説明

経口摂取用ゲル状組成物、及びその製造方法

【課題】水に対して難溶性であるか、もしくは非混和性である疎水性及び/又は撥水性医薬品等の粉末を含み、均一で製剤安定性に優れ、且つ服用感に優れる経口摂取用のゲル状組成物を得る。
【解決手段】疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合し、ゲル状の組成物とする。前記粉末としては、界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下であるものが好ましく、また、600hPa(450mmHg)以下に減圧することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性及び/又は撥水性の粉末を含有する経口摂取用ゲル状組成物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品は、患者のみで服用が可能なことや、医療機関内ではなく、家庭内における服用が容易であることなどから、経口投与されることが多い。特に、降圧薬、糖尿病治療薬、高脂血症治療薬等の慢性疾患治療薬や、ビタミン剤、アミノ酸製剤等の栄養補給用製剤では、長期間にわたって服用されることも多く、経口により服用されるものが多い。また、特定保健用食品、栄養機能食品等の保健機能食品や、栄養補助食品等についても、栄養成分の補給や体調の維持、改善を図るものであることから、長期間にわたり経口摂取されることが多い。
【0003】
しかし、老化や脳血管障害、神経・筋障害等により嚥下・咀嚼能力の低下した高齢者や、外傷や疾患により嚥下障害のある患者では、散剤、顆粒剤、錠剤等の固形製剤の服用が困難であることが多い。そこで、従来より、前記の高齢者や患者等において服用・摂取の困難性を解消するべく、液剤や懸濁剤、シロップ剤といった形態とした製剤が提供されているが、かかる液状製剤については、咀嚼の必要はないものの、摂取後に胃食道逆流による誤嚥性肺炎を誘発する危険性がある。
【0004】
近年、上記高齢者等でも安全に摂取することが可能な製剤として、ゲル状に調製された医薬品や、粘度の調整された食品類が提供されている。たとえば、医薬品として、イソソルビド、ラクツロース、リドカイン塩酸塩、シロスタゾール、アシクロビル、又はグラニセトロン塩酸塩を有効成分とするゼリー剤が提供され、栄養補助食品としては、粘度を約2,000cpに調整した濃厚流動食(「メディエフプッシュケア」、味の素株式会社製)が提供されている。
【0005】
かかるゲル状製剤の調製には、通常ゼラチンや、寒天、ペクチン、キサンタンガム等の増粘多糖類などのゲル化剤が用いられる。増粘多糖類を用いてゲルを調製した場合、含有させる成分中のカルシウムやマグネシウム等ミネラル成分により、得られるゲルの物性が影響を受けることから、カルシウム及びマグネシウムの配合量を一定の範囲に設定すべきである旨が示されている(特許文献1)。
【0006】
また、医薬品や保健機能食品、栄養補助食品等に含有される薬物や栄養成分には、疎水性或いは撥水性を示すために、水に対して難溶性であるか、もしくは水に対する混和性の悪いものも多い。かかる難溶性もしくは水非混和性の成分を含有するゲル状組成物を得るため、懸濁化剤をゲル化剤とともに用いる技術が開示されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、水に難溶性もしくは非混和性の医薬品等の成分を高濃度に含有させる場合、懸濁化剤や界面活性剤を添加しても、十分な均一性が得られないことがある。均一性が不十分であると、外観が悪く、服用時にざらつき感を生じたり、医薬品等の含有量に偏りが生じ、溶出性に影響を及ぼしたり、また、含有成分の分離等、製剤安定性にも悪影響を及ぼすといった問題が生じやすい。さらに、経口摂取用のゲル状組成物とするには、服用時の感触を向上させるため、矯味剤や着香剤等を添加することも多く、また医薬品等の成分によっては、安定化剤や防腐剤を共存させる必要のある場合もあり、これらの添加成分についても、ゲル状組成物中に均一に混合、分散させる必要があった。
【0008】
なお、練歯磨において、研磨剤として用いられる無機粉末を良好に分散、混練するべく、100Torr(mmHg)以下、好ましくは10〜50Torr以下に減圧して、脱泡しながら混練する技術が開示されている(特許文献3)。しかし、前記の無機粉末は、水に対して親和性を示し、水混和性も良好な粉末である。従って、疎水性及び/又は撥水性を示し、水に対して非混和性である粉末を水性のゲル中に均一に分散する技術は、いまだ開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−69090号公報
【特許文献2】特開2003−221330号公報
【特許文献3】特開平11−171747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水に対して難溶性であるか、もしくは非混和性である疎水性及び/又は撥水性医薬品等の粉末を含み、均一で製剤安定性に優れ、且つ服用感に優れる経口摂取用のゲル状組成物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明者らは、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合し、ゲル状の組成物とすることにより、上記の課題を解決することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の[1]〜[26]に関する。
【0012】
[1]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合してなる、経口摂取用ゲル状組成物。
[2]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末、及びゲル化剤を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合してなる、経口摂取用ゲル状組成物。
[3]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合した後、ゲル化剤を添加して撹拌、混合してなる、経口摂取用ゲル状組成物。
