説明

結晶成長装置

【目的】結晶成長を繰り返し実行しても、成長結晶層の層厚及び結晶組成の変化が低減された、高品質な結晶層を成長できる結晶成長装置を提供する。
【解決手段】
結晶成長装置10は、基板15の成長面に対して材料ガスを水平な流れで供給する材料ガス供給管12と、押さえガスを成長面に垂直ないしは材料ガスの下流方向に傾斜した流れで供給する副噴射器20と、を含む。副噴射器20の内部に設けられた遮熱器25は、押さえガスが流入する流入側開口部26aと押さえガスを噴出する流出側開口部26bとを有する枠体26と、枠体26の内部に収容された複数の粒状の充填材27と、を含む。
充填材27は、流出側開口部26bから流入側開口部26aへの見通し経路を形成しないように枠体26の内部に収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相結晶成長装置、特に、2フロー方式のMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からレーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)、電子デバイス等の産業分野で半導体単結晶成長方法としてMOCVD法等の気相成長が幅広く用いられている。 MOCVD法を用いた成長装置には、基板の成長面に対して材料ガス流(ガスフロー)を垂直に流す方式(バーチカル方式)と、水平に流す方式(ホリゾンタル方式)とがある。また、材料ガスを水平に流し、垂直方向から押さえガスを流す2フロー方式などがある。使用する材料ガスと目的デバイス等により適した方式が選択される。
【0003】
2フロー方式の特長は、基板に対して垂直方向(又は斜め方向)から流すガス(以下、押さえガスという。)によって、基板主面(すなわち、成長面)の横方向(水平方向)から供給する材料ガス流が基板表面から剥離せずに流れるようにしている点にある。
【0004】
従来の2フロー反応容器は、例えば、特許文献1及び2に開示されている構造を有している。例えば、特許文献2に開示されているように、反応容器の内部にはヒータ、サセプタが装備されており、サセプタ上に基板が配置され加熱される。反応ガスは、基板主面と平行に反応ガス供給管から供給され、押さえガスは副噴射管から整流板を介して基板に対して若干斜め方向から吹きつける構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平04−164895号公報
【特許文献2】特開2003−173981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の従来の成長装置においては、反応容器内に反応ガス供給管が設けられている。例えば、MOCVD装置において、材料ガスを基板上に供給し、結晶成長を行うと、反応容器内部には副生成物が付着する。例えば、TMG(トリメチルガリウム)とNH(アンモニア)を用いて約1000℃でサファイア基板上にGaNを成長すると、基板上に成長した結晶以外に反応容器内部に灰色状の副生成物粉体が付着する。この副生成物粉体は成長毎に付着量が増える。また、その性質は成長に用いるガス種、ガス供給比率、成長温度により変化し一定ではない。このように、付着物の付着量や性質が変動する状況においては、基板上に成長する結晶、特に、GaN、AlGaN、InGaN等のGaN系結晶の層厚が一定にならない、また、組成が変動するという問題が発生する。
【0007】
このように、各結晶層の層厚や結晶組成が変動する状態で半導体発光素子を製造した場合、I−V(電流−電圧)特性、I−L(電流−光出力)特性、発光波長などがバラつき、素子特性の低下、製造歩留まりが悪くなるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶成長を繰り返し実行しても、成長結晶層の層厚及び結晶組成の成長毎の変動が低減された、高品質な結晶層を成長できる2フロー方式の結晶成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の結晶成長装置は、基板の成長面に対して材料ガスを水平な流れで供給する材料ガス供給管と、押さえガスを前記成長面に垂直ないしは前記材料ガスの下流方向に傾斜した流れで供給する副噴射器と、前記副噴射器の内部に設けられた遮熱器と、を有し、前記遮熱器は、前記押さえガスが流入する流入側開口部と前記押さえガスを噴出する流出側開口部とを有する枠体と、前記枠体の内部に収容された複数の粒状の充填材と、を含み、前記充填材は、前記流出側開口部から前記流入側開口部への見通し経路を形成しないように前記枠体の内部に収容されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の結晶成長装置によれば、副噴射器の内部には、枠体の内部に収容された複数の粒状の充填材とを含み、該充填材は該枠体の流出側開口部から流入側開口部への見通し経路を形成しないように収容されているので、基板から放射される熱が副噴射器の内部壁面にまで到達するのを防止することができ、これによって副噴射器の温度上昇を防止することができる。副噴射器の温度上昇が抑制されるので、副噴射器の外壁の付着物の付着量の変化に伴う副噴射器の受熱量の変化が抑制され、成長結晶層の層厚および結晶組成の成長毎の変動が抑えられる。更に、充填材に蓄積された熱は遮熱器を通過する押さえガスに移動され、加熱された押さえガスにより材料ガスが加熱されるので熱化学分解反応を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係る2フロー方式の結晶成長装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施例に係る遮熱器の構成を示す上面図である。図2(b)は図2(a)における2b−2b線に沿った断面図である。図2(c)は本発明の実施例に係る遮熱器の底面図である。
【図3】本発明の実施例に係る充填材の斜視図である。
【図4】比較例に係る2フロー方式の結晶成長装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】図5(a)は、本発明の他の実施例に係る遮熱器の構成を示す上面図である。図5(b)は図5(a)における5b−5b線に沿った断面図である。図5(c)は、本発明の実施例に係る充填材の断面図である。
【図6】実施例1、2及び比較例の場合について、成長回数に対する成長層厚変化(%)を示すグラフである。
【図7】実施例1、2及び比較例の場合について、成長回数に対するEL波長の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下においては、本発明の実施例に係る結晶成長装置について図面を参照して詳細に説明する。以下に説明する図において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の実施例に係る結晶成長装置である2フロー水平方式のMOCVD装置の構成を模式的に示している。
【0014】
結晶成長装置(MOCVD装置)10は、反応容器11、材料ガス供給管12、基板15を載置・保持するサセプタ14、ヒータ16、ヒータ16の熱を遮断するための遮熱板17、排気管18、及びサセプタ14(すなわち、基板15)を回転させる基板回転機構19を有している。また、MOCVD装置10には副噴射器20が設けられており、副噴射器20には、副噴射器20に押さえガスを供給する押さえガス供給管21、及び整流板23が設けられている。さらに、後に詳述するように、副噴射器20の内部の押さえガスの流通経路上にサセプタ14及び基板15からの熱を遮断するための遮熱器25が設けられている。遮熱器25を経て噴出された押さえガスは整流板23によって整流される。
【0015】
材料ガス供給管12を経た材料ガス(図中、矢印で示す)が基板15に対して横方向(水平方向)から供給され、副噴射器20によって押さえガスが基板に対して略法線方向(基板に直交方向)から供給される。押さえガスは材料ガスが基板15から剥離しない様に十分な勢いで吹付けられる。
【0016】
図2(a)は副噴射器20の内部に設けられる遮熱器25の上面図、図2(b)は図2(a)における2b−2b線に沿った断面図、図2(c)は遮熱器25の底面図である。遮熱器25は、枠体26と、枠体26内に収容された複数の粒状の充填材27とにより構成される。枠体26は、例えば略円柱形状を有しており、押さえガス供給管21側の上面が開口面となっており、これによって流入側開口部26aが形成されている。また、枠体26は、サセプタ14と対向する底面に複数の円形(直径3mm)の流出側開口部26bを有している。押えガス供給管21から供給される押さえガスは、流入側開口部26aから遮熱器25内部に流入し、複数の充填材27によって形成される網目状の隙間を通って流出側開口部26bから噴出される。尚、枠体26は、充填材27を保持し且つ押さえガスが押さえガス供給管21からサセプタ14に向けて流通するように構成されていればよく、外形形状や流入側開口部26aおよび流出側開口部26bの形状などは適宜変更することが可能である。
