説明

絶縁体基板

【目的】 比誘電率が低く、誘電損失が小さく、しかも、抗折強度が高いセラミックス多層基板用絶縁体基板を提供すること。
【構成】 ほうけい酸ガラスをマトリックスとし、結晶質シリカ及びアルミナがフィラ−として分散されている気孔率1%以下の絶縁体基板であり、上記マトリックス100重量部に対しフィラ−が20重量部以上であり、かつ、結晶質シリカとアルミナの比が3/7〜7/3であることを特徴とする絶縁体基板。
【効果】 低誘電率の回路基板として必要な特性である誘電損失及び抗折強度を向上させることができる。そして、本発明により、高速信号の伝達速度を高めた回路を製作することができ、その実用化が可能となる絶縁体基板を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、絶縁体基板に関し、特に、比誘電率が低く、誘電損失が小さく、しかも、抗折強度が高いセラミックス多層基板用絶縁体基板に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、導体配線やコンデンサなどを内層化した低温焼成のセラミックス多層基板が実用化されつつある。このような基板は、従来のガラス−エポキシ基板に比べて微細配線が可能であり、かつ、多層化が容易であるため、基板全体を小型化できるというメリットがある。
【0003】最近、高速信号の伝達速度向上、クロスト−クノイズの低減などの要求から、これらセラミックス多層基板の比誘電率を小さくする試みが研究されている。例えば、ほうけい酸ガラスに対してシリカガラスを分散させることにより、約4.5程度の低比誘電率の絶縁体基板を得ようとする試みがなされている。
【0004】従来の上記絶縁体基板についてさらに詳記すると、ほうけい酸ガラスとは、通常、SiO260〜75重量部、B2315〜25重量部、Al230〜5重量部及びアルカリ金属酸化物3〜10重量部程度の組成のガラスであり、そして、その軟化点は700〜900℃程度であり、その比誘電率は、組成により多少異なるが、ほぼ5以下である。
【0005】一方、シリカガラスは、通常、石英を高温溶融後急冷したものであり、その比誘電率は約3.6〜3.8であって、無機酸化物のうち最小の比誘電率を持つものである。この2つを組合せることにより、即ち、ほうけい酸ガラスに対しシリカガラスを分散させることにより、低誘電率のセラミックス多層基板用絶縁体基板を製造しようとするのが従来の試みであった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記した従来のほうけい酸ガラスとシリカガラスの組合せでは、比誘電率は確かに小さくなるメリットがあるけれども、その他の重要な特性である低誘電損失及び高抗折強度の基板が得られない欠点を有している。即ち、誘電損失(tanδ)が大きく、しかも、基板の抗折強度が小さいという問題点を有している。
【0007】本発明者等は、このような欠点及び問題点を解決するため実験を繰り返した結果、本発明を完成したものであって、本発明の目的は、上記欠点、問題点を解消するセラミックス多層基板用絶縁体基板を提供するにあり、詳細には、比誘電率が低く、誘電損失が小さく、抗折強度が高い絶縁体基板を提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】そして、本発明は、フィラ−として所定量の結晶質シリカとアルミナを分散してなる気孔率1%以下の絶縁体基板であり、これによって、低比誘電率、低誘電損失及び高抗折強度の絶縁体基板を提供するものである。即ち、本発明は、ほうけい酸ガラスをマトリックスとし、結晶質シリカ及びアルミナがフィラ−として分散されている気孔率1%以下の絶縁体基板であり、上記マトリックス100重量部に対しフィラ−が20重量部以上であり、かつ、結晶質シリカとアルミナの比が3/7〜7/3であることを特徴とする絶縁体基板を要旨とするものである。
