説明

結晶成長装置

【目的】
サセプタからの輻射熱を効率的に消散させて副生成物の生成及び付着を防止し、また、結晶成長を繰り返し実行しても、高品質な結晶層を成長可能なホリゾンタル方式の気相成長装置を提供する。
【解決手段】
材料ガス流路を画定する材料ガス供給部は、基板保持部に対して材料ガス流路の上流側に配され、基板保持部から放射される赤外線に対して透過性の材料からなる材料ガス供給ガイドを有している。材料ガス供給ガイドは、材料ガス流路を画定する面とは異なる面に形成された凹凸構造からなる赤外線出射部を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相成長装置、特に、水平方式(ホリゾンタル方式)のMOCVD(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition)装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からレーザーダイオード(LD)、発光ダイオード(LED)、電子デバイス等の産業分野で半導体単結晶成長方法としてMOCVD法等の気相成長が幅広く用いられている。MOCVD法を用いた成長装置には、基板の成長面に対して材料ガス流(ガスフロー)を垂直に流す方式(バーチカル方式)、水平に流す方式(ホリゾンタル方式)等があり、使用する材料ガスや目的デバイス等により適した方式が選択される。 従来の水平方式(以下、ホリゾンタル方式という。)の気相成長装置においては、例えば、特許文献1に開示されているように、フローチャネルに付着する副生成物によって成長再現性が失われるなどの悪影響を、フロー上流側に冷却水循環方式の冷却機構を設けることによって抑制することが開示されている。また、特許文献2には、ステンレス鋼からなる冷却機構を設け、材料ガスの気相反応を抑制することが開示されている。特許文献3には、フローチャネルの上流部に水平方向の仕切り板を設け、上下2層のガス流路を形成し、下側のガス流路に材料ガスを供給し、上側のガス流路にパージガスを供給し、サセプタ上流側にフローチャネルの下面温度を調整可能な冷却手段を設けた構造が開示されている。特許文献4には、冷却手段を備えた基板ホルダと、基板の背面に沿ってヘリウムガス等を流す構成が開示されている。また、特許文献5には、加熱手段とサセプタとの間に設けた空間に冷却ガスを流すバレル型反応装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−23902号公報
【特許文献2】特開2002−246323号公報
【特許文献3】特開2000−100726号公報
【特許文献4】特開昭64−17424号公報
【特許文献5】実開平03−102727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、従来の成長装置においては、フロー上流側に水冷ジャケット等からなる冷却機構を設け、副生成物の堆積を防止する構造が設けられている。しかしながら、基板を保持するサセプタ外周の近傍に冷却装置を配置する構造では、サセプタの外周部温度が低下し、膜厚不均一や組成不均一が発生する問題がある。また、成長温度が高温となる結晶系、例えばGaN系結晶の結晶成長では基板温度(すなわち、サセプタ温度)は1000℃以上になる。このような高温域で冷却装置に使用できる耐熱金属は高価である。また加工も難しく、高度な製造技術が必要であり加工コストも高い。従って、装置の製造コストが高くなるという問題がある。また、反応副生成物の付着が結晶成長過程を阻害し、結晶品質の低下を招来する問題もある。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、サセプタに温度変動を与えることなく、サセプタからの輻射熱を効率的に消散させて副生成物の生成及び付着を防止することが可能なホリゾンタル方式の気相成長装置を提供することにある。また、結晶成長を繰り返し実行しても、高品質な結晶層を成長可能なホリゾンタル方式の気相成長装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の気相成長装置は、基板を保持する基板保持部と、基板の成長面に対して材料ガスを供給する材料ガス流路を画定する材料ガス供給部と、基板保持部を加熱する加熱部と、を備え、