【0017】
複数の粒状の充填材27は、流出側開口部26bから流入側開口部26aへの見通し経路を形成しないようにランダムな向きおよび配列をなして枠体26の内部に充填されている。すなわち、サセプタ14および基板15から放射される熱(赤外線)が、流出側開口部26bのいかなる場所からいかなる角度で入射しても充填材27で遮断(ブロック)され、流入側開口部26aから出ていくことがないように、複数の充填材27が、枠体26内において積み重なるように充填されている。流出側開口部26bから流入側開口部26aを見通せないようにするには、単純に充填材27の充填量を増やして積層数を多くすればよい。本実施例において、充填材27の積層数は概ね3層とされている。
【0018】
図3は、充填材27の構造例を示す斜視図である。充填材27は、底面間を貫通する貫通孔27aを有する円柱形状を有している。すなわち、充填材27は、ビーズ状の中空構造を有している。充填材27の高さhは、例えば6mm、直径d1は例えば6mm、貫通孔27aの直径d2は例えば2mmである。充填材27に貫通孔27aが設けられることにより、表面積の拡大と熱容量の低減が図られている。これらの効果については後述する。
【0019】
充填材27は、結晶成長温度に耐え得る耐熱性を備えていることが必要とされる。また、充填材27は、熱伝導率が比較的小さく且つ反射率の比較的高い材料により構成されていることが好ましく、例えば、アルミナ(Al)などが好適である。アルミナは、熱伝導率が20〜30W/mKと比較的低く、また、白色であり比較的高い反射率を有する。
【0020】
ここで、図4は、比較例に係る結晶成長装置である2フロー方式のMOCVD成長装置の模式図である。結晶成長装置100は、副噴射器120の内部に遮熱器が設けられていない点において上記した本発明の実施例に係る結晶成長装置10と異なる。
【0021】
本願の発明者は、鋭意研究の結果、図4に示す構成の2フロー方式の成長装置において装置の汚れ除去などの清浄化を行わずに成長を繰り返し行った場合に、成長を重ねるごとに成長層の層厚や組成が変化するのは、副噴射器120から供給される押さえガスの温度が一定しないことが一因であるとの知見を得た。結晶成長装置100においては、サセプタ14および基板15からの輻射熱は整流板123のスリット(またはメッシュ)を通り副噴射器120の内部壁面に達し、副噴射器を加熱する。このとき、材料ガスは、サセプタ14上を通過した後排気されるまでの間に乱流となり、副噴射器120の外壁にまで達する。その結果、副噴射器120には反応生成物等の汚れが付着するが、付着の程度により副噴射器120からの放熱量Qが変化する。例えば、付着物が少ない場合には放熱量が小さく、付着物が多い場合には放熱量が大となる。そして、この放熱量の変化がサセプタの温度変化を招来する原因となる。特に、高温においては媒体を通した熱伝導より、遠赤外放射による熱伝達の割合が多いので、付着物による副噴射器120からの放熱量の変化は大きな温度揺らぎを生じさせる。
【0022】
より具体的には、図4に示すように、サセプタ14及び基板15からの熱放射(赤外線U)は副噴射器120の噴出口を経て副噴射器120の内壁を加熱する。副噴射器120の外壁が付着物(反応副生成物)CTによって汚れると、付着物CTからの放射(2次放射SE)が増大する、すなわち放射係数が高くなる。放熱量Qには2次放射SEによるものも含まれるため、2次放射SEが増大することで放熱量Qも増大することになる。付着物からの2次放射SEの増大によって副噴射器120の表面温度は低下する、これにより、副噴射器120の内壁がサセプタ14からの熱放射(1次放射)を受ける量(受熱量)が増加する。なお、これと反対に、成長装置を用いた成長回数がまだ少なく、副噴射器120の外壁に付着物が無い又は少ない場合には、2次放射SEは弱く、1次放射の受熱量も小さい。副噴射器120のサセプタ14からの受熱量は、サセプタ14と副噴射器120との温度差ΔTが大きくなると増大し、小さくなると減少する。このように、反応副生成物の付着によって副噴射器120のサセプタ14からの受熱量が変化する。かかる温度変化によって、成長層の層厚分布や発光波長がばらつくことになる。
