説明

絞り部材およびレンズ鏡筒

【課題】製造が容易な絞り部材およびレンズ鏡筒を提供する。
【解決手段】カメラのレンズ鏡筒1内には、円環状の絞り部材(開閉環)2が設置されている。絞り部材2の開口21に臨む縁部22は、絞り部材2の一方の面側が湾曲凸面となるように光軸11の方向に湾曲し、開口21の中心部に向って厚さが漸減するエッジ部23を有している。従って、開口21の内径は、図1中、左側から右側に向って、左側端からエッジ部23まで漸減し、エッジ部23で最小となり、エッジ部23から右側端まで漸増する。このような絞り部材2は、ダイスおよびポンチを有する剪断工具により、板材から所望の形状の中間物を打ち抜き、この中間物の縁部22に圧力を加えてその縁部22を湾曲させ、製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、絞り部材およびレンズ鏡筒に関する。
【0002】
【従来の技術】カメラのレンズ鏡筒内等に設置される絞り部材(開口絞り)が知られている。このような絞り部材は、全体形状が円環状であり、通常、板材から目的形状を打ち抜いて製造される。
【0003】図6は、従来の絞り部材を示す断面図である。図6の左側に示すように、板材から円環状の絞り部材200を打ち抜いたままでは、絞り部材200の開口210に臨む縁部220が板厚分の平面230を持つため、この平面230において入射光が反射し、その反射光が写真フィルムに到達して、像性能を悪化させてしまうことがある。このため、従来では、板材から絞り部材200を打ち抜いた後、図6の右側に示すように、縁部220をテーパ状に研削して、縁部220からの反射光が写真フィルムへ到達するのを防止している。
【0004】しかしながら、従来の絞り部材200では、その製造時において、打ち抜き工程の後、縁部220を研削する工程が必要となり、作業性が劣り、生産性も低いため、量産にも不利である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、製造が容易な絞り部材およびレンズ鏡筒を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
【0007】(1) 光学系の光軸上に設置され、開口を有する絞り部材であって、前記開口に臨む縁部が前記光軸方向に湾曲し、これにより前記開口の中心部に向って厚さが漸減するエッジ部を形成したことを特徴とする絞り部材。
【0008】(2) 前記絞り部材は、剪断加工により板材から所定形状に打ち抜き、所定の圧力を加えて前記湾曲した縁部を形成したものである上記(1)に記載の絞り部材。
【0009】(3) 前記開口の形状は、ほぼ円形である上記(1)または(2)に記載の絞り部材。
【0010】(4) 前記開口の形状は、矩形である上記(1)または(2)に記載の絞り部材。
【0011】(5) 前記エッジ部は、絞り部材の厚さ方向のほぼ中央に位置している上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の絞り部材。
【0012】(6) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の絞り部材を少なくとも一つ有することを特徴とするレンズ鏡筒。
【0013】(7) 上記(1)ないし(5)のいずれかに記載され、開口形状の異なる複数の絞り部材を有することを特徴とするレンズ鏡筒。
【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の絞り部材およびレンズ鏡筒を添付図面に示す好適実施例に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の絞り部材をカメラのレンズ鏡筒の各絞り部材に適用したときの実施例を示す断面図、図2は、図1に示す絞り部材2の断面図である。
【0015】これらの図に示すように、カメラのレンズ鏡筒1は、ほぼ円筒状の鏡筒本体3と、この鏡筒本体3内に設置された絞り部材(開閉環)2、絞り部材(支持環)2a、虹彩絞り10、レンズ12、13、14および15とを有している。この場合、前記絞り部材2、2a、レンズ12〜15および後述する絞り部材(遮光絞り)2bにより、被写体像を図示しない写真フィルム(銀塩写真フィルム)に結像させる光学系(撮影光学系)の主要部が構成されている。なお、前記写真フィルムは、図1中、レンズ鏡筒1の右側に配置されている。
【0016】レンズ鏡筒1の鏡筒本体3は、第1の鏡筒本体4と、第2の鏡筒本体5とで構成されている。この場合、第1の鏡筒本体4の内周面の図1中左側端部と、第2の鏡筒本体5の外周面の図1中右側端部には、互いに螺合するネジ41および51が形成されている。
【0017】また、第1の鏡筒本体4の内周面には、レンズ12および13を支持するレンズ支持部42および43が設けられ、第2の鏡筒本体5の内周面には、レンズ14および15を支持するレンズ支持部52および53が設けられている。そして、各レンズ12、13、14および15は、それぞれ、各レンズ支持部42、43、52および53により支持、固定されている。
【0018】さらに、第1の鏡筒本体4の内周面には、段差部44が設けられている。この段差部44には、絞り部材2、虹彩絞り10および絞り部材2aが、図1中右側からこの順序で設置されている。
【0019】図3は、図1に示す絞り部材2、2aおよび虹彩絞り10を示す分解斜視図である。同図に示すように、絞り部材2は、虹彩絞り10を開閉する開閉環を構成するものである。この絞り部材2は、板状の部材であって、その全体形状は、ほぼ円環状をなしている。すなわち、絞り部材2は、中央部にほぼ円形の開口21を有している。なお、絞り部材2は、その開口21の中心がほぼ光学系の光軸11上に位置するように、回転自在に設置されている。
【0020】図1および図2に示すように、このような絞り部材2の開口21に臨む縁部22は、絞り部材2の一方の面側が湾曲凸面となるように光軸11の方向に湾曲し、開口21の中心部に向って厚さが漸減するエッジ部23を有している。このエッジ部23は、絞り部材2の厚さ方向(図2中左右方向)のほぼ中央に位置している。
【0021】すなわち、縁部22は、図2中左側に湾曲面(湾曲凸面)24を有し、図2中右側に光軸11に対して傾斜したほぼ平面状の傾斜面25を有しており、これら湾曲面24と傾斜面25の境界部に、前記エッジ部23が形成されている。従って、開口21の内径(直径)は、図1および図2中、左側から右側に向って、左側端からエッジ部23の先端まで漸減し、エッジ部23の先端で最小となり、エッジ部23の先端から右側端まで漸増する。
【0022】図3に示すように、この絞り部材2には、後述する絞り羽根101のピン102が挿入される湾曲した長穴26が形成されている。この長穴26は、絞り部材2の周方向に、等角度間隔で、6つ形成されている。
【0023】このような絞り部材2は、絞り部材2と所定距離離間して配置された回転環31に連結されている。なお、この回転環31は、図示しないカメラボディーに設けられた各絞り羽根101(虹彩絞り10)を動かすためのレバーに連係して回転する。
【0024】図3に示すように、絞り部材2aは、虹彩絞り10を支持する支持環を構成するものである。この絞り部材2aも、前述した絞り部材2と同様に、ほぼ円環状をなし、開口21の中心がほぼ光学系の光軸11上に位置するように配置されている。絞り部材2aの開口21に臨む縁部22は、前述した絞り部材2の縁部22と同様であるので説明を省略する。
【0025】このような絞り部材2aの図3中右側面には、後述する絞り羽根101のピン103を回転自在に支持する図示しない孔部(支持部)が形成されている。この孔部は、絞り部材2aの周方向に、等角度間隔で、6つ形成されている。
【0026】図3に示すように、虹彩絞り10は、6つの絞り羽根101で構成されている。各絞り羽根101は、それぞれ、全体としてフックのような形状をなす板状の部材である。
【0027】各羽根101には、それぞれ、図3中右側面にピン(ダボ)102が突設され、図3中左側面にピン(ダボ)103が突設されている。そして、各ピン102は、それぞれ対応する長穴26に挿入され、各ピン103は、それぞれ対応する絞り部材2aの孔部に挿入されている。