材料ガス供給部は、基板保持部に対して材料ガス流路の上流側に配され、基板保持部から放射される赤外線に対して透過性の材料からなる材料ガス供給ガイドを有し、材料ガス供給ガイドは、材料ガス流路を画定する面とは異なる面に形成された凹凸構造からなる赤外線出射部を有することを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】MOCVD装置の上面図(上段)及び断面図(下段)である。
【図2】実施例1のサセプタの円柱中心軸を含む断面における材料ガス供給ガイドの拡大断面図である。
【図3】図2の赤外線出射窓のサセプタ近傍部をさらに拡大して示す部分拡大断面図である。
【図4】赤外線出射窓の構造を説明する断面図であり、特に、第1の傾斜面の透過最大傾斜角(θmx)を模式的に説明する図である。
【図5】赤外線出射窓の構造を説明する断面図であり、第1の傾斜面の透過最小傾斜角(θmn1)を模式的に説明する図である。
【図6】赤外線出射窓の構造を説明する断面図であり、第1の傾斜面の最小傾斜角(θmn2)を模式的に説明する図である。
【図7】実施例2の材料ガス供給ガイドの、サセプタの円柱中心軸を含む面における拡大断面図である。
【図8】第2の傾斜面にミラーが設けられていない場合の導波赤外線の進路について説明するための図である。
【図9】実施例1、2及び比較例の成長層の構造を模式的に示す断面図である。
【図10】赤外線出射部の改変例を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、水平方式の気相成長装置について図面を参照して詳細に説明する。以下においては、本発明の好適な実施例について説明するが、これらを適宜改変し、組合せてもよい。また、以下に説明する図において、実質的に同一又は等価な部分には同一の参照符を付して説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、本発明の結晶成長装置10の構成を模式的に示している。結晶成長装置10の装置構成について以下に詳細に説明する。
【0010】
[装置構成]
図1は、結晶成長装置(MOCVD装置)10の上面図(上段)及び断面図(下段)を示し、上面図は断面図における線V−Vに沿って基板側を見た場合の上面図である。図1に示すように、MOCVD装置10は、反応容器11、フローチャネル本体12、フローチャネル床板13、材料ガス供給ガイド15、フローチャネル排気管17、基板20を載置・保持する円柱形状のサセプタ22、サセプタ22を加熱する(すなわち基板20を加熱する)ヒーター24、サセプタ22を回転させる(すなわち、基板20を回転させる)基板回転機構25を有している。
【0011】
フローチャネル本体12は天板、側壁、仕切り板12Aからなり、フローチャネル本体12、フローチャネル床板13及び材料ガス供給ガイド15からフローチャネル14A及びフローチャネル14Bを有するフローチャネル部(材料ガス供給部)が構成されている。フローチャネル床板13、材料ガス供給ガイド15、基板20及びサセプタ22の表面は同一水平面内であるように構成されている。基板20及びサセプタ22に近い側の(すなわち下層流の)フローチャネルであるフローチャネル14Aには、ガス供給管12Cを介して材料ガスが供給され、フローチャネル14Aの上層流のフローチャネルであるフローチャネル14Bにはガス供給管12Dを介してガスが供給される。
【0012】
材料ガス供給ガイド15は、サセプタ22よりも材料ガスの上流側に配され、材料ガス供給ガイド15の裏面には後述する赤外線出射部である赤外線出射窓15Aが形成されている。また、材料ガス供給ガイド15の裏面側に冷却ガスを流す冷却ガス流路16が設けられ、材料ガス供給ガイド15が冷却される。冷却ガス流路16には冷却ガス供給管16Aを介して冷却ガスが供給される。また、冷却ガス流路16に沿って水冷ジャケット18が設けられ、冷却水供給管18A及び冷却水排出管18Bから冷却水がそれぞれ供給、排出される。
【0013】
