絞り圧延用ロールの製造方法、及び、絞り圧延用ロール
【課題】噛み出し疵及びエッジ疵の発生を抑制できる絞り圧延用ロールの製造方法を提供する。
【解決手段】3ロール式絞り圧延機に用いられる絞り圧延用ロールを準備する。次に、絞り圧延用ロールをロール軸まわりに回転し、カリバ部とフランジ部との隣接部分に形成される稜部52を切削して稜部52に丸みをもたせる。稜部52に丸みをもたせる工程では、稜部52の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲の稜部領域RA52において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均を2.5mm〜3.0mmとし、かつ、曲率半径の最大値と最小値との差分を1.0mm以下にする。
【解決手段】3ロール式絞り圧延機に用いられる絞り圧延用ロールを準備する。次に、絞り圧延用ロールをロール軸まわりに回転し、カリバ部とフランジ部との隣接部分に形成される稜部52を切削して稜部52に丸みをもたせる。稜部52に丸みをもたせる工程では、稜部52の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲の稜部領域RA52において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均を2.5mm〜3.0mmとし、かつ、曲率半径の最大値と最小値との差分を1.0mm以下にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、絞り圧延用ロールの製造方法及び絞り圧延用ロールに関し、さらに詳しくは、鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられる絞り圧延用ロールの製造方法及び絞り圧延用ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
サイザやストレッチデューサに代表される絞り圧延機は、鋼管を所定の外径寸法に絞り圧延する。絞り圧延機としては、主として、3ロール式絞り圧延機が知られている。3ロール式絞り圧延機は、たとえば、国際公開第2005/070574号(特許文献1)及び国際公開第2005/092531号(特許文献2)に記載されている。
【0003】
絞り圧延機は、通常、パスラインに沿って配列された複数のスタンドを備える。各スタンドは、孔型(カリバ)を形成する溝を有する複数の絞り圧延用ロールを含む。3ロール式絞り圧延機では、各スタンドの3個のロールがパスライン周りに等間隔に配置され、かつ、前段のスタンドに含まれる3個のロールからパスライン周りに60°ずれて配置される。
【0004】
一般的に、絞り圧延機の各スタンドに含まれるロールは、横断面(パスラインと垂直な方向の断面、つまり、ロール軸を含む断面)で楕円弧状の溝を有する。このようなロールを利用することにより、1スタンド当たりの圧下率をある程度大きくすることができる。
【0005】
しかしながら、圧延中の鋼管の表層部分がロールの溝からはみ出て、いわゆる噛み出し疵が発生する場合がある。さらに、絞り圧延される鋼管のうち、溝の縁近傍に接触する鋼管部分に作用する負荷が増大すれば、当該鋼管部分にエッジ疵が発生しやすくなる。具体的には、鋼管の長手方向に線状の疵が発生しやすくなる。
【0006】
このような、噛み出し疵やエッジ疵を防止する技術が、特開平11−197714号公報(特許文献3)及び特開平11−57816号公報(特許文献4)に提案されている。
【0007】
特許文献3及び特許文献4では、絞り圧延機に利用されるカリバロールにおいて、カリバとフランジとを境とする稜部に丸みを持たせる。そのため、絞り圧延中の鋼管のフランジ側での噛み出しが緩和されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/070574号
【特許文献2】国際公開第2005/092531号
【特許文献3】特開平11−197714号公報
【特許文献4】特開平11−57816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3及び4に記載されているように、ロールの稜部に単に丸みを持たせるだけでは、噛み出し疵やエッジ疵の発生は抑制されない。
【0010】
本発明の目的は、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる絞り圧延用ロールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施の形態による絞り圧延用ロールの製造方法は、鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられ、横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、前記カリバ部に隣接するフランジ部とを備える絞り圧延用ロールの製造方法である。絞り圧延用ロールの製造方法は、絞り圧延用ロールを準備する工程と、絞り圧延用ロールをロール軸まわりに回転し、カリバ部とフランジ部との隣接部分に形成される稜部を切削して稜部に丸みをもたせる工程とを備え、稜部に丸みを持たせる工程では、稜部の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲の稜部領域において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均を2.5mm〜3.0mmとし、かつ、曲率半径の最大値と最小値との差分を1.0mm以下にする。
【0012】
本実施の形態による絞り圧延用ロールの製造方法では、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる絞り圧延用ロールを製造できる。
【0013】
本実施の形態による絞り圧延用ロールは、鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられる。絞り圧延用ロールは、横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、カリバ部に隣接するフランジ部とを備える。カリバ部とフランジ部との隣接部分に形成される稜部の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均は2.5mm〜3.0mmであり、かつ、曲率半径の最大値と最小値との差分は1.0mm以下である。
【0014】
