説明

細胞の凍結保存のための装置及び方法

【課題】哺乳動物のような細胞及び組織サンプル/標本の凍結保存のための貯蔵方法及び凍結保存装置の提供。
【解決手段】可撓性の管状本体74であって、一端が当該本体内への液体サンプルの導入のために最初は開いている前記可撓性の管状本体74と、当該管状本体74の他端に形成された閉塞されたポート72であって、前記液体サンプルの抜き取りのための針によって穿刺されるようになされている前記ポート72と、を備えている凍結保存容器60。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物のような細胞及び組織サンプル/標本の凍結保存のための貯蔵方法及びそれに関連する装置に関する。
(関連出願)
本願は、2006年6月20日に出願された“細胞の凍結保存のための装置及び方法”という名称の同時係属の米国仮特許出願第60/814,982号に基づく優先権を主張している。当該出願の全体が本明細書に参考として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
細胞及び組織は、生物医学用途における生存力及び有用性を一時的に延ばすために凍結保存される場合が多い。凍結保存のプロセスは、部分的に、細胞を電解質及び凍結プロセス中に細胞を保護する化合物(凍結保護物質)を含んでいる水溶液内に配置するステップを含んでいる。このような凍結保護物質は、グリセロール、プロピレングリコール、エチレングリコール又はジメチルスルホキシド(DMSO)のような低分子量分子であることが多い。
【0003】
これらの溶液はその凝固点より若干低い温度まで冷却されたときに液体状態のままである。溶液が相転移温度以下で液体のままであるこの状態は過冷却と称されている。水性溶液がそれらの凝固点より更に低い温度まで冷却されると過冷却の程度が増す。介入がない状態では、溶液内の水分子は、通常は凝固点以下15℃以内の点において突発的に結晶化し、純粋な水が氷として凝結するであろう。
【0004】
液体状態から固体状態へのこの転移中に、溶液は、比較的高いエネルギ状態から比較的低いエネルギ状態へと移動して発熱反応を生じる。この相転移中に発生される熱によって、サンプルの過渡的な加熱が惹き起こされ、この間にサンプルの温度が上昇する。その間に、周囲環境(例えば、サンプルが凍結保存される装置)が一定の温度にとどまっているか又は(使用される冷却方法に応じて)冷却し続ける。これに続いて、サンプル内の熱が放散されると、サンプルとこの現象中に形成される冷却装置との間の熱的不平衡によって、サンプルは、急速な冷却速度を受けて熱平衡を再度確立するようにされる。多くの場合には、この急速冷却速度によって、細胞内の氷が生じ、これは通常は細胞の死をもたらす。この細胞内の氷の形成は、典型的には、サンプルの質量、サンプル容器の伝熱性、使用されている冷却プロトコル及び細胞の基本的な冷凍生物学特性に依存する。
【0005】
凍結状態と生体系との間の関係は、何年もの間、人間の興味をそそって来ている。Pobert Boyleは、早くも1683年頃に、ある魚及びカエルはその体液の断片が不凍結のままであった場合には短期間に凝固点下の温度で生き続けることができることを観察した。人工的に誘導される凍結保存は、1948年にPolge、Smith及びParkersによって、ニワトリ及び雄牛の精子に対するグリセロールの凍結保護特性及びこれに続く赤血球のためのグリセロールの凍結保護特性の偶然の発見によって最初に観察された。より最近では、自然現象及び凍結生物化学系と関連した生物医学用途に興味を持っている科学者は、相関関係を支配している基本的なプロセスを研究し始めた。まず最初に、温度が下げられると、代謝活性の抑制がもたらされ、従って、栄養を与えられていない生体系の衰退が起こる速度を遅くすることが良く知られている。しかしながら、凍結プロセスは、一般的には組織及び器官に関連する細胞内オルガネラ(小器官)、細胞膜及びデリケートな細胞間相互作用系を変えることが期待され得る化学的、熱的及び電気的特性の著しい変動を誘起すると想定できるほど良性ではない。従って、実際のところ、最も簡単な生物学的細胞でさえ著しく複雑であると仮定される場合には、凍結によって中断された生気の可逆的な状態が全く可能であることは注目すべきことである。
【0006】
グリセロールの凍結保護作用の最初の発見及びそれに続く広く適用可能な凍結保護物質であるジメチルスルホキシド(DMSD)の発見以来、多くの研究者は、ほとんど経験的な方法によって細胞又は組織の保存を試みて来た。殆どの細胞中断凍結保存プロトコルは、凍結生存を可能にするために浸透性の凍結保護添加物のモル濃度を使用して達成して来た。これらの人工的な凍結保護物質を使用することによって、凍結保存プロセスに多くの自由度が付加されて来た。例えば、人間の赤血球は凍結保護物質(CPA)を添加することなく最適な生存を確保するためには、約1000℃/分の速度で冷却される必要がある。しかしながら、3.3M(30%)のグリセロールの存在下では、この種類の細胞の生存は、2〜3ログ(対数)範囲の冷却速度で約90%に留まっている。予想し得るように、CPA濃度が高くなればなるほど、物質の添加/除去中の浸透による損傷の可能性はより大きくなり、結局、これらのプロセスに必要とされる注意がより大きくなる。
