説明

給排水移送管

【目的】耐候性に優れたポリエチレン給排水移送管の提供。
【構成】 ポリエチレン(A)に、エチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるメルトフローレートが0.1〜200g/10分のエチレン系共重合体(B)を該ビニル化合物単位で0.05〜5重量%となるように配合した樹脂組成物を材料として、給排水移送管を成形する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、上水、下水等に使用可能な耐候性に優れた給排水移送管に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、ポリエチレン管は安価で加工性、強度に優れることから給排水移送管として使用されていたが、これら給排水移送管は屋外での使用が多く、施工前に屋外保管されることも多いため紫外線によって管全体もしくは管端面の光劣化が起こるため耐候性が必要であった。
【0003】この耐候性を付与する方法としては、ポリエチレンにカーボンブッラックを添加する方法と光安定剤や紫外線吸収剤を練り込み添加する方法が一般的であるが、カーボンブッラック添加の場合は自然色もしくは黒色以外に着色することが困難であり、また上水道給水管として使用した場合は、殺菌用塩素による内面剥離が促進される問題もある。また光安定剤や紫外線吸収剤を添加する場合はこれらの添加剤が比較的低分子量物であるため、揮発したり、流水により洗い流されたりして消失してしまうため、長期に渡り耐候性を保持することができないばかりでなく水質上も好ましくないものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、カーボンブッラックを添加しなくても長期に渡り耐候性を保持することが可能な給排水移送管を得ることを目的とし、ポリエチレンに特定の共重合体を配合することにより、従来の問題点を解決しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上述の問題点に鑑み種々検討した結果、ポリエチレンに特定のヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体を配合することにより目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成したものである。即ち、本発明によれば、ポリエチレン(A)にエチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるメルトフローレートが0.1〜200g/10分のエチレン系共重合体(B)を該ビニル化合物単位で0.05〜5重量%となるように配合した樹脂組成物を成形してなる給排水移送管が提供される。
【0006】
【発明の具体的な説明】本発明の組成物の(A)成分であるポリエチレンとは、イオン重合触媒で得られる高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、また、ラジカル重合触媒で得られる高圧法低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体である。
【0007】イオン重合触媒で得られる高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレンとは、チーグラー型触媒、フィリップス型触媒、バナジウム型触媒、カミンスキー型触媒等のイオン重合触媒の存在下、気相流動床法、溶液法、スラリー法あるいは、圧力200kg/cm2 以上、温度150℃以上の高圧重合法等の製造プロセスを適用して、エチレンを重合する。もしくは、エチレンとα−オレフィンを共重合することで得られるものである。
【0008】エチレンと共重合する場合のα−オレフィンとしては、炭素数3〜12個の1−オレフィンであり、例えば、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等であり、好ましくは、ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1等が挙げられる。また、この場合のα−オレフィンとしては、1種類に限らず、2種類以上用いた多元系共重合体であってもよい。
【0009】ラジカル重合触媒で得られる高圧法低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体とは、酸素または有機過酸化物等のラジカル開始剤を用いて圧力500kg/cm2 以上、温度100〜350℃の高圧ラジカル重合法を適用して、エチレンを重合する、もしくはエチレンと酢酸ビニルを共重合することで得られるものである。
【0010】本発明の組成物の(B)成分として用いられる、エチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるメルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分のエチレン系共重合体とは、エチレン(a)と下記一般式で示されるビニル化合物(b)
【0011】
【化2】