また、MOCVD装置10には、ヒーター24の熱を遮断するための遮熱板26、遮熱板26の外側にヒーター室を仕切るヒーター室隔壁筒27が備えられている。ヒーター室にはヒーター室ガス供給管27Aが接続され、パージガスが供給される。パージガスとしては、窒素ガス、水素ガス、アルゴンガス等が用いられる。また、反応容器11には反応容器パージガス供給管11Aが接続されており、反応容器内に拡散する材料ガス等を排気できるように、不活性ガス(N等)を流せる構造となっている。なお、当該冷却ガスは、サセプタ22、ヒーター24、遮熱板26を腐食しないガスならば良い。具体的には、窒素ガス、水素ガス、アルゴンガス等でよい。しかし、材料ガス供給ガイド15の冷却には、水素:窒素=0:1〜3:1の混合ガスが好ましい。
【0014】
[材料ガス供給ガイド及び赤外線出射窓]
図1及び図2を参照して材料ガス供給ガイド15の構成について説明する。図2は、サセプタ22の円柱中心軸を含む断面における材料ガス供給ガイド15の拡大断面図である。例えば、図1の平面図におけるラジアル方向OM(O:サセプタ22の円柱中心)を含む鉛直面の断面を示している。
【0015】
図1の平面図に模式的に示すように、材料ガス供給ガイド15の表面15Fは、基板20及びサセプタ22の表面と同一水平面内であるように配され、フローチャネル14A(材料ガス流路)の底面を画定している。そして、当該材料ガス流路を画定する面(表面15F)とは異なる面である材料ガス供給ガイド15の裏面15Rに赤外線出射窓15A(図1の平面図、破線で示す)が形成されている。材料ガス供給ガイド15は、サセプタ22から放射される赤外線に対して透過性の材料、例えば石英で形成されており、サセプタ22から放射された赤外線(IR)を導波し、当該導波光(赤外線)の出射部である赤外線出射窓15Aから出射するように構成されている。
【0016】
より具体的には、本実施例において、材料ガス供給ガイド15は、その表面15Fがフローチャネル14Aの底面を画定している。そして、例えば、フローチャネル14A側の表面15Fに平行な裏面を有する平行平板形状として形成されている。そして、材料ガス供給ガイド15の赤外線出射窓15Aは、材料ガス供給ガイド15の裏面15R、すなわちフローチャネル14Aを画定する面とは反対側の面に刻まれている。材料ガス供給ガイド15は、材料ガス供給ガイド15の端面15Eとサセプタ22との間の僅かな間隙Gを隔てて配置されている。赤外線出射窓15Aは、当該断面において三角形形状の溝(凹部)からなる鋸歯状の凹凸を有している。より詳細には、図2に示すように、赤外線出射窓15Aの当該三角形形状の凹部31は、サセプタ22から材料ガスフローの上流方向に順に第1の傾斜面31A(すなわち、サセプタ22に近い側の傾斜面)、第1の傾斜面31Aに対して傾斜した第2の傾斜面31B(すなわち、サセプタ22から遠い側の傾斜面)からなり、かかる三角形形状の凹部31が連続して形成されることによって鋸歯状の凹凸構造からなる赤外線出射窓15Aが構成されている。また、図1の平面図に示すように、赤外線出射窓15Aは、サセプタ22の円柱中心軸に垂直な面(又は水平面)においてサセプタ22と同心円状に材料ガス供給ガイド15の裏面に刻まれている(破線で示す)。換言すれば、第1の傾斜面31A及び第2の傾斜面31Bはともに、サセプタ22の円柱中心軸と同軸の切頭円錐の側面形状を有する傾斜曲面である。
【0017】
図3は、図2の赤外線出射窓15Aのサセプタ22近傍部(破線で示す部分U)をさらに拡大して示す部分拡大断面図である。凹部31は頂点P,Q,R及び底辺PRからなる三角形PQRの形状を有し、第1の傾斜面31Aは三角形PQRの底辺PRに対して(すなわち、裏面15Rに対して)、内角がθ1(0<θ1<90°、以下、第1の傾斜角ともいう。)である角度を有し、第2の傾斜面31Bは底辺PRに対して内角がθ2(0<θ2<90°、以下、第2の傾斜角ともいう。)である角度を有している。すなわち、一般的には、第1の傾斜面31A及び第2の傾斜面31Bは、サセプタ22の円柱中心軸を含む断面において、サセプタ22の円柱中心軸に垂直な面(図中、破線)、すなわち三角形PQRの底辺PRに対して、それぞれ内角θ1、θ2だけ傾斜した三角形形状の凹部31の2辺に対応する。
【0018】