本実施の形態による絞り圧延用ロールは、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、3ロール式絞り圧延機の側面図である。
【図2】図2は、図1中のスタンドの正面図である。
【図3】図3は、図2に示すスタンドの前段のスタンドの正面図である。
【図4】図4は、図1に示す3ロール式絞り圧延機を用いた鋼管の絞り圧延の模式図である。
【図5】図5は、図1中の絞り圧延用ロールの正面図である。
【図6】図6は、図5中の絞り圧延用ロールの稜部近傍の拡大図である。
【図7】図7は、図5に示す絞り圧延用ロールの製造に利用される旋盤機の模式図である。
【図8】図8は、図7に示す旋盤機により切削される絞り圧延用ロールの稜部近傍の拡大図である。
【図9】図9は、図8に示す稜部の曲率半径の測定方法を説明するための模式図である。
【図10】図10は、図8に示す稜部の曲率半径の測定方法の一例を示す図である。
【図11】図11は、図10中の常温硬化樹脂の断面図である。
【図12】図12は、実施例で用いられるロールの形状及び曲率半径の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳しく説明する。図中同一又は相当する部分には、同一符号を付してその説明を援用する。
【0017】
[絞り圧延機の構成]
図1は、本実施の形態による絞り圧延機1の側面図である。絞り圧延機1は、3ロール式である。図1を参照して、絞り圧延機1は、パスラインRAに沿って配列された複数のスタンドST1〜STm(mは自然数)を備える。絞り圧延機1はたとえば、ストレッチレデューサであり、スタンド数mは20〜30程度である。
【0018】
図2は、図1に示す絞り圧延機1のスタンドSTi(iはm以下の自然数)の正面図であり、図3は、スタンドSTi−1の正面図である。
【0019】
図2を参照して、各スタンドSTiは、3個の絞り圧延用ロール(以下、単にロールという)11を含む。3個のロール11は、パスラインRA周りに互いに等間隔に配置される。したがって、3個のロール11は、パスラインRA周りに120°おきに配置される。ロール11は、横断面(ロール軸方向の断面)が弓状をなす溝20を有する。3つのロール11の溝20は、孔型PAを形成する。
【0020】
図2及び図3に示すとおり、スタンドSTiに含まれる3個のロール11は、前段のスタンドSTi-1に含まれる3個のロール11からパスラインRA周りに60°ずれて配置される。
【0021】
各スタンドSTiの3個のロールは、図示しないベベルギアにより互いに接続される。3個のロール11のうちの1つが、図示しないモータにより回転することにより、全てのロール11が回転する。
【0022】
各スタンドSTiの3個のロール11により形成される孔型PAの断面積は、後段のスタンドのものほど小さくなる。したがって、スタンドST1で形成される孔型PAの断面積が最も大きく、最後尾のスタンドSTmで形成される孔型PAの断面積が最も小さい。図4に示すとおり、鋼管は、パスラインRAに沿ってスタンドST1からスタンドSTmまでを通って絞り圧延され、所定の外径及び肉厚を有する鋼管となる。
【0023】
スタンドSTiに含まれるロール11は、図5に示す形状を有する。図5を参照して、ロール11は、カリバ部50と、一対のフランジ部51とを備える。カリバ部50は円柱状であり、横断面で弓状をなす溝20を表面に有する。フランジ部51は、円板状であり、カリバ部50と同軸に配置される。フランジ部51は、カリバ部50から離れるにしたがって幅が小さくなる、円錐台状である。カリバ部50とフランジ部51とは、一体的に形成される。
【0024】
上述のとおり、溝20の横断形状、つまり、ロール11のロール軸X方向の断面における溝20の形状は弓状である。本例では、溝20は、半径Ra1の円弧である。溝20の溝底(溝20のロール軸方向の中央)GBとパスラインRAとを結ぶ線分DBは、半径Ra1よりも短い。したがって、溝20の横断形状は、線分DBを短半軸とする楕円弧状である。溝20の横断形状が楕円弧状であるため、1スタンド当たりの圧下率をある程度大きくすることができる。
【0025】
カリバ部50とフランジ部51との隣接部分には、稜部52が形成される。図6は、図5に示す稜部52近傍部分の拡大図である。図6を参照して、稜部52は、ロール11の円周方向に延びる。そして、稜部52は丸みを帯びている。
【0026】
上述の絞り圧延機1は、絞り圧延により薄肉の鋼管を製造する。薄肉の鋼管の肉厚はたとえば、2.0〜3.0mmであり、外径はたとえば、30.0〜100.0mmである。このような薄肉の鋼管を製造する場合、噛み出し疵やエッジ疵が発生しやすい。ここでいうエッジ疵とは、鋼管の表層部分がロールの稜部によりえぐられ、その結果、鋼管の表面に長手方向に沿って形成される線状の疵を意味する。薄肉の鋼管で噛み出し疵やエッジ疵が発生しやすいのは、肉厚が薄いため、圧延中の鋼管のうち溝20の縁近傍部分に接触する部分(以下、メタル部分という)がロール軸X方向に流動しやすいためと推定される。
【0027】
以下の製造方法に基づいてロール11を製造することにより、特に薄肉の鋼管を製造する場合に噛み出し疵やエッジ疵の発生が抑制される。以下、ロール11の製造方法について詳述する。
【0028】
[製造方法]
ロール11は、周知の方法で作製する。具体的には、準備されたロール11を周知の旋盤機に配置する。図7は、旋盤機60の模式図である。図7を参照して、旋盤機60は、ベッド601と、主軸台602と、往復台603と、心押台604と、制御装置605とを備える。
【0029】
主軸台602及び心押台604は、図示しないチャックを備える。主軸台602及び心押台604のチャックにより、ロール11が旋盤機60に回転可能に取り付けられる。
【0030】
主軸台602はさらに、図示しないモータを備える。モータにより、ロール11がロール軸回りを回転する。
【0031】
往復台603は、ベッド601上に配置される。往復台603は、図示しないモータにより、ロール軸方向に移動できる。往復台603はバイト606を備える。バイト606は、図示しないサーボモータにより、ロール軸と垂直な方向(ロール11の径方向)に移動できる。
【0032】
制御装置605は、ロール11の回転速度を制御する。制御装置605はさらに、往復台603のロール軸方向への移動と、バイト606のロール11の径方向への移動とを制御する。制御装置605は、溝20及び稜部52の形状データを記憶する記憶装置を備えてもよい。この場合、制御装置605は、形状データに基づいて、往復台603及びバイト606の移動を制御する。
【0033】
ロール11を旋盤機60に取り付けた後、旋盤により溝20を形成する。
