説明

絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアならびにこれらを作製する方法

本発明は、絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子を調製する方法、絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子ならびにこれらの絹粒子を含む組成物に活性物質を封入する方法を提供する。特に、絹スフェアは、有機溶媒に曝露することなく絹およびポリビニルアルコール(PVA)を相分離することにより調製される。この方法は、薬物製剤の中にある、FDAによって認可された成分である化学物質PVAを用いる。製作プロセス中に絹スフェアのサイズおよび形状を制御するために、様々なパラメータを調節することができる。本発明の絹粒子組成物はまた活性物質または化学物質も封入してよい。このような組成物によって、活性物質を標的器官または標的組織に制御可能かつ持続可能に放出することが可能になる。活性物質を捕捉している絹組成物は、このように捕捉された活性物質の長期保管媒体ともなる。従って、本発明の絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子は、薬物送達または組織工学などの様々な生物医学用途および薬学用途に適している。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年9月29日に出願された米国特許仮出願第61/246,676号の優先権の恩典を主張する。米国特許仮出願第61/246,676号の内容はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援
本発明は、NIH Tissue Engineering Resource Centerにより付与された助成金P41 EB002520の下で政府支援によりなされた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
発明の分野
本発明は、制御可能なサイズおよび形状を有する絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子を調製するための組成物および方法ならびに活性物質を絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子に封入する方法に関する。特に、いくつかの態様の絹スフェアは、有機溶媒に曝露することなく絹/ポリビニルアルコール(PVA)を相分離することにより調製される。本発明の絹粒子は、薬物送達システム、保管媒体、組織工学、または酵素分析などの様々な生物医学用途および薬学用途に適している。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
薬物送達などの様々な生物医学用途および薬学用途において、マイクロ粒子システムおよびナノ粒子システムが広く用いられている。送達経路および疾患部位に応じて、マイクロスフェア(1μm〜1000μm)またはナノスフェア(1nm〜1000nm)が適切な送達システムとなる。例えば、ナノスフェアを短時間作用型送達ビヒクルとして設計し、標的部位において効率的な薬物蓄積を誘導するのに、例えば、癌組織内の腫瘍を標的とするように使用することができる。マイクロスフェアは長時間作用型送達用のデポー薬物担体として使用することができる。例えば、微小胞(microvesicle)は、ポリマースキャフォールドの中にある増殖因子を放出することによって組織を再生するために用いられることがある。
【0005】
マイクロ粒子送達システムおよびナノ粒子送達システムを製作するために、生分解性合成ポリマーなどの合成材料が用いられてきた。しかしながら、これらのポリマーの多くには、組織工学用途および薬物送達用途に固有の制限がある。例えば、これらのポリマーは疎水性であるので溶解するために、通常、有機溶媒が必要とされる。粒子の中に/粒子の上に負荷されるタンパク質または他の活性物質に対して有機溶媒が有害な場合がある。さらに、これらのポリマーの多くの分解産物は酸性であり、これによって、タンパク質薬物または他の酸感受性薬物が変性することがある。従って、制御可能なスフェアサイズおよび形状を有するマイクロスフェアおよびナノスフェアを提供し、製作プロセス中に有機溶媒および他の過酷な条件の使用を回避する、活性物質およびプロセスが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
概要
本態様は、絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子を調製する方法、絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子ならびにこれらの絹粒子を含む組成物に活性物質を封入する方法を提供する。特に、水不溶性の絹スフェアは、製造のどの段階においても有機溶媒に曝露することなく絹/ポリビニルアルコール(PVA)ブレンドフィルムを水溶液に溶解することにより調製することができる。PVAは、薬物製剤の中にある、FDAによって認可された成分である。製作プロセス中に絹マイクロ粒子および絹ナノ粒子のサイズおよび形状を制御するために、様々なパラメータを調節することができる。本発明の絹マイクロ粒子組成物および絹ナノ粒子組成物はまた、活性物質または化学物質が封入されている絹スフェアを含んでもよい。このような組成物によって、活性物質を標的細胞、標的器官、または標的組織に制御可能かつ持続可能に放出することが可能になる。従って、本発明の方法は、簡単、安全で、制御可能であり、時間効率およびエネルギー効率が良く、薬物を受け入れられる。本発明の絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアは、薬物送達システム、保管媒体、または組織工学などの様々な生物医学用途および薬学用途に適している。
【0007】
本発明の態様は、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを調製する方法を提供する。1つの態様において、前記方法は、(a)絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合する工程;(b)工程(a)の溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;(c)フィルムを水に溶解する工程;ならびに(d)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹スフェアを形成する工程を含む。スフェア調製プロセスには剪断および加熱などの過酷な条件が関与しないので、本発明の化学ベースの方法はタンパク質薬物送達用途に適している。スフェアの所期の用途に応じて、例えば、絹フィブロイン溶液およびPVA溶液の濃度または比を調節することによって、ナノスフェアまたはマイクロスフェアを生成および回収することができる。本発明の方法を使用すると、実際に、絹粒子の形状、サイズ、およびサイズ分布を様々な手段によって制御することができる。
【0008】
従って、本発明のいくつかの態様は、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを調製する方法を提供し、該方法は、(a)絹フィブロイン水溶液を準備する工程;(b)PVA水溶液を準備する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有する、工程;(c)絹フィブロイン溶液およびPVA溶液を混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、ブレンド溶液中の絹の濃度が15wt%までであり、ブレンド溶液中のPVAの濃度がブレンド溶液中の絹の濃度にほぼ等しいか、またはブレンド溶液中の絹の濃度の約4倍までである、工程;(d)ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;(e)フィルムを水に溶解する工程;ならびに(f)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアを形成する工程を含む。
【0009】
本明細書において議論されたように1つまたは複数のパラメータを調節することによって、サイズ分布がさらに狭い絹マイクロスフェアを得ることができる。例えば、約5μm〜約10μmのサイズを有する絹マイクロスフェアは、例えば、ブレンドされた溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度を調節した後に、または絹/PVAブレンド溶液を(例えば、約4ワットのエネルギー出力で)超音波処理した後に、ブレンド溶液を成型および乾燥してフィルムを形成することによって得ることができる。
【0010】
本発明の別の態様は、以下の特性のうちの少なくとも1つを有する絹ナノスフェアを調製する方法を提供する:平均スフェアサイズが約500nm未満である;多分散指数(PDI)が0.3未満である;または2μmより大きいスフェアが存在しない。このアプローチは、(a)絹フィブロイン水溶液を準備する工程;(b)PVA水溶液を準備する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有する、工程;(c)絹フィブロイン溶液およびPVA溶液を混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.04wt%絹までであり、ブレンド溶液中のPVAの濃度が約0.16wt%までである、工程;(d)ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;(e)フィルムを水に溶解する工程;ならびに(f)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹ナノスフェアを形成する工程を含む。
【0011】
本発明のさらに別の態様は、(a)絹フィブロイン水溶液を準備する工程;(b)PVA水溶液を準備する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有する、工程;(c)絹フィブロイン溶液およびPVA溶液を混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、ブレンド溶液中の絹の濃度が15wt%までであり、ブレンド溶液中のPVAの濃度がブレンド溶液中の絹の濃度の約4倍までである、工程;(d)ブレンド溶液を超音波処理する工程;(e)超音波処理した溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;(f)フィルムを水に溶解する工程;ならびに(g)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、約330nm未満であり、かつ約2μmより大きいスフェアが存在しない絹スフェアナノスフェアを形成する工程によって、約330nm未満のナノスフェア平均スフェアサイズを有し、0.4未満のPDIを有し、および/または約2μmより大きいスフェアを有さない絹ナノスフェアを調製する方法を提供する。
【0012】
本発明の態様によれば、形状の異なる絹マイクロ粒子および絹ナノ粒子を得ることができる。本発明の方法に従って、絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアが絹/PVAブレンドフィルムの中に形成される。フィルムを水に溶解する工程の前に、ブレンドフィルムの中の絹粒子の形状を変えるために、絹/PVAブレンドフィルムに制約、例えば、物理的な力が加えられてもよい。例えば、単に、乾燥した絹/PVAブレンドフィルムを引き伸ばすことによって、従って、絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアを紡錘状のマイクロ粒子または紡錘状のナノ粒子に変換することによって、紡錘状の絹粒子を得ることができる。別の例では、絹/ブレンドフィルムを水蒸気(水鈍(water annealing))処理すると、平らな円板状の絹粒子を得ることができる。制約を加える前に、ブレンドフィルム中の絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアの粒径およびサイズ分布を調節することによって、均一な絹マイクロ粒子または絹ナノ粒子(例えば、紡錘状の粒子または平らな円板状の粒子) を得ることができる。圧縮およびひねりなどの他の物理的な力によって、他の異なる形状を有する絹粒子も得ることができる。
【0013】
本発明の態様はまた、活性物質(例えば、抗体、薬物、または低分子)を、多孔性の絹ナノスフェアもしくはマイクロスフェアまたはナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有するスフェアの中に封入する方法も提供する。前記方法は、(a)絹フィブロイン水溶液および活性物質をPVA溶液と混合する工程;(b)溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;(c)フィルムを水に溶解する工程;ならびに(d)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、活性物質が封入された絹スフェアを形成する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1A〜1Iは、1.0%絹および4.0%PVA(wt%)を含有する絹/PVAブレンド溶液から調製された絹スフェアの走査型電子顕微鏡写真である。図1A〜1Dは、フィルム溶解、遠心分離、洗浄、および乾燥の工程後に絹/PVAブレンドフィルムから収集された絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアである。図1Aおよび図1Bについては、フィルム溶解工程後に絹スフェアを1回洗浄し、図1Cについては、絹スフェアを1回洗浄した後に50%MeOHで24時間処理し、図1Dについては、絹スフェアを3回洗浄した。図1D中の挿入図は、多孔性の内部構造を有する絹マイクロスフェアを示す。図1Eは、50%(v/v)MeOHで15時間処理した絹マイクロスフェアを示す。スフェアを遠心分離し、水で1回洗浄した。図1Fおよび1Gは、水鈍された絹/PVAブレンドフィルムから調製された絹スフェアを示す。図1Hおよび1Iは、溶解前に絹/PVAブレンドフィルムを引き伸ばすことによって調製された紡錘状の絹粒子を示す。図1H中の挿入図は、いくつかのスフェアの露出した内部構造を示す。これは、フィルムを引き伸ばしている間に引き起こされた可能性が高い。スケールバーは、図1Aおよび1Hでは10μmであり、図1B、1C、および1Dでは1μmであり、図1E、1F、1G、および1Iでは絹粒子1つ1つの詳細な表面形態を示すために2μmである。
【図2】絹スフェア調製後の上清画分(黒色カラム)およびプロテアーゼXIV消化後の絹スフェア(灰色カラム)において求められた残存PVA濃度のプロファイルを示す。データを平均±S.D.(n=3〜4)として示した。
【図3】図3A〜3Fは、絹スフェアの一連の走査型電子顕微鏡画像である。スフェアのサイズは、絹/PVAブレンド溶液中の絹およびPVAの濃度を調節することによって制御された。図3A、3B、3D、および3Eは、1.0%絹/4.0%PVA(wt%)ブレンド溶液から調製された絹スフェアは、主に、1μm〜30μmのサイズを有する絹マイクロスフェアからなったことを示す。0.20%絹/0.80%PVA(wt%)ブレンド溶液から調製された絹スフェアは、主に、1μm〜30μmのサイズを有する絹マイクロスフェアからなった。図3Cおよび3Fは、0.04%絹/0.16%PVA(wt%)ブレンド溶液から調製された絹スフェアが、主に、400nm未満のサイズを有する絹ナノスフェアからなったことを示す。図3A〜3Cは低倍率画像である。図3D〜3Fは高倍率画像である。スケールバーは、図3Aおよび3Bでは10μmであり、図3Cでは複数のナノスフェアを示すために1μmであり、図3Dおよび3Eでは2μmであり、図3Fではナノスフェアの詳細な構造を示すために200nmである。
【図4】絹スフェアの動的光散乱測定を示す。スフェアのサイズは、絹/PVAブレンド溶液中の絹およびPVAの濃度を調節することによって制御された。絹:PVA比1:4のブレンドに使用した絹開始溶液およびPVA開始溶液の濃度は、0.2wt%、1wt%、および5wt%であった。ブレンド溶液中の絹/PVAの最終濃度は、それぞれ、0.04%絹/0.16%PVA、0.2%絹/0.8%PVA、および1.0%絹/4.0%PVAであった。測定の前に、5μm膜を用いて試料(絹スフェアの水懸濁液)を濾過した。
【図5】図5A〜5Fは、絹/PVAブレンド溶液に超音波処理を加えた後に、溶液をフィルムに成型することによってスフェアのサイズが制御された絹スフェアの顕微鏡写真である。絹/PVAブレンド溶液は1.0%絹/4.0%PVA(wt%)を含有した。対照試料(超音波処理なし)は、ブレンドフィルム(図5A)および水懸濁液(図5D)の両方において、ナノメートルからマイクロメートルの広いサイズ分布を有する絹スフェアを含有した。12%エネルギー出力で超音波処理した試料は、ブレンドフィルム(図5B)および水懸濁液(図5E)の両方において、主に、5μm〜10μmのマイクロスフェアからなった。25%エネルギー出力で超音波処理した試料は、ブレンドフィルム(図5C)および水懸濁液(図5F)の両方において、主に、ナノスフェアからなった。スケールバーは50μmである。
【図6】図6A〜6Fは、絹スフェアへのモデル薬物の負荷および分布を示す。絹/PVAブレンド溶液は1.0%絹/4.0%PVA(wt%)を含有した。テトラメチルローダミン結合ウシ血清アルブミン(TMR-BSA)、テトラメチルローダミン結合デキストラン(TMR-デキストラン)、またはローダミンB(RhB)を絹フィブロイン溶液と予め混合した後に、PVAとブレンドした。図6A〜6Fは、水溶液中に懸濁されたスフェアの共焦点画像を示す。図6A〜6Cは低倍率画像である。図6D〜6Fは高倍率画像である。画像の下にある表は、遠心分離後の上清画分に残っていた薬物の量を測定することによって求められた、負荷された薬物の量および負荷効率を示す。スケールバーは図6A〜6Cでは35μmであり、図6D〜6Fでは5μmである。