図3に模式的に示すように、材料ガス供給ガイド(石英)15に入射した光(赤外線)IR0は、石英と気体相との界面(15F,15R)に臨界角αよりも高角で入射した場合には、材料ガス供給ガイド15の内部に導波され(導波光又は導波赤外線)、臨界角αよりも低角で入射した場合には、気体相に出射する。導波光は、石英中を伝播しながらその一部が石英に吸収され、熱に変換される。すなわち、石英は導波光により加熱される。サセプタ22の近傍では、サセプタ22又はヒーター24から放射される赤外線が支配的なので、当該赤外線を除去できればフローチャネルの加熱を抑制することができる。また、第1の傾斜面31Aに入射した導波光IRは、入射角に応じて、直接外部に出射する、又は第1の傾斜面31Aから出射した後、第2の傾斜面31Bで外部に反射される、あるいは第2の傾斜面31Bから再度材料ガス供給ガイド(石英)15内に入射する。すなわち、第1の傾斜面31Aは赤外線出射傾斜面として機能し、第2の傾斜面31Bは、第1の傾斜面31Aから材料ガス供給ガイド15外に出射し、臨界角以上で入射した赤外線を反射する赤外線反射傾斜面として機能する。
【0019】
以下に、サセプタ22から材料ガス供給ガイド15内に入射した赤外線IRを導波光出射窓15Aから効率よく出射させ、サセプタ22近傍からの熱を除去してフローチャネルの加熱を抑制するための導波光出射窓15Aの構造について詳細に説明する。
【0020】
[赤外線出射窓の構造]
1.第1の傾斜面31Aの透過最大傾斜角(θmx)
図4は、図3と同様に赤外線出射窓15Aの構造を説明する断面図であり、特に、第1の傾斜面31Aの透過最大傾斜角(θmx)を模式的に説明する図である。なお、以下において、角度は時計回りを正(プラス)、反時計回りを負(マイナス)として説明する。
【0021】
赤外線を材料ガス供給ガイド15外に取出すための第1の傾斜面31A(すなわち、赤外線出射傾斜面)の透過最大傾斜角θmx(すなわち、第1の傾斜角の最大値)は、材料ガス供給ガイド15と気体層(フローチャネル)との界面I(15F)で反射される最小反射角(臨界角αに等しい)の赤外線IR(図中、矢印)の進行方向線LMが第1の傾斜面31Aの法線HOに対してなす角がプラス側の透過最大角(すなわち、臨界角αに等しい)に一致する場合(又は法線HOが進行方向線LMよりも水平方向に近い場合)に該当する(図4参照)。従って、θmxは以下の式で与えられる。
θmx=α+α=2α (式1)
【0022】
従って、第1の傾斜面31Aの傾斜角θ1(第1の傾斜角)は、
θ1≦2α (式2)
であればよい。例えば、材料ガス供給ガイド15が石英からなる場合で、赤外線の波長を1μmと仮定すると、石英の屈折率は1.451であり、臨界角α=43.6°であるので、θ1≦2×43.6°=87.2°である。
【0023】
2.第1の傾斜面31Aの透過最小傾斜角(θmn1)
図5は、図4と同様に赤外線出射窓15Aの構造を説明する断面図であり、第1の傾斜面31Aの透過最小傾斜角(θmn1)を模式的に説明する図である。第1の傾斜面31Aで赤外線が全反射せずに材料ガス供給ガイド15外に取出されるための第1の傾斜面31Aの透過最小傾斜角(θmn1)は、界面Iで反射される最大反射角(すなわち、90°)の赤外線IR(図中、矢印)の進行方向線LOが第1の傾斜面31Aの法線HOに対してなす角がマイナス側の透過最大角(臨界角αに等しい)に一致する場合に該当する(図5参照)。従って、θmn1は以下の式で与えられる。
θmn1=90−α (式3)
【0024】
従って、第1の傾斜面31Aの傾斜角θ1は、
θ1≧90−α (式4)
であればよい。例えば、材料ガス供給ガイド15が石英からなり、赤外線の波長を1μmと仮定すると、θ1≧90°−43.6°=46.4°である。
【0025】
3.第1の傾斜面31Aの最小傾斜角(θmn2)
図6は、赤外線出射窓15Aの構造を説明する断面図であり、第1の傾斜面31Aの最小傾斜角(θmn2)を模式的に説明する図である。赤外線を材料ガス供給ガイド15外に取出すための第1の傾斜面31Aの最小傾斜角(θmn2)は、界面Iで反射される最大反射角(すなわち、90°)の赤外線IR(図中、矢印)の進行方向線LOと第1の傾斜面31Aで反射され、臨界角で界面Iに向かう反射光IQの進行方向線OTとしたとき、∠TOQ=∠LOP=θmn2となる。従って、第1の傾斜面31Aの最小傾斜角θmn2は、以下の式で与えられる。
90°+α−2θmn2=180°
θmn2=(90°−α)/2 (式5)
【0026】
従って、第1の傾斜面31Aの傾斜角θ1は、
θ1≧(90°−α)/2 (式6)
であればよい。例えば、材料ガス供給ガイド15が石英からなり、赤外線の波長を1μmと仮定すると、θ1≧(90°−43.6°)/2=23.2°である。