【0034】
次に、稜部52を切削する。具体的には、バイト606に変えて、刃先が凹状であり、所定の曲率を有するRバイト607を往復台603に取り付ける。ロール11を回転しながら、Rバイト607を稜部52に接触させ、稜部52をR面取りする。このとき、稜部52の曲率半径が、以下の条件を満たすように、稜部52を切削する。
【0035】
図8に稜部52の拡大図を示す。図8を参照して、稜部52は、ロール径方向Yに凸の形状を有し、丸みを帯びている。
【0036】
稜部52のうち、Y方向への高さが最も高い地点を頂上T52と定義する。稜部52のうち、頂上T52を中心とした、X軸方向に3.0mmの範囲の領域RA52を特定する。以下、この領域を「稜部領域」RA52と定義する。稜部領域RA52は、頂上T52から図中左側(カリバ部側)に1.5mmの範囲と、頂上T52から右側(フランジ部側)に1.5mmの範囲とを含む。
【0037】
特定された稜部領域RA52において、ロール軸X方向に0.5mmピッチで、曲率半径を求める。具体的には、図9に示すように、ロール軸X方向に0.5mmピッチで、稜部領域RA52の表面上の点P1〜Pn(nは自然数)を特定する。
【0038】
点Pt(tはnよりも小さい自然数)での曲率半径Rtを以下のとおり求める。点Ptと隣り合う2点(点Pt−1及び点Pt+1)を特定する。次に、特定された3点(点Pt−1、点Pt及び点Pt+1)を通る円CRtを求める。求めた円CRtの半径を、点Ptでの曲率半径Rtと定義する。
【0039】
稜部領域RA52において、各点P1〜Pnでの曲率半径R1〜Rn(mm)は、以下の式(1)及び式(2)を満たす。
2.5≦(R1+R2+…+Rn)/n≦3.0 (1)
Rmax−Rmin≦1.0 (2)
ここで、Rmaxは測定された曲率半径の最大値であり、Rminは測定された曲率半径の最小値である。
【0040】
要するに、稜部領域RA52でロール軸X方向に0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均は、2.5〜3.0mmであり、かつ、測定された曲率半径の最大値と最小値との差分は1.0mm以下である。
【0041】
式(1)及び式(2)を満たすことにより、特に、30.0〜100.0mmの外径と、2.0〜3.0mmの肉厚とを有する薄肉の鋼管を圧延するときに、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる。その理由は定かではないが、以下の理由が推定される。
【0042】
F1=(R1+R2+…+Rn)/nと定義した場合、F1値が3.0mmを超えると、圧延中の鋼管のうち、溝20の縁近傍に接触する部分(メタル部分)は、稜部52で拘束されず、ロール軸X方向に流動しやすくなる。そのため、噛み出し疵が発生しやすくなる。
【0043】
一方、F1値が2.5mm未満である場合、溝20の縁近傍に接触するメタル部分は、稜部52で過剰に拘束される。そのため、メタル部分が稜部52にえぐられ、エッジ疵が発生しやすくなる。
【0044】
F2=Rmax−Rminと定義した場合、F2値が1.0mmを超えると、噛み出し疵及びエッジ疵が発生する。その理由は定かではないが、以下の理由が推定される。薄肉の鋼管を絞り圧延する場合、溝20の縁近傍に接触するメタル部分の流動は大きい。F2値が1.0mmを超える場合、稜部52の表面に微小ではあるが凹凸が存在する。そのため、F2値が1.0mm未満の場合と比較して、メタル部分が凹凸により不均一に流動しやすくなる。不均一な流動により、鋼管のメタル部分は不均一に変形し、その結果、噛み出し疵やエッジ疵が発生しやすいと推定される。
【0045】
上述の各点P1〜Pnの曲率半径は、たとえば、以下のように測定する。稜部52を旋盤機60により切削した後、図10に示すとおり、稜部52の任意の箇所に常温硬化樹脂70を接触させて硬化させ、稜部52の形状を型取りする。次に、三次元形状測定機を用いて、硬化した常温硬化樹脂70の表面形状を測定する。具体的には、図11を参照して、ロール軸を含みロール径方向に延びる面で切断したときの常温硬化樹脂70の断面形状を測定する。図11の断面のうち、稜部52が型取りされた領域RA72は、稜部52と同じ形状を有する。そのため、領域72の形状を測定することにより、稜部52の形状を求めることができる。求められた稜部52の形状に基づいて、上述のとおり、ロール軸X方向に0.5mmピッチで曲率半径Rnを求める。なお、形状の測定は、3次元形状測定機以外の他の測定方法により測定されてもよい。
【0046】
旋盤機60を用いて稜部52を切削した後、上述の方法により曲率半径Rnを求める。そして、求めた曲率半径Rnに基づいて、稜部52が式(1)及び式(2)を満たすか否か判断する。式(1)又は式(2)を満たさない場合、Rバイトを調整して、再び稜部52を切削する。
【0047】
以上の工程を必要に応じて繰り返し、式(1)及び式(2)を満たすロール11を製造する。
【0048】
上述の製造方法により製造されたロール11を、絞り圧延機1に取り付け、絞り圧延を実施する。この場合、特に薄肉の鋼管の噛み出し疵やエッジ疵の発生が抑制される。
【0049】
好ましくは、上記方法により製造されたロール11は、外径加工度が5.7〜6.3%のスタンドSTiに取り付ける。ここでいう外径加工度とは、式(3)で定義される。
外径加工度(%)={(スタンドSTi−1の孔型の断面積)−(スタンドSTiの孔型の断面積)}/(スタンドSTi−1の孔型の断面積)×100 (3)
この場合、噛み出し疵及びエッジ疵の発生が、有効に抑制される。
【0050】
本実施の形態による絞り圧延用ロール11は、特に、30.0〜100.0mmの外径と、2.0〜3.0mmの肉厚とを有する薄肉の鋼管を製造する場合に適する。しかしながら、ロール11は、上述の外径寸法及び肉厚寸法以外の鋼管を製造する場合であっても、噛み出し及びエッジ疵の発生をある程度抑制できる。
【0051】
ロール11は、複数のスタンドST1〜STmのうち、少なくとも1つのスタンドSTiに適用されれば、上記効果がある程度得られる。ロール11は、式(3)で定義される外径加工度が上述の範囲内のスタンドSTiに適用されれば、顕著な効果を発揮する。
【0052】
上述の実施の形態では、溝20の横断形状は、半径Ra1の円弧である。しかしながら、溝20の形状は、これに限定されない。たとえば、溝20の横断形状は、溝底部分で半径Ra1の円弧であり、かつ、溝縁部分で半径Ra2(Ra2>Ra1)の弓状であってもよい。また、溝縁部分が直線状であってもよい。溝20の横断形状は、弓状であれば足りる。
【0053】