[4]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末の濡れ臨界点が、界面活性剤が存在していてもよい条件下において10%以上30%以下である、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[5]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末が乾式粉砕されたものである、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[6]乾式粉砕された粉末の平均粒子径が110μm以下である、[5]に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[7]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末の含有量が1〜60重量%である、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[8]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末の含有量が5〜30重量%である、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[9]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末が、イソロイシン、ロイシン及びバリンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[10]ゲル化剤が、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガント及びゼラチンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、[2]又は[3]に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[11]ゲル化剤の含有量が、0.5〜2.7重量%である、[2]又は[3]に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[12]450mmHg以下で撹拌、混合してなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[13]真空撹拌機により、減圧下に撹拌、混合してなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[14]1回の摂取量を加温状態で密封可能な容器に充填し、封入してなる、[1]〜[3]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物。
[15]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合する、経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[16]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末、及びゲル化剤を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合する、経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[17]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合した後、ゲル化剤を添加して撹拌、混合する、経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[18]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末の濡れ臨界点が、界面活性剤が存在していてもよい条件下において10%以上30%以下である、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[19]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末が乾式粉砕されたものである、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[20]乾式粉砕された粉末の平均粒子径が110μm以下である、[19]に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[21]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末の含有量が1〜60重量%である、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[22]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末の含有量が5〜30重量%である、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[23]疎水性及び/又は撥水性を示す粉末が、イソロイシン、ロイシン及びバリンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[24]ゲル化剤が、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガント及びゼラチンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、[16]又は[17]に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[25]450mmHg以下で撹拌、混合する、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