【0027】
4.第1の傾斜面31Aの傾斜角
上記したように、赤外線出射傾斜面である第1の傾斜面31Aの透過最大傾斜角(θmx)は、材料ガス供給ガイド15と空気(又は真空)との界面における赤外線の臨界角をαとしたとき、θmx=2αである。また、最小傾斜角はθmn2=(90°−α)/2である。さらに、第1の傾斜面31Aで赤外線が全反射せずに材料ガス供給ガイド15外に取出されるための第1の傾斜面31Aの透過最小傾斜角はθmn1=90−αである。従って、第1の傾斜面31Aの傾斜角θ1は、(90°−α)/2≦θ1≦2αであればよく、材料ガス供給ガイド15外部への取り出し効率の点で90°−α≦θ1≦2αであることが好ましい。また、石英等の材料ガス供給ガイド15の加工の観点からは、45°〜60°が簡便に加工できるので好ましい。特に、正角側からの入射光を増加させた方が、第2の傾斜面31Bへの再入射を少なくできるので、60°が最適である。
【0028】
なお、赤外線出射窓15Aの深さ、すなわち上記凹部31の高さは、赤外線の不感サイズ以上であることが好ましい。具体的には、赤外線出射窓15Aの深さD(図3参照)は0.2〜0.5mmであることが好ましく、また材料ガス供給ガイド15の厚さの1/10〜1/3であることが好ましい。また、第1の傾斜面31A及び第2の傾斜面31Bのなす角度は90±5°が好ましい。これよりも小さいと第2の傾斜面31Bに入射し、材料ガス供給ガイド15内に反射される光が増加する。またこれよりも大きいと、凹部31の溝幅(当該三角形状の底辺)が拡がり、第1の傾斜面31Aの間隔が拡がるので取り出し効率が減少する。
【実施例2】
【0029】
図7は、実施例2の材料ガス供給ガイド15の、サセプタ22の円柱中心軸を含む面における拡大断面図である。第2の傾斜面31Bにミラー33が設けられている点を除いては、材料ガス供給ガイド15は上記実施例1と同様な構成を有している。
【0030】
図8は、第2の傾斜面31Bにミラー33が設けられていない場合の、導波光(すなわち、導波赤外線)の進路について説明するための図である。なお、傾斜面の法線に対して時計回りに測った角度を正角、反時計回りに測った角度を負角という。材料ガス供給ガイド15中の導波光は、界面Iで反射された反射光と、界面IIで反射された反射光とがある。図中、光線aは界面IIで反射され、第1の傾斜面31Aに入射した光である。その入射角は臨界角より大きく、第1の傾斜面31Aで反射され界面Iに向かう(反射光a’)。光線a’の界面Iへの入射角が臨界角以下なら気体相に出射し、臨界角以上なら反射光(導波光)となる。光線bは、界面Iで反射されて第1の傾斜面31Aに入射する光であり、入射角は臨界角より小さいので、第1の傾斜面31Aから出射し、第2の傾斜面31Bに入射する。第2の傾斜面31Bへの入射角が臨界角より大きければ第2の傾斜面31Bで反射されて材料ガス供給ガイド15外部に出射し(反射光b’)、臨界角より小さければ材料ガス供給ガイド15内に入射する(入射光b’’)。また、界面Iで反射され、材料ガス供給ガイド15内において第2の傾斜面31Bに入射する光線cは、第2の傾斜面31Bへの入射角が臨界角より大きいので、第2の傾斜面31Bで反射され、次の第1の傾斜面31Aに向かう。次の第1の傾斜面31Aへの入射角が臨界角より小さければ出射し(光線c’)、臨界角より大きければ反射される。以上説明した光路によって、材料ガス供給ガイド15の導波光は外部に取り出される。
【0031】
上記したように、入射角によっては第1の傾斜面31Aから出射した光が再度材料ガス供給ガイド15内に入射(屈折侵入)する場合がある。実施例2においては、第1の傾斜面31Aから出射した光を反射するミラー33を第2の傾斜面31Bに設けているので、材料ガス供給ガイド15内へ再入射を防止でき、導波光の材料ガス供給ガイド15の外部への取り出し効率が向上し、材料ガス供給ガイド15の加熱を抑制できる。
【0032】
ミラー33は、例えばロジウム(Rh)を第2の傾斜面31Bに蒸着することによって形成することができる。ロジウム(Rh)は、赤外域まで高い反射率を有すると同時に、非常に耐腐食性が高いので、高温雰囲気下でも高い反射性能を維持できる。なお、ロジウムの膜厚は50〜200nmが好ましい。また、ミラー33は、ロジウムに限らず、赤外線に対して反射率の高い材料を用いることができる。
