説明

絶縁放熱シート

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ボロンナイトライド粉末をシリコーンゴムに分散含有させてなる電気絶縁性と熱伝導性に優れた絶縁放熱シートの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来より、電子部品は、発生した熱を効率よく除去するため、シリコーンゴムにボロンナイトライド粉末を分散含有させてなる絶縁放熱シートを介して放熱フィン等に取り付けられている。このような絶縁放熱シートにおいては、その熱伝導性はボロンナイトライド粉末の充填率を高くすることによって高まることは知られているが、その反面、引張強度が著しく低下するので高充填化による熱伝導性の向上には限度があった。
【0003】そのため、市販の絶縁放熱シート、例えばTO−3タイプのトランジスター用絶縁放熱シートでは、その厚みが0. 3mmのもので、熱抵抗が0. 24℃/W程度(熱伝導率として2. 1W/mK程度)が最上級品である。しかし、近年、発熱性電子部品の高密度化、小型化が急速に進み、さらに熱伝導性の優れた絶縁放熱シートが要求されるようになってきた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、このような要望に応えるため、電気絶縁性と引張強度を損なわせることなく熱伝導性を大幅に向上させた絶縁放熱シートを得ることを目的として種々検討した結果、シリコーンゴムに分散含有させるボロンナイトライド粉末として、その粒子厚みが大きく比表面積の小さいものを特定量用いればよいことを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、子厚み1.4μm超かつ比表面積2.6m2/g未満のボロンナイトライド粉末をシリコーンゴム100重量部に対し315〜400重量部を存在させてなり、熱抵抗0.10℃/W以下(熱伝導率5.00W/mK以上)であることを特徴とする絶縁放熱シート、及びこの絶縁放熱シートの表面及び/又は内面に少なくとも1層の網目状絶縁物が配されてなることを特徴とする多層構造型絶縁放熱シートである。
【0006】以下、さらに詳しく本発明について説明すると、本発明におけるボロンナイトライド粒子は、通常、鱗片状であり、その高さ方向の厚みが1.4μm超のものである。この粒子厚みが大きいほど好適となるが、その反面、そのような粒子を製造することが困難となるので、3μmまでが好ましい厚みといえる。
【0007】本発明に係るボロンナイトライド粉末は、粒子厚み1.4μm超かつ比表面積2.6m2/g未満である。従来、この種の用途に用いられていたボロンナイトライド粉末は、粒子厚み1μm以上のボロンナイトライド粒子は全く含まれていないか、含まれていたとしても極微量であったものである。
【0008】本発明に係るボロンナイトライド粉末は、上記した粒子厚みを有する粒子を含むとともに、その比表面積が2.6m2/g未満である。このような粉末をシリコーンゴムシートに配合することによって、その引張強度を低下させることなく熱伝導率を5.5W/mK程度にまで高めることができる。これは、従来より使用されてきたボロンナイトライド粉末の比表面積が4〜10m2/g程度であったのと著しく異なっており、従来はそのような粉末を絶縁放熱シートの機械的強度を著しく落とさない限度に高充填しても、すなわちシリコーンゴム100重量部に対し315重量部程度配合しても、熱伝導率2.2W/mK程度の絶縁放熱シートしか得らなかったものである。
【0009】更に、本発明に係るボロンナイトライド粉末は、上記した特性の他に、粒径3〜100μmの粒子が70重量%以上(100重量%を含む)で構成されていることが好ましい。粒径3μm未満の粒子が30重量%をこえるとシリコーンゴムへの高充填が困難となり、また粒径100μmをこえる粒子が含まれていると絶縁放熱シートの表面が荒れて密着性が悪くなり、絶縁放熱シートとしての機能を充分に果たすことができなくなる。
【0010】本発明に係る粒子厚み1.4μm超かつ比表面積2.6m2/g未満のボロンナイトライド粉末、粗製ボロンナイトライド粉末をアルカリ金属又はアルカリ土類金属ほう酸塩の存在下、窒素、アンモニア等の非酸化性雰囲気中で1000℃以上に加熱して結晶を発達させるか、又は一般に知られている造粒法で造粒することによって製造することができる。その造粒法とは、例えばホットプレス、コールドプレス等により一度大きな塊としたものを粉砕する方法、有機又は無機のバインダーを添加し加熱・乾燥・回転・粉砕等により造粒するものである。ボロンナイトライドは、通常、鱗片状粒子であるが、これらの手法により粒径が増大するのみならず、粒子厚みが増加する。
【0011】本発明に係るボロンナイトライド粉末の絶縁放熱シート内における状態は、通常、顕微鏡観察により測定される。すなわち、絶縁放熱シートを液体窒素等の冷媒を用いて、シリコーンゴムのガラス転移点以下の状態下に置いて裁断し、シート厚み方向又はシート長さ方向の破断面を露出させ、その破断面をSEM等の顕微鏡観察を行うことによって、ボロンナイトライド粒子の粒子厚みを測定することができる。
【0012】本発明で使用されるシリコーンゴムとしては、一般に知られているシリコーンゴムで充分であり、例えば過酸化物を用いた熱加硫型シリコーンゴム、縮合反応により加硫する室温加硫型シリコーンゴム、付加反応により加硫する液状シリコーンゴム等をあげることができる。
【0013】本発明の絶縁放熱シートは、上記したボロンナイトライド粉末とシリコーンゴムとをロールミル、バンバリミキサー等の混合機を用いた方式又は溶液を加えてスラリー化する方式によって混合した後、カレンダーロール法、ドクターブレード法によりグリーンシートとし、それを加硫することによって製造することができる。