【0023】
本発明の実施例に係る結晶成長装置10によれば、サセプタ14及び基板15からの熱放射(赤外線)は副噴射器20内部に設けられた遮熱器25によって遮断され、副噴射器20の温度上昇を抑えることができる。すなわち、遮熱器25において、複数の粒状の充填材27が、流出側開口部26bから流入側開口部26aへの見通し経路を形成しないように枠体26内に充填されているので、サセプタ14及び基板15から放射される赤外線は副噴射器20の内部壁面にまで到達することができない。赤外線は、複数の充填材27によって乱反射されて減衰する。このように、遮熱器25によって副噴射器20の温度上昇が抑制されるので、副噴射器20の外壁の付着物の付着量の変化に伴う副噴射器20の受熱量の変化が抑制され、成長層の層厚のばらつきや結晶組成の変動に伴う発光波長のばらつきが抑えられる。
【0024】
充填材27はサセプタ14から放射される熱によって加熱されるが、充填材27に蓄積された熱は遮熱器25を通過する押さえガスに移動され、さらにサセプタ14に還元される。すなわち、サセプタ14から発せられる熱は、充填材27、押さえガス、を経由して再びサセプタ14に戻る還流を生じさせる(熱還流作用)。この熱還流作用によって押さえガスの温度は、副噴射器20の外壁に付着した付着物の多少に関わらず安定化される。ところで、2フローリアクタでは、材料ガス供給管12から室温程度の材料ガスを基板15の直近から供給する。また副噴射器20から供給する押さえガスによって材料ガスを基板面から剥離することを防止している。材料ガスは材料ガス供給管12から噴射された直後から急速に加熱され、熱化学反応によって基板15上に半導体結晶が成長される。遮熱器25は熱還流作用で押さえガスを加熱し、加熱された押さえガスにより材料ガスが加熱されるので熱化学分解反応が安定する。
【0025】
充填材27を複数の粒状体で構成することにより、遮熱器25内には網目状の隙間が形成され、遮熱器25内部の表面積を大きくすることができる。これにより、遮熱器25内での赤外線の反射回数を増加させることができ、遮熱効果を高めることが可能となる。また、遮熱器25内部の表面積を大きくすることは、上述の熱還流作用の点においても有利となる。充填材27に貫通孔27aを設け、ビーズ状の中空構造とすることにより遮熱器25内部の表面積が更に大きくなるので、遮熱効果および熱還流作用を更に高めることが可能となる。また、充填材27をビーズ状の中空構造とすることにより、充填材27の熱容量は小さくなる。これにより、充填材27の温度が上昇しやすくなり、押さえガスへの熱の移動を促進することができる。充填材27は粒状であるので充填材同士の接触面積は小さく、充填材27が加熱されたとしても、充填材間の熱伝導が生じにくく、副噴射器20の温度上昇が抑制される。
【0026】
本実施例において充填材27は、熱伝導率が比較的低く且つ反射率が比較的高いアルミナ(Al)で構成されている。充填材27を熱伝導率の低い材料で構成することにより、サセプタ14および基板15からの赤外線(熱放射)を受けたときに充填材27の表面(表層)温度がより高くなる。充填材27の表面温度が高いと、遮熱器25内を通過する押さえガスとの温度差ΔTが大きくなり、接触熱伝導による押さえガスへの熱の移動が促進される。また、充填材27を熱伝導率の低い材料で構成することにより、遮熱器25内における断熱効果も期待できる。一方、充填材27を反射率の高い材料で構成することにより、サセプタ14および基板15からの赤外線(熱放射)による充填材27の温度上昇(吸熱)が抑えられ、副噴射器20への熱放射(2次的熱放射)を抑制することができる。充填材27を反射率の高い材料で構成した場合、赤外線が充填材27の隙間を反射導波しやすくなるが、充填材27の充填量を増やすことにより赤外線を遮断すれば問題はない。
【0027】
充填材27の他の候補材料として、BN(ボロンナイトライド)、AlN(アルミナイトライド)、SiN(窒化ケイ素)、SiC(炭化ケイ素)などが挙げられる。BNの熱伝導率は30W/mKと低く、また白色であり反射率も高い。AlN、SiCの熱伝導率は、140〜200W/mKと比較的高く、熱還元性、断熱効果の点において不利となるが、充填材27を粒状とすることにより充填材間の熱伝導は抑制されるので問題なく使用することができる。また、BN、AlN、SiNはアンモニア還元雰囲気下における高温安定性が良好であり、また結晶成長材料の汚染源となる成分元素を有しない点で優れている。