【0007】
如何なる凍結保存プロセス中においても、含まれる溶液は、これらが結晶形成のためのランダムな結晶核形成部位を見つけるまでその凝結点以下まで過冷されるであろう。凍結溶解法によって凍結保存されるときには、細胞外媒体内での氷の形成は、低レベルの過冷却において生長因子を供給(播種)することによって故意に開始せしめられるべきである。播種によって氷の形成が誘発されると、氷は、引き続いて溶液がその平衡凝固点より遙かに低い温度まで十分に冷却されたときに自然発生的に形成されるであろう。このプロセスはランダムな特性を有するので、氷の形成は、ランダムな予測不可能な温度で生じるであろう。結局、サンプルの生存率は、同じ凍結プロトコルによって繰り返される試験間で大きく変わるであろう。更に、氷が形成されるときに極めて過冷された溶液をもたらす極めて急速な結晶化は、細胞及び組織に損傷を惹き起こす。更に、細胞外での氷形成が高度の過冷却において開始せしめられる場合には、細胞内氷形成に損傷を及ぼす可能性は著しく増大されることが示されて来た。この現象は、凍結によって誘導される細胞の脱水作用の立ち上がりの遅延によってもたらされ、これは、細胞内に水が多く保持されること、すなわち細胞内の氷形成のより高い可能性をもたらす。
【0008】
上記したように、液体状態から固体状態への転移中に、溶液は、比較的高いエネルギ状態から比較的低いエネルギ状態へ遷移し、これは、温まり続けるサンプルと冷え続ける冷却装置との間に熱的不平衡を生じる。この熱的不平衡は、最終的に、特別な種類の細胞に対して規定された冷却速度からの大きな偏差及びプロセス中の細胞の損傷の可能性をもたらす。
【0009】
これらの潜在的な損傷状態が起こるのを防止するために、凍結保存プロセスの各ステップは、細胞外溶液内の氷結晶を溶液の凝固点近くへ導くための介入を含むことが多い。“播種(生長因子の供給)”と称されるこのプロセスは、典型的には、サンプルを溶液の凍結点近くまで冷却し、次いで、サンプル容器の外側を極低温液体(例えば、液体窒素)内で予冷された金属装置(例えば、鉗子又は金属棒)と接触させることによって行われる。この播種ステップによって、細胞外溶液内に氷結晶が形成され且つ溶液内で過冷された水分子が組織化し更に氷を形成する“テンプレート”を提供する。しかしながら、このような方法でのサンプルの播種は、時間がかかり且つサンプルがこの行程のために冷却装置から一時的に取り出される場合にはサンプルを危険に曝す。なぜならば、この播種方法は、細胞内の氷形成を不意に生じさせるかも知れないからである。
【0010】
上記した熱的不平衡状態に伴う問題点を避けることができる凍結保存装置が必要とされている。補助的な播種ステップが、制御された氷結晶の形成を誘導するために広く行われることを必要としないこのような装置が更に必要とされている。上記した問題点に対する解決を補助する凍結保存装置が更に必要とされている。当該必要とされている凍結保存装置はまた、凍結保存されるべき細胞及び組織を保護し且つ貯蔵する際の使用方法を簡素化する手段をも提供する。
【発明の概要】
【0011】
凍結保存の分野におけるこれらの及びその他の必要性は、本発明の幾つかの特徴によって満たされる。本発明の一つの特徴においては、凍結保存容器内に収容される液体を凍結前に当該容器内に導入するために自動核形成装置が設けられている。当該装置は、凍結保存容器内に導入される大きさの細長い中空の管と、当該中空の管内に配置される氷核成分とを含んでいる。当該管の両端は密閉されており、少なくとも一端は、氷核成分に対して不透過性であるが凍結保存容器内に含まれている液体に対して透過性な膜によって密封されている。当該両端は、サンプル溶液が当該装置内へ及び当該装置中を流れるのを可能にさせる膜を備えている。
【0012】
好ましい実施形態における氷核成分はステロールであり、コレステロールが最も好ましい。コレステロールは、前記中空管の内面上に設けられるコーティングとしても良いし又は当該管内に固体マトリックスとして設けられても良い。
【0013】
本発明の別の特徴においては、自動核形成装置と共に使用することができる凍結保存容器が設けられている。一つの実施形態においては、凍結保存容器は、液体サンプルを導入するために最初は開いている一端と、他端に規定されている閉塞されたポートとを備えている可撓性の管状本体を備えている。当該ポートは、液体サンプルを抜き取るための針によって穿刺できるようになされている。前記開口端部は、液体サンプルが容器内へ導入された後に熱的にシールされる。当該自動核形成装置は、当該管状本体の内部において、閉塞されたポートを穿刺する針と接触することができないように入口からずらされて固定されている。