上述の実施の形態では、旋盤機60及びRバイト607により稜部52の切削を行ったが、他の周知の方法により稜部52を切削してもよい。
【0054】
また、上述の実施の形態では、旋盤機60の制御装置605により、溝20及び稜部52の切削を連続的に実施してもよい。
【0055】
さらに、制御装置605を利用せずに、作業者がRバイト607の設置位置を調整し、稜部52を切削してもよい。
【実施例】
【0056】
異なる形状の稜部を有する複数のロールを準備した。そして、各ロールを利用して絞り圧延したときの噛み出し疵及びエッジ疵の発生率を調査した。
【0057】
[調査方法]
26個のスタンドを備えるストレッチレデューサ(3ロール式)を用いた。また、図12に示すAセット〜Cセットのロールを準備した。
【0058】
各セット(Aセット〜Cセット)のロールに対して、稜部形状を測定した。各セットは、3個のロール11を有した。各セットにおいて、ロール11の稜部52の任意の1箇所を常温硬化樹脂(テクノビット)を用いて型取りした。型取りされた常温硬化樹脂を利用して、上述の方法により、稜部領域RA52の曲率半径を0.5mmピッチで求めた。
【0059】
図12は、上記型取りにより得られた、各セットの稜部52の形状及び曲率半径を示す。図12を参照して、表中の「R形状」欄には、Aセット〜Cセットの稜部形状をグラフで示す。各グラフの縦軸(Y座標)は、ロールの径方向の距離を示す。グラフの横軸(X座標)は、ロール軸X方向の距離を示す。図中の点線は、曲率半径が2.5mmの場合の稜部形状を示す。図中の実線は、各セットのロール11の実際の形状を示す。
【0060】
図12の表中の「曲率半径」欄には、「R形状」欄で示された稜部形状のロール軸X方向に0.5mmピッチで求めた曲率半径をグラフで示す。各グラフの縦軸は、曲率半径(mm)を示す。横軸(X座標)は、ロール軸X方向の座標を示す。具体的には、横軸の「T52」は、稜部52の頂上T52の位置を示す。「T52−1.5mm」は、頂上T52から図中左側(カリバ部側)に1.5mm移動した位置を示し、「T52+1.5mm」は、頂上T52から図中右側(フランジ部側)に1.5mm移動した位置を示す。要するに、「T52−1.5mm」と「T52+1.5mm」との間の範囲は、稜部領域RA52を示す。
【0061】
各セットにおいて、測定された曲率半径に基づいて、F1値及びF2値を求めた。求めた結果を表1に示す。
【表1】
【0062】
表1を参照して、Bセットは、式(1)及び式(2)を満たした。一方、AセットのF1値は、3.0mmを超え、F2値が1.0mmを超えた。つまり、Aセットは式(1)及び式(2)を満たさなかった。Cセットは、F1値が3.0mmを超え、かつ、F2値が1.0mmを超えた。したがって、Cセットも式(1)及び式(2)のいずれも満たさなかった。
【0063】
Aセットのロールを3番スタンドに取り付けた。そして、Aセットのロールを取り付けたストレッチレデューサを利用して、JIS規格のXSTCに相当する材質の鋼管20本を熱間で絞り圧延して、外径31.8mm、肉厚2.5mmの薄肉の鋼管を製造した。このとき、絞り圧延全体での外径加工度は、71%であった。
ここでいう、絞り圧延全体での外径加工度は、以下の式(4)で求めた。
全体での外径加工度={(絞り圧延前の鋼管の外径)−(絞り圧延後の鋼管の外径)}/(絞り圧延前の鋼管の外径)×100 (4)
【0064】
圧延中、3番スタンドから出た熱間の鋼管を目視観察し、鋼管に噛み出し疵又はエッジ疵が発生しているか否かを判断した。そして、式(5)に基づいて、疵発生率(%)を求めた。
疵発生率(%)=(噛み出し疵又はエッジ疵が確認された鋼管本数/絞り圧延した鋼管の総本数)×100(%) (5)
【0065】
Aセットでの絞り圧延を終了した後、3番スタンドのロールをAセットからBセットに取り替えた。他のスタンドのロールは取り替えなかった。Bセットのロールを3番スタンドに取り付けた後、Aセットの場合と同様に、鋼管20本に対して絞り圧延を実施した。このとき、鋼管の材質、絞り圧延全体での外径加工度は、Aセットの場合と同じであった。
【0066】
Aセットの場合と同様に、3番スタンドから出た熱間の鋼管を目視観察し、鋼管に噛み出し疵又はエッジ疵が発生しているか否かを判断した。そして、式(5)に基づいて、疵発生率(%)を求めた。
【0067】
Bセットでの絞り圧延を終了した後、3番スタンドのロールをBセットからCセットに取り替えた。そして、Aセット、Bセットと同じ条件で圧延を実施し、式(5)に基づいて、疵発生率を求めた。
【0068】
[調査結果]
表1に調査結果を示す。表1を参照して、BセットのロールのF1値は式(1)を満たし、かつ、F2値は式(2)を満たした。そのため、Bセットのロールを使用した絞り圧延では、疵発生率が0%であった。
【0069】
一方、Cセットのロールは、式(1)及び式(2)を満たさなかった。そのため、疵発生率が高く、30.0%であった。また、Aセットのロールは、式(1)及び式(2)を満たさなかった。そのため、疵発生率は、20.0%であった。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 絞り圧延機
11 絞り圧延用ロール
20 溝
50 カリバ部
51 フランジ部
52 稜部
60 旋盤機
70 常温硬化樹脂
606 バイト
607 Rバイト
RA パスライン
RA52 稜部領域
T52 山頂
【技術分野】
【0001】
この発明は、絞り圧延用ロールの製造方法及び絞り圧延用ロールに関し、さらに詳しくは、鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられる絞り圧延用ロールの製造方法及び絞り圧延用ロールに関する。
【背景技術】
【0002】
サイザやストレッチデューサに代表される絞り圧延機は、鋼管を所定の外径寸法に絞り圧延する。絞り圧延機としては、主として、3ロール式絞り圧延機が知られている。3ロール式絞り圧延機は、たとえば、国際公開第2005/070574号(特許文献1)及び国際公開第2005/092531号(特許文献2)に記載されている。
【0003】
絞り圧延機は、通常、パスラインに沿って配列された複数のスタンドを備える。各スタンドは、孔型(カリバ)を形成する溝を有する複数の絞り圧延用ロールを含む。3ロール式絞り圧延機では、各スタンドの3個のロールがパスライン周りに等間隔に配置され、かつ、前段のスタンドに含まれる3個のロールからパスライン周りに60°ずれて配置される。
【0004】
一般的に、絞り圧延機の各スタンドに含まれるロールは、横断面(パスラインと垂直な方向の断面、つまり、ロール軸を含む断面)で楕円弧状の溝を有する。このようなロールを利用することにより、1スタンド当たりの圧下率をある程度大きくすることができる。