【0033】
[成長結晶の評価]
(1)結晶成長
実施例1及び実施例2の材料ガス供給ガイド15を備えたMOCVD装置を用いて結晶成長を行い、その成長結晶の評価を行った。また、材料ガス供給ガイドに赤外線出射窓15Aが設けられていない点を除いて、実施例1及び実施例2と同じ構成を有するMOCVD装置を比較例として結晶成長を行い、実施例1、2及び比較例の装置を用いて成長結晶の比較を行った。図9は、実施例1、2及び比較例の成長層の構造を模式的に示す断面図である。なお、実施例1、2及び比較例の結晶成長は全て同じ手順、条件で実施した。以下にその結晶成長の手順、条件等を説明する。 具体的には、下記の有機金属化合物材料ガスと水素化物材料ガスを用いて、次の手順でGaN結晶を成長した。基板20には成長面がm軸方向に0.5°傾斜した(0.5°オフ)のc面サファイア(α−アルミナ)、円形(2インチ)の基板を用いた。有機金属材料ガスとしてはTMG(トリメチルガリウム)を用い、水素化物ガスとしてはNH(アンモニア)を用いた。有機金属材料ガスと水素化物ガスは混合してガス供給管12Cから供給し、水素:窒素=1:1に混合したガスを28L/minの流量でガス供給管12Dから供給した。なお、ガス供給管12Cには材料ガス(有機金属化合物ガス及び水素化物ガス)に加えてキャリアガスとして水素(H2)ガスを流した。総流量は材料ガスと合わせて6L/minであるように調整した。また、冷却ガス供給管16Aには水素:窒素=1:1の混合ガスを10L/minの流量で流し、ヒーター室ガス供給管27Aには水素:窒素=1:1の混合ガスを8L/minの流量で流した。また、水冷ジャケット17には常温(室温)の水を3L/minの流量で流した。
【0034】
まず、基板20の熱処理を行った。ガス供給管12Cから水素ガスを6L/min、ガス供給管12Dから水素:窒素=1:1の混合ガスを28L/minの流量で流し、サセプタ22の温度を1000℃、圧力を100kPa(Pa:パスカル)にし、サファイア基板20を10分間アニールした。
【0035】
次に、サセプタ22(すなわち、基板20)の温度を550℃、圧力を100kPaとした後、ガス供給管12CからTMGを30μmol/min、NHを4L/min供給し、サファイア基板20上に低温成長GaN層41を10nmの層厚で成長した。次に、サセプタ22の温度を1050℃、圧力を100kPaとし、低温成長GaN層41を7分間アニールした。
【0036】
次に、サセプタ22の温度を1030℃、圧力を100kPaとした後、TMGを45μmol/min、NHを4L/min供給し、低温成長GaN層41上に高温成長GaN層42を1時間成長した。
【0037】
(2)成長結晶の評価結果
表1に、実施例1、2及び比較例のサンプルの成長層の構造を評価結果を示す。層厚測定は、白色光源を用いた反射干渉計を用いて測定した。サファイア基板の屈折率が1.7、GaN結晶の屈折率が2.4と異なるので、反射干渉の測定にて層厚を測定できる。層厚測定は2インチ基板の中心から5mm間隔で5点(中心を含む)測定し、その平均値を表1に示した。また、層厚増加率は比較例の層厚を基準(すなわち、1.0)とした。メンテナンス回数間隔は、サセプタ上流側のフローチャネル床板部、すなわち材料ガス供給ガイド上面のサセプタ近傍部の堆積物が剥離して捲れ上がる回数として定義した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、比較例の平均層厚は3.2μmであったが、実施例1では4.1μm、実施例2では4.6μmと大幅な層厚の増加効果が認められた。このときの層厚増加率は、実施例1では1.28倍、実施例2では1.44倍であった。また、メンテナンス間隔回数も比較例では23回、実施例1では26回、実施例2では31回とメンテナンス間隔回数が多くなる効果が認められた。
【0040】
実施例1、2の層厚増加率の向上分は、材料使用効率の向上分と考えることができる。上記したように実施例1、2および比較例で使用した材料ガスの流量は同じなので、比較例の材料使用効率を100%としたとき、実施例1では材料使用効率が28%向上し、実施例2では44%向上したと言える。換言すれば、LED素子等の半導体素子の積層構造が同じならば、材料ガス使用効率向上分だけ材料ガス使用量を減らせるので製造コストを低減することができる。また、同時に製造時間も短縮できるので、生産性を向上でき製造コストを低減することができる。