【0014】
別の実施形態においては、凍結保存装置は、液体サンプルを受け入れ且つ貯蔵するための容器を備えており、当該容器は、当該容器内への入口嵌合開口部と、当該嵌合部に取り付けられているアダプタとを備えている。当該アダプタは、第一の管状の分岐部と第二の管状の分岐部とを備えており、当該第二の管状の分岐部は、管係合嵌合部内で終端している。第一の管状の分岐部は隔膜によって閉塞されており、当該隔膜は針によって穿刺されるようになされている。当該凍結保存装置には更に、一端が前記第二の管状の分岐部の管係合嵌合部に係合せしめられた管と、当該管の反対側の端部に設けられた閉塞部材とが設けられている。
【0015】
第二の分岐部のための閉塞部材は、第一には、容器内へのサンプル溶液の導入のための針によって穿刺することができる隔膜である。当該容器は、最初は、注射器から容器内へのサンプル溶液の移動を促進するために大気圧より低い圧力とすることができる。サンプル液がひとたび移し変えられると、第二の分岐部上にある管は、熱シールされ且つ管係合嵌合部のすぐ上の位置で切り離される。閉塞された装置は、次いで、凍結融解プロトコルを受けることができる。融解した後に、アダプタの第一の分岐部内の隔膜を介してサンプル液を抜き取るために注射器を使用することができる。
【0016】
本発明は、多くの異なる細胞凍結用途における氷の導入及び過冷却の減少のための簡単且つ再生可能な装置を提供するであろうということが想定している。本発明は、氷核が自然発生的に発生する固体マトリックス装置の構造によって、細胞及び組織の凍結保存中に細胞外で氷結晶の制御された誘導を行うための方法及び装置を想定している。
【0017】
本発明は、従来の装置及び方法より優れた幾つかの利点を提示している。文献のうちの大きな比重を占める部分は、当該技術が採用されるときに多くの細胞及び組織の高い凍結融解生存を指摘しているにも拘わらず、現在のところ、制御された氷核を誘導する殆どの方法は、煩わしく且つ再生が困難で且つ何回も見過ごされている。今日、最も一般的に使用されている方法は、サンプル上の小さな領域に液体窒素を噴霧するように設計されている装置を形成するために、バイアル又はストローの側面を、(通常は−196℃まで)冷やされた金属対象物又は綿棒と単に接触させることから多様化して来た。しかしながら、最適な条件下で行われるときでさえ、このような方法による氷結晶を機械的に播種は、細胞外溶液内全体に十分に増殖させるのに十分な大きさの氷結晶を誘発することができず、又は金属対象物又は液体窒素の噴霧が容器上に導かれつつある位置の最も近くにあるサンプル部分において観察される大きな冷却により、局部的な細胞の損傷及び損失がもたらされる。
【0018】
本発明の一つの目的は、サンプル液体の凍結を著しく補助する細胞を凍結保存する方法及び装置を提供することである。本発明の一つの利点は、凍結保存中に損傷される細胞の量を著しく減らすことができることである。別の利点は、従来の技術を使用しても保持することができない低運動性及び/又は低精子数サンプルの凍結保存を可能にする点である。
【0019】
本発明のもう一つ別の利点は、閉塞されているが種々の凍結/融解方法を受ける多数のサンプル貯蔵のために容易に受け入れ可能である凍結保存容器を提供することである。本発明のその他の利点及び目的は、以下の説明及び添付図面を考慮すると明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一つの実施形態による自動−核形成装置の概略図である。
【図2】図2は、図1に示されている自動−核形成装置を組み入れている公知の凍結保存容器の図である。
【図3a】図3aは、バイアルがサンプルの給送のための初期状態で示されている、本発明の更に別の実施形態による液体サンプルの凍結保存のための可撓性の閉塞された装置の図である。
【図3b】図3bは、バイアルの端部が閉塞されている状態で示されている図3aに示されているバイアルの図である。
【図4】図4は、本発明の別の実施形態による細胞凍結保存装置の斜視図である。
【図5】図5は、図4に示されている装置において使用されているアダプタの斜視図である。
【図6】図6は、図4に示されている装置の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の原理の理解を促進する目的で、図面に示され且つ明細書において以下に説明されている実施形態を参考にするが、これによって本発明の範囲を限定することは意図されていないことは理解できる。更に、本発明は、図示されている実施形態に対するあらゆる変更及び変形を包含しており且つ本発明に関する技術分野の当業者が通常想到できる本発明の原理の更に別の用途をも包含していることが理解できる。