【0028】
充填材27を収容する枠体26は、反射率の高い材料で構成されていることが好ましい。これにより、サセプタ14および基板15からの熱放射による枠体26の温度上昇を抑えることができ、また、枠体26からの2次的輻射を抑制することもできる。枠体26の底面に設けられる流出側開口部26bは、充填材27が脱落しない形状および大きさであればよく、円形以外に楕円形、四角形とすることができる。流出側開口部26bを円形または楕円形とすることにより、充填材27の嵌まり込みを防止することができ、押さえガスの噴出が妨げられることを回避することができる。
【実施例2】
【0029】
以下に、本発明の実施例2に係る結晶成長装置について以下に説明する。実施例2に係る結晶装置は、遮熱器25に備えられる充填材の構成が上記した実施例1に係るものと異なる。
【0030】
図5(a)は、本発明の実施例2に係る遮熱器25の上面図、図5(b)は図5(a)における5b−5b線に沿った断面図、図5(c)は、本実施例に係る充填材28の断面図である。本実施例に係る遮熱器25は、上記した実施例1の場合と同様、枠体26と枠体26内部に収容された複数の粒状の充填材28により構成される。充填材28は、直径6mmの中空の球体である。すなわち、充填材28は球殻構造を有する。充填材28は、熱伝導率の比較的低い材料、例えばアルミナ(Al)からなる中空の球体28aが、光吸収性(低反射性)材料、例えばSiC(炭化ケイ素)等の黒色体からなるコート層28bで覆われた2層構造を有している。
【0031】
充填材28は球形状を有しているので、図5(a)および図5(b)に示すように、枠体26内において最密充填された充填材28を2層以上重ねることにより、流出側開口部26bから流入側開口部26aへの見通し経路を遮断する遮熱構造を形成することができる。また、充填材28を球体とすることで、上記した実施例1に係る円柱形状の充填材27と比較して充填率が高くなり、遮熱器25内部の表面積をより大きくすることができる。これにより、充填材と押さえガスとの接触面積も大きくなり、これによって、上述の熱還流作用を促進させることができる。充填材28のサイズは不均一であってもよい。互いにサイズの異なる2種類の球形充填材を使用することにより、充填率を更に高めることができる。
【0032】
充填材28の表面を赤外線を吸収性しやすい光吸収性(低反射性)の黒色体で被覆することにより、サセプタ14および基板15から放射される赤外線は充填材28で吸収されるので、遮熱器25による遮熱効果を高めることができる。また、充填材28の表面温度が高められるので、上述の熱還流作用をさらに促進させることができる。充填材28の表面を黒色体で覆うことにより、充填材28自体が加熱され、副噴射器20への熱放射(2次的熱放射)の影響が考えられるが、複数の充填材のうち主に加熱されるのは、赤外線が直接照射されるサセプタ14に近い下層部に配置されたもののみであるので、問題はない。また、上記した実施例1の場合と同様、充填材28を中空構造とすることにより、充填材28の熱容量の低減が図られている。本実施例に係る結晶成長装置において、遮熱器以外の構成部分は、上記した実施例1に係るものと同様であるのでそれらの説明は省略する。実施例1および2のいずれにおいても充填材は見通し経路を形成せず、押さえガスの経路となる隙間を形成するように充填されている。
【0033】
尚、上記した実施例1に係る充填材27と実施例2に係る充填材28とを混合して用いることも可能である。これら2種類の充填材の比率や配置によって遮熱器25の遮熱性能および熱還流性能を調整することが可能となる。
【0034】
[成長結晶の評価]
(1)結晶成長