[26]真空撹拌機により、減圧下に撹拌、混合する、[15]〜[17]のいずれかに記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、疎水性及び/又は撥水性を示し、水に対して難溶性もしくは非混和性である粉末を含有しながら、均一で、製剤安定性及び服用感に優れる経口摂取用のゲル状組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】表1中の試料No.1の粉末について、減圧処理前後の水との混和状態を示す図である。
【図2】表1中の試料No.2の粉末について、減圧処理前後の水との混和状態を示す図である。
【図3】表1中の試料No.3の粉末について、減圧処理前後の水との混和状態を示す図である。
【図4】表1中の試料No.4の粉末について、減圧処理前後の水との混和状態を示す図である。
【図5】表1中の試料No.5の粉末について、減圧処理前後の水との混和状態を示す図である。
【図6】表4において、300hPa(225mmHg)で減圧処理した後の粉末の水との混和状態を示す図である。
【図7】表4において、20hPa(15mmHg)で減圧処理した後の粉末の水との混和状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合して、経口摂取用ゲル状組成物とする。ここで、「ゲル状」とは、液体を分散媒とするコロイドであるゾルが、流動性を失った状態をいう。
【0016】
本発明においては、疎水性及び/又は撥水性を示す粉体を用いる。「疎水性」とは、水に対する親和性が低い、すなわち、水に溶解しにくい、或いは水と混ざりにくい物質の性質をいい、「撥水性」とは、水を弾く物質の性質をいう。従って、「疎水性及び/又は撥水性を示す粉末」としては、水に対して難溶性もしくは非混和性の薬物や栄養成分などが挙げられる。
【0017】
本発明において用いる上記粉末の疎水性及び/又は撥水性の程度は、粉末の濡れ性によって表すことができる。疎水性粉末を水に浮遊させ、撹拌しつつ水相に有機溶媒を連続的に供給混合したとき、粉末表面の濡れ性に応じて、ある溶媒濃度に達すると粉末は混合液中に沈降、分散し始める。粉末が濡れて沈降する状態をレーザー光の透過光強度の変化として検出し、流量濃度曲線として出力させることにより、粉末が沈降し始めたときの有機溶媒量を算出し、これを有機溶媒との親和性、すなわち疎水性及び/又は撥水性の程度の目安とすることができる。本発明においては、粉体濡れ性試験機(株式会社レスカ製等)を用い、「濡れ臨界点」として評価した。本発明では、前記濡れ臨界点が10%以上である粉末を用いることが好ましく、17%以上である粉末を用いることがより好ましい。なお、ゲル状組成物の製剤安定性等を考慮すると、前記濡れ臨界点は70%以下であることが好ましい。さらに、水性媒体中における分散安定性等を考慮すると、濡れ臨界点は30%以下であることがより好ましい。
【0018】
また、本発明においては、界面活性剤の存在下において、粉末の濡れ臨界点が上記の値となる場合も、用いることもできる。本発明において用いる界面活性剤としては、粉末表面を荷電させないことから、非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
【0019】
非イオン性界面活性剤としては、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリエチレングリコール等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、モノミリスチン酸グリセリル、モノステアリン酸グリセリル、モノイソステアリン酸グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ジグリセリル、モノステアリン酸テトラグリセリル、モノオレイン酸テトラグリセリル、モノラウリン酸ヘキサグリセリル、モノミリスチン酸ヘキサグリセリル、モノステアリン酸ヘキサグリセリル、モノオレイン酸ヘキサグリセリル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、ジステアリン酸デカグリセリル、ジイソステアリン酸デカグリセリル等のポリグリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノミリスチン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、モノオレイン酸ポリオキシエチレングリセリル等のポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビトール、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビトール等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類などが挙げられる。本発明においては、これらから1種又は2種以上を選択して用いることができる。なお、界面活性剤は、粉末分散液に対して、0.01〜10重量%となるように添加することが好ましい。
【0020】
また、本発明においては、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末は、乾式粉砕したものが好ましい。一般的に、粉末は、粉砕して粒子径を小さくした方が濡れやすくなるが、通常の方法では、乾式粉砕した場合には、粉体間に気泡を抱き込んだまま凝集する気泡凝集が起きやすく、分散性は悪くなる。本発明により、かかる気泡凝集の発生を防止することができる。湿式粉砕すれば、気泡凝集の問題は解決することができるが、取り扱い自体が困難となる。本発明においては、乾式粉砕した場合、粉末の平均粒子径が110μm以下であることが好ましい。平均粒子径が110μmを超えると、粉末の沈降が早く、混和が難しくなるからである。また、取り扱い等を考慮すると、粉末の平均粒子径は、45μm以上であることが好ましい。なお、前記の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定法により測定される。
【0021】
本発明においては、経口摂取用ゲル状組成物における粉末の分散の均一性、製剤安定性等を考慮すると、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末は、組成物の全量に対して1〜60重量%含有させることが好ましく、5〜30重量%含有させることがより好ましい。