【0022】
本発明の一つの実施形態においては、図1に示されているような自動核形成装置10が設けられており、当該自動核形成装置10は氷核形成が可能な成分を含んでいる。本発明に従って、氷核成分20は、中空の開口した管12の内面に結合されている。好ましい実施形態においては、当該管はプラスチックによって形成されている。液体が管内を流れるのを許容しつつ当該管内に固体マトリックスを形成させるために、十分な量の核形成成分が管内に導入される。
【0023】
好ましい実施形態においては、核形成成分は結晶コレステロールである。ステロール特にコレステロール成分の使用は、米国特許第4,928,493号に示されているように、冷却水装置のような他の分野において知られている。以下に説明するように、結晶コレステロールがサンプル細胞及び血液、幹細胞溶液及び精子のような凍結保存のために準備されている液体に対して有毒でないことが実験の結果判定された。
【0024】
管の端部16は溶液透過性の膜18によってシールされている。特に、当該膜は、凍結保存液体に対しては透過性であり且つ貯蔵されるべき細胞又は組織に対して不透過性である。細胞/組織と氷核成分との間の分離を維持し且つ直接的な接触を阻止することが重要である。各端部に設けられた膜はまた、管から追い出されるかも知れず且つ結晶が周囲の液体を汚染するのを防止することができるあらゆるコレステロールの結晶をも含んでいるであろう。膜が凍結保存液体を管12内へ自由に流れ込ませることも重要である。当該管及び固体マトリックス核形成成分内の隙間にもまた、最初は等張バッファー溶液が充填されている。
【0025】
自動核形成装置10は、図2に示されているように、容器30又は血液バッグ40のような凍結保存容器内に配置される大きさとされている。当該装置は、容器内で自由な状態としても良く又は内面に固定しても良い。当該装置は、氷形成部位として意図されているので、極めて大きくする必要とない。特別な実施形態においては、管12は、長さが6.35ミリメートル(0.25インチ)であり直径が1.59ミリメートル(0.0625インチ)である。凍結保存容器には、適当な場合には、当該技術において知られているように、装置10は容器内に留まったままである状態で特定の標本又はサンプル及び凍結保存溶液を充填することができる。容器30又は40は、次いで、凍結保存プロトコルを受ける。凍結保存液体は装置内の氷核成分20と接触しているので、氷は殆ど又は全く過冷却されることなく自然発生的に装置10の管12の内側に形成されるであろう。次いで、氷は、管から周囲の溶液内へと形成され続け、過冷却が殆ど無いか全くなく且つ細胞内の氷形成が最少の細胞の細胞懸濁液の凍結がもたらされる。
【0026】
一つの特定の実施形態においては、第一の実験は、凍結貯蔵容器の内側に物理的に結合されたコレステロールが氷核を誘導するであろうということを判定するように設計された。この実施形態においては、0.025gの乾燥したコレステロールを3mlのメタノールに添加することによって、機能するステロール溶液を準備した。結果的に得られた懸濁液を、次いで、70℃の乾燥浴内に配置し且つ全ての固体ステロールが溶解するまで断続的に攪拌した。市販によって入手可能なバイアルを100μlのステロール溶液によってコーティングし且つ75℃で乾燥浴内に配置してメタノールが蒸発するようにし且つコレステロールの再結晶及び接着を達成した。次いで、容器を1mlのPBSで2〜3回洗い流し、遊離した結晶を除去した。
【0027】
次に、(典型的な精子バンク凍結保存媒体を再現するための)6%のグリセロールと(汎用の細胞株凍結保存装置を再現するための)10%のDMSOとの溶液をPBS内で調製し且つステロール被覆バイアル及び非被覆(制御)バイアル内で−5℃/分で冷却することによって評価した。静止力を達成するために、DMSOを収容している20個のバイアルとグリセロールを収容している12個のバイアルを評価した。各バイアル内の温度を、溶液凍結点の分解及び融合の潜熱の放出を可能にするために1秒間隔で熱電対を使用して監視した。
【0028】
この実験の結果は、DMSOとグリセロールとの両方において、ステロールをコーティングされたバイアルは、凍結点がより高く且つ融解熱の温度変化(ΔT)が減じられたことを示した。これらの結果は下の表に要約されている。
【0029】
【表1】

【0030】