【0014】ボロンナイトライド粉末とシリコーンゴムの配合割合は、シリコーンゴム100重量部に対してボロンナイトライド粉末315〜400重量部である。ボロンナイトライド粉末が315重量部未満では現状の絶縁放熱シートの持つ熱伝導性をこえるものは得られ難く、また400重量部をこえると引張強度が低下して実用に耐える絶縁放熱シートが得られなくなる。絶縁放熱シートの厚みとしては、0. 15〜1. 0mmが好適である。
【0015】以上からなる本発明の絶縁放熱シートの表面及び/又は内面に少なくとも1層の網目状絶縁物を配することによって、更に機械的強度の高まった多層構造型の絶縁放熱シートにすることができる。網目状絶縁物の例としては、グラスファイバークロス等がある。
【0016】
【実施例】以下、実施例、比較例、参考例をあげてさらに具体的に本発明を説明する。
【0017】実施例1 比較例5〜7シリコーンゴム(東芝シリコーン社商品名「シリコーンゴムSRH32」)、表1に示す物性(粒径、粒子厚み、比表面積)を有するボロンナイトライド粉末(電気化学工業社商品名「デンカボロンナイトライドGPML」の製造時の結晶化条件を変えてそれぞれの物性を異ならせた)及びトルエンを表1に示す割合とし、更に加硫剤を添加してスラリーを調製し、それをドクターブレード法にてグリーンシートに成形してから加熱加硫し、厚み0. 30mmの絶縁放熱シートを製造した。
【0018】比較例8ボロンナイトライド粉末として、実施例1品10重量%と市販品(電気化学工業社商品名「デンカボロンナイトライドGP」)90重量%との混合粉末を用いたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁放熱シートを製造した。
【0019】実施例2成形したグリーンシートをグラスファイバークロス(鐘紡社商品名「KS−1090」)の両面に張り合わせたこと以外は、実施例1と同様にして多層構造型絶縁放熱シートを製造した。
【0020】比較例1ボロンナイトライド粉末として、市販品(電気化学工業社商品名「デンカボロンナイトライドGP」)を用いたこと以外は、比較例5と同様にして絶縁放熱シートを製造した。
【0021】比較例2ボロンナイトライド粉末として、市販品(電気化学工業社商品名「デンカボロンナイトライドGP」)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして絶縁放熱シートを製造した。
【0022】比較例3ボロンナイトライド粉末の配合量を400重量部としたこと以外は、比較例1と同様にして絶縁放熱シートを製造しようとしたが、シート化は困難であった。
【0023】比較例4ボロンナイトライド粉末として、市販品(電気化学工業社商品名「デンカボロンナイトライドGP」)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして多層構造型絶縁放熱シートを製造した。
【0024】参考例1〜3最も優れた熱伝導性を持つもののひとつとされている市販絶縁放熱シート(参考例1:電気化学工業社商品名「LC−30」、参考例2:電気化学工業社商品名「BFG−30」、参考例3:信越化学工業社商品名「TC−30BG」)を用いた。
【0025】上記絶縁放熱シートをTO−3型銅製ヒーターケースと銅板との間にはさみ、締付けトルク5kgf−cmにてセットした後、銅製ヒーターケースに電力15Wをかけて4分間保持して銅製ヒーターケースと銅板との温度差を測定し、(1)式により熱抵抗を算出した。
熱抵抗(℃/W)=温度差(℃)/電力(W) ・・・(1)
【0026】さらに、銅製ヒーターケースと銅板の伝熱面積を6cm2 として、(2)式により熱伝導率を算出した。
熱伝導率(W/mK)= 電力(W)×シート厚(mm)/ 伝熱面積(m2)×温度差(℃)・・・(2)
【0027】また、絶縁放熱シートの引張強度をJIS K6301に準拠して測定した。
【0028】なお、絶縁放熱シートに分散含有されているボロンナイトライド粉末の粒子厚みは、液体窒素によりシリコーンゴムのガラス転移点以下に冷却した状態で絶縁放熱シートを裁断して破断面を露出させ、その破断面をSEM観察して測定した。また、ボロンナイトライド粉末の平均粒径は光透過法(セイシン企業社製「Micro Phote Sizer」)、比表面積はBET法にて測定した。これらの結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【0030】
【発明の効果】本発明の絶縁放熱シートは、電気絶縁性と引張強度を低下させることなく熱伝導性が大幅に向上する。このことにより、近年、急速に進行している発熱性電子部品の高密度化、小型化に対し充分に対応することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 粒子厚み1.4μm超かつ比表面積2.6m2/g未満のボロンナイトライド粉末をシリコーンゴム100重量部に対し315〜400重量部を存在させてなり、熱抵抗0.10℃/W以下(熱伝導率5.00W/mK以上)であることを特徴とする絶縁放熱シート。
【請求項2】 請求項1に記載の絶縁放熱シートの表面及び/又は内面に少なくとも1層の網目状絶縁物が配されてなることを特徴とする多層構造型絶縁放熱シート。

【特許番号】特許第3209839号(P3209839)
【登録日】平成13年7月13日(2001.7.13)
【発行日】平成13年9月17日(2001.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−254508
【出願日】平成5年10月12日(1993.10.12)
【公開番号】特開平7−111300
【公開日】平成7年4月25日(1995.4.25)
【審査請求日】平成11年11月26日(1999.11.26)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【参考文献】
【文献】特開 昭55−166806(JP,A)
【文献】特開 平5−102355(JP,A)
【文献】特開 平5−198709(JP,A)