【0022】
本発明の経口摂取用ゲル状組成物に含有させる、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末としては、水に難溶性もしくは非混和性の薬物、たとえばイブプロフェン、p−アセトアミドフェノール(非ステロイド性抗炎症薬)、ピタバスタチンカルシウム(高脂血症治療薬)、シルニジピン(降圧薬)などや、イソロイシン、ロイシン、トリプトファン等の疎水性アミノ酸類、レチノール、エルゴカルシフェロール等の油溶性ビタミン類などの栄養成分が挙げられる。これらの中でも、肝硬変や肝不全に用いられる分岐鎖アミノ酸である、イソロイシン、ロイシン及びバリンが好ましく用いられる。前記分岐鎖アミノ酸としては、D−体、L−体、DL−体のいずれをも用いることができ、一般的には、抽出法、合成法、発酵法等により製造されたもので、第15改正日本薬局方医薬品各条に記載された規格を満たすものが用いられる。
【0023】
本発明の経口摂取用ゲル状組成物においては、肝臓に対する保護作用等を考慮すると、上記分岐鎖アミノ酸はL−体を用いることが好ましく、3種類の全アミノ酸を含有させることが好ましい。さらに、イソロイシン、ロイシン及びバリンは、イソロイシン:ロイシン:バリン=1:1.9〜2.2:1.1〜1.3の重量比で含有させることが好ましい。
【0024】
本発明においては、より安定なゲルを調製する上で、ゲル化剤を含有させることが好ましい。「ゲル化剤」とは、液体をゲル化して固化する化学物質をいう。本発明の目的には、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガント等の増粘多糖類や、ゼラチンが好ましいものとして挙げられ、これらよりなる群から1種又は2種以上を選択して用いることができる。前記ゲル化剤については、調製されるゲルの強度や、ゲルの物性が服用感や触感に与える影響を考慮すると、経口摂取用ゲル状組成物の全量に対する含有量は、0.5〜2.7重量%とすることが好ましく、0.5〜1.5重量%とすることがより好ましい。
【0025】
また、本発明の経口摂取用ゲル状組成物には、本発明の特徴を損なわない範囲で、香味剤、着色剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の一般的な添加成分を含有させることができる。
【0026】
本発明に係る経口摂取用ゲル状組成物は、上記の疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を、好ましくは上記のゲル化剤とともに精製水等の水性媒体に混合し、該混合液を、減圧下に撹拌、混合して調製される。または、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を、好ましくは精製水等の水性媒体に混合し、減圧下に撹拌、混合した後、上記のゲル化剤を添加し、混合して調製することもできる。増粘性の高いゲル化剤の場合には、粘性が高くなると減圧処理が困難となる場合があるので、減圧処理後に添加し、混合することが好ましい。「減圧下に撹拌、混合」とは、前記疎水性及び/又は撥水性を示す粉末を含有する混合液を容器に充填し、或いは撹拌槽に注入して、減圧して撹拌、混合することをいう。前記の容器としては、ガラス製のビン、樹脂製のチューブ、パック、カップ、ステンレス等の金属製容器などが挙げられる。また、「減圧」は、真空ポンプやアスピレーター等により達成される。なお、減圧下における撹拌、混合は、前記混合液を充填した容器自体を密閉して減圧し、回転、振動等を加えて行ってもよく、前記混合液を充填した容器を槽内に入れ、マグネチックスタラー等を用いて行ってもよい。或いは、撹拌槽に前記混合液を注入し、撹拌槽内を減圧して行ってもよい。なお、効率よく減圧するには、混合液を充填した容器や、該容器を入れる槽或いは混合液を注入する撹拌槽等を密閉して減圧することが好ましい。本発明の経口摂取用ゲル状組成物において、均一性を確保するためには、容器や容器を入れる槽、或いは撹拌槽内の真空度が600hPa(450mmHg)以下、好ましくは300hPa(225mmHg)以下となるように減圧する。
【0027】
本発明に係る経口摂取用ゲル状組成物を製造する際に、減圧下に撹拌、混合する工程は、真空撹拌機を用いて行うことが好ましい。「真空撹拌機」とは、真空ポンプ等により、撹拌槽内を真空として、撹拌、混合するものをいう。調製する経口摂取用ゲル状組成物の量に応じて、卓上型のものから大型タイプのものまで種々選択して用いることができる。たとえば、卓上型真空撹拌機「ミニダッポー」(株式会社シーテック製)、真空撹拌機(杉山重工業株式会社製)、真空脱泡ミキスタ(ミキスタ工業株式会社製)、真空撹拌機(金沢マテリアル株式会社製)、真空装置付遊星式撹拌・脱泡装置「マゼルスター」(クラボウ製)などが挙げられる。
【0028】
本発明においては、上記の通り、減圧下に撹拌、混合することにより、経口摂取に適したゲル状の組成物を得る。本発明に係る経口摂取用ゲル状組成物は、1回の摂取量を加温状態で密封可能な容器、たとえばビン、チューブ、パック、カップ等に充填し、封入した形態で提供されることが、製剤安定性や服薬コンプライアンスを確保する上で好ましい。
【実施例】
【0029】
さらに本発明の特徴について、実施例により詳細に説明する。
【0030】
[試験例1]粉末の水混和性に及ぼす減圧処理の影響
粉末の水混和性に対して、減圧処理が及ぼす影響を検討した。すなわち、100mLの三角フラスコに精製水60gを入れ、表1に示す各試料の粉末12gを添加し、撹拌混合して水との混和性を目視にて観察した。次いで、100mLのビーカーに移し、アスピレーターを使用して30mmHgに減圧して撹拌処理を行った後、水との混和性を目視にて観察した。その結果は表1に併せて示した。水との混和性については、下記評価基準に従って評価した。
<水との混和性の評価基準>
○;水とは良好に混和し、粉末はすべて水中に沈降する。
△;水との混和はやや悪く、粉末の一部が水中に沈降する。
×;水とは混和せず、粉末は水面に浮上する。