【0005】
しかしながら、圧延中の鋼管の表層部分がロールの溝からはみ出て、いわゆる噛み出し疵が発生する場合がある。さらに、絞り圧延される鋼管のうち、溝の縁近傍に接触する鋼管部分に作用する負荷が増大すれば、当該鋼管部分にエッジ疵が発生しやすくなる。具体的には、鋼管の長手方向に線状の疵が発生しやすくなる。
【0006】
このような、噛み出し疵やエッジ疵を防止する技術が、特開平11−197714号公報(特許文献3)及び特開平11−57816号公報(特許文献4)に提案されている。
【0007】
特許文献3及び特許文献4では、絞り圧延機に利用されるカリバロールにおいて、カリバとフランジとを境とする稜部に丸みを持たせる。そのため、絞り圧延中の鋼管のフランジ側での噛み出しが緩和されると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/070574号
【特許文献2】国際公開第2005/092531号
【特許文献3】特開平11−197714号公報
【特許文献4】特開平11−57816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3及び4に記載されているように、ロールの稜部に単に丸みを持たせるだけでは、噛み出し疵やエッジ疵の発生は抑制されない。
【0010】
本発明の目的は、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる絞り圧延用ロールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施の形態による絞り圧延用ロールの製造方法は、鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられ、横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、前記カリバ部に隣接するフランジ部とを備える絞り圧延用ロールの製造方法である。絞り圧延用ロールの製造方法は、絞り圧延用ロールを準備する工程と、絞り圧延用ロールをロール軸まわりに回転し、カリバ部とフランジ部との隣接部分に形成される稜部を切削して稜部に丸みをもたせる工程とを備え、稜部に丸みを持たせる工程では、稜部の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲の稜部領域において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均を2.5mm〜3.0mmとし、かつ、曲率半径の最大値と最小値との差分を1.0mm以下にする。
【0012】
本実施の形態による絞り圧延用ロールの製造方法では、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる絞り圧延用ロールを製造できる。
【0013】
本実施の形態による絞り圧延用ロールは、鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられる。絞り圧延用ロールは、横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、カリバ部に隣接するフランジ部とを備える。カリバ部とフランジ部との隣接部分に形成される稜部の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均は2.5mm〜3.0mmであり、かつ、曲率半径の最大値と最小値との差分は1.0mm以下である。
【0014】
本実施の形態による絞り圧延用ロールは、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、3ロール式絞り圧延機の側面図である。
【図2】図2は、図1中のスタンドの正面図である。
【図3】図3は、図2に示すスタンドの前段のスタンドの正面図である。
【図4】図4は、図1に示す3ロール式絞り圧延機を用いた鋼管の絞り圧延の模式図である。
【図5】図5は、図1中の絞り圧延用ロールの正面図である。
【図6】図6は、図5中の絞り圧延用ロールの稜部近傍の拡大図である。
【図7】図7は、図5に示す絞り圧延用ロールの製造に利用される旋盤機の模式図である。
【図8】図8は、図7に示す旋盤機により切削される絞り圧延用ロールの稜部近傍の拡大図である。
【図9】図9は、図8に示す稜部の曲率半径の測定方法を説明するための模式図である。
【図10】図10は、図8に示す稜部の曲率半径の測定方法の一例を示す図である。
【図11】図11は、図10中の常温硬化樹脂の断面図である。
【図12】図12は、実施例で用いられるロールの形状及び曲率半径の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて詳しく説明する。図中同一又は相当する部分には、同一符号を付してその説明を援用する。
【0017】
[絞り圧延機の構成]
図1は、本実施の形態による絞り圧延機1の側面図である。絞り圧延機1は、3ロール式である。図1を参照して、絞り圧延機1は、パスラインRAに沿って配列された複数のスタンドST1〜STm(mは自然数)を備える。絞り圧延機1はたとえば、ストレッチレデューサであり、スタンド数mは20〜30程度である。
【0018】
図2は、図1に示す絞り圧延機1のスタンドSTi(iはm以下の自然数)の正面図であり、図3は、スタンドSTi−1の正面図である。
【0019】
図2を参照して、各スタンドSTiは、3個の絞り圧延用ロール(以下、単にロールという)11を含む。3個のロール11は、パスラインRA周りに互いに等間隔に配置される。したがって、3個のロール11は、パスラインRA周りに120°おきに配置される。ロール11は、横断面(ロール軸方向の断面)が弓状をなす溝20を有する。3つのロール11の溝20は、孔型PAを形成する。
【0020】
図2及び図3に示すとおり、スタンドSTiに含まれる3個のロール11は、前段のスタンドSTi-1に含まれる3個のロール11からパスラインRA周りに60°ずれて配置される。
【0021】
各スタンドSTiの3個のロールは、図示しないベベルギアにより互いに接続される。3個のロール11のうちの1つが、図示しないモータにより回転することにより、全てのロール11が回転する。
【0022】
各スタンドSTiの3個のロール11により形成される孔型PAの断面積は、後段のスタンドのものほど小さくなる。したがって、スタンドST1で形成される孔型PAの断面積が最も大きく、最後尾のスタンドSTmで形成される孔型PAの断面積が最も小さい。図4に示すとおり、鋼管は、パスラインRAに沿ってスタンドST1からスタンドSTmまでを通って絞り圧延され、所定の外径及び肉厚を有する鋼管となる。