【0012】(式中、R1 及びR2 は水素原子またはメチル基を、R3 は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ示す)との共重合体であって、(a)と(b)との和に対する(b)の割合が1モル%未満で、かつ該共重合体中に(b)の孤立して存在する割合が(b)の総量に対して83%以上であることを特徴とするエチレン系共重合体である。
【0013】上記一般式のビニル化合物は公知であり、公知の方法、例えば特公昭47−8539号、特開昭48−65180号公報記載の方法にて合成することができる。上記一般式のビニル化合物の代表例を挙げれば下記のとおりである。
4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン4−アクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−アクリロイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−アクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−メタクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−メタクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン4−メタクリロイルオキシ−1−エチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−メタクリロイルオキシ−1−ブチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−クリトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン4−クリトノイルオキシ−1−プロピル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン
【0014】本発明におけるエチレン系共重合体の最も重要な特徴は、該共重合体中にビニル化合物(b)の孤立して存在する割合が(b)の総量に対して83%以上であることである。該割合が83%未満であると、ヒンダードアミンを有するビニル化合物の含量が少ない割に高い光安定性を有するという特徴が発揮されない。なお、「孤立して存在する」とは、該共重合体の主鎖においてビニル化合物(b)が2個以上連続して存在しないという意味である。
【0015】かかるビニル化合物(b)の存在確認は次のようにして行われる。13C NMR(例えば日本電子製JNM−GSX270 Spectrometer)にて公知の方法に従い〔例えば、化学同人発行「機器分析のてびき(1)」53〜56頁(1986)参照〕、文献記載のポリアクリル酸エチル〔朝倉書店発行「高分子分析ハンドブック」969頁(1985)参照〕およびエチレン−アクリル酸ヒドロキシエチル共重合体〔Eur.Poly.J.25巻、4号、411〜418頁(1989)参照〕の化学シフトを用いて、TMS基準における32.9ppmのピークを孤立したビニル化合物(b)の分岐点からα位にあるメチレン基に、35.7ppmのピークを連続した二つのビニル化合物(b)の分岐点に挟まれたメチレン基によるものと帰属した。これら二つのシグナルを用いて、エチレン(a)とビニル化合物(b)との共重合体においてビニル化合物(b)が孤立して存在する割合を、下記計算式によって算出することができる。
(32.9ppmのピーク面積)÷(32.9ppmのピーク面積+35.7ppmのピーク面積)
【0016】上記により見積もったヒンダードアミンを有するビニル化合物が孤立して存在する割合が、共重合体中のビニル化合物(b)の総量に対して83%以上であることが必要である。
【0017】本エチレン系共重合体は、MFR(JIS K−6760に記載の測定法による)が0.1〜200g/10分の範囲にあることが必要である。好ましい範囲は0.5〜20g/10分、より好ましくは1〜5g/10分である。MFRが0.1g/10分未満になるとポリエチレンとのなじみが悪く、ブレンド使用した場合、肌荒れやブツ等給排水移送管にした場合の外観悪化の原因になる。また、MFRが200を越えると分子量大なる共重合体と言えども、拡散透失によるブリード、ブルーム現象が生起したり、ポリエチレンとブレンド使用した場合、ブレンド物の強度低下の原因となる。
【0018】また、本エチレン系共重合体中のヒンダードアミンを有するビニル化合物(b)の濃度に関しては(濃度は公知の窒素分析にて決定するものであるが)、エチレン(a)とビニル化合物(b)との和に対して、ビニル化合物(b)が1モル%未満、好ましくは0.0005〜0.85モル%、より好ましくは0.001〜0.55モル%である。本共重合体は光安定効果に優れるため、単独使用の場合、共重合体の全構造単位(すなわち、エチレンおよびヒンダードアミンを有するビニル化合物)に対し0.001モル%の含量にて十分な光安定効果を発揮する。
【0019】一方、ブレンドの場合でも、本発明の高圧ラジカル重合エチレン共重合体は、その光安定効果に優れるため、ヒンダードアミンを有するビニル化合物の濃度は、単独使用時の0.001モル%に相応する濃度にて十分である。ブレンド使用の場合、重量比にて1000倍希釈以上の希釈率ではその添加精度が悪いので、ブレンド使用時の本共重合体中のヒンダードアミンを有するビニル化合物の最大濃度は1モル%となる。これ以上のヒンダードアミンを有するビニル化合物を含有するエチレン系共重合体の使用は実質的に不経済である。
【0020】さらに、本発明のエチレン共重合体は、GPCを用い、単分散ポリエチレンにて検量線を作成し決定した、重量平均分子量と数平均分子量との比をもって表示されるMw /MN (Q値)は3〜120の範囲にあることが望ましい。特に好ましい範囲は5〜20である。
【0021】このエチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるエチレン系共重合体は、特願平2−192970号明細書に詳細に記載されている高圧ラジカル共重合法によって製造することができる。
【0022】ポリエチレン中の上記ビニル化合物単位の割合は、0.05〜5重量%で、好ましくは0.1〜3重量%である。0.05重量%未満では耐候性改良効果が少なく、5重量%超過では効果に飽和が見られる。このエチレン系共重合体の具体的な配合は、前記ポリエチレンに対して、該ビニル化合物単位の割合が0.05〜5重量%含有するような範囲で実施される。
【0023】配合方法としては、例えば、押出機、バンバリーミキサーなどを用いて、ポリエチレンの融点以上の温度に加熱、混練することによって実施することができる。
【0024】本発明の給排水移送管は、必要に応じて、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤および無機充填剤等を添加することができる。
【0025】
【実施例】以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
実施例1〜6、比較例1〜2表1に示す各種ポリエチレン100重量部に対して、以下に示すようて方法で合成したヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体を各重量部とジブチル錫ジラウレート1重量部を含有させたマスターバッチを20:1の重量比で添加し、L/D=24で口径40mmの押出機により200℃でJIS−K6762に規定される呼び径13mm、肉厚2.5mmのポリエチレン管を成形した。
【0026】次に、この各パイプの耐候性を評価するために、各パイプからJIS3号ダンベルで試験片を打ち抜き、サンシャインウェザーメーター(槽内ブラックパネル温度63℃、JIS−B7753)で試片を照射し、引張り試験機にて破断点伸び率を測定し、原点(照射前)の破断点伸び率に対して、百分率で破断点伸び残存率が50%になった時間を耐候性劣化の寿命とした。各サンプルの耐候性は表1の通りであった。なお、破断点伸び率および破断点伸び残存率は、次式により求めたものである。
【0027】
【数1】