上記した本発明の実施例1及び実施例2に係る結晶成長装置を用いて結晶成長を行い、その成長結晶の評価を行った。以下にその結晶成長の手順、条件等を説明する。また、図4に示された遮熱器を備えていない比較例に係る結晶成長装置を用いて同様な結晶成長を行い、成長結晶の比較を行った。なお、実施例1、2及び比較例に係る結晶成長装置を用いた結晶成長は全て同じ手順、条件で実施した。 具体的には、下記の有機金属化合物材料ガスと水素化物材料ガスを用いて、次の手順で窒化物半導体結晶を成長した。基板には円形(φ2インチ)のサファイア基板を用いた。有機金属材料ガスとしてはTMG(トリメチルガリウム)、TMI(トリメチルインジウム)、TMA(トリメチルアルミニウム)、CpMg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)を用い、水素化物ガスとしてはNH(アンモニア)、SiH(モノシラン)を用いた。また材料ガス供給管12からは材料ガス(有機金属化合物ガス、水素化物ガス)と材料ガスのキャリアガス(水素、窒素)を総流量10L/min流し、副噴射器20からは押さえガス(水素、窒素)を30L/min流した。
【0035】
まず、基板15の熱処理を行った。サセプタ14(すなわち、基板15)の温度を1000℃にして、10分間熱処理した。材料ガス供給管12からはキャリアガスとして水素のみを流し、副噴射器20からは押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流した。
【0036】
基板15上に低温GaN層の成長を行った。サセプタ温度を530℃にし、キャリアガスを水素として材料ガス供給管12からTMG、NHを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流し、低温GaN層を30nm成長した。次に、低温GaN層の熱処理を行った。サセプタ温度を1050℃にして7分熱処理した。材料ガス供給管12からはキャリアガスとして水素のみを流し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流した。
【0037】
低温GaN層上にn型GaN層の成長を行った。サセプタ温度を1030℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを水素としてTMG、NH、SiHを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流してn型GaN層を6μm成長した。
【0038】
n型GaN層上に発光層の成長を行った。サセプタ温度を780℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを窒素としてTMG、TMI、NHを供給し、副噴射器20から押さえガスとして窒素を30L/min流して発光層としてのInGaN層を5nm成長した。
【0039】
発光層上にp型AlGaN層の成長を行った。サセプタ温度を900℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを水素としてTMA、TMG、NH、CpMgを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素を15L/minの割合で流してp型AlGaN層を30nm成長した。
【0040】
p型AlGaN層上にp型GaN層の成長を行った。サセプタ温度を900℃にして、材料ガス供給管12からキャリアガスを水素としてTMG、NH、CpMgを供給し、副噴射器20から押さえガスとして水素を15L/min、窒素15L/min流してp型GaN層を100nm成長した。
【0041】
(2)成長層の繰返し安定性の確認 結晶成長を繰返した際の成長層の安定性の確認のため、「結晶成長を6回実施し、その後反応容器のメンテナンス(清浄化)を行う」を1サイクルとし、この過程を2サイクル実施した。評価は、成長の各回において基板の定点の層厚とEL(Electroluminescence)発光波長を測定した。
【0042】
(3)成長層の評価結果 図6は、本発明の実施例1、2および比較例に係る結晶成長装置を使用した場合の、成長回数に対する成長層厚変化(%)を示している。なお、比較例の1回目の成長における層厚を基準として規格化し、差異を%で示した。前述のように、6回連続して結晶成長(第1回〜第6回)を行い、その後反応容器内を掃除して汚れを落とし、その後6回連続して結晶成長(第7回〜第12回)を行った。
【0043】
図7に示すように、実施例1、2の場合、成長回数に対して成長層の層厚変化(%)は小さく、また成長回数が増加しても大きな変化はなく安定していた。これに対し、比較例では、成長回数が増えるに従い成長層の層厚は減少し、清掃後一旦戻るが再び成長回数に対して成長層の層厚は減少した。層厚変化(%)の標準偏差は、実施例1で0.25%、実施例2で0.23%、また比較例で1.88%であり、比較例に比べて、実施例1、2の場合では層厚変化は小さくかつ安定していた。