【図7】絹スフェアからの累積薬物放出を示す。モデル薬物が負荷された絹スフェアは、絹/PVAブレンドフィルムから調製された。ブレンドフィルムの調製に使用した絹/PVAブレンド溶液は1.0%絹および4.0%PVA(wt%)を含有した。薬物放出プロファイルを求めるために、ある特定の望ましい時点で絹スフェアを遠心分離し、上清中の薬物濃度を測定した。
【図8】絹/PVAブレンドフィルムに対する示差走査熱量測定(DSC)の結果を示す。「PS」はPVAおよび絹を示す。1:1の絹/PVA(重量比)をブレンドすることによって得られたブレンドフィルムの場合、PVAのガラス転移温度(Tg)は高温にシフトしたのに対して、絹のTgは変化しなかった。1:4の絹/PVA(重量比)をブレンドすることによって得られたブレンドフィルムの場合、PVAおよび絹のTgは両方とも変化しなかった。絹/PVA 1/4ブレンドであり、超音波処理したフィルムの場合、PVAおよび絹のTgは高温にシフトした。PVA単独および絹フィルム単独は対照として役立った。
【図9】図9Aおよび9Bは、絹スフェアの動的光散乱(DSL)測定を示す。スフェアのサイズは、絹/PVAブレンド溶液絹中の絹およびPVAの濃度を変えることによって制御し、ブレンド溶液を8W超音波処理エネルギーで超音波処理した。図9Aは、絹溶液およびPVA溶液のブレンドから得られた絹スフェアの確率密度(G(Dh)、実線)および累積分布(C(Dh)、破線)を示す。絹溶液およびPVA溶液の初期濃度はそれぞれ、0.2wt%、1wt%、および5wt%であり、ブレンド比は1:4であり、キュムラント(cumulant)分析を使用した。ブレンド溶液中の絹/PVAの最終重量濃度は、それぞれ、0.04%絹/0.16%PVA、0.2%絹/0.8%PVA、および1.0%絹/4.0%PVAであった。図9Bは、強度平均(intensity-averaged)指数サンプリングを用いた、図9Aと同じ試料から得られた流体力学的サイズ分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本発明は、本明細書に記載の特定の方法、プロトコール、および試薬などに限定されず、従って、変更してもよいことが理解されるはずである。本明細書において用いられる専門用語は特定の態様の説明のみを目的とし、本発明の範囲の限定を目的とせず、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0016】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる単数形は、文脈によってはっきりと示されていない限り複数の指示物を含み、逆もまた同じである。機能している例を除き、または特に定めのない限り、本明細書において用いられる成分の量または反応条件を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語により修飾されていると理解しなければならない。
【0017】
特定された全ての特許および他の刊行物は、説明および開示のために、例えば、本発明と共に用いられ得るこのような刊行物に記載の方法の説明および開示のために参照として本明細書にはっきりと組み入れられる。これらの刊行物は、本願の出願日前の刊行物の開示のためだけに提供される。この点に関して、本明細書には、先行発明に基づいて、または他の任意の理由により本発明者らがこのような開示に先行する権利がないと認められると解釈されるものは何もない。日付に関する全ての記載またはこれらの文書の内容に関する表記は出願人が入手可能な情報に基づくものであり、これらの文書の日付または内容の正確さに関する是認を構成するものではない。
【0018】
特に定めのない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実施または試験において任意の公知の方法、装置、および材料を使用することができるが、この点に関して方法、装置、および材料を本明細書において説明する。
【0019】
様々な生物医学用途および薬学用途においてマイクロ粒子システムおよびナノ粒子システムが広く用いられている。Chiellini et al., 3 Nanomed. 367-93(2008)。薬物送達の目的で、これらのシステムは、空間的および時間的に薬物放出プロファイルが制御される治療剤リザーバーとして役立ち、従って、望ましい治療アウトカムが得られる。使用されるマイクロスフェアおよびナノスフェアには、一般的に、薬物を傷つけることなく薬物を組み込む能力、調整可能な薬物放出キネティックス、高いインビボ安定性、生体適合性(例えば、毒性および免疫原性の欠如)、ならびに特定の器官および組織を標的とする能力がなければならない。送達経路および疾患部位に応じて、マイクロ粒子(1μm〜1000μm)またはナノ粒子(1nm〜1000nm)が適している場合がある。
【0020】
ナノ粒子は小さな毛細管を透過することができ、非常に多くの生理学的障壁を乗り越え、細胞に取り込まれることができる。従って、ナノスフェアを用いると、標的部位で効率的な薬物蓄積を誘導することができる。腫瘍におけるさらに多くの標的局在化およびさらに活発な細胞取り込みを得るために、癌などの様々な疾患を治療するための薬物送達ナノスフェアを開発する努力がなされてきた。Davis et al., 7 Nat. Rev. Drug Discov. 771-82(2008)。ナノスフェアは、通常、短時間作用型送達ビヒクルとして設計され、以下の様々な経路を介して投与される:静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、経口経路、鼻経路、眼経路、または経皮経路。一般的に、ナノスフェアは液体担体を用いて流動化されるか、または固体散剤として投与される。Hoet et al., 2 J. Nanobiotech. 12(2004); Mundargi et al., 125 J. Control Release 193-209(2008)。
【0021】
マイクロスフェアは、一般的に、長時間作用送達のためのデポー薬物担体として用いられ、多くの場合、筋肉内投与または皮下投与される。Mundargi et al., 2008。粘膜付着性を有するマイクロスフェアも経口送達または経鼻送達することができる。このようなマイクロスフェアは粘膜に付着することができ、封入薬物を長期間にわたって放出することができる。Mundargi et al., 2008。通常、長時間作用型薬物送達ビヒクルの薬物放出は、ポリマーネットワークおよび/またはポリマーマトリックス分解(加水分解もしくはタンパク質分解)を通じた薬物分子の拡散に基づいて制御される。長時間作用型送達微小胞もまた、ポリマースキャフォールドの中の増殖因子を放出することによって組織再生に使用することができる。Chen & Mooney, 20 Pharm. Res. 1103-12(2003)。封入された増殖因子が空間的および時間的に制御可能に放出されるように、微小胞がスキャフォールドの中に組み込まれ、好ましくは、望ましいパターンで分配される。Wang et al., 134 J. Control. Release 81-90(2009)。
【0022】
場合によっては、調製されたスフェアのサイズが、特定の疾患部位、例えば、肺薬物送達における症例を標的とするのに望ましいサイズとなり得るように、凝集、噴霧乾燥、または他の手段によって、ナノスフェアがさらに大きなスフェアに組み込まれている。Rytting et al., 5 Expert Opin. Drug Deliv. 629-39(2008)。ナノスフェアはまた、インビボでの放出および分解を制御するために腸溶コーティングを用いてマイクロカプセルに閉じ込めることもできる。Lee et al., 20 J. Microencapsul. 489-96(2003)。スフェアの形状は、ポリマー分解にある程度の影響を及ぼすことがあり、従って、薬物放出プロファイルに影響を及ぼすことがある。Champion et al., 121 J. Control. Release 3-9(2007)。
【0023】
マイクロ粒子送達システムおよびナノ粒子送達システムを製作するために合成材料を使用することができる。例えば、生分解性合成ポリマーとしてポリエステルおよびポリ酸無水物が一般的に用いられる。Chiellini et al., 2008。これらのポリマーは1種類の単量体からなるので、これらのインビボ分解は良好に制御することができ、場合によっては、分子量、異なるコポリマー間の比、および結晶化度などのような要因によって決定することができる。しかしながら、これらのポリマーには、多くの場合、これらの用途を制限することがある固有の欠点がある。例えば、これらのポリマーは疎水性であるために有機溶媒に溶解する必要がある。有機溶媒は、負荷しようとするタンパク質薬物に対して有害なことがある。さらに、これらのポリマーの分解産物は、多くの場合、酸性であり、これによって、タンパク質活性物質が変性することがある。
【0024】
合成ポリマーと比較して、コラーゲン、ゼラチン、セルロース、ヒアルロン酸、アルギン酸塩およびキトサンなどの天然分解性ポリマーは多くの面において有利である。例えば、これらの天然ポリマーは自然に豊富にあり、優れた生体適合性を有し、簡単な化学反応によって容易に改変する能力を有する。Chiellini et al., 2008; Dang & Leong, 58 Adv. Drug Delivery 487-99(2006)。しかしながら、多くの場合、これらの天然ポリマーを生物医学用途に使用することは、通常、難しい。なぜなら、天然ポリマーのバッチ品質に一貫性がなく、不安定であり、分解速度が制御できないからである。
【0025】
カイコフィブロインは絹繊維の構造タンパク質である。絹フィブロインタンパク質、特に、カイコ(Bombyx mori)(養蚕を介して実用化された織物用絹供給源)に由来する絹フィブロインタンパク質が組織工学用および薬物送達用の活性物質として研究されてきた。Altman et al., 24 Active agents 401-16(2003); Hofmann et al., 111 J. Control. Release 219-27(2006); Wang et al., 117 J. Control. Release 360-70(2007); Wang et al., 29 Biomats. 1054-64(2008); Wenk et al., 132 J. Control. Release 26-34(2008)。例えば、WO04/000,915;WO04/062,697;WO05/012,606;WO08/150861も参照されたい。絹フィブロインは、フィルム、3D多孔性スキャフォールド、電界紡糸繊維、およびヒドロゲルなどの望ましい形状に容易に製作することができる。絹フィブロイン溶液は、以前に用いられた手順に従ってストック水溶液として調製されてもよい。Sofia et al., 54 J. Biomed. Mat. Res. 139-48(2001)。絹フィブロインタンパク質は、その独特の構造および結果として生じる機能があるために独特の天然繊維タンパク質ファミリーである。Altman et al., 2003; Kaplan et al., 544 Silk Polymers: Mats. Sci. & Biotech.(Am. Chem. Soc'y Symp. Series, Washington, DC, 1994)。絹の分子構造は、多くの場合、比較的短くかつ親水性の高い領域(スペーサー)によって分離された疎水性アミノ酸の大きな領域(ブロック)からなる。疎水性ドメインは集合してタンパク質結晶(βシート)を構築する。これらのβシートは、絹構造を安定化する物理的架橋を形成し、一般的に、主に、アラニン、グリシン-アラニン、またはグリシン-アラニン-セリンアミノ酸残基の反復からなる。絹のpIは約4であり、荷電アミノ酸は主に親水性領域ならびにN末端およびC末端に位置している。Bini et al., 335 J. Mol. Biol. 27-40(2004)。
【0026】
他の天然で分解する材料と比較して、絹フィブロインは、機械的特性が優れている、結晶化度が制御可能なためにインビボ分解速度が数週間〜数ヶ月間にわたって制御可能である、移植後に炎症反応および免疫原性反応の無く生体適合性が優れてい、水相中で材料に加工できる、ならびにフィルム、繊維、ゲル、スポンジ、マイクロスフェアなどを含めて材料形式が多様である。絹材料は、結晶性βシートが制御可能に形成するために封入効率が高く、薬物放出キネティックが制御可能であり、従って、薬物送達、特にタンパク質薬物に適している。Hofmann et al., 2006; Wang et al., 2007; Wilz et al., 29 Biomats. 3609-16(2008)。従って、絹フィブロインタンパク質をベースとするマイクロスフェアおよびナノ粒子は生体適合性、生分解性があり、薬物負荷特性および放出特性が調整可能なために薬物送達の新たな選択肢を提供する。
【0027】
薬物が負荷されたマイクロスフェアおよびナノスフェアを調製するために、エマルジョン-溶媒蒸発/抽出法、溶媒置換、相分離、自己組織化、超臨界流体溶液の迅速な拡大、および噴霧乾燥などのいくつかの技法を利用することができる。絹フィブロインは様々な手段によってマイクロスフェアに製作されており、薬物送達に用いられている。Wang et al., 117 J. Control. Release 360-70(2007); Gobin et al., 1 Int'l J. Nanomed. 81-87(2006); Wang et al., 28 Biomats. 4161-69(2007)。WO08/118,133も参照されたい。しかしながら、以前のいくつかの製作方法は、絹フィブロイン結晶性βシート構造形成を誘導するために、従って、絹スフェアが水不溶性になるために、メタノール、エタノール、およびアセトンなどの有機溶媒に頼っていた。さらに、依然として絹ナノスフェアの製作は困難な分野である。最近、35nm〜125nmのサイズを有する絹ナノスフェアの製作が報告されているが、このような製作方法では、少なくとも70%(v/v)の水混和性プロトン有機溶媒および極性非プロトン性有機溶媒が用いられる。Zhang et al., 9 J. Nanosphere Res. 885-900(2007)。この方法によって調製されたナノスフェアは化粧品および抗UVスキンケア製品において有用であるかもしれないが、有機溶媒が用いられているために薬物送達用途には適していないかもしれない。
【0028】
絹が高分子量であり、タンパク質の性質があるために、絹の製作は、通常、制御しにくい。さらに、絹は、加熱、加塩、大きな剪断力、およびpH値の変化に供されると自己組織化して繊維またはゲルネットワークになる傾向がある。さらに、従来の製作方法による絹スフェアのサイズおよび形状の制御は限られていた。従って、不安定でかつ活性のある分子を送達するために、制御可能なスフェアサイズおよび形状を有する絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアを製作し、製作プロセス中の有機溶媒および他の過酷な条件の使用を回避する新たな戦略が必要とされる。
【0029】
ポリビニルアルコール(PVA)溶液および絹溶液が混合され、その後に、成型されてフィルムになった時に、2種類のポリマー溶液間の相分離は自発的に起こることがあると報告されている。Yamaura et al., 41 J. Appl. Polym. Sci. 2409-25(1990); Tanaka et al., 42 Polym. Int. 107-11(1997)。PVAおよび絹のブレンドは、絹の二次構造ならびにブレンドフィルムの機械的特性および膨張特性に影響を及ぼした。PVAの分子量およびPVAと絹の比を変えると、マクロ相分離およびミクロ相分離が変化した。Yamaura et al., 1990; Tanaka et al., 1997; Liu et al., 33 J. Macromol. Sci.: Pure Appl. Chem. 209-19(1996); Tanaka et al., 45 Polym. Int. 175-84(1998)。対照的に、本発明は、絹およびPVAの相分離から調製された絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアを提供する。特に、本発明は、制御されたサイズおよび形状を有する絹マイクロ粒子および絹ナノ粒子を調製する方法ならびに薬物を絹フィブロインマイクロ粒子および絹フィブロインナノ粒子に封入する方法を提供する。薬物が封入された絹スフェアの薬物負荷および放出プロファイルも特徴付けられる。
【0030】
本発明は、制御されたサイズおよび形状を有する絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアを調製する方法を提供する。前記方法は、連続相としてPVAを用いて、絹/PVAブレンド溶液または絹/PVAブレンドフィルムいずれかの中で、絹フィブロイン溶液を絹ナノスフェアおよび/または絹マイクロスフェアに分離する工程を含む。絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアは、乾燥したブレンドフィルムを水に溶解し、次いで、遠心分離して残存PVAを除去することによって容易に入手および単離することができる。結果として生じた絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアは水不溶性であり、βシート含有率が高い。絹粒子の形状は、乾燥した絹/PVAブレンドフィルムを水に溶解する前に、乾燥した絹/PVAブレンドフィルムに制約を加えることによって変えることができる。例えば、単に、乾燥した絹/PVAブレンドフィルムを引き伸ばすことによって、紡錘状の絹粒子を得ることができる。本発明の絹スフェアのスフェアサイズおよびサイズ分布は、様々な手段によって、例えば、溶液を乾燥させる前に、ブレンド溶液中の絹およびPVAの濃度を変えることによって、または超音波処理を絹/PVAブレンド溶液に加えることによって制御することができる。絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアの多孔性内部空間および両親媒性は分子量および疎水性の異なる薬物の捕捉を容易にし、従って、薬物放出を制御可能にすることができる。従って、本発明の製作方法は、簡単、安全で、制御可能であり、時間効率およびエネルギー効率が良く、薬物を受け入れられ、薬物送達または組織工学などの様々な生物医学用途および薬学用途に適した絹ベース組成物の作製において有用である。