この実験においては、結晶のある程度の脱落又は剥離(及びDMCOサンプル内のある程度の溶解)もまた観察され、これは、(恐らくは部分的に容器及び溶液の不可避な物理的操作による)液体の汚染をもたらす。この問題を処理するために、自動核形成装置10の一つの実施形態が提供されている。当該実施形態においては、6.35ミリメートル(0.25インチ)の中空の管が、100μlのステロール溶液によって内部がコーティングされ且つ48時間乾燥される。当該管の一端を透過性の綿栓によってシールし、当該管の他端は、エポキシ樹脂を使用してバイアルの蓋の内側に取り付けられ且つ14〜24時間乾燥される。ステントは、溶液(しかしながら、細胞ではない)を依然として接触状態とさせつつ結合されたコレステロールを隔離された環境内に維持するように設計した。
【0031】
第二の実験においては、人間の精子をこの自動核形成装置10を使用して凍結保存し且つ特に本発明によって凍結保存されたサンプルが標準形状のバイアルを使用して凍結された精子よりも高い融解後の生存力を有しているか否かを判定するために分析される。この実験においては、射出された人間の精子サンプル(4人のドナーからの20個のサンプル)を入手し且つ液化するまで30〜60分間加湿された37℃の恒温器(5%のCO、95%の空気)内に配置した。ひとたび液化されると、サンプルは、等浸透圧のPBS(37℃で平衡に達している)を使用して5mlに調整し且つコンピュータ補助精子分析装置を使用して評価して全体の初期の数及び運動性を測定し且つ記録した。次いで、これらのサンプルを、段階的添加法によって、TEST(試験)卵黄内で6%のグリセロールに対して平衡を保つようにした。当該平衡化に続いて、各サンプルを3つの1.5mlのアリコットに分割し、(1)装置10を収容しているバイアル内と、(2)手動によって播種されるべき(正の制御の)標準的なバイアスと、(3)播種を受けなかった(負の制御の)標準的なバイアル内に配置した。
【0032】
全てのサンプルを、制御された冷却速度の凍結器内に配置し且つ22℃から−8℃まで−5℃/分の冷却速度で冷却した。−8℃で3分経過した後に、液体窒素内に浸漬されていた綿棒を使用して手動播種バイアル内で播種を開始した。更に−8℃で7分間経過した後に、精子を再び−10℃/分の冷却速度で140℃まで冷却した。−40℃で、冷却速度を120℃/分まで加速し、−80℃でサンプルを液体窒素(LN)内に沈めた。
【0033】
凍結に続いて、(〜300℃/分の融解速度に対応する)実験台上に配置することによってサンプルを融解させた。最後の氷がひとたび溶融されると、次いで、PBSを添加することによってグリセロールを10分間に亘って滴状に希釈した。次いで、サンプルを洗い流してグリセロールを含まないPBS内に再度懸濁させた。最後に、計数及び運動性の評価に先立って、サンプルを少なくとも1時間(37℃で5%のCO及び95%の空気を含む加湿雰囲気内で)保温した。
【0034】
この第二の実験結果は、本発明の自動核形成装置を使用して凍結されたサンプルは、手動による播種を使用して凍結させたものの運動性(56.0±3.8%)よりも著しく高い(p<0.05)運動性(66.1±4.7%)を維持していることを示した。分散法による分析を使用して判定すると、これらの播種方法は、両方とも、播種されなかった負の制御サンプルの運動性(43.4±3.7%)よりも著しく高かった(p<0.05)。
【0035】
第三の実験においては、結合されたコレステロールが長期間に亘って保温された精子に対して細胞毒性作用を及ぼさないと判定された。この実験においては、液化された精子サンプルは、100μlのステロール溶液によってコーティングされた培養皿にさらした。1,2,4,8時間で行った運動性の評価は、8時間の保温時間に亘って人間の精子における結合されたコレステロールとの直接的な接触の著しい細胞有毒性作用を示さなかった。
【0036】
このようにして、本発明の自動核形成装置10は、精子凍結保存方法において、手動による播種を使用するか播種を使用しない場合よりも、より良好な融解後の運動性を付与することが実証された。これらの実験は、ステロールによって誘導された氷核形成は、過冷却を減じることができ、従って、過冷却された溶液の凍結の場合に典型的である“瞬間的な”氷結晶形成に続いて起こる温度の急上昇を減じることができる比較的良好な結果と一致した信頼性のある方法であることを実証した。本発明の装置及び方法は、従来技術の手動による播種の必要がないので、凍結の全期間に亘って妨害されない冷却チャンバ内にサンプルを保持したままとさせる。
【0037】
本発明の装置及び方法は、特に、標準的な商業的な精子バンク方法に適している。標準的な商業的な精子バンクの設定においては、多くのサンプルが処理され且つ時間/作業員数の制約は研究所内で行うことができる制御された速度の冷却又は注意深い取り扱いに対して常に余裕があるわけではない。本発明は、現在の技術を超える結果によってサンプルの繰り返し可能な凍結保存を可能にすると考えられる。更に、本発明は、通常はドナープールから排除される運動性の低いサンプルの有効な凍結及び回復を可能にすることができる。