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示した各試料について、減圧処理前後の水との混和の状態を図1〜5に示した。表1及び図1〜5より明らかなように、疎水性及び/又は撥水性を示す粉末(試料No.1〜4)については、撹拌しただけでは粉末は水とは混和せず、粉末の一部又はすべてが表面に浮いた状態であるが、減圧処理することにより完全に混和し、水中に沈降した。これに対し、水に対して親和性を示すコーンスターチ(試料No.5)は、水中に投入するとすぐに水と混和し、沈降した。
【0033】
[試験例2]粉末の水混和性に及ぼす界面活性剤の影響
水との混和性が非常に悪い粉末であるステアリン酸マグネシウム(太平化学産業株式会社製)について、界面活性剤が水混和性に及ぼす影響を検討した。表2に示す試料について、200mLのビーカー中にて精製水と混和し、アスピレーターにより30mmHgにて撹拌しながら減圧処理を行い、水との混和性を目視にて観察した。なお、Tween80(ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタンモノオレエート)は、ナカライテスク社製を用いた。また、表2中の数値は重量(g)を示す。水との混和性は、上記試験例1と同じ評価基準に従って評価した。結果を表3に示した。
【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
表3に示すように、ステアリン酸マグネシウムを精製水に混合した試料No.6については、減圧処理を行っても、ステアリン酸マグネシウム粉末は水と混和せず、水面に浮上したり、容器壁に付着したりしていた。これに対して、Tween80で処理した試料No.7は、減圧処理前にはごく一部が水と混和したのみであったが、減圧処理することにより、水と混和して沈降した。なお、ステアリン酸マグネシウムの濡れ臨界点は、33.7%であった。
【0037】
[試験例3]粉末の水混和性に及ぼす真空度の影響
表1の試料No.1の粉末(分岐鎖アミノ酸混合粉砕物)について、水との混和性に及ぼす真空度の影響を観察した。すなわち、前記粉末40gを精製水400gに加えて軽く撹拌した後、Buch社製Vacuum controller V−805及びRotavapor R−200を用いて、表2に示す各真空度にて、20℃にてローターを撹拌しながら1時間処理した後、減圧を解除する前後の粉末の水との混和状態を目視にて観察した。結果を表4に示す。
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示すように、真空度が600hPa(450mmHg)の減圧処理を行った場合に、減圧処理解除後において、試料粉末の一部が水と混和し、水中に懸濁された。本試験は、容器内に撹拌羽根等の撹拌機構を有さない機器を用いて行っているため、前記撹拌機構を有する容器や撹拌槽を用いて減圧処理した場合は、粉末と水との混和はさらに向上するものと予想される。また、真空度が300hPa(225mmHg)の減圧処理を行った場合には、本試験においても、図6にも示すように、3/5程度の試料粉末が水と混和し、より良好な結果が得られるものと考えられる。なお、本試験において真空度を20hPa(15mmHg)とした場合には、図7に示すように、試料粉末の全体が水と混和した。
【0040】
[実施例1〜9、比較例1〜3]経口摂取用ゲル状組成物
下記の処方において、(1)を(4)に添加し、Buch社製Vacuum controller V−805及びRotavapor R−200を用いて、表3に示す各真空度にて、20℃にてローターを撹拌しながら1時間処理した後、減圧を解除し、(2)及び(3)を添加して95℃に加熱し、カップ容器に充填した後冷却して、経口摂取用ゲル状組成物を得た。
<処方>
(1)分岐鎖アミノ酸混合粉砕物 10.0重量%
(L−イソロイシン:L−ロイシン:L−バリンを1:2:1.2の重量比で混合し、粉砕したもの、平均粒子径=49μm)
(2)寒天 0.3重量%
(3)カラギーナン 0.1重量%
(4)精製水 全量を100 重量%とする量
【0041】
実施例及び比較例の経口摂取用ゲル状組成物について、得られたゲルの状態を目視にて観察し、下記評価基準に従って評価した。評価結果は、表5にまとめて示した。
<評価基準>
◎;分岐鎖アミノ酸の分散が均一で、良好である。
○;分岐鎖アミノ酸がほぼ均一に分散し、分離が少ない。
△;分岐鎖アミノ酸の分散がやや不均一で、若干の分離が見られる。
×;分岐鎖アミノ酸の分散は不均一で、分離が顕著に見られる。
【0042】
【表5】

【0043】
表5より明らかなように、実施例1〜9の経口摂取用ゲル状組成物においては、疎水性粉末である分岐鎖アミノ酸が均一に分散されたゲルが得られた。特に、300hPa(225mmHg)以下の真空度で減圧処理した実施例4〜9のゲル状組成物においては、分岐鎖アミノ酸が良好に分散した均質なゲルが得られた。一方、減圧処理を行わない比較例1のゲル状組成物では、分岐鎖アミノ酸の分散は不均一で、ゲルからの分離も顕著であった。真空度が800hPa(600mmHg)及び700hPa(525mmHg)でそれぞれ減圧処理した比較例2及び3のゲル状組成物では、分岐鎖アミノ酸の分散はやや不均一で、若干の分離も認められた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、疎水性及び/又は撥水性を示し、水に対して難溶性もしくは非混和性である粉末を含有しながら、該粉末の分散が均一で、製剤安定性及び服用感に優れる経口摂取用のゲル状組成物、及びその製造方法を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性及び/又は撥水性を示し、且つ界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下である粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合してなる、経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項2】