【0031】
本明細書で使用する「フィブロイン」という用語は、カイコフィブロインおよび昆虫またはクモの絹タンパク質を含む。Lucas et al., 13 Adv. Protein Chem.107-242(1958)。例えば、フィブロインは、溶解したカイコ絹またはクモ絹を含有する溶液から得られる。カイコ絹タンパク質は、例えば、カイコから得られ、クモ絹はネフィラ・クラビペス(Nephila clavipes)から得られる。別の選択肢では、遺伝子操作された絹、例えば、組換え細菌、酵母、哺乳動物細胞、トランスジェニック動物、またはトランスジェニック植物に由来する遺伝子操作された絹を含有する溶液から、適切な絹タンパク質を得ることができる。例えば、WO97/08315;米国特許第5,245,012号を参照されたい。
【0032】
絹/PVAブレンドフィルムは、機械的特性、膨張、および透過性の点で以前に特徴付けられている。Wang et al., 2007; Zhang et al., 2007; Yamaura et al., 1990; Tanaka et al., 1997。絹およびPVAは、巨視的または微視的にブレンドフィルムの中で異なる相に分離され、相分離は、絹とPVAの比ならびに使用したPVAの分子量に依存した。ブレンドフィルム中の絹フィブロインが50wt%未満である場合、スフェアサイズが1μm未満〜約30μmに分布するマイクロスフェアを形成した。Zhang et al., 2007。さらに、本発明は、穏やかな条件下で均一な絹マイクロスフェア、ナノスフェア、マイクロスピンドル(microspindle)、またはナノスピンドル(nanospindle)を調製するための、絹/PVAブレンドフィルムの加工を提供する。
【0033】
本発明では、PVAは、絹フィブロイン溶液を絹スフェアに分離するための連続相として用いられる。理論に拘束されるつもりはないが、絹とPVAとの相分離は、絹開始溶液およびPVA開始溶液を混合した直後に起こる可能性が高い。ブレンド水溶液から絹スフェアを単離するために、様々な手段を絹/PVAブレンド溶液に適用して、絹スフェアを水不溶性にする、従って、水相から水不溶性の絹スフェアを分離することができる。例えば、絹/PVAブレンド溶液を乾燥させてフィルムにしてもよく、メタノール処理してもよい。
【0034】
本発明のある態様では、絹フィブロインおよびPVAを水溶液中で混合し、次いで、成型および乾燥して、絹/PVAブレンドフィルムを形成する。次いで、絹/PVAブレンドフィルムを水に溶解して、フィルム中で生じたものと同じ形状およびサイズを水中で保っている絹マイクロスフェアを形成する。絹スフェアは容易に収集され、特徴付けのために水に再懸濁される。1つの態様において、1.0wt%の絹および4.0wt%のPVAを含む絹/PVAブレンド溶液は、例えば、5wt%絹開始溶液および5wt%PVA開始溶液を1:4 絹:PVAの重量比で混合することによって調製することができる。別の局面において、2.5wt%の絹および2.5wt%のPVAを含む絹/PVAブレンド溶液は、例えば、5wt%絹開始溶液および5wt%PVA開始溶液を1:1 絹:PVAの重量比で混合することによって調製することができる。これらの態様におけるブレンド溶液から調製された絹スフェアは約1μm〜約30μmのサイズを有し、光学顕微鏡によって特徴付けることができる。これらのスフェアは、室温で数週間のインキュベーション後でも安定である。SEMの下で、両ブレンド溶液から調製された絹/PVA試料はマイクロスフェアおよびナノスフェアを含有した。スフェアの表面は粗く、ナノメートルサイズの孔がいくつかあった(図1A、1B)。50パーセント(50%)メタノールで処理しても、スフェアの形態は変化しなかった(図1C)。スフェアを水で2回洗浄した時には、恐らく、PVAが完全に除去されたために、表面はさらに多孔性になった(図1D)。一部のスフェアは欠陥を有し、絹ナノファイバーによって保持される空の内部空間を示した(図1D挿入図)。このような表面形態および多孔性の内部構造は、絹スフェアに独特の薬物負荷特性および放出特性を付与することができる。2.5%絹/2.5%PVA(wt%)ブレンド溶液から調製された絹/PVAブレンドフィルムと、1.0%絹/4.0%PVA(wt%)から調製された絹/PVAブレンドフィルムを比較すると、後者は素速く(10分以内)かつ完全に水に溶解して、均質な懸濁液を形成することができる。後者から形成されたマイクロスフェアは、光学顕微鏡およびSEMによって特徴付けられた時に狭いサイズ分布を有する。
【0035】
ブレンド溶液を乾燥させてフィルムにする工程は、安定した水不溶性の絹ナノ粒子および絹マイクロ粒子を形成する必要な工程である。例えば、対照実験において、絹/PVAブレンド溶液を室温で2時間攪拌した後(ブレンドフィルムの調製に使用した条件)、すぐに遠心分離した時には、絹マイクロスフェアを収集することができなかった。代わりに、噴霧乾燥などの他の乾燥アプローチを使用することができるが、フィルムの成型より時間効率および労働効率が良いかもしれない。アズキャスト(as-cast)絹フィルムを水不溶性にするために、メタノール(またはエタノール)処理および水蒸気(水鈍)処理が用いられている。Jin et al., 15 Adv. Funct. Mater. 1241-47(2005)。本発明の態様では、メタノールを絹/PVAブレンド溶液に添加し、メタノールが50%(v/v)より高い濃度に達した時に、安定したかつ水不溶性の絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアが溶解状態でも形成した(図1E)。しかしながら、メタノール処理した絹/PVAブレンド溶液から調製されたスフェアには多くの絹フィブロイン凝集物が含まれ、これは、ブレンドフィルムからの調製物には観察されなかった。絹/PVAブレンドフィルムを減圧環境下、室温で24時間、水蒸気処理した時には、フィルムは依然として水溶性であり、形成された絹スフェアの一部はしわのある表面(図1F)および/または平らな円板形状(図1G)を示した。
【0036】
絹/PVAブレンド溶液の様々な処理から調製された絹スフェアの構造も評価した。βシート含有率を求めるために、(2.5wt%絹/2.5wt%PVAの絹/PVAブレンド溶液もしくは1.0wt%絹/4.0wt%PVAの絹/PVAブレンド溶液から成型された)絹/PVAブレンドフィルムの溶解から調製された、またはメタノール処理した絹/PVAブレンド溶液から調製された凍結乾燥絹スフェアに対して、フーリエ変換赤外線(FTIR)測定を行った。直接溶解、水蒸気処理(水鈍)、およびフィルムの引き伸ばしなどの絹/PVAブレンドフィルムの様々な処理も評価した。アズキャストフィルムは、最初に、主に非結晶構造(1538cm-1)を示し、一部は絹I構造(1658cm-1、1652cm-1)を示すと以前に報告された。水鈍処理後には絹I構造が最も優勢であった。メタノール処理後には絹II構造(1697cm-1、1627cm-1、1528cm-1)が大幅に増加し、50%超のβシートが形成した。Jin et al.,2005。多量の絹I構造(約30%βシート)が形成したら、さらにメタノール処理しても絹I構造を絹II構造に変換することはできない。Jin et al.,2005。
【0037】
表1に示したように、メタノール処理ブレンド溶液からの絹スフェアには約50%のβシートがあったのに対して(絹II)、ブレンドフィルムの異なる処理からの絹スフェアのβシート含有率は約30%であった(絹I)。
【0038】
(表1)絹/PVAブレンドフィルムから調製された絹スフェア中のβシート含有率

【0039】
絹フィルム上での水蒸気の役割と同様に、恐らく、PVAおよび絹のヒドロキシル基間で水素結合が形成したために、PVAも乾燥絹スフェアの中にある絹I構造の形成を促進した。さらに、絹I構造を有する絹スフェアが50%(v/v)メタノールで24時間処理された時には、1.0wt%絹/4.0wt%PVAを含む絹/PVAブレンド溶液から成型された絹/PVAブレンドフィルム中のβシート含有率は約40%まで増加したのに対して、2.5wt%絹/2.5wt%PVAを含む絹/PVAブレンド溶液から成型されたブレンドフィルム中のβシート含有率は増加しなかった。可能性のある理由の1つは、PVA分子が絹スフェアの中にランダムに分布し、絹分子の空間近接を誘導し、従って、ランダムコイルからβシートへの絹構造遷移を誘導した可能性があることである。1.0wt%絹/4.0wt%PVAブレンド溶液から成型されたブレンドフィルム中の絹とPVAとの分子間相互作用は、2.5wt%絹/2.5wt%PVAから成型されたブレンドフィルム中の絹とPVAとの分子間相互作用と比較して大きかった。従って、1.0wt%絹/4.0wt%PVAブレンド溶液から成型された絹/PVAブレンドフィルム中の絹構造遷移は、メタノール処理によって、さらに絹IIの方に進んだ。さらに、水鈍処理をした絹フィルムはプロテアーゼ溶液中でインキュベートした時に、メタノール処理をした絹フィルムより非常に速く重量が減った。Jin et al., 2005。従って、絹:PVAブレンドフィルムから調製された絹スフェアのインビトロ分解速度およびインビボ分解速度は、メタノール処理によって調製された絹スフェアより速く(Hofmann et al., 2006; Wang et al., 2007)、従って、異なる材料分解速度が必要とされる場合に、薬物送達担体として用いられる材料の代わりの選択肢となる。
【0040】
本発明の態様によれば、絹/PVAブレンドフィルムを水に溶解した後に、PVAの少なくとも一部を除去して、絹スフェアを形成する。当技術分野において公知の任意の技法によってPVAを除去することができる。例えば、遠心分離を使用し、PVAを含有する上清を除去することができる。1つの態様において、絹スフェア中の残存PVA含有率を求めるために、絹/PVAブレンドフィルムからスフェアを調製し、水で1回洗浄した。遠心分離後の絹スフェアおよび上清画分の中のPVA含有率を求めた。プロテアーゼXIVは、絹材料を消化する効率的な酵素である。Horan et al., 26 Biomats. 3385-93(2005)。プロテアーゼXIVを使用することによって、絹スフェアを消化し、残存PVAを放出した。図2に示したように、試験した全ての絹スフェアにおいて残っていたPVAは5wt%未満であった。この結果は、上清において求められたPVA含有率によっても確かめられた。PVAは、経口薬物製剤および眼内薬物製剤において広く用いられる、FDAによって認可された成分であるので、絹スフェア中に少量の残存PVAがあっても絹スフェアの生物医学用途を制限しないだろう。
【0041】
本発明の態様によれば、形状の異なる絹マイクロ粒子および絹ナノ粒子を得ることができる。薬物送達のための絹粒子の使用などの用途では絹粒子の形状を変えることが望ましい場合がある。なぜなら、Rytting et al., 2008の文献において示唆されたように、スフェア形状はスフェアのインビボ分解および薬物放出挙動に影響を及ぼすことがあるからである。本明細書で使用する「絹スフェア」という用語は、丸い、球の形をした絹粒子、ならびに紡錘形または円板形などの球形から外れた他の形をした絹粒子を含む。本発明の絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアの形状は、フィルムを水に溶解する工程の前に、様々な制約を絹/PVAブレンドフィルムに加えることによって制御することができる。例えば、絹/ブレンドフィルムを水蒸気(水鈍)処理すると、平らな円板の形をした絹スフェアを得ることができる。絹/PVAブレンドフィルムに加えられる制約はまた、引き伸ばす力などの物理的な力でもよい。このような力は、ブレンドフィルム中の絹スフェアの形状を不可逆的に変えることができる。例えば、絹/PVAブレンドフィルムを引き伸ばした後に、水に溶解することができる。結果として生じた絹スフェア、特に、マイクロメートルのサイズを有する絹スフェアは球状ではなく紡錘状で、細長かった(図1H、1I)。引き伸ばしている間に一部のスフェアは損傷し、その多孔性の内部構造が露出した(図1H挿入図)。引き伸ばされたブレンドフィルムを50%(v/v)メタノールまたは水蒸気で処理した後で水に溶解した時に、紡錘状の粒子はその形状を保持した。引き伸ばす力は、絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアを紡錘状のマイクロ粒子または紡錘状のナノ粒子に変換する。均一な絹マイクロ粒子またはナノ粒子(例えば、紡錘状の粒子または平らな円板状の粒子)は、制約を加える前に、ブレンドフィルム中の絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアの粒径およびサイズ分布を調節することによって得ることができる。圧縮およびひねりなどの他の物理的な力でも、形状の異なる絹スフェアを得ることができる。
【0042】
絹およびPVAの溶液を混合しながら、絹およびPVAを相分離している間に、絹とPVAとの間に強い水素結合が形成し、従って、絹ランダムコイル構造が安定した絹Iに素速く変換される。従って、絹とPVAとの水素結合形成を減らすように、PVA溶液中の絹相分離を操作することができる。または、起こり得る大きな絹マクロ相またはミクロ相を破壊するために、さらに大きなエネルギー(例えば、超音波処理)をブレンド溶液に加えてもよい。
【0043】
本発明の絹スフェアの粒径およびサイズ分布は、製作プロセス中に1つまたは複数のパラメータ、例えば、絹/PVAブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの重量、絹/PVAブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度、PVAの分子量を調節することによって、または溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程前に、絹/PVAブレンド溶液に超音波処理を適用することによって制御することができる。
【0044】
本発明の絹スフェアのサイズ分布は多分散指数(PDI)によって特徴付けることができる。絹スフェアサイズ分布のPDIは、当業者に一般的に知られている方法によって、例えば、動的光散乱(DLS)測定によって求められる。粒径測定に用いられるDLSに関して、自己相関関数にフィットさせるための二次キュムラント分析または三次キュムラント分析の一般的な使用によってPDIの値が得られる。この方法から求められるPDIの絶対値は0またはそれより高く、値が小さくなるほど分布が狭いことを示す。例えば、0〜約0.3または0〜約0.4のPDIは、比較的、単分散の粒径分布を示す。この基準は、粒径測定のための動的光散乱分野において一般に受け入れられている。
【0045】
絹/PVAブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度を調節して、サイズ分布を狭め、均質な絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアを得ることができる。ブレンド溶液中の絹およびPVAの重量比は、相分離を決定する要因である。ブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度も絹とPVAとの相互作用に影響を及ぼす。絹フィブロインおよびPVAの溶解度が許すのであれば、ブレンド溶液中の絹フィブロイン濃度およびPVA濃度は0.02wt%と低くでもよく、15wt%と高くてもよい。絹/PVAブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度および重量比は容易に調節することができ、例えば、ブレンドされる絹開始溶液およびPVA開始溶液の濃度ならびに絹開始溶液およびPVA開始溶液の体積を選択することによって調節することができる。絹フィブロイン開始溶液およびPVA開始溶液の濃度は同じでもよく、異なってもよい。1つの態様において、精製された絹水溶液は約8wt%であり、これをほぼ無限に希釈してもよく、30wt%まで濃縮してもよい。実現可能な最大のPVA濃度はPVA分子量の影響を受ける。例えば、分子量が30,000〜70,000のPVAが用いられる時には、PVAの水溶解度のために、8wt%を超えるPVA濃度は容易に実現しない場合がある。
【0046】
ブレンド溶液中の絹およびPVAの重量比を調節するアプローチの1つは、混合しようとする開始溶液の体積を調節しながら、絹開始溶液およびPVA開始溶液の濃度を同一に保つことである。本発明のある特定の態様では、0.02wt%、0.2wt%、1wt%、または5wt%の同濃度の絹開始溶液およびPVA開始溶液を使用した。絹/PVAブレンド溶液の調製に使用する絹開始溶液およびPVA開始溶液の濃度は30wt%と高くてもよい。ブレンド溶液中の絹およびPVAの例示的な最終濃度を表2に示した。
【0047】
(表2)絹/PVAブレンド溶液中の濃度

【0048】
絹とPVAとの相互作用を低下させるために、ブレンド溶液中の絹とPVAの重量比を1:4に調節し、混合のために使用した絹開始溶液およびPVA開始溶液の濃度を5wt%から1wt%または0.2wt%まで下げた。言い換えると、ブレンド溶液中の絹濃度を1wt%から0.2wt%または0.04wt%に下げ、ブレンド溶液中のPVA濃度を4wt%から0.8wt%または0.16wt%に下げた。SEMによって特徴付けた時に、1wt%絹/4wt%PVAブレンド溶液から調製された絹スフェアは、ナノメートルからマイクロメートルの広いサイズ分布を有した。0.2wt%絹/0.8wt%PVAブレンド溶液から調製された絹スフェアについては大きな改善は観察されなかったが、0.04wt%絹/0.16wt%PVAブレンド溶液から調製された絹スフェアは、主に、比較的均質なサイズ分布(100nm〜500nm)を有するナノスフェアからなった(図3)。
【0049】
絹スフェアを動的光散乱測定にも供した。この特徴付けのために、水に溶解した絹スフェア懸濁液を、Millex(登録商標)-SV(Millipore, Billerica, MA)によって5μm膜に通して濾過した後に、測定した。0.04wt%絹/0.16wt%PVAブレンド溶液から作製された絹スフェアは、平均スフェアサイズが452nmであり、多分散指数(PDI)がPDI 0.29であり、2μmより大きいスフェアが無く、比較的均質なサイズ分布を示した(図4)。しかしながら、0.2wt%絹/0.8wt%PVAブレンド溶液から作製された絹スフェアおよび1wt%絹/4wt%PVAブレンド溶液から作製された絹スフェアは、さらに大きな平均サイズ(それぞれ、536nmおよび578nm)ならびにPDI(それぞれ、PDI 0.56およびPDI 0.68)を有し、スフェアサイズは100nm〜5μmに及んだ(図4)。この結果は、SEMにより観察された結果と一致した。理論に拘束されるつもりはないが、絹ヒドロキシル基とPVAヒドロキシル基との間に水素結合が形成すると絹スフェア構造が安定化するので、低いポリマー濃度は相互作用を変えることができ、従って、スフェアサイズおよびサイズ分布を両方とも制御できると思われる。