【0038】
同様に、本発明の装置10及び方法は、適正な感染症のスクリーニングのならずHLA型判定が行われるためのバンキング及び十分な時間に対して余裕がある方法で凍結保存された造血幹細胞及び/又は前駆細胞(PCB HPCs)を貯蔵する能力に対する十分な影響力を有することができる。凍結保存は、遺伝子治療による利益を得るか又は疾病によって又は放射線治療及び/又は化学療法によって医原的に正常な造血機能を失う恐れのある新生児患者からのPCB誘導HPCを保存するための機会を提供する。最近、前駆細胞選択方法を更に精密にすることに益々大きな努力が向けられている。これらの比較的“純粋な”前駆細胞母集団(例えば、CD34表層糖蛋白質を表す細胞)を保存する能力は、移植細胞懸濁液の全体積を潜在的に最少にする。しかしながら、典型的に得られるPCBの体積は骨髄サンプルよりも遙かに小さいので、キログラム受容体の体重当たり限られた数のHPCを得ることができる。このことは、PCB誘導HPCのための効率が良く且つ最適な凍結保存方法をHPCの他の供給源(例えば、骨髄末梢血液)の場合よりも遙かに重要なものとする。本発明の自動核形成装置は、これまで入手可能であったものよりも効率が良く且つ最適なこのようなデリケートなサンプルの凍結保存及び回復のための手段をもたらす。装置10を進行中の研究及び改良された臍帯血幹細胞の凍結保存方法の開発と一体化することは、より少ない労働による比較的高い回復度によってこの細胞の型を保存する独特の方法をもたらすであろうと考えられる。本発明の装置及び方法による生存能力をPCB及び臍帯血のみならず商業的な人工受精施設において使用される雄牛の精液によって評価するための実験プロトコルが開発されて来た。これらのプロトコルは、上記の米国仮特許出願第60/814,982号に記載されている。この記載は、参考として本明細書に組み入れられている。
【0039】
本発明の更に別の特徴は、種々の臍帯血誘導幹細胞/前駆細胞の凍結保存は、完全に異なった行程、従って、現在公知の方法に存在するものとは異なった貯蔵容器を必要とするかも知れない。臍帯血から得られる多くのタイプの細胞のバンキング及び貯蔵のためには、種々の冷却/加熱速度を含む極めて異なる凍結プロトコルを使用するのが最適かも知れない。現在の技術は、極低温バッグ(幾つかは多数のチャンバを備えている)かバイアルに依存している。しかしながら、これらの装置の両方ともが実質的な欠点を有している。当該多くのチャンバのバッグは、種々のチャンバ内で使用されるべき種々の冷却速度又はCPAに対して余裕がない。バイアル自体は、覆いの周囲が熱シールされない場合には、極低温において“閉塞された”装置と考えることができない。
【0040】
この制限を克服するために、本発明の更に別の実施形態は、図3a、3bに示されている可撓性の閉塞された装置の形態の凍結保存容器に属し、これは、サンプルが、別個のユニットに分けられるのを可能にし且つ閉塞された装置内で種々のプロトコルを使用して凍結されることを可能にする。バイアル50は、一端にポート54を備えている可撓性の管状本体52を備えている。当該ポートは、可撓性本体と同じ材料によってシールされるのが好ましいが、融解後にサンプルを無菌状態で抜き取るために針によって穿刺されるようになされている。
【0041】
図3aに示されているように、バイアルの反対側の端部56は、最初は、液体サンプルの導入を許容するために開いている。バイアル50がひとたび充填されると、図3bに示されているように、例えば熱シールストリップ58によって閉塞される。このようにして閉塞された装置のバイアル50は、次いで、単一のユニットの凍結及び貯蔵のために利用することができる。任意であるが、各バイアルは、上記した自動核形成装置10を備えているのが好ましい。図3aに示されているように、装置10は、本体52の内壁に接着されてポートを貫通した針によってアクセスできないようになされているのが好ましい。
【0042】
本実施形態のバイアル50は、個別の極低温容器内で多数の凍結/融解プロトコルに対して使用しても良い。従って、バイアル50の列を、液体サンプルの多数のアリコートを導入のために使用できる開口端部56を備えた固定具内に支持しても良い。各バイアルが充填されると、対応する端部がシールされて、凍結保存のための閉塞された装置のバイアルが提供される。
【0043】
本発明のもう一つの別の実施形態においては、図4〜6に示されているように、凍結保存装置60が提供されている。当該実施形態は、サンプルを取得し且つそれを凍結のために準備する方法を更に簡素化している。当該装置は、液体サンプルを受け入れる大きさとされている容器62を備えている。容器62は一端に入口嵌合部64を備えている。図6に示されているように、自動核形成装置10は、入口嵌合部64を介して容器内に導入することができる。