【0041】
メンテナンスに至るまでの材料ガス供給ガイド上面のサセプタ近端部からヒーター室隔壁の内端部までの汚れ(堆積物)は、比較例では数回成長しただけで明らかに黄色になり、その後成長を重ねるにつれ徐々に濃い褐色になり、20回程度で堆積物の剥離が始まった。これに対し、実施例1ではヒーター室隔壁内端側の汚れ(堆積物)が数回の成長では薄い褐色程度であり、明らかに汚れの程度は軽減され、26回程度まで堆積物の剥離は起きなかった。実施例2では、汚れ(堆積物)の付着傾向は更に減少した結果31回程度の成長までは剥離が起きなくなった。このようにフローチャネル部の汚れ低減効果によりフローチャネル部の洗浄までの使用可能回数を長くすることができた。換言すれは、同一期間における清掃時間の短縮分だけ半導体素子の製造が可能になるので製造コストを低減することができる。
【0042】
前述のように、サセプタ外周の近傍に冷却装置を配置する従来の構造では、サセプタの外周部温度が低下し、層膜厚不均一や組成不均一を生じさせるが、本発明によれば、そのようなサセプタ(すなわち、基板)へ温度変動を与えること無く、サセプタ近傍の熱を消散させることができる。また、水冷ジャケット式等では冷却不可能なサセプタの極近傍を冷却することができる。さらに、装置の製造コストも安価である。
【0043】
また、ホリゾンタル方式のMOCVD装置では、材料ガスは水平なガス流層に添加され基板まで運搬される。そこで材料ガスは、基板直上の淀み層内を拡散して基板に到達する。材料ガスは基板上でマイグレーションをともなう熱化学反応を介して半導体結晶となる。換言すれば、MOCVD装置内でこのような条件が理想的にみたされる程、高品質なエピタキシャル結晶成長膜、すなわち配向性が高く、転位や欠陥等の少ない単結晶が得られる。ところが基板上流部の堆積物は、厚く堆積すると成長温度(サセプタ温度)の昇降により剥離し、ガス流を乱して熱化学分解反応を介した結晶成長過程を阻害するので結晶品質の低下を招く。本発明によれば、基板上流部の堆積物(副生成物)の付着を抑制できるので、高品質なエピタキシャル結晶成長層を得ることができる。
【0044】
上記したように、本発明によれば、サセプタの上流側のフローチャネル床板部、すなわち材料ガス供給部のサセプタ近傍部の輻射熱を材料ガス供給部の外部(材料ガス供給ガイドの裏面側)に消散させ、材料ガス供給ガイドの温度上昇を抑制しているので、無駄に材料ガスが分解し消費されるのを防止でき、また、材料ガス供給部の汚れや堆積物(副生成物)の付着を防止できる。従って、材料ガスの使用効率を向上できるとともに、装置のメンテナンス頻度を低減できる。特に、成長温度が非常に高い、例えば窒化ガリウム(GaN)系のMOCVD成長において効果が高い。さらに、高品質なエピタキシャル結晶を成長することができる。
【0045】
[改変例]
上記した実施例1及び2においては、サセプタが円柱形状を有し、当該円柱中心軸に垂直な面において赤外線出射部の凹部が同心円状に形成された場合を例に説明したが、これに限らない。例えば、サセプタの形状は円柱形状に限らない。また、赤外線出射部の凹部は、同心円状に形成された場合に限らず、赤外線出射部の凹部は、サセプタからの赤外線放射方向及び材料ガス供給ガイド内の導波方向に応じて、当該導波赤外線を外部に出射するように配された出射面を有する構成を有していればよい。
【0046】
また、赤外線出射部(出射窓)15Aが材料ガス供給ガイド15の裏面から窪んだ凹部の連続から構成されている場合を例に説明したが、これに限らない。例えば、図10に示すように、材料ガス供給ガイド15の裏面から突出した赤外線出射窓15Bとして構成されていてもよい。例えば、赤外線出射窓15Bは、三角形形状の凹部35が連続して形成された鋸歯状の凹凸から構成され、当該凹凸構造は材料ガス供給ガイド15の裏面から突出している。この場合も、三角形形状の凹部35は、サセプタ22に近い側の第1の傾斜面35Aと遠い側の第2の傾斜面35Bからなる。そして、第1の傾斜面35A及び第2の傾斜面35Bは、サセプタ22の円柱中心軸に垂直な面(又は水平面)に対して、それぞれ傾斜角(すなわち、当該三角形の内角)はθ1、θ2(0<θ1,θ2<90°)である。