【0050】
ブレンド溶液中のPVA含有率を上げても、サイズ分布ははっきりと変わらなかった。従って、ブレンド溶液中のPVAの重量比(または質量濃度比)は、ブレンド溶液中の絹濃度の4倍より大きくてもよい。理論上、ブレンド溶液中のPVA濃度は無限に大きくすることができる。しかしながら、ブレンド溶液中の高いPVA濃度はPVAの水溶解度により制限される。例えば、平均分子量が30000〜70000のPVA濃度が用いられる時、溶解状態でのPVA濃度は8wt%より大きくならない場合がある。さらに、ブレンド溶液中のPVAの重量比(または質量濃度比)がブレンド溶液中の絹濃度の4倍より高い時には、水相からの絹スフェアの単離プロセスは、絹/PVA重量比がさらに高いブレンド溶液より効率が悪くなる場合がある。
【0051】
ブレンド溶液中の絹濃度を下げると、絹スフェアのサイズおよびサイズ分布が小さくなる。特に、比較的均質なサイズ分布を有する絹ナノスフェアは、絹/PVAブレンド溶液中の絹濃度を下げることによって調製することができる。例えば、0.04wt%絹/0.16wt%PVAブレンド溶液から調製された絹スフェアは、主に、比較的均質なサイズ分布を有する絹ナノスフェアからなった。原則的に、さらに小さいサイズおよびサイズ分布を有する絹スフェアを調製するために、絹およびPVA溶液をほぼ無限に希釈することができる。しかしながら、希釈したブレンド溶液を乾燥させるのであれば、長い時間および大きな容器が必要となるであろう。
【0052】
分子量の異なるPVAの使用もスフェアサイズおよびサイズ分布に影響を及ぼすことがある。Tanaka et al., 1998。PVAの分子量はまた絹/PVAフィルムの溶解度にも影響を及ぼし、従って、絹スフェアの調製に影響を及ぼすことがある。本発明の態様において用いられるPVAの平均分子量は、一般的に、30,000〜124,000の範囲内でもよい。本発明の1つの態様において、PVAの平均分子量は30,000〜70,000である。別の態様において、PVAの平均分子量は85,000〜124,000である。分子量がさらに大きなPVAが用いられた時に、絹/PVAブレンドフィルムを溶解するために、さらに長いインキュベーション時間(すなわち、数時間)が必要とされる場合がある。しかしながら、PVA分子量がある特定の限界に達した時に(例えば、MW=146,000〜186,000)、室温または60℃で長期間(数日)インキュベートした後でも、絹/PVAブレンドフィルムは水不溶性になった。これらの結果は、高分子量PVAを用いた時には、絹とPVAとの間に形成された水素結合が強すぎて水和により破壊できない場合があることが示唆された。
【0053】
本発明の絹スフェアのサイズおよびサイズ分布はまた、溶液を乾燥させてフィルムにする前に、絹/PVAブレンド溶液に力を加えることによって、例えば、超音波処理を加えることによって調節することもできる。この点に関して、絹/PVA相分離に影響を及ぼすために、超音波処理のエネルギー出力をさらに変えることができる。特に、比較的均質なサイズ分布を有する絹ナノスフェアは、高エネルギー出力で超音波処理を絹/PVAブレンド溶液に適用することによって調製することができる。使用した超音波処理のエネルギー出力は、超音波処理しようとする溶液の体積に依存することがある。超音波処理のエネルギー出力は、大きなスフェアを破壊する態度に十分に高くなければならない。例えば、体積が5mlのブレンド溶液の場合、12%超音波処理エネルギー出力(4ワットに相当する)であれば、大きなスフェアをマイクロメートルサイズに破壊することができる。ほとんどのスフェアをナノメートルサイズに破壊するのには、25%超音波処理エネルギー出力(8ワットに相当する)で十分な大きさであるかもしれない。1つの態様において、例えば、1wt%絹/4wt%PVAブレンド溶液を用いて、絹スフェアを調製した。体積が5mlのブレンド溶液に超音波処理エネルギー出力の12%および25%が用いられた時に、成型された絹/PVAブレンドフィルムは、光学顕微鏡によって特徴付けられた時に、主に、それぞれ、マイクロスフェアおよびナノスフェアからなった(図5)。12%振幅のエネルギー出力であれば、大きなスフェアを破壊して、サイズ範囲が5μm〜10μmの小さな絹マイクロスフェアを得ることができる。しかしながら、主に、ナノメートルサイズのスフェアを得るには、25%超音波処理エネルギー出力で十分な大きさであった。この結果は動的光散乱(DLS)測定によって確かめられた。25%超音波処理エネルギー出力によって処理した絹スフェアを5μm膜に通して濾過し、DSL測定に供した。このような処理された絹スフェアの平均スフェアサイズは322nm、PDI 0.4であり、2μmより大きいスフェアが無かった。12%超音波処理エネルギー出力によって処理した絹スフェアも、25%超音波処理エネルギー出力によって処理した絹スフェアとほぼ同じサイズのナノスフェアの一部を含有した。しかしながら、これらのナノスフェアの濃度は、2種類の試料の光散乱強度を比較することによって評価された時に、25%超音波処理エネルギー出力によって処理した絹スフェアの約1/4であった。従って、超音波処理エネルギー出力、すなわち、ブレンド溶液中のエネルギー入力の変化は、マイクロメートル範囲およびナノメートル範囲をカバーする絹スフェアのサイズおよびサイズ分布に直接影響を及ぼす。さらに、25%振幅超音波処理によって調製された絹スフェア中のβシート含有率がFTIRによって求められ、超音波処理の無い絹スフェアと比較して有意な増加(約12%)を示した。このことから、結晶絹II構造が形成したことが分かる(表1)。
【0054】
本発明において、ブレンドフィルム中の連続PVA相は、これに埋め込まれている絹スフェアのサイズおよび形状を固めるおよび固定するように機能する。連続PVA相はまたβシート構造の形成も誘導する。従って、絹βシート構造形成を妨げることなく、ブレンド溶液中の絹およびPVAの相分離に影響を及ぼすことができる方法を用いると、絹スフェアのスフェアサイズおよびサイズ分布を制御することができる。例えば、絹/PVAブレンド溶液に3wt%〜8wt%グリセリンを添加すると、恐らく、PVAと絹の相互作用がグリセリンの中にあるヒドロキシル基の影響を受けるためにブレンドフィルム中の相分離を低下することができる。Dai et al., 86 J. Appl. Polym. Sci. 2342-47(2002)。従って、絹ナノスフェア調製のためにポリマー濃度を下げる代わりに、ブレンド絹/PVA溶液へのグリセリンまたは他のヒドロキシル基に富む化合物もしくはポリマーの添加を使用することができる。塩濃度、pHなどの他の要因も相分離に影響を及ぼすことがある。従って、絹サイズおよびサイズ分布は、(a)絹/PVAブレンド溶液へのグリセリンまたは他のヒドロキシル基に富む化合物またはポリマーの添加;(b)絹/PVAブレンド溶液のpHの調節;あるいは(c)絹/PVAブレンド溶液への塩の添加、任意で、絹/PVAブレンド溶液の塩濃度の調節のうちの1つまたは複数によって制御することができる。サイズ分布を狭めるために調節することができるさらなる要因の中には、乾燥速度(数分〜3日まで)およびインキュベート温度(4℃〜60℃まで)の制御が含まれるが、これらの要因について、スフェアサイズ分布のはっきりした変化は顕微鏡下で観察されなかった。恐らく、これらの処理は絹ミクロ相の集塊または分散を誘導しない。
【0055】
さらに、本発明の方法は、用途に応じて、絹ナノスフェアから絹マイクロスフェアを除去する工程またはマイクロスフェアからナノスフェアを除去する工程を含んでもよい。望ましくないサイズを有するスフェアは、濾過または遠心分離などの当業者に公知の分離法によって容易に除去することができる。例えば、本明細書に記載の1つの態様において、500nm未満の平均スフェアサイズを有し、かつ2μmより大きいスフェアを有さない絹ナノスフェアが調製された。500nmより大きいスフェアを除去する500nm膜を用いて、絹ナノスフェアを濾過することができる。
【0056】
さらに、本発明は、本明細書の前記の態様に記載の本発明の任意の方法によって調製された、絹フィブロインマイクロスフェア組成物または絹フィブロインナノスフェアを提供する。
【0057】
本発明の態様はまた、生理活性物質または化学物質などの活性物質を、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する多孔性絹スフェアの中に封入する方法を提供する。前記方法は、(a)絹フィブロイン水溶液および活性物質をPVA水溶液と混合する工程;(b)工程(a)の溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;(c)工程(b)のフィルムを水に溶解する工程;ならびに(d)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、活性物質が封入された絹スフェアを形成する工程を含む。本発明はまた、本明細書に記載の方法に起因する、活性物質が封入された絹スフェア組成物を含む。
【0058】
絹フィブロイン溶液は1種類または複数種類の活性物質と混合されてもよい。活性物質は、生理活性または化学活性を有することが当業者に知られている任意の物質、例えば、治療剤または生物学的材料でよい。適切な活性物質には、化学物質、細胞(幹細胞を含む)、タンパク質、ペプチド、核酸(例えば、DNA、RNA、siRNA)、核酸類似体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、抗体またはその断片もしくは一部(例えば、パラトープまたは相補性決定領域)、抗原またはエピトープ、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、細胞付着メディエーター(cell attachment mediator)(例えば、RGD)、増殖因子または組換え増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカイン、酵素、抗酸化物質、抗生物質または抗菌性化合物、抗炎症剤、抗真菌剤、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、薬物、色素、アミノ酸、ビタミン、化学療法剤、低分子、ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、これに限定されない。前記物質は、前述の活性物質のいずれかの組み合わせでもよい。非常に多くの生物医学的な目的で、封入された生成物を使用することができるので、治療剤もしくは生物学的材料のいずれかまたはこれらの組み合わせを封入することが望ましい。
【0059】
例示的な生理活性物質には、骨形成タンパク質(例えば、BMP1〜7)、骨形成様タンパク質(bone morphogenetic-like protein)(例えば、GFD-5、GFD-7、およびGFD-8)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(例えば、FGF1〜9)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インシュリン様増殖因子(IGF-IおよびIGF-II)、トランスフォーミング増殖因子(例えば、TGF-α、TGF-βI〜III)、エリスロポエチン(EPO)、YIGSRペプチド、グリコサミノグリカン(GAG)、ヒアルロン酸(HA)、インテグリン、セレクチン、およびカドヘリン、血管内皮増殖因子(VEGF);鎮痛剤および鎮痛剤の組み合わせ;ステロイド;抗生物質;インシュリン;インターフェロンαおよびγ;インターロイキン;アデノシン;化学療法剤(例えば、抗癌剤);腫瘍壊死因子αおよびβ;抗体;細胞付着メディエーター、例えば、RGDもしくはインテグリン、または他の天然タンパク質もしくは遺伝子操作されたタンパク質、多糖、糖タンパク質、細胞毒、プロドラッグ、免疫原、またはリポタンパク質が含まれる。増殖因子は当技術分野において公知である。例えば、Rosen & Thies, Cellular & Mol. Basis Bone Formation & Repair(R.G. Landes Co.)を参照されたい。
【0060】
ある態様において、活性物質はまた、菌類、植物、動物、細菌、またはウイルス(バクテリオファージを含む)などの生物でもよい。さらに、活性物質は、神経伝達物質、ホルモン、細胞内シグナル伝達剤、薬学的に活性のある物質、毒性のある物質、農薬、化学毒素、生物学毒素、微生物、ならびに動物細胞、例えば、ニューロン、肝臓細胞、および免疫系細胞を含んでもよい。活性物質はまた、薬理学的材料、ビタミン、鎮静剤、催眠剤、プロスタグランジン、および放射性医薬品などの治療用化合物を含んでもよい。
【0061】
本明細書において使用するのに適した例示的な細胞には、前駆細胞または幹細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、上皮細胞、内皮細胞、尿路上皮細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、眼の細胞、軟骨細胞、軟骨芽細胞、骨芽細胞、破骨細胞、ケラチノサイト、尿細管細胞、腎臓基底膜細胞、外皮細胞、骨髄細胞、肝細胞、胆管細胞、膵島細胞、甲状腺細胞、副甲状腺細胞、副腎細胞、視床下部細胞、下垂体細胞、卵巣細胞、精巣細胞、唾液腺細胞、脂肪細胞、および前駆細胞が含まれ得るが、これに限定されない。活性物質はまた、前記で列挙した細胞のいずれかの組み合わせでもよい。WO2008/106485;PCT/US2009/059547;WO2007/103442も参照されたい。
【0062】
絹スフェアに組み込まれてもよい例示的な抗体には、アブシキシマブ、アダリムマブ、アレムツズマブ、バシリキシマブ、ベバシズマブ、セツキシマブ、セルトリズマブペゴル、ダクリズマブ、エクリズマブ、エファリズマブ、ゲムツズマブ、イブリツモマブチウキセタン、インフリキシマブ、ムロモナブ-CD3、ナタリズマブ、オファツムマブ、オマリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシツモマブ、トラスツズマブ、ペンテト酸アルツモマブ(altumomab pentetate)、アルシツモマブ、アトリズマブ、ベクツモマブ(bectumomab)、ベリムマブ(belimumab)、ベシレソマブ、ビシクロマブ(biciromab)、カナキヌマブ、カプロマブペンデチド、カツマキソマブ、デノスマブ、エドレコロマブ、エフングマブ(efungumab)、エルツマキソマブ(ertumaxomab)、エタラシズマブ、ファノレソマブ、フォントリズマブ(fontolizumab)、ゲムツズマブ、オゾガマイシン、ゴリムマブ、イゴボマブ(igovomab)、イムシロマブ(imciromab)、ラベツズマブ、メポリズマブ、モタビズマブ(motavizumab)、ニモツズマブ(nimotuzumab)、ノフェツモマブメルペンタン(nofetumomab merpentan)、オレゴボマブ、ペムツモマブ(pemtumomab)、ペルツズマブ、ロレリズマブ(rovelizumab)、ルプリズマブ(ruplizumab)、スレソマブ(sulesomab)、タカツズマブテトラキセタン(tacatuzumab tetraxetan)、テフィバズマブ(tefibazumab)、トシリズマブ、ウステキヌマブ、ビジリズマブ、ボツムマブ(votumumab)、ザルツムマブ、およびザノリムマブ(zanolimumab)が含まれるが、これに限定されない。活性物質はまた、前記で列挙した抗体のいずれかの組み合わせでもよい。
【0063】
例示的な抗生物質には、アクチノマイシン;アミノグリコシド(例えば、ネオマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン);βラクタマーゼ阻害剤(例えば、クラブラン酸、スルバクタム);グリコペプチド(例えば、バンコマイシン、テイコプラニン、ポリミキシン);アンサマイシン;バシトラシン;カルバセフェム;カルバペネム;セファロスポリン(例えば、セファゾリン、セファクロル、セフジトレン、セフトビプロール、セフロキシム、セフォタキシム、セフィペメ(cefipeme)、セファドロキシル、セフォキシチン、セフプロジル、セフジニル);グラミシジン;イソニアジド;リネゾリド;マクロライド(例えば、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン);ムピロシン;ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、オキサシリン、ピペラシリン);オキソリニン酸;ポリペプチド(例えば、バシトラシン、ポリミキシンB);キノロン(例えば、シプロフロキサシン、ナリジクス酸、エノキサシン、ガチフロキサシン、レバクイン(levaquin)、オフロキサシンなど);スルホンアミド(例えば、スルファサラジン、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール)、スルファジアジン);テトラサイクリン(例えば、ドキシサイリン(doxycyline)、ミノサイクリン、テトラサイクリンなど.);モノバクタム、例えば、アズトレオナム;クロラムフェニコール;リンコマイシン;クリンダマイシン;エタンブトール;ムピロシン;メトロニダゾール;ペフロキサシン;ピラチナミド;チアンフェニコール;リファンピシン;チアムフェニクル(thiamphenicl);ダプソン;クロファジミン;キヌプリスチン;メトロニダゾール;リネゾリド;イソニアジド;ピラシル(piracil);ノボビオシン;トリメトプリム;ホスホマイシン;フシジン酸;または他の局所用抗生物質が含まれるが、これに限定されない。任意で、抗生物質はまた、抗菌ペプチド、例えば、デフェンシン、マガイニン、およびナイシン;または溶菌性バクテリオファージでもよい。抗生物質はまた、前記で列挙した物質のいずれの組み合わせでもよい。PCT/US2010/026190も参照されたい。
【0064】