【0028】なお、上記の例で用いたエチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるエチレン系共重合体は、次のようにして製造されたものである。
(エチレン系共重合体の製法)攪拌式オートクレーブ型連続反応器を用いて、エチレン及び酢酸エチルに溶解させた4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンおよび触媒としてノルマルヘキサンに溶解させたターシャリーブチルパーオキシピバレートを連続的に供給し、重合圧力2000kg/cm2 、重合温度200℃で共重合させた。得られた共重合体のメルトフローレートは2.7g/10分、4−アクリロイルオキシー2,2,6,6−テトラメチルピペリジン単位の含量は5.0重量%であり、そのものの孤立して存在している割合は、13C−NMRによる測定にて85%であった。
【0029】比較例3〜4以下に示すような方法で合成したヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体を使用した他は、比較例3は実施例1と同様の方法で、比較例4は実施例4と同様の方法で評価した。各サンプルの耐候性は表1の通りであった。なお、上記の例で用いたエチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるエチレン系共重合体は、次のようにして製造されたものである。
【0030】(エチレン系共重合体の製法)50リットルの攪拌式オートクレーブ型反応器を用いて、純粋な無水のトルエン10リットルを装入し、純粋なエチレン雰囲気で攪拌しながら、極めて純粋なトルエン25リットル中の4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン2.1kg、α,α′−アゾイソブチロニトリル20gの溶液を110分かけて注入しながら合わせて250kg/cm2 まで昇圧し重合を行った。昇圧完了後、重合混合物を110℃で攪拌しながらさらに70分保持した。その後、圧力を開放し窒素を導入、窒素雰囲気下で常温まで降温し、その後、800リットルのメタノール中に注ぎ、濾過、洗浄、乾燥し、共重合体を得た。得られた共重合体のメルトフローレートは300g/10分以上、数平均分子量は4500、4−アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン単位の含量は5.0重量%であり、そのものの孤立して存在している割合は、13C−NMRによる測定にて76%であった。
【0031】比較例5〜6ヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体の代わりに、T社製ヒンダードアミン型光安定剤を用いた他は、比較例5は実施例1と同様の方法で、比較例6は実施例4と同様の方法で評価した。耐候性の結果は表1の通りであった。
【0032】
【表1】


【0033】表−1における注は下記のとおりである。
注1…密度0.92g/cm3 、メルトフローレート1g/10分の線状低密度ポリエチレン注2…密度0.96g/cm3 、メルトフローレート0.3g/10分の高密度ポリエチレン注3…密度0.92g/cm3 、メルトフローレート1g/10分の高圧法低密度ポリエチレン注4…酢酸ビニル含量10重量%、密度0.93g/cm3 、メルトフローレート2g/10分のエチレン−酢酸ビニル共重合体注5…ビニル化合物含量5重量%、ビニル化合物が孤立して存在している割合85%、密度0.93g/cm3 、メルトフローレート2.7g/10分のヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体、エチレンとビニル化合物の和に対するビニル化合物の割合は0.7モル%である。
注6…ビニル化合物含量5重量%、ビニル化合物が孤立して存在している割合76%、密度0.93g/cm3 、メルトフローレート300g/10分以上、数平均分子量4500のヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体、エチレンとビニル化合物の和に対するビニル化合物の割合は、0.7モル%である。
注7…ヒンダードアミン型光安定剤[コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物],分子量3100〜4000
【0034】
【発明の効果】実施例で示すとおり、本発明は、ポリエチレン中に、ヒンダードアミンを有するビニル化合物からなるエチレン系共重合体を配合させることにより、従来の光安定剤を添加したポリエチレンよりも耐候性に優れた給排水移送管を得ることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリエチレン(A)に、エチレンとヒンダードアミンを有するビニル化合物とからなるメルトフローレートが0.1〜200g/10分のエチレン系共重合体(B)を該ビニル化合物単位で0.05〜5重量%となるように配合した樹脂組成物を成形してなる給排水移送管。
【請求項2】 エチレン系共重合体が、エチレン(a)と下記一般式:
【化1】


(式中、R1 及びR2 は水素原子またはメチル基を、R3 は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ示す)で示されるビニル化合物(b)との共重合体であって、(a)と(b)との和に対する(b)の割合が1モル%未満で、かつ該共重合体中に(b)の孤立して存在する割合が(b)の総量に対して83%以上である請求項1記載の給排水移送管。