【0009】以下、本発明を詳細に説明すると、本発明において、ほうけい酸ガラスとしては、前記「従来の技術」の項で示した組成域のガラス(SiO260〜75重量部、B2315〜25重量部、Al230〜5重量部及びアルカリ金属酸化物3〜10重量部程度の組成のガラス)を使用することができるが、局所的にシリカ(SiO2)及びアルミナ(Al23)の量が上記組成範囲より多い場合もありうる。また、本発明におけるフィラ−としての結晶質シリカ及びアルミナは、限定するものでないが、結晶質シリカとしては、石英、トリジマイト、クリストバライトの単相もしくは2種以上の混合物であり、アルミナとしては、α−アルミナ(コランダム)である。
【0010】結晶質シリカとアルミナとの比は、重量比で3:7〜7:3が好ましい。なお、この比は焼成後の基板中の残存比であり、基板製造時の原料の配合比とは異なる。なぜなら、結晶質シリカ、アルミナとも焼成中にほうけい酸ガラスと反応してその比が変化するが、焼成条件によりそれぞれの反応量が異なるためである。結晶質シリカの割合(焼成後の基板中にフィラ−として分散している結晶質シリカの割合)が3より少ない場合、比誘電率を小さくする効果が少なくなり(後記比較例5参照)、また、7より大きいと(アルミナが3より小さいと)、抗折強度向上効果が少ないので(後記比較例6参照)、好ましくない。従って、本発明において、フィラ−として分散している結晶質シリカ及びアルミナの比は、上記したとおり、重量比で3:7〜7:3が好ましい。なお、該重量比の測定は、絶縁体基板のX線解析により行なうことができる。
【0011】また、本発明において、ほうけい酸ガラスからなるマトリックス100重量部に対して、結晶質シリカ及びアルミナよりなるフィラ−を分散させる割合は、結晶質シリカとアルミナとの比にもよるが、ほぼ20重量部以上必要である。この分散量が20重量部未満では、抗折強度向上の効果が少ないばかりでなく、誘電損失(tanδ)を低減する効果も少なくなるので(後記比較例4参照)、好ましくない。このフィラ−の量は、理論的には多ければ多いほど好ましいが、現実には焼成しにくくなるため、約50重量部程度が現在の焼成技術における上限であると考えられる。
【0012】絶縁体基板の気孔率は、抗折強度との関係が大きく、その気孔率が1%を越えると、上記組成にかかわらず抗折強度の向上がみられず、また、体積抵抗が低下し、絶縁体としての特性が保持できなくなるので(後記比較例7参照)、好ましくない。なお、この気孔率は、水中置換法(アルキメデス法)により求めることができる。
【0013】
【作用】前記した従来のほうけい酸ガラス−シリカガラス系絶縁体基板は、その全て若しくは殆どがガラス質であるため、誘電損失(tanδ)が大きく、しかも、抗折強度が小さいものと考えられる。これに対し、本発明の絶縁体基板は、ほうけい酸ガラスをマトリックスとし、結晶質シリカ及びアルミナよりなるフィラ−を所定量分散してなるものであり、そして、結晶質シリカの比誘電率が3.8〜4であり、アルミナの比誘電率が8.5〜9であるため、絶縁体基板全体の比誘電率は約4.7〜5.5とやや大きくなるが、フィラ−として結晶質のものを用いているため、誘電損失(tanδ)や抗折強度が改善される作用が生ずるものである。誘電損失(tanδ)については、一般に、ほうけい酸ガラス中のアルカリ分を減らすことにより低減できるが、本発明によれば、それを更に低減することができるものである。
【0014】
【実施例】次に、本発明の実施例1〜6を比較例1〜7と共に挙げ、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1〜6)SiO270部、Al231部、B2325.5部、Na2O1.5部、K2O2.0部(いずれも重量部)を混合し、1600℃で1時間溶融した後、急冷してほうけい酸ガラスを得た。これを粉砕した後、結晶質シリカ粉末とアルミナ粉末とを配合し、次に、有機溶媒及び有機バインダ−を加えてシ−ト化し、900℃で焼成して表1の実施例1〜6に示す絶縁体基板を製造した。
【0015】これらの絶縁体基板に電極をつけ、比誘電率及び誘電損失(tanδ)を測定した。その測定結果を表1に示す。また、該基板を幅4mmに切断し、3点曲げ法により抗折強度を測定した。この結果も表1に示す。更に、これらの基板を粉砕してX線回析により求めた結晶質シリカ量及びアルミナ量並びにそれらから推定したほうけい酸ガラス量を表1に示す。なお、表1の実施例1〜6の絶縁体基板は、その体積抵抗率はすべて1×1014以上であった。