本明細書において使用するのに適した例示的な酵素には、ペルオキシダーゼ、リパーゼ、アミロース、有機リン酸デヒドロゲナーゼ、リガーゼ、制限エンドヌクレアーゼ、リボヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、グルコースオキシダーゼ、ラッカーゼなどが含まれるが、これに限定されない。成分間の相互作用を用いて絹フィブロインが機能化されてもよく、例えば、アビジンとビオチンの特異的相互作用を介して絹フィブロインが機能化されてもよい。活性物質はまた、前記で列挙した酵素のいずれかの組み合わせでもよい。PCT/US2010/042585を参照されたい。
【0065】
治療剤または生物学的材料を絹フィブロインに導入する時には、該物質と共に、当技術分野において公知の他の材料も添加することができる。例えば、該物質の増殖を促進する材料(生物学的材料の場合)、絹マットから放出された後に該物質の機能を促進する材料、または該物質が絹に埋め込まれている間に、該物質が生存するか、もしくはその効力を保持する能力を高める材料を添加することが望ましい場合がある。細胞増殖を促進することが知られている材料には、細胞増殖培地、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、胎仔ウシ血清(FBS)、非必須アミノ酸および抗生物質、ならびに増殖因子および形態形成因子、例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インシュリン様増殖因子(IGF-I)、骨形成増殖因子(BMP)、神経増殖因子、ならびに関連タンパク質が含まれる。
【0066】
絹スフェアを介した送達のための、さらなる選択肢には、DNA、siRNA、アンチセンス、プラスミド、リポソーム、および遺伝物質送達のための関連システム;細胞シグナル伝達カスケードを活性化するペプチドおよびタンパク質;無機化または細胞からの関連事象を促進するペプチドおよびタンパク質;絹マット-組織境界面を改善する接着ペプチドおよびタンパク質;抗菌ペプチド;ならびにタンパク質および関連化合物が含まれる。
【0067】
活性物質または生物学的材料が埋め込まれた絹スフェアは、細胞および/または活性物質の長期保管および安定化に適しているものでもよい。細胞および/または活性物質は絹スフェアの中に組み込まれると、室温(すなわち、22℃〜25℃)および体温(37℃)で少なくとも30日間、安定になることができる(すなわち、残存活性の少なくとも50%を維持する)。従って、一部の抗生物質などの温度感受性の活性物質は冷蔵することなく絹マットに入れて保管することができる。重要なことに、温度感受性の生理活性物質は絹スフェアの中に入れられて(例えば、注射によって)身体に送達され、以前に想像されていたものより長い期間にわたって活性を維持することができる。
【0068】
絹フィブロインに埋め込まれた活性物質(例えば、治療剤)または生物学的材料は生物送達装置に適している。
【0069】
絹スフェアはまた、生物送達装置として、絹複合材料として他の絹フィブロイン材料と組み合わされてもよい。例えば、本発明の絹スフェアを、絹マット、絹フィルム、絹繊維、絹ヒドロゲル、絹スポンジ、絹メッシュ、絹3Dスキャフォールドなどに埋め込む。生物送達装置として用いられる他の絹フィブロイン材料は、例えば、米国特許出願第10/541,182号;同第11/628,930号;同第11/664,234号;同第11/407,373号;PCT/US07/020789;PCT/US08/55072;PCT/US09/44117において見られる。
【0070】
本発明のある態様は、医療用移植片、組織修復における潜在的有用性のための生物送達システムまたは薬物送達システムとしての、および医療機器コーティングのための、絹フィブロインに埋め込まれた治療剤または生物学的材料の有用性に関する。
【0071】
活性物質を絹フィブロイン溶液と混合すると、絹スフェアの中に封入することができる。次いで、当技術分野において公知の典型的な放出機構を介して、封入された生理活性物質を絹スフェアから放出することができる。絹スフェア調製プロセス全体を通じて生理活性物質を活性型に維持すると、マイクロスフェアからの放出の際に生理活性物質を活性にすることが可能になる。
【0072】
生理活性物質が封入された絹フィブロインマイクロスフェアまたは絹フィブロインナノスフェアを含有する薬学的製剤が調製されてもよい。この製剤は、マイクロスフェアの中に封入されている特定の生理活性物質を必要とする患者に投与することができる。
【0073】
薬学的製剤は、局所経路、経口経路、眼経路、鼻経路、経皮経路、または非経口経路(静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射、および皮下注射、ならびに鼻腔内投与または吸入投与を含む)ならびに移植を含む、当技術分野において公知の様々な経路によって投与することができる。送達は全身でもよく、局部でもよく、局所でもよい。さらに、送達は、例えば、CNS送達の場合、くも膜下腔内でもよい。
【0074】
絹スフェアに加えて、薬学的製剤はまた標的化リガンドを含有してもよい。標的化リガンドとは、本発明の製剤を用いて、インビボおよび/またはインビトロで組織および/または受容体への薬学的製剤の標的化を促進することができる任意の材料または物質を指す。標的化リガンドは、合成でもよく、半合成でもよく、天然のものでもよい。標的化リガンドとして役立ち得る材料または物質には、例えば、抗体、抗体断片、ホルモン、ホルモン類似体、糖タンパク質、およびレクチンを含むタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、糖、単糖および多糖を含む糖類、炭水化物、ビタミン、ステロイド、ステロイド類似体、ホルモン、補因子、ならびにヌクレオシド、ヌクレオチド、ヌクレオチド酸構築物、ペプチド核酸(PNA)、アプタマー、およびポリヌクレオチドを含む遺伝物質が含まれる。本発明における他の標的化リガンドには細胞接着分子(CAM)が含まれ、この中には、例えば、サイトカイン、インテグリン、カドヘリン、免疫グロブリン、およびセレクチンがある。
【0075】
薬学的製剤はまた、標的化リガンド前駆体を含んでもよい。標的化リガンドに対する前駆体とは、標的化リガンドに変換することができる任意の材料または物質を指す。このような変換には、例えば、標的化リガンドへの前駆体の固定が関与してもよい。例示的な標的化前駆体部分には、マレイミド基、ジスルフィド基、例えば、オルト-ピリジルジスルフィド、ビニルスルホン基、アジド基、およびヨードアセチル基が含まれる。
【0076】
薬学的製剤は、他の薬学的製剤において見られる一般的な成分、例えば、公知の賦形剤を含有してもよい。例示的な賦形剤には、望ましい特定の剤形に合うように、希釈剤、溶媒、緩衝液、または他の液体ビヒクル、可溶化剤、分散剤または懸濁剤、等張剤、粘性調節剤、結合剤、潤滑剤、界面活性剤、防腐剤、安定剤などが含まれる。製剤はまた、充填剤、キレート剤、および抗酸化物質も含んでよい。非経口製剤が用いられる場合、さらにまたは代わりとして、製剤は糖、アミノ酸、または電解質を含んでもよい。
【0077】
薬学的に許容される担体として役立つことができる材料のいくつかの例には、糖、例えば、ラクトース、グルコース、およびスクロース;デンプン、例えば、トウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース;トラガカントゴム末;麦芽;ゼラチン;タルク;油、例えば、ピーナッツ油、綿実油;ベニバナ油、ゴマ油;オリーブ油;トウモロコシ油およびダイズ油;エステル、例えば、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;無毒の適合性の潤滑剤、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウム;ポリオール、例えば、分子量が約70,000kD未満のポリオール、例えば、トレハロース、マンニトール、およびポリエチレングリコールが含まれるが、これに限定されない。例えば、米国特許第5,589,167号を参照されたい。例示的な界面活性剤には、非イオン界面活性剤、例えば、Tween界面活性剤、ポリソルベート、例えば、ポリソルベート20または80など、およびポロキサマー、例えば、ポロキサマー184または188、Pluronicポリオール、ならびに他のエチレン/ポリプロピレンブロックポリマーなどが含まれる。適切な緩衝液には、Tris緩衝液、クエン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、酢酸緩衝液、またはヒスチジン緩衝液が含まれる。適切な防腐剤には、フェノール、ベンジルアルコール、メタクレゾール、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、および塩化ベンゼトニウムが含まれる。他の添加物には、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、およびゼラチンが含まれる。適切な安定化剤には、ヘパリン、多流酸ペントサンおよび他のヘパリノイド、ならびに二価カチオン、例えば、マグネシウムおよび亜鉛が含まれる。処方者の判断に応じて、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、着香剤および芳香剤、防腐剤、ならびに抗酸化物質も組成物に存在してよい。
【0078】
治療剤が封入されている絹スフェアを含有する薬学的製剤は、ある期間にわたって治療剤の一部が患者に放出されるように徐放するようなやり方で投与することができる。治療剤は素速く放出されてもよく、ゆっくりと放出されてもよい。例えば、薬学的製剤は、1ヶ月の期間にわたって絹スフェアから患者に放出される治療剤が約5%未満になるように投与することができる。または、治療剤のさらに大きな部分が最初に放出されてもよく、さらに小さな部分が絹スフェアに保持され、後に放出されてもよい。例えば、薬学的製剤は、投与して10日後に、治療剤の少なくとも5%が絹スフェアに残るように投与することができる。
【0079】
治療剤を徐放投与する時には、治療剤は放出の際に治療機能を果たすことができるようにスフェアの中で活性を保っている。一般的に、薬学的製剤は絹スフェアを含有し、絹スフェアの中の治療剤の活性は、臨床的に関連する期間内で治療効果を維持できる有意な量で残っている。臨床的に関連する期間は、一週間、一ヶ月、さらには一年でもよい。
【0080】
絹スフェア構造があるために、絹スフェアを含む生物送達ビヒクルは徐放性を有することが可能になる。徐放されると、薬を、ある期間にわたって徐放速度で投与することが可能になる。場合によっては、治療剤または生物学的材料の送達は、治療が必要とされる部位に継続して、例えば、数週間にわたってなされる。ある期間、例えば、数日間もしくは数週間にわたって、またはそれより長く徐放されると、好ましい治療を得るように治療剤または生物学的材料が継続して送達される。制御送達ビヒクルは、体液および組織中でのインビボ分解、例えば、プロテアーゼによる分解から治療剤または生物学的材料を保護するので有利である。例えば、PCT/US09/44117を参照されたい。
【0081】
活性物質が徐放されると、活性物質は、ある期間にわたって徐放速度で持続可能に放出されることが可能になる。場合によっては、生理活性物質は、治療が必要とされる部位に継続して、例えば、数週間にわたって送達される。ある期間、例えば、数日間もしくは数週間にわたって、またはそれより長く徐放されると、好ましい治療を得るように生理活性物質が継続して送達されることが可能になる。制御送達ビヒクルは、体液および組織中でのインビボ分解、例えば、プロテアーゼによる分解から生理活性物質を保護するので有利である。
【0082】
ある期間、例えば、約12時間超または24時間超にわたって絹スフェア組成物から徐放が起こるように設計することができる。放出時間は、例えば、約12時間〜24時間;約12時間〜42時間;または、例えば、約12〜72時間という期間にわたって起こるように選択されてもよい。別の態様において、放出は、例えば、約1日〜15日のオーダーで行われてもよい。徐放時間は、治療される状態に基づいて選択することができる。例えば、時間が長ければ長いほど創傷治癒への有効性が高まる可能性があるのに対して、送達時間が短ければ短いほど、一部の心血管用途への有効性が高まる可能性がある。
【0083】
インビボでの絹スフェア組成物からの生理活性物質の徐放は、例えば、約1ng〜1mg/日、例えば、約50ng〜500ng/日の量で行われてもよく、1つの態様では、約100ng/日で行われてもよい。例えば、治療用途に応じて10ng〜1mg治療剤、または約1μg〜500μg、または、例えば、約10μg〜100μgを含む、治療剤および担体を含む送達システムを処方することができる。
【0084】
1つの態様において、テトラメチルローダミン結合ウシ血清アルブミン(TMR-BSA)、テトラメチルローダミン結合デキストラン(TMR-デキストラン)、およびローダミンB(RhB)をモデル薬物として使用した。PVAとブレンドする前に、薬物を絹フィブロイン水溶液(1/100重量比)と混合した。ローダミン部分は励起後に赤色蛍光を発する。従って、絹マイクロスフェア中の結合体化薬物分子の分布をモニタリングすることができ、薬物負荷および放出を容易に求めることができる。これらのモデル薬物は、様々な分子量(それぞれ、TMR-BSA:66,000;TMRデキストラン:10,000;RhB:479Da)および疎水性(RhB>TMR-BSA>TMR-デキストラン)、ならびに表面電荷(RhB:プラス、TMR-BSA:マイナス、TMR-デキストラン:中性)を有し、薬物分布、負荷、および放出プロファイルの顕著な特徴につながった。
【0085】
共焦点レーザー走査型顕微鏡観察によって特徴付けられた時に、TMR-BSAが負荷されたスフェアは、SEMによって観察された多孔性構造と同様の、孔が赤色蛍光繊維によって分けられた多孔性構造を示した(図6A、6D、および1Cと比較のこと)。赤色蛍光繊維は、TMR-BSAと結合した絹繊維である可能性が高い。TMR-BSAと絹繊維との強力な相互作用は、絹スフェア調製中にTMR-BSAが周囲媒体に拡散するのを防いだ。TMR-BSAの負荷効率は約51%であると求められた(図6)。TMR-デキストランが負荷されたスフェアは、強い赤色蛍光凝集物によって装飾された弱い赤色蛍光バックグラウンドを示した(図6B、6E)。TMR-デキストランは単一分子または凝集物として存在するように見られ、絹繊維構造と強く結合することなく絹スフェアの中で均一に分布していた。TMR-デキストランの負荷効率は約1.2%であり、TMR-BSAよりかなり低かった。デキストランと絹フィブロインとの結合が弱いために、TMR-デキストランの大部分は絹スフェア調製中に洗い流された。(BSAと比較して)デキストランの分子量が小さいことも低い薬物負荷効率の一因となった可能性がある。なぜなら、分子はスフェアから急速に拡散するからである。RhBが負荷された絹スフェアは非常に強い赤色蛍光を発し、この場合、構造の詳しい内容を特定することができなかった(図6C、6F)。負荷効率は約95%であった。RhBには疎水性部分および正に荷電した部分があり、これらはいずれも、疎水性相互作用および(負電荷を示す絹分子の親水性領域との)静電相互作用を介したRhBと絹フィブロインとの強い結合の一因となって、高い負荷効率およびゆっくりとした放出プロファイルが得られた可能性がある。RhBと絹との強い結合は、恐らく、強力な静電相互作用および疎水性相互作用の組み合わせによるものである。負電荷および絹とBSAとの疎水性相互作用の低下はRhBより弱い結合につながる可能性があるのに対して、デキストラン分子の親水性は絹との結合親和性の低下につながる可能性がある。
【0086】
薬物放出プロファイルは、絹-薬物相互作用と薬物分子量との折り合いであることが分かった。短くかつ低レベル(約1%)の初期バースト放出の後に、恐らく、絹スフェア表面または絹スフェア表面近くに残っている残存薬物が放出されたために、TMR-BSAおよびRhBはゆっくりと放出され、2週間以内に放出されたものは総負荷の5%未満であった(図7)。対照的に、TMR-デキストランはかなり速く放出され、2週間以内に、総負荷の60%超がほぼゼロオーダーの放出速度で放出された(図7)。RhBの分子量はTMR-BSAおよびTMR-デキストランの分子量よりかなり小さいので、結果から、拡散ではなく絹と封入薬物との相互作用によって薬物放出が制御された可能性があることが分かる。
【0087】
リン脂質と同様に、絹分子の両親媒性は、薬物と絹との分子間相互作用を介して絹スフェア中への疎水性薬物および親水性薬物の負荷を容易にする。従って、絹の薬物負荷および薬物放出速度の制御は、絹の疎水性領域にある絹結晶化度(βシート形成)および/または絹の親水性領域にある荷電状態を制御することによって操作することができる。絹小胞は高分子量、アミノ酸組成、および独特の構造のために、広く用いられている脂質小胞と比較して化学的および物理的に安定しており、高分子薬物の送達に適している。従って、本発明の絹マイクロスフェア組成物および絹ナノスフェア組成物は、薬物送達だけでなく組織再生および酵素触媒作用に関する様々な用途において有用である。
【0088】
絹フィブロインをベースとする薬物送達システムとして、絹フィルム、多孔性スポンジ、超薄コーティング、およびナノファイバーなどの様々な形式の絹を使用することができる。Uebersax et al., 28 Biomats. 4449-60(2007); Hofmann et al., 2006; Wang et al., 121 J Control Release 190-9(2007); Bayraktar et al., 60 Eur J Pharm Biopharm 373-81(2005); Wang et al., 29 Biomats. 894-903(2008); Karageorgiou et al., 78 J Biomed Mater Res A. 324-34(2006); Uebersax et al., 127 J Control Release 12-21(2008); Li et al., 27 Biomats. 3115-2(2006)。これらの送達システムは、主に、組織工学用の増殖因子および細胞を対象にして研究された。本発明の絹粒子はサイズおよび形状を制御する能力に基づいて、これらのシステムに組み込み、増殖因子のリザーバー担体として使用することができ、さらに優れた持効性および徐放性を得ることができる。絹ナノ粒子/マイクロ粒子をシステムに組み込むことによって、増殖因子の空間的および時間的なパターン形成も得ることができる。
