、本発明による実施例2にて得られた結果を示す。図中、Δylr047c、Δslg1、Δvma13、Δtpo1は、それぞれYLR047C(SGD accession number:S0004037)、SLG1(SGD accession number:S0005534)、VMA13(SGD accession number:S0006240)、TPO1(SGD accession number:S0003951)を破壊された酵母細胞株を示す。また、図中の「control」は、チュニカマイシン非存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示し、「treatment」は、0.5 μM チュニカマイシン存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示す。
【図11】図11は、本発明による実施例2にて得られた結果を示す。図中、Δtfp1、Δgly1、Δcup5、Δrpl39は、それぞれTFP1(SGD accession number:S0002344)、GLY1(SGD accession number:S0000772)、CUP5(SGD accession number:S0000753)、RPL39(SGD accession number:S0003725)を破壊された酵母細胞株を示す。図中、「control」は、チュニカマイシン非存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示し、「treatment」は、0.5 μM チュニカマイシン存在下における経過時間に対する培養液の吸光度(OD 650 nm)を示す。
【図12】図12は、本発明による実施例4で得られた結果を示す。図中、○は、シクロヘキシミド非存在下、●は、シクロヘキシミド存在下における経過時間に対する単位面積当たりの細胞面積を示す。
【符号の説明】
【0136】
10…解析装置、 12…CPU、 14…入力装置、16…表示装置、 18…RAM、 20…ROM、22…可般式記録媒体ドライバ、 23…可般式記録媒体、 24…ハードディスク装置、26…通信制御インターフェース、 30…検出装置、 51…入力部、 52…データ記憶部、 53…変換部、 54…演算部、55…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価する方法であって、
(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、
(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、
(3)前記エリア値をもとに、前記被検物質の作用および/または効果を評価する工程と、
を含む評価方法。
【請求項2】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、
前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る工程と、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞において行う、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(1)から(3)を、複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞において行う、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程(1)から(3)を、複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上または以下のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める、請求項5または7に記載の方法。
【請求項9】
被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する方法であって、
(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、
(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、
(3)前記エリア値をもとに、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する工程と、
を含む検出方法。
【請求項10】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、
前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る工程と、
を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(1)から(3)を、複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(1)から(3)を、複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である、請求項9ないし11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上または以下のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
(5)遺伝子および/またはタンパク質と前記エリア値との関係を表示する工程をさらに含む、請求項1ないし14のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して、前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記(6)工程にて、取得した遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を表示する工程を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得し、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別する工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記(6)工程にて、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かにより識別して表示する工程を含む、請求項16ないし18のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞数に関する指標は、細胞または培養液を採取せず、および/または、非破壊的手法による指標である、請求項1ないし19のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞数に関する指標は、グルコース消費量、濁度、細胞数、細胞面積、蛍光強度から選択される指標である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞は、真核細胞である、請求項1ないし21のうち何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記真核細胞は、酵母である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記真核細胞は、哺乳動物細胞である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
コンピュータに、細胞に対する被検物質の作用および/または効果を評価させるプログラムであって、
(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、
(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、
(3)前記エリア値をもとに、前記被検物質の作用および/または効果を評価する工程と、
を実行するプログラム。
【請求項26】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程である、請求項25に記載のプログラム。
【請求項27】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、
前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る工程と、
を含む、請求項25に記載のプログラム。
【請求項28】
前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞において行う、請求項25ないし27のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項29】
前記工程(1)から(3)を複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である、請求項28に記載のプログラム。
【請求項30】
前記工程(1)を、少なくとも一つの遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞において行う、請求項25ないし27のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項31】
前記工程(1)から(3)を複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である、請求項25に記載のプログラム。
【請求項32】
前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上または以下のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める、請求項29または31に記載のプログラム。
【請求項33】
コンピュータに、被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質の検出を実行させるプログラムであって、
(1)被検物質非存在下における細胞数に関する指標の時間に対するコントロール曲線の関数F(t)と、被検物質存在下における細胞数に関する指標の時間に対するテスト曲線の関数G(t)と、を入手する工程と、
(2)式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程と、
(3)前記エリア値をもとに、前記被検物質に影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を検出する工程と、
を実行するプログラム。
【請求項34】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出して、エリア値を得る工程である、請求項33に記載のプログラム。
【請求項35】
前記工程(2)が、
所定の時間内において、式(F(t) − G(t))の積分値を算出する工程と、
前記積分値を、前記所定の時間により除算して、エリア値を得る工程と、
を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
前記工程(1)から(3)を、複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子が欠損、変異または過剰発現した細胞である、請求項33ないし35のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項37】
前記工程(1)から(3)を、複数の細胞について行い、当該各細胞は、異なる遺伝子の転写産物および/または翻訳産物の発現を調節された細胞である、請求項33ないし36のいずれか一項に記載のプログラム。
【請求項38】
前記複数の細胞にて得られた各々のエリア値をもとに、所定の値以上のエリア値を有する細胞を分類し、前記被検物質の影響を受ける遺伝子および/またはタンパク質を求める、請求項36または37に記載のプログラム。
【請求項39】
(5)遺伝子および/またはタンパク質と前記エリア値との関係を表示する工程をさらに含む、請求項25ないし38のうち何れか一項に記載のプログラム。
【請求項40】
(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得する工程をさらに含む、請求項39に記載のプログラム。
【請求項41】
前記(6)工程にて、取得した遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を表示する工程を含む、請求項40に記載のプログラム。
【請求項42】
(6)遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を有するデータベースへ照会して前記遺伝子および/またはタンパク質の機能情報を取得し、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かを判別する工程をさらに含む、請求項39に記載のプログラム。
【請求項43】
前記(6)工程にて、前記遺伝子および/またはタンパク質が特定の機能のカテゴリーに含まれるか否かにより識別して表示する工程を含む、請求項40ないし42のうち何れか一項に記載のプログラム。
【請求項44】
前記細胞数に関する指標は、細胞または培養液を採取せず、および/または、非破壊的手法による指標である、請求項25ないし43のうち何れか一項に記載のプログラム。
【請求項45】
前記細胞数に関する指標は、グルコース消費量、濁度、細胞数、細胞面積、蛍光強度から選択される指標である、請求項44に記載のプログラム。
【請求項46】
前記細胞は、真核細胞である、請求項25ないし45のうち何れか一項に記載のプログラム。
【請求項47】
前記真核細胞は、酵母である、請求項46に記載のプログラム。
【請求項48】
前記真核細胞は、哺乳動物細胞である、請求項46に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−141298(P2006−141298A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336564(P2004−336564)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【出願人】(599000980)三井情報開発株式会社 (3)
【Fターム(参考)】