【0044】
入口嵌合部は、図5に示されているアダプタ65を受け入れる。当該アダプタは、入口嵌合部64内に緩く嵌合する大きさとされている下方管状部分66を備えている。下方管状部分66は、容器62とアダプタ65との間に気密及び液密のシールを提供するために、エポキシシール若しくは熱シール又はその他の適当な手段を使用して入口嵌合部にシールすることができる。
【0045】
当該アダプタは、2つの管状の分岐部67及び69を備えている。分岐部67は、針隔膜72(図6)と係合する構造とされている端部68で終端している。第二の分岐部69は掛かり部を有する嵌合部70によって終端している。この掛かり部を有する嵌合部70は、管74の端部74aと密封係合状態にある。管74の自由端74bは、それ自体の針隔膜75を収容している。針隔膜72と75との両方が2つの分岐部67,69の端部に気密及び液密のシールを提供する構造とされている。更に、隔膜72,75は、公知の方法で針によって穿刺され且つ針がひとたび取り外されると再び自己シールされる構造とされている。
【0046】
一つの特別な実施形態においては、管74がアダプタ65と係合せしめられたときに管74を安定化させるために管のクリップ80が設けられている。クリップ80は、アダプタの分岐部67の外周に沿って摺動する構造とされた部分と、図4に示されているように管の外周沿って摺動する構造とされている取り付け部分84とを備えている。
【0047】
凍結保存装置60の容器62は、細胞サンプルを凍結させ且つ最終的に融解させるために移し替え且つ貯蔵するために使用される“鶏卵箱”のセパレータ内に収納される大きさとされている。一般的な供給源からの細胞サンプルを担持しているこのような凍結保存装置60のうちの幾つかは、共通の鶏卵箱セパレータ内に収容されても良いことが想定される。使用に際して、装置60は、最初は、図4に示されている構造で、すなわち、管74が細胞容器自体から突出した状態で貯蔵される。アダプタ65は、容器の垂直方向の包囲体を越えないように、従って、他の同様の装置60の貯蔵と干渉しないような大きさとされている。管74は、垂直方向の包囲体の外側へ延びている曲管によって管74が示されている。鶏卵箱容器内の装置が適正に整合されている場合には、管74は他の細胞容器と干渉しないであろう。しかしながら、好ましい実施形態によれば、管74は、同じ鶏卵箱セパレータ内で他の容器62との干渉を避けるために必要とされるように配列することができるように可撓性とされることが考えられる。
【0048】
管74は、更に別の理由により可撓性とされるのが好ましい。特に、分岐部69と取り付けられた管74とが、装置60の容器62を充填するために使用されている。従って、本発明に従って、可撓性の管74は、新しく抜き出された細胞サンプルを容器内へ導入するのを許容するように操作することができる。この導入は、一つの特徴においては、抜き取られた液体サンプルを含む注射器の針によって隔膜75を穿刺することによってなされる。別の方法として、隔膜75は、サンプルが膜を穿刺する必要なく管内へ直接注入できるように可撓性の管の端部74bから取り外し可能としても良い。いずれの場合にも、可撓性の管74は、容器が鶏卵箱容器内に留まっている間に必要に応じて操作できるので、容器62を充填するこのステップを補助することができる。
【0049】
サンプルがひとたび容器62内に導入されると、アダプタの分岐部69は永久的にシールされることが想定される。好ましい実施形態においては、このシールは、可撓性の管を掛かり部を有する嵌合部70のすぐ上方でシールすることによってなされる。ひとたびシールされると、管の残りの部分はもはや必要とされないので除去することができる。一つの特別な実施形態においては、管を扁平にし、扁平にされた部分を熱シールし、余分な部分を切断することを同時に行うために、公知のピンチ・シール・バーを使用することができる。このシール及び切断は、可撓性の管74の残りの部分が容器62の垂直方向包囲体の外側に位置するようにできるだけ掛かり部を有する嵌合部70の近くでなされるのが好ましい。
【0050】
シールステップ及び切断ステップは、凍結保存装置60の完全な殺菌性又は閉塞シール特性を損なわないことが望ましい。サンプルが隔膜75を介して射出されるとき、分岐部69は、当該プロセス全体を通して、針が取り外された後においてさえも、シールされた状態のままである。分岐部69がひとたびシールされると、液体サンプルを含んでいる装置60は、充填ステップ中に装置を囲繞していた同じ鶏卵箱内で凍結され且つ貯蔵される準備がなされる。サンプルを回収することが望ましいときには、装置60は、箱内に保持されている他の装置とは離して個々の融解のために鶏卵箱から取り出しても良い。分岐部67の針隔膜72は、サンプルの殺菌性の抜き取りのための手段を提供する。従って、針及び注射器を、隔膜を穿刺するため及び液体サンプルを注射器内へ抜き取るために使用することができる。次いで、空の装置60は廃棄することができる。