【0089】
他の異なる方法を用いて調製された絹マイクロスフェアおよび絹マナノスフェアも報告されている。Wilz et al., 2008; Wang et al., 2007; Wang et al., 2009; Hino et al., 6 Pharm. Pharmacol. Commun 335-9(2000); Wenk et al., 2008; Numata et al., 30 Biomats. 5775-84(2009); Gupta et al., 4 Int J Nanomedicine 115-22(2009); Zhang et al., 2007。これらのシステムと比較すると、本発明の方法は、特定の要件に応じて粒子のサイズおよび形状を制御することができる。この方法には、材料加工中に有機溶媒は必要とされず、高価な設備も必要とされない。従って、これは、薬物送達のための将来の生物医学用途および薬学用途に適した環境に優しい技術である。
【0090】
(表3)絹フィブロインをベースとする薬物送達システムの比較

【0091】
本発明の別の態様は、活性物質が絹マイクロスフェアまたは絹ナノスフェアの中に封入されている薬物送達システムに関する。活性物質は、生理活性物質、例えば、前記で議論された活性物質のうちの1つまたは複数でもよい。
【0092】
本発明の特定の態様の1つは、生理活性物質が封入されている絹ナノスフェアを用いた薬物送達システムに関する。このような薬物送達システムは、脳疾患などの疾患を治療するのに使用することができる。絹ナノスフェアはサイズが小さいので、素速く拡散し、血流の中を循環することができる。絹ナノスフェアは、血液脳関門などの非常に多くの生理学的障壁を乗り越えることができる。例えば、薬物が封入されている絹ナノスフェアは血流に注射され、安全に血液脳関門を通過し、脳腫瘍細胞を特異的な標的とすることができる。薬物の活性が保たれた状態で絹ナノスフェアの中に薬物が封入されているので、標的部位において制御可能かつ持効的に薬物を放出することができ、そのため、血液循環中に標的部位に到達する前に薬物は先に分解されない。
【0093】
特に、本発明は、遺伝子療法のための、特定の標的腫瘍、標的組織、または標的細胞への遺伝子送達(プラスミドDNA送達、低分子干渉RNA送達)システムおよび薬物送達システムを提供する。例えば、遺伝子が埋め込まれた絹ナノスフェアは非ウイルス性遺伝子ベクターとして使用することができる。本発明の絹ナノスフェアは、1ナノメートル〜100ナノメートル〜数百ナノメートルにまで及び、従って、小さな毛細管および細胞を透過することができ、細胞の取り込み特性を高めることができる。さらに、本発明の絹ナノスフェアは生体適合性、生分解性があり、毒性が低く、特定の細胞タイプに標的化できるので、有用な非ウイルス性遺伝子ベクターとして役立ち得る。
【0094】
本明細書において定義されたように、遺伝子は、RNA、DNA、RNAi、siRNA、shRNAi、マイクロRNAi、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNA/DNAキメラ、核酸類似体、例えば、PNA、pcPNA、およびLNA、天然および人工のヌクレオチドもしくは配列、またはこれらの組み合わせなどを指してもよいが、それに限定されるわけではない。
【0095】
遺伝子送達システムは、当技術分野において公知の方法によって投与することができる。一般的に、送達方法には、マイクロインジェクション、遺伝子銃、インペイルフェクション(impalefection)、静水圧、エレクトロポレーション、連続注入、ならびに超音波処理および化学物質、例えば、リポフェクションなどの物理的方法が含まれるが、これに限定されない。これはまた、ポリマー遺伝子担体(ポリプレックス)の使用を含んでもよい。
【0096】
細胞への遺伝子送達システムの導入効率およびその特異性をさらに向上させるために、ある特定の疾患に合わせられた特定のペプチド配列、例えば、細胞結合モチーフ、細胞透過ペプチド、ウイルスシグナルペプチド、腫瘍ホーミングペプチド、ならびに疾患細胞を加熱および死滅させるためにマイクロ磁気粒子またはナノ磁気粒子をコーティングするための金属結合ドメインを、絹ナノスフェア表面にコーティングまたは結合することができる。
【0097】
本発明の封入プロセスは、薬学的製剤および薬物送達方法の分野において用いられる必要はない。絹フィブロインマイクロカプセルおよび絹フィブロインナノカプセルは、様々な分野において有用な様々な他の活性物質を封入することができる。例えば、活性物質は、酵素または酵素ベースの電極でもよい。酵素または酵素ベースの電極は、組織工学、バイオセンサー、食品産業、環境制御、または生物医学用途の分野において用いられてもよい。このシステムはまた、様々なニーズのためのリザーバーとして、例えば、食品産業では、ビタミン、栄養素、抗酸化物質、および他の添加物を収容するために;環境分野では、レメディエーション用または水処理用の微生物を収容するために;材料では、インサイチュー検出および修復成分の供給源として働く添加物として、例えば、材料破損の非破壊評価および材料の自己修復のために;ならびに細胞、分子、および関連システムの安定化に役立つバイオ検出法のために使用することができる。
【0098】
本発明の絹マイクロスフェア組成物および絹ナノスフェア組成物はまた、活性物質用の保管安定媒体として使用することができる。活性物質が埋め込まれたこのような保管安定絹媒体は、水不溶性絹スフェアの中に活性物質を捕捉することから調製されてもよく、絹スフェアは水溶液相から既に分離されており、例えば、絹スフェアを含む粉末組成物が活性物質を捕捉している。または、活性物質はまた、絹/PVAブレンド溶液または脱水した絹/PVAブレンドフィルムの中に保管することもできる。保管目的で、活性物質を捕捉している絹媒体は、この点に関して絹スフェアにさらに加工されてもよく、加工されなくてもよい。従って、本発明は、フィルム形式または絹スフェア形式に加工された絹フィブロインを提供し、これらは、捕捉された活性物質を長期安定化するための、ならびに活性および放出をより良く制御するための効率的かつ極めて有効な担体となる。
【0099】
絹フィブロインタンパク質の独特の化学的性質、構造、および構築は、長期間にわたって活性物質を安定化し、活性を保つことができる独特の環境を提供する。過酷な化学条件および有機溶媒を用いることなく、活性物質を絹ブレンドフィルム、絹スフェアの中に容易に捕捉し、その活性を、相分離および絹構造遷移の間に形成されたナノ環境およびマイクロ環境の中に保持することができる。絹フィブロインはまたβシート構造に遷移すると熱力学的に安定である。従って、これらの特徴は、本明細書に記載の活性物質を安定化するための適切な安定した絹マトリックスを提供する。
【0100】
本発明における長期保管用の活性物質は、化学活性または生理活性を有する任意の物質を含んでもよい。関心対象の物質には、化学物質、天然のまたは遺伝子操作されたタンパク質およびペプチド、核酸、核酸類似体、天然および人工のヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸、アプタマー、抗体、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組換え増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカイン、酵素、抗生物質、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、ならびにそれらの組み合わせが含まれるが、これに限定されない。
【0101】
活性物質は、本発明の絹ブレンドフィルムまたは絹スフェアの中に入れて長期間、保管することができる。例えば、本発明の絹媒体に入れた活性物質の長期保管は、5ヶ月、7ヶ月、10ヶ月、またはそれより長くてもよい。さらに、絹ブレンドフィルムまたは絹スフェアの中にある活性物質の安定性は保管温度の影響を大きくは受けない。例えば、活性物質は、37℃で保管された時でも有意な活性を保持することがあり、場合によっては、活性を全く失わないことがある。1つの態様において、酵素、例えば、グルコースオキシダーゼが絹ブレンドフィルムの中に保管された時に、室温で、または37℃でも少なくとも10ヶ月間、100%の酵素活性を維持することができる。
【0102】
本発明は、制御可能なサイズおよび形状を有する絹スフェアを調製するための、水溶液ベースの新たな製作方法を提供する。前記方法は、ブレンド溶液中の約20/80の絹/PVA最終重量比でのPVAと絹フィブロインとの相分離に基づいていた。水不溶性の絹スフェアを得る前記方法は、(a)ブレンド絹/PVA溶液を風乾してフィルムにする工程;(b)フィルムを水に溶解する工程;および(c)後の遠心分離によって残存PVAを除去する工程を含む。結果として生じた絹スフェアは300nm〜20μmまでの広いサイズ分布を有し、約30%のβシート含有率および5%未満の残存PVAを有した。スフェア形状は、絹/PVAブレンドフィルムを水に溶解する前に絹/PVAブレンドフィルムに制約を加えることによって変えることができる。例えば、紡錘状の絹スフェアは、ブレンドフィルムを水に溶解する前に、単に、ブレンドフィルムを引き伸ばすことによって得られた。スフェアのサイズおよび多分散は、絹およびPVAの濃度を変えることによって、絹-PVA分子間相互作用が変化したために制御されてもよく、超音波処理をブレンド溶液に適用することによって、サイズ低下が機械的な力によって誘導されたために制御されてもよい。本発明の絹スフェアへの薬物負荷は、PVAとブレンドする前に絹フィブロイン溶液中でモデル薬物を混合し、絹スフェアを調製する同じ工程に従うことによって得られた。絹スフェアにおける薬物分子の分布および負荷効率は薬物分子の疎水性および荷電性に依存し、従って、様々な薬物放出プロファイルが得られた。製作手順全体は1日以内に完了することができる。製作プロセスにおいて使用する化学物質PVAは、薬物製剤においてFDAによって認可された成分である。本発明において調製された絹マイクロスフェアおよび絹ナノスフェアは様々な生物医学用途における薬物送達担体として役立つことができる。
【0103】
非限定的な例において本発明の特定の態様を説明する。
【0104】
本発明は、以下の番号の段落のいずれか1つにおいて定義されたものでもよい。
段落1. ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを調製する方法であって、
(a)絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合する工程;
(b)工程(a)の溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
(c)フィルムを水に溶解する工程;および
(d)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
段落2. ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が約15wt%以下であり、絹:PVAの濃度比が約1:1〜約1:4である、工程;
b.ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
段落3. フィルムを水に溶解する工程の前に、絹/PVAブレンドフィルムに制約を加えて、絹スフェアの形状を変える工程をさらに含む、段落1または2記載の方法。
段落4. フィルムを水に溶解する工程の前に、絹/PVAブレンドフィルムを引き伸ばし、それによって、紡錘状の絹スフェアを形成する工程をさらに含む、段落1〜3記載の方法。
段落5. フィルムを水に溶解する工程の前に、絹/PVAブレンドフィルムを水鈍し、それによって、円板状の絹スフェアを形成する工程をさらに含む、段落1〜4記載の方法。
段落6. 溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程の前に、絹スフェアのサイズが、(a)ブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの重量比;(b)ブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度;(c)PVAの分子量;または(d)絹/PVAブレンド溶液に加えられる超音波処理のエネルギー出力のうちの1つまたは複数を調節することによって制御される、段落1〜5記載の方法。
段落7. スフェアのサイズが、(a)絹/PVAブレンド溶液へのグリセリンもしくは他のヒドロキシル基に富む化合物もしくはポリマーの添加;(b)絹/PVAブレンド溶液のpHの調節;または(c)絹/PVAブレンド溶液への塩の添加、任意で、塩濃度の調節のうちの1つまたは複数によって制御される、段落1または2記載の方法。
段落8. 約1μm〜約30μmのスフェアサイズを有する絹マイクロスフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.02%〜約15wt%であり、絹:PVAの濃度比が約1:1〜約1:4である、工程;
b.ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹マイクロスフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
段落9. ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.2%〜約5wt%である、段落8記載の方法。
段落10. 溶液を乾燥させてフィルムにする前に、ブレンド溶液を超音波処理し、それによって、5μm〜10μmのサイズを有する絹マイクロスフェアを形成する工程をさらに含む、段落8または9記載の方法。
段落11. 超音波処理のエネルギー出力が約4ワット以上である、段落8〜10記載の方法。
段落12. 濾過、遠心分離、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される工程をさらに含み、それによって、1μmまたは5μmより小さいスフェアが除去される、段落8〜11のいずれか一つに記載の方法。
段落13. 段落8〜12のいずれか一つに記載の方法に従って調製された、絹フィブロインマイクロスフェア組成物。
段落14. 500nm未満のナノスフェア平均スフェアサイズを有し、0.3未満のPDIを有し、かつ2μmより大きいスフェアを有さない絹ナノスフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.2wt%までであり、PVAの濃度が約0.8wt%までである、工程;
b.ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹ナノスフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
段落15. ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.04wt%までであり、PVAの濃度が約0.16wt%までである、段落14記載の方法。
段落16. 330nm未満のナノスフェア平均スフェアサイズを有し、0.4未満のPDIを有し、かつ2μmより大きいスフェアを有さない絹ナノスフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が15wt%までであり、絹とPVAの濃度比が1:4までである、工程;
b.ブレンド溶液を超音波処理する工程;
c.超音波処理した溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
d.フィルムを水に溶解する工程;および
e.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹ナノスフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
段落17. 超音波処理のエネルギー出力が約8ワット以上である、段落16記載の方法。
段落18. 濾過、遠心分離、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される工程をさらに含み、それによって、330nmまたは500nmより大きいスフェアが除去される、段落16または17記載の方法。
段落19. 段落14〜18のいずれか一つに記載の方法に従って調製された、絹フィブロインナノスフェア組成物。
段落20.ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する多孔性絹スフェアに、活性物質を封入する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液および活性物質をポリビニルアルコール(PVA)水溶液と混合する工程;
b.工程(a)の溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、活性物質が封入された絹スフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
段落21. 活性物質が、化学物質、タンパク質、ペプチド、核酸、核酸類似体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸、アプタマー、抗体、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組換え増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカイン、酵素、抗生物質、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、段落20記載の方法。
段落22. 段落20または21記載の方法に従って調製された、活性物質が封入されている多孔性絹スフェアを含む、薬学的組成物。
段落23. 段落20または21記載の方法に従って調製された、活性物質が封入されている多孔性絹スフェアを含む、生物送達システム。
段落24. 活性物質が封入されている絹ナノスフェアを含む、薬物送達システム。
【実施例】
【0105】
実施例1.絹フィブロインの精製