【0016】(比較例1〜7)なお、比較のため、上記実施例のほうけい酸ガラスに対し、(1) シリカガラスを配合した基板(比較例1)、(2) 石英フィラ−のみを加えた基板(比較例2)、(3) アルミナフィラ−のみを加えた基板(比較例3)、(4) 結晶質シリカ及びアルミナよりなるフィラ−を本発明で規定する範囲(マトリックス100重量部に対し20重量部以上)外の石英10重量部及びアルミナ5重量部の計15重量部を分散した基板(比較例4)、(5) 結晶質シリカとアルミナの比が本発明で規定する3/7〜7/3の範囲外である石英8重量部及びアルミナ22重量部(石英とアルミナの比2.7/7.3)の基板(比較例5)、石英22重量部及びアルミナ8重量部(石英とアルミナの比7.3/2.7)の基板(比較例6)、(6) 気孔率が本発明で規定する範囲(1%以下)外の1.5%の基板(比較例7)、をそれぞれ製造した。
【0017】上記(1)〜(6)の絶縁体基板について、前記実施例と同様、比誘電率及び誘電損失(tanδ)並びに抗折強度を測定した。その測定結果を表1に付記した。なお、上記(6)の比較例7の基板は、その体積抵抗率は2.5×1012であり、これ以外の各比較例の基板の体積抵抗率は1×1014以上であった。
【0018】
【表1】


【0019】表1から明らかなように、本発明の実施例1〜6では、比誘電率が低く、誘電損失が小さく、しかも、抗折強度が高い絶縁体基板が得られる。これに対して、従来例であるシリカガラスを配合した比較例1では、比誘電率が4.5と低いけれども、誘電損失が0.0034と大きく、しかも、基板の抗折強度が80MPaと小さい基板であった。また、石英のみを分散した比較例2では、誘電損失、抗折強度とも満足するものが得られず、一方、アルミナのみを分散した比較例3では、比誘電率が5.8と極めて高いものであった。
【0020】更に、本発明で規定する範囲外の基板では、比誘電率、誘電損失及び抗折強度の各特性を同時に満足するものが得られなかった。即ち、石英及びアルミナを合計で15重量部を分散した比較例4では、誘電損失及び抗折強度とも満足するものが得られず、また、石英とアルミナの比が2.7/7.3の比較例5では、比誘電率が5.6と高く、一方、この比が7.3/2.7の比較例6では、抗折強度が145MPaと小さいものであった。また、気孔率の点においても、その気孔率が1.5%の比較例7では、分散したフィラ−の種類及びその割合が本発明で規定する範囲内であるにもかかわらず、抗折強度が130MPaと小さく、しかも、体積抵抗率が2.5×1012と低下し、絶縁体としての特性が保てなくなるものであった。
【0021】以上、表1に示す実施例1〜6及び比較例1〜7からみて、本発明は、フィラ−として結晶質シリカとアルミナを併用し、かつ、その比を3/7〜7/3とし、該フィラ−の分散量を20重量部以上とし、しかも、気孔率1%以下の絶縁体基板とするものであり、これらの各条件を結合し、組合せることにより、初めて比誘電率、誘電損失及び抗折強度の各特性並びに体積抵抗率を同時に満足する絶縁体基板が得られることが理解できる。
【0022】
【発明の効果】本発明は、以上詳記したとおり、ほうけい酸ガラスをマトリックスとし、フィラ−として所定量の結晶質シリカとアルミナを分散してなる気孔率1%以下の絶縁体基板であり、これによって、低誘電率の回路基板として必要な特性である誘電損失及び抗折強度を向上させることができる効果が生ずる。そして、本発明により、高速信号の伝達速度を高めた回路を製作することができ、その実用化が可能となる絶縁体基板を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ほうけい酸ガラスをマトリックスとし、結晶質シリカ及びアルミナがフィラ−として分散されている気孔率1%以下の絶縁体基板であり、上記マトリックス100重量部に対しフィラ−が20重量部以上であり、かつ、結晶質シリカとアルミナの比が3/7〜7/3であることを特徴とする絶縁体基板。