【0023】
スタンドSTiに含まれるロール11は、図5に示す形状を有する。図5を参照して、ロール11は、カリバ部50と、一対のフランジ部51とを備える。カリバ部50は円柱状であり、横断面で弓状をなす溝20を表面に有する。フランジ部51は、円板状であり、カリバ部50と同軸に配置される。フランジ部51は、カリバ部50から離れるにしたがって幅が小さくなる、円錐台状である。カリバ部50とフランジ部51とは、一体的に形成される。
【0024】
上述のとおり、溝20の横断形状、つまり、ロール11のロール軸X方向の断面における溝20の形状は弓状である。本例では、溝20は、半径Ra1の円弧である。溝20の溝底(溝20のロール軸方向の中央)GBとパスラインRAとを結ぶ線分DBは、半径Ra1よりも短い。したがって、溝20の横断形状は、線分DBを短半軸とする楕円弧状である。溝20の横断形状が楕円弧状であるため、1スタンド当たりの圧下率をある程度大きくすることができる。
【0025】
カリバ部50とフランジ部51との隣接部分には、稜部52が形成される。図6は、図5に示す稜部52近傍部分の拡大図である。図6を参照して、稜部52は、ロール11の円周方向に延びる。そして、稜部52は丸みを帯びている。
【0026】
上述の絞り圧延機1は、絞り圧延により薄肉の鋼管を製造する。薄肉の鋼管の肉厚はたとえば、2.0〜3.0mmであり、外径はたとえば、30.0〜100.0mmである。このような薄肉の鋼管を製造する場合、噛み出し疵やエッジ疵が発生しやすい。ここでいうエッジ疵とは、鋼管の表層部分がロールの稜部によりえぐられ、その結果、鋼管の表面に長手方向に沿って形成される線状の疵を意味する。薄肉の鋼管で噛み出し疵やエッジ疵が発生しやすいのは、肉厚が薄いため、圧延中の鋼管のうち溝20の縁近傍部分に接触する部分(以下、メタル部分という)がロール軸X方向に流動しやすいためと推定される。
【0027】
以下の製造方法に基づいてロール11を製造することにより、特に薄肉の鋼管を製造する場合に噛み出し疵やエッジ疵の発生が抑制される。以下、ロール11の製造方法について詳述する。
【0028】
[製造方法]
ロール11は、周知の方法で作製する。具体的には、準備されたロール11を周知の旋盤機に配置する。図7は、旋盤機60の模式図である。図7を参照して、旋盤機60は、ベッド601と、主軸台602と、往復台603と、心押台604と、制御装置605とを備える。
【0029】
主軸台602及び心押台604は、図示しないチャックを備える。主軸台602及び心押台604のチャックにより、ロール11が旋盤機60に回転可能に取り付けられる。
【0030】
主軸台602はさらに、図示しないモータを備える。モータにより、ロール11がロール軸回りを回転する。
【0031】
往復台603は、ベッド601上に配置される。往復台603は、図示しないモータにより、ロール軸方向に移動できる。往復台603はバイト606を備える。バイト606は、図示しないサーボモータにより、ロール軸と垂直な方向(ロール11の径方向)に移動できる。
【0032】
制御装置605は、ロール11の回転速度を制御する。制御装置605はさらに、往復台603のロール軸方向への移動と、バイト606のロール11の径方向への移動とを制御する。制御装置605は、溝20及び稜部52の形状データを記憶する記憶装置を備えてもよい。この場合、制御装置605は、形状データに基づいて、往復台603及びバイト606の移動を制御する。
【0033】
ロール11を旋盤機60に取り付けた後、旋盤により溝20を形成する。
【0034】
次に、稜部52を切削する。具体的には、バイト606に変えて、刃先が凹状であり、所定の曲率を有するRバイト607を往復台603に取り付ける。ロール11を回転しながら、Rバイト607を稜部52に接触させ、稜部52をR面取りする。このとき、稜部52の曲率半径が、以下の条件を満たすように、稜部52を切削する。
【0035】
図8に稜部52の拡大図を示す。図8を参照して、稜部52は、ロール径方向Yに凸の形状を有し、丸みを帯びている。
【0036】
稜部52のうち、Y方向への高さが最も高い地点を頂上T52と定義する。稜部52のうち、頂上T52を中心とした、X軸方向に3.0mmの範囲の領域RA52を特定する。以下、この領域を「稜部領域」RA52と定義する。稜部領域RA52は、頂上T52から図中左側(カリバ部側)に1.5mmの範囲と、頂上T52から右側(フランジ部側)に1.5mmの範囲とを含む。
【0037】
特定された稜部領域RA52において、ロール軸X方向に0.5mmピッチで、曲率半径を求める。具体的には、図9に示すように、ロール軸X方向に0.5mmピッチで、稜部領域RA52の表面上の点P1〜Pn(nは自然数)を特定する。
【0038】
点Pt(tはnよりも小さい自然数)での曲率半径Rtを以下のとおり求める。点Ptと隣り合う2点(点Pt−1及び点Pt+1)を特定する。次に、特定された3点(点Pt−1、点Pt及び点Pt+1)を通る円CRtを求める。求めた円CRtの半径を、点Ptでの曲率半径Rtと定義する。
【0039】
稜部領域RA52において、各点P1〜Pnでの曲率半径R1〜Rn(mm)は、以下の式(1)及び式(2)を満たす。
2.5≦(R1+R2+…+Rn)/n≦3.0 (1)
Rmax−Rmin≦1.0 (2)
ここで、Rmaxは測定された曲率半径の最大値であり、Rminは測定された曲率半径の最小値である。
【0040】
要するに、稜部領域RA52でロール軸X方向に0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均は、2.5〜3.0mmであり、かつ、測定された曲率半径の最大値と最小値との差分は1.0mm以下である。
【0041】
式(1)及び式(2)を満たすことにより、特に、30.0〜100.0mmの外径と、2.0〜3.0mmの肉厚とを有する薄肉の鋼管を圧延するときに、噛み出し疵やエッジ疵の発生を抑制できる。その理由は定かではないが、以下の理由が推定される。
【0042】
F1=(R1+R2+…+Rn)/nと定義した場合、F1値が3.0mmを超えると、圧延中の鋼管のうち、溝20の縁近傍に接触する部分(メタル部分)は、稜部52で拘束されず、ロール軸X方向に流動しやすくなる。そのため、噛み出し疵が発生しやすくなる。
【0043】
一方、F1値が2.5mm未満である場合、溝20の縁近傍に接触するメタル部分は、稜部52で過剰に拘束される。そのため、メタル部分が稜部52にえぐられ、エッジ疵が発生しやすくなる。