【0028】図1に示すように、前述した絞り部材2および2aは、互いに、湾曲面24同士が対向するように配置されている。すなわち、絞り部材2および2aは、それぞれ、湾曲面24が虹彩絞り10側に位置するように配置されている。このため、虹彩絞り10を開閉する際、縁部22において、各絞り羽根101の出入りを支障なく行うことができる。
【0029】図1に示すように、さらに、レンズ鏡筒1は、鏡筒本体3の外周側に、ほぼ円環状の固定筒6および調整環8を有している。この場合、調整環8は、固定筒6の内周側に、固定筒6に対して回転自在に設置されている。調整環8の内周面の図1中右側端部と、第1の鏡筒本体4の外周面には、互いに螺合するネジ81および45が形成されている。
【0030】また、第1の鏡筒本体4の図1中右側端部には、ほぼL字状の直進案内板9が固定されている。そして、固定筒6の内周面には、前記直進案内板9が挿入される案内溝61が光軸11に沿って設けられている。
【0031】このような固定筒6の図1中の右側端には、ほぼ円環状のマウント7が接合されている。このマウント7の図1中右側には、図示しないカメラボディー側のマウントのフランジと係合するフランジ71が形成されている。
【0032】また、このマウント7の内周面には、後述する絞り部材2bを支持する段差部72が設けられている。そして、この段差部72には、絞り部材(遮光絞り)2bが支持、固定されている。
【0033】図4は、図1に示す絞り部材2bを示す正面図である。同図に示すように、前記絞り部材2bは、板状の部材であって、その全体形状は、外形がほぼ円形で、内形が矩形(長方形)の環状をなしている。すなわち、絞り部材2bは、中央部に、写真フィルムの形状に対応すべく、矩形の開口21を有している。この絞り部材2bは、その開口21の中心がほぼ光学系の光軸11上に位置するように配置されている。なお、このような絞り部材2bの開口21に臨む縁部22は、前述した絞り部材2の縁部22と同様であるので説明を省略する。
【0034】次に、前述したレンズ鏡筒1の作用を説明する。図1に示すように、手動または図示しない駆動手段により、調整環8が光軸11の回りに回転駆動されると、ネジ45および81の作用により、鏡筒本体3が案内溝61に沿って光軸11の方向に移動する。すなわち、鏡筒本体3、直進案内板9、レンズ12〜15、絞り部材2、2aおよび虹彩絞り10が一体的に光軸11の方向に移動する。
【0035】また、図3に示すように、回転環31が回転駆動されると、開閉環を構成する絞り部材2が回転する。そして、この絞り部材2が回転すると、各ピン102がそれぞれ各長穴26に沿って移動し、これにより各絞り羽根101がそれぞれ各ピン103を中心に回転し、開口104の径(絞り値)が変更される。
【0036】ところで、虹彩絞り10を開放(全開)すると、各絞り羽根101がそれぞれ絞り部材2および2aの縁部22より外周側に退避し、これにより絞りは、絞り部材2および2aの各開口21、すなわち各縁部22で規制される。
【0037】この場合、前述したように絞り部材2および2aでは、縁部22が湾曲し、その内周側先端部がテーパ状になっているので、入射光が縁部22で反射しその反射光が写真フィルムに到達するのを防止することができ、このため写真フィルムに結像する被写体像の像性能が良い。例えば、各縁部22からの反射光の影響によるゴーストやフレアー等を防止することができる。
【0038】また、絞り部材2bでも、前述したように内周側先端部がテーパ状になっているので、その縁部22からの反射光が写真フィルムに到達するのを防止することができる。
【0039】このように、本実施例のレンズ鏡筒1において、絞り部材2および2aと、絞り部材2bでは、開口22の形状が異なっているが、各絞り部材2、2aおよび2bの各縁部22はそれぞれ湾曲し、内周側先端部がテーパ状になっているので、全体として像性能の良いレンズ鏡筒が得られる。
【0040】前述した絞り部材2、2aおよび2bは、それぞれ、下記のように製造される。以下、代表的に、絞り部材2の製造工程を説明する。図5は、湾曲した縁部22を形成する縁部形成手段の構成例を示す断面図である。
【0041】まず、剪断加工、特に、打ち抜き加工により、中間物(打抜体)16を製造する。具体的には、図示しないダイスおよびポンチを有する剪断工具(型)により、板材から所望の形状(円環状)に打ち抜いて、中間物16を得る。