【0047】
また、赤外線出射部の断面が三角形形状の凹部の場合を例に説明したが、三角形形状に限らない。例えば、赤外線出射面である第1の傾斜面が凸形状を有し、あるいは、第2の傾斜面が第1の傾斜面から出射した赤外線を効率よく反射するように凹面形状を有していてもよい。さらに上記した実施例及び改変例は適宜組合せ、変更してもよい。また上記した数値、材料等は例示に過ぎない。
【符号の説明】
【0048】
10 気相成長装置
15 材料ガス供給ガイド
20 基板
22 サセプタ
14A、14B フローチャネル
15A、15B 赤外線出射部
31 凹部
31A 第1の傾斜面
31B 第2の傾斜面
33 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持する基板保持部と、
前記基板の成長面に対して材料ガスを供給する材料ガス流路を画定する材料ガス供給部と、
前記基板保持部を加熱する加熱部と、を備え、
前記材料ガス供給部は、前記基板保持部に対して前記材料ガス流路の上流側に配され、前記基板保持部から放射される赤外線に対して透過性の材料からなる材料ガス供給ガイドを有し、
前記材料ガス供給ガイドは、前記材料ガス流路を画定する面とは異なる面に形成された凹凸構造からなる赤外線出射部を有することを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記基板保持部は円柱形状を有し、
前記赤外線出射部は、前記基板保持部の円柱中心軸を含む面における断面において、前記円柱中心軸に垂直な面に対して傾斜した第1の傾斜面と、前記第1の傾斜面に対して傾斜した第2の傾斜面とからなる凹部を有することを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
前記赤外線出射部は、複数の前記凹部が連続して形成された凹凸からなることを特徴とする請求項2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
前記赤外線出射部の前記凹部は、前記基板保持部の円柱中心軸を含む面における断面が三角形形状の凹部であることを特徴とする請求項2又は3に記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記材料ガス供給ガイドは、その表面が前記材料ガス流路を画定するよう配された板状部材からなり、前記赤外線出射部は前記材料ガス供給ガイドの裏面に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記第1の傾斜面は、前記基板保持部の円柱中心軸と同軸の切頭円錐の側面形状を有することを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【請求項7】
前記第1の傾斜面は前記凹部のうち前記第2の傾斜面よりも前記基板保持部に近い側の傾斜面であり、前記第1の傾斜面の前記基板保持部の円柱中心軸に垂直な面に対する傾斜角をθ1(0<θ1<90°)とし、前記材料ガス供給ガイドの真空との界面における前記赤外線の臨界角をαとしたとき、
(90°−α)/2≦θ1≦2α
を満たすことを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【請求項8】
前記第1の傾斜面は前記凹部のうち前記第2の傾斜面よりも前記基板保持部に近い側の傾斜面であり、前記第1の傾斜面の前記基板保持部の円柱中心軸に垂直な面に対する傾斜角をθ1(0<θ1<90°)とし、前記材料ガス供給ガイドの真空との界面における前記赤外線の臨界角をαとしたとき、
90°−α≦θ1≦2α
を満たすことを特徴とする請求項2ないし6のいずれか1項に記載の気相成長装置。
【請求項9】
前記赤外線反射傾斜面はミラー部を含むことを特徴とする請求項2ないし8のいずれか1項に記載の気相成長装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−115313(P2013−115313A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261712(P2011−261712)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】