【0044】
F2=Rmax−Rminと定義した場合、F2値が1.0mmを超えると、噛み出し疵及びエッジ疵が発生する。その理由は定かではないが、以下の理由が推定される。薄肉の鋼管を絞り圧延する場合、溝20の縁近傍に接触するメタル部分の流動は大きい。F2値が1.0mmを超える場合、稜部52の表面に微小ではあるが凹凸が存在する。そのため、F2値が1.0mm未満の場合と比較して、メタル部分が凹凸により不均一に流動しやすくなる。不均一な流動により、鋼管のメタル部分は不均一に変形し、その結果、噛み出し疵やエッジ疵が発生しやすいと推定される。
【0045】
上述の各点P1〜Pnの曲率半径は、たとえば、以下のように測定する。稜部52を旋盤機60により切削した後、図10に示すとおり、稜部52の任意の箇所に常温硬化樹脂70を接触させて硬化させ、稜部52の形状を型取りする。次に、三次元形状測定機を用いて、硬化した常温硬化樹脂70の表面形状を測定する。具体的には、図11を参照して、ロール軸を含みロール径方向に延びる面で切断したときの常温硬化樹脂70の断面形状を測定する。図11の断面のうち、稜部52が型取りされた領域RA72は、稜部52と同じ形状を有する。そのため、領域72の形状を測定することにより、稜部52の形状を求めることができる。求められた稜部52の形状に基づいて、上述のとおり、ロール軸X方向に0.5mmピッチで曲率半径Rnを求める。なお、形状の測定は、3次元形状測定機以外の他の測定方法により測定されてもよい。
【0046】
旋盤機60を用いて稜部52を切削した後、上述の方法により曲率半径Rnを求める。そして、求めた曲率半径Rnに基づいて、稜部52が式(1)及び式(2)を満たすか否か判断する。式(1)又は式(2)を満たさない場合、Rバイトを調整して、再び稜部52を切削する。
【0047】
以上の工程を必要に応じて繰り返し、式(1)及び式(2)を満たすロール11を製造する。
【0048】
上述の製造方法により製造されたロール11を、絞り圧延機1に取り付け、絞り圧延を実施する。この場合、特に薄肉の鋼管の噛み出し疵やエッジ疵の発生が抑制される。
【0049】
好ましくは、上記方法により製造されたロール11は、外径加工度が5.7〜6.3%のスタンドSTiに取り付ける。ここでいう外径加工度とは、式(3)で定義される。
外径加工度(%)={(スタンドSTi−1の孔型の断面積)−(スタンドSTiの孔型の断面積)}/(スタンドSTi−1の孔型の断面積)×100 (3)
この場合、噛み出し疵及びエッジ疵の発生が、有効に抑制される。
【0050】
本実施の形態による絞り圧延用ロール11は、特に、30.0〜100.0mmの外径と、2.0〜3.0mmの肉厚とを有する薄肉の鋼管を製造する場合に適する。しかしながら、ロール11は、上述の外径寸法及び肉厚寸法以外の鋼管を製造する場合であっても、噛み出し及びエッジ疵の発生をある程度抑制できる。
【0051】
ロール11は、複数のスタンドST1〜STmのうち、少なくとも1つのスタンドSTiに適用されれば、上記効果がある程度得られる。ロール11は、式(3)で定義される外径加工度が上述の範囲内のスタンドSTiに適用されれば、顕著な効果を発揮する。
【0052】
上述の実施の形態では、溝20の横断形状は、半径Ra1の円弧である。しかしながら、溝20の形状は、これに限定されない。たとえば、溝20の横断形状は、溝底部分で半径Ra1の円弧であり、かつ、溝縁部分で半径Ra2(Ra2>Ra1)の弓状であってもよい。また、溝縁部分が直線状であってもよい。溝20の横断形状は、弓状であれば足りる。
【0053】
上述の実施の形態では、旋盤機60及びRバイト607により稜部52の切削を行ったが、他の周知の方法により稜部52を切削してもよい。
【0054】
また、上述の実施の形態では、旋盤機60の制御装置605により、溝20及び稜部52の切削を連続的に実施してもよい。
【0055】
さらに、制御装置605を利用せずに、作業者がRバイト607の設置位置を調整し、稜部52を切削してもよい。
【実施例】
【0056】
異なる形状の稜部を有する複数のロールを準備した。そして、各ロールを利用して絞り圧延したときの噛み出し疵及びエッジ疵の発生率を調査した。
【0057】
[調査方法]
26個のスタンドを備えるストレッチレデューサ(3ロール式)を用いた。また、図12に示すAセット〜Cセットのロールを準備した。
【0058】
各セット(Aセット〜Cセット)のロールに対して、稜部形状を測定した。各セットは、3個のロール11を有した。各セットにおいて、ロール11の稜部52の任意の1箇所を常温硬化樹脂(テクノビット)を用いて型取りした。型取りされた常温硬化樹脂を利用して、上述の方法により、稜部領域RA52の曲率半径を0.5mmピッチで求めた。
【0059】
図12は、上記型取りにより得られた、各セットの稜部52の形状及び曲率半径を示す。図12を参照して、表中の「R形状」欄には、Aセット〜Cセットの稜部形状をグラフで示す。各グラフの縦軸(Y座標)は、ロールの径方向の距離を示す。グラフの横軸(X座標)は、ロール軸X方向の距離を示す。図中の点線は、曲率半径が2.5mmの場合の稜部形状を示す。図中の実線は、各セットのロール11の実際の形状を示す。
【0060】
図12の表中の「曲率半径」欄には、「R形状」欄で示された稜部形状のロール軸X方向に0.5mmピッチで求めた曲率半径をグラフで示す。各グラフの縦軸は、曲率半径(mm)を示す。横軸(X座標)は、ロール軸X方向の座標を示す。具体的には、横軸の「T52」は、稜部52の頂上T52の位置を示す。「T52−1.5mm」は、頂上T52から図中左側(カリバ部側)に1.5mm移動した位置を示し、「T52+1.5mm」は、頂上T52から図中右側(フランジ部側)に1.5mm移動した位置を示す。要するに、「T52−1.5mm」と「T52+1.5mm」との間の範囲は、稜部領域RA52を示す。
【0061】
各セットにおいて、測定された曲率半径に基づいて、F1値及びF2値を求めた。求めた結果を表1に示す。
【表1】
【0062】
表1を参照して、Bセットは、式(1)及び式(2)を満たした。一方、AセットのF1値は、3.0mmを超え、F2値が1.0mmを超えた。つまり、Aセットは式(1)及び式(2)を満たさなかった。Cセットは、F1値が3.0mmを超え、かつ、F2値が1.0mmを超えた。したがって、Cセットも式(1)及び式(2)のいずれも満たさなかった。
【0063】