疎水性及び/又は撥水性を示し、且つ界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下である粉末、及びゲル化剤を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合してなる、経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項3】
疎水性及び/又は撥水性を示し、且つ界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下である粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合した後、ゲル化剤を添加して撹拌、混合してなる、経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項4】
粉末が乾式粉砕されたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項5】
乾式粉砕された粉末の平均粒子径が110μm以下である、請求項4に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項6】
粉末の含有量が1〜60重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項7】
粉末の含有量が5〜30重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項8】
粉末が、イソロイシン、ロイシン及びバリンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項9】
ゲル化剤が、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガント及びゼラチンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項2又は3に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項10】
ゲル化剤の含有量が、0.5〜2.7重量%である、請求項2又は3に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項11】
450mmHg以下で撹拌、混合してなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項12】
真空撹拌機により、減圧下に撹拌、混合してなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項13】
1回の摂取量を加温状態で密封可能な容器に充填し、封入してなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物。
【請求項14】
疎水性及び/又は撥水性を示し、且つ界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下である粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合する、経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項15】
疎水性及び/又は撥水性を示し、且つ界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下である粉末、及びゲル化剤を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合する、経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項16】
疎水性及び/又は撥水性を示し、且つ界面活性剤が存在していてもよい条件下において、濡れ臨界点が10%以上30%以下である粉末を含有する混合液を、減圧下に撹拌、混合した後、ゲル化剤を添加して撹拌、混合する、経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項17】
粉末が乾式粉砕されたものである、請求項14〜16のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項18】
乾式粉砕された粉末の平均粒子径が110μm以下である、請求項17に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項19】
粉末の含有量が1〜60重量%である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項20】
粉末の含有量が5〜30重量%である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項21】
粉末が、イソロイシン、ロイシン及びバリンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項22】
ゲル化剤が、寒天、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガント及びゼラチンよりなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項15又は16に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項23】
450mmHg以下で撹拌、混合する、請求項14〜16のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。
【請求項24】
真空撹拌機により、減圧下に撹拌、混合する、請求項14〜16のいずれか1項に記載の経口摂取用ゲル状組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−74031(P2011−74031A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228985(P2009−228985)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(000118615)伊那食品工業株式会社 (95)
【Fターム(参考)】