ポリビニルアルコール(PVA、平均分子量30,000〜70,000)、ローダミンB、プロテアーゼXIV、および他の全ての化学物質は、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。テトラメチルローダミン結合ウシ血清アルブミン(TMR-BSA)およびテトラメチルローダミン結合デキストラン(TMR-デキストラン)はInvitrogen(Carlsbad, CA)から購入した。全ての実施例において、Milli-Q(登録商標)Ultrapure Water Purification Systems(Millipore, Billerica, MA)からの超純水を使用した。
【0106】
以前に説明されたように、絹フィブロインストック水溶液を調製した。Sofia et al., 54 J. Biomed. Mater. Res. A 139-48(2001)。簡単に述べると、カイコの繭を、0.02M炭酸ナトリウム水溶液中で20分間煮沸し、次いで、純水で徹底的にリンスした。乾燥後に、抽出した絹フィブロインを9.3M LiBr溶液に60℃で4時間溶解して、20%(w/v)溶液を得た。残留塩を除去するために、結果として生じた溶液を、Slide-A-Lyzer(登録商標)3.5K MWCO透析カセット(Pierce, Rockford, IL)を用いて蒸留水に対して3日間透析した。透析後、溶液は光学的に透明であり、絹凝集物ならびに最初の繭に由来する破片を除去するために10,000rpmで20分間、2回遠心分離した。絹フィブロイン水溶液の最終濃度は約8%(w/v)であった。この濃度は、体積が既知の溶液を乾燥させ、残留固体を秤量することによって求められた。8%絹フィブロイン溶液を4℃で保管し、使用前に超純水で希釈した。
【0107】
実施例2.絹/PVAブレンドフィルムの調製
0.2wt%、1wt%、および5wt%の濃度を有する絹溶液を、PVA溶液と混合するための開始溶液として調製した。絹溶液と混合するための開始溶液として、濃度が0.2wt%、1wt%、および5wt%のPVA溶液も調製した。異なる体積の絹溶液およびPVA溶液をガラスビーカーの中で穏やかに混合した。混合中に、ブレンド溶液中の絹およびPVAの総質量を一定に保った。1wt%絹および4wt%PVAの絹/PVAブレンド溶液は、ブレンド溶液中の絹およびPVAの重量比が20/80、ブレンド溶液中の絹およびPVAの総質量が250mgとなるように、1mlの5wt%絹開始溶液および4mlの5wt%PVA開始溶液を混合することによって調製した。2.5wt%絹および2.5wt%PVAの絹/PVAブレンド溶液は、ブレンド溶液中の絹およびPVAの重量比が50/50、総質量が250mgのままになるように、2.5mlの5wt%絹開始溶液を2.5mlの5wt%PVA開始溶液と混合することによって調製した。
【0108】
1wt%絹開始溶液および1wt%PVA開始溶液を混合して、0.2wt%絹および0.8wt%PVAを含む絹/PVAブレンド溶液または0.5wt%絹および0.5wt%PVAを含む絹/PVAブレンド溶液を調製する時には、ブレンドに使用した絹開始溶液およびPVA開始溶液の体積を、5wt%絹開始溶液および5wt%PVA開始溶液の混合に使用した体積の50倍にし、ブレンド溶液中の絹およびPVAの総質量は250mgのままにした。0.02wt%絹開始溶液および0.02wt%PVA開始溶液を混合して、0.004wt%絹および0.016wt%PVAの絹/PVAブレンド溶液または0.01wt%絹および0.01wt%PVAの絹/PVAブレンド溶液を調製する時には、ブレンドに使用した絹開始溶液およびPVA開始溶液の体積を、5wt%絹開始溶液および5wt%PVA開始溶液の混合に使用した体積の250倍にし、ブレンド溶液中の絹およびPVAの総質量は250mgのままにした。混合後に、溶液を、150rpm、室温で2時間攪拌した。それぞれの絹/PVAブレンド溶液における絹およびPVAの最終濃度を表2に示した。
【0109】
次いで、結果として生じた絹/PVAブレンド溶液を蓋のないポリスチレンペトリ皿に移した。この場合、5wt%絹開始溶液および5wt%PVA開始溶液から調製されたブレンド溶液を35mmx10mmのサイズの皿に移し、1wt%絹開始溶液および1wt%PVA開始溶液から調製されたブレンド溶液または0.2wt%絹開始溶液および0.2wt%PVA開始溶液から調製されたブレンド溶液を100x15mmのサイズの皿に移した。全ての皿を換気フードに入れて、一晩乾燥させた。通常、ブレンド溶液は3時間以内に乾燥し、太さが70μm〜100μmのフィルムを形成した。次いで、乾燥フィルムをはがし、使用前に密封容器に入れて室温で保管した。
【0110】
絹スフェアのサイズに及ぼす超音波処理の影響を評価するために、15mlコニカルチューブの中で、1mlの5wt%絹開始溶液を4mlの5wt%PVA開始溶液と混合した。絹ゲル化において使用した条件とほぼ同じ、12%または25%振幅のエネルギー出力で、Sonifiers(登録商標)S-450D超音波細胞破砕機(Branson Ultrasonics Corp., Danbury, CT)を30秒間用いて、ブレンド溶液を超音波処理に供した。Wang et al., 2008。すぐに、超音波処理後の溶液を、蓋のない、サイズが100x15mmのペトリ皿に移し、一晩乾燥させた。
【0111】
実施例3.絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアの調製
実施例2に従って調製されたブレンド溶液の1つからの乾燥した絹/PVAブレンドフィルムを、50ml遠心管に入れて室温で10分間、穏やかに攪拌ながら30mlの超純水に溶解した。チューブを、Sorvall(登録商標)High-Speed Centrifuge(Thermo Scientific, Waltham, MA)において16,000rpm、4℃で20分間遠心分離した。上清を注意深く捨て、ペレットを30mlの超純水に懸濁し、再度、遠心分離した。密集している絹スフェアを分散させるために、沈殿した最終ペレットを2mlの超純水に懸濁し、Branson超音波細胞破砕機を用いて1%振幅で15秒間、超音波処理した。次いで、結果として生じた絹マイクロスフェア懸濁液または絹ナノスフェア懸濁液をさらなる特徴付けに使用した。
【0112】
実施例4.絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアの特徴付け
フーリエ変換赤外線(FTIR)分光法
実施例3に従って調製された絹スフェア水懸濁液を凍結乾燥した。凍結乾燥粉末を、重水素化硫酸トリグリシン検出器および多重反射水平MIRacle(商標)ATRアタッチメント(ゲルマニウム(Ge)結晶、Pike Tech., Madison, WIを使用する)を備えたBruker Equinox 55/S FTIR分光計(Bruker Optics Inc., Billerica, MA)またはJASCO FTIR 6200分光計(JASCO, Tokyo, Japan)によって調べた。ランダムコイル、α-へリックス、βプリーツシート、およびターンを含む二次構造成分を、赤外線吸光度スペクトルのフーリエセルフデコンボリューション(FSD)を用いて評価した。バックグラウンド測定を空のセルに対して行い、試料の測定値からバックグラウンドを差し引いた。
【0113】
それぞれの測定について、400cm-1〜4000cm-1の波数、4cm-1の分解能で64回のスキャンを記録した。Hu et al., 39 Macromol. 6161-70(2006)に記載のように、アミドI領域(1595〜1705cm-1)を変換する赤外線スペクトルのFSDをOpus 5.0ソフトウェア(Opus Software, Inc. San Francisco, CA)によって行った。1616cm-1〜1637cm-1および1695〜1705cm-1の周波数範囲の吸収ピークは、絹II型にある豊富なβシート構造と一致する。1638cm-1〜1655cm-1の周波数範囲の吸収ピークはランダムコイル構造に特有のものである。1656cm-1〜1663cm-1の周波数範囲の吸収ピークはαヘリックス構造と一致する。1663cm-1〜1695cm-1の周波数範囲の吸収ピークはターン構造と一致する。Hu et al., 2006。
【0114】
示差走査熱量測定(DSC)
実施例2に従って調製されたブレンド溶液の1つからの乾燥絹/PVAブレンドフィルム、重さ約5mgをアルミニウム皿に入れ、次いで、50mL/minの乾燥窒素ガス流を用いてTA Instrument Q100 DSC(TA Instruments, New Castle, DE)に入れて加熱した。純粋な絹および純粋なPVAフィルムが対照として役立った。機器を空のセルベースラインに対して較正し、熱流および温度についてはインジウムを用いて較正した。温度変調示差走査熱量測定(TMDSC)測定は、冷蔵冷却システムを備えたTA Instruments Q100を用いて行った。試料を、60秒の変調期間および0.318℃の温度振幅を用いて2℃/分で-30℃から350℃まで加熱した。
【0115】
走査型電子顕微鏡(SEM)および光学顕微鏡
実施例3に従って調製された100μlの絹スフェア水懸濁液を、SEM試料台に取り付けられた導電性テープの上に直接加えた。試料を空気中で一晩乾燥させ、次いで、白金でスパッタリングした。Zeiss SUPRA(商標)55VP SEM(Carl Zeiss SMT, Peabody, MA)を用いて、絹スフェアの形態を画像化した。光学顕微鏡の場合は、ブレンドフィルムをペトリ皿に入れて成型するか、または20μlの絹スフェア懸濁液をガラススライドの上に負荷することによって、試料を調製した。試料を、倒立光学顕微鏡(Carl Zeiss, Jena, Germany)の下に配置した。インストールしたソフトウェアを用いて画像を取り込んだ。
【0116】
動的光散乱(DLS)
DLS実験は、波長λ=532nmで動作するダイオードレーザーを備えたBrookhaven Instruments BI200-SMゴニオメーター(Brookhaven Instruments Corp., Holtsville, NY)を用いて行った。温度管理再循環槽を用いて、温度を0.05℃の精度で25℃に保った。30°〜150°の散乱角(θ)でのパルス後 (after-pulsing)効果を阻止するためにBrookhaven相互相関器を用いて、散乱光強度I、および散乱強度の時間平均自己相関関数(ACF)g2 (q,t)を同時に測定した。波数ベクトルqおよび遅延時間tでの密度ゆらぎの緩和(relaxation of density fluctuation)を、以下の式

によって調べた。
式中、qは、以下の式

によって、溶媒屈折率nに関連する。このシステムがエルゴード的である、すなわち、性質の時間平均測定が集合平均の良好な推定値を提供する場合、g2 (t)は、Siegertの関係式:g2 (q,t)=1+A2g1 (q,t) 2によって、正規化場(normalized field)相関関数g1 (q,t)に関連する。式中、Aは、機器コヒーレンス係数(instrumental coherence factor)である。三次キュムラント分析を用いて、平均緩和時間

および多分散を計算した。CONTIN法または指数サンプリングを用いて、緩和時間の分布を分析した。定性的視覚化およびデータ比較のために、累積分析パラメータを用いて推定ガウス流体力学的径確率密度G(Dh)および流体力学的径累積分布関数C(Dh)をプロットすることができた。これらの測定において、CONTINおよび指数サンプリングの両方から類似の粒径分布が得られた。
【0117】
残存PVAの測定
絹スフェアの調製中に、遠心分離から上清画分を収集し、超純水を用いて1mlの上清を50mlまで希釈した。希釈した上清をPVA測定に供した。絹スフェア中の残存PVA含有率を求めるために、スフェアを凍結乾燥し、次いで、2mlの新たに調製されたプロテアーゼXIV溶液(PBS緩衝液、pH7.4に溶解して1mg/ml)に再懸濁した。試料を37℃で15時間インキュベートし、結果として生じた溶液を、直接、PVA測定に供した。溶解しているPVAの量を、文献に記載のように求めた。Abdelwahed et al., 309 Int. J. Pharm. 178-88(2006)。簡単に述べると、0.5mlの試料溶液を3mlの0.65Mホウ酸溶液および0.5mlのI2/KI(0.05M/0.25M)溶液と混合し、結果として生じた溶液に、10mlの体積まで超純水を添加した。室温で15分間インキュベートした後に、試料を690nmで吸光度測定に供した。同じ条件下で作成した検量線に基づいてPVA量を計算した。各データ点についてN=3で実験を行った。統計解析は、一元配置分散分析(ANOVA)およびStudent-New-man-Keuls多重比較検定によって行った。差はp<0.05の時に有意であるとし、p<0.01の時に非常に有意とした。
【0118】
実施例5.絹スフェアへの薬物負荷
絹スフェアへの薬物負荷
絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアへの薬物負荷を研究するために、テトラメチルローダミン結合ウシ血清アルブミン(TMR-BSA、M.w.=66,000Da)、テトラメチルローダミン結合デキストラン(TMR-デキストラン、M.w.=10,000Da)、およびローダミンB(RhB、M.w.=479Da)をモデル薬物として使用した。PBS緩衝液、pH7.4に溶解して5mg/mlの濃度の薬物ストック溶液を調製し、-20℃で保管した。絹フィブロイン溶液を絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアに調製する前に、1:100(重量比)の薬物/絹比に達するように、ある特定の量の薬物ストック溶液を絹フィブロイン溶液に添加した。混合後、薬物が負荷された絹フィブロイン溶液を用いて、超音波処理することなく実施例2に記載の工程に従ってPVA溶液とブレンドした。この実施例では、5wt%の絹濃度およびPVA濃度ならびに1:4の絹/PVA比を使用した。この濃度で、絹/PVA比1/4の絹/PVAフィルムから、さらに狭いサイズ分布の絹スフェアを作製することができる。恐らく、このブレンドフィルムは水に溶解しやすく、均質なスフェア懸濁液を形成するためである。
【0119】
絹スフェアへの薬物負荷量を求めるために、遠心分離工程から収集した上清を555nmでの吸光度測定に供した。同じ条件で得られた検量線に基づいて薬物の量を計算した。絹スフェア中の薬物の量は、使用した総量と上清中に残っていた量との差から計算した。それぞれの薬物負荷について、標準偏差を得るために少なくとも3つの試料を調製した。最後の遠心分離工程からのペレットを2mlのPBS緩衝液、pH7.4に懸濁し、実施例6における以下の共焦点顕微鏡観察および薬物放出研究に使用した。
【0120】
レーザー走査型共焦点顕微鏡
絹マイクロスフェア中の薬物分子の分布を共焦点顕微鏡観察によって調べた。前記のように、薬物が負荷された絹スフェアを調製し、PBS緩衝液に再懸濁した。懸濁液の一部を、Leica DM IRE2顕微鏡(Leica Microsystems, Wetzlar, Germany)において63X、1.4 N.A.水浸レンズを用いて、励起波長555nmおよび発光波長580nmで画像化した。スフェアサイズを求めるために、複数のシングルxyスキャンを収集した。絹スフェアの孔構造を視覚化する、またはスフェア中に封入された薬物またはタンパク質の分布を評価するために、1μmの光学的スライス像で数回のxyスキャンをz方向と共にスタックして、3D画像を得た。
【0121】
実施例6.絹スフェアからの薬物放出
実施例5に記載したモデル薬物が負荷された絹スフェアを凍結乾燥した。10mgの凍結乾燥絹スフェアを1mlのPBS緩衝液、pH7.4に懸濁した。ゆっくりとした振盪条件下で試料を室温でインキュベートした。異なる各時点(1時間、4時間、8.5時間、24時間、48時間、120時間、192時間、342時間)での累積薬物放出プロファイルは、(a)Sigma ISS-113微量遠心機(Sigma Chemical Co., St. Louis, MO)を用いて、12,000rpmで10分間、試料を遠心分離する工程;(b)上清を空のチューブに注意深く移し、収集された上清を555nmの波長で吸光度測定に供し、検量線に基づいてモデル薬物の量を計算し、この時点のデータと、スフェアに負荷された初期量の薬物を比較する工程;(c)沈殿したペレットを1mlのPBS緩衝液に懸濁する工程;ならびに(d)各時点で(a)〜(c)の工程を繰り返して、累積薬物放出プロファイルを得る工程に従うことによって求めた。それぞれのモデル薬物について、標準偏差を得るために、少なくとも3つの試料を調製した。
【0122】
実施例7.絹スフェアのゼータ電位測定
異なる薬物が負荷された絹スフェアの薬物負荷および放出特性を説明するために、ゼータ電位測定を介して絹スフェアの表面電荷を求めた。絹/PVA(絹/PVA比:1/4)ブレンドフィルムから調製された絹スフェアを超純水に懸濁して、約100μg/mlの濃度を得た。次いで、25℃でゼータ電位を測定するために、1mlの溶液をゼータ電位分析器(Zetasizer nano, Malvern, Westborough, MA)に入れた。
【0123】
実施例8.絹スフェアの構造特徴付け
βシート含有率を求めるために、溶解前の絹/PVAブレンドフィルム(ブレンドフィルム中の重量パーセント比1:1および1:4の絹/PVAを用いた。本明細書では、それぞれ、1/1ブレンドフィルムおよび1/4ブレンドフィルムと呼ぶ)に対して、ならびに直接溶解、水蒸気処理(水鈍)、および引き伸ばしなどの様々な処理後に同じブレンドフィルムから調製された凍結乾燥絹スフェアに対して、FTIRを行った。
【0124】
高いβシート含有率の対照として、メタノール処理した絹/PVAブレンド溶液から調製されたスフェアも測定した。アズキャストフィルムは、最初に、主に非結晶の構造(1538cm-1)を示し、一部は絹I構造(1658cm-1、1652cm-1)であることが見出された。水鈍処理後に絹I構造は優勢になったが、メタノール処理後に絹II含有率(1697、1627、1528cm-1)が増加し、50%超のβシートが形成した。多量の絹I構造(約30%のβシート)が形成したら、さらにメタノール処理しても、この構造を絹IIに変換することはできなかった。
【0125】