Aセットのロールを3番スタンドに取り付けた。そして、Aセットのロールを取り付けたストレッチレデューサを利用して、JIS規格のXSTCに相当する材質の鋼管20本を熱間で絞り圧延して、外径31.8mm、肉厚2.5mmの薄肉の鋼管を製造した。このとき、絞り圧延全体での外径加工度は、71%であった。
ここでいう、絞り圧延全体での外径加工度は、以下の式(4)で求めた。
全体での外径加工度={(絞り圧延前の鋼管の外径)−(絞り圧延後の鋼管の外径)}/(絞り圧延前の鋼管の外径)×100 (4)
【0064】
圧延中、3番スタンドから出た熱間の鋼管を目視観察し、鋼管に噛み出し疵又はエッジ疵が発生しているか否かを判断した。そして、式(5)に基づいて、疵発生率(%)を求めた。
疵発生率(%)=(噛み出し疵又はエッジ疵が確認された鋼管本数/絞り圧延した鋼管の総本数)×100(%) (5)
【0065】
Aセットでの絞り圧延を終了した後、3番スタンドのロールをAセットからBセットに取り替えた。他のスタンドのロールは取り替えなかった。Bセットのロールを3番スタンドに取り付けた後、Aセットの場合と同様に、鋼管20本に対して絞り圧延を実施した。このとき、鋼管の材質、絞り圧延全体での外径加工度は、Aセットの場合と同じであった。
【0066】
Aセットの場合と同様に、3番スタンドから出た熱間の鋼管を目視観察し、鋼管に噛み出し疵又はエッジ疵が発生しているか否かを判断した。そして、式(5)に基づいて、疵発生率(%)を求めた。
【0067】
Bセットでの絞り圧延を終了した後、3番スタンドのロールをBセットからCセットに取り替えた。そして、Aセット、Bセットと同じ条件で圧延を実施し、式(5)に基づいて、疵発生率を求めた。
【0068】
[調査結果]
表1に調査結果を示す。表1を参照して、BセットのロールのF1値は式(1)を満たし、かつ、F2値は式(2)を満たした。そのため、Bセットのロールを使用した絞り圧延では、疵発生率が0%であった。
【0069】
一方、Cセットのロールは、式(1)及び式(2)を満たさなかった。そのため、疵発生率が高く、30.0%であった。また、Aセットのロールは、式(1)及び式(2)を満たさなかった。そのため、疵発生率は、20.0%であった。
【0070】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0071】
1 絞り圧延機
11 絞り圧延用ロール
20 溝
50 カリバ部
51 フランジ部
52 稜部
60 旋盤機
70 常温硬化樹脂
606 バイト
607 Rバイト
RA パスライン
RA52 稜部領域
T52 山頂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられ、横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、前記カリバ部に隣接するフランジ部とを備える絞り圧延用ロールの製造方法であって、
前記絞り圧延用ロールを準備する工程と、
前記絞り圧延用ロールをロール軸まわりに回転し、前記カリバ部と前記フランジ部との隣接部分に形成される稜部を切削して前記稜部に丸みをもたせる工程とを備え、
前記稜部に丸みをもたせる工程では、
前記稜部の頂上を中心とした前記ロール軸方向に3.0mmの範囲の稜部領域において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均を2.5mm〜3.0mmとし、かつ、前記曲率半径の最大値と最小値との差分を1.0mm以下にする、絞り圧延用ロールの製造方法。
【請求項2】
鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられる絞り圧延用ロールであって、
横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、
前記カリバ部に隣接するフランジ部とを備え、
前記カリバ部と前記フランジ部との隣接部分に形成される稜部の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均が2.5mm〜3.0mmであり、かつ、前記曲率半径の最大値と最小値との差分が1.0mm以下である、絞り圧延用ロール。
【請求項1】
鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられ、横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、前記カリバ部に隣接するフランジ部とを備える絞り圧延用ロールの製造方法であって、
前記絞り圧延用ロールを準備する工程と、
前記絞り圧延用ロールをロール軸まわりに回転し、前記カリバ部と前記フランジ部との隣接部分に形成される稜部を切削して前記稜部に丸みをもたせる工程とを備え、
前記稜部に丸みをもたせる工程では、
前記稜部の頂上を中心とした前記ロール軸方向に3.0mmの範囲の稜部領域において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均を2.5mm〜3.0mmとし、かつ、前記曲率半径の最大値と最小値との差分を1.0mm以下にする、絞り圧延用ロールの製造方法。
【請求項2】
鋼管を絞り圧延する3ロール式絞り圧延機に用いられる絞り圧延用ロールであって、
横断面で弓状をなす溝を有するカリバ部と、
前記カリバ部に隣接するフランジ部とを備え、
前記カリバ部と前記フランジ部との隣接部分に形成される稜部の頂上を中心としたロール軸方向に3.0mmの範囲において、0.5mmピッチで測定された曲率半径の平均が2.5mm〜3.0mmであり、かつ、前記曲率半径の最大値と最小値との差分が1.0mm以下である、絞り圧延用ロール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−213786(P2012−213786A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79759(P2011−79759)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第5003833号(P5003833)
【特許公報発行日】平成24年8月15日(2012.8.15)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【特許番号】特許第5003833号(P5003833)
【特許公報発行日】平成24年8月15日(2012.8.15)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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