【0042】次いで、図5に示すように、縁部形成手段17を用い、中間物16に圧力を加えて塑性変形させ、湾曲した縁部22を形成する。この縁部形成手段17は、目的形状に対応する溝部181が形成されたダイス18と、この溝部181の形状に対応するポンチ19と、このポンチ19を駆動する図示しない駆動手段とを有している。
【0043】この場合、前記中間物16をダイス18の溝部181に配置し、駆動手段によりポンチ19をダイス18側に駆動する。これにより、中間物16の縁部22は、ポンチ19によってダイス18側に押圧され、湾曲変形する。すなわち、絞り部材2に、その内周側先端部がテーパ状になるよう湾曲した縁部22が形成される。なお、絞り部材2aおよび2bの製造工程も前述した絞り部材2と同様である。
【0044】このように、絞り部材2、2aおよび2bでは、その製造時においてエッジ部を形成するための研削や研磨工程が不要となり、塑性加工だけで製造することができるので、容易かつ低コストで製造することができ(作業性が良く)、生産性に優れ、よって、量産にも有利である。以上、本発明の絞り部材およびレンズ鏡筒を、図示の構成例に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の絞り部材は、塑性加工だけで製造することができる。このため、板材から絞り部材を打ち抜き、その開口に臨む縁部を研削や研磨によりテーパ状にした絞り部材に比べ、製造が容易であり、生産性に優れ、また、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の絞り部材をカメラのレンズ鏡筒の各絞り部材に適用したときの実施例を示す断面図である。
【図2】図1に示す絞り部材の断面図である。
【図3】図1に示す絞り部材および虹彩絞りを示す分解斜視図である。
【図4】図1に示す絞り部材を示す正面図である。
【図5】湾曲した縁部を形成する縁部形成手段の構成例を示す断面図である。
【図6】従来の絞り部材を示す断面図である。
【符号の説明】
1 レンズ鏡筒
2 絞り部材(開閉環)
2a 絞り部材(支持環)
2b 絞り部材(遮光絞り)
21 開口
22 縁部
23 エッジ部
24 湾曲面(湾曲凸面)
25 傾斜面
26 長穴
3 鏡筒本体
4 第1の鏡筒本体
41 ネジ
42、43 レンズ支持部
44 段差部
45 ネジ
5 第2の鏡筒本体
51 ネジ
52、53 レンズ支持部
6 固定筒
61 案内溝
7 マウント
71 フランジ
72 段差部
8 調整環
81 ネジ
9 直進案内板
10 虹彩絞り
101 絞り羽根
102、103 ピン(ダボ)
104 開口
11 光軸
12〜15 レンズ
16 中間物(打抜体)
17 縁部形成手段
18 ダイス
181 溝部
19 ポンチ
31 回転環
200 絞り部材
210 開口
220 縁部
230 平面

【特許請求の範囲】
【請求項1】 光学系の光軸上に設置され、開口を有する絞り部材であって、前記開口に臨む縁部が前記光軸方向に湾曲し、これにより前記開口の中心部に向って厚さが漸減するエッジ部を形成したことを特徴とする絞り部材。
【請求項2】 前記絞り部材は、剪断加工により板材から所定形状に打ち抜き、所定の圧力を加えて前記湾曲した縁部を形成したものである請求項1に記載の絞り部材。
【請求項3】 前記開口の形状は、ほぼ円形である請求項1または2に記載の絞り部材。
【請求項4】 前記開口の形状は、矩形である請求項1または2に記載の絞り部材。
【請求項5】 前記エッジ部は、絞り部材の厚さ方向のほぼ中央に位置している請求項1ないし4のいずれかに記載の絞り部材。
【請求項6】 請求項1ないし5のいずれかに記載の絞り部材を少なくとも一つ有することを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項7】 請求項1ないし5のいずれかに記載され、開口形状の異なる複数の絞り部材を有することを特徴とするレンズ鏡筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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