【0051】
本発明の更に別の特徴においては、凍結保存装置60の容器62は、初めに真空が付与されても良いことが想定される。この真空は、容器62の充填のステップ中における装置の液体サンプルの抜き取りを補助する。各分岐部67,69に対する開口部は対応する隔膜72,75によってシールされているので、当該真空は、長期間に亘って維持することができる。気密シールを確保するために、各隔膜を覆うキャップを設けても良い。特別な実施形態においては、容器62内の初期の真空は、100mmHg(絶対圧)と約160mmHg(絶対圧)との間の準大気圧とすることができる。
【0052】
凍結保存装置60は、血液バンク及び標準的な極低温状態(すなわち、−196℃程度の低温)での長期貯蔵の分野で使用される標準的な材料によって作ることができる。標準的な鶏卵箱内への嵌合のためには、(可撓性の管をシールした後の)装置60は、直径10mm及び高さ90mm内に嵌らなければならない。可撓性の管74はまた、アダプタ65の分岐部69をシールするときに、管を熱シールし且つ切断する能力を損なわない状態で極低温に耐えることができなければならない。一つの特別な実施形態においては、可撓性の管は、TYGON(登録商標)又はこれと類似の材料によって作られる。
【0053】
以上、本発明を図面及び上記の説明によって詳細に示し且つ説明したけれども、これは例示的なものであり且つ限定的なものではないと考えられるべきである。ここでは好ましい実施形態のみが提供されており且つ本発明の精神に含まれる全ての変更、変形及び更に別の用途が保護されることが望ましいことは理解できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凍結保存容器であり、
可撓性の管状本体であって、一端が当該本体内への液体サンプルの導入のために最初は開いている前記可撓性の管状本体と、
当該管状本体の他端に形成された閉塞されたポートであって、前記液体サンプルの抜き取りのための針によって穿刺されるようになされている前記ポートと、を備えている凍結保存容器。
【請求項2】
請求項1に記載の凍結保存容器であり、
前記管状本体の前記一端が熱シール可能な材料によって作られていることを特徴とする凍結保存容器。
【請求項3】
凍結保存装置であり、
液体サンプルを受け入れ且つ貯蔵するための容器であって、当該容器内への入口嵌合開口部を備えている容器と、
前記入口嵌合部に取り付けられたアダプタであって、第一の管状の分岐部と第二の管状の分岐部とを備えており、当該第二の管状の分岐部は管係合嵌合部内で終端している前記アダプタと、
前記第一の管状分岐部を閉塞し且つ針によって穿刺されるようになされている隔膜と、
一端が前記第二の管状分岐部に設けられた前記管係合嵌合部と係合せしめられている管と、
当該管の他端に設けられた閉塞部材と、を備えている凍結保存装置。
【請求項4】
請求項3に記載の凍結保存装置であり、
前記嵌合部が掛かり部を有する嵌合部であることを特徴とする凍結保存装置。
【請求項5】
請求項3に記載の凍結保存装置であり、
前記閉塞部材が針によって穿刺されるようになされていることを特徴とする凍結保存装置。
【請求項6】
請求項3に記載の凍結保存装置であり、
前記管が、前記容器が直立しているときに、当該管の前記他端が前記第一の分岐部を閉塞している前記隔膜の上方に位置するような長さを有している可撓性の管であることを特徴とする凍結保存装置。
【請求項7】
請求項3に記載の凍結保存装置であり、
前記閉塞が前記管の前記他端を熱シールすることによってなされていることを特徴とする凍結保存装置。
【請求項8】
請求項3に記載の凍結保存装置であり、
請求項1に記載の自動核形成装置を更に備えていることを特徴とする凍結保存装置。
【請求項9】
請求項3に記載の凍結保存装置であり、
前記容器が大気圧以下の圧力に維持されていることを特徴とする凍結保存装置。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−152217(P2012−152217A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−53369(P2012−53369)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2009−516675(P2009−516675)の分割
【原出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(508373741)ジェネラル・バイオ・テクノロジー・エルエルシー (2)
【Fターム(参考)】