表4に示したように、メタノール処理ブレンド溶液からの絹スフェアには約50%のβシート(絹II)があったのに対して、直接溶解したブレンドフィルムからの絹スフェアには約30%のβシート含有率(絹I)があった。しかしながら、水溶解前のブレンドフィルムは異なるβシート含有率を示した。1/1絹/PVAブレンドフィルムは、フィルム溶解後のスフェアについて測定されたβシート含有率とほぼ同じ27%の絹βシート含有率を示したのに対して、1/4絹/PVAブレンドフィルムには20%のβシートしか無かった。明らかに、絹フィルムに対する水蒸気の役割と同様に、PVAは、1/1絹/PVAブレンドフィルムにおいて絹I構造の形成を促進した。これは、恐らく、PVAヒドロキシル基と絹ヒドロキシル基との間に水素結合が形成したためである。1/4絹/PVAブレンドフィルムの場合、絹とPVAとの間にさらに広範囲の水素結合が形成したために、高濃度のPVAの存在は非結晶から絹Iへの絹構造遷移を制限した可能性がある。フィルム溶解中に局所PVA濃度が低下すると、絹とPVAとの間の水素結合が弱まり、結果として、非結晶から絹I構造に遷移することができた。
【0126】
様々なブレンドフィルムにおける絹とPVAとの分子間相互作用がDSCデータによって証明された。図8に示したように、1/4絹/PVAブレンドフィルム中の絹およびPVAのガラス転移温度(Tg)は、対照試料である絹およびPVAフィルム単独(それぞれ、22℃および55℃)と比較して有意に変化しなかった。結合水が試料中で可塑化(plasticize)されると、絹フィルムのTgは安定することが示された。このことから、絹とPVAとの分子間相互作用は、前記で議論されたように絹構造遷移を制限することによって、ブレンドフィルム中のPVA分離相および絹分離相の材料特性を大幅に変えなかったことが分かる。1/1絹/PVAブレンドフィルムについては、絹Tgは有意に変化しなかったが、PVAのTgは35℃に絹の方へシフトした。このことから、絹とPVAとの分子間相互作用はPVA特性が変わるような状態に達したことが分かる。一方、この相互作用は絹Iへの絹構造遷移も誘導したが、Tgの大幅なシフトを誘導しなかった。恐らく、絹II(βシート結晶)構造形成と共にしか絹Tgのみのシフトは起こらないためである。1/4絹/PVAブレンドおよび超音波処理フィルムにおいて証拠が示された。この場合、PVAおよび絹成分のTgは、それぞれ、37℃および70℃に上昇した。FTIRによって明らかになったように、同じフィルム中のβシート含有率は42%であり、超音波処理の無いフィルム中の19%含有率よりかなり高かった。
【0127】
(表4)絹/PVAブレンドフィルムから調製された絹スフェア中のβシート含有率

【0128】
実施例9.絹スフェアサイズの制御
さらに均質なマイクロスフェアまたはナノスフェアを得るために、PVA溶液中の絹相分離の制御、例えば、絹とPVAとの間に形成する水素結合を減らすことを目的とした、絹フィブロインおよび/もしくはPVAの希釈;またはブレンドシステムに高エネルギーを加えて大きな絹マクロ相もしくは絹ミクロ相を破壊することを目的とした、絹/PVAブレンド溶液の超音波処理;またはPVAと絹との相互作用に影響を及ぼし、それによって、相分離に影響を及ぼすことを目的とした、絹/PVA溶液と別の-OHに富む化合物、例えば、グリセリンとの混合を行う様々な戦略を使用した。
【0129】
粒径に及ぼす絹/PVAブレンド溶液中の様々なポリマー濃度の影響を希釈によって試験した。ブレンド溶液中の絹およびPVAの重量比を1/4と一定に保ちながら、ブレンド溶液の調製中に絹初期溶液およびPVA初期溶液の濃度を5wt%から1wt%および0.2wt%と連続的に下げた。
【0130】
図3に示したように、SEM下では、5wt%試料および1wt%試料については大きな改善は観察されなかったが、0.2wt%試料は、主に、比較的均質なサイズ分布(100〜500nm)を有するナノスフェアからなった。
【0131】
水和した状態でのインサイチュー粒径を観察するために、試料をDLSに供した。DLS測定の前に、絹スフェア水懸濁液を5mm膜に通して濾過した。図9Aは、5wt%調製物および0.2wt%調製物から収集されたデータを容易に比較するために、累積分析を用いて得られたスフェア流体力学的径分布(確率密度、G(Dh)および累積分布関数、C(Dh))を比較する。図9Bは、指数サンプリングを用いて得られた、図9Aと同じ試料のさらに定量的なサイズ分布を示す(CONTIN分析結果は類似した直径分布を示し、従って、視覚化を容易にするためにプロットされなかった)。0.2wt%試料から収集したDLSデータの累積分析は、平均スフェアサイズが452nm、多分散指数(PDI)が0.29であり、2mmより大きいみかけのスフェアサイズの無い、比較的均質なサイズ分布を示した。1wt%試料および5wt%試料は、それより大きい平均サイズ(それぞれ、536nmおよび578nm)ならびにPDI値(それぞれ、0.56および0.68)、ならびに100nm〜5mmの広いスフェアサイズ分布を有した。DLSキュムラント分析を用いて得られた平均スフェア流体力学的径および多分散を表5にまとめた。これらの結果はSEMデータと一致し、濃度が低下すると共に平均粒径が小さくなることを裏付けている。
【0132】
DLSデータおよびSEMデータから、絹ヒドロキシル基とPVAヒドロキシル基との間に水素結合が形成すると絹スフェアが安定化する一方で、ポリマー濃度が変化すると絹/PVA相互作用が変化する、従って、平均スフェアサイズおよびサイズ分布を制御できることが証明された。
【0133】
絹/PVA相分離に対するエネルギー入力の影響を証明するために、フィルム成型の前に、溶液を超音波処理に供した。ブレンド溶液を調製する際の絹初期溶液およびPVA初期溶液の濃度は5wt%であり、ブレンド溶液中の絹およびPVAの重量比は1/4であった。12%および25%の最大超音波処理エネルギー出力(それぞれ、4ワットおよび8ワットに相当する)を使用した時に、光学顕微鏡から、成型された絹/PVAブレンドフィルムは、主に、それぞれ、マイクロスフェアおよびナノスフェアからなることが分かった(図9)。12%振幅エネルギー出力は大きなマイクロスフェアを破壊して、サイズ範囲が5〜10mmの小さなマイクロスフェアにすることができる。25%振幅エネルギーは、(小さなスフェアクラスターを含む)ほとんどのスフェアを破壊してナノメートルサイズにするのに十分な大きさであった。
【0134】
DLS測定は光学顕微鏡観察を裏付け、超音波処理試料中のナノスフェアの存在についてのさらなる情報を提供した。図9Aおよび図9Bは、絹/PVAブレンド溶液中の絹濃度および/またはPVA濃度が異なる25%振幅超音波処理試料から得られたキュムラント結果および指数サンプリング結果を示す。25%振幅処理試料から収集されたDLSデータのキュムラント分析から、平均スフェアサイズが322nm、PDIが0.4であり、かつ2mmより大きいスフェアが存在しないことが分かった。12%振幅試料もほぼ同じサイズのナノスフェアを含有したが、静的光散乱強度は25%振幅試料の約1/4であった。超音波処理前に同じ絹/PVA初期濃度を使用したことを考慮すれば、12%振幅試料からの散乱強度が25%振幅試料と比較して低いのは、12%超音波処理試料のDLS試料調製中に、光学顕微鏡によって観察された数ミクロンサイズのスフェアがふるい分けられたことによるものであった。従って、ブレンド溶液中の超音波処理エネルギー出力、すなわち、エネルギー入力を変えると、マイクロメートル範囲およびナノメートル範囲に及ぶ絹スフェアの平均サイズおよびサイズ分布を効果的に制御することができる。
【0135】
25%振幅超音波処理によって調製された絹スフェア中のβシート含有率をFTIRによって求めた。結果から、超音波処理の無い絹スフェアと比較してβシート形成が有意に約12%増加したことが分かった。この場合、結晶絹II構造が形成したことを示している(表4)。溶解前の超音波処理したブレンドフィルム中の絹は、アズキャストフィルム中および絹溶液中の絹と同様にβシート含有率が19%と低かった。このことから、結晶絹II構造の形成は、超音波処理およびフィルム乾燥の間または後ではなくフィルム溶解プロセス中に起こった可能性があることが分かる。超音波処理の無い絹/PVA 1/4フィルム中に観察されたものと同様に、超音波処理中の絹とPVAとの強い分子間相互作用も非結晶から絹II構造への絹構造遷移を制限した。この場合、この分子間相互作用はより広範囲かつ強力であり、その結果、DSC測定から明らかになったように、絹およびPVAのTgは高温にシフトした(図8)。
【0136】
(表5)DLSキュムラント分析を用いて得られた平均スフェア流体力学的径および多分散

【0137】
実施例10.絹スフェアの収率および安定性
重量パーセント比1/4の絹/PVAを含有する絹/PVAブレンド溶液から調製された絹ナノスフェアおよび絹マイクロスフェアの収率を、凍結乾燥後の物質収支に基づいて概算した。収率は、25%振幅超音波処理試料については約50〜60%であり、12%振幅超音波処理試料については30〜40%であり、非超音波処理試料については20%未満であった。
【0138】
スフェア懸濁液の安定性は、4℃で3ヶ月までの試料保管中に観察された時に、この収率に向かう同様の傾向にあり、25%振幅超音波処理試料は他の試料より安定性が高かった。25%振幅超音波処理試料中のナノスフェアの一部は保管中に沈殿したが、振盪により容易に再懸濁することができた。しかしながら、12%振幅超音波処理試料および非超音波処理試料の中のマイクロスフェアは数日以内に沈殿し、高密度のペレットを形成した。1週間より長く保管された後では、1個1個のマイクロスフェアを得るために、試料を再度、超音波処理しなければならなかった。異なる超音波処理条件下で調製された絹スフェアは、スフェア中のβシート含有率のために機械的特性が異なるために、収率および安定性が異なる可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを調製する方法であって、
(a)絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合する工程;
(b)工程(a)の溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
(c)フィルムを水に溶解する工程;および
(d)PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が約15wt%以下であり、絹:PVAの濃度比が約1:1〜約1:4である、工程;
b.ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する絹スフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項3】
フィルムを水に溶解する工程の前に、絹/PVAブレンドフィルムに制約を加えて、絹スフェアの形状を変える工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
フィルムを水に溶解する工程の前に、絹/PVAブレンドフィルムを引き伸ばし、それによって、紡錘状の絹スフェアを形成する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
フィルムを水に溶解する工程の前に、絹/PVAブレンドフィルムを水鈍し、それによって、円板状の絹スフェアを形成する工程をさらに含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程の前に、絹スフェアのサイズが、(a)ブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの重量比;(b)ブレンド溶液中の絹フィブロインおよびPVAの濃度;(c)PVAの分子量;または(d)絹/PVAブレンド溶液に加えられる超音波処理のエネルギー出力のうちの1つまたは複数を調節することによって制御される、請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
スフェアのサイズが、(a)絹/PVAブレンド溶液へのグリセリンもしくは他のヒドロキシル基に富む化合物もしくはポリマーの添加;(b)絹/PVAブレンド溶液のpHの調節;または(c)絹/PVAブレンド溶液への塩の添加、任意で、塩濃度の調節のうちの1つまたは複数によって制御される、請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
約1μm〜約30μmのスフェアサイズを有する絹マイクロスフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.02%〜約15wt%であり、絹:PVAの濃度比が約1:1〜約1:4である、工程;
b.ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹マイクロスフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項9】
ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.2%〜約5wt%である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
溶液を乾燥させてフィルムにする前に、ブレンド溶液を超音波処理し、それによって、5μm〜10μmのサイズを有する絹マイクロスフェアを形成する工程をさらに含む、請求項8または9記載の方法。
【請求項11】
超音波処理のエネルギー出力が約4ワット以上である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
濾過、遠心分離、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される工程をさらに含み、それによって、1μmまたは5μmより小さいスフェアが除去される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項8〜12のいずれか一項に記載の方法に従って調製された、絹フィブロインマイクロスフェア組成物。
【請求項14】
500nm未満のナノスフェア平均スフェアサイズを有し、0.3未満のPDIを有し、かつ2μmより大きいスフェアを有さない絹ナノスフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.2wt%までであり、PVAの濃度が約0.8wt%までである、工程;
b.ブレンド溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹ナノスフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項15】
ブレンド溶液中の絹の濃度が約0.04wt%までであり、PVAの濃度が約0.16wt%までである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
330nm未満のナノスフェア平均スフェアサイズを有し、0.4未満のPDIを有し、かつ2μmより大きいスフェアを有さない絹ナノスフェアを調製する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液をPVA水溶液と混合して、ブレンド溶液を形成する工程であって、PVAが30,000〜124,000の平均分子量を有し、ブレンド溶液中の絹の濃度が15wt%までであり、絹とPVAの濃度比が1:4までである、工程;
b.ブレンド溶液を超音波処理する工程;
c.超音波処理した溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
d.フィルムを水に溶解する工程;および
e.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、絹ナノスフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項17】
超音波処理のエネルギー出力が約8ワット以上である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
濾過、遠心分離、またはそれらの組み合わせからなる群より選択される工程をさらに含み、それによって、330nmまたは500nmより大きいスフェアが除去される、請求項16または17記載の方法。
【請求項19】
請求項14〜18のいずれか一項に記載の方法に従って調製された、絹フィブロインナノスフェア組成物。
【請求項20】
ナノメートルからマイクロメートルのスフェアサイズを有する多孔性絹スフェアに、活性物質を封入する方法であって、
a.絹フィブロイン水溶液および活性物質をポリビニルアルコール(PVA)水溶液と混合する工程;
b.工程(a)の溶液を乾燥させてフィルムを形成する工程;
c.フィルムを水に溶解する工程;および
d.PVAの少なくとも一部を除去し、それによって、活性物質が封入された絹スフェアを形成する工程
を含む、前記方法。
【請求項21】
活性物質が、化学物質、タンパク質、ペプチド、核酸、核酸類似体、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチドまたは配列、ペプチド核酸、アプタマー、抗体、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、増殖因子または組換え増殖因子ならびにその断片および変種、サイトカイン、酵素、抗生物質、ウイルス、抗ウイルス剤、毒素、プロドラッグ、化学療法剤、低分子、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
請求項20または21記載の方法に従って調製された、活性物質が封入されている多孔性絹スフェアを含む、薬学的組成物。
【請求項23】
請求項20または21記載の方法に従って調製された、活性物質が封入されている多孔性絹スフェアを含む、生物送達システム。
【請求項24】
活性物質が封入されている絹ナノスフェアを含む、薬物送達システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2013−506007(P2013−506007A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532269(P2012−532269)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/050698
【国際公開番号】WO2011/041395
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(510300430)タフツ ユニバーシティー/トラスティーズ オブ タフツ カレッジ (12)
【Fターム(参考)】