【0044】
実施例1及び実施例2では、遮熱器の効果により押さえガスの温度が安定することで成長層の層厚変化が減少し、且つ成長回数によらず一様な分布になる。また前述の熱還流作用により押さえガスの温度が上昇することで、比較例より若干層厚は大きい傾向にある。特に、熱還流効果の高い実施例2の場合、層厚が最も厚くなった。
【0045】
図7は、実施例1、2及び比較例に係る結晶成長装置を用いた場合の、成長回数に対するEL波長の測定結果を示している。実施例1、2の場合、成長回数に対してEL波長の変化は小さく、また成長回数が増加しても大きな変化はなく安定していた。これに対し、比較例では、成長回数が増えるに従い長波長側へシフトし、清掃後一旦戻るが再び成長回数に対して長波長側へシフトした。EL波長変化の標準偏差は、実施例1で1.27nm、実施例2で1.08nm、また比較例で1.95nmであり、比較例に比べて、実施例1、2の場合ではEL波長変化は小さくかつ安定していた。
【0046】
以上の結果から、成長層厚及びEL発光波長の変化から、本発明の実施例に係る遮熱器による熱放射遮蔽効果と熱還流効果によって、成長ごとの結晶層の層厚変化及び結晶組成の変化が低減された結晶成長が可能であることが実証された。
【符号の説明】
【0047】
10 結晶成長装置
12 材料ガス供給管
14 サセプタ
15 基板
16 ヒータ
20 副噴射器
21 押さえガス供給管
25 遮熱器
26 枠体
26a 流入側開口部
26b 流出側開口部
27 28 充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の成長面に対して材料ガスを水平な流れで供給する材料ガス供給管と、
押さえガスを前記成長面に垂直ないしは前記材料ガスの下流方向に傾斜した流れで供給する副噴射器と、
前記副噴射器の内部に設けられた遮熱器と、を有し、
前記遮熱器は、前記押さえガスが流入する流入側開口部と前記押さえガスを噴出する流出側開口部とを有する枠体と、前記枠体の内部に収容された複数の粒状の充填材と、を含み、
前記充填材は、前記流出側開口部から前記流入側開口部への見通し経路を形成しないように前記枠体の内部に収容されていることを特徴とする結晶成長装置。
【請求項2】
前記充填材は、中空構造を有することを特徴とする請求項1に記載の結晶成長装置。
【請求項3】
前記充填材は、貫通孔を有することを特徴とする請求項2に記載の結晶成長装置。
【請求項4】
前記充填材は、球形状を有することを特徴とする請求項2に記載の結晶成長装置。
【請求項5】
前記充填材の大きさは不均一であることを特徴とする請求項4に記載の結晶成長装置。
【請求項6】
前記充填材は、前記枠体の内部において最密充填されていることを特徴とする請求項4または5に記載の結晶成長装置。
【請求項7】
前記充填材は、光反射性を有する材料からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の結晶成長装置。
【請求項8】
前記充填材は、表面が光吸収性を有する材料で覆われていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の結晶成長装置。
【請求項9】
前記充填材は、互いに異なる材料からなる2つの層からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の結晶成長装置。
【請求項10】
前記充填材は、アルミナ、ボロンナイトライド、アルミナイトライド、窒化ケイ素、炭化ケイ素のいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1つに記載の結晶成長装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−115312(P2013−115312A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261706(P2011−261706)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】